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審決分類 |
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G11B 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G11B |
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管理番号 | 1182403 |
審判番号 | 不服2005-23495 |
総通号数 | 105 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-09-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-12-06 |
確定日 | 2008-08-06 |
事件の表示 | 特願2002- 101「垂直磁気記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 8月 2日出願公開、特開2002-216341〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯、本願発明 本願は、平成14年1月4日の出願(パリ条約による優先権主張2001年1月4日、韓国)であって、平成17年8月11日付けで手続補正がなされ、その後平成17月8月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年12月6日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、平成18年1月5日付けで手続補正がなされたものである。 第2 平成18年1月5日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)について [補正却下の決定の結論] 平成18年1月5日付け手続補正を却下する。 [理由] 1 本件補正 本件補正は、段落34、36、43について、 (ア)【0034】を「<実施例5> ガラス基板上にニッケル-鉄(NiFe)系軟磁性層を400nmの層厚で形成した後、チタン(Ti)下地層を5nmの層厚で形成し、白金(Pt)垂直補強層を15nmの層厚に蒸着した以外は、実施例1の方法と同様にして2層構造の垂直磁気記録(PMR)ディスクを製造した。」 (イ)【0036】を「<実施例7> 厚さ0.635mmのガラス基板上にニッケル-鉄(NiFe)系軟磁性層を10nmの層厚で形成し、白金(Pt)垂直補強層を15nmの層厚で形成した以外は、実施例6の方法と同様にして擬似2層構造の垂直磁気記録(PMR)ディスクを製造した。」 (ウ)【0043】を「<比較例3> 厚さ0.635mmのガラス基板上にチタン(Ti)下地層を40nmの層厚で設けた以外は、比較例1の方法と同様にして垂直磁気記録(PMR)ディスクを製造した。」 と補正するものである。 本件補正の、(ア)(イ)の「白金(Pt)垂直補強層」が「15nm」の層厚である構成は、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載されていない。 請求人は、請求項1や段落22の「15nm以上」という記載を根拠に、当初明細書等の「10nm」の記載が誤記であって「15nm」とすべきことは自ずと明らかな事項であると主張している。 しかしながら、当初明細書等の「10nm」の記載が請求項1や段落22の記載と矛盾しているからといって、実施例5や7の白金(Pt)垂直補強層の層厚が15nmの誤記であったことは自明ではない。即ち、請求項1や段落22の内容が間違いである場合や、実施例5や7のPtの層厚が15nm以外の層厚である可能性があるからである。 本件補正の、(ウ)の「下地層」が「チタン(Ti)下地層」である構成は、当初明細書等に記載されていない。当初明細書等には、「チタン(Ti)下地層の代わりに白金(Pt)下地層を40nmの層厚で設けた」と記載されているのみである。 請求人は、当初明細書の「白金(Pt)下地層」は誤記であって、<比較例3>が比較例であるためには、従来例として当初明細書に記載された「チタン(Ti)下地層」であることが自ずと明らかな事項であると主張している。 しかしながら、当初明細書等の「白金(Pt)下地層」の記載が比較例の記載としては請求項の記載と矛盾しているからといって、下地層が本来「チタン(Ti)下地層」の誤記であったことは自明ではない。 よって、本件補正の、(ア)(イ)の「白金(Pt)垂直補強層」が「15nm」の層厚である構成、及び(ウ)の「下地層」が「チタン(Ti)下地層」である構成は、当初明細書等に記載した事項の範囲内であるということはできない。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明 1 本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成17年8月11日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】基板と垂直磁気記録層との間に、垂直磁気記録層の垂直配向性を高めるための垂直配向特性低下防止層が15?50nmの層厚にて設けられたことを特徴とする垂直磁気記録媒体。」 2 引用例 (1)原審の拒絶理由で引用した特開平7-334832号公報(以下「引用例1」という。)には、「垂直磁気記録媒体及び磁気記録装置」に関し、次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与したものである。) (ア)「【請求項5】単結晶からなる基板と、該基板上に形成された下地膜と、該下地膜上に形成されたCoまたはCoを主成分とする合金からなる垂直磁化膜と、該垂直磁化膜上に形成された保護膜とからなる垂直磁気記録媒体であって、前記下地膜が前記基板上に、前記垂直磁化膜が前記基板面に対して垂直な磁化容易軸をもつように前記下地膜上にエピタキシャル成長していることを特徴とする垂直磁気記録媒体。 【請求項9】請求項5に記載の垂直磁気記録媒体において、前記下地膜の前記基板面に平行な膜面内の最近接原子間距離(a(下地膜)とする)と、前記垂直磁化膜の前記基板面に平行な膜面内の最近接原子間距離(a(垂直磁化膜)とする)とが、 |a(垂直磁化膜)-a(下地膜)|/a(下地膜)≦0.25 の関係を満足することを特徴とする垂直磁気記録媒体。 【請求項24】請求項5から12のいずれかに記載の垂直磁気記録媒体において、前記下地膜は面心立方構造を有する材料からなり、Ag、Al、Au、Co、Cu、Ir、Ni、Pd、Pt、Rh、及びこれらの元素を主成分とする合金、からなる群から選ばれた少なくとも一種の材料で構成され、前記下地膜の配向方位が<111>であることを特徴とする垂直磁気記録媒体。」(特許請求の範囲の請求項5、9、24) (イ)「【0019】本発明の垂直磁気記録媒体の第2の実施形態は、図2に示すように、基板21と、この基板上に設けられた下地膜22と、この下地膜上に設けられた垂直磁化膜23と、この垂直磁化膜上に設けられた保護膜24とからなる垂直磁気記録媒体であって、基板が単結晶であり、垂直磁化膜23が下地膜22上に、また下地膜22が基板21上に、それぞれエピタキシャル成長していることが好ましい。すなわち、下地膜22の各結晶粒に共通な特定の結晶軸が膜面方線方向に揃い、かつこの結晶軸に垂直で、各結晶粒に共通な別の結晶軸が基板面内の一方向に揃い、かつ垂直磁化膜23の各結晶粒に共通な特定の結晶軸が膜面方線方向に揃い、かつこの結晶軸に垂直で、各結晶粒に共通な別の結晶軸が基板面内の一方向に揃っている。」 (ウ)「【0020】第1、第2の実施形態においては、(1)垂直磁化膜12及び23の材料を、CoまたはCoを主成分とする合金とすること、(2)基板の表面は表面粗さRaの値が10nm以下の平坦度を有することが最も好ましく、(3)基板面内の最近接原子間距離(a(基板)とする)と、垂直磁化膜の基板面に平行な膜面内の最近接原子間距離(a(垂直磁化膜)とする)と、下地膜の基板面に平行な膜面内の最近接原子間距離(a(下地膜)とする)とが、第1の実施形態では、 |a(垂直磁化膜)-a(基板)|/a(基板)≧0.005 第2の実施形態では、 |a(下地膜)-a(基板)|/a(基板)≧0.005 の関係をそれぞれ満足すること、が最も好ましい。」 (エ)「【0022】第2の実施形態においては、下地膜の基板面に平行な膜面内の最近接原子間距離(a(下地膜)とする)と、垂直磁化膜の基板面に平行な膜面内の最近接原子間距離(a(垂直磁化膜)とする)とが、 |a(垂直磁化膜)-a(下地膜)|/a(下地膜)≦0.25 の関係を満足することが好ましく、 |a(垂直磁化膜)-a(下地膜)|/a(下地膜)≦0.15 の関係を満足することが最も好ましい。下地膜は、(1)六方最密充填構造を有する材料からなり、Co、Hf、Mg、Os、Re、Ru、Ti、Zn、Zr、及びこれらの元素を主成分とする合金、からなる群より選ばれた少なくとも一種の材料で構成され、前記下地膜の配向方位が〔0001〕であること、または(2)面心立方構造を有する材料からなり、Ag、Al、Au、Co、Cu、Ir、Ni、Pd、Pt、Rh、及びこれらの元素を主成分とする合金、からなる群から選ばれた少なくとも一種の材料で構成され、前記下地膜の配向方位が<111>であること、が最も好ましい。以下に、本発明の代表的な実施例を図面を用いて詳細に説明する。」 (オ)「【0027】〈実施例2〉表面を鏡面研磨した直径0.8インチのMgO単結晶基板(面方位(111)、表面更さ、Ra=1nm)を用い、図5に示すような断面構造を持つ磁気記録媒体を、DCマグネトロンスパッタリング法によって作製した。単結晶基板51の両面に、Cu下地膜52、52’、Co合金磁性膜53、53’、カーボン保護膜54、54’をこの順序で形成する。なお、MgO単結晶基板は、立方晶系のNaCl型結晶構造であり、Cu下地膜は面心立方構造、Co合金磁性膜は六方最密充填構造である。Cu下地膜、Co合金磁性膜、カーボン保護膜の成膜にはアルゴンガスを用い、ガスの圧力0.7Pa、基板温度250℃、成膜速度毎分50nmの条件で形成した。磁性膜の形成に用いるターゲットの組成はCo-12at.%Cr-10at.%Ptとした。各膜の膜厚は、Cu下地膜が20nm、Co合金磁性膜が100nm、カーボン保護膜が10nmとした。上記の膜形成はすべて同一の真空槽内で真空を破ることなく連続して行った。得られたCo合金磁性膜の組成はターゲットの組成とほぼ同じ、CoCr_(12)Pt_(10)であり、最近接原子間距離は0.255nmである。 【0028】作製した試料の結晶配向をX線回折によって、磁気特性を試料振動型磁力計(VSM)を用いてそれぞれ測定した。X線回折では、基板の回折とCuの111回折ピーク、Co合金の0002回折ピークが観測され、Cuが<111>配向、Co合金膜が〔0001〕配向していることがわかった。さらにX線極点図形の測定により、膜面内の結晶方位に関しても強く配向していることがわかった。Co合金の0002回折ピークのロッキング曲線を測定したところ、本実施例の磁気記録媒体は、ガラス基板を用いて全く同様の条件で作製した磁気記録媒体と比較して、ロッキング曲線の半値幅が大きく減少しており、Co合金磁性膜の〔0001〕配向が著しく改善され、膜面垂直方向の保磁力は13.8%向上した、1650(Oe)であった。 【0029】また、上記Cu下地膜に代えて、いずれも面心立方構造をもつAg、Al、Au、Ir、Pd、Pt、Rh、Pt-Rh合金の各下地膜を用いたところ、いずれも上記と同様の改善効果が認められた。さらにいずれも六方最密充填構造をもつHf、Mg、Os、Re、Ru、Ti、Zn、Zr、Ti-Zr合金の各下地膜を用いてもやはり上記と同様の効果があった。これら得られた垂直方向の保磁力の結果を、ロッキング曲線の半値幅データ、下地膜の最近接原子間距離データとともに表2に示す。基板がMgO単結晶基板(面方位(111)である場合には、表2に示した膜面垂直方向の保磁力の大きさから見て、下地材料としてはCu、Ti、Ru、等が、好ましい結果を与えている。表2には、基板面内の最近接原子間距離をa(基板)、垂直磁化膜の膜面内の最近接原子間距離をa(垂直磁化膜)、下地膜の基板面に平行な膜面内の最近接原子間距離をa(下地膜)とするとき、関係式、 100×|a(下地膜)-a(基板)|/a(基板) で表したミスフイット率1、及び 100×|a(垂直磁化膜)-a(下地膜)|/a(下地膜) で表したミスフイット率2、をそれぞれ示す。」 (カ)「【0039】 【発明の効果】本発明を用いれば、単結晶上のエピタキシャル成長により、極めて強い配向性をもち、大きな垂直磁気異方性を示す垂直磁化膜を備えた、高性能の垂直磁気記録媒体を提供することができ、高密度の垂直磁気記録が可能になる。」 3 対比・判断 (1)対比 本願発明と引用例1に記載された発明とを対比する。 引用例1には、特に上記2(イ)(エ)(オ)(下線部参照)に摘示した記載事項によれば、 「基板と、この基板上に設けられた下地膜と、この下地膜上に設けられた垂直磁化膜と、この垂直磁化膜上に設けられた保護膜とからなる垂直磁気記録媒体であって、 下地膜は、面心立方構造を有する材料からなり、Ag、Al、Au、Co、Cu、Ir、Ni、Pd、Pt、Rh、及びこれらの元素を主成分とする合金、からなる群から選ばれた少なくとも一種の材料で構成され、上記下地膜の配向方位が<111>であり、 上記下地膜は、Cu下地膜が膜厚20nmで形成され、またCuに代えAu、Pd、Ptの各下地膜でも形成されてなる、垂直磁気記録媒体。」 の発明が記載されている。 (2) ア. 引用例1に記載された発明の「垂直磁化膜」は、本願発明の「垂直磁気記録層」に相当している。 イ. 引用例1に記載された発明の「下地膜」は、「面心立方構造を有する材料からなり」、Au、Pd、Ptからなる群から選ばれた少なくとも一種の材料で構成されていて、当該下地膜は、垂直磁化膜と、それぞれの最近接原子間距離(a(下地膜)とa(垂直磁化膜))が、所定の範囲内のミスフィットになるよう選択されることにより、垂直配向性の高い垂直磁化膜を得ることができたものである。一方、本願発明の「垂直配向特性低下防止層」は、基板と垂直磁気記録層との間に設けられ、垂直結晶配向特性に優れた金属から構成され、当該金属としてはPt、Au、Pdが列挙され(段落22、28)、垂直磁化膜との結晶格子径の差が、従来のものより小さくなる(段落27等)ように選択したものである。してみれば、引用例1に記載された発明の「下地膜」は、本願発明の「垂直磁気記録層の垂直配向性を高めるための垂直配向特性低下防止層」に実質的に相当している。 ウ. 引用例1に記載された発明の「下地膜」は、具体的には、Cu下地膜が膜厚20nmで形成され、またCuに代えAu、Pd、Ptの各下地膜でも形成されてなるので、Au、Pd、Ptの各下地膜も膜厚20nmで形成されているものと解されるから、本願発明の「垂直配向特性低下防止層が15?50nmの層厚」という特定に含まれる構成を備え、引用例1に記載された発明は、本願発明と、20nmにおいて一致している。 エ. 上記ア.イ.ウ.によれば、引用例1に記載された発明の「垂直磁気記録媒体」は、本願発明の「基板と垂直磁気記録層との間に、垂直磁気記録層の垂直配向性を高めるための垂直配向特性低下防止層が15?50nmの層厚にて設けられたこと」に相当する構成を備えている。 以上のとおりであるから、本願発明は引用例に記載された発明と同一である。 オ. また、本願発明では、「垂直磁気記録層の垂直配向性を高めるための垂直配向特性低下防止層が15?50nmの層厚にて設けられたこと」と特定されているのに対し、引用例1に記載された発明では、層厚の数値範囲をそのように特定されていない点で、一応相違するとしても、上記点は、次の理由により当業者が容易に想到しうることにすぎない。 引用例1にはCu下地膜で層厚20nmにする例示が記載されていることから、Cuに代えAu、Pd、Ptの各下地膜でも20nm近傍の15?50nm程度の厚さで形成することは、当業者が適宜なし得る程度の値にすぎない。また、本願の明細書には、「その層厚は15nm以上であると良い。層厚が15nmより薄くなると、この垂直補強層26の上下に設けられる他の層との安定性が低下するためである。」(段落22)と下限の技術的意義が説明されているが、当業者が各層を形成する際に適宜なし得る程度の事項であり、上限については特に限定されるものではない(段落22)のであるから、上記数値範囲「15?50nmの層厚」の限定に、格別意義があるものではない。 なお、請求人は、平成17年8月11日付け意見書及び請求の理由の手続補正書(方式)において、実験結果のデータを追加して、「15?50nmの層厚」の数値範囲に臨界的意義があることを主張しているが、当初明細書等には上述(段落22)の記載があるのみであって、特に50nmを超える層厚においての臨界的意義に関する主張は、出願後の実験結果に基づくものであって、到底採用できない。もっとも、引用例1に20nmの例示があるのであるから、「15?50nmの層厚」は、先に述べたとおり、当業者が必要に応じ適宜なし得る程度の数値範囲にすぎない。 4 むすび したがって、本願発明は、本願出願前に頒布された引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、また引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。他の請求項を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-03-07 |
結審通知日 | 2008-03-11 |
審決日 | 2008-03-24 |
出願番号 | 特願2002-101(P2002-101) |
審決分類 |
P
1
8・
561-
Z
(G11B)
P 1 8・ 113- Z (G11B) P 1 8・ 121- Z (G11B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 蔵野 雅昭、橘 均憲 |
特許庁審判長 |
小林 秀美 |
特許庁審判官 |
小松 正 吉川 康男 |
発明の名称 | 垂直磁気記録媒体 |
代理人 | 磯野 道造 |