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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 B41M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41M
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B41M
管理番号 1182863
審判番号 不服2007-24689  
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-06 
確定日 2008-08-14 
事件の表示 平成11年特許願第552769号「印画紙」拒絶査定不服審判事件〔平成11年10月28日国際公開、WO99/54146〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年4月16日(優先権主張:平成10年4月17日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成19年4月16日付の拒絶理由通知に対し、同年6月25日付で手続補正がなされ、同年7月31日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年10月9日付で手続補正がなされたものである。

2.平成19年10月9日付の手続補正についての補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年10月9日付の手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
基板上に、可塑剤を有する染料受像層が形成されてなる印画紙において、
上記可塑剤は、0℃?45℃の温度帯域で固体である固体可塑剤と、0℃?45℃の温度帯域で液体である液体可塑剤とを主体とし、
上記可塑剤の上記固体可塑剤と上記液体可塑剤は、1:9?9:1の割合で配合され、
上記可塑剤は、上記染料受像層中に含有される樹脂成分100重量部に対して5?30重量部の範囲で含有されていることを特徴とする印画紙。」
から、
「【請求項1】
基板上に、可塑剤及び増感剤を有する染料受像層が形成されてなる印画紙において、
上記可塑剤は、0℃?45℃の温度帯域で固体である固体可塑剤と、0℃?45℃の温度帯域で液体である液体可塑剤とを主体とし、
上記可塑剤の上記固体可塑剤と上記液体可塑剤は、1:9?9:1の割合で配合され、
上記可塑剤は、上記染料受像層中に含有される樹脂成分100重量部に対して5?30重量部の範囲で含有されていることを特徴とする印画紙。」
と補正された。
上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「染料受像層」について「増感剤」を有する旨の限定を付加するものであって、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された特開平5-201161号公報(拒絶理由の引用例3、以下「刊行物」という。)には、下記の事項が記載されている。

(a)「【請求項1】 シート状支持体と、前記支持体の少なくとも一方の表面上に形成され、かつインクシートから加熱により移行する染料を受容する画像受容層とを有し、前記画像受容層が、(1)アクリロイル基を有するセルロースアセテートブチレート樹脂に活性エネルギー線を照射して得られ、かつ60℃?120℃のガラス転移温度を有する硬化樹脂と、(2)ジシクロヘキシルフタル酸エステル、ジアリルフタル酸エステル、アジピン酸ジオクチルおよび燐酸トリフェニルから選ばれた少なくとも1種からなる可塑剤とを含み、前記可塑剤(2)の含有量が、上記硬化樹脂(1)100重量部に対して5?40重量部であることを特徴とする染料熱転写画像受容シート。」

(b)「【0028】実施例1
150g/m^(2) の上質紙の両面に、各30μmのポリエチレンをラミネートしたものを基材として用い、その片面上に昇華性染料の画像受容層を形成するため、下記組成の画像受容層用塗料1を、固形分で7g/m^(2) の塗布量で塗工乾燥し、さらに、この塗布層に電子線を5Mradの吸収線量になるように照射してこれを硬化させて画像受容層を形成し、染料熱転写画像受容シートを得た。
・・・(中略)・・・
【0035】実施例6
実施例1と同一の方法で画像受容シートを作成し、テストした。但し、塗料1の代りに、下記組成の画像受容層用塗料6を用いた。テスト結果を表1に示す。
画像受容層用塗料6
成 分 重量部
合成例1のアクリロイル基を有するセルロース 100
アセテートブチレート樹脂
ジシクロヘキシルフタル酸エステル 5
ジアリルフタル酸エステル 5
燐酸トリフェニル 5
活性エネルギー線硬化性シリコン 5
(商標:EBECRYL1360、
ダイセルユーシービー社製)
トルエン/MEK=4/1混液 400 」

(c)「【0013】本発明において、活性エネルギー線硬化性樹脂に、特定構造の可塑剤を特定量配合することにより、プリントされた画像の耐光性が向上する理由は未だ明確には判明していないが、下記のように推定される。すなわち、インクシートから転移される染料が、本発明の画像受容層に配合されている可塑剤に溶け込むことによって、着色部が画像受容層の厚さ方向に均一に分布され、染料分布部分の厚さが増大するために、プリント画像が紫外光などで照射されたとき、画像受容層の表面の存在している染料のみが分解されるだけで、画像受容層内部、又は底部に存在する染料は分解されずに残るためと思われる。一方、従来の合成樹脂を主体として形成され画像受容層では、転移された染料は画像受容層の表面部分のみに存在するだけで、画像受容層内部、底部にはほとんど分布していないものと推定される。このため、紫外光をプリント画像に照射した場合には、受容層表面部分の染料が分解するためプリント画像の耐光性が低いものと考えられる。しかし、本発明に用いられる特定の可塑剤を、特定配合量で用いることにより特異的に耐光性が向上する理由の詳細は不明である。」

(d)「【0018】本発明の画像受容層には、酸化防止、紫外線吸収、増感等の目的で置換フェノール、テルペンなどの低分子有機化合物を、ブレンドすることが可能である。」

(a)、(b)より、刊行物には、「シート状支持体上に、(1)セルロースアセテートブチレート樹脂100重量部及び活性エネルギー線硬化性シリコン5重量部を硬化させた硬化樹脂と、(2)可塑剤として、ジシクロヘキシルフタル酸エスエル5重量部、ジアリルフタル酸エステル5重量部、燐酸トリフェニル5重量部とを含む、インクシートから加熱により移行する染料を受容する画像受容層を有する染料熱転写画像受容シート」なる発明(以下、「刊行物発明」という。)が開示されている。

(3)対比
本願補正発明と、刊行物発明とを対比すると、後者の「シート状支持体」「硬化樹脂」「インクシートから加熱により移行する染料を受容する画像受容層」「染料熱転写画像受容シート」は、それぞれ、前者の「基板」「樹脂成分」「染料受像層」「印画紙」に相当する。また、後者の「ジシクロヘキシルフタル酸エスエル」及び「燐酸トリフェニル」は、前者の「0℃?45℃の温度帯域で固体である固体可塑剤」として本願明細書に例示される「融点が61℃であるジシクロヘキシルフタレート」及び「融点が49℃であるトリフェニルフォスフェート」にそれぞれ相当し、後者の「ジアリルフタル酸エステル」は融点が-70℃(国際化学物質安全性カード(ICSC)「フタル酸ジアリル」(ICSC番号:0430)参照。国立医薬品食品衛生研究所による日本語版サイトhttp://www.nihs.go.jp/ICSC/icssj-c/icss0430c.htmlに掲載)であるから、0℃?45℃の温度帯域では液体の可塑剤である。そして、これら可塑剤はいずれも5重量部含有されているから、固体可塑剤と液体可塑剤は10:5=2:1の割合となり、これは前者の1:9?9:1の範囲内である。同時に、後者において可塑剤の総量は15重量部になる。さらに、後者においては「セルロースアセテートブチレート樹脂」と「活性エネルギー線硬化性シリコン」が「硬化樹脂」を構成するので、それらの総量が前者における「樹脂成分」の量に相当する。したがって、後者は「樹脂成分」を105重量部含有することになり、「樹脂成分」と「可塑剤」の割合は105:15=100:14.3となって、これは本願補正発明の範囲の内にある。

してみると、本願補正発明と刊行物発明とは、
「基板上に、可塑剤を有する染料受像層が形成されてなる印画紙において、
上記可塑剤は、0℃?45℃の温度帯域で固体である固体可塑剤と、0℃?45℃の温度帯域で液体である液体可塑剤とを主体とし、
上記可塑剤の上記固体可塑剤と上記液体可塑剤は、1:9?9:1の割合で配合され、
上記可塑剤は、上記染料受像層中に含有される樹脂成分100重量部に対して5?30重量部が含有されている印画紙。」
である点で一致し、
前者は「増感剤」をさらに含有するのに対して、後者は「増感剤」を必須としていない点で一見相違している。

(4)判断
上記相違点について検討する。
本願明細書には、「増感剤」について、「例えば、熱可塑性樹脂に相溶することにより非晶質状態を形成し、染料の拡散性(染着性)を促進し、染料を染料受像層2の内部にまで浸透させることにより、耐光性や耐熱性を向上させる添加剤(増感剤)として、各種エステル類、エーテル類、その他の炭化水素化合物等を含有させることができる。」(本件補正後の明細書【0024】)と記載されているものの、「増感剤」として具体的にどのような化合物を使用するのかは全く記載されていない。
一方、刊行物発明の染料受像層に含有される二種の固体可塑剤のうち、「ジシクロヘキシルフタル酸エステル」は「エステル類」に相当し、また、刊行物の記載事項(c)によれば、「ジシクロヘキシルフタル酸エステル」を含む可塑剤は染料受像層中の厚さ方向への染料の分布を広げ、その結果として耐光性を向上させることから、「ジシクロヘキシルフタル酸エステル」はその作用効果も本願補正発明の「増感剤」の作用効果に一致する。また、例えば特開平7-144482号公報(以下、「周知例1」)【0015】、特開平9-267569号公報(以下、「周知例2」)【0019】?【0022】、特開平8-2127号公報(以下、「周知例3」)【0016】?【0017】には、増感剤として使用されるエステル類としてジシクロヘキシルフタレートが挙げられている。
してみると、刊行物発明の「ジシクロヘキシルフタル酸エステル」は本願補正発明の「固体可塑剤」であると同時に「増感剤」にも相当する。
上記本願補正発明と刊行物発明との対比において、後者の「ジシクロヘキシルフタル酸エステル」を「増感剤」とすると、後者において「固体可塑剤」に該当するのは「燐酸トリフェニル」のみとなり、同時に「固体可塑剤」と「液体可塑剤」との割合は5:5、「樹脂成分」と「可塑剤」との割合は105:10=100:9.5、と変わるが、どちらの割合も依然として本願補正発明の範囲の内にある。
したがって、上記相違点は実質的な相違ではなく、本願補正発明と刊行物発明とに構成上の差異は見出せない。

また、刊行物発明の「ジシクロヘキシルフタル酸エステル」と「燐酸トリフェニル」の両者を「固体可塑剤」であると解釈した場合であっても、刊行物の記載(d)に基づき、例えば上記周知例1?3に記載されるような周知の増感剤をさらに含有させて本願補正発明の構成とすることは、当業者であれば容易に想到するものである。
そして、本願補正発明の作用効果も、刊行物発明に比べて格別顕著なものではない。

よって、本願補正発明は、刊行物に記載された発明であるか、または、刊行物及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないか、あるいは、同条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)記載不備について
請求項1には、本願補正発明を特定するための事項として「増感剤」を有することが記載されている。
しかしながら、本願明細書には「例えば、熱可塑性樹脂に相溶することにより非晶質状態を形成し、染料の拡散性(染着性)を促進し、染料を染料受像層2の内部にまで浸透させることにより、耐光性や耐熱性を向上させる添加剤(増感剤)として、各種エステル類、エーテル類、その他の炭化水素化合物等を含有させることができる。」(本件補正後の明細書【0024】)と記載されるものの、「増感剤」が具体的にどのような物質であるかについては「各種エステル類、エーテル類、その他の炭化水素化合物等」という、非常に広範な化合物を含む記載にとどまり、また、その作用面の記載を見ても、本願補正発明の他の特定事項である「可塑剤」との区別の仕方が不明である。さらに、実施例として「増感剤」を有することが明らかな例は示されておらず、実際の効果も確認できない。
したがって、本願補正発明の「増感剤」は具体的にどのような物質であるのか明確でなく、また、本願補正発明において「増感剤」を有する場合の作用効果について、明細書の発明の詳細な説明には十分な裏付けがなされていない。

以上のとおりであるから、本願補正発明は、特許法第36条第6項第1号及び第2項に規定する要件を満たしていないので、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(6)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成19年10月9日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年6月25日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
基板上に、可塑剤を有する染料受像層が形成されてなる印画紙において、
上記可塑剤は、0℃?45℃の温度帯域で固体である固体可塑剤と、0℃?45℃の温度帯域で液体である液体可塑剤とを主体とし、
上記可塑剤の上記固体可塑剤と上記液体可塑剤は、1:9?9:1の割合で配合され、
上記可塑剤は、上記染料受像層中に含有される樹脂成分100重量部に対して5?30重量部の範囲で含有されていることを特徴とする印画紙。」

(1)刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、及びその記載事項については、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から「染料受像層」の限定事項である「増感剤」を有するとの構成を省いたものであって、「増感剤」を有するとの構成は、前記2.(3)の対比において本願補正発明と刊行物発明との唯一の相違点とされた事項である。
そうすると、本願発明を特定するための事項はいずれも刊行物に記載されているものであるから、本願発明は刊行物に記載された発明である。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-12 
結審通知日 2008-06-17 
審決日 2008-06-30 
出願番号 特願平11-552769
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41M)
P 1 8・ 537- Z (B41M)
P 1 8・ 575- Z (B41M)
P 1 8・ 113- Z (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤井 勲  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 赤木 啓二
淺野 美奈
発明の名称 印画紙  
代理人 小池 晃  
代理人 伊賀 誠司  

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