• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01J
管理番号 1182001
審判番号 不服2006-754  
総通号数 105 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-01-12 
確定日 2008-07-30 
事件の表示 平成 8年特許願第525658号「ハロゲン化ナトリウム放電ランプ」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 8月29日国際公開、WO96/26535、平成 9年12月 9日国内公表、特表平 9-512384〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯
本願は、平成7年12月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1995年2月21、米国)を国際出願日とする出願であって、平成17年10月12日付け(発送日同年10月18日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年1月12日に拒絶査定に対する審判請求がなされたが、平成19年9月19日付けで当審において、拒絶理由通知がなされたものである。
2.本願発明
本願の請求項1?9に係る発明は、平成17年4月8日、平成18年1月12日及び平成20年2月7日付けの手続補正書によって補正された明細書並びに図面の記載から見て、その特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。

「1.ハロゲン化ナトリウムを含む充填物を封入したランプにおいて、テトラエチルオルト珪酸塩の加水分解およびSiCl_(4)の燃焼反応を含む合成プロセスを介して得られた、ナトリウム含量が約0.05ppm未満である溶融シリカで構成されたアーク室を有する白色光ランプ。」


3.引用例記載の発明
これに対して、当審において平成19年9月19日付けで通知した拒絶の理由に引用した本願の優先権主張の日前である昭和62年5月14日に頒布された特開昭62-103959号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、

(1-1)「近年、省エネルギーの見地から白熱電球に代わり、高効率、長寿命で、しかも演色性に優れた小形高圧金属蒸気放電灯、例えば小型メタルハライドランプの開発が進められている。」(1頁右欄第7行?第10行)、

(1-2)「ガラス材は、一般に高温になると電気抵抗値が低下する性質をもち、電気抵抗値はガラスに含まれているアルカリ、特にナトリウムイオン(Na^(+))の存在により左右されることが知られている。
したがって、上述のように瞬時点灯させるために12?20KVの高圧パルスを、3?15μs(マイクロ秒)印加させるものでは、上記ガラス材が予め加熱されていることによって電気抵抗値が低くなった場合、ガラス部材にパルス電圧が漏れ、発光管の電極間に起動に必要な所定の電圧が印加されなくなり、発光管内でアーク放電が発せず、コロナ放電の状態を続け、点灯しない場合がある。このような状態が続くと、始動回路はパルス電圧を発生し続けて故障の原因になる。
点灯を確実にさせるため、さらに高いパルスを印加するようにすると、絶縁破壊を生じる心配がある。」(2頁右下欄第4行?3頁左上欄第1行)、

(1-3)「発光管2は、石英ガラスよりなるバルブ・・・
発光管2内には、始動用希ガス、水銀および金属ハロゲン化物としてよう化スカンジウムとよう化ナトリウムが封入されている。」(3頁右上欄第16行?左下欄5行)、

(1-4)「ところで、上述のように予熱ヒータ3により、予め発光管2を加熱しておく場合、使用されているガラス材料の温度上昇に伴ってこのガラス材料は電気抵抗値が低下する傾向にある。
これは、ガラス成分としてナトリウムなどのようなアルカリの含有量が多くなるもの程顕著になる。
しかして上記実施例に使用したガラス材料の組成について下表に示す。

ガラス成分 パイレックス7740 アルミナ珪酸ガラス 石英 ほう珪酸ガラス
重量% 重量% 重量% 重量%
SiO_(2) 81 62 99.9 63.9
・・・
・・・
Na_(2) O 4 1 6.3
その他 0.1

上記表から理解できるように、本実施例で用いたガラス材料(石英、パイレックス7740およびアルミナ珪酸ガラス)は、いづれもナトリウム、つまりアルミニウム成分が少なく、このため加熱されても電気抵抗値の低下が少ない。したがって12?20KVの高圧パルスを、3?15μs印加された場合、上記ガラス材の電気抵抗値が高く保たれているから、ガラス部材にパルス電圧が漏れることはなく、発光管2の電極4a、4b間に起動に必要な所定の電圧が印加されることになる。この結果、発光管2内で確実にアーク放電が発生し、コロナ放電の発生を防止して瞬時に点灯灯させることができた。
これに対し、上記表に示すほう珪酸ガラスを用いると、Na_(2) Oが6.3重量%含まれており、12?20KVの高圧パルスを、3?15μs印加させても円滑に点灯せず、信頼性の低いことが判明した。その原因はパルスの漏れであることが突止められている。
本発明者等の上記実験およびその他の研究や実験によれば、アルカリ成分、たとえばNa_(2) Oが4重量%を超えると、予熱ヒータにより加熱されるガラス材料は電気抵抗値に低下率が大きくなり、パルスの印加を何度も繰返したり、コロナ放電の発生度合いが多くなり、確実な瞬時点灯が期待できないことが判った。
したがって、使用するガラス材料に含まれるアルカリ成分、たとえばNa_(2) Oは0?4重量%の範囲内が良好である。」(4頁右上欄第13行?5頁左上欄第1行)

が記載されている。

この記載事項によると、引用例1には

「よう化ナトリウムを含む充填物を封入したメタルハライドランプにおいて、ナトリウム含量の少ない石英で構成された発光管2を有するメタルハライドランプ。」(以下、「引用例1に記載の発明」という。)

が記載されているものと認める。


4.対比・判断
本願発明1と引用例1に記載の発明とを対比すると、
引用例1に記載の発明1における「よう化ナトリウム」、「メタルハライドランプ」、「発光管2」は、それぞれ、
本願発明1における「ハロゲン化ナトリウム」、「ランプ」、「アーク室」に相当する。
さらに、
引用例1に記載の発明1における「メタルハライドランプ」は、
白熱電球の代替光源として考えられており(上記(1-1)参照。)、本願の実施例2に記載されたNaI、ScI_(3)、ThI_(4)と同様の、よう化スカンジウムとよう化ナトリウムが封入されているから(上記(1-3)参照。)、白色光を放射するものと認められ、
本願発明1における「白色光ランプ」に相当する。
したがって、本願発明1と引用例1に記載の発明とは、

【一致点】
「ハロゲン化ナトリウムを含む充填物を封入したランプにおいて、アーク室を有する白色光ランプ。」
で一致し、

【相違点1】
「本願発明1では、アーク室が、テトラエチルオルト珪酸塩の加水分解およびSiCl_(4)の燃焼反応を含む合成プロセスを介して得られた、ナトリウム含量が約0.05ppm未満である溶融シリカで構成されているのに対して、
引用例1に記載の発明では、発光管2(アーク室に相当。)が、ナトリウム含量の少ない石英である点」

で相違する。

そこで、上記【相違点1】について検討する。
同じく、当審において、拒絶の理由に引用した本願の優先権主張の日前である平成6年11月1日に頒布された特開平06-305768号公報(以下、「引用例2」という。)に、

(2-1)「【0003】メタルハライドランプはその発光管内に希土類金属元素のハロゲンカ物が封入されており、それが発光し、光を放射するランプであるが、その発光時のバルブ温度は900?1100℃、内圧は5?30kgf/cm^(2)になる。このように高温、高圧で封入ガスを発光させるランプであることから、その発光管は透明性に優れているばかりでなく、化学耐久性、耐急熱急冷性、およびガス不透過性にも優れた素材でなければならない。これらの要件を満たす素材としてシリカガラスがあり、前記メタルハライドランプの発光管は専らこのシリカガラスから作られてきた。ところが、シリカガラス製の発光管は、点灯を続けるうちにその内表面に徐々に黒色失透や白色失透が生じ、光の強度低下を招き、また演色性も悪化する。その上、再点弧スパイク電圧の発生および作動電圧の上昇が起こり、ランプの寿命は短いものであった。前記黒色失透は、シリカガラス中に存在する水分子またはOH基の分解により発生する酸素と封入金属ガスおよび電極の金属タングステンとの反応に基づくものであり、また、再点弧スパイク電圧の発生および作動電圧の上昇はシリカガラス中に溶存する水素分子および前記水分子またはOH基の分解により発生する水素分子によるものである。さらに、白色失透は、アルカリ金属元素やアルカリ土類金属元素による結晶化の促進および封入ガスによる化学的エッチングが原因と推定されている(松野博光他(1981)メタルハライドランプにおける光束維持率低下の機構、照明学会誌、第65巻,第4号、176?181頁)。
【0004】そこで、上記OH基の濃度およびアルカリ金属元素並びにアルカリ土類金属元素濃度を低減したシリカガラスがメタルハライドランプ用シリカガラスとして開発され市販されている。具体的にはOH基濃度が2wt.ppm以下の高純度の合成シリカガラスがある。確かに、前記市販のシリカガラスは、黒色失透および作動電圧の上昇並びに再点弧スパイク電圧の発生を抑えたガラスではあるが、白色失透の抑制は未だ充分でなく、今日に至も寿命の長いメタルハライドランプ用シリカガラスは提案されていない。」

(2-2)「【0011】本発明のシリカガラスは、天然または合成の水晶粉またはクリストバライト粉を原料とし、これら粉体を塩素または塩化水素ガス雰囲気中で高純度化し、これを真空電気溶融法または酸水素炎溶融法で溶融し、チュ-ブ状とした後、さらに800?1200℃、0.1気圧以下の減圧下で10時間以上加熱脱ガス処理することにより製造される。特に、上記加熱脱ガス処理で非移動性OH基濃度を2wt.ppm?200wt.ppmとすることが重要である。非移動性OH基濃度が上記範囲以下の例えばプラズマ溶融法で得たシリカガラスではその非移動性OH基濃度は2wt.ppm未満となるが、このシリカガラスには白色失透および黒色失透が起こりやすい。また、非移動性OH基濃度が上記範囲を超える、例えば四塩化ケイ素を原料とした酸水素火炎加水分解法で得たシリカガラスは充分なる前記脱ガス処理を行っても白色失透や黒色失透が起こる。
【0012】非移動性OH基濃度の上記範囲内への制御は、酸水素火炎を使用する場合には、その火炎量の原料に対する比率を変化させることにより可能であり、また電気溶融法では、原料粉中の水分を変化させることにより可能である。
【0013】本発明のシリカガラスは上述のとおり原料、高純度化処理、溶融法、および加熱脱ガス処理の各工程を組合せることにより製造されるが、前記工程の例えば、溶融法を真空電気溶融法または酸水素炎溶融法(ベルヌイ法)以外の例えばプラズマ溶融法に変えたり、あるいは原料の高純度化処理または加熱脱ガス処理を欠くと所期の失透抑制効果を得ることができない。
【0014】上記塩素ガスまたは塩化水素ガスによる高純度化処理によりシリカガラス中のアルカリ金属元素のリチウム、ナトリウムおよびカリウムが各々2wt.ppm以下、アルカリ土類金属元素のカルシウムおよびマグネシウムが各々1ppm以下に低減される。この低減化処理によりシリカガラス中のクリストバライトの生成・成長が抑えられ、白色失透が少なくできる。」

と記載されているように、メタルハライドランプの発光管に、ナトリウムの濃度を低減した溶融シリカを使用することは公知であり、

同じく、当審において、拒絶の理由に引用した本願の優先権主張の日前である平成2年4月25日に頒布された特公平2-18541号公報(以下、「引用例3」という。)に、

(3-1)「本発明は、特に、遠紫外線光源のための改善された電球に関し、また改善された電球を内蔵する光源に関する。」(1頁右欄4行?6行)

(3-2)「本願に用いられる用語「合成石英」とは天然にできる石英から処理されるものとは異なり合成手法により作られる石英を意味することを理解されたい。」(3頁右欄16行?19行)

(3-3)「前述の如く、完全を期すため、現在市販されている結晶水を含まない合成石英の不純物の範囲を示した表を以下に提示する。
元素 重量ppm
・・・
セシウム <0.007
・・・
クロム 0.02
・・・
鉄 <0.02
・・・
リチウム 0?0.05
・・・
カリウム 0乃至0.005
・・・
ナトリウム 0.004?0.04
・・・ 」(5頁左欄20行?右欄39行)

同じく、当審において、拒絶の理由に引用した本願の優先権主張の日前である平成3年1月11日に頒布された特開平3-5339号公報(以下、「引用例4」という。)に、

(4-1)「これらの紫外線応用機器の光学系や光透過用の窓材、光源用ランプ等には一般に、石英ガラスが使用されている。
当該石ガラスの材料は、紫外線透過率が良いことが必須の条件となるので、例えば四塩化珪素の加水分解等で合成される合成石英ガラスが使用される。」(1頁右欄2行?8行)

(4-2)「表1に示されるようにAl、Fe、Na、K、Ti、Ni、Cuの濃度が0.1ppmになると効果が顕著になる。」(3頁右上欄7行?9行)

(4-3)「 表1
不純物濃度(ppm) ・・・
No Na K Al Fe ・・・
・・・
2 0.01 0.1 -
3 - - -
・・・
5 - - -
6 - - -
7 - - -
・・・
9 0.01 0.01 -
10 0.02 0.01 0.01 」

(4-4)「上記表1において、・・・-印は、その元素が検出できなかったことを示す。」(3頁右下欄8行?11行)

と記載されているように、電球や光源用ランプに、ナトリウム含量が約0.05ppm未満である合成石英(溶融シリカに相当。)は、実際、使用されているし、
例えば、本願の優先権主張の日前である平成1年12月25日に頒布された特開平1-319567号公報(以下、「引用例5」という。)に、

(5-1)「前述したように、本願発明は、ゾル-ゲル法を用いた超純粋シリカフィラーの製造法を含む。
ゾル-ゲル法は、化学式Si(OR)_(4)・・・を有する少なくとも1種類のシリカ含有有機化合物を使用し、ここではRはアルキル基である。化学式Si(OC_(2)H_(5))_(4)を有するテトラエチルオルトシリケート(TEOS)が好ましいシリコン含有有機化合物であるが、・・・。シリコン含有有機化合物は部分加水分解できる。・・・
・・・部分加水分解されたTEOSが本願発明によるゲルを形成するのに適した出発物質である」(4頁左上欄6行?右上欄2行)、
本願の優先権主張の日前である平成5年9月7日に頒布された特開平5-229833号公報(以下、「引用例6」という。)に、

(6-1)「【0034】ブ-ル法(boule process)では、規定の低い温度に維持されたSiCl_(4)原材料中を酸素が泡立てて通される。蒸気状のSiCl_(4)は酸素に隨伴されるが、この酸素はキャリアガスとして作用し、その蒸気状のSiCl_(4)を反応サイト(reaction site)に輸送する。その反応サイトは蒸気状のSiCl_(4)を1700℃より高い温度で燃焼させ酸化させる多数のバ-ナで構成されている。
【0035】実施例1上記のシステムが図1に示されており、そこでは、高純度溶融シリカのブ-ルを作成するために、市販の炉内でSiCl_(4)がOMCTS原材料1で置換された。不活性ガス、すなわち窒素がキャリアガスとして用いられ、かつ窒素のバイパス流2が蒸気流の飽和を防止するために導入された。蒸気反応物は、多数のバ-ナ4が炉クラウン5に近接して配置された反応サイトに輸送される前に、分布機構3を通される。これらのバ-ナは1700℃より高い温度で蒸気反応物を燃焼させかつ酸化させて、高純度の金属酸化物ス-トと熱を耐火炉クラウン5中を下方に送り、そのクラウンで直ちにホットベイト(hot bait)6上に沈積されかつコンソリデ-ト(consolidated)されて非多孔質の物体となされる。」

と記載されているように、「高純度の溶融シリカを、テトラエチルオルト珪酸塩の加水分解およびSiCl_(4)の燃焼反応の合成プロセスを介して得ること」は周知であるから、

引用例1に記載の発明のメタルハライドランプにおいて、その発光管2を、テトラエチルオルト珪酸塩の加水分解およびSiCl_(4)の燃焼反応の合成プロセスを介して得られた、ナトリウム含量が約0.05ppm未満である溶融シリカで構成することは、当業者が容易になし得ることである。

そして、本願発明1の効果は、引用例1に記載の発明、及び、引用例2?6に記載の事項に基づいて当業者が予測可能な範囲内のものである。

したがって、本願発明1は、引用例1に記載の発明、及び、引用例2?6に記載の事項に基づいて当業者が容易にすることができたものである。


5.むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用例1に記載の発明、及び、引用例2?6に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願発明1が特許を受けることができないものであるから、その余の請求項2?9に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-03-03 
結審通知日 2008-03-04 
審決日 2008-03-17 
出願番号 特願平8-525658
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 亮  
特許庁審判長 杉野 裕幸
特許庁審判官 中村 直行
山川 雅也
発明の名称 ハロゲン化ナトリウム放電ランプ  
代理人 松本 研一  
代理人 小倉 博  
代理人 黒川 俊久  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ