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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02G
管理番号 1182269
審判番号 不服2006-14369  
総通号数 105 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-07-06 
確定日 2008-08-07 
事件の表示 平成11年特許願第176359号「常温収縮型ゴムユニット」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 1月12日出願公開、特開2001- 8353〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成11年6月23日の出願であって、平成18年5月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年8月4日付けで手続補正がなされたものである。

II.平成18年8月4日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年8月4日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
本件補正は、補正前(平成18年4月26日付け手続補正書)の特許請求の範囲請求項1の記載:
「【請求項1】予め工場で拡径保持部材上に拡径支持された高圧用電力ケーブルに使用される常温収縮型ゴムユニットであって、
ケーブル接続部に取り付けたとき、ケーブル絶縁体との接触面の面圧が0.67kgf/cm^(2) 以上となるように形成され、
加硫前に液状であり、ケーブル絶縁体との接触面の面圧の低下率が、使用30年間で40%以下であるシリコーンゴムで形成されている
ことを特徴とする常温収縮型ゴムユニット。」を、
「【請求項1】予め工場で拡径保持部材上に拡径支持し、現場で拡径保持部材を取り除き高圧用電力ケーブルの接続部に装着して使用される常温収縮型ゴムユニットであって、
ケーブル接続部に取り付けたとき、ケーブル絶縁体との接触面の面圧が0.67kgf/cm^(2) 以上となるように形成され、
加硫前に液状であり、ケーブル絶縁体との接触面の面圧の低下率が、使用30年間で40%以下であるシリコーンゴムで形成されている
ことを特徴とする常温収縮型ゴムユニット。」(下線部は、補正箇所を示す。)
と補正するものである。

2.独立特許要件についての検討
特許請求の範囲請求項1についての上記の補正は、常温収縮型ゴムユニットの用途を限定する「高圧用電力ケーブルに使用される」という記載を、「現場で拡径保持部材を取り除き高圧用電力ケーブルの接続部に装着して使用される」と補正して、その使用形態をさらに具体的に限定するものであるから、平成18年改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2-1.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物は下記のとおりである。

刊行物1:国際公開第97/08801号
刊行物2:Willems H., Geene H.,Vermeulen M.、「A new generation of HV and EHV extruded cable systems」、Jicable'95(4th International Conference on Insulated Power Cables) 、フランス、1995年、p.28-33
刊行物3:近藤 泰吉、外4名、「6.6kV 常温収縮式耐塩害シリコーン端末の開発」、平成10年電気学会全国大会、1998年、p.7-66,7-67

(1)上記刊行物1には、「シリコーン継手カバー」に関する発明が記載されており、日本語に訳すと、次の事項が図面とともに記載されている。
(1a)継手カバーについて(第6頁10行?17行、第1図)
「図1は、部分断面を示すために部分的に切り取った本発明の継手カバーの斜視図である。これに示されているとおり、継手カバー10は、半導電外部遮蔽層11、絶縁中間層12および内部継手電極13の3層を有する単体物品である。物品は、中心本体14、伸張した末端シール16で閉じられた末端で対向する2つのジオメトリックコーン15を有している。継手カバーは、主としてポリエチレンまたはポリプロピレンから形成された支持コア17により放射状に延伸された状態を保持している。本実施形態のコアには手動ハンドル18があり、これをつかんで引くとコアを除去することができる。」

(1b)継手カバーの用途について(第7頁4行?7行)
「本発明の継手カバーは、中圧および高圧電気ケーブルにおける電気接合部を保護するのに有用な多層単体物品である。カバーは、内部電極、絶縁中間層および半導電外部遮蔽層の3枚の層を含む。」

(1c)シリコーンエラストマーについて(第7頁8行?20行)
「すべての層は、ケーブル接続部または端子部において放射状に膨張して、緩和するのに充分な弾性を有するシリコーンエラストマーからできている。本発明の継手カバーに有用な導電性シリコーンエラストマーには、最小引裂強さが少なくとも20N/mm、好ましくは少なくとも30N/mm、そして伸びが少なくとも400%、好ましくは少なくとも500%の導電性シリコーンが含まれている。
シリコーンは、通常充填剤が大量に使われているにも関わらず、熱伝導性に乏しい。シリコーンにこのような熱伝導性を与えるために、様々なセラミック材料が充填剤として用いられているが、シリコーンの物理的特性を構成するには、このような高レベルの充填剤が必要とされる。
熱伝導性シリコーンは、液体シリコーンまたはゴムシリコーンであってもよい。コンパウンディングの容易さおよび取扱い性の面からゴムシリコーンが好ましい。」

(1d)剛性コアについて(第9頁27行?第10頁1行)
「本発明の継手は、除去可能な剛性コア上に放射性に膨張した、または伸ばされた状態で提供される。従来のどのような型のコアも使用できるが、本発明において好ましくは、米国特許第3,515,798号、第4,871,599号および第4,934,227号および第4,503,105号またはドイツ特許明細書3715915に開示されるような螺旋コイルまたは連続コイルの形態の剛性円筒コアが用いられる。」

(1e)継手の寿命について(第10頁15行?25行)
「本発明の継手は、少なくとも約20年と寿命が長い。長期の信頼性は、物品の設計と、これら材料の長期安定性との組み合わせによるものである。ケーブルのジオメトリーにより、破壊と熱的暴走の危険を低くして効果的な応力制御を行うことができる。ケーブル絶縁体と継手絶縁体の間に一体界面を維持するのが重要である。本発明の継手カバーは、200%?250%の膨張で保管することができ、長年にわたって20%膨張する。取付けに継手の加熱は必要ないため、その直後に接続を行うことができる。通常よく使われる約-20℃?約130℃の温度範囲で、湿気や降水に対してシーリングが損傷することなく、電気的特性が得られる。」

(2)上記刊行物2には、日本語に訳すと、次の事項が図面とともに記載されている。
(2a)クリック・フィット ジョイントについて(第29頁左欄下から5行?3行、Figure3)
「特許されたクリックフィット・ジョイントは、ゴムのストレスコントロール体、ゴムの絶縁体を備えたプレハブ・ジョイントであり、端末処理された両方のケーブル終端が挿入される。」

(2b)接触面圧について(第32頁左欄12行?末行、Figure13,14)
「オイルを用いない界面の特性は、接触面圧を増大させることで改善することができる。・・・・・接触面圧の増大をはかるためには、例えば機械的な支持などいくつかの方法がある。クリックフィット・ジョイントの設計では、このような圧力を得るために、ストレスコーンが調整されている。この方法は、付加的な機構を必要としない。図14に示すように、電界ストレスがかかる部分の界面での圧力は0.3Mpa以上が保たれており、フェイルセーフが働く値である。」

(3)上記刊行物3には、次の事項が図面とともに記載されている。
(3a)シリコーンゴムの応力低下率について(第66頁右欄5行?17行)
「次に端末構成ゴムが長期的に必要な界面面圧を有するかどうかの確認を行った。高分子ゴムの弾性的挙動は温度と密接に関係しており、ゴムの応力緩和特性は次式に示す時間経過加速の経験式(WLF式)で表される。
(式:省略)
上記の経験式を適用すれば長期応力緩和特性を推定することができる。ここで構成ゴムのケーブル取付状態での接触部分温度を65℃とし今回開発したシリコーンゴムの30年後の応力低下率を25%と算出した。」

2-2.対比・判断
上記刊行物1には、半導電外部遮蔽層11、絶縁中間層12および内部継手電極13の3層からなり、除去可能な支持コア17により放射状に延伸された状態を保持している継手カバーが記載されており(上記記載(1a)参照)、この継手カバーは、高圧電気ケーブルにおける電気接合部を保護するために用いられ(上記記載(1b)参照)、取付けに際して加熱の必要はないものである(上記記載(1e)参照)。また、継手カバーの3層は全て充分な弾性を有するシリコーンエラストマーからできており、このようなシリコーンは液体シリコーンであってもよいことが記載されている(上記記載(1c)参照)。
これらの記載からみて、上記刊行物1には、「支持コアに拡径支持し、支持コアを取り除き高圧電気ケーブルにおける電気接合部に装着して使用される常温収縮型継手カバーであって、加硫前に液状であるシリコーンゴムで形成されている常温収縮型継手カバー」に係る発明が実質的に記載されているものと認められる(以下、この発明を「刊行物1記載の発明」という)。

そこで、本願補正発明と上記刊行物1記載の発明とを比較すると、刊行物1記載の発明の「支持コア」、「高圧電気ケーブル」、「電気接合部」、「継手カバー」は、それぞれ本願補正発明の「拡径保持部材」、「高圧用電力ケーブル」、「接続部」、「ゴムユニット」に相当し、かつ、刊行物1記載の発明の「継手カバー」が、工場において予め支持コア上に拡径支持され、現場で支持コアを取り除くものであることは明らかである(上記記載(1d)参照)から、両者は、
「予め工場で拡径保持部材上に拡径支持し、現場で拡径保持部材を取り除き高圧用電力ケーブルの接続部に装着して使用される常温収縮型ゴムユニットであって、加硫前に液状であるシリコーンゴムで形成されている常温収縮型ゴムユニット」である点で一致し、一方、下記の点で相違する。

(相違点1)
本願補正発明においては、常温収縮型ゴムユニットが「ケーブル接続部に取り付けたとき、ケーブル絶縁体との接触面の面圧が0.67kgf/cm^(2) 以上となるように形成され」ているのに対して、刊行物1記載の発明においては、ケーブル絶縁体との接触面の面圧については何も記載されていない点。

(相違点2)
本願補正発明においては、常温収縮型ゴムユニットが「ケーブル絶縁体との接触面の面圧の低下率が、使用30年間で40%以下で」あるシリコーンゴムで形成されているのに対して、刊行物1記載の発明においては、シリコーンゴムのケーブル絶縁体との接触面の面圧の低下率については何も記載されていない点。

上記相違点1について検討するに、プレハブ式のゴムユニットにおいて、ケーブル接続部における絶縁性能を確保するためにゴムユニットとケーブルとの接触面の面圧を大きくすることは、この出願前広く知られている技術的事項であり(例えば、上記刊行物2の記載(2b)、あるいは電気協同研究会編「電気協同研究」、第51巻第1号、平成7年6月8日、(社)電気協同研究会発行、第62頁右欄8行?12行の「基本構造はゴムストレスコーン,エポキシ絶縁体,およびストレスコーン圧縮装置からなり,スプリング力によってゴムストレスコーンとエポキシ絶縁体およびケーブル絶縁体の界面に適切な圧力を与えて絶縁耐力を維持している。」との記載を参照)、刊行物2にはさらに、界面の圧力が0.3Mpa(約3kgf/cm^(2) )以上であればより安全であることが記載されている(上記記載(2b)参照)。
ここで、接触面圧が大きければ大きいほど絶縁性能が確保できるとしても、ゴムの物性や取扱性等を考慮して、絶縁性能が確保できる下限値を求めようとすることは当業者がごく自然に行うことであって、このような値は、接触面圧を変化させてそれぞれの絶縁性能を調べる実験等により容易に得られるものである。
したがって、上記刊行物1記載の発明において、絶縁性能が確保できる下限値を求めるために実験等を行って「0.67kgf/cm^(2) 」という値を見いだし、さらに、ゴムユニットを「ケーブル接続部に取り付けたとき、ケーブル絶縁体との接触面の面圧が0.67kgf/cm^(2) 以上となるように形成」することは、当業者であれば上記の周知事項等を勘案して容易になし得ることであり、また、このような構成を採用した効果も予測される範囲内のものにすぎない。

次に、上記相違点2について検討するに、プレハブ式のゴムユニットにおいて、ケーブル接続部における絶縁性能を確保するためにゴムユニットとケーブルとの接触面の面圧を一定の値以上に維持すべきであることは上述のとおりであり、一方で、このようなゴムユニットは20年あるいはそれ以上の長い寿命を持つように設計されているものであるから(上記記載(1e)参照)、長期にわたってその性能が保たれていることは当然である。
また、刊行物3に記載されているように、このようなゴムユニットが長期的に必要な界面面圧を有するものであるかどうか推定する手法はこの出願前に知られており、シリコーンゴムの30年後の応力低下率についても25%と算出されていることから(上記記載(3a)参照)、刊行物1記載の発明においてもケーブル絶縁体との接触面の面圧の低下率がどの程度であれば実際の使用に耐えられるかという検討も当然行われているものと認められ、「使用30年間で40%以下」という具体的な数値は、実験等により容易に得られるものである。
したがって、上記刊行物1記載の発明において、ゴムユニットを「ケーブル絶縁体との接触面の面圧の低下率が、使用30年間で40%以下であるシリコーンゴムで形成」することは、当業者であれば上記の周知事項等を勘案して容易になし得ることであり、また、このような構成を採用した効果も予測される範囲内のものにすぎない。

請求人は意見書及び審判請求書において、刊行物2記載のものはプレハブ型ジョイントに関し本願発明とは対象が全く相違するものであるから、刊行物2に記載された界面圧力の値から本願発明の常温収縮型ゴムユニットにおける嵌合面圧を導くことはできない旨主張しているが、刊行物2記載のジョイントも、本願発明あるいは刊行物1記載の発明と同じくケーブル接合部に用いられるものであって、接合部におけるケーブル絶縁体との接触面の面圧が絶縁性能と密接な関係がある点では共通するものであり、その問題点や解決方法についても共通するものであるから、請求人の上記の主張は採用することができない。

以上のとおりであるから、本願補正発明は、刊行物1ないし3に記載された発明、及びこの出願の出願日前周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2-3.むすび
したがって、本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

III.本願発明について
1.本願発明
平成18年8月4日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という)は、平成18年4月26日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】予め工場で拡径保持部材上に拡径支持された高圧用電力ケーブルに使用される常温収縮型ゴムユニットであって、
ケーブル接続部に取り付けたとき、ケーブル絶縁体との接触面の面圧が0.67kgf/cm^(2) 以上となるように形成され、
加硫前に液状であり、ケーブル絶縁体との接触面の面圧の低下率が、使用30年間で40%以下であるシリコーンゴムで形成されている
ことを特徴とする常温収縮型ゴムユニット。」

2.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物およびその記載事項は、前記II.2.2-1.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は前記II.2.2-2.で検討した本願補正発明から、「常温収縮型ゴムユニット」を高圧用電力ケーブルに使用する際の使用形態を具体的に限定した「現場で拡径保持部材を取り除き高圧用電力ケーブルの接続部に装着して」という構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記II.2.2-2.において検討したとおり、刊行物1ないし3に記載された発明及びこの出願の出願日前周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであることから、本願発明も同様の理由により、刊行物1ないし3に記載された発明及びこの出願の出願日前周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、本願出願日前に頒布された上記刊行物1ないし3に記載された発明及び本願出願日前周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-03 
結審通知日 2008-06-10 
審決日 2008-06-23 
出願番号 特願平11-176359
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H02G)
P 1 8・ 121- Z (H02G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大塚 良平北嶋 賢二  
特許庁審判長 高橋 泰史
特許庁審判官 後藤 時男
門田 宏
発明の名称 常温収縮型ゴムユニット  
代理人 長澤 俊一郎  

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