• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41L
管理番号 1183044
審判番号 不服2005-22053  
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-11-16 
確定日 2008-08-13 
事件の表示 平成11年特許願第143451号「孔版印刷装置及び該装置を用いた製版領域決定方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年11月28日出願公開、特開2000-326613〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成11年5月24日の出願であって、平成17年10月4日付けで、平成17年7月26日付けの手続補正の却下がされるとともに拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月16日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、明細書についての手続補正がなされたものである。

第2.平成17年11月16日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年11月16日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲についての補正を含んでおり、本件補正により、特許請求の範囲は、
「 【請求項1】 円筒状の版胴を有し装置本体に着脱交換可能に装着されるドラムユニットと、原稿の画像を読み込む原稿読取部と、前記原稿読取部が読み込んだ画像を孔版原紙に感熱製版する製版部とを備え、前記製版部で製版された前記孔版原紙を前記版胴に巻装し、前記版胴と該版胴の軸方向と平行に設けられたローラ部材との間に給紙台に積載された印刷用紙を搬送させ、前記孔版原紙の製版領域より通過するインクを前記印刷用紙に転移させて孔版印刷を行う孔版印刷装置において、
変倍率を設定する変倍率設定手段と、
前記ドラムユニットに設けられ、前記版胴のインク通過領域に応じたドラムサイズ情報を保持するドラムサイズ情報保持手段と、
前記ドラムユニットが前記装置本体に装着されたときの前記ドラムサイズ情報保持手段のドラムサイズ情報を検知するドラムサイズ検知手段と、
前記給紙台に積載された前記印刷用紙の長さ及び幅を用紙サイズとして検知する用紙サイズ検知手段と、
前記原稿のサイズに前記変倍率設定手段で設定された変倍率を掛け合わせた画像サイズ、前記用紙サイズおよび前記ドラムサイズに応じて前記印刷用紙の用紙範囲から前記製版領域がはみ出さないように当該製版領域の主走査方向及び副走査方向の幅を決定する製版領域決定手段とを備えたことを特徴とする孔版印刷装置。
【請求項2】?【請求項10】(当審によって省略する。) 」
(平成17年3月24日付け手続補正による)
から、

「 【請求項1】 円筒状の版胴を有し装置本体に着脱交換可能に装着されるドラムユニットと、原稿の画像を読み込む原稿読取部と、前記原稿読取部が読み込んだ画像を孔版原紙に感熱製版する製版部とを備え、前記製版部で製版された前記孔版原紙を前記版胴に巻装し、前記版胴と該版胴の軸方向と平行に設けられたローラ部材との間に給紙台に積載された印刷用紙を搬送させ、前記孔版原紙の製版領域より通過するインクを前記印刷用紙に転移させて孔版印刷を行う孔版印刷装置において、
変倍率を設定する変倍率設定手段と、
前記ドラムユニットに設けられ、前記版胴毎に異なるサイズのインク通過領域に応じたドラムサイズ情報を保持するドラムサイズ情報保持手段と、
前記ドラムユニットが前記装置本体に装着されたときの前記ドラムサイズ情報保持手段のドラムサイズ情報を検知するドラムサイズ検知手段と、
前記給紙台に積載された前記印刷用紙の長さ及び幅を用紙サイズとして検知する用紙サイズ検知手段と、
前記原稿のサイズに前記変倍率設定手段で設定された変倍率を掛け合わせた画像サイズ、前記用紙サイズおよび前記ドラムサイズに応じて前記印刷用紙の用紙範囲から前記製版領域がはみ出さないように当該製版領域の主走査方向及び副走査方向の幅を決定する製版領域決定手段とを備えたことを特徴とする孔版印刷装置。」
と補正された。

2.補正の目的
したがって、本件補正には、特許請求の範囲の補正として以下の補正事項が含まれる。

(1)補正前の請求項1に記載の「ドラムサイズ情報」が、「前記版胴のインク通過領域に応じ」ているとしていたのを、「前記版胴毎に異なるサイズのインク通過領域に応じ」ているとする補正。
(2)補正前の請求項2?10を削除する補正。

まず、補正事項(1)について、その補正の目的を検討する。
補正前の発明特定事項である「ドラムユニット」は、着脱交換可能に装着されるものであるから、ドラムの交換においては、版胴が異なっても同じサイズのインク通過領域を有するドラムに交換する場合(例えば、インクの色のみが異なるドラムに交換する場合。)と、版胴が異なるとインク通過領域も異なるドラムに交換する場合(例えば、記録用紙のサイズに合わせて、版胴の軸方向の長さや版胴径の大きさを異ならせたドラムに交換する場合。)とが想定できる。
そして、ドラムサイズ情報の内容を特定することで、孔版印刷装置の発明特定事項である「ドラムユニット」について、版胴が異なるとインク通過領域も異なるドラムに交換し得るドラムユニット(つまり、異なるインク通過領域を有する版胴を装着することが可能なドラムユニット)に限定したものといえるから、この補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に記載される特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記補正事項(2)は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1号に記載される請求項の削除を目的とするものである。

本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含んでいるので、補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3.独立特許要件違反について

(1)引用刊行物
(1-1) 原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-141820号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の記載が図示とともにある。

(ア)「【発明の属する技術分野】本発明は、原稿の画像を読み取る読取部を備え、孔版印刷装置等に使用されるマスタを加熱穿孔製版して、読取部により読み取られた画像情報をマスタに書き込む製版装置に関する。」(段落【0001】)
(イ)「【発明の実施の形態】請求項1記載の発明の実施の一形態の製版装置を図1ないし図6に基づいて説明する。図2に本実施の形態の製版装置を備えた孔版印刷装置を示す。この孔版印刷装置1には、原稿の画像を読み取って感熱孔版原紙であるマスタ2を製版し給版する製版装置3と、この製版装置3より給版された製版済みのマスタ2を用いて印刷用紙4に画像を印刷する印刷装置5と、この印刷装置5における使用済みのマスタ2を廃棄する排版装置6が設けられている。
前記印刷装置5には、中央に製版済みのマスタ2が巻き付く多孔性支持円筒体の版胴7が回転自在に設けられている。前記版胴7の下には、前記印刷用紙4が搬送される印刷用紙搬送経路8が設けられている。前記印刷用紙搬送経路8には、前記印刷用紙4を給紙する給紙部9と、前記版胴7に対して当接離反自在に設けられて前記給紙部9から給紙された印刷用紙4を前記版胴7に押し付けて印刷用紙4に画像を印刷するプレスローラ10と、画像が印刷された印刷用紙4を版胴7から剥離して排紙する排紙部11とが搬送方向の上流側(図2中、右側)から順次設けられている。
前記版胴7は、ステンレス薄板をエッチング加工したもの又はニッケル電鋳された薄板により円筒状に形成され、この円筒のものには0、25?1、0mm程度の間隔で直径0、15?0、5mm程度の孔がその円周に多数形成されて、その外周面上にポリエステル又はステンレスの細線等で織られたメッシュ数#100?400程度の図示しないメッシュスクリーンが1?3層程度巻き付けられている。前記版胴7の外周面には、マスタ2の先端を挟持するステージ12とクランパ13とが設けられている。前記ステージ12は、前記版胴7の軸心方向に沿って形成されている。前記クランパ13は、一端が支持されて、前記ステージ12に対して他端が当接離反自在に設けられている。
前記版胴7の内部には、インキ供給部14が設けられている。前記インキ供給部14には、前記版胴7を回転自在に支持して、前記版胴7内部にインキを供給するインキパイプ15が設けられている。前記インキパイプ15の下側円周部には、多数の小さな孔が形成されている。前記インキパイプ15の下方には、そのインキパイプ15から供給されたインキを保持して、前記プレスローラ10に対応する前記版胴7の内周面にインキを供給するインキローラ16が回転自在に設けられている。前記インキローラ16に対向する位置には、そのインキローラ16に保持されるインキの量を一定にするドクタローラ17が回転自在に設けられている。前記インキローラ16と前記ドクタローラ17との間には、前記インキパイプ15から供給されたインキが溜るインキ溜り18が形成されている。」(段落【0014】?【0017】)
(ウ)「前記給紙トレイ19には、前記印刷用紙4の幅方向に移動自在に設けられて前記印刷用紙4の幅方向の各辺に当接する一対のサイドフェンス23と、前記サイドフェンス23の移動に伴って前記印刷用紙4の幅を検知する印刷用紙幅検知センサ24と、前記給紙トレイ19上での搬送方向における前記印刷用紙4の有無を検知して前記印刷用紙4の積載方向を検知する反射センサ25とが設けられている。」(段落【0019】)
(エ)「前記製版装置3には、原稿の画像を読み取る画像読取部41とこの画像読取部41により読み取られた画像情報に基づいてマスタ2を加熱穿孔製版する製版部42とがある。前記画像読取部41の上面には、原稿が載置されるプラテンガラス43が固定されている。前記プラテンガラス43の上には、原稿を搬送する自動原稿送り装置44を備え、前記プラテンガラス43上に載置された原稿を押える原稿押え板45が開閉自在に設けられている。前記プラテンガラス43の下には、そのプラテンガラス43上の原稿を照射する蛍光灯46と、この蛍光灯46から照射された光を原稿に向けて反射する対向反射ミラー47と、三枚のミラー48,49,50及び縮小レンズ51を介して原稿からの反射光が結像されるCCDセンサ52とが設けられている。」(段落【0025】)
(オ)「前記第二のキャリア54よりも下方には、前記プラテンガラス43に対向して定形サイズの原稿の大きさに対応する位置に複数個の反射センサが配置されている。これらの反射センサにより、前記プラテンガラス43上に載置された原稿のサイズを検知する原稿サイズ検知手段である原稿サイズ検知センサ55が形成されている。」(段落【0026】)
(カ)「変倍率の設定や連写モード時の原稿サイズ選択の際に使用するズームアップキー91及びズームダウンキー92が配置されている。」(段落【0035】)
(キ)「前記ROM95には、前記RAM94に記憶された原稿サイズに基づいて原稿の副走査方向の長さを算出し、原稿の走査終了位置を算出して、これに対応する前記スキャナモータ102の送り量を計算するとともに、前記操作パネル78で設定された変倍率を参照して、原稿から読み取った画像情報を書き込む動作が終了するまでの前記マスタ2の送り量と、この送り量に対応する製版部モータ105の送り量とを計算する際に使用する走査長さ計算式も記憶されている。」(段落【0039】)
(ク)「前記画像処理部100は、前記A/D変換部99から入力されたデジタル信号にMTF補正や変倍の処理を行なった後、2値化又は中間調処理を行なってシリアル画像データを前記サーマルヘッド駆動部101に送出する。」(段落【0042】)
(ケ)「さらに変倍率をも参照して第一面目の原稿の画像情報の書き込みが終了するまでにマスタ2が搬送される距離と、第一面目の原稿の画像情報の書き込みが終了するまでにマスタ2を搬送するための製版部モータ105の駆動ステップ数とを算出する。」(段落【0063】)
(コ)「そして、図5及び図6に示すように、二つの原稿の画像が一枚の印刷用紙4に印刷される。図5に示す印刷用紙4は、二つの原稿A,Bのサイズが等しく、二つの原稿A,Bを合わせたサイズが印刷用紙4のサイズよりも小さくて、さらに、印刷用紙4のサイズが版胴7上の印刷可能な領域よりも小さい場合である。このように、第一面目の原稿Aの画像に続けて第二面目の原稿Bの画像が印刷用紙4のセンターCよりも前側で突き合わされる形で連写される。このとき、製版領域Dは、版胴7上の印刷可能な印刷用紙4のサイズが小さいので、印刷用紙4のサイズを基準として設定される。このため、実際の製版領域Dの大きさは、印刷用紙4のサイズよりも若干小さく設定されている。そして、印刷用紙4の先端から原稿Aの画像の後端までの距離がL1で、印刷用紙4における搬送方向の余白マージンがL2である。従って、第一面目の原稿の画像情報を書き込む際に搬送するマスタ2の量は、L1-L2である。
このように、印刷用紙4のサイズが版胴7上の印刷可能な領域よりも小さいときには、印刷用紙4のサイズを基準として製版領域を設定される。これにより、二つの原稿を合わせたサイズが印刷用紙4のサイズよりも大きくなっても、印刷用紙4のサイズを越える部分は製版されない。従って、連写モードが設定されているとき、二つの原稿を合わせたサイズが印刷用紙4のサイズよりも大きいかどうかの判断をオペレータが誤り易く、版胴7とプレスローラ10との間を印刷用紙4が通過した後にプレスローラ10がマスタ2を介して版胴7に当接し易いが、プレスローラ10が当接する部分はマスタ2が製版されていないので、プラテンローラ10の表面にインキが付着するのが防止されてる。このため、版胴7とプレスローラ10との間を印刷用紙4が通過し後にプレスローラ10が版胴7に当接してプレスローラ10の表面にインキが付着するのが防止され、プレスローラ10の表面にインキが付着して印刷用紙4の裏面が汚されるのが防止される。
また、図6に示す印刷用紙4は、二つの原稿E,Fのサイズが異なり、二つの原稿E,Fを合わせたサイズが印刷用紙4のサイズよりも小さいが、二つの原稿E,Fを合わせたサイズ及び印刷用紙4のサイズよりも版胴7上の印刷可能な領域が小さい場合である。このとき、製版領域Gは、版胴7上の印刷可能な領域を基準に設定される。このため、実際の製版領域Gは、二つの原稿E,Fを合わせたサイズよりも小さく設定されている。従って、製版領域Gを越える部分Hは製版されないので、マスタ2が無駄に使用されるのが防止される。」(段落【0076】?【0078】)

引用文献1の上記記載(コ)には、「二つの原稿A,Bを合わせたサイズ」と「印刷用紙4のサイズ」と「版胴7上の印刷可能な領域」との大小関係に基づいて、製版部での製版領域の大きさを設定するものが記載されており、段落【0076】?【0077】には、「二つの原稿を合わせたサイズ」<「印刷用紙4のサイズ」<「版胴7上の印刷可能な領域」の場合に製版領域をどのように決定するかについて記載されている。具体的には、印刷用紙のサイズを基準として製版領域を設定することで、印刷用紙のサイズを超える部分が製版されなくなり、二つの原稿を合わせたサイズが印刷用紙のサイズよりも大きくなった場合でもプラテンローラの表面にインキが付着することがない旨記載されている。
また、段落【0078】には、「版胴7上の印刷可能な領域」<「二つの原稿を合わせたサイズ」<「印刷用紙4のサイズ」の場合に製版領域をどのように決定するかについて記載されている。具体的には、版胴7上の印刷可能な領域を基準として製版領域を設定することで、製版領域Gを越える部分Hが製版されない旨記載されている。
そして、これらの記載から、「二つの原稿を合わせたサイズ」と「印刷用紙のサイズ」と「版胴上の印刷可能な領域」に応じて、印刷用紙の用紙範囲から製版領域がはみ出さないように製版領域の副走査方向の幅を決定していると解することができる。

したがって、前記記載及び図面を含む引用文献1全体の記載から、引用文献1には、以下の発明が開示されていると認められる。
「円筒状の版胴を有する印刷装置5と、原稿の画像を読み込む画像読取部41と、前記画像読取部が読み込んだ画像をマスタ2に感熱製版する製版部とを備え、前記製版部で製版された前記マスタ2を前記版胴に巻装し、前記版胴と該版胴の軸方向と平行に設けられたプレスローラ10との間に給紙トレイ19に積載された印刷用紙を搬送させ、前記マスタ2の製版領域より通過するインクを前記印刷用紙に転移させて孔版印刷を行う孔版印刷装置において、
ズームアップキー91及びズームダウンキー92と、前記給紙トレイに積載された前記印刷用紙の幅を検知する印刷用紙幅検知センサ24と、給紙トレイ上での搬送方向における印刷用紙の有無を検知して印刷用紙の積載方向を検知する反射センサ25とを有し、二つの原稿を合わせたサイズ、印刷用紙のサイズおよび版胴上の印刷可能な領域に応じて、前記印刷用紙の用紙範囲から製版領域がはみ出さないように製版領域の副走査方向の幅を決定する孔版印刷装置。」

(1-2) 原査定の拒絶の理由に引用された特開平3-193482号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の記載が図示とともにある。

(サ)「産業上の利用分野 本発明は、一体型孔版印刷機のプレスローラ汚れ防止装置に関する。」(1頁右下欄13?15行)
(シ)「発明が解決しようとする課題 本発明は、従来の一体型孔版印刷機の上記の問題点にかんがみ、製版画像の用紙範囲からのはみ出しによる印刷時のプレスローラの汚れを防止し、ひいては用紙の裏写りを防止することのできる装置を提供することを課題とする。
課題解決のための手段 本発明は、上記の課題を解決させるため、例えば前記構成の一体型孔版印刷機において、用紙給紙部に該給紙部に載置された用紙のサイズを検知する手段を設け、製版部でマスターの、上記給紙部の用紙サイズ検知手段により検知された用紙サイズに対応する範囲以外の部分には製版が行なわれないように制御するようにしたことを特徴とする。
作 用 以上の如く、給紙部に載置された用紙のサイズの検知結果に基づき、マスターの用紙サイズに対応する範囲以外の部分には製版が行なわれないように制御される結果、マスターの製版画像範囲が給紙された用紙の範囲からはみ出すことは防止され、印刷時のプレスローラの汚れ、ひいては用紙の裏写りを防止することができる。」(2頁左下欄2行?同頁右下欄4行)
(ス)「上記の検知手段により検知された用紙サイズの信号は制御部3に入力され、制御部3は用紙サイズに製版長さを合わせる様に製版部4に指令を出す。製版部4では受け取った信号に対してサーマルヘッド7への通電時間の長さにて製版する長さを決める。
用紙は規格サイズであるからサイズが判ればヨコ方向の幅は自ら判るので、原稿画像の用紙から左右にはみ出した部分は製版時にマスクするよう制御部3から製版部4に指令を出す。」(3頁右上欄2?11行)
(セ)「以上の結果、マスターの用紙から後及び左右にはみ出した部分には製版されないことになるので、ドラムに巻回して印刷を行なった場合、プレスローラに印刷され、それが用紙の裏に裏写りすることは防止される。」(3頁左下欄3?7行)

引用文献2の上記記載(ス)から、用紙サイズと原稿サイズとの関係において、用紙の長さ方向に原稿サイズがはみ出す場合と、用紙の幅方向に原稿サイズがはみ出す場合とが存在し、どちらの場合においても、製版部で原稿サイズがはみ出す部分を製版しないようにしていることが把握できる。

したがって、前記記載及び図面を含む引用文献2全体の記載から、引用文献2には、以下の事項が開示されていると認められる。
「用紙の長さ方向に原稿サイズがはみ出す場合と用紙の幅方向に原稿サイズがはみ出す場合のどちらの場合においても、製版部で原稿サイズがはみ出す部分を製版しないようにする点。」

(1-3) 原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-72380号公報(以下、「引用文献3」という。)には、以下の記載が図示とともにある。

(ソ)「【産業上の利用分野】本発明は、製版機と印刷機が一体となって構成されており、異なるサイズの印刷用紙に印刷を施すことが可能な製版印刷装置と、それに使用され得る印刷用原紙に関するものである。」(段落【0001】)
(タ)「本発明はかかる従来技術の有する課題に鑑みてなされたもので、版胴を所望の種類(サイズ)のものに交換するだけで、最小限の印刷原紙を使用し、所望の種類の(サイズ)の製版および印刷が可能となる製版印刷装置およびそれに使用し得る印刷原紙を実現せんとするものである。」(段落【0009】)
(チ)「図4ないし図7において、版胴は、製版後の感熱孔版原紙8が一部に巻着される円筒領域53と、感熱孔版原紙8の端部を挟持するクランパ16や印刷インキを内部に供給するための印刷インキ供給孔54等が備えられいる非円筒領域55と、両側壁となるフランジ56、57とによって構成されている。
前記円筒領域53における印刷範囲αの書画像形成域(α-δ)は、パンチングメタル等の無数の開口が形成されている横断面が円弧状の基材と、当該基材の表面に装着された1枚もしくは複数枚のシルクスクリーンとからなり、内部に収納されている印刷インキが滲出する周知の構造を呈している。
図6に示すように、円筒領域(α+β)53の円周方向寸法は、A3サイズの長辺の寸法(420mm)よりも若干長く、488mmに設定されており、A4サイズの印刷範囲α(255mm)の先側に非書画像形成域δ(43mm)が含まれ、印刷範囲αの後側に非印刷範囲β(233mm)が備えられている。なお、パンチングメタルの開口が形成されている部分は書画像形成域(α-δ)のみである。
かように、印刷範囲α中に、書画像形成域と非書画像形成域が存在しているのは、印刷用紙21の給送タイミング調整(天地調整)を行うための寸法的余裕を持たせるためである。非円筒領域55の水平直線寸法γは137mmに設定されている。」(段落【0038】?【0041】)
(ツ)「本実施例においては、版胴3の一方のフランジ56の外側面にマグネット64が装着され、装置本体1側に、版胴識別手段がとしての磁気センサ(図示せず)が設けられており、当該磁気センサがマグネット64の存在を検知して、その状態(A4サイズ)に対応した製版モードや印刷モードを実行させるように制御される。」(段落【0051】)
(テ)「次に、A3サイズの印刷を行う場合について図8に従い説明する。A3サイズの印刷を行う場合に使用される版胴3には、前記カム62は装着されていない。そして、本実施例の場合、印刷範囲は円筒領域(α+β)53と等しく、書画像形成域は(α+β)-(δ+ε)となり、この長さは420mmであって、これはA3サイズの印刷用紙21の長辺の寸法と略等しい。
なお、後側の非書画像形成域ε(25mm)は、前述の同様にタイミング調整用に設けられているものであり、パンチングメタルの開口が形成されている部分は書画像形成域(α+β)-(δ+ε)である
そして、本実施例の版胴3には、前記A4サイズ用の版胴3に装着されているような円弧状のカム62は装着されておらず、プレスローラ27は、印刷範囲αの先端側の非書画像形成域δの途中から版胴3に圧接され、A3サイズの後端側の書画像形成域εの寸前まで圧接され続けることになる。なお、感熱孔版原紙8の後端(上流側端部)は、書画像形成領域の終端よりも33mmだけ更に後側に延在しており、この部分はプレスローラ27に圧接されず、印刷インキが尻漏れを起こす虞はない。
従って、A3サイズの書画像形成域(α+β)-(δ+ε)全体がプレスローラ27に圧接されることになり、実質的に、非円筒部分4のみが前記内カム63によって、版胴3から離間されることになる。」(段落【0052】?【0055】)
(ト)「また、A4サイズ用の版胴3に装着されているようなマグネット64も装着されておらず、本体7側の磁気センサがマグネット64の不存在を検知して、その状態(A3サイズ)の製版モードや印刷モードを実行させるように制御する。前記実施例では、A4サイズ用とA3サイズ用の版胴が用意されているが、B4サイズ用やB5サイズ用の版胴を用意してもよい。」(段落【0056】)
(ナ)「かように、版胴の種類を特定するだけで、その種類に対応する製版モードや印刷モードが実行されるので、最小限の印刷用原紙を使用し、各サイズの印刷を自由に且つ容易に行うことができる。また、従来装置に比べ、機構系や制御系が簡単となって、小型化、低価格化を企図し得る。」(段落【0064】)

引用文献3の上記記載(タ)から、引用文献3に記載の製版印刷装置は、A3サイズに対応した版胴とA4サイズに対応した版胴とを交換可能とするものであることが把握できる。
そして、A4サイズに対応した版胴に関する上記記載(チ)には「なお、パンチングメタルの開口が形成されている部分は書画像形成域(α-δ)のみである。」と記載されている。一方、A3サイズに対応した版胴に関する上記記載(テ)には「パンチングメタルの開口が形成されている部分は書画像形成域(α+β)-(δ+ε)である」と記載されている。
したがって、これらの記載からA4サイズに対応した版胴とA3サイズに対応した版胴とでは、インク通過領域のサイズが異なることが把握できる。

また、引用文献3の上記記載(ツ)、(ト)には、装置本体側に版胴識別手段としての磁気センサを設けることが記載され、さらに、A4サイズ用の版胴の場合は版胴側にマグネットを設け、A3サイズ用の版胴の場合は版胴側にマグネットを設けないことが記載されている。また、装置本体側の磁気センサが版胴側のマグネットを検知するか否かによって、いずれのサイズの版胴が装着されたかを識別することが記載されている。
そして、装置本体に版胴が装着されたときに、版胴識別手段がマグネットを検知すること又はマグネットの不存在を検知することによって、装置本体は装着された版胴のサイズを認識するのであるから、版胴側のマグネットの有無が、異なるインク通過領域に応じたドラムサイズ情報を表示しているといえる。

よって、前記記載及び図面を含む引用文献3全体の記載から、引用文献3には、以下の事項が開示されていると認められる。
「所望の種類(サイズ)の版胴に交換可能な製版印刷装置であって、装置本体側に版胴識別手段を備えるとともに、版胴側に異なるインク通過領域に応じたドラムサイズ情報を保持するドラムサイズ情報保持手段を設ける点。」

(1-4) 原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-20289号公報(以下、「引用文献4」という。)には、以下の記載が図示とともにある。

(ニ)「【発明の属する技術分野】本発明は、孔版印刷機に関し、特に用紙サイズに応じて孔版原紙に製版される製版領域を決定する孔版印刷機および孔版印刷方法に関する。」(段落【0001】)
(ヌ)「ところで、この種の孔版印刷機では、ドラムに装着された孔版原紙の感熱穿孔された製版領域よりインキを通過させて用紙にインキを転移させているが、ドラムに巻装された孔版原紙の製版領域と用紙のサイズとの関係によってはドラムに対向して設けられる押圧ローラーの周面を汚すという問題があった。
具体的には、A3サイズに適合した製版領域の孔版原紙が装着された孔版印刷機において、A3サイズよりも小さいサイズ(例えばA4,B5サイズ等)の用紙が給紙台に積載されている場合、そのまま孔版印刷を開始すると、孔版原紙の製版領域が用紙からはみ出し、この用紙からはみ出した製版領域より通過したインキが押圧ローラーに転移して押圧ローラーの周面を汚すことになる。そして、孔版印刷をそのまま続行すると、押圧ローラーに転移したインキが用紙の裏面に印刷され、押圧ローラーだけでなく印刷済みの用紙も汚染させるという問題を招く。
また、この種の孔版印刷機に使用されるドラムは、多孔構造部にインキを含浸し、用紙サイズに適合する製版領域でインキを通過させるため、使用されるインキの色が特定され、例えば黒色用、赤色用、青色用等のように、各色のインキ毎に専用化されている。したがって、印刷の色を変更する場合には、所望する色に応じてドラムを交換することになる。
そして、黒色用のドラムが装着された孔版印刷機AでA3サイズの用紙に孔版印刷を行い、赤色用のドラムが装着された孔版印刷機BでA4サイズの用紙に孔版印刷を行っている場合を考える。今、孔版印刷機Bにおいて、用紙はA4サイズのままで、印刷の色を現在の赤色から黒色に変更する場合が生じたとする。この場合、操作者が用紙サイズを考慮せず、孔版印刷機Aで使用されている黒色用のドラムを抜き出して赤色用のドラムと交換して孔版印刷機Bに装着して使用すると、装着された黒色用のドラムがA3に適合する製版領域でインキを通過させるため、この製版領域がA4サイズの用紙からはみ出す。そして、A4サイズの用紙からはみ出した製版領域より通過した黒色のインキが押圧ローラーに転移し、孔版印刷機AでA3サイズより小さいサイズに変更された場合も同様の問題が生ずる。」(段落【0003】?【0006】)
(ネ)「ところで、上記実施の形態では、給紙台34に積載された印刷用紙34の長さ方向のサイズを反射センサによる用紙長さセンサ42で検出する構成について説明したが、図7に示す構成を採用して印刷用紙34の長さ方向のサイズを検出するようにしてもよい。尚、図7において、図3と同一の構成要素には同一番号を付し、その説明を省略する。
図7の構成では、積載される印刷用紙34の長さ方向を規制するためのエンドフェンス60が給紙台30に設けられている。エンドフェンス60は、印刷用紙搬送経路の中心線37の方向に不図示のレールに沿って移動可能とされている。エンドフェンス60には、ラック61が取り付けられている。ラック61は、給紙台30上の一点の周りに回転するように給紙台30上に回転式に支持されたピニオン62と噛み合っている。
エンドフェンス60の移動量は、ピニオン62に連結された用紙長さセンサ63により検出される。用紙長さセンサ63は、用紙幅センサ41と同様に、例えばポテンショメータで構成され、エンドフェンス60の移動量に応じた長さ情報を制御装置50のCPU51に入力している。
この構成によれば、給紙台30に積載される印刷用紙34が不定形サイズの場合であっても、用紙幅センサ41の幅情報と用紙長さセンサ63の長さ情報に基づいて印刷用紙34の幅方向及び長さ方向のサイズを制御装置50のCPU51が認識できる。」(段落【0082】?【0085】)

したがって、前記記載及び図面を含む引用文献4全体の記載から、引用文献4には、以下の事項が開示されていると認められる。
「給紙部から孔版印刷機のドラムに印刷用紙を供給する孔版印刷機において、給紙台上に載置された印刷用紙のサイズを検出する方法として、印刷用紙の幅方向及び長さ方向についてサイズを検出することで、不定形サイズの印刷用紙であっても印刷用紙の幅方向及び長さ方向のサイズを制御装置が認識できる点。」

(2)本願補正発明と引用文献1記載の発明との対比
a.引用文献1記載の発明の「画像読取部41」、「マスタ2」、「プレスローラ10」及び「給紙トレイ19」は、本願補正発明の「原稿読取部」、「孔版原紙」、「ローラ部材」及び「給紙台」に相当する。

b.本願補正発明の「ドラムユニット」は、版胴を介して印刷用紙に印刷する装置であるから、引用文献1記載の発明の「円筒状の版胴を有する印刷装置5」と、本願補正発明の「円筒状の版胴を有し装置本体に着脱交換可能に装着されるドラムユニット」とは、いずれも「円筒状の版胴を有する印刷装置」である点で共通する。

c.引用文献1の上記記載(カ)、(ク)、(ケ)から、ユーザがズームアップキー91及びズームダウンキー92を操作することで、画像読取部で読み取った原稿画像のサイズを製版部で製版するサイズにどのような変倍率で変換するかという設定を行っていると解することができるから、引用文献1記載の発明の「ズームアップキー91及びズームダウンキー92」は、本願補正発明の「変倍率設定手段」に相当している。

d.引用文献1記載の発明の「前記給紙トレイに積載された前記印刷用紙の幅を検知する印刷用紙幅検知センサ24」と本願補正発明の「前記給紙台に積載された前記印刷用紙の長さ及び幅を用紙サイズとして検知する用紙サイズ検知手段」とは、どちらも「前記給紙トレイに積載された前記印刷用紙の幅を検知する用紙サイズ検知手段」で共通する。

e.引用文献1記載の発明の「二つの原稿」は、1つの版胴に巻装するための孔版原紙を製版するための原稿であるから、孔版原紙の製版領域の決定に際して、引用文献1記載の発明における「二つの原稿を合わせたサイズ」は、本願補正発明の「原稿のサイズ」(製版時の副走査方向のサイズ)に相当する。そして、引用文献1記載の発明の「原稿サイズ」と本願補正発明の「前記原稿のサイズに前記変倍率設定手段で設定された変倍率を掛け合わせた画像サイズ」とは、どちらも原稿サイズに基づくサイズという点で共通する。

また、引用文献1の上記記載(コ)は、製版時の副走査方向についての記載であるから、引用文献1記載の発明の「版胴上の印刷可能な領域」は、副走査方向(版胴の回転方向)に見て版胴上での印刷が可能である範囲の長さと解することができる。
一方、本願補正発明の「ドラムサイズ」は、ドラムの幅(製版時の主走査方向の幅)に関するサイズであるのか、ドラムの周長長さ(製版時の副走査方向の幅)であるのか特定されていないので、その両者を包含するものである。そして、ドラムサイズ等に応じて製版領域を決定するのであるから、ここでいうドラムサイズとは、実質的には印刷が可能である範囲を示していると解することができる。
したがって、本願補正発明の「ドラムサイズ」は、引用文献1記載の発明の「版胴上の印刷可能な領域」を包含するものであるから、引用文献1記載の発明の「版胴上の印刷可能な領域」は、本願補正発明の「ドラムサイズ」に相当する。

してみれば、孔版原紙の製版領域を決定する点に関して、本願補正発明と引用文献1記載の発明とは、原稿サイズに基づくサイズ、用紙サイズおよびドラムサイズに応じて印刷用紙の用紙範囲から製版領域がはみ出さないように製版領域の副走査方向の幅を決定する点で共通する。

さらに、引用文献1記載の発明において、製版領域の副走査方向の幅を決定する手段を、その機能から「製版領域決定手段」と称することができる。

よって、両者は、以下の点で一致し、また、相違している。
<一致点>
「円筒状の版胴を有する印刷装置と、原稿の画像を読み込む原稿読取部と、前記原稿読取部が読み込んだ画像を孔版原紙に感熱製版する製版部とを備え、前記製版部で製版された前記孔版原紙を前記版胴に巻装し、前記版胴と該版胴の軸方向と平行に設けられたローラ部材との間に給紙台に積載された印刷用紙を搬送させ、前記孔版原紙の製版領域より通過するインクを前記印刷用紙に転移させて孔版印刷を行う孔版印刷装置において、
変倍率を設定する変倍率設定手段と、
前記給紙台に積載された前記印刷用紙の幅を用紙サイズとして検知する用紙サイズ検知手段と、
原稿サイズに基づくサイズ、用紙サイズおよびドラムサイズに応じて印刷用紙の用紙範囲から製版領域がはみ出さないように製版領域の副走査方向の幅を決定する製版領域決定手段とを備えた孔版印刷装置。」

<相違点1>
本願補正発明では、孔版印刷装置が備える印刷装置が、装置本体に着脱可能に装着されるドラムユニットであり、ドラムユニットには、版胴毎に異なるサイズのインク通過領域に応じたドラムサイズ情報を保持するドラムサイズ情報保持手段が設けられ、ドラムユニットが装置本体に装着されたときのドラムサイズ情報保持手段のドラムサイズ情報を検知するドラムサイズ検知手段を孔版印刷装置が有するとの特定があるのに対して、引用文献1記載の発明では、そのような特定がされていない点。

<相違点2>
用紙サイズ検知手段が用紙サイズを検知することに関して、本願補正発明では、給紙台に積載された印刷用紙の長さを検知するとの特定がされているのに対して、引用文献1記載の発明では、そのような特定がされていない点。

<相違点3>
製版領域を決定するに際し、本願補正発明では、「原稿サイズに基づくサイズ」が、原稿のサイズに変倍率設定手段で設定された変倍率を掛け合わせた画像サイズであるとの特定があるのに対し、引用文献1記載の発明では、「原稿サイズに基づくサイズ」が、原稿のサイズであって、上記特定を有しない点。

<相違点4>
原稿サイズに基づくサイズ、用紙サイズおよびドラムサイズに応じて印刷用紙の用紙範囲から製版領域がはみ出さないように製版領域を決定するのを、本願補正発明では、製版領域の主走査方向に対しても行うことを特定しているのに対して、引用文献1記載の発明では、そのような特定を有しない点。

(3)判断
<相違点1について>
孔版印刷を行う製版印刷装置において、異なる版胴を着脱交換可能とすることは周知の事項である(例えば、特開昭64-18683号公報等を参照。)。したがって、引用文献1記載の発明の「印刷装置5」を交換可能とするときに、引用文献3に記載されるように、「所望の種類(サイズ)の版胴に交換可能」とし、「装置本体側に版胴識別手段を備えるとともに、版胴側に異なるインク通過領域に応じたドラムサイズ情報を保持するドラムサイズ情報保持手段を設ける」ようにすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

なお、この点に関し、審判請求書の請求の理由(平成18年1月24日付け補正書による)において、請求人は以下の主張をしている。
「次に、審査官殿は、ドラムユニットに設けられたドラムサイズ情報保持手段からドラムサイズを検知する点は引用文献3〔0051〕?〔0056〕に記載されていると認定している。
しかし、引用文献3〔0051〕?〔0056〕は、単に「書画像形成域=印刷範囲-非書画像形成域」の関係を述べているものにすぎず、本願発明のように、版胴毎に印刷範囲(=印刷領域)が異なるドラムサイズを認識するものではなく、明らかに構成が相違している。
すなわち、引用文献3は、例えばA4の縦方向とA3の横方向のサイズが同じことに着目し、同幅の原紙(マスター)と同一のドラムで2サイズ(A4とA3サイズ)の印刷を行えることを発明としたものであって、本願発明のように、「製版領域が用紙範囲からはみ出すことにより起こるプレスローラ等のローラ部材の汚れを低減することを第1の目的とし、更には、このローラ部材の汚れを防止し、ドラムサイズ、画像サイズおよび印刷用紙のサイズに応じた最適な製版領域を決定することができる孔版印刷装置及び該装置を用いた製版領域決定方法を提供するものではない(出願当初明細書の段落番号〔0010〕)。」
しかしながら、本願補正発明は、「版胴毎に異なるサイズのインク通過領域」が、インク通過領域の主走査方向サイズが版胴毎に異なるのか、インク通過領域の副走査方向サイズが版胴毎に異なるのかを特定するものではなく、それら両者の場合を包含している。
一方、引用文献3には、上記(1-3)で検討したように、副走査方向のインク通過領域のサイズが異なる「A4サイズに対応した版胴」と「A3サイズに対応した版胴」とが交換可能なものが記載されている。
したがって、本願補正発明の「版胴毎に異なるサイズのインク通過領域」との記載は、引用文献3に記載のように副走査方向におけるインク通過領域のサイズが版胴毎に異なることを包含しており、請求人の上記主張は採用できない。

また、引用文献3の上記記載(ト)には「前記実施例では、A4サイズ用とA3サイズ用の版胴が用意されているが、B4サイズ用やB5サイズ用の版胴を用意してもよい。」と記載されており、「版胴を用意する」との記載から、1つの製版印刷装置に対して、A4サイズ用の版胴とA3サイズ用の版胴に加えて、B4サイズ用の版胴とB5サイズ用の版胴を用意することが示されていると解釈できる。
この場合に、A4とA3(又はB4とB5)では、縦と横の配列関係は直交しているが、A4用の版胴のインク通過領域のサイズとB4用のインク通過領域のサイズとでは、縦方向及び横方向のいずれにおいても異なることは明らかである。
そして、4つの版胴を交換可能とするのであれば、ドラムサイズの識別も4種類を識別することが可能となるようにすることも当業者であれば容易に想到することである。
してみれば、引用文献3の上記記載(ト)から、引用文献1記載の発明の「印刷装置5」を交換可能とするときに、「所望の種類(サイズ)の版胴に交換可能」とし、「装置本体側に版胴識別手段を備えるとともに、版胴側に異なるインク通過領域に応じたドラムサイズ情報を設ける」ようにすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

<相違点2について>
給紙トレイ上に載置される印刷用紙のサイズを認識する方法として、引用文献1記載の発明は、「印刷用紙幅検知センサ24」で印刷用紙の幅を検知し、「反射センサ25」で印刷用紙の積載方向を検知し、印刷用紙が定型サイズであることを前提に印刷用紙のサイズを認識するものである。
しかしながら、引用文献4には、上記(1-4)で示したように、給紙台上に載置された印刷用紙のサイズを検出する方法として、印刷用紙の幅方向及び長さ方向についてサイズを検出することで、不定形サイズの印刷用紙であっても印刷用紙の幅方向及び長さ方向のサイズを制御装置が認識できる点が記載されており、引用文献1記載の発明において、印刷用紙不定形サイズにも対応できるように、「印刷用紙幅検知センサ24」と「反射センサ25」からなる検知手段に代えて、「給紙台に積載された印刷用紙の長さ及び幅を検知する用紙サイズ検知手段」とすることは当業者が容易に想到することである。

<相違点3について>
引用文献1において製版領域をどのように決定するかを記載している上記記載(コ)には、原稿サイズを変倍することは明記されていない。
しかしながら、引用文献1記載の発明である「孔版印刷装置」は、上記記載(カ)、(キ)、(ク)、(ケ)に記載されるように変倍率設定手段を有するものであって、特に、上記記載(キ)、(ク)、(ケ)には、マスタへの製版を行うときに「変倍率を参照」すること、「変倍の処理を行った後」に製版することが記載されているから、製版領域を決定する際に変倍率設定手段による設定がされた場合に、「原稿サイズに基づくサイズ」を「原稿のサイズに変倍率設定手段で設定した変倍率を掛け合わせたサイズ」とすることは当業者であれば容易に想到することである。
そして、製版領域を決定する際に原稿のサイズに変倍率設定手段で設定した変倍率を掛け合わせたサイズを、「画像サイズ」と称することも当業者が容易になし得たことである。

<相違点4について>
引用文献1記載の発明は、製版領域を決定する際に、二つの原稿を合わせたサイズと印刷用紙のサイズと版胴上の印刷可能な領域とから、製版領域の副走査方向の幅を決定するものであるが、引用文献2に記載されるように、用紙の長さ方向だけでなく用紙の幅方向に原稿サイズがはみ出す場合があって、製版画像の用紙範囲からのはみ出しによる印刷時のプレスローラの汚れを防止するという課題は当業者であれば容易に認識することであるから、引用文献1記載の発明においても、副走査方向の製版領域の幅を決定するのと同様に、主走査方向の製版領域の幅を決定するようにすることは当業者が容易に想到することである。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用文献1記載の発明、引用文献2?4記載の事項及び周知の技術から当業者が予測できる程度のものである。
したがって、本願補正発明は、その出願日前に頒布された引用文献1記載の発明、引用文献2?4記載の事項及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3.本願発明について
平成17年11月16日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1に係る発明は、平成17年3月24日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載される事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「 【請求項1】 円筒状の版胴を有し装置本体に着脱交換可能に装着されるドラムユニットと、原稿の画像を読み込む原稿読取部と、前記原稿読取部が読み込んだ画像を孔版原紙に感熱製版する製版部とを備え、前記製版部で製版された前記孔版原紙を前記版胴に巻装し、前記版胴と該版胴の軸方向と平行に設けられたローラ部材との間に給紙台に積載された印刷用紙を搬送させ、前記孔版原紙の製版領域より通過するインクを前記印刷用紙に転移させて孔版印刷を行う孔版印刷装置において、
変倍率を設定する変倍率設定手段と、
前記ドラムユニットに設けられ、前記版胴のインク通過領域に応じたドラムサイズ情報を保持するドラムサイズ情報保持手段と、
前記ドラムユニットが前記装置本体に装着されたときの前記ドラムサイズ情報保持手段のドラムサイズ情報を検知するドラムサイズ検知手段と、
前記給紙台に積載された前記印刷用紙の長さ及び幅を用紙サイズとして検知する用紙サイズ検知手段と、
前記原稿のサイズに前記変倍率設定手段で設定された変倍率を掛け合わせた画像サイズ、前記用紙サイズおよび前記ドラムサイズに応じて前記印刷用紙の用紙範囲から前記製版領域がはみ出さないように当該製版領域の主走査方向及び副走査方向の幅を決定する製版領域決定手段とを備えたことを特徴とする孔版印刷装置。」

1.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は、前記「第2.」の「3.(1)」に記載したとおりである。

2.対比・判断
前記「第2.」の「2.」で示したように、本願補正発明は、本願発明のドラムサイズ情報の内容を特定することで、本願発明の「ドラムユニット」を、版胴が異なるとインク通過領域も異なるドラムに交換し得るドラムユニット(つまり、異なるインク通過領域を有する版胴を装着することが可能なドラムユニット)に限定したものであるから、本願発明は、それらの発明を特定する事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明を特定する事項を全て含み、さらに他の発明を特定する事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2.」の「3.」に記載したとおり、引用文献1記載の発明、引用文献2?4に記載の事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用文献1記載の発明、引用文献2?4に記載の事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
以上のとおり、本願発明は、本願出願日前に頒布された引用文献1記載の発明、引用文献2?4に記載の事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-06 
結審通知日 2008-06-17 
審決日 2008-06-27 
出願番号 特願平11-143451
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41L)
P 1 8・ 575- Z (B41L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 一  
特許庁審判長 番場 得造
特許庁審判官 菅藤 政明
酒井 進
発明の名称 孔版印刷装置及び該装置を用いた製版領域決定方法  
代理人 西村 教光  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ