• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200580270 審決 特許

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B60R
管理番号 1182221
審判番号 無効2007-800004  
総通号数 105 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-09-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-01-12 
確定日 2008-08-20 
事件の表示 上記当事者間の特許第3296418号発明「自動車の電気回路用配線材を追加する事による性能改善方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3296418号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3296418号の請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1及び2」という。)についての出願は、平成10年2月25日に特許出願され、平成14年4月12日にその特許権の設定登録がなされたものである。
その後、平成19年1月12日に本件特許に対して特許無効審判が請求され、平成19年3月30日に答弁書が提出された。

2.本件発明
本件発明1及び2は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。

本件発明1
「車両のマイナス供給の電気配線方法で、発電機と蓄電池の間を車体やエンジンの一部を配線用導体として使用するとともに、導電率の良い配線材を配線用導体として追加使用して行うことを特徴とする電気配線方法。」
本件発明2
「ガソリンエンジンを使用する車両に於いて、蓄電池からエンジン制御用電子機器やイグナイター及びスパークプラグまでの高圧発生装置マイナス供給用配線を、車両やエンジンの一部を配線用導体として使用するとともに、導電率の良い配線材を配線用導体として追加使用して行うことを特徴とする請求項1に記載の電気配線方法。」

ここで、本件発明1及び2の技術的意義について考察する。
まず、「追加使用」とは、従来の配線に加え、新たな配線を行うことと解される。(本件明細書段落【0003】等)
そして、請求項1において「車体やエンジンの一部を配線用導体として使用」することが従来の配線に該当し、「導電率の良い配線材を配線用導体として追加使用」することが新たな配線に該当する。
そうすると、本件発明1は、「車体やエンジンの一部を配線用導体として使用」している車両に対して「導電率の良い配線材を配線用導体として追加使用」する点に技術的意義を有するものと認められる。
なお、本件発明1の「発電機と蓄電池の間を」は、「発電機と蓄電池の間の配線を」との意味であると解される。
また、請求項2においても「車両やエンジンの一部を配線用導体として使用」することが従来の配線に該当し、「導電率の良い配線材を配線用導体として追加使用」することが新たな配線に該当する。
そうすると、本件発明2も、「車両やエンジンの一部を配線用導体として使用」している車両に対して「導電率の良い配線材を配線用導体として追加使用」する点に技術的意義を有するものと認められる。
ところで、請求項2の「蓄電池からエンジン制御用電子機器やイグナイター及びスパークプラグまでの高圧発生装置マイナス供給用配線」なる記載では、「蓄電池」及び「エンジン制御用電子機器」、「イグナイター」、「スパークプラグ」、「高圧発生装置」に関して、マイナス供給用配線がどのようなものであるか、一義的に明確ではない。
そこで、本件特許明細書を参酌すると、段落【0009】に「図2は図1に本発明である配線方式を追加したものである。最も重要なのは発電機1と蓄電池2の配線14である。次にエンジン制御用電子機器3と蓄電池2を15にて接続する。更にイグナイター4へは蓄電池2と接続する。それが16である。最後にイグナイター4の電圧をスパークプラグ6へ接続する。17である。」と記載されるとともに、図2に、蓄電池2からエンジン制御用電子機器3へ接続する符号15の線(蓄電池のマイナス端子とエンジン制御用電子回路のマイナス端子を接続する配線材)と別に、蓄電池2からイグナイター4へ接続する符号16の線が図示され、さらに符号16の線(蓄電池のマイナス端子とイグナイターのマイナス端子を接続する配線材)は続いてスパークプラグ6へ接続する符号17の線(イグナイターのマイナス端子とスパークプラグのマイナス側とを接続する配線材)となる態様が図示されているのであるから、上記請求項2の記載は、蓄電池からエンジン制御用電子機器へのマイナス供給用配線と、蓄電池からイグナイター及びスパークプラグまでの高圧発生装置へのマイナス供給用配線であると解される。
なお、本件発明1及び2は、車両が旧車であることを除外しておらず、かえって上記のように「追加使用」するのであるから、旧車をその念頭においていると認められる。(本件明細書段落【0003】【0004】【0010】等参照)

3.請求人の主張
審判請求人は、本件請求項1及び2に係る特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする趣旨の特許無効審判を請求し、証拠方法として甲第1号証(AutoClub(オートクラブ2月号1998FEBRUARY)、(株)▲えい▼(木へんに世)出版社、1998年2月1日発行、第2巻、第2号、通巻4号、p.74-75)を提出し、本件発明1及び2は、甲第1号証刊行物に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、また、同発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから同法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるという理由により、本件請求項1及び2に係る特許は無効とすべきであると主張している。

4.被請求人の主張
被請求人は、本件発明1及び2は甲第1号証に記載された発明でも、同発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないと主張し、以下の理由を挙げている。

(1)甲第1号証について
甲第1号証に記載されているのは、特定の車種の中古車のための更生方法であり、この特定の車種において、かなりの程度の老朽化により生じた、通常は改善困難な不具合につき、部品交換その他によって可能な機能回復方法及びこの方法による回復具合を説明するものであり、請求人はそのうちどの部分を以て「発明」と呼んでいるのか、全く不明である。
また、その記載は特定の年式、車種についての実験的試みの概要、結果に限定されており、それがどの程度他の車種、年式の車に応用可能かも不明なものとなっているのであって、請求人がここから如何なる発明を見出したかも全く不明である。
また、マイナス配線だけを取り出して本件特許発明と比較することは理解しがたい。
よって、本件特許発明と対比される発明の存在を認めることができない。
(2)本件発明1について
ア.技術的課題について
甲第1号証は、老朽化した特定車種の中古車の更生を目的とするものであるのに対し、請求項1に係る発明は新車、中古車、ガソリンエンジン車、ディーゼルエンジン車を問わずに適用できる性能改善策であって、甲第1号証とはその目的において著しく異なるものである。
イ.構成について
(ア)甲第1号証に記載される「強化配線図」の意義が明確ではない。
(イ)本件発明1は、プラス供給電気配線については何ら変更を加えることなく、またオルタネータ(発電機)、バッテリー、劣化した配線等を交換することなく、車両のマイナス供給電気配線についてのみ問題にし、ここに導電率の良い配線材を配線用導体として追加使用するものである。
これに対し、甲第1号証の「強化配線図」はマイナス配線以外に、バッテリーのプラス(+)端子とイグニションコイルのプラス端子の接続等を図面化したものであり、また、オルタネータ(発電機)、バッテリーその他の部品等の交換を行うことをその前提とするものであって、甲第1号証の「強化配線図」は「車両のマイナス供給の電気配線方法」を明記したものではない。
「発電機と蓄電池の間を車体やエンジンの一部を配線用導体として使用する」ことについても「強化配線図」に記載されていない。
(ウ)「強化配線図」はその趣旨、内容等が曖味であり、しかも、甲第1号証中には「発電機(オルタネータ)とバッテリー(蓄電池)とを、マイナス線にて接続している」ことを意味する語句は全くない。
(エ)仮に、甲第1号証が発電機と蓄電器をマイナス配線で接続する旨記載してあるとしても、甲第1号証に「リレーを介してバッテリーのプラス端子からイグニッションコイルのプラス端子(15番端子)にダイレクトにつなぐ」「ただし、それだと、常時、電流がながれてしまうので、その中間にリレーを設けたというわけだ。これでイグニッションONの時のみ電流が流れる」と記載されており、イグニッションONの時のみ流れる電流をアースするためのものと推測されるものであって、「電子機器間の電位差を小さくし、エンジンの正確な動作を行わせる電子機器間の電位差を小さくし、エンジンの正確な動作を行わせる」本件発明1の構成とはその作用効果において著しく異なるものである。
(オ)甲第1号証の第75頁中央の上から2枚目の写真とその説明文に「配線強化に使用したコード。太い方がマイナス線で、………銅線ムキ出し……」、また、甲第1号証の第75頁の下から3段目の第22行?第25行目に「配線を増してやることで、電圧降下を抑え、電流を流しやすくするのだ。特にマイナス線は太いものを使用する」と記載されているが、甲第1号証中には「導電率のよい配線材の使用が必要である」という趣旨の記載は全く見当たらず、また「配線材の太さ」と「導電率」とは何ら関係がない。
甲第1号証におけるマイナス線はイグニッションONの時に流れる大電流をアースするためのものであり、マイナス線の太さと導電率とは何ら関係ない。
ウ.効果について
甲第1号証では、それが老朽化した車両において生じていた不具合が改善されたという趣旨に留まるのに対して、本件発明1では、新車の場合にも顕著に生ずる改善点であって、その技術的意義、内容は全く異なっているのである。
本件特許発明の最も大きな効果は「エンジンが正確に動作することによる排気ガスCO、HCの減少」にあるが、この点については甲第1号証には記載はなく、また類推させる記載もない。
本件発明1はその技術的課題、構成、効果において甲第1号証の発明とは著しく相違しており、したがって甲第1号証に記載される発明と同一乃至これらより容易に発明できるものでない。
(3)本件発明2について
ア.技術的課題について
(2)ア.で述べたように明らかに相違している。
イ.構成について
(ア)本件発明2は、プラス供給電気配線については何ら変更を加えることなく、またオルタネータ(発電機)、バッテリー、劣化した配線等を交換することなく、車両のマイナス供給電気配線についてのみ導電率の良い配線材を配線用導体として追加使用することにより電子機器間の電位差を小さくし、エンジンの正確な動作を行わせるものであり、その構成は「バッテリーのマイナス(-)端子とボディアース、エンジンとオルタネータ(発電機)の配線にて接続する以外、バッテリーのプラス(+)端子とイグニションコイルのプラス端子を接続したり、オルタネータ(発電機)、バッテリー、劣化した配線等を交換する」甲第1号証とは著しく相違する。
そして甲第1号証及びこれに記載される「強化配線図」は本件発明2の「車両のマイナス供給電気配線方法」を明記したものではない。
(イ)甲第1号証にマイナス配線で接続する旨記載してあるとしても、イグニッションONの時のみ流れる電流をアースするためのものと推測され、その作用効果を著しく異にするものである。
即ち、本件発明2は電子機器間の電位差を小さくし、エンジンの正確な動作を行わせるものである。
(ウ)請求人は「蓄電池からエンジン制御用電子機器、イグナイター及びスパークプラグ」間の直接のマイナス配線の記載が甲第1号証には存在しないことを認めた上で、甲第1号証において「バッテリー(蓄電器)のマイナス端子と、エンジンのシリンダーブロックとシリンダーヘッドの2箇所につなぐ」こと並びに「シリンダーヘッド後方のコンピューターにつながるマイナス端子とシリンダーブロックマイナス線でつなぐ」とされていることが、「シリンダーブロックもシリンダーヘッドも大きな金属の塊であるから、十分な良導電性を発揮する」ため、「実質上全く同じ技術上の構造」であると主張しているが、シリンダーブロックとシリンダーヘッドは鉄またはアルミ製であり、導電性の良い材質ではないのであって、これが如何に大きな塊になっても同様である。
(エ)甲第1号証の第75頁中央の上から2枚目の写真とその説明文の「配線強化に使用したコード。太い方がマイナス線で、………銅線ムキ出し……」、また、甲第1号証の第75頁の下から3段目の第22行?第25行目の、「配線を増してやることで、電圧降下を抑え、電流を流しやすくするのだ。特にマイナス線は太いものを使用する」と記載されているが、甲第1号証におけるマイナス線はイグニッションONの時に流れる大電流をアースするためのものであり、このため、甲第1号証には導電率の高いものの使用が必要である旨の記載は全くないのである。また、マイナス線の太さと導電率とは何ら関係ない。
ウ.効果について
本件特許発明の最も大きな効果である「エンジンが正確に動作することによる排気ガスCO、HCの減少」については甲第1号証に記載はなく、また類推させる記載もない。その他の効果においても、全く異なっている。
本件発明1はその技術的課題、構成、効果において甲第1号証の発明とは著しく相違しており、したがって甲第1号証に記載される発明と同一乃至これらより容易に発明できるものでない。
(4)本件特許発明の時期
本件特許発明の完成は甲第1号証の発売日より以前であり、本件特許発明が甲第1号証に基づいて発明されたものではない。

5.甲第1号証の記載
請求人の提示した、甲第1号証には以下の事項が記載されている。
(1)「オルタネータ交換と電装チューンでエンジンフィールを大幅改善!!1986 BMW 635CSi」(第74頁見出し)
(2)「俄然、リフレッシュに拍車がかかる635CSi」(第74頁上段、右から4?5行目)
(3)「エンジンのアイドリングや低回転域での不調の原因究明である。冷却水の総入れ換えとサーモスタット、ラジエータキャップの交換で水周りを改善。プラグ、プラグコード、ディストリビュータの交換で電装系をリフレッシュ。なのに、その症状は完璧には直らないのだ。
そこで、日本外車部品を訪ね、オシロスコープでの診断を施してもらうことにした。すると、やはり、電圧が足りないという。・・・配線コードの劣化による電圧降下やバッテリーの充電率の劣化によるオルタネータヘの負担は知らずのうちに電圧の低下を招いているのだ。」(第74頁下段、右から9?26行目)
(4)「ヘッドライトとエアコンをONにした負荷状態にすると、11V台の電圧しか発しない。つまり、日常においても火花が弱く、不健全な状態だったというわけなのだ。」(第75頁上段、右から1?5行目)
(5)「配線チューンについては別図を見てほしい。簡単に原理を説明すると、配線を増やしてやることで、電圧降下を抑え、電気を流しやすくするのだ。特にマイナス線は太いものを使用する。旧い欧州車にありがちな細い線だと、最悪、燃えてしまうようなトラブルも生じるし、冷却水の循環で生じる静電気がセンサー類を誤作動させる恐れも出てくる。」(第75頁上段、左から7行目?中段、右から2行目)
(6)「イグニッションコイルへの電気の流れは、通常、バッテリーのプラス端子からヒューズボックスを介し、イグニッションスイッチからイグニッションコイルへとつながる。が、それでは電圧硬化による電圧の弱さが生じてしまいがちなので、これもバッテリーのプラス端子からイグニッションコイルのプラス端子(15番端子)にダイレクトにつなぐ。
ただし、それだと、常時、電流が流れてしまうので、その中間にリレーを設けたというわけだ。これでイグニッションONの時のみ電流が流れる。」(第75頁中段、右から3?15行目)
(7)「シリンダーヘッド後方のコンピュータにつながるマイナス端子とシリンダーブロックをマイナス線でつなぎ、よリ一層、アース不良を解消する。アース不良もまた、旧いクルマのトラブルによくある要因なのだ。」(第75頁中段、右から16?21行目)
(8)「オシロスコープの数値はノーマル時のバッテリー電圧が14.2V、ヘッドライト、エアコンを付けた負荷状態でも12.8?13.1Vぐらいの電圧を確保するに至った。
アイドリングはより安定し、中低速のトルクアップが体感できるようになる。燃費もわずかながら向上し、電気の重要性を改めて痛感することとなった。」(第75頁下段、右から4?12行目)
(9)「旧車のエンジンを確実にフィールアップできる電装チューニング。635オーナーのみならず、広く″エイティーズ・カー″オーナーにオススメしたい。」(第75頁下段、左から4行目?末行)
(10)「オルタネータ、バッテリーをリフレッシュし、配線を強化した3.5lシルキー6。電圧が強力になり、アイドリングや吹け上がりがより一層スムーズになった。」(第74頁左下の写真の説明文)
(11)「配線強化に使用したコード。太い方がマイナス線で細い方がプラス線。この後、銅線ムキ出し部分はキレイに端子加工がなされた。」(第75頁、中央の上から2枚目の写真の説明文)
(12)「バッテリーのプラス、マイナス端子に新たに追加したダイレクト配線の端子が接続される。」(第75頁、右側の上から2枚目の写真の説明文)
(13)第75頁の左上の「強化配線図」には、バッテリーの+端子から、リレーを介してイグニッションコイルの+端子を結ぶ線とオルタネータのB端子を結ぶ線が、また、バッテリーの-端子から、ボディアースを結ぶ線とオルタネータのリアハウジングを結ぶ線とエンジンを結ぶ線が図示され、イグニッションコイルの-端子には何もつながれていない態様が図示される。
さらに、バッテリーの-端子からエンジンを結ぶ線には「シリンダーブロックとシリンダーヘッドの2箇所につなぐ」との注釈が、また、エンジンには引き出し線にて「シリンターヘッド後方のコンピュータにつながるマイナス端子とシリンダーブロックをマイナス線でつなぎ、アース不良をのがれる」との注釈が付されている。

一方、車両のマイナス供給の電気配線方法として、車体やエンジンの一部を配線用導体として使用することは、本件特許明細書の段落【0002】にも示されるように、従来より周知であるとともに、その他の方法として、導線を用いることも複線式として周知でもある(必要あれば、富田邦彦著、「自動車の電氣装置」、紹文社、昭和23年4月10日、p.105参照)。
また、上記(5)の「配線を増やしてやることで、電圧降下を抑え、電気を流しやすくするのだ。」との記載及び(12)の「バッテリーのプラス、マイナス端子に新たに追加したダイレクト配線の端子が接続される。」との記載から、上記のような既に存在している配線に、追加して配線を増やすものといえ、さらに、(5)の「特にマイナス線は太いものを使用する。」との記載、(7)、(11)及び(12)の記載、並びに(13)の「バッテリーの-端子から、ボディアースを結ぶ線とオルタネータのリアハウジングを結ぶ線とエンジンを結ぶ線が図示」されていること及び『バッテリーの-端子からエンジンを結ぶ線には「シリンダーブロックとシリンダーヘッドの2箇所につなぐ」との注釈が、また、エンジンには引き出し線にて「シリンターヘッド後方のコンピュータにつながるマイナス端子とシリンダーブロックをマイナス線でつなぎ、アース不良をのがれる」との注釈が付されている』ことから、上記追加配線は、上記のような既に存在しているマイナス線の配線(以下、「既設のマイナス線」という。)に対して、新たに配線を追加して配線を増やすものといえる。
上記の事項を踏まえると、甲第1号証には、以下の事項が記載されていると認められる。
(1)及び(2)の記載から1986年製BMW635CSiのリフレッシュに関するものであること。
(3)の記載からエンジンのアイドリングや低回転域での不調の原因究明についての、冷却水の総入れ換えとサーモスタット、ラジエータキャップの交換で水周りを改善し、プラグ、プラグコード、ディストリビュータの交換で電装系をリフレッシュしても完璧には直らない症状に対応するものであること。
(5)の「配線チューンについては別図を見てほしい。」との記載から配線チューンを目的とするものであること。
そして、(11)の「配線強化に使用したコード。・・・銅線ムキ出し部分は」なる記載から、配線強化に使用する、追加する配線が「銅線」であるといえるから、上記検討したことから、既設のマイナス線に、新たに銅線を追加して配線を増やすものであること。
(13)で指摘する「強化配線図」には、「バッテリーの-端子から、・・・オルタネータのリアハウジングを結ぶ線・・・が図示」されていること、及び「バッテリーの-端子から、・・・エンジンを結ぶ線が図示され、」『バッテリーの-端子からエンジンを結ぶ線には「シリンダーブロックとシリンダーヘッドの2箇所につなぐ」との注釈が、また、エンジンには引き出し線にて「シリンターヘッド後方のコンピュータにつながるマイナス端子とシリンダーブロックをマイナス線でつなぎ、アース不良をのがれる」との注釈が付されている』こと及び(7)の記載から、バッテリーの-端子とオルタネータのリアハウジングを、新たに銅線を追加して、強化配線すること、及び、バッテリーの-端子からボディアース及びバッテリーの-端子からシリンダーブロックとシリンダーヘッドの2箇所に強化配線し、さらにシリンターヘッド後方のコンピュータにつながるマイナス端子とシリンダーブロックをマイナス線でつなぎ、アース不良をのがれること。
(5)の「電圧降下を抑え、電気を流しやすくするのだ。」との記載、及び、(8)の「ノーマル時のバッテリー電圧が14.2V、・・・負荷状態でも12.8?13.1Vぐらいの電圧を確保するに至った。」との記載から、電圧降下を抑え、電気を流しやすくして、バッテリー電圧を確保すること。
(5)の「冷却水の循環で生じる静電気がセンサー類を誤作動させる恐れも出てくる。」との記載から、センサー類を誤作動させる恐れを防止すること。
(8)の「アイドリングはより安定し、中低速のトルクアップが体感できるようになる。燃費もわずかながら向上し」との記載から、アイドリングをより安定させ、中低速のトルクアップさせ、燃費を向上させること。
(7)の「シリンダーヘッド後方のコンピュータにつながるマイナス端子とシリンダーブロックをマイナス線でつなぎ、よリ一層、アース不良を解消する。アース不良もまた、旧いクルマのトラブルによくある要因なのだ。」との記載から、コンピュータのアース不良のトラブルを防ぐこと。
(9)の「旧車のエンジンを確実にフィールアップできる電装チューニング。635オーナーのみならず、広く″エイティーズ・カー″オーナーにオススメしたい。」との記載から、広く″エイティーズ・カー″オーナーに勧められる、旧車に関する電装チューニング、つまり配線チューンであって、この配線チューンが施されたマイナス線に係る電気配線の方法。

上記の事項を総合すると、甲第1号証には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「1986年製BMW635CSiのリフレッシュにおける配線チューンに関するマイナス線に係る電気配線の方法で、バッテリーの-端子とオルタネータのリアハウジングを、既設のマイナス線に、新たに銅線を追加して、強化配線するとともに、バッテリーの-端子からの既設のマイナス線に加え、バッテリーの-端子からボディアース及びバッテリーの-端子からシリンダーブロックとシリンダーヘッドの2箇所に新たに銅線を追加して強化配線し、さらにシリンターヘッド後方のコンピュータにつながるマイナス端子とシリンダーブロックを新たに銅線を追加するマイナス線でつないで強化配線する電気配線の方法。」

6.対比・判断
(1)本件発明1について
本件発明1と引用発明とを対比すると、後者の「1986年製BMW635CSi」は前者の「車両」に対応する。また、後者の「オルタネータ」は前者の「発電機」に相当し、以下同様に、後者の「バッテリー」は前者の「蓄電池」に、後者の「ボディ」は前者の「車体」に、後者の「シリンダーブロック」と「シリンダーヘッド」は前者の「エンジンの一部」に、後者の「銅線」は前者の「導電率の良い配線材」にそれぞれ相当する。
また、2.で考察した「追加使用」の意味を考慮すると、後者の「マイナス線に係る電気配線の方法」は、前者の「マイナス供給の電気配線方法」に相当し、後者の「バッテリーの-端子とオルタネータのリアハウジングを、・・・新たに銅線を追加して、強化配線すること」は、前者の「導電率の良い配線材を配線用導体として追加使用して行う」ことに相当する。そして、後者の「既設のマイナス線」による「マイナス線に係る電気配線」と前者の「発電機と蓄電池の間を車体やエンジンの一部を配線用導体として使用する」「マイナス供給の電気配線」とは、ともに、従来の、既設のマイナス供給の電気配線といえ、「導電率の良い配線材を配線用導体として追加使用」する前の車両には既設のマイナス供給の電気配線が設けられている点でも共通している。
したがって、本件発明1と引用発明とは、
「車両のマイナス供給の電気配線方法で、発電機と蓄電池の間を、既設のマイナス供給の電気配線を使用するとともに、導電率の良い配線材を配線用導体として追加使用して行う電気配線方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点A:車両の種類(車種)について、本件発明1では特定していないのに対し、引用発明は「1986年製BMW635CSi」である点。
相違点B:導電率の良い配線材を配線用導体として追加使用する車両が、本件発明1では、発電機と蓄電池の間の配線を車体やエンジンの一部を配線用導体として使用する車両であるのに対し、引用発明では、いかなる車両であるのか不明である点。

そこで、上記相違点につき検討する。
ア.相違点Aについて
引用発明は、「1986年製BMW635CSiのリフレッシュにおける配線チューン関するマイナス線に係る電気配線の方法」ではあるものの、広く″エイティーズ・カー″オーナーに勧められる、旧車に関する電装チューニング、つまり配線チューンに関するものとしており、「1986年製BMW635CSi」という特定の車種に限らず、その他の旧車にも適用することが示唆されているといえる。また通常の車両(旧車)は既設のマイナス供給の電気配線を有しており、引用発明の新たに銅線を「追加使用」する車両とすることができないという格別の事情もない。そして、2.で考察したように「追加使用」することに本件発明1が技術的意義を有することを考慮すると、上記示唆に基づいて、特定の車種に限らない車両(車種)を「追加使用」する車両として選択することに格別の困難性は認められない。

イ.相違点Bについて
上記ア.で述べたように、引用発明は特定の車種に限定されるものではない。
また、「1986年製BMW635CSi」を含め旧車は、当然、上記5.で述べたような、従来より周知の既設のマイナス供給の電気配線を有しており、その電気配線がいかなるものであろうと、これに加えて導電率の良い配線材を「追加使用」することができないというものではない。さらに、引用発明は、電圧降下を抑え、電気を流しやすくして、バッテリー電圧を確保するために導電率の良い配線材を「追加使用」するものであるから、既設のマイナス供給の電気配線がいかなる配線であろうとその効果を当業者が期待するものといえる。そうすると、既設の発電機と蓄電池の間にマイナス供給の電気配線を備えた車両として、従来周知の車体やエンジンの一部を配線用導体として使用する車両に対して引用発明を適用することに格別の困難性が認められない。
なお、既設のマイナス供給の電気配線に、導線を用いる複線式の車両でも、発電機と蓄電池の間を車体やエンジンの一部を配線用導体として使用する車両でも、導線や接続個所の劣化等による電気抵抗の増加等は当業者が普通に予測しうるものである(5.(3)や(7)等参照)。

ウ.効果に関しても検討する。
本件発明1と引用発明は、ともに、既設のマイナス供給の電気配線に、「導電率の良い配線材を配線用導体として追加使用」するものである。
そして、本件発明1も本件明細書段落【0003】及び【0004】に「車体の塗装を無理に剥がして使用する鉄材の接点は、接触不良になりやすく、また熱や振動源に近い接点は伸び縮みし使用年数と共に腐食する。最悪は接触不良を招き電装機器の動作不良になる。・・・使用年数と共に、不調になっていくのが一般的であり、性能自体が劣化していると思われている。・・・古い車に於いては、より初期性能に近くする。」と記載されるように、旧車における追加の配線を含むものである。
そうすると、本件発明1の効果は、引用発明と同じく、「導電率の良い配線材を配線用導体として追加使用」することから派生する効果であるといえ、その効果は当業者が予測しうる範囲であるといえる。
引用発明の、電圧降下を抑え、電気を流しやすくして、バッテリー電圧を確保し、センサー類を誤作動させる恐れを防止し、アイドリングをより安定させ、中低速のトルクアップさせ、燃費を向上させ、コンピュータのアース不良のトラブルを防ぎ、電圧の上昇・安定がなされ、確実なアースがなされる効果及びエンジンのアイドリングや低回転域での不調を解消する効果、本件発明1の始動時のかかりが良くなる、エアコン投入時の減速感が少なくなる、メーター類の動作が速くなる、加速、減速がより正確で反応が速くなる、ラジオのノイズが減少する、カーステレオの音質が向上する、ライトが明るくなる、速度制限の無い車に於いては最高速度が上がる等の効果及び電装品に供給される電圧の上昇・確保によるエンジン制御装置の不調の解消やそれに伴う排気ガスの正常化、エンジン音が静かになる、オートマチック車の変速ショックが柔らかくなる等の効果は、ともに「追加配線」されることによってもたらされる効果であって、本件発明1の効果は当業者が予測しうるものである。
さらに、引用発明は、既設のマイナス線に、新たに銅線を追加して配線を増やすものであるから、本件発明1の「現在使用されている車に特別な改造を必要とせず、配線材を追加するだけ」である、「費用が安価であること、安全性に支障を及ぼさないこと、電気の知識が少し有れば誰にでも出来る」(段落【0010】)等の効果を有していることも当業者に明らかである。
なお、本件発明1は「発電機と蓄電池の間」のみに係るマイナス供給の電気配線方法であるから、電子機器間の電位差が少なくなることによる正確なエンジン制御とは直接関連があるとはいえず、上記のように電圧が確保されることによる限度で、本件発明1の効果が認められるものである。

(2)本件発明2について
請求項2は、請求項1を引用したものであり、本件発明2は請求項1の記載事項を含むから、本件発明2と引用発明を対比すると、本件発明1と同様に、後者の「1986年製BMW635CSi」は前者の「車両」に対応する。また、後者の「オルタネータ」は前者の「発電機」に相当し、以下同様に、後者の「バッテリー」は前者の「蓄電池」に、後者の「ボディ」は前者の「車体」に、後者の「シリンダーブロック」と「シリンダーヘッド」は前者の「エンジンの一部」に、後者の「銅線」は前者の「導電率の良い配線材」にそれぞれ相当する。
また、2.で考察した「追加使用」の意味を考慮すると、後者の「マイナス線に係る電気配線の方法」は、前者の「マイナス供給の電気配線方法」に相当し、後者の「バッテリーの-端子とオルタネータのリアハウジングを、・・・新たに銅線を追加して、強化配線すること」は、前者の「導電率の良い配線材を配線用導体として追加使用して行う」ことに相当する。そして、後者の「既設のマイナス線」による「マイナス線に係る電気配線」と前者の「発電機と蓄電池の間を車体やエンジンの一部を配線用導体として使用する」「マイナス供給の電気配線」とは、ともに、従来の、既設のマイナス供給の電気配線といえ、「導電率の良い配線材を配線用導体として追加使用」する前の車両には既設のマイナス供給の電気配線が設けられている点でも共通している。
さらに、上記に加え、後者の「シリンターヘッド後方のコンピュータ」は前者の「電子機器」に、後者の「プラグ」は前者の「スパークプラグ」に、後者の「プラグ、プラグコード、ディストリビュータ」は前者の「高圧発生装置」の一部に、後者の「シリンダーブロック」と「シリンダーヘッド」は前者の「エンジンの一部」にそれぞれ相当し、後者の「ボディ」は前者の「車両」に相当する。
そして、2.で考察した「追加使用」の意味を考慮すると、後者の「バッテリーの-端子からの既設のマイナス線」と前者の「蓄電池からエンジン制御用電子機器やイグナイター及びスパークプラグまでの高圧発生装置マイナス供給用配線」において使用される「車両やエンジンの一部を配線用導体」とは、ともに蓄電池からの既設のマイナス供給の電気配線であり、「導電率の良い配線材を配線用導体として追加使用」する前の車両には既設のマイナス供給の電気配線が設けられている点でも共通している。また、後者の「バッテリーの-端子からボディアース及びバッテリーの-端子からシリンダーブロックとシリンダーヘッドの2箇所に新たに銅線を追加して強化配線し、さらにシリンターヘッド後方のコンピュータにつながるマイナス端子とシリンダーブロックを新たに銅線を追加するマイナス線でつないで強化配線」することと、前者の「蓄電池からエンジン制御用電子機器やイグナイター及びスパークプラグまでの高圧発生装置マイナス供給用配線を、・・・導電率の良い配線材を配線用導体として追加使用して行うこと」とは、蓄電池からのマイナス供給用配線を、従来の、既設のマイナス供給の電気配線に加えて、導電率の良い配線材を配線用導体として追加使用する点で共通している。
したがって、本件発明2と引用発明とは、
「車両のマイナス供給の電気配線方法で、発電機と蓄電池の間を、既設のマイナス供給の電気配線を使用するとともに、導電率の良い配線材を配線用導体として追加使用して行う電気配線方法であって、
車両に於いて、蓄電池からのマイナス供給用配線を、既設のマイナス供給用配線を使用するとともに、導電率の良い配線材を配線用導体として追加使用して行う電気配線方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点A:車両の種類(車種)について、本件発明2では「ガソリンエンジンを使用する車両」としか特定していないのに対し、引用発明は「1986年製BMW635CSi」である点。
相違点B:導電率の良い配線材を配線用導体として追加使用する車両が、本件発明2では、発電機と蓄電池の間の配線を車体やエンジンの一部を配線用導体として使用する車両であるのに対し、引用発明では、いかなる車両であるのか不明である点。
相違点C:導電率の良い配線材を配線用導体として追加使用する車両が、本件発明2では、蓄電池からエンジン制御用電子機器及び蓄電池からイグナイター及びスパークプラグまでの高圧発生装置へのマイナス供給用配線を、車両やエンジンの一部を配線用導体として使用する車両であるのに対し、引用発明では、いかなる車両であるのか不明である点。

そこで、上記相違点につき検討する。
ア.相違点Aについて
上記(1)ア.で述べたと同様に、引用発明2は特定の車種に限らず、その他の旧車にも適用することが示唆されており、「ガソリンエンジンを使用する車両」も、発電機と蓄電池の間に既設のマイナス供給の電気配線を有するとともに、蓄電池からもマイナス供給用配線を有している車両であるから、上記示唆に基づいて、車種に関して、特定の車種に限らない、ガソリンエンジンを使用する車両(車種)を「追加使用」する車両として選択することに格別の困難性は認められない。

イ.相違点Bについて
上記(1)イ.で述べたように、引用発明2は、広く″エイティーズ・カー″オーナーに勧められる、旧車に関する配線チューンであり、発電機と蓄電池の間の既設のマイナス供給の電気配線を有する車両として、従来周知の車体やエンジンの一部を配線用導体として使用する車両を選択することに格別の困難性が認められない。

ウ.相違点Cについて
「エンジン制御用電子機器やイグナイター及びスパークプラグまでの高圧発生装置」を有し、蓄電池からエンジン制御用電子機器へのマイナス供給用配線及び蓄電池からイグナイター及びスパークプラグまでの高圧発生装置へのマイナス供給用配線が設けられている「ガソリンエンジンを使用する車両」も周知である。そして、引用発明も、本件発明2も、既設のマイナス供給用配線に、導電率の良い配線材を配線用導体として「追加使用」することに意義を有するところ、上記イ.で述べたように、既設のマイナス供給用配線を有する車両として、従来周知の、上記のような機器へのマイナス供給用配線を有するガソリンエンジンを使用する車両を選択することも、当業者が容易に想定し得たことといえる。
さらに、引用発明は、マイナス供給用配線について、相違点Bに係る発電機と蓄電池の間のみならず、蓄電池からの配線についても強化配線するものであって、「追加使用」するものといえ、その具体的配線先として、ボディアース、シリンダーブロックとシリンダーヘッドが提示されるとともに、シリンターヘッド後方のコンピュータにつながるマイナス端子とシリンダーブロックの間をマイナス線でつなぐことも提示されている。そしてそのことにより、電圧降下を抑え、電気を流しやすくして、バッテリー電圧を確保し、センサー類を誤作動させる恐れを防止し、アイドリングをより安定させ、中低速のトルクアップさせ、燃費を向上させ、コンピュータのアース不良のトラブルを防いでいるのであるから、これらのことからも、上記周知の車両を選択する際し、蓄電池からの上記各機器への既設のマイナス供給用配線に対して、導電率の良い配線材を配線用導体として「追加使用」することに格別の困難性が認められない。
なお、甲第1号証には、「プラグ、プラグコード、ディストリビュータの交換で電装系をリフレッシュ」と高圧発生装置に関する電装系に注目することも示唆されることからも、既設の「イグナイター及びスパークプラグまでの高圧発生装置マイナス供給用配線」について、導電率の良い配線材を配線用導体として追加使用することに困難性はない。また、引用発明は、バッテリーの-端子からボディアース及びバッテリーの-端子からシリンダーブロックとシリンダーヘッドの2箇所に強化配線することが記載されているから、バッテリーの-端子からスパークプラグへのマイナス供給用配線の少なくとも一部は強化配線されているといえ、その限りにおいて本件発明2と差異はない。
さらに、甲第1号証には、バッテリーの-端子からボディアース及びシリンダーブロックとへの強化配線に加え、「さらにシリンターヘッド後方のコンピュータにつながるマイナス端子とシリンダーブロックをマイナス線でつな」ぐことも記載されているのであって、バッテリー電圧を確保するのに加えて、アース不良をのがれること、また、5.(5)には「静電気がセンサー類を誤作動させる恐れ」をも考慮することが記載されているから、このことからも、既設のエンジン制御用電子機器のマイナス供給用配線に、導電率の良い配線材を配線用導体として追加使用することにも困難性はない。また、引用発明は、コンピュータにつながるマイナス端子へのマイナス供給配線の少なくとも一部は、導電率の良い配線材を配線用導体として追加使用して行うものであるといえ、その限りにおいて本件発明2と差異はない。
効果について、上記(1)ウ.で述べたことに加え、引用発明には、さらにバッテリー電圧を確保し、アース不良を防ぎ、静電気がセンサー類を誤作動させる恐れを防止することが記載されているから、当業者にであれば、マイナス供給配線の抵抗値を下げ、アース電位を安定させ、正確なエンジン制御することも期待し得るものといえる。

(3)被請求人の主張に対して
ア.甲第1号証について〔4.(1)について〕
被請求人は、甲第1号証には特定の車種の中古車のための更生方法が記載されるのみである旨主張し、また、マイナス配線だけを取り出して本件特許発明と比較することは理解しがたいと主張する。
そもそも本件発明1は、車両が旧車であることを除外しておらず、車両が新車を含むものであるといっても、旧車を含んでいる点で相違しないから、上記被請求人の主張は根拠がない。
さらに、本件特許明細書の段落【0003】に「また熱や振動源に近い接点は伸び縮みし使用年数と共に腐食する。・・・また動作不良にならないまでも、使用するごとに調子が変わる、使用年数と共に、不調になっていくのが一般的であり、性能自体が劣化していると思われている。」、段落【0004】に「古い車に於いては、より初期性能に近くする。」及び段落【0010】に「使用年数とともに規制排気ガスが徐々に増える現象は、媒体自体の経年変化ではなく電気が流れにくくなったために起こるエンジン不調であり、配線を追加する事で新車時の規定値に近くなったり、規定値以下になる車種もある。」と記載されるように、本件発明1においても古い車への適用を含むものである。
一方、甲第1号証にはマイナス配線に関する配線チューンのみならず、他の作業も行うことも記載されている。しかし、甲第1号証における配線チューンは、冷却水の総入れ換えとサーモスタット、ラジエータキャップの交換で水周りを改善し、プラグ、プラグコード、ディストリビュータの交換で電装系をリフレッシュしても完璧には直らない症状に対応するものではあるものの、これら他の作業を前提とするものではない。
そうすると、マイナス配線の配線チューンの追加に着目して引用発明を認定することに不具合はない。
したがって、上記被請求人の主張は採用できない。

イ.技術的課題について〔4.(2)ア.及び4.(3)ア.について〕
被請求人は、本件発明1が新車、中古車、ガソリンエンジン車、ディーゼルエンジン車を問わずに適用できる性能改善策であり、本件発明2の場合は新車、中古車を問わずに適用できる性能改善策であって、甲第1号証とはその目的において著しく異なる旨主張する。
しかしながら、本件発明1及び2は甲第1号証に記載の事項である中古車への配線チューンを目的とする電気配線方法を排除するものではなく、かえって中古車への適用を含んでいる。
したがって、上記被請求人の主張は採用できない。

ウ.強化配線図について〔4.(2)イ.(ア)?(ウ)及び4.(3)イ.(ア)について〕
被請求人は強化配線図の意義が明確でないとしているが、甲第1号証の記載全体、特に5.(5)、(11)及び(12)の摘示事項を参酌すると、上記5.でも述べるように、強化配線図の線は、銅線からなるコードを追加して設ける態様を指していると解される。
そして、5.(13)に摘示するようにバッテリーの-端子から、ボディアースを結ぶ線とオルタネータのリアハウジングを結ぶ線が図示されているのであるから、オルタネータ(発電機)とバッテリー(蓄電池)とを追加のマイナス線にて接続することが示されているといえる。
また、被請求人は、本件発明1及び2が、プラス供給電気配線について何ら変更を加えることなく導電率の良い配線材を配線用導体として追加使用するものであり、甲第1号証の強化配線図は、オルタネータ、バッテリーその他の部品等の交換を行うことをその前提とするものである旨主張する。
しかしながら、本件発明1及び2はマイナス供給の電気配線に関する強化配線以外の作業を除外するものではなく、また、甲第1号証において、マイナス線に係る電気配線の方法を抽出することに不都合がないことは上述したとおりである。
被請求人は「発電機と蓄電池の間を車体やエンジンの一部を配線用導体として使用する」ことが記載されていないとも主張しているが、甲第1号証には、既設のマイナス線を備えた車両に対して、新たにマイナス配線を追加して配線を増やす電気配線方法が記載されているといえるのであって、上記(1)ア.及びイ.でも述べたように、既設のマイナス線を備えた車両として、従来周知の「車体やエンジンの一部を配線用導体として使用する」車両に対して引用発明を適用することに格別の困難性はない。
したがって、上記被請求人の各主張は採用できない。

エ.仮に、甲第1号証が発電機と蓄電器をマイナス配線で接続する旨記載してある場合について〔4.(2)イ.(エ)及び4.(3)イ.(イ)について〕
被請求人は甲第1号証にバッテリーのプラス端子からイグニッションコイルのプラス端子にダイレクトにつなぐことが記載されるから、発電機と蓄電器をマイナス配線で接続するとしても、イグニッションONの時のみ流れる電流をアースするためのものと推測され、本件発明1の構成とはその作用効果において著しく異なる旨主張する。
しかしながら、上記(1)ウ.及び(2)ウ.で述べたように、引用発明は、電圧降下を抑え、電気を流しやすくして、バッテリー電圧を確保し、センサー類を誤作動させる恐れを防止し、アイドリングをより安定させ、中低速のトルクアップさせ、燃費を向上させ、コンピュータのアース不良のトラブルを防いでいるのであるから、エンジンの正確な動作という効果も、当業者が予測し得るものである。さらに、引用発明も本件発明1及び2と同じくマイナス供給の配線を「追加使用」するものであるから、その点でその効果が異なるものではない。なお、エンジン運転中はイグニッションスイッチを常時ONするものでもある。
したがって、上記被請求人の主張は採用できない。

オ.〔4.(2)イ.(オ)及び4.(3)イ.(エ)について〕
被請求人は甲第1号証には「導電率のよい配線材の使用が必要である」という趣旨の記載は全く見当たらないと主張する。
しかしながら、甲第1号証には本件発明1及び2と同じ材質である、銅線を用いることが記載されている。したがって、上記被請求人の主張は採用できない。

カ.〔4.(2)ウ.及び4.(3)ウ.について〕
被請求人は、本件発明1及び2は新車の場合にも顕著に生ずる改善点であって、その技術的意義、内容は全く異なっている。エンジンが正確に動作することによる排気ガスCO、HCの減少という効果は甲第1号証に記載されていない旨主張する。
上記ア.で述べたとおり、本件発明1及び2は、車両が旧車であることを除外しておらず、上記本件発明1及び2は新車に適用するものであるとする被請求人の主張は失当である。
また、エンジンが正確に動作することによる排気ガスCO、HCの減少という効果についても、上記(1)ウ.及び(2)ウ.で述べたようにマイナス供給の配線を「追加使用」することに派生することといえ、さらに引用発明は「エンジンのアイドリングや低回転域での不調」についてのことであるから、電圧の上昇・確保、センサ誤動作防止によるエンジン制御装置の不調の解消、排気ガスの正常化についても同様、当業者が予測し得ることといえる。

キ.〔4.(3)イ.(ウ)について〕
被請求人は、蓄電池からエンジン制御用電子機器、イグナイター及びスパークプラグ間の直接のマイナス配線について、シリンダーブロックとシリンダーヘッドは鉄またはアルミ製であり、これが如何に大きな塊になっても導電性の良い材質ではない旨主張する。
しかしながら、引用発明は既設のマイナス線に新たに追加して導電率の良い配線材である銅線を用いるものであって、この点に差異はない。
例え、スパークプラグについて、シリンダーブロックを介することなく強化配線するものであると主張しても、よりその効果を発揮するように、直接配線することは当業者が適宜なし得る設計的事項といえる。
したがって、上記被請求人の主張は採用できない。

ク.本件特許発明の時期について〔4.(4)について〕
被請求人は、本件特許発明の完成は甲第1号証の発売日より以前であると主張する。
進歩性については、特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、特許出願前に日本国内において公然知られた又は実施された発明又は日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたかどうかによって判断されるものであるところ、本件発明1及び2に係る出願は、甲第1号証の発行日より後の出願であるから、上記被請求人の主張は採用できない。

よって、本件発明1及び2は、周知の事項を参酌することにより、引用発明に基いて当業者が容易に想到し得たものというべきである。

7.むすび
したがって、本件請求項1及び2に係る発明は、周知の事項を参酌することにより、甲第1号証に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、本件請求項1及び2に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により被請求人がそれを負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-05-14 
結審通知日 2007-05-22 
審決日 2007-06-04 
出願番号 特願平10-43101
審決分類 P 1 113・ 121- Z (B60R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 粟津 憲一大島 祥吾  
特許庁審判長 藤井 俊明
特許庁審判官 平上 悦司
柴沼 雅樹
登録日 2002-04-12 
登録番号 特許第3296418号(P3296418)
発明の名称 自動車の電気回路用配線材を追加する事による性能改善方法  
代理人 中谷 武嗣  
代理人 古川 勞  
代理人 田中 昭雄  
代理人 小川原 優之  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ