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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1182286
審判番号 不服2006-26393  
総通号数 105 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-24 
確定日 2008-08-07 
事件の表示 特願2001-322927「金属分散炭素膜構造体、燃料電池用電極、電極接合体、及び燃料電池」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 5月 9日出願公開、特開2003-132900〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件審判に係る出願は、平成13年10月22日に出願されたもので、平成18年3月9日付け拒絶理由通知書が送付され、願書に添付した明細書又は図面についての同年5月2日付け手続補正書が提出されたものの、同年10月6日付けで拒絶査定されたものである。
そして、本件審判は、この拒絶査定を不服として平成18年11月24日付けで請求されたもので、同年12月19日付け手続補正によって補正された審判請求書が提出されている。

2.原査定
原査定の拒絶理由の1つは、大凡、次のとおりのものである。
本願の請求項1、3-6に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記刊行物1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1;特開2001-151834号公報

3.当審の判断

3-1.本件の発明
本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、平成18年5月2日付け手続補正書により補正された請求項1に記載の事項により特定されるものであって、同項の記載は、以下のとおりのものと認める。

「微細な連通孔を有する多孔質構造を持ち、平均孔径が0.05?10μmで空孔率が25?85%および黒鉛化率が30%以上である炭素膜構造体に、少なくとも1種類の金属ないし合金の微粒子が分散した構造体からなる金属分散炭素膜構造体。」

3-2.刊行物の記載及び引用発明

1)原査定の拒絶理由にある刊行物1の特開2001-151834号公報(以下、「引用刊行物」という。)には、以下の記載が認められる。

ア;「この多孔質構造体を焼成すると、ミクロ相分離構造が転写された多孔質カーボン電極を得ることができる。ミクロ相分離構造がシリンダー構造、ラメラ構造、バイコンティニュアス構造の場合には、連続気孔を含む多孔質カーボン電極が得られる。このような多孔質カーボン電極は、リチウムイオン二次電池のカーボン負極、燃料電池用電極、電気二重層キャパシタ用電極などに好適に用いられる。」(【0247】)
イ;「多孔質構造体体の焼成温度はリチウムイオン二次電池用の負極の場合には500?1500℃、燃料電池用電極や電気二重層キャパシタ用電極の場合には800?3000℃である。多孔質電極の導電性を向上させるためには、2000?3000℃で焼成してグラファイト化を進めることが好ましい。」(【0249】)
ウ;「本発明の多孔質カーボン電極を直接メタノール型の燃料電池する例について説明する。直接メタノール型の燃料電池においては、メタノール浸透層、メタノール気化層、触媒層からなる三層構造のカーボン電極が用いられ、しかも各層のカーボン電極で最適な空孔径が異なる。・・・図7に直接メタノール型燃料電池の概念図を示す。図7に示すように、アノード(燃料ガス)側はそれぞれ多孔質のアノード触媒電極11、燃料気化層12および燃料浸透層13からなる多層構造となっており、カソード(液体燃料)側はそれぞれ多孔質のカソード触媒電極14および保水ガスチャンネル15が積層され、アノード触媒電極11とカソード触媒電極14との間にプロトン伝導体からなる電解質膜16が挟まれている。・・・アノード触媒電極11およびカソード触媒電極14の空孔径は10?100nmに設定することが好ましい。・・・いずれの層でも空孔率は60%以上、さらに70%以上であることが好ましい。・・・アノード触媒電極にはPt微粒子など、カソード触媒電極にはRu微粒子などの貴金属微粒子を担持させる。」(【0257】-【0260】)
エ;「ジブロックコポリマーA・・・の10%溶液をテフロンシャーレに入れ、デシケーター内で9日間かけて乾燥してフィルムを作製した。ジブロックコポリマーA溶液には塩化白金酸と塩化ルテニウムを添加した(Pt:Ru=1:1)。・・・ジブロックコポリマーA膜をホルマリンで処理してPtおよびRu微粒子を生成させた。・・・ジブロックコポリマーA膜、ジブロックコポリマーB膜、および多孔質ポリイミド膜を積層して圧着した。この積層膜を空気中において150℃で2時間、200℃で12時間、さらにアルゴン気流下において500℃で1時間、1200℃で1時間加熱処理した。試料の断面をTEM観察したところ、それぞれ空孔径が約20nm、40nm、0.1?0.5μmの三層の多孔質カーボン積層膜が形成されていた。・・・メタノール燃料極となる三層の多孔質カーボン積層膜のうち空孔径20nmの多孔質層上に厚さ50μmのナフィオン117(デュポン社製)からなる電解質膜を製膜した後、空気極となるPt分散多孔質膜を積層することにより、厚さ0.1mmという薄型の直接メタノール型燃料電池セルを作製した。」(【0495】-【0499】)

2)引用刊行物には、記載アによれば、多孔質構造体を焼成して得ることができる、連続気孔を含む多孔質カーボン電極が記載されており、また、多孔質カーボン電極は、燃料電池用電極に用いられることが記載されている。そして、記載ウには、燃料電池用の多孔質カーボン電極の触媒層として、空孔径が10?100nmで空孔率は60%以上であるアノード触媒電極が記載されており、さらに、アノード触媒電極には貴金属微粒子が担持されていることが記載されている。また、記載エによれば、アノード触媒電極となるジブロックコポリマーA溶液に、塩化白金酸と塩化ルテニウムを添加し、ホルマリンで処理してPtおよびRu微粒子を生成させるのであるから、アノード触媒電極には上記貴金属微粒子が分散されて担持されているといえる。

してみると、引用刊行物には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「連続気孔を含む多孔質構造を持ち、空孔径が10?100nmで空孔率が60%以上であるカーボン電極の触媒層に、貴金属微粒子を分散させた構造体からなるカーボン電極の触媒層。」

3-3.対比判断

1)引用発明は、「カーボン電極の触媒層」の発明であるが、材質及び形状に着目すると、「カーボン」は「炭素」といえるし、「層」は「膜」といえるから、「炭素膜構造体」の発明としても把握できる。そして、引用発明と本件発明とを対比すると、引用発明の「連続気孔」、「空孔径」及び「貴金属微粒子」は、本件発明の「連通孔」、「平均孔径」及び「少なくとも1種類の金属ないし合金の微粒子」に相当する。また、炭素膜構造体の平均孔径に関して、引用発明の「10?100nm」は、換算すると「0.01?0.1μm」であるから、上限値である0.1μmが、少なくとも本件発明の「0.05?10μm」に含まれており、さらに、炭素膜構造体の空孔率に関して、引用発明の「60%以上」は、下限値である60%が、少なくとも本件発明の「25?85%」に含まれる。そして、引用発明の「連続気孔」は、空孔径が10?100nmであるから、「微細」といえる。
そうすると、本件発明と引用発明は、
「微細な連通孔を有する多孔質構造を持ち、平均孔径が0.05?10μmで空孔率が25?85%である炭素膜構造体に、少なくとも1種類の金属ないし合金の微粒子が分散した構造体からなる金属分散炭素膜構造体。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点:本件発明は、炭素膜構造体の黒鉛化率が30%以上であるのに対して、引用発明は、炭素膜構造体の黒鉛化率が不明である点

2)相違点について、検討する。
引用刊行物の記載イによると、引用刊行物には、燃料電池用電極の場合、多孔質電極(炭素膜構造体)の導電性を向上させるためには、2000?3000℃で焼成してグラファイト(黒鉛)化を進めることが好ましいことが記載されているといえるから、燃料電池用電極に炭素膜構造体を用いる引用発明において、炭素膜構造体の導電性を向上させるため、炭素膜構造体の黒鉛化を進めて、適宜な黒鉛化率とすることは、当業者が容易に為し得たことといえる。そして、炭素膜構造体の黒鉛化率を30%以上にすることによる、格別な効果を見いだすことはできないから、引用発明において、炭素膜構造体の黒鉛化率を30%以上とする点も、単なる設計的事項といえる。

3)以上、述べたことから、本件発明は、引用発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。

3-4.まとめ
本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきでものである。

4.結び
原査定は、妥当である。
したがって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-05 
結審通知日 2008-06-10 
審決日 2008-06-23 
出願番号 特願2001-322927(P2001-322927)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前田 寛之  
特許庁審判長 鈴木 由紀夫
特許庁審判官 吉水 純子
坂本 薫昭
発明の名称 金属分散炭素膜構造体、燃料電池用電極、電極接合体、及び燃料電池  
代理人 千且 和也  
代理人 伊丹 勝  

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