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審決分類 審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1183051
審判番号 不服2006-10074  
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-05-18 
確定日 2008-08-13 
事件の表示 特願2003- 99886「濃淡インクを用いた印刷装置、これに用いるカートリッジ、画像記録方法および記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月24日出願公開、特開2003-266678〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成9年6月27日に出願した特願平9-187511号(優先権主張平成8年6月27日、平成8年10月18日)の一部を平成15年4月3日に新たな特許出願としたものであって、平成16年8月10日付け拒絶理由通知に対して、同年10月25日付けで手続補正がされたが、平成18年4月10日付けで拒絶査定され、これに対し、同年5月18日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、同年6月19日付けで手続補正がなされたものである。


2.平成18年6月19日付けの手続補正の補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年6月19日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理 由]
(1)本件補正前及び本件補正後の本願発明
本件補正は特許請求の範囲及び発明の詳細な説明についてするものであり、特許請求の範囲の請求項1は、本件補正前の
「濃度の異なる濃淡2種類以上のインクをそれぞれ吐出可能なヘッドを備え、該濃淡2種類以上のインクのドットの分布により多階調の画像を記録可能な印刷装置であって、
印刷すべき画像の階調信号を入力する入力手段と、
低濃度のインクによるドットの記録密度が最大値になる階調信号よりも低い階調信号で、高濃度のインクによるドットが出現し、かつ低濃度のインクによるドットの記録密度が最大値になる階調信号よりも高い階調信号では、低濃度のインクによるドットの記録密度が急峻に低減する特性に基づき、前記濃淡2種類以上のインクの一つによるドットの形成の有無を判断する第1の手段と、
該ドットの有無に基づいて、残りのインクによるドットの形成の有無を判断する第2の手段と、
前記判断された濃淡2種類以上のインクについてのドットの有無に従って、前記ヘッドからのインクの吐出を制御して、該濃淡2種類以上のインクのドットを形成して階調表現を行なうドット生成手段と
を備える濃淡インクを用いた印刷装置。」
から、
「濃度の異なる濃淡2種類以上のインクをそれぞれ吐出可能なヘッドを備え、該濃淡2種類以上のインクのドットの分布により多階調の画像を記録可能な印刷装置であって、
印刷すべき画像の階調信号を入力する入力手段と、
該入力した階調信号から、前記濃淡2種類以上のインクのうち最も低濃度のインクによるドットの記録密度が、第1の階調信号で最大値となるまでは単調増加する関係として定義されており、該第1の階調信号よりも低い階調信号で前記最も低濃度のインクより高濃度のインクによるドットが出現し、かつ前記第1の信号よりも高い階調信号では、該低濃度のインクによるドットの記録密度が急峻に低減する特性に基づき、前記最も低濃度のインクによるドットの形成の有無を判断する第1の手段と、
前記濃淡2種類以上のインクのうち最も高濃度のインクによるドットの記録密度が前記階調信号の増加に対応して単調に増加する関係として定義されており、かつ前記第1の階調信号より高い第2の階調信号以上では、当該高濃度のインクによるドットのみが形成される特性に基づき、前記最も高濃度のインクによるドットの形成の有無を判断する第2の手段と、
前記判断された前記最も低濃度のインクおよび前記最も高濃度のインクを含む濃淡2種類以上のインクについてのドットの有無に従って、前記ヘッドからのインクの吐出を制御して、該濃淡2種類以上のインクのドットを形成して階調表現を行なうドット生成手段と
を備える濃淡インクを用いた印刷装置。」
と補正された。(下線により補正箇所を示す。請求項1と同旨の補正が請求項12および請求項13にもなされている。)

ここで、本件補正前後の請求項の対応関係についてみるに、従属請求項である請求項2乃至11は、いずれも補正の前後において記載の変更がなされていない。したがって、補正前の請求項2乃至11は、それぞれ補正後の請求項2乃至11に対応している。
一方、補正前の独立請求項である請求項1、請求項15および請求項16と、補正後の独立請求項である請求項1、請求項12および請求項13とを対比すると、請求項1については補正前後においてその従属請求項の記載の変更がなされていないこと、および、補正前の請求項1と補正後の請求項1はともに「印刷装置」であること、補正前の請求項15と補正後の請求項12はともに「印刷方法」であること、補正前の請求項16と補正後の請求項13はともに「記録媒体」であることで共通しており、かつ、これらの請求項の記載が概ね一致していることから、補正前の独立請求項である請求項1、請求項15および請求項16は、補正後の独立請求項である請求項1、請求項12および請求項13に対応する。
よって、本件補正前後において、補正前の請求項1乃至11、請求項15および請求項16が、それぞれ補正後の請求項1乃至11,請求項12および請求項13に対応するものであるから、本件補正は、新たな請求項を追加するものではない。

そこで、本件補正後の請求項1を本件補正前の請求項1と対比して、本件補正がいかなる事項を補正するものであるかについて検討する。

(2)新規事項の追加について
本件補正後の請求項1は、その発明を特定するために必要な事項として、「入力した階調信号から、濃淡2種類以上のインクのうち最も低濃度のインクによるドットの記録密度が、第1の階調信号で最大値となるまでは単調増加する関係として定義されており、該第1の階調信号よりも低い階調信号で前記最も低濃度のインクより高濃度のインクによるドットが出現し、かつ前記第1の信号よりも高い階調信号では、該低濃度のインクによるドットの記録密度が急峻に低減する特性に基づき、前記最も低濃度のインクによるドットの形成の有無を判断する第1の手段」および「濃淡2種類以上のインクのうち最も高濃度のインクによるドットの記録密度が階調信号の増加に対応して単調に増加する関係として定義されており、かつ前記第1の階調信号より高い第2の階調信号以上では、当該高濃度のインクによるドットのみが形成される特性に基づき、前記最も高濃度のインクによるドットの形成の有無を判断する第2の手段」を備えたものである。

ここで、上記「第1の手段」および「第2の手段」は、それぞれの「特性」が異なるものであるから、それぞれ独立して「最も低濃度のインクによるドットの形成の有無を判断する」処理および「最も高濃度のインクによるドットの形成の有無を判断する」処理を行うことが可能なものである。
よって、本件補正後の請求項1に係る発明は、その発明を特定するために必要な事項として、「最も低濃度のインクによるドットの形成の有無を判断する第1の手段」と「最も高濃度のインクによるドットの形成の有無を判断する第2の手段」とが、それぞれ別個に処理を行う印刷装置を包含するものである。

しかしながら、願書に最初に添付した明細書(以下、添付図面を含めて「当初明細書」という。)には、
(い)「元の画像の階調データに対して、淡インクと濃インクの記録率をど
の程度にするかを設定する」テーブル(段落【0041】?【004
4】および図14)
(ろ)「濃ドットのオン・オフを決定する」のに使用する「分散型ディザの
閾値マトリックス(段落【0045】?【0047】および図13,
15)
(は)「濃ドットを形成していない場合」に、濃ドットを含む周辺画素のオ
ン・オフに基づく拡散誤差と淡ドットデータとから「淡ドットのオン
・オフを決定する」誤差拡散法による処理(段落【0048】?【0
053】および図12,16?17)
が記載されているものの、上記「最も低濃度のインクによるドットの形成の有無を判断する第1の手段」と「最も高濃度のインクによるドットの形成の有無を判断する第2の手段」とが、それぞれ別個に処理を行う印刷装置については記載も示唆もされておらず、また、そのような構成が当初明細書の記載から見て当業者にとって自明な事項であるとも認められない。

なお、請求人は上記補正の根拠について、審判請求書補正書にて、当初明細書の段落【0054】?【0056】および図14,18(a)?(h)等の記載をあげている。
図14およびこれに関連する当初明細書の記載については、上記において検討済みであるため、図14に関連する箇所以外について検討する。
上記段落【0054】?【0056】および図18(c)?(h)に記載されているのは、「淡ドットと濃ドットによる記録が行われることになる」際に
(イ)「入力された階調データが低い領域」では「階調データが高くなるに
つれて、所定の領域内に存在する淡ドットの割合は増加していく」も
のであること。
(ロ)「階調データが所定値を超える領域」では「淡ドットの割合も増加す
るが濃ドットの記録も開始され、徐々に増加する」ものであること。
(ハ)「更に、階調データが高い領域」では、「濃ドットは増加し、淡ドッ
トの割合は減少していく」ものであること。
(ニ)「階調データが更に高い領域」となると、「濃ドットだけが形成され
る」こと。
であるから、上記箇所にも、「最も低濃度のインクによるドットの形成の有無を判断する第1の手段」と「最も高濃度のインクによるドットの形成の有無を判断する第2の手段」とが、それぞれ別個に処理を行う印刷装置は、記載も示唆もされていない。

したがって、上記請求項に記載された「入力した階調信号から、濃淡2種類以上のインクのうち最も低濃度のインクによるドットの記録密度が、第1の階調信号で最大値となるまでは単調増加する関係として定義されており、該第1の階調信号よりも低い階調信号で前記最も低濃度のインクより高濃度のインクによるドットが出現し、かつ前記第1の信号よりも高い階調信号では、該低濃度のインクによるドットの記録密度が急峻に低減する特性に基づき、前記最も低濃度のインクによるドットの形成の有無を判断する第1の手段」および「濃淡2種類以上のインクのうち最も高濃度のインクによるドットの記録密度が階調信号の増加に対応して単調に増加する関係として定義されており、かつ前記第1の階調信号より高い第2の階調信号以上では、当該高濃度のインクによるドットのみが形成される特性に基づき、前記最も高濃度のインクによるドットの形成の有無を判断する第2の手段」を備えた印刷装置は、当初明細書に記載されたものでなく、かつ、自明なことでもない。

ゆえに、本件補正は、出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてした明細書の補正であるとはいえず、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反している。

(3)補正目的違反について
上記「2(2)新規事項の追加について」に記載したとおり、本件補正は却下すべきものであるが、本件補正が新規事項を追加するものでないとしても、以下のとおり、本件補正は却下すべきものである。

本件補正前の請求項1と本件補正後の請求項1とを対比すると、本件補正は、
[補正事項α]
補正前の発明を特定するために必要な事項である
「低濃度のインクによるドットの記録密度が最大値になる階調信号よりも低い階調信号で、高濃度のインクによるドットが出現し、かつ低濃度のインクによるドットの記録密度が最大値になる階調信号よりも高い階調信号では、低濃度のインクによるドットの記録密度が急峻に低減する特性に基づき、前記濃淡2種類以上のインクの一つによるドットの形成の有無を判断する第1の手段と、
該ドットの有無に基づいて、残りのインクによるドットの形成の有無を判断する第2の手段」
を、
「該入力した階調信号から、前記濃淡2種類以上のインクのうち最も低濃度のインクによるドットの記録密度が、第1の階調信号で最大値となるまでは単調増加する関係として定義されており、該第1の階調信号よりも低い階調信号で前記最も低濃度のインクより高濃度のインクによるドットが出現し、かつ前記第1の信号よりも高い階調信号では、該低濃度のインクによるドットの記録密度が急峻に低減する特性に基づき、前記最も低濃度のインクによるドットの形成の有無を判断する第1の手段と、
前記濃淡2種類以上のインクのうち最も高濃度のインクによるドットの記録密度が前記階調信号の増加に対応して単調に増加する関係として定義されており、かつ前記第1の階調信号より高い第2の階調信号以上では、当該高濃度のインクによるドットのみが形成される特性に基づき、前記最も高濃度のインクによるドットの形成の有無を判断する第2の手段」
とする補正を包含するものである。(審決注.強調のために下線を付す。以下同様。)

本件補正前の請求項1は、「濃淡2種類以上のインクの一つによるドットの形成の有無を判断する第1の手段」により判断された「ドットの有無に基づいて、残りのインクによるドットの形成の有無を判断する第2の手段」を発明を特定するために必要な事項とするものである。
一方、本件補正後の請求項1は、ある「特性」に基づいて「第1の手段」により「最も低濃度のインクによるドットの形成の有無を判断する」とともに、第1の手段とは異なる「特性」に基づいて「第2の手段」により「最も高濃度のインクによるドットの形成の有無を判断する」ものであるから、「濃淡2種類以上のインクの一つによるドットの形成の有無を判断する」手段と「残りのインクによるドットの形成の有無を判断する」手段を備えるものである。
しかしながら、本件補正後の請求項1には、上記「濃淡2種類以上のインクの一つによるドットの形成の有無を判断する」手段と上記「残りのインクによるドットの形成の有無を判断する」手段とが、「濃淡2種類以上のインクの一つによるドットの形成の有無を判断する」手段により判断された「ドットの形成の有無に基づいて、残りのインクによるドットの形成の有無を判断する」手段であるかどうかについては記載がないものであるから、「濃淡2種類以上のインクの一つによるドットの形成の有無を判断する」手段により判断された「ドットの形成の有無に基づいて、残りのインクによるドットの形成の有無を判断する」手段を、発明を特定するために必要な事項としていないものである。
したがって、本件補正における[補正事項α]は、補正前の発明を特定するために必要な事項を限定するものではなく、かつ、補正後の「第1の手段」および「第2の手段」について、何れか一方の手段により判断された「濃淡2種類以上のインクの一つによるドットの有無」に基づかないで、他方の手段により「他のインクによるドットの形成の有無を判断する」事項を包含するものであるから、実質的に請求の範囲の拡張を含むものである。

したがって、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項1を限定的に減縮したものとはいえない。
また、本件補正前の請求項1と本件補正後の請求項1を対比した場合に、この補正が、請求項の削除、誤記の訂正あるいは明りようでない記載の釈明を目的とするものといえないことは明らかである。

以上のとおりであるから、本件補正は、仮に本件補正が新規事項を追加するものでないとしても、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1号に規定する「請求項の削除」、同項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」、同項第3号に規定する「誤記の訂正」及び同項第4号に規定する「明りようでない記載の釈明」を目的とするものではない補正事項を含むものである。

(4)補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。
また、本件補正が特許法第17条の2第3項の規定に違反するものでないとしても、本件補正は平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法159条第1項において読み替えて準用する同法53条第1項の規定により、却下されるべきものである。


3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたため、本願の請求項1乃至16に記載された発明は、平成16年10月25日付け手続補正書にて補正されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記2.(1)に示した次のとおりのものである。
「濃度の異なる濃淡2種類以上のインクをそれぞれ吐出可能なヘッドを備え、該濃淡2種類以上のインクのドットの分布により多階調の画像を記録可能な印刷装置であって、
印刷すべき画像の階調信号を入力する入力手段と、
低濃度のインクによるドットの記録密度が最大値になる階調信号よりも低い階調信号で、高濃度のインクによるドットが出現し、かつ低濃度のインクによるドットの記録密度が最大値になる階調信号よりも高い階調信号では、低濃度のインクによるドットの記録密度が急峻に低減する特性に基づき、前記濃淡2種類以上のインクの一つによるドットの形成の有無を判断する第1の手段と、
該ドットの有無に基づいて、残りのインクによるドットの形成の有無を判断する第2の手段と、
前記判断された濃淡2種類以上のインクについてのドットの有無に従って、前記ヘッドからのインクの吐出を制御して、該濃淡2種類以上のインクのドットを形成して階調表現を行なうドット生成手段と
を備える濃淡インクを用いた印刷装置。」


4.引用例
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開平03-080767号公報(以下、引用例という。)には、図示とともに以下の技術事項が記載されている。

(A)「第7c図に、電気的に発生したグレースケールを誤差拡散法により
4値化した際の、入力階調レベルに対する4種の出力レベルのドット
構成(出現率)を示す。・・・(中略)・・・各出力レベルのドット
の出現率は、4ライン(4階調)毎の平均値を算出し、グラフ化した
。」(公報3ページ右下欄19行?4ページ左上欄12行)

(B)「また、従来lドツト当り白か黒かの2値しか表現できなかったレー
ザプリンタも最近では1ドット当り数レベルの濃度階調での記録が可
能となってきた。これに対応して組織的ディザ法におけるディザパタ
ーンの開発も進められている。しかし、組織的ディザ法の持つ問題点
のうち、モワレ発生に関しては未だ解決しておらず、階調処理の前処
理として、網点の周期成分を除去するたに入力データの平滑化が必要
である。このために網点原稿を再生する際は、システムの解像性能を
十分に生かすことができない。
また、誤差拡散法による多値化処理法も、入力1画素を1画素の出
力に対応させた場合は、二値化処理の際に問題となっていた縞模様が
解決させず、さらに多値の出力レベルが安定しないと擬輪郭が発生す
る不具合がある。
本願の発明は、上述の従来の問題点を改善し、テクスチャーの改善
を含めて、滑らかな階調再現特性が得られる階調記録装置を提供する
ことを第1の目的とし、それと共にシャープネスを選択しうる階調記
録装置を提供することを第2の目的とする。」(公報4ページ左下欄
5行?同ページ右下欄6行)

(C)「本願発明の第7態様の階調記録装置(外観は第7a図)は、濃度階
調を表わす入力画像信号に、すでに記録レベルが決定している画素の
入出力間の信号レベル誤差に対応した補正を加えた、誤差拡散画像信
号を発生する誤差補正手段(110);誤差拡散画像信号を、記録レ
ベルの間隔より小さい間隔の複数のしきい値と比較して多値階調記録
信号に変換する、多値化手段(120);および、階調記録信号が表
わす画像を記録する記録手段(3);を備える。」(公報5ページ左
下欄12行?同ページ右下欄1行)

(D)「上記態様7によれば、多値化手段(120:第7a図)により多値
化閾値の間隔を最適化することで、各出力レベルのドットの出現率を
制御する。」(公報6ページ左上欄16?18行)

(E)「このように、特に出力レベル数が少ないときには、連続階調の写真
のように濃淡の変化の緩やかな領域が広く現われる画像では、広い範
囲にわたって単一の出力レベルのドットで表現される領域が出現する
ことがあり、複数の出力レベルのドットが表現される領域とのテクス
チャーの違いが大きいため、擬輪郭として知覚される。」(公報6ペ
ージ右上欄19行?同ページ左下欄5行)

(F)「従って濃淡変化の緩やかな画像領域においても複数の出力レベルの
ドットが出現するように設定することが可能である。(7)式より明
らかなように、ΔTを小さく設定すると出力値がL1?Lm-1の中間
レベルのドットに決まる可能性が少なくなり、その分だけL0および
Lmの出力値のドットに決まる割合が高くなる。」(公報6ページ
右下欄15行?7ページ左上欄1行)

(G)「第7態様により、ΔTをそれぞれ20および5に設定した場合の処
理結果を第2e図および第2f図に示す。ただし、第2e図、第2f
図ともL0=0、ΔL=85である。・・・(中略)・・・従ってこ
の条件で連続階調の写真画像を処理すると、非常に滑らかに濃淡の変
化を再現することができる。」(公報7ページ左上欄4?14行)

記載(A)?(D)および引用例の明細書ならびに図面全体の記載からみて、記載(C)における「多値化手段120および誤差補正手段110」は、あるドット(審決注.記載(C)においては「画素」と記載されているが、引用例の明細書ならびに図面全体の記載からみて、記載(C)における「画素」は明らかに他の箇所における「ドット」と同一の事項を意味するものと認められるので、ここでは「ドット」という表現で統一する。)における「濃度階調を表す入力画像信号」から、各ドットに対し0?3の「出力レベル」(審決注.記載(C)においては「記録レベル」と記載されているが、引用例の明細書ならびに図面全体の記載からみて、記載(C)における「記録レベル」は明らかに他の箇所における「出力レベル」と同一の事項を意味するものと認められるので、ここでは「出力レベル」という表現で統一する。)を求める処理を行うものであると認められる。ここで、この「出力レベル」は0、すなわち出力しない状態を含んでいるものであるから、上記「多値化手段120および誤差補正手段110」は、濃淡4種類の濃度階調の各出力レベルによるドットの有無を判断するものであると認められる。

記載(C)における「階調記録装置」は、記載(B),(D)および引用例の明細書ならびに図面全体の記載から見て、1ドット当り出力レベル0?3の濃度階調での記録が可能なものであると認められる。

記載(D)?(G)からみて、第2e図には、連続階調の写真画像を処理する際の好適な各出力レベルのドットの出現率が開示されていると認められる。そして、第2e図には、出力レベル2のドット出現率が最大値になる階調レベル(図から192付近であると認められる。)よりも低い階調レベル(図から64付近であると認められる。)で、出力レベル3のドットが出現し、かつ出力レベル2のドット出現率が最大値となる階調レベルよりも高い階調レベル(図から192以上255未満であると認められる。)では出力レベル2のドット出現率が急峻に低減する、各出力レベルのドットの出現率が開示されていると認められる。

上記(A)?(G)および引用例の明細書ならびに図面全体から、引用例には次の発明(以下、引用発明という。)が記載されていると認められる。
「1ドット当り出力レベル0?3の濃度階調での記録が可能な階調記録装置であって、濃度階調を表す入力画像信号に対して、出力レベル2のドット出現率が最大値になる階調レベルよりも低い階調レベルで、出力レベル3のドットが出現し、かつ出力レベル2のドット出現率が最大値となる階調レベルよりも高い階調レベルでは出力レベル2のドット出現率が急峻に低減するように設定されたしきい値を用いることにより、濃淡4種類の濃度階調の各出力レベルによるドットの形成の有無を判断する多値化手段120および誤差補正手段110と、記録手段3とを備えた階調記録装置。」


4.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「1ドット当り0?3レベルの濃度階調での記録が可能な階調記録装置」と、本願発明における「濃淡2種類以上のインクのドットの分布により多階調の画像を記録可能な印刷装置」とは、「濃淡2種類以上のドットの分布により多階調の画像を記録可能な印刷装置」であることを限度として一致している。
引用発明における「濃度階調を表す入力画像信号」は、本願発明における「印刷すべき画像の階調信号」に相当する。
引用発明における「出力レベル2のドット」と、本願発明における「低濃度のインクによるドット」とは、「低濃度のドット」であることを限度として一致している。
引用発明における「ドット出現率」は、本願発明における「ドットの記録密度」に相当する。
引用発明における「階調レベル」は、本願発明における「階調信号」に相当する。
引用発明における「出力レベル3のドット」と、本願発明における「高濃度のインクによるドット」とは、「高濃度のドット」であることを限度として一致している。
引用発明における「設定されたしきい値を用いることにより、濃淡4種類の濃度階調の各出力レベルによるドットの形成の有無を判断する多値化手段120および誤差補正手段110」と、本願発明における「特性に基づき、濃淡2種類以上のインクの一つによるドットの形成の有無を判断する第1の手段」および「該ドットの有無に基づいて、残りのインクによるドットの形成の有無を判断する第2の手段」とは、「特性に基づき、濃淡2種類以上の各濃度のドットの形成の有無を判断する手段」であることを限度として一致している。
引用発明における「記録手段3」と、本願発明における「濃淡2種類以上のインクのドットを形成して階調表現を行なうドット生成手段」とは、「濃淡2種類以上のドットを形成して階調表現を行なうドット生成手段」であることを限度として一致している。

してみると、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「濃淡2種類以上のドットの分布により多階調の画像を記録可能な印刷装置であって、印刷すべき画像の階調信号に対して、低濃度のドットの記録密度が最大値になる階調信号よりも低い階調信号で、高濃度のドットが出現し、かつ低濃度のドットの記録密度が最大値となる階調信号よりも高い階調信号では低濃度のドット出現率が急峻に低減する特性に基づき、濃淡2種類以上の各濃度のドットの形成の有無を判断する手段と、濃淡2種類以上のドットを形成して階調表現を行なうドット生成手段とを備えた、濃淡2種類以上のドットを用いた印刷装置。」
一方で、本願発明と引用発明とは、以下の点で相違する。

<相違点1>
本願発明の「印刷装置」は、「濃度の異なる濃淡2種類以上のインクをそれぞれ吐出可能なヘッド」を備え、濃淡2種類以上のドットをそれぞれ「インク」によって形成することにより異なる濃度で記録するものであると特定されるものであるのに対し、引用発明は濃淡2種類以上のドットによって異なる濃度で記録するものではあるものの、「インク」を用いるものではなく、上記特定を有しない点。
<相違点2>
本願発明は、印刷すべき画像の階調信号を入力する「入力手段」を備えると特定されるものであるのに対し、引用発明には「入力手段」を有するものであるのかどうかについて明記がなく、上記特定を有するものであるのかどうか明示されていない点。
<相違点3>
本願発明は、「濃淡2種類以上のインクの一つによるドットの形成の有無を判断する第1の手段」と「該ドットの有無に基づいて、残りのインクによるドットの形成の有無を判断する第2の手段」を有するものと特定されるのに対し、引用発明は「濃淡4種類の濃度階調の各出力レベルのドットの形成の有無を判断する手段」を有してはいるものの、該手段が「第1の手段」および「第2の手段」を有するものであるかどうかについては明記されておらず、上記特定を有するものであるのかどうか明示されていない点。


6.判断
上記相違点について判断する。
<相違点1について>
印刷装置という技術分野において、濃淡2種類以上のドットを表現するために、濃淡2種類以上のインクをそれぞれ吐出可能なヘッドを用いて記録を行う技術は、例えば特開平02-215541号公報等に記載されているように、周知のものである。
したがって、引用発明における濃淡2種類以上のドットの分布により多階調の画像を記録可能な印刷装置のドット生成手段として、上記周知事項である濃淡2種類以上のインクをそれぞれ吐出可能なヘッドを用いて記録を行う構成を採用することは、当業者ならば容易に想到することができたものである。
<相違点2について>
引用発明は、印刷すべき画像の階調信号が入力されることにより処理を行うものであるから、明記はないものの、印刷装置に階調信号を入力するための構成を有していることは、当業者にとって自明の事項である。よって、上記相違点2は単なる形式的な差異に過ぎず、実質的な相違点ではない。
<相違点3について>
引用発明の「濃淡4種類の濃度階調の各出力レベルのドットの形成の有無を判断する手段」は、各ドット毎に、濃度階調を表す入力画像信号を補正した信号を、3つのしきい値に基づいて、各ドットを出力レベル0?3のいずれで出力するかを判断するものであり、かつ、記載(F)等の引用例の発明の詳細な説明および図面の記載から見て、引用発明における各ドットは、それぞれ固有の出力レベルを有するものと認められる。
つまり、引用発明は、ある出力レベルでドットを形成した場合には、当該ドットが他の出力レベルで形成されることがないものである。
したがって、引用発明の「濃淡4種類の濃度階調の各出力レベルのドットの形成の有無を判断する手段」は、ある出力レベルのドットの有無を判断する機能と、ある出力レベルのドットの有無に基づいて、残りの出力レベルによるドットの形成の有無を判断する機能を有しているものである。
よって、引用発明における「濃淡4種類の濃度階調の各出力レベルのドットの形成の有無を判断する手段」は、「濃淡2種類以上のうちある濃度によるドットの形成の有無を判断する」機能と「該ドットの有無に基づいて、残りの濃度によるドットの形成の有無を判断する」機能を有しているものであるから、上記相違点3は単なる形式的な差異に過ぎず、実質的な相違点ではない。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明および技術常識に基づいて、当業者が予測しうるものに過ぎない。

以上のとおり、本願発明は引用発明および技術常識に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。


7.むすび
以上述べたとおり、本件補正は却下されなければならず、かつ、本願発明が特許を受けることができないものである以上、本願のその余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-11 
結審通知日 2008-06-17 
審決日 2008-06-27 
出願番号 特願2003-99886(P2003-99886)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (B41J)
P 1 8・ 571- Z (B41J)
P 1 8・ 561- Z (B41J)
P 1 8・ 574- Z (B41J)
P 1 8・ 573- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小牧 修後藤 時男  
特許庁審判長 番場 得造
特許庁審判官 長島 和子
上田 正樹
発明の名称 濃淡インクを用いた印刷装置、これに用いるカートリッジ、画像記録方法および記録媒体  
代理人 特許業務法人明成国際特許事務所  

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