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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41M
管理番号 1183099
審判番号 不服2006-9240  
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-05-08 
確定日 2008-08-14 
事件の表示 平成 8年特許願第 11007号「熱転写受像シート」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 8月 5日出願公開、特開平 9-202056〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1.手続の経緯
本願は、平成8年1月25日に出願したものであって、平成17年8月17日付けの拒絶理由の通知に対し、同年10月24日付けで明細書に係る手続補正がなされたが、平成18年3月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月8日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年6月6日付けで明細書に係る手続補正がなされたものである。

第2.平成18年6月6日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年6月6日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を補正する内容を含んでおり、本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】 シート状支持体と、前記支持体の一表面上に形成され、かつ染料を受容する画像受容層と、前記シート状支持体の他方の面上に形成された裏面塗工層とを有し、前記裏面塗工層が水溶性有色染料を含み、かつJIS P 8123によって規定された前記画像受容層面のハンター白色度W1(%)、および前記裏面塗工層面のハンター白色度W2(%)が、下記式(1)および(2):
W1≧82 (1)
|W1-W2|≧5 (2)
を満たしていることを特徴とする熱転写受像シート。
【請求項2】 シート状支持体と、前記支持体の一表面上に形成され、かつ染料を受容する画像受容層と、前記シート状支持体の他方の面上に形成された裏面塗工層とを有し、前記裏面塗工層が水溶性有色染料を含み、かつJIS P 8123によって規定された前記画像受容層面のハンター白色度W1(%)およびJIS Z 8730によって規定された前記画像受容層面と前記裏面塗工層面との色差ΔE^(*)_(ab)が、それぞれ下記式(I)および(3):
W1≧82 (1)
ΔE^(*)_(ab)≧1.5 (3)
を満たすことを特徴とする熱転写受像シート。
【請求項3】 前記裏面塗工層が、前記水溶性有色染料とともに接着剤樹脂を含有する、請求項1又は2に記載の熱転写受像シート。」
から
「【請求項1】 シート状支持体と、前記支持体の一表面上に形成され、かつ染料を受容する画像受容層と、前記シート状支持体の他方の面上に形成された裏面塗工層とを有し、前記裏面塗工層が直接染料又はカチオン染料を含み、かつJIS P 8123によって規定された前記画像受容層面のハンター白色度W1(%)、および前記裏面塗工層面のハンター白色度W2(%)が、下記式(1)および(2):
W1≧82 (1)
|W1-W2|≧5 (2)
を満たしていることを特徴とする熱転写受像シート。
【請求項2】 シート状支持体と、前記支持体の一表面上に形成され、かつ染料を受容する画像受容層と、前記シート状支持体の他方の面上に形成された裏面塗工層とを有し、前記裏面塗工層が直接染料又はカチオン染料を含み、かつJIS P 8123によって規定された前記画像受容層面のハンター白色度W1(%)およびJIS Z 8730によって規定された前記画像受容層面と前記裏面塗工層面との色差ΔE^(*)_(ab)が、それぞれ下記式(I)および(3):
W1≧82 (1)
ΔE^(*)_(ab)≧1.5 (3)
を満たすことを特徴とする熱転写受像シート。
【請求項3】 前記裏面塗工層が、前記水溶性有色染料とともに接着剤樹脂を含有する、請求項1又は2に記載の熱転写受像シート。」
に補正された。

上記補正は、補正前の請求項1又は2に記載した発明を特定するために必要な事項である「裏面塗工層」について、「水溶性有色染料を含み」を、「直接染料又はカチオン染料を含み」と限定したものであって、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項2に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.独立特許要件について
(1)刊行物1について
原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-255270号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の記載がある。(下線は当審にて付与した。)
ア.「シート状支持体と、このシート状支持体の一面上に形成され、かつ染料染着性樹脂を主成分として含む染料受容層と、シート状支持体の他の側の面上に形成された裏面層とを有し、前記染料受容層の表面の表面反射特性を示すJIS-Z8730によって規定されたb値と前記裏面層の表面の前記b値との差が3.0以上であり、かつ前記裏面層がシロキサン基含有セグメントを含むシリコーンブロック共重合体を主成分として含むことを特徴とする熱転写受容シート。」(【請求項1】)
イ.「【発明が解決しようとする課題】本発明は従来の受容シートの有する前述の問題点を解消し、受容シートの表面と裏面の表面反射特性の差により目視で受容シートの表裏が判別でき、また万が一表裏を間違えた場合も、インキリボンの受容シートへの融着を防止する受容シートを提供しようとするものである。」(段落【0006】)
ウ.「本発明の受容シートは、染料受容層の表面の表面反射特性を示すJIS-Z8730によって規定されたb値と裏面層の表面の前記b値の差が、3.0以上であることが特徴である。受容シートは染料熱転写プリンター等に用いられ、銀塩写真のような美しいフルカラー画像のプリント用に使用される。そのためシート状支持体は白く、染料受容層、裏面層は透明であることが求められる。このような受容シートにおいてその表裏の表面反射特性に差を付けるための手段として、(1)染料受容層が形成される側と裏面層が形成される側のシート状支持体の色目を変える、(2)染料受容層に有色顔料(青色顔料、白色顔料)、蛍光染料を添加し、裏面の白さとの差をつける、(3)裏面層の構成材料の一部に有色の材料を用い染料受容層面との色目を変える等が挙げられる。」(段落【0016】)
エ.「実施例3
厚さ150μmの無機顔料を含むポリオレフィンを主成分として2軸延伸した多層構造フィルム(商標:トヨパール、東洋紡製)を、シート状支持体として用い、この一方の面に染料受容層として下記塗料-4を固形分5g/m^(2) の割合でダイコーティング法で、塗工、乾燥した。シート状支持体の、前記染料受容層を設けた面の反対側の面上に裏面層として下記塗料-5を固形分0.5g/m^(2) の割合でダイコーティング法で、塗工、乾燥して、受容シートを得た。
塗料-4
飽和ポリエステル樹脂(商標:バイロン200 東洋紡製) 100部
シリコーンオイル(商標:SH3746
トーレダウコーニングシリコーン製) 5部
イソシアネート(商標:コロネートL 日本ポリウレタン工業製) 5部
表面処理シリカ粒子(ジメチルシロキサン系重合体被覆体水沢化学製)5部
の混合物をトルエン:メチルエチルケトン=5:1の混合溶剤の20%溶液とした。
塗料-5
アクリルシリコーンブロック共重合体
(商標:モディパーFS700 日本油脂製) 100部
有色導電剤(商標:KAYASTAT TS-201(白)日本化薬製)
70部
硬化剤(商標:KAYASTAT TS-200C)日本化薬製) 10部
の混合物をトルエンの10%溶液とした。
上記塗料-4を用いて染料受容層を、上記塗料-5を用いて裏面層を形成したことを除き、実施例1と同様にして受容シートを作製した。」(段落【0025】?【0028】)
オ.「【表1】

」(段落【0036】)

上記の事項をまとめると、刊行物1には、以下の発明が開示されていると認められる。(以下、刊行物発明という。)
「シート状支持体と、このシート状支持体の一面上に形成され、かつ染料染着性樹脂を主成分として含む染料受容層と、シート状支持体の他の側の面上に形成された裏面層とを有し、前記染料受容層の表面の表面反射特性を示すJIS-Z8730によって規定されたb値と前記裏面層の表面の前記b値との差が3.0以上であり、かつ前記裏面層が有色の材料を含む、熱転写受容シート。」

(2)対比
本願補正発明と刊行物発明とを比較すると、刊行物発明における「シート状支持体」、「染料染着性樹脂を主成分として含む染料受容層」、「シート状支持体の他の側の面上に形成された裏面層」、及び、「熱転写受容シート」は、それぞれ、本願補正発明における「シート状支持体」、「染料を受容する画像受容層」、「前記シート状支持体の他方の面上に形成された裏面塗工層」、及び、「熱転写受像シート」に相当する。
そして、刊行物発明における「JIS-Z8730によって規定されたb値と前記裏面層の表面の前記b値との差が3.0以上」に関して、
「JIS-Z8730によって規定されたb値と前記裏面層の表面の前記b値との差」は、すなわち、「Δb^(*)」であり、ΔE^(*)_(ab)は
ΔE^(*)_(ab)={(ΔL^(*))^(2)+(Δa^(*))^(2)+(Δb^(*))^(2)}^(1/2)で与えられるから、刊行物発明においても、「JIS Z 8730によって規定された前記画像受容層面と前記裏面塗工層面との色差ΔE^(*)_(ab)」は当然3.0以上となる。
なお、仮に「JIS-Z8730によって規定されたb値と前記裏面層の表面の前記b値との差」の「b値」がCIELABの「b^(*)値」ではなく、ハンター色差式の「b値」であったとしても、CIELAB表色系はハンターLab表色系を修正したものであり、色差ΔE_(H)と色差ΔE^(*)_(ab)とで大きな差異はないから、刊行物発明においても、ΔE^(*)_(ab)≧1.5を満たしている蓋然性が高く、特に、刊行物発明の実施例3は、「b値」の差が13.17(上記摘記事項オ.【表1】参照)であるから、ΔE^(*)_(ab)≧1.5を満たすことは明らかである。
したがって、刊行物発明は、本願補正発明の式(3)(ΔE^(*)_(ab)≧1.5)を満たしている。
よって、両者は、
「シート状支持体と、前記支持体の一表面上に形成され、かつ染料を受容する画像受容層と、前記シート状支持体の他方の面上に形成された裏面塗工層とを有し、前記裏面塗工層が有色の材料を含み、かつJIS Z 8730によって規定された前記画像受容層面と前記裏面塗工層面との色差ΔE^(*)_(ab)が、ΔE^(*)_(ab)≧1.5を満たす、熱転写受像シート。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]画像受容層に関し、本願補正発明においては、「JIS P 8123によって規定された画像受容層面のハンター白色度W1(%)」が82以上であるのに対し、刊行物発明においては、その記載がない点。

[相違点2]裏面塗工層が有色の材料を含むことに関し、本願補正発明においては、有色の材料が直接染料又はカチオン染料であるのに対し、刊行物発明においては、その記載がない点。

(3)判断
上記相違点について検討する。
まず、相違点1については、例えば、原査定の拒絶の理由に引用された特開平2-206590号公報には、ハンター白色度を82以上とした感熱転写用受像紙が記載されており(第8頁表1参照)、受像紙の白色度を上げることは技術常識であるから、この点は、当業者が適宜採用できる設計的事項に過ぎない。
次に、相違点2については、上記摘記事項ウ.に示されるように、熱転写受像シートの色目を変えるために、有色顔料や有色の材料を用いることは技術常識であり、かつ、塗布液に含有させる着色剤として、直接染料又はカチオン染料(塩基性染料)を用いることも周知の事項(必要ならば、特開平5-238172号公報、段落【0024】?【0026】参照。)であるから、熱転写受像シートの色目を変えるために、有色の材料として、直接染料又はカチオン染料を採用することに格別の技術的困難性は見出せない。
また、上記相違点によって本願補正発明が奏する効果も、当業者が予測し得る程度のものであって、格別のものとはいえない。
したがって、相違点1及び2に係る構成の変更は、当業者が刊行物発明及び周知の事項に基づいて適宜為し得たことである。

(4)まとめ
以上のように、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3.補正却下の決定についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成18年6月6日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明は、平成17年10月24日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものであり、特に請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項2】 シート状支持体と、前記支持体の一表面上に形成され、かつ染料を受容する画像受容層と、前記シート状支持体の他方の面上に形成された裏面塗工層とを有し、前記裏面塗工層が水溶性有色染料を含み、かつJIS P 8123によって規定された前記画像受容層面のハンター白色度W1(%)およびJIS Z 8730によって規定された前記画像受容層面と前記裏面塗工層面との色差ΔE^(*)_(ab)が、それぞれ下記式(I)および(3):
W1≧82 (1)
ΔE^(*)_(ab)≧1.5 (3)
を満たすことを特徴とする熱転写受像シート。」

2.刊行物1
これに対して、平成18年3月24日付け拒絶査定で引用された刊行物1、及びその記載事項は、前記第2.2.ア.?オ.で示したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記第2.2.で検討した本願補正発明から「裏面塗工層」に関して、「直接染料又はカチオン染料を含み」を、上位概念である「水溶性有色染料を含み」としたものである。
そうすると、本願発明の下位概念に限定されたものに相当する本願補正発明が、上記第2.2.に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項2に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-11 
結審通知日 2008-06-17 
審決日 2008-07-01 
出願番号 特願平8-11007
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B41M)
P 1 8・ 121- Z (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅野 芳男  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 木村 史郎
小宮山 文男
発明の名称 熱転写受像シート  
代理人 西山 雅也  
代理人 西山 雅也  
代理人 西舘 和之  
代理人 石田 敬  
代理人 西舘 和之  
代理人 石田 敬  

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