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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B42C
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B42C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B42C
管理番号 1182158
審判番号 不服2006-20728  
総通号数 105 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-09-19 
確定日 2008-07-10 
事件の表示 平成 8年特許願第530611号「印刷製品を加工するための方法と装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年10月17日国際公開、WO96/32293、平成10年 2月24日国内公表、特表平10-502029〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、1996年4月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1995年4月11日、スイス国)を国際出願日とする出願であって、平成18年6月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月19日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年10月19日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。

第2.平成18年10月19日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年10月19日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正は、特許請求の範囲についての補正を含んでおり、本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】循環するグリッパで供給される印刷製品のただ1つの供給流から少なくとも2つの分離された分流が形成され、かつ前記複数の分流の印刷製品が、前後して、各分流に付設された加工区間に沿って同時並行に加工される、印刷製品の加工方法において、印刷製品の加工後、複数の分流を一緒にしてただ1つの流れにし、そのただ1つの流れには、複数の分流の印刷製品が交互に前後して配置されていることを特徴とする方法。
【請求項2】供給流には、形成しようとする複数の分流の印刷製品が交互に前後して配置されていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】分流の印刷製品が加工区間に沿って、相互の間隔を維持した状態で搬送されて個々に加工されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】分流を一緒にするために、運び去る搬送装置と、搬送ループに沿って相前後して循環する、分流の印刷製品のそれぞれ一つを握持して搬送するのに使用される或る数のグリッパとが設けられ、そして加工された各印刷製品がグリッパのうちの一つに引き渡されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】各印刷製品の少なくとも一つの範囲が加工区間の過程において搬送方向に対し或る角度をなして配向され、グリッパが搬送ループの過程中引渡し範囲を通過し、その引渡し範囲を、搬送方向に対し或る角度で配向された印刷製品の範囲が通り、そして各印刷製品が搬送方向に対し角度をなして配向された範囲でグリッパのうちの一つにより握持されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項6】全ての分流の印刷製品が一緒にするために全ての分流に共通の引渡し範囲へ移行されることを特徴とする請求項1から4までのうちのいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】グリッパが固定された運動軌道の過程中共通の引渡し範囲を通過しそして印刷製品の各々が引渡し範囲でグリッパのうちの一つにより握持されることを特徴とする請求項3または5に記載の方法。
【請求項8】分流の印刷製品の同時並行な加工において、少なくとも二つの加工過程が実施されることを特徴とする請求項1から6までのうちのいずれか一つに記載の方法
【請求項9】同時並行な加工は、分流の印刷製品の縁領域を切断することを含むことを特徴とする請求項1から7までのうちのいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】循環するグリッパ(32,42) で供給される印刷製品(5) の加工装置であって、印刷製品のただ1つの供給流から、少なくとも2つの分離された分流を供給する搬送装置(12,22;112,116,119,122,126,129;313,314,315,316,318,319,323,324,325,327,328,329) と、各分流に付設された、分流の印刷製品の同時平行な加工に使用される加工ステーション(14,24;114,118,124,128,214,218,224,228;311,312,321,322) と、加工された印刷製品を運び去る搬送装置(40,42;130,132;330,331) を備えた、印刷製品の加工装置において、
分流を運び去る搬送装置(40,42;130,132;330,331) は無端で循環する搬送ループを有し、この搬送ループには分流の印刷製品を交互に次々と引渡し可能であり、かつ前記搬送ループにより、印刷製品がただ1つの流れに前後して配列されて運び去ることが可能であることを特徴とする装置。
【請求項11】供給する搬送装置は、個々の分流にそれぞれ付設された加工区間(10,20;110,120;210,220;310,320) に沿って分流の印刷製品を搬送するための少なくとも二つの分離されたコンベヤ(12,22;112,116,119,122,126,129;313,314,315,316,319,323,324,325,326,329) を有することを特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項12】運び去る搬送装置は、搬送ループに沿って循環する、加工ステーション(14,24;114,118,124,128;214,218,224,228;311,312,321,322) で加工された分流の印刷製品のうちの一つをそれぞれ握持して搬送するのに役立つグリッパ(42;331)を有することを特徴とする請求項9または10に記載の装置。
【請求項13】搬送ループが加工区間(10,20) の終わりにある引渡し位置を通過し、この引渡し位置で、分流の加工された印刷製品がグリッパ(42)の中へ差し込まれることを特徴とする請求項10または11に記載の装置。
【請求項14】各印刷製品の少なくとも一つの範囲が加工区間(310,320) の過程において搬送方向に対し角度をなして配向可能であり、グリッパ(331) が搬送ループの過程中引渡し範囲を通過し、この引渡し範囲を或る角度で配向された印刷製品の範囲が通り、そして或る角度で搬送方向に配向された各範囲がグリッパ(331) のうちの一つのグリッパの握持範囲に達するように、印刷製品の搬送が加工区間(310,320) に沿っておよび/またはグリッパの回転に沿って引渡し範囲で制御可能であることを特徴とする請求項10または11に記載の装置。
【請求項15】搬送方向に対し或る角度で印刷製品範囲を配向するためにコンベヤ(319,329) には、搬送方向に対しほぼ垂直にかつそれで搬送される印刷製品に対し平行に延びる軸線を中心として回動可能であり、個々の加工された印刷製品の相対する縁に当てることが可能でありかつ少なくとも部分的に加工区間(310,320) に沿って一緒に走るクランプが設けられていることを特徴とする請求項10または13に記載の装置。
【請求項16】全ての分流の印刷製品が加工ステーション(114,118,124,128;214,218,224,228) で加工後全ての分流に共通の引渡し範囲へ移行可能でありかつ搬送ループの過程中印刷製品のそれぞれ一つを握持するためのグリッパの握持範囲が共通の引渡し範囲を通過することを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項17】印刷製品を共通の引渡し範囲へ移行させるために、加工された印刷製品の搬送方向に対しほぼ垂直に加工区間(110,120;210,220) に沿って延びる回転軸線(134) を中心として回転可能な搬送ホイール(130) には、回転軸線(134) をぐるりと回っている或る数の搬送小室(132) が設けられており、その際加工区間(110,120;210,220) に沿って加工された各印刷製品が搬送小室(132) のうちの一つに差込み可能でありかつ少なくとも加工区間(110,120;210,220) に沿って加工された印刷製品が引渡し範囲(138) へ移行させるために回転軸線(134) に対し平行に移動可能であることを特徴とする請求項15に記載の装置。」
から、
「【請求項1】循環するグリッパで供給される印刷製品のただ1つの供給流から少なく
とも2つの分離された分流が形成され、かつ前記複数の分流の印刷製品が、前後して、各分流に付設された加工区間に沿って同時並行に加工される、印刷製品の加工方法において、印刷製品の加工後、複数の分流を一緒にしてただ1つの流れにし、そのただ1つの流れには、複数の分流の印刷製品が交互に前後して配置され、前記供給流には、形成しようとする複数の分流の印刷製品が交互に前後して配置されていることを特徴とする方法。
【請求項2】分流の印刷製品が加工区間に沿って、相互の間隔を維持した状態で搬送されて個々に加工されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】分流を一緒にするために、運び去る搬送装置と、搬送ループに沿って相前後して循環する、分流の印刷製品のそれぞれ一つを握持して搬送するのに使用される或る数のグリッパとが設けられ、そして加工された各印刷製品がグリッパのうちの一つに引き渡されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】各印刷製品の少なくとも一つの範囲が加工区間の過程において搬送方向に対し或る角度をなして配向され、グリッパが搬送ループの過程中引渡し範囲を通過し、その引渡し範囲を、搬送方向に対し或る角度で配向された印刷製品の範囲が通り、そして各印刷製品が搬送方向に対し角度をなして配向された範囲でグリッパのうちの一つにより握持されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】全ての分流の印刷製品が一緒にするために全ての分流に共通の引渡し範囲へ移行されることを特徴とする請求項1から4までのうちのいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】グリッパが固定された運動軌道の過程中共通の引渡し範囲を通過しそして印刷製品の各々が引渡し範囲でグリッパのうちの一つにより握持されることを特徴とする請求項3または5に記載の方法。
【請求項7】分流の印刷製品の同時並行な加工において、少なくとも二つの加工過程が実施されることを特徴とする請求項1から6までのうちのいずれか一つに記載の方法
【請求項8】同時並行な加工は、分流の印刷製品の縁領域を切断することを含むことを特徴とする請求項1から7までのうちのいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】循環するグリッパ(32,42) で供給される印刷製品(5) の加工装置であって、印刷製品のただ1つの供給流から、少なくとも2つの分離された分流を供給する搬送装置(12,22;112,116,119,122,126,129;313,314,315,316,318,319,323,324,325,327,328,329) と、各分流に付設された、分流の印刷製品の同時平行な加工に使用される加工ステーション(14,24;114,118,124,128,214,218,224,228;311,312,321,322) と、加工された印刷製品を運び去る搬送装置(40,42;130,132;330,331) を備えた、印刷製品の加工装置において、
前記ただ1つの供給流には、形成しようとする複数の分流の印刷製品が交互に前後して配置されており、分流を運び去る搬送装置(40,42;130,132;330,331) は無端で循環する搬送ループを有し、この搬送ループには分流の印刷製品を交互に次々と引渡し可能であり、かつ前記搬送ループにより、印刷製品がただ1つの流れに前後して配列されて運び去ることが可能であることを特徴とする装置。
【請求項10】供給する搬送装置は、個々の分流にそれぞれ付設された加工区間(10,20;110,120;210,220;310,320) に沿って分流の印刷製品を搬送するための少なくとも二つの分離されたコンベヤ(12,22;112,116,119,122,126,129;313,314,315,316,319,323,324,325,326,329) を有することを特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項11】運び去る搬送装置は、搬送ループに沿って循環する、加工ステーション(14,24;114,118,124,128;214,218,224,228;311,312,321,322) で加工された分流の印刷製品のうちの一つをそれぞれ握持して搬送するのに役立つグリッパ(42;331)を有することを特徴とする請求項9または10に記載の装置。
【請求項12】搬送ループが加工区間(10,20) の終わりにある引渡し位置を通過し、この引渡し位置で、分流の加工された印刷製品がグリッパ(42)の中へ差し込まれることを特徴とする請求項10または11に記載の装置。
【請求項13】各印刷製品の少なくとも一つの範囲が加工区間(310,320) の過程において搬送方向に対し角度をなして配向可能であり、グリッパ(331) が搬送ループの過程中引渡し範囲を通過し、この引渡し範囲を或る角度で配向された印刷製品の範囲が通り、そして或る角度で搬送方向に配向された各範囲がグリッパ(331) のうちの一つのグリッパの握持範囲に達するように、印刷製品の搬送が加工区間(310,320) に沿っておよび/またはグリッパの回転に沿って引渡し範囲で制御可能であることを特徴とする請求項10または11に記載の装置。
【請求項14】搬送方向に対し或る角度で印刷製品範囲を配向するためにコンベヤ(319,329) には、搬送方向に対しほぼ垂直にかつそれで搬送される印刷製品に対し平行に延びる軸線を中心として回動可能であり、個々の加工された印刷製品の相対する縁に当てることが可能でありかつ少なくとも部分的に加工区間(310,320) に沿って一緒に走るクランプが設けられていることを特徴とする請求項10または13に記載の装置。
【請求項15】全ての分流の印刷製品が加工ステーション(114,118,124,128;214,218,224,228) で加工後全ての分流に共通の引渡し範囲へ移行可能でありかつ搬送ループの過程中印刷製品のそれぞれ一つを握持するためのグリッパの握持範囲が共通の引渡し範囲を通過することを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項16】印刷製品を共通の引渡し範囲へ移行させるために、加工された印刷製品の搬送方向に対しほぼ垂直に加工区間(110,120;210,220) に沿って延びる回転軸線(134) を中心として回転可能な搬送ホイール(130) には、回転軸線(134) をぐるりと回っている或る数の搬送小室(132) が設けられており、その際加工区間(110,120;210,220) に沿って加工された各印刷製品が搬送小室(132) のうちの一つに差込み可能でありかつ少なくとも加工区間(110,120;210,220) に沿って加工された印刷製品が引渡し範囲(138) へ移行させるために回転軸線(134) に対し平行に移動可能であることを特徴とする請求項15に記載の装置。」
と補正された。

2.補正の目的
本件補正によって、補正前の請求項1に記載される「供給流」について、「前記供給流には、形成しようとする複数の分流の印刷製品が交互に前後して配置されている」との記載を付加したものである。この補正は、分けられる前のただ1つの供給流が、異なる複数の分流に分けられる予定の印刷製品が繰り返し順番に配置されていることを特定したものであるから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に記載される特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
また、本件補正は、補正前の請求項2を削除し、それにともなって、補正前の請求項3乃至17の項番を繰り上げる補正をしたものであり、この補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1号に記載される請求項の削除を目的とするものと認められる。
そして、本件補正は、項番の繰り上げによって、補正前の請求項10を補正後の請求項9とし、補正前の請求項10に記載される「ただ1つの供給流」について、「前記ただ1つの供給流には、形成しようとする複数の分流の印刷製品が交互に前後して配置されており」との記載を付加したものであり、この補正も、請求項1に係る発明の「供給流」についてする補正と同様に、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に記載される特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。

そこで、本件補正後の請求項9に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3.引用刊行物
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張日前に頒布された特開昭53-13770号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の記載が図示とともにある。

(ア)「この発明は本ブロック コンベヤ装置であつて、本ブロックを垂直に相前後して前方へ動かす本ブロック コンベヤ路、これに接して本ブロックのコンベヤ流を二つの部分流に分ける本ブロック転轍器、及び2個のこの後に定置された集積路を有するものに関する。」(1頁右欄15?20行)
(イ)「本ブロック コンベヤ流をこれに続いて接する本ブロック集積と共に二つの部分流に分けるためには、一つの装置が知られており、これは製本機械例えば丁合機から出される本ブロックを、東ドイツ特許第31604号に従い、彎曲転轍器により二つのコンベヤ流に分けて二つの別々の集積棚へ集積する。かような本ブロック コンベヤ装置の使用は、紙折-及び糊付製本機への接続、特に乾燥-及び陳列工程に対し有利であると思われる。上述の解決経路はしかしこの場合、これには2個の完全な乾燥装置および/または2個の完全な本ブロック棚を必要とするため、その実現に費用が嵩まざるを得ない。のみならずかような棚は多くの場所を必要とする。
発明の問題は、紙折-および/または糊付機から出てくる本ブロックを、必要とする棚に対する所要場所を最小に止め、経済的な方法で一つの本ブロック乾燥装置および/または一つの本ブロック棚へ送込むことである。」(2頁左上欄1?19行)
(ウ)「すなわち、本ブロックを垂直に相前後して前方へ動かす本ブロック コンベヤ路、その後に接する本ブロック コンベヤ流を二つの部分流に分ける本ブロック転轍器及び2個のこの後へ定置された集積路を有する本ブロック コンベヤ装置へ、この集積路を本ブロック コンベヤ路の運搬方向に並び合せて配置する。」(2頁右上欄1?8行)
(エ)「押し棒20は図からは見ることのできない曲線と棒とから成る駆動を有し、これが押し棒を送られて来る本ブロック1の拍子に合せて彼方此方に動かす。これにより、コンベヤベルト4・5により送られて来る本ブロックは、交互に左方及び右方へ寄せられる。コンベヤベルト4・5はそれ故本ブロック転轍器を形成する。」(3頁左上欄1?8行)
(オ)「集積路33・34は堅く固定された2枚の内方案内板29・30及び2枚の調節し得る外方案内板31・32により区切られている。この両方の集積路33・34の間に本ブロック押35が揺れ可能に軸受されている。これは己知の方法で本ブロック運搬の拍子に合せて駆動されてコンベヤバンド4・5から集積路33・34へ送られた本ブロック1を交互に押して鱗状の傾斜配置にする。」(3頁右上欄8?16行)
(カ)「発明による本ブロック コンベヤ装置は、集積路33・34上に形成された鱗形の本ブロック集積により、本ブロック乾燥設備に対しまた本ブロックの展示に対し特に適している。本ブロック乾燥設備へ使用するためには、乾燥設備を集積路を取巻いて装備すること、すなわち集積路を乾燥設備を貫ぬいて通すことができる。」(4頁左上欄2?8行)
(キ)第1図から、集積路33,34上を本ブロック1が、平行して搬送されていることが看取できる。

刊行物1の上記記載(イ)及び上記記載(カ)には、集積路33,34で、本ブロックの乾燥処理を行うことができることが記載されている。そして、上記記載(カ)には、「本ブロック乾燥設備へ使用するためには、乾燥設備を集積路を取巻いて装備すること、すなわち集積路を乾燥設備を貫ぬいて通すことができる。」と記載されていることから、2つの集積路33,34にある本ブロックに対して、同時平行に乾燥処理を行っているものと認められる。また、「乾燥処理」は、本ブロックを製造するときの加工工程の1つであるから、それを「加工」ということができ、乾燥設備と本ブロックコンベヤ装置とを一体の装置としてみれば、それを加工装置ということができる。
また、刊行物1の上記記載(ア)、上記記載(ウ)及び上記記載(カ)から、本ブロックを集積路手前まで搬送する本ブロックコンベヤ路は1つであり、乾燥処理を行う集積路は分離された2つの集積路であると解される。
また、刊行物1の上記記載(エ)及び上記記載(オ)には、コンベヤベルトで送られてくる本ブロックを、交互に左方と右方に寄せることで、集積路34と集積路35の2つの部分流に分けているので、本ブロックコンベヤ路において、2つの集積路に供給される本ブロックが交互に前後して配置されていることは明らかである。

したがって、上記記載及び図面を含む刊行物1全体の記載から、刊行物1には、以下の発明が開示されていると認められる。
「コンベヤベルトで供給される本ブロックの加工装置であって、1つの本ブロックコンベヤ路から2つに分離された部分流を形成する集積路と、2つの集積路で同時並行に本ブロックの乾燥処理を行う乾燥設備とを備えた加工装置において、1つの本ブロックコンベヤ路には、形成しようとする2つの集積路の本ブロックが交互に前後して配置される装置。」(以下「引用発明」という。)

(2)原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張日前に頒布された特開昭55-32696号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の記載が図示とともにある。

(ク)「本発明は書籍の中身が二つの部分流となって垂直に立てて魚鱗状に並べられある作業工程とくに乾燥部を通過した后にこれらを爾后の作業のために分離すべき書籍中身コンベヤの組込式分離装置に関する。」(2頁左上欄7?11行)
(ケ)「本発明によると折畳み-及び接着綴付機から出た后二つの並列して進む部分流となつて魚鱗状に並べられ垂直に立つて乾燥部を通過した書籍中身が分離され均等なリズムで前后に立ち並んでさらに送られる。この目的のためには前置された乾燥部又は配列部と同じ速度で動くベルトコンベヤの后方にそれより速い速度で駆動されるベルトコンベヤが設けられてある。」(2頁右上欄11?18行)
(コ)「揺動コンベヤは第2のベルトコンベヤと同じ速度で動く。揺動コンベヤからは均等なリズムで到着する中身の送りつけベルトコンベヤへの共通の交番に行なわれる受渡しが実施でき、后者は次に中身を爾后の作業のための后続機械に送る。」(2頁右下欄2?7行)
(サ)「揺動ベルトコンベヤ11は第3図のとおり共通に送りつけコンベヤ12へまた第4図のとおり別別に2本の送りつけコンベヤ13へ供給することもできるように作つてある。」(3頁右上欄9?12行)
(シ)Fig3から、並列に配置された2つのベルトコンベヤ7と、2つの揺動コンベヤ11からみて、書籍の中身2の搬送方向における下流側に、1つの送りつけコンベヤ12を配置していることが看取できる。

刊行物2の上記記載(サ)及び上記記載(シ)から、二つの部分流を一つの送りつけコンベヤに搬送することが記載されていると認められる。
また、刊行物2の上記記載(コ)から、二つの部分流を交互に送りつけコンベヤに受け渡ししていると認められる。
また、「ベルト-コンベヤー」は、ベルト車にベルトをかけて循環させ、その上に品物をのせて運ぶ装置である(広辞苑第五版参照)から、刊行物2に記載の送りつけコンベヤは、無端で循環する搬送ループを形成していると認められる。

したがって、上記記載及び図面を含む刊行物2全体の記載から、刊行物2には、以下の事項が開示されていると認められる。
「無端で循環する搬送ループを形成する送りつけコンベヤによって、書籍中身の乾燥後、二つの部分流から書籍中身を交互に取り出して1つの流れにする点。」

4.本願補正発明と引用発明との対比
a.刊行物1の上記記載(イ)には、「本ブロック」が製本機械例えば丁合機から出されることが示されており、一般的に言われる「本」を示していると認められる。また、本の中の印字を印刷によって行うことは、当該技術分野においてよく行われている技術常識であるから、引用発明の「本ブロック」は、本願補正発明の「印刷製品」に相当している。
b.引用発明は、1つの本ブロックコンベヤ路上を搬送する本ブロックを、2つの集積路に分流させるものであるから、「本ブロックコンベヤ路」を、「供給流」ということができ、さらに、「2つの部分流」を、「分流」ということができる。
c.本願補正発明の「少なくとも2つの分離された分流」は、2つの分離された分流を包含しているので、引用発明のように2つに分流するものと相違するものではない。
d.本願補正発明には「分流を供給する搬送装置」との記載があり、日本語として文意が不明確であるが、発明の詳細な説明の記載全体からみても、また、請求項9において、「搬送装置(12,22;・・・)」と記載されるように、実施例1において分流を形成するコンベヤベルト(12,22)を搬送装置と言っていることからみても、「搬送装置」は「分流を供給する」のではなく、「分流を形成する」ものとしか読み取れないので、本願補正発明に記載される「分流を供給する搬送装置」は、「分流を形成する搬送装置」と認める。してみれば、引用発明の「部分流を形成する集積路」は、本願補正発明に記載の「分流を形成する搬送装置」に相当する。
e.引用発明における「乾燥処理を行う乾燥設備」は、本ブロックの乾燥処理を行うのであるから、乾燥設備は乾燥処理に使用されているといえる。
f.引用発明の「乾燥処理」は、本ブロックを製造するときの加工工程の1つであるから、それを「加工」ということができ、さらに、引用発明において乾燥処理が行われる乾燥設備を「加工ステーション」ということができる。

よって、両者は、
「印刷製品の加工装置であって、印刷製品のただ1つの供給流から、2つに分離された分流を形成する搬送装置と、分流の印刷製品の同時平行な加工に使用される加工ステーションとを備えた、印刷製品の加工装置において、
前記供給流には、形成しようとする複数の分流の印刷製品が交互に前後して配置されている装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

〈相違点1〉
供給流において印刷製品を供給する手段が、本願補正発明では、「循環するグリッパ」であるのに対して、引用発明では、コンベヤベルトである点。

〈相違点2〉
本願補正発明では、加工ステーションが、「各分流に付設された」ものであるのに対して、引用発明では、2つの集積路に対して共用する1つの乾燥設備を設けている点。

〈相違点3〉
本願補正発明は、加工装置が、加工された印刷製品を運び去る搬送装置を備え、該搬送装置は無端で循環する搬送ループを有し、この搬送ループには分流の印刷製品を交互に次々と引き渡し可能であり、かつ前記搬送ループにより、印刷製品がただ1つの流れに前後して配列されて運び去ることが可能であるのに対して、引用発明では、そのような特定がされていない点。

5.判断
〈相違点1について〉
印刷製品を製造する際に、循環するグリッパで印刷製品を把持して搬送する手段は周知であり(例えば、特開昭62-240259号公報、特開昭62-191360号公報等を参照)、引用発明の本ブロックを供給するコンベヤベルトに代えて、周知である循環するグリッパを用いて印刷製品を搬送することは当業者が容易に想到できたことである。

〈相違点2について〉
刊行物1では、従来技術として分流ごとに乾燥装置を設けることが記載されており、乾燥装置を分流ごとに設けるか共通化するかは、乾燥装置の構造や集積路(分流)の近接度合い、本ブロックの搬送形態などの乾燥装置の設計条件を考慮して、当業者が適宜に選択し得る設計事項である。
したがって、2つの集積路に対して共用する1つの乾燥設備に代えて、2つの集積路に対して別々の2つの乾燥装置を設けること、つまり、乾燥処理を行う加工ステーションを各分流に設けることは、当業者が容易に想到し得たものである。

〈相違点3について〉
刊行物2に記載の「書籍中身」は、本願補正発明の印刷製品と相違するものでない。
また、刊行物2は、書籍中身の乾燥後、二つの部分流から書籍中身を交互に取り出して、1つの流れにしているのであるから、二つの部分流から1つの流れにする合流域において、二つの部分流の書籍中身を交互に次々と引き渡し可能であって、1つの流れにおいては二つの部分流の書籍中身が前後して配列することになると認められる。
また、刊行物2の送りつけコンベヤは、無端で循環する搬送ループを形成している。
そして、刊行物2は、書籍中身の乾燥後の搬送について記載されているのであるから、刊行物1に記載の乾燥処置の後の処理として、組み合わせることは当業者が容易に想到することである。

そして、本願補正発明の作用効果も、刊行物1、2記載の発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願補正発明は、その優先権主張日前に頒布された刊行物1、2記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

6.補正却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3.本願発明について
平成18年10月19日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項10に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年4月21日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項10に記載された事項により特定される、以下のものと認められる。

「循環するグリッパ(32,42) で供給される印刷製品(5) の加工装置であって、印刷製品のただ1つの供給流から、少なくとも2つの分離された分流を供給する搬送装置(12,22;112,116,119,122,126,129;313,314,315,316,318,319,323,324,325,327,328,329) と、各分流に付設された、分流の印刷製品の同時平行な加工に使用される加工ステーション(14,24;114,118,124,128,214,218,224,228;311,312,321,322) と、加工された印刷製品を運び去る搬送装置(40,42;130,132;330,331) を備えた、印刷製品の加工装置において、
分流を運び去る搬送装置(40,42;130,132;330,331) は無端で循環する搬送ループを有し、この搬送ループには分流の印刷製品を交互に次々と引渡し可能であり、かつ前記搬送ループにより、印刷製品がただ1つの流れに前後して配列されて運び去ることが可能であることを特徴とする装置。」

1.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1、2及びその記載事項は、前記「第2.」の「3.(1)」及び「3.(2)」に記載したとおりである。

2.対比・判断
本願発明は、前記「第2.」で検討した本願補正発明から、「ただ1つの供給流」についての限定事項である、「前記ただ1つの供給流には、形成しようとする複数の分流の印刷製品が交互に前後して配置されて」いる構成を省いたものである。
そうすると、実質的に本願発明の発明を特定する事項を全て含み、さらに他の発明を特定する事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2.」の「5.」に記載したとおり、刊行物1、2記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1、2記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
以上のとおり、本願発明は、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物1、2記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-12-21 
結審通知日 2008-01-22 
審決日 2008-02-04 
出願番号 特願平8-530611
審決分類 P 1 8・ 572- Z (B42C)
P 1 8・ 575- Z (B42C)
P 1 8・ 121- Z (B42C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤木 啓二  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 尾崎 俊彦
菅藤 政明
発明の名称 印刷製品を加工するための方法と装置  
代理人 江崎 光史  
代理人 奥村 義道  

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