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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200421574 審決 特許
不服200513073 審決 特許
不服200625545 審決 特許
不服20056940 審決 特許
不服200730533 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C
管理番号 1181995
審判番号 不服2005-1055  
総通号数 105 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-01-17 
確定日 2008-07-23 
事件の表示 平成 9年特許願第513914号「セミフルオロアルカン及びその使用」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 4月10日国際公開、WO97/12852、平成12年 8月29日国内公表、特表2000-511157〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、1996年8月9日(パリ条約による優先権主張1995年9月29日(DE)ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、以下のとおりのものである。
・平成13年3月7日に手続補正書を提出
・平成16年5月18日付けで拒絶理由を通知
・平成16年8月25日に意見書(参考資料1及び参考資料2添付)及び手続補正書 を提出
・平成16年10月12日付けで拒絶査定
・平成17年1月17日に拒絶査定に対する審判請求
・平成17年5月6日に審判請求書の項目【請求の理由】を補正する手続補 正書(方式)を提出
・平成17年5月10日に上申書を提出
・平成18年6月15日付けで拒絶理由を通知
・平成18年9月20日に意見書及び手続補正書を提出
・平成19年6月19日付けで審尋
・平成19年9月21日に回答書を提出


第2 特許請求の範囲
この出願の特許請求の範囲の請求項1から請求項14は、平成13年3月7日付け、平成16年8月25日付け及び平成18年9月20日付けでした手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の記載からみて、下記のとおりのものである(以下、請求項1?14に記載された発明をまとめて「本願発明」又はそれらの内容をまとめて「眼治療用助剤等」という場合がある。)。
「【請求項1】下記一般式:
R_(F)R_(H) 又は R_(F)R_(H)R_(F)
のセミフルオロアルカン
[式中、
R_(F)は、線形または分岐ペルフルオロアルキル基を表し、
R_(H)は、線形または分岐飽和(炭化水素)アルキル基を表し、
- 前記セミフルオロアルカンが分岐を有さない場合、上記一般式は
F(CF_(2))_(n)(CH_(2))_(m)H;又は
F(CF_(2))_(n)(CH_(2))_(m)(CF_(2))_(n)F
(式中、n=3-20、m=3-20)であり、
- 前記セミフルオロアルカンが分岐を有する場合、ペルフルオロアルキル基内に、-FCX-単位(但し、X=C_(2)F_(5),C_(3)F_(7)またはC_(4)F_(9))を含み、アルキル基内に、-HCY-単位(但し、Y=C_(2)H_(5),C_(3)H_(7)またはC_(4)H_(9))を含み、
ペルフルオロアルキル部分の炭素原子の総数が常に3-20の範囲内に保持され、更に、アルキル部分の炭素原子数が3-20の範囲内に保持される]を特徴とする眼治療用助剤。
【請求項2】一方の分子末端に、ペルフルオロアルキル基F_(3)C-の代わりに、FCX_(2)-基またはF_(2)CX-基(但し、X=C_(2)F_(5),C_(3)F_(7)またはC_(4)F_(9))が結合し、他方の分子末端に、アルキル基H_(3)C-の代わりに、HCY_(2)-基またはH_(2)CY-基(但し、Y=C_(2)H_(5),C_(3)H_(7)またはC_(4)H_(9))が結合することを特徴とする請求項1記載の助剤。
【請求項3】請求項1又は2記載の助剤から構成されることを特徴とするガラス体代替物。
【請求項4】請求項1又は2記載の助剤から構成されることを特徴とする網膜展開剤。
【請求項5】請求項1又は2記載の助剤から構成されることを特徴とする網膜のレーザ凝固時の助剤。
【請求項6】請求項1又は2記載の助剤から構成されることを特徴とする眼治療に使用される医薬のための溶剤。
【請求項7】網膜展開に使用される少なくとも1つのペルフルオロカーボンと請求項1又は2記載の少なくとも1つの助剤との均質な混合物から構成されることを特徴とする網膜展開剤。
【請求項8】請求項1又は2記載の助剤を含むことを特徴とする術後の網膜タンポン剤。
【請求項9】請求項1又は2記載の助剤をシリコーンオイルの均質溶液として含むことを特徴とする請求項8記載の網膜タンポン剤。
【請求項10】少なくとも1つのペルフルオロカーボンが前記助剤に溶解されたことを特徴とする請求項9記載の網膜タンポン剤。
【請求項11】請求項1又は2記載の助剤を含むことを特徴とする網膜タンポン法後のシリコーンオイルの希釈剤。
【請求項12】請求項1又は2記載の助剤を含むことを特徴とする網膜タンポン法後のシリコーンオイルの洗浄剤。
【請求項13】少なくとも1つのペルフルオロカーボンが前記助剤に溶解されたことを特徴とする請求項11記載の希釈剤。
【請求項14】少なくとも1つのペルフルオロカーボンが前記助剤に溶解されたことを特徴とする請求項12記載の洗浄剤。」


第3 当審において通知した拒絶の理由
当審において通知した拒絶の理由は、以下の内容を含むものである。
「2.本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号(審決注:平成11年法律第160号による改正前のもの。)に規定する要件を満たしていない。
・・・
<理由2について>
請求項1?13において、セミフルオロアルカンを特徴とする眼治療用助剤、該助剤から構成されるガラス体代替物、該助剤から構成される網膜展開剤、該助剤から構成される網膜のレーザ凝固時の助剤、該助剤から構成される眼治療に使用される医薬のための溶剤、該助剤を含む網膜タンポン剤、又は、該助剤を含む希釈剤および/または洗浄剤に係る発明が特許請求されているが、発明の詳細な説明には、上記(i)?(ix)に記載されたとおり、眼治療用助剤等としての有用性が具体的に確認されておらず、出願時の技術常識からみても、当業者がその有用性について推認することもできない。
したがって、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載したものであるとすることはできない。」
(審決注:上記「上記(i)?(ix)」については、上記拒絶理由中にある以下の部分を指すものであって、これは、この出願の明細書の発明の詳細な説明の記載を摘示したものである。
「(i)「高度に精製されたセミフルオロアルカンは、・・・細胞培養におけるDNS合成およびタンパク質合成に関して増殖阻止を示さない。従って、本発明に係るセミフルオロアルカンは、医学的、薬学的、生物学的目的に直接に使用できる。」(明細書5頁5?9行)、
(ii)「・・・医薬助剤として、眼治療剤として、ガラス体代替物として、・・・使用される。」(明細書5頁10?13行)、
(iii)「典型的な液状セミフルオロアルカン(表1、2参照)は、その優れた物理的性質に基づき、網膜の展開に直接に使用でき、特にレーザ凝固時に極めて安定な無色液体として好適である。なぜならば、レーザ照射時に分解生成物が生じないからである。」(明細書6頁3?6行)、
(iv)「特に、R_(H)成分の高いR_(F)R_(H)タイプの二ブロック化合物は、眼治療に使用される医薬の溶剤として好適である。」(明細書6頁下から13行?下から12行)、
(v)「シリコーン・オイル中のR_(F)R_(H)のこの種の均質な溶液には、こうして得られる調節可能な低い密度(1.0-1.3)および選択可能な界面または表面張力(表3参照)に基づき、長期間タンポン法に好適に使用できるという完全に新しい用途が生ずる。」(明細書7頁8?11行)、
(vi)セミフルオロアルカンの沸点と分子量の関係(表1?2)、
(vii)シリコーン・オイル、セミフルオロアルカン及びこれらの混合物の界面張力及び表面張力(表3)、
(viii)n-アルカン中のF_(10)H_(12)の2相混合物(表4)、
(ix)セミフルオロアルカンの製造例(実施例1?9)」)


第4 当審の判断
1 はじめに
平成11年法律第160号による改正前の特許法第36条第6項は、「第三項第四号の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している(以下、「明細書のサポート要件」という。)。
明細書のサポート要件については、
「そして,特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。」(知財高裁平成18年(行ケ)第10509号判決。)
から、この観点に立って、以下、この出願について検討する。

2 この出願の明細書の発明の詳細な説明の記載事項
この出願の明細書の発明の詳細な説明における、本願発明に直接関係する記載又は本願発明を説明する記載としては、主として以下のような記載を摘示することができる。
(1) 「本発明は、下記一般式:
R_(F)R_(H)およびR_(F)R_(H)R_(F)
(式中,R_(F)は、線形または分岐ペルフルオロアルキル基を表し、R_(H)は、線形または分岐飽和(炭化水素)アルキル基を表す)
のセミフルオロアルカンに関する。
非分岐セミフルオロアルカンは、下記一般式:
F(CF_(2))_(n)(CH_(2))_(m)H
F(CF_(2))_(n)(CH_(2))_(m)(CF_(2))_(n)F
(式中、n=1-20,m=3-20)
を有する。
分岐セミフルオロアルカンは、ペルフルオロアルキル基内に更に-FCX-単位(ここで、X=C_(2)F_(5),C_(3)F_(7)またはC_(4)F_(9))を含み、アルキル基内に更に-HCY-単位(ここで、Y=C_(2)H_(5),C_(3)H_(7)またはC_(4)H_(9))を含む。
ペルフルオロアルキル鎖内には、更に、CX_(2)基が含まれ、アルキル鎖内には、更に、CY_(2)基が含まれる。
分子末端には、ペルフルオロアルキル基F_(3)Cの代わりに、FCX_(2)基あるいはF_(2)CX基(ここで、X=C_(2)F_(5),C_(3)F_(7)またはC_(4)F_(9))を結合でき、同じく、分子末端には、アルキル基H_(3)Cの代わりに、HCY_(2)基またはH_(2)CY基(ここで、Y=C_(2)H_(5),C_(3)H_(7)またはC_(4)H_(9))を結合できる。
しかしながら、上記のすべての異性体では常に、線形または分岐セミフルオロアルカンの場合、ペルフルオロアルキル部分の炭素原子の総数は、所定の如く、n=1-20の範囲内に保持され,更に、アルキル部分の炭素原子数は、m=3-20の所定範囲内に保持される。」(明細書1ページ3行?2ページ2行)
(2) 「本発明は、更に、医学、薬学、生物学および工業における上記セミフルオロアルカンの使用に関する。」(明細書2ページ3行?4行)
(3) 「上記セミフルオロアルカンは、医療助剤として、眼治療剤として、ガラス体代替物として、皮膚内の酸素輸送を支援する皮膚剤として、外科手術時または医学的緊急時の点滴または液体吸入のための皮膚剤として、潜水夫の呼吸容易化のための皮膚剤として、潤滑油およびワックスの減摩添加剤として使用できる。」(明細書2ページ11行?14行)
(4) 「発明の開示
特許に値するとして提案された上記タイプの化合物は、ペルフルオロカーボン(炭素・フッ素結合のみからなる化合物)と同様に、化学的、物理的、生物学的に不活性であり、即ち、無毒である。」(明細書2ページ15行?18行)
(5) 「セミフルオロ二ブロックまたは三ブロック・アルカンは、無色の液体または固体であり、強酸または強アルカリまたは酸化剤または求核剤によって作用されず、更に、代謝作用または分解作用も起きない。」(明細書3ページ1行?3行)
(6) 「ペルフルオロカーボン(密度1.8-2.0g/cm^(3))とは異なり、セミフルオロアルカンの密度は、上記分子に含まれる炭化水素基の割合が大きいので、本質的に小さく1.1-1.7g/cm^(3)の範囲にある。他方、提案の化合物は、分子末端にペルフルオロアルキル基が結合されていることに起因して、水に対する界面張力に関して(R_(F)R_(H):20℃において50-58mN/m)且つ極めて低い表面張力に関して(R_(F)R_(H):20℃において15-22mN/m)ペルフルオロカーボンの好ましい性質を有する。」(明細書4ページ1行?7行)
(7) 「この際に得られる提案の使用分野のための製品は、好ましい態様で、更に高度に精製できる。・・・。このように処理したセミフルオロアルカンは、IR-,^(1)H-NMR-,^(19)F-NMR-,GC/MS-スペクトルにもとづき、分子内HF脱離とともに有毒なオレフィン系副産物を生ずる基を含んでいないことが確認された。」(明細書4ページ18行?28行)
(8) 「高度に精製されたセミフルオロアルカンは、HeLa-またはMolt4-またはHEP_(2)-細胞培養におけるDNS合成およびタンパク質合成に関して増殖阻止を示さない。従って、本発明に係るセミフルオロアルカンは、医学的、薬学的、生物学的目的に直接に使用できる。」(明細書5ページ5行?9行)
(9) 「本発明に係るセミフルオロアルカンは、多様な用途に使用できる。即ち、線形または分岐セミフルオロアルカンは、医療助剤として、眼治療剤として、ガラス体代替物として、挿管・液体吸入のための皮膚剤として、潤滑油およびワックスの減摩添加剤として使用される。」(明細書5ページ11行?14行)
(10) 「よく知られているように[8,9]、液状ペルフルオロカーボンは、密度が大きく且つ表面張力および界面張力が小さいので、眼の脈絡膜への剥離網膜の再貼布(展開)のための処理液として好適である。もちろん、ペルフルオロカーボンは、密度が大きく、従って、コロイド層に大きい圧力を加えるので、持続タンポン法には不適である。」(明細書5ページ14行?20行)
(11) 「更に、改質したペルフルオロカーボンを使用することによって、純ペルフルオロカーボンに比して過大な密度の不利な効果を回避できることも知られている[10]。この場合、もちろん、R_(F)=CF_(3)およびC_(2)F_(5),R_(H)=CH_(3)(CH_(2))n(但し、n=2-10)の二ブロック化合物および三ブロック化合物のみを使用する。」(明細書5ページ21行?24行)
(12) 「本発明に係る請求項1に記載のセミフルオロアルカンの二ブロック化合物および三ブロック化合物、特に、下記一般式:
F(CF_(2))_(n)(CH_(2))_(m)H
F(CF_(2))_(n)(CH_(2))_(m)(CF_(2))_(n)F
(式中、n=3-20,m=3-20)の化合物およびその分岐異性体は、更に広い用途に使用される。なぜならば、分子のR_(F)成分およびR_(H)成分の延長とともにペルフルオロカーボン系および炭化水素系の溶解度が有意に拡大されるからである。典型的な液状セミフルオロアルカン(表1、2参照)は、その優れた物理的性質にもとづき、網膜の展開に直接に使用でき、特にレーザ凝固時に極めて安定な無色液体として好適である。なぜならば、レーザ照射時に分解生成物が生じないからである。」(明細書5ページ25行?6ページ6行)
(13) 「本発明に係るセミフルオロアルカンは、純ペルフルオロカーボン[8,9]および[10]に請求の改質ペルフルオロカーボンと同様、網膜展開に好適である。更に、本発明に係る線形または分岐セミフルオロアルカンは、比較的高いアルキル成分、-(CH_(2))_(n)または-(CH_(2))_(n)またはR_(H)置換異性体を含む場合に特に、医薬の溶解能および着色性にもとづき眼の治療に特に好適である。」(明細書6ページ7行?11行)
(14) 「R_(F)成分の高い提案のセミフルオロ二ブロックまたは三ブロックアルカンは、網膜展開にこれまで使用されているペルフルオロカーボンに良好に溶解し[11,2]、セミフルオロアルカンとペルフルオロカーボンとの均質な混合物を使用するならば、網膜展開のために、密度および界面挙動に関するバリエーションも考えられる。」(明細書6ページ12行?16行)
(15) 「更に、本発明に係るセミフルオロアルカン、特に、R_(H)成分の高いR_(F)R_(H)タイプの二ブロック化合物は、眼治療に使用される医薬の溶剤として好適である。即ち、例えば、特に、5-フルオロウラシル、Retinol○R(審決注:○Rは、○の中にRが入った記号を表す。以下、同様に表記する。)またはダウコマイシンは、上記化合物に中程度から良好な程度の範囲で溶解できる。Retinolの場合、溶液は、有色であり、従って、良好に目に見える。これは、網膜展開時に展開液を取扱う場合に外科医にとって有利である。」(明細書6ページ17行?22行)
(16) 「術後のタンポン法の場合に、ペルフルオロフェナントレン、Vitreon○Rおよびシリコーン・オイルの組み合わせを使用することは公知である[12]。しかしながら、ペルフルオロカーボンがシリコーン・オイルに不溶であるため、この種の組合せは、混和しない密度の異なる2つの液体からなるので、動眼の実際の系には、必然的に、透視性および双方のタンポン液の界面における“乳化”に関して問題が生ずる。」(明細書6ページ23行?28行)
(17) 「これに反して、本発明のセミフルオロアルカン、特に、R_(F)R_(H)タイプの線形バリエーションは、シリコーン・オイルに良好に溶解する。セミフルオロアルカンは、R_(H)成分が多ければ多い程、シリコーン・オイルにより良好に溶解する。即ち、例えば、シリコーン・オイル・タンポン法で汎用される5000mPaまたは1000mPaのシリコーン・オイルに、液状セミフルオロ二ブロック化合物であるC_(6)F_(13)C_(8)H_(17)またはC_(4)F_(9)C_(5)H_(11)またはC_(2)F_(5)C_(8)H_(17)は均質に溶解される。例えば、上記R_(F)R_(H)は、1000mPaのシリコーン・オイル中に比2:1?1:2で溶解される。シリコーン・オイルの粘度の増加とともに溶解度は減少する。」(明細書6ページ29行?7ページ7行)
(18) 「かくして、シリコーン・オイル中のR_(F)R_(H)のこの種の均質な溶液には、こうして得られる調節可能な低い密度(1.0-1.3)および選択可能な界面または表面張力(表3参照)にもとづき、長期間タンポン法に好適に使用できるという完全に新しい用途が生ずる。」(明細書7ページ8行?11行)
(19) 「セミフルオロアルカンはペルフルオロカーボンの溶剤であるので、更に、セミフルオロアルカン、特に、R_(F)R_(H)タイプのアルカンに溶解したペルフルオロカーボンの溶液を対応するシリコーン・オイルによって均質で光学的に透明な系に移行させ、次いで、この系をタンポン法に使用することができる。」(明細書7ページ12行?15行)
(20) 「更に、上記のセミフルオロアルカン、特に、R_(H)成分が比較的多い線形R_(F)R_(H)を使用して、シリコーン・オイル・タンポン法のシリコーン・オイルの優れた希釈・洗浄剤が得られる。眼からシリコーン・オイルを十分に除去するため、これまでは、カニューレまたは注射器によるシリコーン・オイルの抽出のみがおこなわれていた。」(明細書7ページ16行?20行)
(21) 「文献
[1] H.Meinert, A.knoblich, Biomat.Art.Cells & Immob.Biotech., 21(1993) 583
・・・
[4] J. Hopkin 等, Marcomol. Chem., 189(1988) 911
[5] K. von Werner, DE 39 25 525 A1 (1989)
[6] Organikum, Autorenkollektiv, Dtsch. Verlag der Wissenschaft, Berlin (1977) 363
・・・
[8] L. C. Clark, US Pat.4,490,351 (1984) / EP 0 112 658 A2 (1984)
[9] H.Meinert, US Pat. A-5,397,805 (1995) / EP 0 493 677 A3 (1991)/
DE 41 00 059 A(1994)
[10] H.Meinert, DE 42 11 958 A1 (1992) / EP 0 563 446 A1 (1992)
[11] S. Chang 等, Am. J. Ophthalmol., 103(1987) 29
S. Chang 等, Am. J. Ophthalmol., 103(1987) 38
S. Chang 等, Ophthalmology 96 (1989) 785
[12] G.A.Peyman 等, Internal Tamponade in Vitreoretinal Surgery,Ravenna (1994) paper 33
・・・」(明細書14ページ23行?15ページ27行)
(22) 「表1

」(明細書16ページ)
(23) 「表2

」(明細書17ページ)
(24) 「表3

」(明細書18ページ)
(25) 「表4

」(明細書19ページ)
(26) 「セミフルオロ二ブロックおよび三ブロックアルカンの合成例
セミフルオロ二ブロックおよび三ブロックアルカンの調製
実施例1
[5]にもとづき、(圧力補償のためのバイパスを備えた)滴下濾斗、翼形撹拌機、温度計および逆止め弁を備えた還流冷却器を装備しアルゴン1.82g(0.0075モル)を含む内容積250cm^(3)の四つ口フラスコに、無水ジ-n-プロピルエーテル10cm^(3)に導入したマグネシウム切削屑を装入し、数滴のヨウ化メチルを加え、若干加熱して賦活した。温度を80℃に昇温し、23.7g(0.05モル)のC_(6)F_(13)CH_(2)CH_(2)Iと60cm^(3)の無水ジ-n-プロピルエーテルとの混合物を激しく撹拌しながら1h以内に滴下した。次いで、混合物を9h還流させ、次いで、10℃に冷却し、5%塩酸100cm^(3)で加水分解して、過剰のマグネシウムを溶解した。次いで、エーテル相を分離し、回転蒸発器によって濃縮した。かくして得られた油状残渣をクロロホルム30cm^(3)と混合し、0℃に1h放置した。混合物から沈殿した固形生成物を吸引し、デシケータ中で乾燥した。融点48℃の無色結晶のC_(6)F_(13)(CH_(2))_(4)C_(6)F_(13)11.0gが得られた。収率は、理論値の63.2%であった。(内部標準としてテトラメチルシランを含むCDCl_(3)溶液中で)核共鳴分光分析によって下記数値を求めた:
^(1)H-NMR:2.11ppm(CF_(2)CH_(2)),1.72ppm(CH_(2)CH_(2))」(明細書20ページ1行?18行)
(27) 「実施例2
[5]にもとづき、実施例1と同様に操作した。但し、下記物質を使用した:
1.82g(0.075モル)マグネシウム切削屑
28.7g(0.05モル)C_(8)F_(17)CH_(2)CH_(2)I
70cm^(3)無水ジ-n-プロピルエーテル
希塩酸で加水分解後、混合物を濾過し、粗生成物を水洗し、デシケータ中で乾燥し、次いで、クロロホルム中から結晶化させ、真空乾燥した。融点92?93℃の化合物C_(8)F_(17)(CH_(2))_(4)C_(8)F_(17)の無色小片14.9gが得られた。収率は、理論値の66.8%であった。核共鳴分光分析によって下記数値を求めた:
^(1)H-NMR:2.12ppm[CF_(2)CH_(2),^(3)J(HF)=18.2Hz]、
^( ) 1.73ppm(CH_(2)CH_(2))
^(13)C-NMR:31.17ppm[CF_(2)CH_(2),^(2)J(CF)=22.6Hz]、
^( ) 20.37ppm(CH_(2)CH_(2))」(明細書20ページ19行?21ページ3行)
(28) 「実施例3
[5]にもとづき、実施例2と同様に操作した。但し、ヨウ化メチルでマグネシウム切削屑を賦活した後、化合物[(C_(6)H_(5))_(3)P]_(2)CoCl_(2)93.6mg(0.143mmol)を触媒として反応生成物に加えた。実施例2と同様にクロロホルムから反応生成物を結晶化させ冷却した後、融点92?93℃の化合物C_(8)F_(17)(CH_(2))_(4)C_(8)F_(17)16.6gが得られた。得られた量は、理論値の74.1%であった。核共鳴分光分析の数値は、実施例2の場合と同様である。」(明細書21ページ4行?10行)
(29) 「実施例4
実施例2と同様に操作した。但し、マグネシウム切削屑の賦活後、化合物C_(8)F_(17)CH=CH_(2)2.2g[0.005mol=使用した化合物C_(8)F_(17)CH_(2)CH_(2)Iに対して10モル%]を無水ジ-n-プロピルエーテルと化合物C_(8)F_(17)CH_(2)CH_(2)Iとの混合物とともに反応生成物に添加した。クロロホルムから反応生成物を結晶化させ真空乾燥した後、融点92?93℃の化合物C_(8)F_(17)(CH_(2))_(4)C_(8)F_(17)17.5gが得られた。得られた量は、理論値の78.1%であった。核共鳴分光分析の数値は、実施例2の場合と同一である。
粗生成物を濾過した後、濾過液からジ-n-プロピルエーテル含有相を分離し、硫酸ナトリウムで乾燥した。こうして得たエーテル溶液のガスクロマトグラフィー分析の結果、2.31gの化合物C_(8)F_(17)CH=CH_(2)が含まれることを示した。この化合物の最初に用いた2.2gは明らかに変化しないで残っているので、これは触媒として作用し、さらに、マグネシウムとの反応の間にヨウ化ペルフルオロオクチルエーテルから少量の同じ化合物が生成した。」(明細書21ページ11行?24行)
(30) 「実施例5
[5]にもとづき、実施例1と同様に操作した。但し、下記物質を使用した:
1.82g(0.075モル)マグネシウム切削屑
30.1g(0.05モル)C_(8)F_(17)(CH_(2))_(4)I
70cm^(3)無水ジ-n-プロピルエーテル
希塩酸で加水分解後、混合物を濾過し、粗生成物を水洗し、デシケータ中で乾燥した。クロロホルム中から結晶化させ、真空乾燥した後、融点84.5℃の化合物C_(8)F_(17)(CH_(2))_(8)C_(8)F_(17)14,3gが無色小片として得られた。得られた量は、理論値の60.1%であった。
核共鳴分光分析において下記数値が得られた:
配列:C_(8)F_(17)-CH_(2)-CH_(2)-CH_(2)-CH_(2)-CH_(2)-CH_(2)-CH_(2)-CH_(2)-C_(8)F_(17)
^(1)H-NMR:(1)/(8)2.01ppm,(2)/(7)1.62ppm,
_( ) (3)/(4)/(5)及び(6)1,38ppm
^(13)C-NMR:(1)/(8)31.21ppm、[^(2)J(CF)=22.1Hz]、
^( ) (2)/(7)20.34ppm、(3)/(4)/(5)及び
_( ) (6)29.17ppm」(明細書21ページ25行?22ページ14行)
(31) 「実施例6
[5]にもとづき、実施例5と同様に操作した。但し、マグネシウム切削屑の賦活後、化合物C_(8)F_(17)CH=CH_(2)の代わりに化合物C_(8)F_(17)(CH_(2))_(2)CH=CH_(2)1.2g[0.005mol=使用した化合物C_(8)F_(17)(CH_(2))_(4)に対して5モル%]を触媒として添加した。処理後、融点84,5℃の化合物C_(8)F_(17)(CH_(2))_(8)C_(8)F_(17)16.2gが得られた。得られた量は、理論値の68.2%であった。」(明細書22ページ15行?20行)
(32) 「実施例7
[1]にもとづくセミフルオロアルカンの調製
ペルフルオロアルキルハロゲン化物2mmolおよびアルケン(I)4mmolをオクタン15mlに溶解し、アルゴンを排気し、90℃に加熱した。次いで、アゾイソブチロニトリル150mgを複数部分に分けて30分以内に添加した。この場合、溶液は淡黄色を呈した。次いで、混合物を分溜した。<0,5mbarの減圧下で所望の種類の化合物R_(F)-CHI-CH_(2)-R_(F)を蒸留した。収率は、ペルフルオロアルキルハロゲン化物の使用量に関して、ヨウ化物の場合は85-90%であり、臭化物の場合は22%であった。
ペルフルオロアルキルハロゲン化物の還元
ペルフルオロアルキルハロゲン化物6.6mmolをジエチルエーテル15mlに溶解し、酢酸5mlを加えた。混合物を50℃に加熱し、スズ4mmolをゆっくり加えた。冷却後、水を加え、相を分離した。有機相を乾燥、蒸留した。この場合、セミフルオロアルカン/アルケン(5:1)混合物最大68%と二量化体約10%とが分離された。」(明細書22ページ21行?23ページ8行)
(33) 「実施例8
[1]にもとづくセミフルオロ三ブロックアルカンの調製
60℃において、n-ジブチルエーテル30cm^(3)およびマグネシウム4gに、C_(6)F_(13)C_(2)H_(3)4gを加え、温度を120℃に昇温した。次いで、n-ジブチルエーテルに溶解したC_(6)F_(13)C_(2)H_(4)I40gを加えた。約90分後、溶液は、真黒色を呈し、若干時間後、再び無色となった。次いで、混合物を濾過し、慎重に水を加え、分離された有機相を乾燥、濾過した。高沸点分画を、一晩、冷蔵庫中で-20℃に保持した。この際、C_(6)F_(13)C_(4)H_(8)C_(6)F_(13)が白色の沈殿物として沈殿した。
リチウムブチルによる調製
C_(6)F_(13)C_(2)H_(4)3gおよびヘキサン中の1.6mリチウムブチル4mlをヘキサン5ml中に加え、60℃に加熱した。約10分後、白色沈殿物が生成した。次いで、慎重に水を加え、有機相を分離した。次いで、同様に、マグネシウムと反応させた。GCによって、生成物比R_(F)R_(H)R_(H)R_(F)/R_(F)R_(H)-Buを求めた。ペルフルオロデカリンを標準として使用した。総合収量は3.1g(85%)であった。
GC、MSおよび^(1)H-NMRによって既知物質と比較して化合物を特定した。」(明細書23ページ9行?25行)
(34) 「実施例9
[4]にもとづき、F(CF_(2))_(12)(CH_(2))_(n)H(n=4,5,8,10,12,14,16,18,20),F(CF_(2))_(10)(CH_(2))_(8)(CF_(2))_(10)FおよびF(CF_(2))_(12)(CH_(2))_(10)(CF_(2))_(12)Fの合成を行った。この場合、ラジカルを添加して、ペルフルオロヨウ化デシルまたはペルフルオロヨウ化ドデシルを対応するアルケンまたはジアルケンと反応させ、次いで、トルオール中でトリブチル水素化スズおよびAIBNで還元した。」(明細書23ページ26行?24ページ5行)
(35) 「実施例10
[6]にもとづき、実施例9と同様に、まず、ペルフルオロヨウ化アルキルを形成し、次いで、オートクレーブ中で4barにおいて、触媒としてパラジウムカーボンまたは酸化白金を使用してセミフルオロアルカン,即ち、R_(F)R_(H)またはR_(F)R_(H)R_(F)に還元した。」(明細書24ページ6?10行)

3 「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」についての判断
この出願の特許請求の範囲の記載が、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」との要件を満たすためには、上記「第4」の「1」に示したとおり、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであることが必要である。これについて検討するに際して、
(i) 本願発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができるか、
(ii) 本願発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、出願時の技術常識に照らせば、発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができるか、
(iii) 仮に、発明の詳細な説明に、本願発明の眼治療用助剤等に必要とされる性質が記載されていると解釈できた場合に、本願発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができるか、
について、順に検討する。
(1) 本願発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が「本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである」ということができるかについて
ア 本願発明の課題は、上記「第4」の「2」における摘示からみて、
(ア) 化学的、物理的及び生物学的に不活性、すなわち、無毒であること(摘示(4))、
(イ) 強酸、強アルカリ、酸化剤又は求核剤によって作用されず、更に、代謝作用又は分解作用も起きないこと(摘示(5))、
(ウ) HeLa-、Molt4-又はHEP_(2)-細胞培養におけるDNS合成及びタンパク質合成に関して増殖阻害を示さず、医学的、薬学的、生物学的目的に直接使用できること(摘示(8))、
(エ) 眼の脈絡膜への剥離網膜の再貼付(展開)のための処理液として好適な、大きい密度、小さい表面張力及び小さい界面張力のものであること(摘示(10))、
(オ) ペルフルオロカーボン系及び炭化水素系の溶解度が大きく、網膜の展開に直接使用できること(摘示(12)、(14))、
(カ) レーザ照射時に分解生成物が生じず、網膜の展開におけるレーザ凝固時に安定であること(摘示(12))、
(キ) 5-フルオロラウシル、Retinol○R又はダウコマイシンなどの眼治療に使用される医薬の溶解能及び着色性を有すること(摘示(13)、(15))、
(ク) 術後のタンポン法の場合に用いられるシリコーン・オイルに良好に溶解すること(摘示(16)、(17))、
(ケ) 長期間タンポン法に好適に使用できるための、調節可能な低い密度及び選択可能な界面張力又は表面張力を有すること(摘示(18))、
(コ) シリコーン・オイル・タンポン法において、眼からシリコーン・オイルを十分に除去するための希釈・洗浄剤として使用可能であること(摘示(20))、
などを含めて、1以上の利点を有する眼治療用助剤等を提供する点にあると認められる。
そこで、このような課題を解決し得る記載が発明の詳細な説明にされているかについて検討する。
イ 実施例に係る記載について
実施例1?10(摘示(26)?(35))は、いずれも、請求項1における一般式「R_(F)R_(H) 又は R_(F)R_(H)R_(F)」で表されるセミフルオロアルカンの製造方法及びそれにより得られたセミフルオロアルカン化合物について記載するものであるが、これらは、本願発明の眼治療用助剤等に関するものではない。
したがって、実施例1?10は、本願発明の課題の解決とは関係のないものである。
ウ 表1?4に係る記載について
表1(摘示(22))は、「R_(F)R_(H)タイプの二ブロック化合物の沸点 R_(H)x(x=2-10)(測定値及び計算値)」に係る表であって、F2Hx計算値、F4Hx計算値、F6Hx測定値、F6Hx計算値、F8Hx測定値、F8Hx計算値及びF10Hx計算値について、各々の化合物のKp[℃]とM[g/mol]の関係を記載したものであるが、これらは、本願発明の眼治療用助剤等に関するものではない。
同様に、表2(摘示(23))は、「R_(F)R_(H)R_(F)タイプの三ブロック化合物の沸点 R_(H)(x=2,4,6,8,(10))(測定値及び計算値)」に係る表であって、各々の化合物のKp[℃]とM[g/mol]の関係を記載したものであるが、これらも、本願発明の眼治療用助剤等に関するものではない。
表3(摘示(24))は、「シリコーン・オイル、セミフルオロアルカン及びこれらの混合物の界面張力及び表面張力」に係る表であって、シリコーンオイル 1000mPas、C_(6)F_(13)-C_(8)H_(17)及びシリコーンオイル1000mPas/C_(6)F_(13)-C_(8)H_(17)の1:1混合物についての、24℃での水に対する界面張力及び24℃での表面張力について記載したものであるが、これは、本願発明の眼治療用助剤等に関するものではない。
表4(摘示(25))は、「オクタン、デカン、ヘキサデカン及びシクロデカン中のC_(10)F_(21)C_(12)H_(25)(略号F_(10)H_(12))の相平衡図[3]」に係る表であって、n-アルカン中のF_(10)H_(12)の2相混合物について、温度とF_(10)H_(12)の重量%の関係を記載したものであるが、これは、本願発明の眼治療用助剤等に関するものではない。
そうすると、表1?4の記載は、いずれも、請求項1における一般式「R_(F)R_(H) 又は R_(F)R_(H)R_(F)」で表されるセミフルオロアルカンの物性について記載したものということはできるが、本願発明の眼治療用助剤等に関するものではない。
したがって、表1?4は、本願発明の課題の解決とは関係のないものである。
エ 文献に係る記載について
文献(摘示(21))として、文献名が多数列挙されているが、当該文献の列挙を持って、発明の詳細な説明に本願発明の眼治療用助剤等が記載されているということはできない。
したがって、発明の詳細な説明において列挙した文献は、本願発明の課題の解決とは関係のないものである。
オ その余の発明の詳細な説明の記載について
この出願の明細書の発明の詳細な説明における、実施例、表及び文献に係る記載以外の本願発明に直接関係する記載又は本願発明を説明する記載として摘示した部分(摘示(1)?(20))について、順に検討する。
(ア) 摘示(1)は、一般式:R_(F)R_(H) 又は R_(F)R_(H)R_(F)で表されるセミフルオロアルカンの炭素数等の化学構造に係る記載であって、これは、本願発明の眼治療用助剤等に関するものではない。
(イ) 摘示(2)は、所定の一般式で表されるセミフルオロアルカンの、医学、薬学、生物学及び工業における使用という、幅広い用途に使用可能である旨の一般的な記載であり、摘示(3)は、所定の一般式で表されるセミフルオロアルカンが、医療助剤、眼治療剤、ガラス体代替物を含む幅広い用途に使用可能である旨の一般的な記載であるが、これらは、実際に使用する際の具体的条件等を何ら示さないものである。そして、このような何ら条件を示さない一般的な記載では、上記「第4」の「3(1)ア」において示した、1以上の利点を有する本願発明の眼治療用助剤等を提供することが可能であるなどとは到底いうことができない。
(ウ) 摘示(4)は、所定の一般式で表されるセミフルオロアルカンが、ペルフルオロカーボンと同様に、化学的、物理的及び生物学的に不活性で無毒である旨の記載であり、摘示(5)は、所定の一般式で表されるセミフルオロアルカンが、無色の液体又は固体であって、強酸、強アルカリ、酸化剤又は求核剤によって作用されない旨の記載であり、摘示(6)は、所定の一般式で表されるセミフルオロアルカンが、ペルフルオロカーボンの密度より本質的に小さい密度を有しつつ、水に対する界面張力及び極めて低い表面張力に関してペルフルオロカーボンと同様の好ましい性質を有する旨の記載であり、摘示(7)は、実施例にあるような合成方法により得られたセミフルオロアルカンが、高度の精製が可能であり、有毒な副産物を生ずることがない旨の記載であるが、これらは、本願発明の眼治療用助剤等に関するものではない。
(エ) 摘示(8)は、高度に精製された所定のセミフルオロアルカンが、所定の細胞培養におけるDNS合成及びタンパク質合成に関して増殖阻止を示さず、医学的、薬学的及び生物学的目的に直接使用できる旨の一般的な記載であり、摘示(9)は、所定の一般式で表されるセミフルオロアルカンが、医療助剤、眼治療剤、ガラス体代替物を含む幅広い用途に使用可能である旨の一般的な記載であるが、これらは、上記「第4」の「3(1)オ(イ)」と同様に、実際に使用する際の具体的条件等を何ら示さないものである。そして、このような何ら条件を示さない一般的な記載では、上記「第4」の「3(1)ア」において示した、1以上の利点を有する本願発明の眼治療用助剤等を提供することが可能であるなどとは到底いうことができない。
(オ) 摘示(10)は、文献8及び9についてした記載であり、しかも、R_(F)=CF_(3)又はC_(2)F_(5)、R_(H)=CH_(3)(CH_(2))n(ただし、n=2-10)である、R_(F)R_(H)又はR_(F)R_(H)R_(F)で表される二ブロック化合物及び三ブロック化合物に係る記載であるから、本願発明の眼治療用助剤等に関するものではない。
(カ) 摘示(11)は、文献10についてした記載であり、しかも、R_(F)=CF_(3)又はC_(2)F_(5)、R_(H)=CH_(3)(CH_(2))n(ただし、n=2-10)である、R_(F)R_(H)又はR_(F)R_(H)R_(F)で表される二ブロック化合物及び三ブロック化合物に係る記載であるから、本願発明の眼治療用助剤等に関するものではない。
(キ) 摘示(12)は、所定のセミフルオロアルカン、とりわけ、表1(摘示22)及び表2(摘示23)のセミフルオロアルカンが、優れた物理的性質に基づき、網膜の展開に直接使用でき、レーザ凝固時に極めて安定な無色液体として好適に使用できる旨の記載であるが、ここでいう優れた物理的性質というのが何を意味するのか明確でないし、しかも、上記「第4」の「3(1)オ(イ)」などと同様に、実際に使用する際の具体的条件等を何ら示さないものである。そして、このような何ら条件を示さない一般的な記載では、上記「第4」の「3(1)ア」において示した、1以上の利点を有する本願発明の眼治療用助剤等を提供することが可能であるなどとは到底いうことができない。
(ク) 摘示(13)は、所定のセミフルオロアルカンが、文献10にある改質ペルフルオロアルカンと同様に、網膜展開に好適であり、さらに、比較的高いアルキル又はアルキレン部分などを含む特定の構造のものである場合には、医薬の溶解性及び着色性に基づき眼の治療に好適である旨の記載である。ここで、文献10については、上記「第4」の「3(1)オ(カ)」において記載したとおりである。また、摘示(13)は、網膜展開や眼の治療に「好適である」との一般的な記載にとどまるものであって、上記「第4」の「3(1)オ(イ)」などと同様に、実際に使用する際の具体的条件等を何ら示さないものである。そして、このような何ら条件を示さない一般的な記載では、上記「第4」の「3(1)ア」において示した、1以上の利点を有する本願発明の眼治療用助剤等を提供することが可能であるなどとは到底いうことができない。
(ケ) 摘示(14)は、所定のセミフルオロアルカンのうち、R_(F)成分が高いセミフルオロアルカンは、網膜展開にこれまで使用されているペルフルオロカーボンに良好に溶解することから、セミフルオロアルカンとペルフロロカーボンとの均質な混合物を使用するならば、網膜展開のために密度及び界面挙動に関するバリエーションも「考えられる」旨の記載であって、ペルフルオロカーボンとの均質な混合物を使用した場合という特定の条件の下では、網膜展開のために密度及び界面挙動に関するバリエーションが「考えられる」との一般的な記載にとどまるものであることから、上記「第4」の「3(1)オ(イ)」などと同様に、実際に使用する際の具体的条件等を何ら示さないものである。そして、このような何ら条件を示さない一般的な記載では、上記「第4」の「3(1)ア」において示した、1以上の利点を有する本願発明の眼治療用助剤等を提供することが可能であるなどとは到底いうことができない。
(コ) 摘示(15)は、所定のセミフルオロアルカンのうち、R_(H)成分の高いR_(F)R_(H)タイプのニブロック化合物が、特定の医薬を良好な程度の範囲で溶解し得るもので、眼の治療に使用される医薬の溶剤として「好適である」旨、さらに、特定の医薬が有色であることから、網膜展開時に展開液を取り扱う場合に外科医に有利である旨の記載であって、「好適である」との一般的な記載にとどまり、上記「第4」の「3(1)オ(イ)」などと同様に、実際に使用する際の具体的条件等を何ら示さず、さらに、眼の治療に使用される医薬全般について記載したものとはいえないものである。そして、このような一般的な記載では、上記「第4」の「3(1)ア」において示した、1以上の利点を有する本願発明の眼治療用助剤等を提供することが可能であるなどとは到底いうことができない。
(サ) 摘示(16)?(18)は、術後のタンポン法の場合において、ペルフルオロカーボンとシリコーンオイルを含む組合せが、乳化に関する問題があるのに対し、所定のセミフルオロアルカン、特に、R_(F)R_(H)タイプのニブロック化合物がシリコーンオイルに良好に溶解し均質な溶液となることから、調節可能な低い密度、及び選択可能な界面又は表面張力に基づき、長期間タンポン法に好適に使用できるという新しい用途が生ずる旨の記載であって、「好適に使用できるという新しい用途が生ずる」との一般的な記載にとどまり、上記「第4」の「3(1)オ(イ)」などと同様に、実際に使用する際の具体的条件等を何ら示さないものである。そして、このような一般的な記載では、上記「第4」の「3(1)ア」において示した、1以上の利点を有する本願発明の眼治療用助剤等を提供することが可能であるなどとは到底いうことができない。
(シ) 摘示(19)は、所定のセミフルオロアルカンがペルフルオロカーボンの溶剤となり、特に、R_(F)R_(H)タイプのニブロック化合物とペルフルオロカーボンとの溶液をシリコーンオイルによって均質で光学的に透明なケイに移行することができ、この系をタンポン法に使用することができる旨の記載であって、「タンポン法に使用することができる」との一般的な記載にとどまり、上記「第4」の「3(1)オ(イ)」などと同様に、実際に使用する際の具体的条件等を何ら示さないものである。そして、このような一般的な記載では、上記「第4」の「3(1)ア」において示した、1以上の利点を有する本願発明の眼治療用助剤等を提供することが可能であるなどとは到底いうことができない。
(ス) 摘示(20)は、所定のセミフルオロアルカン、特に、R_(H)成分が比較的多いR_(F)R_(H)タイプのニブロック化合物を使用することで、シリコーン・オイル・タンポン法のシリコーン・オイルの優れた希釈・洗浄剤が得られる旨の記載であって、具体的に使用されるセミフルオロアルカンが不眼であるし、「優れた希釈・洗浄剤」が具体的にどの程度優れたものかなども明らかでなく一般的な記載にとどまり、上記「第4」の「3(1)オ(イ)」などと同様に、実際に使用する際の具体的条件等を何ら示さないものである。そして、このような一般的な記載では、上記「第4」の「3(1)ア」において示した、1以上の利点を有する本願発明の眼治療用助剤等を提供することが可能であるなどとは到底いうことができない。
カ 小括
したがって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができないものである。
(2) 本願発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、出願時の技術常識に照らせば、発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができるかについて
ア 発明の詳細な説明において、本願発明の課題とされる、本願発明の眼治療用助剤等に必要とされる性質又は物性は、上記「第4」の「2」における摘示からみて、上記「第4」の「3(1)ア」において示したとおり、
(ア) 化学的、物理的及び生物学的に不活性、すなわち、無毒であること(摘示(4))、
(イ) 強酸、強アルカリ、酸化剤又は求核剤によって作用されず、更に、代謝作用又は分解作用も起きないこと(摘示(5))、
(ウ) HeLa-、Molt4-又はHEP_(2)-細胞培養におけるDNS合成及びタンパク質合成に関して増殖阻害を示さず、医学的、薬学的、生物学的目的に直接使用できること(摘示(8))、
(エ) 眼の脈絡膜への剥離網膜の再貼付(展開)のための処理液として好適な、大きい密度、小さい表面張力及び小さい界面張力のものであること(摘示(10))、
(オ) ペルフルオロカーボン系及び炭化水素系の溶解度が大きく、網膜の展開に直接使用できること(摘示(12)、(14))、
(カ) レーザ照射時に分解生成物が生じず、網膜の展開におけるレーザ凝固時に安定であること(摘示(12))、
(キ) 5-フルオロラウシル、Retinol○R又はダウコマイシンなどの眼治療に使用される医薬の溶解能及び着色性を有すること(摘示(13)、(15))、
(ク) 術後のタンポン法の場合に用いられるシリコーン・オイルに良好に溶解すること(摘示(16)、(17))、
(ケ) 長期間タンポン法に好適に使用できるための、調節可能な低い密度及び選択可能な界面張力又は表面張力を有すること(摘示(18))、
(コ) シリコーン・オイル・タンポン法において、眼からシリコーン・オイルを十分に除去するための希釈・洗浄剤として使用可能であること(摘示(20))、
などを含む性質又は物性であるということができる。
しかしながら、出願時の技術常識に照らしてみても、これらの性質又は物性が、眼治療用助剤等を構成する際にどの程度必要であるのか(すなわち、1つでも満たせばよいのか、すべて満たす必要があるのか、さらに、それ以外に眼治療用助剤等を構成する際に必要となる又は備えていてはいけない性質又は物性があるのかなど。)、これらの性質又は物性が互いにどのような関連性又は影響を有するものであるのかなどについては、何ら説明されていない。しかも、これらの性質又は物性について、発明の詳細な説明の記載からその具体的な評価を導くことはできないし、当業者であってもこれらの性質又は物性の具体的な評価について認識することは困難である。
イ 発明の詳細な説明における表3(摘示(24))には、シリコーン・オイル、セミフルオロアルカン及びこれらの混合物の界面張力及び表面張力について、具体的数値が記載されているので、さらに検討する。
表3においては、特定構造のセミフルオロアルカン(C_(6)F_(13)-C_(8)H_(17))及び特定のシリコーンオイルと当該セミフルオロアルカンとの1:1混合物に係る水に対する24℃における界面張力及び24℃における表面張力が、それぞれ特定の数値であることが記載されている。
しかしながら、発明の詳細な説明には、水に対する24℃における界面張力及び24℃における表面張力がどのような範囲にあれば、眼治療用助剤として具体的に使用可能であるといえるのか、また、水に対する24℃における界面張力及び24℃における表面張力とそれ以外の性質又は物性との関係がどのようなものなのかなどについても何ら記載されていないし、これらについては、優先日において技術常識であったとすることもできない。しかも、表3に記載されているのは、特定のセミフルオロアルカンのみであって、この記載によりそのほかの構造のセミフルオロアルカンについての性質又は物性までうかがい知ることができるということができない。
ウ 小括
したがって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、出願時の技術常識に照らせば、発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができないものである。
(3) 仮に、発明の詳細な説明に、本願発明の眼治療用助剤等に必要とされる性質が記載されていると解釈できた場合に、本願発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができるかについて
ア 仮に、発明の詳細な説明に、本願発明の眼治療用助剤等に必要とされる性質が記載されていると解釈できた場合について、発明の詳細な説明の記載に若干の解釈を加えて検討する。
イ 本願発明が眼の治療用助剤等という、眼の治療に使用されるものであることをも併せ考慮すると、本願発明の解決すべき課題には、少なくとも、
(i)化学的、物理的、生物学的に不活性(無毒)で、各種の物質により作用されず、代謝作用や分解作用も起きず、細胞培養におけるタンパク質合成などに関して増殖阻害を示さず、医学的、薬学的及び生物学的目的に直接使用することができることなどを含む、実際に眼治療用助剤等を眼の治療に使用した際に必要とされる「生体適合性」、
(ii)眼の脈絡膜への剥離網膜の再貼付(展開)のための処理液として好適な密度、表面張力及び界面張力を有し、そして、密度は、持続タンポン法にも適用し得る程度の密度であり、また、レーザ凝固時に行われるレーザ照射時に分解しないことなどを含む、眼治療用助剤等として使用する際に必要とされる「物理化学的特性」、及び、
(iii)眼の治療に使用されるペルフルオロカーボンやシリコーンオイル等に対する溶解度や、眼の治療に使用される医薬の溶解能に優れることなどを含む、眼の治療用助剤として使用する際に必要とされる「溶解特性」、
が含まれることが明らかであるから、発明の詳細な説明には、本願発明がこれらの性能において有効であることが客観的に開示される必要がある。
ウ この点について検討すると、上記「第4」の「3(1)イ」のとおり、この出願の明細書の発明の詳細な説明の実施例には、特定の構造のセミフルオロアルカンを製造する方法のみが具体的に記載されているだけであって、特定の構造のセミフルオロアルカンを眼治療用助剤等として用いた具体例については全く記載されておらず、さらに、「生体適合性」、「物理化学的特性」及び「溶解特性」に係る効果について言及されていない。
また、明細書の発明の詳細な説明の表1(摘示(22))には「R_(F)R_(H)タイプの二ブロック化合物の沸点 R_(H)x(x=2-10)(測定値及び計算値)」が、同表2(摘示(23))には「R_(F)R_(H)R_(F)タイプの三ブロック化合物の沸点 R_(H)(x=2,4,6,8,(10))(測定値及び計算値)」が、同表3(摘示24)には「シリコーン・オイル、セミフルオロアルカン及びこれらの混合物の界面張力」としてシリコーンオイル1000mPas、C_(6)F_(13)-C_(8)H_(17)及びこれらの1:1混合物それぞれについての水に対する界面張力及び表面張力の値が、同表4(摘示(25))には「オクタン、デカン、ヘキサデカン及びシクロデカン中のC_(10)F_(21)C_(12)H_(25)(略号:F_(10)H_(12))の相平衡図」としてF_(10)H_(12)の重量%と温度との関係が、それぞれ具体的に記載されているものの、特定の構造のセミフルオロアルカンを眼治療用助剤等として用いた具体例については全く記載されておらず、「生体適合性」、「物理化学的特性」及び「溶解特性」に及ぼす効果について言及されていない。
さらに、上記「第3」において摘示したとおり、この出願の明細書の発明の詳細な説明には、「医療助剤として、眼治療剤として、ガラス体代替物として、・・・使用される。」(摘示(3)、(9))、「眼の治療に特に好適である。」(摘示(13))、「長期間タンポン法に好適に使用できるという完全に新しい用途が生ずる。」(摘示(18))、「この系をタンポン法に使用することができる。」(摘示(19))及び「シリコーン・オイル・タンポン法のシリコーン・オイルの優れた希釈・洗浄剤が得られる。」(摘示(20))との記載はあるものの、これらの記載内容は単に可能性のある用途を開示するのみで、特定の構造のセミフルオロアルカンについての「生体適合性」、「物理化学的特性」及び「溶解特性」についての具体的な評価を導くことはできないし、当業者がこれらの性能等の本願発明の課題の解決について具体的に認識することは困難である。
エ 小括
そうすると、この出願の明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明の眼治療用助剤等が発明の課題である「生体適合性」、「物理化学的特性」及び「溶解特性」を解決できるものであると認識できるに足る記載を欠くものであるから、仮に、発明の詳細な説明に、本願発明の眼治療用助剤等に必要とされる性質が記載されていると解釈できた場合でも、本願発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができないものである。
(4)「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」についての判断のまとめ
したがって、この出願の特許請求の範囲の記載は、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」との要件を満たすものではない。

4 審判請求人の主張について
(1) 平成16年8月25日付け意見書、参考資料1、参考資料2及び平成17年5月6日付け手続補正書(方式)
審判請求人は、平成16年8月25日付け意見書及び平成17年5月6日付け手続補正書(方式)において、
「本発明者は、引用文献1記載の変性ペルフルオロカーボンを開発した後、それが必ずしも生体適合性に優れたものでないことを見出しました。
この点は第3者によっても確認されています。例えば、平成16年8月25日付け意見書に参考資料1として添付したフッ素化学に関する第12回ヨーロッパシンポジウム(ベルリンにて開催)における「On The Solubility Of Silicone Oil In Fluorocarbons」(フルオロカーボンへのシリコーン油の溶解性について)とタイトルされた講演の要約には、「SO(シリコーン油)の最良の溶媒はペルフルオロエチルヘキサンである。」及び「不幸にも、この化合物は生体適合性ではない。」と記載されており、ペルフルオロエチルヘキサンが生体適合性でないことが開示されています。
また、平成16年8月25日付け意見書に参考資料2として添付したH. Northoff博士から本発明者への書簡のコピーには、「R_(F)、R_(H)のセミフルオロアルカンの全細胞毒性調査は、CF_(2)R_(H)及びC_(2)F_(5)R_(H)が細胞毒性を有することを示している。」と記載されており、これは、セミフルオロアルカンを眼治療用助剤として使用することを阻害するものであります。
しかしながら、ペルフルオロプロピルプロパン、ペルフルオロブチルブタン、ペルフルオロブチルペンタン、ペルフルオロブチルヘキサン、ペルフルオロブチルオクタン、ペルフルオロヘキシルヘキサン、ペルフルオロヘキシルオクタン等の本発明のセミフルオロアルカンは非毒性であることが試験により見出されました(必要であれば、試験報告書(ドイツ語)の翻訳を提出する用意があります)。このことは多くのセミフルオロアルカンが毒性を示すことが知られていた当時の状況からみて、非常に予想外でありました。」
と主張している。
しかしながら、参考資料1は、この出願の後である1998年(august 29-September 2,1998)に公開された文献と解されるものであって、この出願の明細書の記載内容を補うものとして一般に参酌できないものである。さらに、参考文献2は、単なる私信にすぎないもので、また、そもそも作成時期すら明らかでないのであるから、この出願の明細書の記載内容を補うものとして一般に参酌できないものである。
また、それらの参考資料の記載内容について一応検討しても、参考資料1は、ペルフルオロエチルヘキサンが生体適合性でないことを、参考資料2は、CF_(2)R_(H)及びC_(2)F_(5)R_(H)が細胞毒性を有することをそれぞれ示すだけのものであって、本願発明の眼治療用助剤等を構成する所定の構造のセミフルオロアルカンが、眼治療用助剤等として必要とされる「生体適合性」、「物理化学的特性」及び「溶解特性」を備えるものであるということを補うものではない。むしろ、セミフルオロアルカン類は、一般的に生体適合性でないのではないかと予測させるものといえるから、「セミフルオロアルカンを眼治療用助剤として使用することを阻害する」ものである。
そうすると、当該審判請求人の主張は、上記「第4」の「3(4)」でした判断を左右するものではない。
(2) 上申書
審判請求人は、上申書において、
「ところで、「安定」であることは過フッ化鎖の固有の特性でありますが、だからといって本願発明の化合物が優れた生体安定性を有することが自明であるとはいえません。この優れた安定性は、本願の第1国出願後に見出されたものであります・・・」
と主張している。
しかしながら、この主張は、この出願の第1国出願時(優先権主張日)において、本願発明の眼治療用助剤等を構成する所定の構造のセミフルオロアルカンが生体安定性、すなわち、「生体適合性」を有するかどうかが不明であったことを、審判請求人が自ら認めるものであるということができる。
そうすると、当該審判請求人の主張も、上記「第4」の「3(4)」でした判断を左右するものではない。
(3) 平成18年9月20日付け意見書
審判請求人は、平成18年9月20日付け意見書において、
「セミフルオロアルカンを眼の治療時に助剤として使用する手法は当業者には周知であり、例えば、以下に示す多くの文献に記載されています。」
と主張するとともに、この出願の国際出願公開(1996 PCT WO 97 12852 09.08)を含め、この出願の優先権主張日後に発行された文献を多数提示している。
しかしながら、審尋においても指摘したとおり、一般に、この出願の優先権主張日後に発行された文献に記載された技術事項は、本願明細書の記載内容を補うものとして参酌できないものである(なお、請求人は、優先日後に発行された文献に記載された技術事項であっても、明細書の記載内容を補うものとして参酌すべきという具体的理由を何ら示していない。)。
また、当該意見書において提示された、この出願の優先権主張日前に発行された文献と考えられる6文献についても、単に文献名とタイトルが提示されるだけでその内容は不明(セミフルオロカーボンがタイトルに含まれるのは、J.Vitreo・・・1992 1:31-35 のみである。また、タイトルからみて、パーフルオロカーボンに係る文献と考えられるものも含まれている。)であるし、例えこれらの文献内容をみたとしても、これにより、本願発明の眼治療用助剤等について、明細書のサポート要件に適合するということはできない(なお、仮に、この出願の優先権主張日前に発行された文献と考えられる上記6文献に、このことが記載されているのであれば、当然新規性及び進歩性の点で問題が生じることとなる。)。
そうすると、当該審判請求人の主張も、上記「第4」の「3(4)」でした判断を左右するものではない。
(4) 回答書
審判請求人は、回答書において、
「「1.特許法第36条第4項について(請求項1及び2)」及び「2.特許法第36条第4項について(請求項3?14)」において詳述したとおり、本願の請求項1?14に係る発明は本願当初明細書の具体的な記載に基づくものであります。
また、本願発明は医薬発明ではなく、ガラス体代替物・溶媒・希釈剤・洗浄剤等といった、薬理作用に基づかない補助剤でありますので、その有用性は、本願発明で使用されるセミフルオロアルカンの物理的性質と、セミフルオロアルカン類の過去の眼科学分野への使用実績(例えば、本願当初明細書の文献番号[8]及び[9]の多数の文献をご参照ください)から、当業者であれば、容易に理解することができます。
したがいまして、本願発明は本願明細書に記載されたものであります。」
と主張(以下、「回答書主張1」という。)している。
さらに、
「平成18年9月20日付け意見書において、多数の文献を挙げましたのは、セミフルオロアルカンを眼の治療時に助剤として使用することが一般に行われていることを示すためであります。
これらの文献の考慮が適当でない場合には、本願当初明細書の文献番号[8]及び[9]に記載の各文献をご参照ください。これらの多数の文献には、本願発明のセミフルオロアルカンとは構造が異なるものの、各種のペルフルオロカーボンが眼科学分野で補助剤として一般に使用されていることが記載されています。」と主張(以下、「回答書主張2」という。)している。
回答書主張1について検討すると、回答書主張1における「本願当初明細書の具体的な記載」については、具体的にどの記載を指すのか明らかにされておらず不明であるが、この出願の明細書の発明の詳細な説明において本願発明に直接関係する記載又は本願発明を説明する記載として主なものは上記「第4」の「2」において摘示したとおりであって、そして、これについては、上記「第4」の「3」において検討したとおりである。また、当審が、本願発明が医薬発明ではなく、薬理作用に基づかない補助剤であることを前提としてサポート要件の判断を行ったことは、上記「第3」において記載したとおりである(なお、過去にセミフルオロアルカン類が眼科分野で使用されていたことは、審査段階での平成16年5月18日付け拒絶理由通知で引用された引用文献1により明らかである。そして、過去の眼科分野での使用実績から、その有用性が当業者にとって理解できる旨の主張は、出願人が平成16年8月25日付け意見書、平成17年5月6日付け手続補正書(方式)及び平成17年5月10日付け上申書でした主張と整合しているとは認め難い。)。
回答書主張2について検討すると、審判請求人があげた「本願当初明細書の文献番号[8]及び[9]」は、パーフルオロアルカンについての文献であって、セミフルオロアルカン類の眼科学分野への使用実績を示すものではない。そして、審尋においても指摘したとおり、一般に、この出願の優先権主張日後に発行された文献に記載された技術事項は、本願明細書の記載内容を補うものとして参酌できないものである。また、本願発明の眼治療用助剤等を構成する所定の構造のセミフルオロアルカンについて、眼科学分野への使用実績を示す資料は見あたらない。
そうすると、当該審判請求人の主張も、上記「第4」の「3(4)」でした判断を左右するものではない。
(5) 小括
したがって、これらの審判請求人の主張は、「この出願の特許請求の範囲の記載は、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」との要件を満たすものではない。」との上記「第4」の「3(4)」でした判断を左右するものではない。

5 まとめ
したがって、この出願の特許請求の範囲の記載は、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」との要件に適合するものではなく、平成11年法律第160号による改正前の特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


第5 むすび
以上のとおり、この出願は、明細書の特許請求の範囲の記載が、平成11年法律第160号による改正前の特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、その余について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-02-19 
結審通知日 2008-02-26 
審決日 2008-03-11 
出願番号 特願平9-513914
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 幸司  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 鈴木 紀子
安藤 達也
発明の名称 セミフルオロアルカン及びその使用  
代理人 渡邊 隆  
代理人 村山 靖彦  
代理人 実広 信哉  
代理人 志賀 正武  

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