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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 B41M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41M
管理番号 1182180
審判番号 不服2006-10308  
総通号数 105 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-05-18 
確定日 2008-07-28 
事件の表示 平成 9年特許願第296285号「インクジェット記録用シート」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 4月27日出願公開、特開平11-115308〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1.手続の経緯
本件出願は、平成9年10月14日に出願したものであって、平成18年1月24日付けの拒絶理由の通知に対し、同年3月28日付けで明細書に係る手続補正がなされたが、同年4月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月18日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年6月19日付けで明細書に係る手続補正がなされたものである。

第2.平成18年6月19日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年6月19日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を補正する内容を含んでおり、本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「ポリオレフィンコート紙からなる支持体上に色材受容層が設けられてなる記録用シートにおいて、該色材受容層が、無機微粒子及び水溶性樹脂を含む塗布液を支持体上に塗布し、該塗布層が減率乾燥速度を示すようになる前に、該水溶性樹脂を架橋させることができる架橋剤を含む溶液を付与し、次いで熱風乾燥することにより硬化させて得られた層であることを特徴とするインクジェット記録用シート。」
から
「ポリオレフィンコート紙からなる支持体上に色材受容層が設けられてなる記録用シートにおいて、該色材受容層が、無機微粒子及び水溶性樹脂を含む塗布液を支持体上に塗布し、その後、該塗布層が減率乾燥速度を示すようになる前に、該水溶性樹脂を架橋させることができる架橋剤を含む溶液を付与し、次いで熱風乾燥することにより硬化させて得られた層であることを特徴とするインクジェット記録用シート。」
に補正された。

上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「色材受容層」について、「無機微粒子及び水溶性樹脂を含む塗布液を支持体上に塗布し、」と、「該塗布層が減率乾燥速度を示すようになる前に、該水溶性樹脂を架橋させることができる架橋剤を含む溶液を付与し、」との間に、「その後、」を加入したものであって、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.独立特許要件について
(1)先願明細書に記載された発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願日前の平成9年1月8日に出願され、平成10年7月28日に出願公開された特願平9-1224号(特開平10-193776号公報)の願書に最初に添付された明細書(以下、先願明細書という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審にて付与した。)
ア.「支持体及びその上に設けられた少なくとも2層のインク受容層を有するインクジェット記録用紙において、該インク受容層が平均1次粒子径20nm以下のシリカ系微粒子と親水性バインダーを含有し、かつ少なくともインク受容層側の支持体から最も離れた層に水溶性カチオン性ポリマーを含有することを特徴とするインクジェット記録用紙。」(【請求項1】)
イ.「本発明のインクジェット記録用紙は親水性のバインダーとシリカ系微粒子によって形成される空隙によって高いインク吸収性が得られる。」(段落【0038】)
ウ.「本発明のインクジェット記録用紙において、好ましいのは平均1次粒子径が20nm以下の微粒子としてシリカ微粒子に対し、親水性バインダーとしてポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールを用いる場合である。この場合、微粒子シリカ表面のシラノール基とビニルアルコールの水酸基が弱い水素結合を行い、前記軟凝集体が良好に形成される。」(段落【0048】)
エ.「高い空隙率の皮膜の脆弱性を劣化させずに得るために前記親水性バインダーが硬膜剤によって硬膜されていることが好ましい。硬膜剤は一般的には前記親水性バインダーと反応しうる基を有する化合物あるいは親水性バインダーが有する異なる基同士の反応を促進するような化合物であり、親水性バインダーの種類に応じて適宜選択して用いられる。硬膜剤の具体例としては、例えば、エポキシ系硬膜剤(ジグリシジルエチルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ジグリシジルシクロヘキサン、N,N-ジグリシジル-4-グリシジルオキシアニリン、ソルビトールポリグリシジルエーテル等)、アルデヒド系硬膜剤(ホルムアルデヒド、グリオキザール等)、活性ハロゲン系硬膜剤、(2,4-ジクロロ-4-ヒドロキシ-1,3,5-s-トリアジン等)、活性ビニル系化合物(1,3,5-トリスアクリロイル-ヘキサヒドロ-s-トリアジン、ビスビニルスルホニルメチルエーテル等)、ほう酸及びその塩、ほう砂、アルミみょうばん等が挙げられる。特に好ましい親水性バインダーとして、ポリビニルアルコール及びその誘導体を使用する場合には、ホウ酸及びその塩から選ばれる硬膜剤である。本発明でホウ酸またはその塩としては、ホウ素原子を中心原子とする酸素酸及びその塩のことを示し、具体的にはオルトホウ酸、二ホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸、五ホウ酸及び八ホウ酸及びそれらの塩が含まれる。」(段落【0096】?【0097】)
オ.「上記硬膜剤は空隙層を構成する塗布液を塗布する際に空隙層形成の塗布液中及びまたは空隙層に隣接するその他の層を形成する塗布液中に添加しても良く、あるいは予め硬膜剤を含有する塗布液を塗布してある支持体上に前記空隙層を形成する塗布液を塗布したりさらには空隙層を形成する硬膜剤非含有の塗布液を塗布乾燥後に硬膜剤溶液をオーバーコートする等して空隙層に硬膜剤を供給することができるが、好ましくは製造上の効率から空隙層を形成する塗布液またはこれに隣接する層の塗布液中に硬膜剤を添加して空隙層を形成するのと同時に硬膜剤を供給するのが好ましい。」(段落【0099】)
カ.「本発明のインクジェット記録用紙の支持体としては、従来インクジェット用記録用紙として公知のものを適宜使用できる。・・・透明である必要のない場合に用いる支持体としては、例えば、一般の紙、合成紙、樹脂被覆紙、布、木材、金属等からなるシートや板、および上記の透光性支持体を公知の手段により不透明化処理したもの等を挙げることができるが、基紙の少なくとも一方に白色顔料等を添加したポリオレフィン樹脂被覆層を有する樹脂被覆紙(いわゆるRCペーパー)、ポリエチレンテレフタレートに白色顔料を添加してなるいわゆるホワイトペットが好ましい。支持体とインク受像層の接着強度を大きくする等の目的で、インク受容層の塗布に先立って、支持体にコロナ放電処理や下引処理等を行うことが好ましい。さらに、本発明の記録用紙は必ずしも無色である必要はなく、着色された記録用紙であってもよい。」(段落【0101】?【0103】)

キ.「実施例1
100g/m2の原紙両面をポリエチレンで被覆した紙支持体(厚さ140μm、記録面側のポリエチレン層中に7重量%のアナターゼ型二酸化チタン含有。記録面の裏面側にバック層としてアルカリ処理ゼラチン1.2g/m2と硬膜剤を含有する層を有する)上の記録面側に、塗布液-1と、上層として塗布液-2を各々湿潤膜厚100μmで同時重層塗布乾燥を行い記録用紙1を得た。この皮膜の空隙容量は約25ml/m2であった。
〔塗布液-1〕
純水 1000ml
平均粒径約7nmの微粒子シリカ 150g
平均重合度3500のポリビニルアルコール(5%水溶液)
(ケン化度89%) 500g
カチオン性ポリマー(表1に記載) (表1に記載)
界面活性剤-3 1.2g
ホウ砂(4%水溶液) 20ml
上記液を高速ホモジナイザーで分散して白色半透明な塗布液を得た。
〔塗布液-2〕
純水 1000ml
平均粒径約7nmの微粒子シリカ 150g
平均重合度3500のポリビニルアルコール(5%水溶液)
(ケン化度89%) 500g
カチオン性ポリマー(表1に記載) (表1に記載)
界面活性剤-1 0.70g
界面活性剤-2 0.30g
ホウ砂(4%水溶液) 20ml」
(段落【0114】?【0116】)

上記の事項をまとめると、先願明細書には、以下の発明が開示されていると認められる。(以下、先願発明という。)
「ポリオレフィン樹脂被覆紙からなる支持体及びその上に設けられた少なくとも2層のインク受容層を有するインクジェット記録用紙において、
該インク受容層が平均1次粒子径20nm以下のシリカ系微粒子と親水性バインダーを含有し、
空隙層を構成する塗布液を塗布する際に、空隙層に隣接するその他の層の塗布液中に硬膜剤を添加して空隙層を形成するのと同時に硬膜剤を供給し、次いで乾燥することにより空隙層を硬膜した、インクジェット記録用紙。」

(3)対比
本願補正発明1と先願発明とを比較すると、先願発明における「ポリオレフィン樹脂被覆紙からなる支持体」は、本願補正発明1における「ポリオレフィンコート紙からなる支持体」に、先願発明における「インク受容層」及び「空隙層」は、本願補正発明1における「色材受容層」に相当する。
また、先願発明における「平均1次粒子径20nm以下のシリカ系微粒子」、「親水性バインダー」、「硬膜剤」、「空隙層を形成する塗布液」、及び「インクジェット記録用紙」は、それぞれ、本願補正発明1における「無機微粒子」、「水溶性樹脂」、「水溶性樹脂を架橋させることができる架橋剤」、「無機微粒子及び水溶性樹脂を含む塗布液」、及び「インクジェット記録用シート」に相当する。
よって、両者は、
「ポリオレフィンコート紙からなる支持体上に色材受容層が設けられてなる(インクジェット)記録用シートにおいて、色材受容層が、無機微粒子及び水溶性樹脂を含む塗布液を支持体上に塗布するとともに、該水溶性樹脂を架橋させることができる架橋剤を含む溶液を付与し、次いで乾燥することにより硬化させて得られた層である、インクジェット記録用シート。」
の点で一致し、以下の点で一応相違している。

[相違点1]
「架橋剤を含む溶液の付与」に関し、
本願補正発明1においては、「無機微粒子及び水溶性樹脂を含む塗布液を支持体上に塗布し、その後、該塗布層が減率乾燥速度を示すようになる前に、架橋剤を含む溶液を付与する」のに対し、
先願発明においては、架橋剤を含む溶液を、色材受容層に隣接する層の塗布液中に添加することによって、「無機微粒子及び水溶性樹脂を含む塗布液の塗布」と「架橋剤を含む溶液の付与」とを同時に行う点。
[相違点2]
塗布液を塗布した後の乾燥に関して、
本願補正発明1においては、熱風乾燥するのに対して、
先願発明においては、熱風乾燥について記載がない点。

(4)判断
まず、相違点1について検討する。
本願補正発明1において、「無機微粒子及び水溶性樹脂を含む塗布液を支持体上に塗布し、その後、該塗布層が減率乾燥速度を示すようになる前に、該水溶性樹脂を架橋させることができる架橋剤を含む溶液を付与し」とは、本願明細書に、「本発明者は更に検討を重ね、減率乾燥状態が始まる前の恒率乾燥の状態において、できるだけ早く塗布層の膜強度を高めることにより、ヒビ割れを防止が可能であることを見いだし、本発明に到達した。」(段落【0012】)、及び、「本発明では、無機微粒子及び水溶性樹脂を主成分とする塗布液(多孔質層形成用塗布液)を支持体上に塗布した後、該塗布層がヒビ割れを起こさないように架橋剤を付与し、速やかに塗布層の膜強度を向上させている。実際には、無機微粒子と水溶性樹脂とを主成分とする塗布液を塗布した後、速やかに架橋剤溶液が付与される。」(段落【0034】)とあるとおり、本願補正発明1は、「できるだけ早く塗布層の膜強度を高める」ことに基づくものであり、無機微粒子と水溶性樹脂とを主成分とする塗布液を塗布した直後に架橋剤溶液が付与されることも含まれる。
してみると、本願補正発明1と、先願発明とは、「できるだけ早く塗布層の膜強度を高める」点で、技術的思想に差異はない。
また、本願補正発明1は、製造方法によってインクジェット記録用シートという物の発明を特定しようとするものであるが、「無機微粒子と水溶性樹脂とを主成分とする塗布液を塗布した直後に架橋剤溶液が付与される」本願補正発明1と、「塗布液の塗布と架橋剤溶液の付与とが同時に行われる」先願発明とは、ともに、架橋剤溶液の付与が「塗布層が減率乾燥速度を示すようになる前」であり、塗布層がヒビ割れを起こさないから、両者において、最終的に得られる生産物としての差異は生じない。
したがって、上記相違点1は実質的な差異ではない。
相違点2については、塗布後の乾燥方法として、熱風乾燥は周知の手段であるから、熱風乾燥を行うか否かは、当業者が適宜選択できる設計上の微差に過ぎない。
以上のとおりであるから、本願補正発明1は、先願明細書に記載された発明と同一である。

(5)まとめ
以上のように、本願補正発明1は、本件の出願の日前に出願された出願であつてその出願後に出願公開された特願平9-1224号の願書に最初に添付した明細書に記載された発明と同一であり、かつ、上記の出願の発明者が本件出願に係る発明の発明者と同一であるとも、また本件出願の時においてその出願人が上記出願の出願人と同一であるとも認められず、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないから、本願補正発明1は、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3.補正却下の決定についてむすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明1
平成18年6月19日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?8に係る発明は、平成18年3月28日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものであり、特に請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、以下のとおりである。
「ポリオレフィンコート紙からなる支持体上に色材受容層が設けられてなる記録用シートにおいて、該色材受容層が、無機微粒子及び水溶性樹脂を含む塗布液を支持体上に塗布し、該塗布層が減率乾燥速度を示すようになる前に、該水溶性樹脂を架橋させることができる架橋剤を含む溶液を付与し、次いで熱風乾燥することにより硬化させて得られた層であることを特徴とするインクジェット記録用シート。」

2.先願明細書に記載された発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、特願平9-1224号(特開平10-193776号公報)の願書に最初に添付された明細書の記載事項は、前記第2.2.(1)ア.?キ.で示したとおりである。

3.対比・判断
本願発明1は、上記第2.2.で検討した本願補正発明1の「無機微粒子及び水溶性樹脂を含む塗布液を支持体上に塗布し、その後、該塗布層が減率乾燥速度を示すようになる前に」から、「その後、」を削除したものであるから、本願発明1には、「無機微粒子と水溶性樹脂とを主成分とする塗布液
を塗布した直後に架橋剤溶液が付与される」ものに加え、「無機微粒子と水溶性樹脂とを主成分とする塗布液の塗布と同時に架橋剤溶液が付与される」ものも含まれる。
そうすると、本願補正発明1が、上記第2.2.に記載したとおり、先願発明と同一であるのと同様の理由により、本願発明1も、先願発明と同一である。

4.むすび
以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないから、請求項2?8に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-04 
結審通知日 2008-06-06 
審決日 2008-06-17 
出願番号 特願平9-296285
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B41M)
P 1 8・ 161- Z (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野田 定文  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 木村 史郎
淺野 美奈
発明の名称 インクジェット記録用シート  
代理人 柳川 泰男  

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