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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B05B
管理番号 1182071
審判番号 不服2006-16817  
総通号数 105 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-08-03 
確定日 2008-07-31 
事件の表示 特願2000-154903「スプレー容器」拒絶査定不服審判事件〔平成13年12月 4日出願公開、特開2001-334182〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯及び本願発明
本件出願は、平成12年5月25日に出願され、平成18年4月11日付けで拒絶理由が通知され、平成18年6月9日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成18年6月28日付けで拒絶査定され、これに対し、平成18年8月3日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものであって、その請求項1?3に係る発明は、平成18年6月9日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものと認められ、そのうち、請求項3に係る発明(以下、単に「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項3】 容器本体にねじ止めにより固定されるキャップと、前記キャップの前記容器本体への固定と共に前記容器本体に固定されるシリンダと、前記シリンダ内に上下方向に移動可能に延在させた中空の第一のステムと、前記第一のステム内に上下方向に移動可能に配置した第二のステムと、前記第二のステム内に摺動可能に配置したピストンガイドと、前記第一および/または第二のステムに嵌合させると共に前記第二のステム底部を閉鎖させるように配置した、前記シリンダ内面を前記ステムの移動に伴って摺動するピストンと、前記第一または第二のステム上端と嵌合したノズル付頭部と、前記シリンダと前記ピストンとの間に配置した第一のばねと、前記ピストンガイドと前記ピストンとの間に配置した第二のばねとを具える、前記ノズルより前記容器本体内の内容物を噴出させるスプレー容器において、
前記第二のステム、前記ピストンガイドおよび前記ピストンによって形成される、前記容器本体の内容物から隔離された空気室を設け、前記第二のばねを前記空気室内に配置したことを特徴とするスプレー容器。」

2.引用文献
(1)原査定の拒絶理由に引用された特開昭50-140907号公報(以下、単に「引用文献1」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。
(ア)「ポンプ室を形成する第1シリンダを有し、該シリンダは不還弁を介して滴下管に通じ、該シリンダの中に中空ピストンが摺動可能に設けられ、第2シリンダを有し、該シリンダは第1シリンダに通じ、該シリンダの中にピストンが摺動可能に設けられ、該ピストンは第1シリンダと噴霧器のノズルとの連通を阻止するように配置された弁に連結し、第2ピストン上に作用して前記の連通を阻止する位置に前記の弁を押付ける弾性装置を有し、第2シリンダは第1ピストン内に作られた凹所によつて構成され第1シリンダに対して移動できる噴霧器において、第1ピストンが拡大部5bを有し、該拡大部内に第2シリンダ10が形成され、第1シリンダ1および第2シリンダ10は同じ内部断面を有していることを特徴とする噴霧器。」(第1頁下左欄4?18行)
(イ)「図面において香水用の噴霧器は滴下管と通じ、成るべくはこれと一体のシリンダ1を有し、シリンダと滴下管の間には不還弁4が介在している。中空のピストン5はシリンダの中を摺動する。シリンダ1はピストン5を受ける部分よりも大きな断面部分1aを有し、内部ねじ栓2によつて固定したスリーブ21に嵌つている。部分1aは外部カラー1bを有し、このカラーはスリーブ21の内部環状凹所21aに堅く嵌つている。弁4の近くのシリンダ1の内端と、ピストン5の内部肩5aとの間にスプリング22が延びている。
ピストン5はシリンダ1内を摺動する部分より径の大きくなつた部分5bが上方へ延び、部分5bに近い一端にカラー5cを具えている。カラー5cは部分5bを囲んだスリーブ23を支え、スリーブ23の上端部は径が小さくなり、管6内に取付けられ、管6はノズル8に通じている。
円筒形中空部10がピストン5の拡大部5b内に設けられ、この中空部10は第2シリンダを構成し、この中にピストン13が摺動可能に設けられ、ピストン13はシリンダ10を2室14、15に分ける。ピストン13に杆16が固定され、この杆は所定の間隙をおいてスリーブ23bの縮小端部を横切り、杆16の一端部16aはスリーブ23b内に作られた座23aと係合するように配置された弁を構成する。室15の底とピストン13との間に介在したスプリング17は弁16aを押して座23aと衝合させる。スリーブ23bによって作られた室14は、拡大部5bの外面に設けられた溝5d及び拡大部5bの内部孔5eによって中空ピストン5と通じている。
室15は噴霧器の貯蔵部の内部と通じ、この貯蔵部の上に栓2が設けられ、拡大部5b内に作られた通路5fによって、シリンダ1の拡大部1aの内部に通じ、かつ拡大部1bの底に設けられた孔1cによってピストン5の外部と通じている。スリーブ23bはスリーブ21の内部肩21bと衝合するように配置された外部肩23を有する。」(第2頁上右欄2行?同頁下左欄19行)
(ウ)「休止位置においてスプリング22はピストン5を上方位置に押し、肩23を肩21bに押付ける。スプリング17は弁16aを座23aに押付ける。」(第2頁下左欄20行?同頁下右欄2行)
(エ)「噴霧器が直ちに使用できる状態にあるとして、使用者が押ボタン7を押圧すると、押ボタンはピストン5をスリーブ23bとともに押下げる。シリンダ内に収容された液体は孔5e及び溝5dを通つて室14に供給される。弁16aは座23a上に載つているので、液体はノズル8へ流れることができない。室14内の圧力がスプリング17の作用する力と釣合つたとき、ピストン12は下方に移動し、弁は座を離れ、圧力下にある液体はノズル8へ流れてこれから出る。この運動は、押ボタン7の上の圧力による運動の速度と実際上等しい速度で行われる。この押ボタンのストロークの終りに圧力が降下し弁16aはスプリング17によつて座に戻る。
使用者が押ボタンを緩めると、スプリング22はピストン5及びスリーブ23bを元の位置に戻し、スリーブの肩23はスリーブ21の肩21bに衝合する。この運動中、液体は貯蔵器(図示しない)から不還弁5を通ってシリンダ1に吸込まれる。
ピストン5の運動中、空気が貯蔵器に入り、スリーブ23bとスリーブ21の間の環状空間及び孔1cを通って引かれた液体と入れ替わる。
更に、若しピストン13の可撓性封鎖唇が流体密でないならば、室15に入る液体は空間5f及び孔1cを通って貯蔵器に戻ることができる。」(第2頁下右欄3行?第3頁上左欄8行)

(オ)上記の記載事項(ア)?(エ)及び図面の記載を総合すると、引用文献1には、次のような発明が記載されているものと認められる。
「貯蔵器にねじ止めにより固定される栓2と、栓2の前記貯蔵器への固定と共に前記貯蔵器に固定される第1シリンダ1と、前記第1シリンダ1内に上下方向に移動可能に延在させた中空のスリーブ23bと、前記第1シリンダ1の内面を摺動するピストン部とそのピストン部から上方に延びて前記スリーブ23b内に上下方向に移動可能に配置され、ピストン部と壁部により区画された円筒形状の第2シリンダ10を構成する拡大部5bとからなり、前記スリーブ23bの移動に伴って上下に移動するように一体的に作製された第1ピストン5と、前記第1ピストン5の第2シリンダ10を構成する拡大部5b内に摺動可能に配置され、前記第2シリンダ10を上方室14と下方室15に区分する第2ピストン13と、前記スリーブ23bの上端と嵌合したノズル8を備えた押ボタン7と、前記第1シリンダ1と前記第1ピストン5のピストン部との間に配置したスプリング22と、前記第2ピストン13と前記第1ピストン5のピストン部との間に配置したスプリング17とを具える、ノズル8より貯蔵器内の液体を噴出させる噴霧器において、
前記第1ピストン5の前記第2シリンダ10を構成する拡大部5b、前記第2ピストン13および前記第1ピストン5のピストン部によって形成される前記下方室15を設け、前記スプリング17を前記下方室15内に配置した噴霧器。」(以下、「引用文献1記載の発明」という。)

(2)原査定の拒絶理由に引用された実願昭49-789号(実開昭50-93305号)のマイクロフィルム(以下、単に「引用文献2」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。
(ア)「以下図面について説明すると、1は容器体、2はその口頸部で該口頸部には頂壁中央部に挿通孔3を有するキャップ4が螺合させてある。
口頸部2の頂面へフランジ5を係合させて底部内面に逆止弁6を有する第1シリンダ7を容器体内に垂設させる。該シリンダ下端には容器体底部に達する吸上げ管8を嵌合させる。
第1シリンダ7内へは作動部材9下端部に形成された第1ピストン部10を挿入させる。該作動部材は中空管11下端にその第1ピストン部10を、上端に噴霧ヘッド12を有する。その中空管11は既述挿通孔3を通つて外方へ突出される。第1ピストン部10は下端開放の筒状となし、該内部から中空管11を通つてノズル孔13まで連通され、その中間に弁座14を有する。図示例の場合は中空管上端に形成させたが、その下端部に形成することも可能である。」(明細書第2頁11行?第3頁7行)
(イ)「第1ピストン部10内へは下端を閉塞させ、上端を開口する第2シリンダ16を嵌合させる。該シリンダの底面中央部から下方へ突出させた突部17は後述第1スプリング18のガイドであり、又上方へ突出させた突棒19は第2スプリング20及び弁体部材21のガイドである。第2シリンダ16側面上下方向に縦溝22を設けて第1シリンダ内液体が第1ピストン部内面と第2シリンダ外面との間を通つて上方から第2シリンダ内へ流入可能に設けておく。
第2シリンダ16内へは弁体部材21の下部たる第2ピストン部23を入れ、その上端に形成させた弁体部24を弁座14へ圧着可能とする。その圧着のため第2シリンダ底部と第2ピストン部との間に第2スプリング20を設ける。尚第1ピストン部10を常時上方へ付勢すべく、第1シリンダ内底部と第2シリンダ16との間に第1スプリング18を設けておく。」(同第3頁8行?第4頁4行)
(ウ)「上記構成において噴霧ヘッド12を押下げすると、予め第1シリンダ内に入つていた液体は第1ピストン部10の下降に伴い、縦溝22を通って第2シリンダ部16内へ流入するが、このとき弁座14は弁体部24によつて閉塞されているため、その流入量の増加によって加圧される。該圧力が一定圧に達したとき第2スプリング20の押上げ力に抗して第2ピストン部23が押下げられ、従つて弁体部24が下降して弁座14を開放し、このとき加圧液体はノズル孔13から噴出する(第2図参照)。該噴出による液体圧減少によつて再び第2スプリング20が弁体部材を押上げ、従つて弁座14は閉塞される。噴霧ヘッド押下げ開放によつて第1スプリング18が第1ピストン10を押上げ、このとき第1シリンダ内は負圧化するため吸上げ管8、逆止弁6を通つて容器体内液体が流入し、次の噴霧ヘッド押下げに備える。」(同第4頁5行?第5頁1行)
(エ)「本案は上記構成とするものであり、このように第2シリンダ内に入つた液体が一定圧に高まつたときだけ自動的に弁体部材21が引き下げられて噴霧し、かつその液体圧が弱まつたときは直ちに弁体部材が上昇して噴霧を中止するよう設けたから、従来のように噴霧ヘッド押下げの始めと終りの加圧力が弱いときに霧化が不完全となつて液体のまゝ飛び出すことがなく、又各部材を別々に形成させたから各部材構造が簡易化されて、それ等の一体成形が容易かつ組立が簡易となり、更に第2ピストン部23、第2シリンダ16はすべて第1シリンダ部10内へ収納されるから第1シリンダ7内を大きくすることが可能で、噴霧器小型化の上からも有利である。」(同第4頁2?15行)

3.当審の判断
(1)本願発明と引用文献1に記載された発明との対比
本願発明と引用文献1に記載された発明とを対比すると、引用文献1に記載された発明における「噴霧器」、「貯蔵器」、「液体」、「栓2」、「第1シリンダ1」、「スリーブ23b」、「第2ピストン13」、「ノズル8を備えた押ボタン7」、「スプリング22」及び「スプリング17」は、それらの形状、構造及び機能等からみて、本願発明における「スプレー容器」、「容器本体」、「内容物」、「キャップ」、「シリンダ」、「第一のステム」、「ピストンガイド」、「ノズル付頭部」、「第一のばね」及び「第二のばね」にそれぞれ相当する。
また、引用文献1に記載された発明においては、「第1ピストン5」は、(本願発明の「シリンダ」に相当する)第1シリンダ1内を摺動する「第1ピストン5のピストン部」とそのピストン部から上方に延びて(本願発明の「第一のステム」に相当する)スリーブ23b内に上下方向に移動可能に配置されてピストン部と壁部により区画された円筒形状の第2シリンダ10を構成する「第1ピストン5の拡大部5b」とからなり、(本願発明の「第一のステム」に相当する)スリーブ23bの移動に伴って上下に移動するように一体的に作製されているが、これらの「第1ピストン5のピストン部」及び「第1ピストン5の拡大部5b(あるいは、拡大部5bが構成する第2シリンダ10)」は、それらの機能からみて、本願発明の「ピストン」及び「第二のステム」にそれぞれ相当する。そして、拡大部5bが構成する円筒形状の第2シリンダ10は、底部に壁部が形成されてピストン部と区画され、さらに、内部に摺動可能に配置される(本願発明の「ピストンガイド」に相当する)第2ピストン13によって2室14と15に区分されている。その上方室14は、拡大部5bの外面に設けられた縦溝5d及び拡大部5bの内部孔5eを介して中空のピストン部及び(本願発明の「シリンダ」に相当する)第1シリンダ1の(本願発明の「液室」に相当する)内部空間に連通し、液体の流路の一部を形成する。一方の下方室15は、(本願発明の「ピストンガイド」に相当する)第2ピストン13によって、液体の流路の一部を形成する上方室14と区分され、拡大部5bに設けられた通路5fによって第1シリンダ1の拡大部1aでピストン部の外部に通じさらにシリンダ1の孔1cを介して噴霧器の貯蔵器の内部に連通されている。また、この下方室15には、第2シリンダ10の底壁部(すなわち、ピストン部の上壁部)と(本願発明の「ピストンガイド」に相当する)第2ピストン13との間に(本願発明の「ピストンガイド」に相当する)第2ピストン13を上方に付勢する(本願発明の「第二のばね」に相当する)スプリング17が配設されているところであり、この「下方室15」は、その構造及び機能からみて、本願発明の「空気室」に相当する。
したがって、本願発明と引用文献1に記載された発明は、「容器本体にねじ止めにより固定されるキャップと、キャップの容器本体への固定と共に容器本体に固定されるシリンダと、シリンダ内に上下方向に移動可能に延在させた中空の第一のステムと、第一のステム内に上下方向に移動可能に配置したステム部材(本願発明においては「第二のステム」、引用文献1に記載された発明においては「第1ピストン5の拡大部5b」)と、該ステム部材内に摺動可能に配置したピストンガイドと、シリンダ内面を第一のステムの移動に伴って摺動するピストン部材(本願発明においては「ピストン」、引用文献1に記載された発明においては「第1ピストン5のピストン部」)と、第一のステム上端と嵌合したノズル付頭部と、シリンダとピストンとの間に配置した第一のばねと、ピストンガイドとピストン部材との間に配置した第二のばねとを具える、ノズルより容器本体内の内容物を噴出させるスプレー容器において、ステム部材、ピストンガイドおよびピストン部材によって形成される空気室を設け、第二のばねを空気室内に配置してなるスプレー容器。」である点で一致し、次の〈相違点〉において相違する。
〈相違点〉ピストン部材とステム部材の関係において、本願発明においては、ピストン部材とステム部材はそれぞれピストンと第二のステムであり、これらの両部材は、ピストンが第二のステムの底部を閉鎖するように配置されて第二のステムに嵌合するように構成され、第二のばねを配置する空気室は、容器本体の内容物から隔離されているのに対し、引用文献1に記載された発明においては、ピストン部材とステム部材はそれぞれピストン部と拡大部であり、これらの両部材は第1ピストン5として一体的に作製され、拡大部が構成する円筒形状の第2シリンダ10は壁部によりピストン部と区画され、第二のばねを配置する空気室は、容器本体の内容物から隔離されているのか定かでない点。

(2)相違点についての検討
前記〈相違点〉について検討するに、本願発明においては、ピストンと第二のステムは別部材として構成されているが、ピストンを第二のステム底部を閉鎖させるように配置してピストンと第二のステムを嵌合状態で一体化させているところであり、ノズル付頭部の押下げにより、内容物は、シリンダ内の液室85からピストンに設けた透孔88、第一のステムと第二のステムの間に設けた隙間89、第二のステムに設けた透孔90等を介して第二のステムとピストンガイドの上面とにより形成される室へ流れるように構成されており、また、第二のばねを配置する空気室は、第二のステムの側面に設けた空気孔92、第一のステムと第二のステムの間に設けた隙間93、ノズル付頭部78の内部空間、第一のステムとキャップ及びシリンダとの間の隙間95、96、シリンダ側面に設けた空気孔97等を介して、外部や容器本体内と連通して、それらの間で空気の流れを許容するように構成され、容器本体の内容物から隔離されている。一方、引用文献1に記載された発明は、ピストンと第二のステムにそれぞれ相当するピストン部と拡大部は第1ピストンとして一体的に作製され、拡大部が構成する円筒形状の第2シリンダ(第二のステム)は底の壁部によりピストン部(ピストン)と区画されているところであり、第一のばねが配置され内容物を収容する液室は、拡大部5bの内部孔5eや拡大部5bの外面に設けられた縦溝5d等を介して第2シリンダ(第二のステム)と第2ピストン(ピストンガイド)の上面とにより形成される上方室14に連通してそれらの間で内容物の流れを許容し、第二のばねが配置された下方室15(空気室)は、拡大部5b内に作られた通路5f、シリンダ1に設けられた孔1c等を介してピストン5の外部、第一のステムとキャップのスリーブ21の間の環状空間や容器本体内と連通し、それらの間で空気の流れを許容するように構成されている。
また、引用文献2においては、第2ピストン部23を収容するとともに第2スプリング20が配置された第2シリンダ16(本願発明の「第二のステム」に相当する。)と第1シリンダ7内に摺動可能に配設された第1ピストン部10(本願発明の「ピストン」及び「第一のステム」に相当する。)を別部材として構成し、これらの第1ピストン部10と第2シリンダ16を嵌合状態で一体化させ、それらの壁部間に内容物を流通させる縦溝を形成する技術手段が記載されているところである。
よって、引用文献1に記載された発明のようなピストンと第二のステムを一体的に作製した構成と、本願発明のようにピストンと第二のステムを別部材としてそれらを嵌合した構成において、それらの作用効果において格別顕著な差異があるとは認められず、ピストン部材とステム部材をそれぞれピストンと第二のステムの別部材とし、これらの両部材をピストンが第二のステムの底部を閉鎖するように配置して第二のステムに嵌合するように構成することは、引用文献1に記載された発明や引用文献2に記載された技術手段等を考慮すれば、当業者が必要に応じて格別な創意工夫を要することなく容易に想到しうる程度のものと認められる。
次に、引用文献1に記載された発明における下方室15(空気室)についてさらに検討するに、下方室15(空気室)は、前述したように、第二のステム内の空間がピストンガイドによって内容物の流路の一部を形成する上方室14と区分されて形成されているところであり、本願発明における第二のステム内がピストンガイドによって内容物の流路の一部を形成する室と区分されて形成されている空気室と同様の構成を備えているものであり、さらに、引用文献1に記載された発明における下方室15(空気室)は、拡大部5b内に設けられた通路5fやシリンダ1に設けられた孔1c等を介してピストン5の外部、第一のステムとキャップのスリーブ21の間の環状空間や容器本体内と連通し、ピストン5の運動中に空気が容器本体内の内容物と入れ替わることができるように、それらの間で空気の流れを許容するように構成されており、第二のステム内のピストンガイドには、空気室内に配置した第二のばねの荷重以外の例えば液圧等の要因に基づく圧力が加わることはなく、容器本体の内容物から隔離されているといえる。してみると、引用文献1に記載された発明における空気室は、作用効果の点においても、本願発明における空気室と格別な差異は認められない。
なお、審判請求人においては、引用文献1における「更に、若しピストン13の可撓性封鎖唇が流体密でないならば、室15に入る液体は空間5f及び孔1cを通って貯蔵器に戻ることができる。」(第3頁上左欄6?8行)の記載を捉えて、『引用文献1に記載された噴霧器において、ポンプ動作を行って液体を噴霧する際には、液体が室15内に導入される場合があり、引用文献1に記載のスプリング17は液体の通路内に配置されており、その液体と接触する構成となっている。すなわち、引用文献1に記載の室15は、本願発明の空気室のように、内容物から隔離された室ではなく、その構成が全く異なり、液体の噴霧時において、かかる室15内に液体が導入されれば、スプリング17の荷重以外に噴霧条件に関連する圧力の変化が発生し、本願発明のように、適切な空気圧を設定・維持することはできない。』という趣旨の主張を行っている。しかしながら、引用文献1における前記の記載は、「若しピストン13の可撓性封鎖唇が流体密でないならば‥‥‥」と記載されていることからみて、『ピストン13の可撓性封鎖唇』は通常は流体密に設けられており、室15(空気室)には液体が入ることはないものである。しかし、もし『ピストン13の可撓性封鎖唇』が流体密でない場合が生じても、室15(空気室)に入る液体は、空気の流れを生じさせるために設けてある空間(通路)5f及び孔1cを通って容器本体内に直ちに戻ることができることを意図するものである。そして、たとえ『ピストン13の可撓性封鎖唇』が流体密でない場合であって液体が室15に入るとしても、その液体は直ちに空間(通路)5f及び孔1cを通って容器本体内に流下することとなり、室15に入った液体の液圧が、空気室内に配置したスプリング17(第二のばね)の荷重とともに、第2シリンダ10内のピストン13(ピストンガイド)に作用することはない。すなわち、引用文献1に記載された噴霧器において、『ピストン13の可撓性封鎖唇』は通常は流体密に設けられており、空気室に液体が入り込むことはなく、この空気室は容器本体の内容物から隔離されているといえるものであり、本願発明における空気室と略同様の構成と機能を有するものと認められる。よって、この点に関する審判請求人の主張は採用できるものではない。
また、引用文献2には、第2ピストン部23(本願発明の「ピストンガイド」に相当する。)を移動可能に収容する第2シリンダ16(本願発明の「第二のステム」に相当する。)の内部空間を、第2ピストン部23(本願発明の「ピストンガイド」に相当する。)によって、内容物の流路の一部を形成する室(すなわち、第2ピストン部23より上方の空間部)と第2スプリング20(本願発明における「第二のばね」に相当する。)が配置される空間部の二つに区分した技術手段が記載されており、第2スプリング20(本願発明における「第二のばね」に相当する。)が配置された空間部は、空気の流れを生じさせるための小孔が設けられているのみであり、第2ピストン部23(本願発明の「ピストンガイド」に相当する。)には第2スプリング20(本願発明における「第二のばね」に相当する。)の荷重以外の例えば液圧等の要因に基づく圧力が加わることはなく、第2スプリング20(本願発明における「第二のばね」に相当する。)が配置された空間部は、容器本体の内容物からは隔離されている。
よって、引用文献1に記載された発明における空気室はピストン13の可撓性封鎖唇が流体密でない場合に内容物が入り込むことがあるとしても、引用文献2に第二のばねを配置する空気室を容器本体の内容物から隔離するように構成した技術手段が記載されているところであって、第二のばねを配置する空気室を容器本体の内容物から隔離するように構成することは、引用文献1に記載された発明や引用文献2に記載された技術手段等を考慮すれば、当業者が格別な創意工夫を要することなく容易に想到しうる程度のものと認められる。
したがって、前記〈相違点〉に係る本願発明のような構成とすることは、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術手段に基づいて当業者が格別困難なく容易に想到し発明をすることができる程度のものと認められる。

以上のように、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術手段に基づいて、当業者が格別な困難性を伴うことなく容易に想到し発明をすることができたものと認められ、しかも、本願発明は、全体構成でみても、上記各文献に記載されたものから予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとも認められない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-02 
結審通知日 2008-06-03 
審決日 2008-06-17 
出願番号 特願2000-154903(P2000-154903)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田口 傑  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 荘司 英史
柳田 利夫
発明の名称 スプレー容器  
代理人 杉村 興作  
代理人 来間 清志  
代理人 藤谷 史朗  

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