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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H01S |
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管理番号 | 1183122 |
審判番号 | 不服2006-23137 |
総通号数 | 106 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-10-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-10-12 |
確定日 | 2008-08-14 |
事件の表示 | 特願2004-324771「半導体発光素子」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 5月25日出願公開、特開2006-135221〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願手続の概要は、次のとおりである。 特許出願 平成16年11月 9日 手続補正書提出 平成18年 2月 9日 拒絶理由通知書発送 平成18年 3月14日 意見書・手続補正書提出 平成18年 5月15日 拒絶査定謄本送達 平成18年 9月12日 審判請求 平成18年10月12日 手続補正書提出 平成18年11月10日 2.本願発明 請求人が特許を受けようとする発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年11月10日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1は、次のとおりであり、請求項2ないし6は、その従属項である。 「【請求項1】n型クラッド層とp型クラッド層との間にInGaN多重量子井戸構造からなる活性層が挟まれた構造を有する、窒化物系III-V族化合物半導体を用いた半導体発光素子であって、 前記n型クラッド層と前記p型クラッド層との間に、 前記n型クラッド層上に形成されたn型光GaNガイド層と、 前記n型光GaNガイド層上に形成されたInGaN光ガイド層と、 前記活性層の上方に形成されたp型AlGaN電子障壁層と、 前記p型AlGaN電子障壁層上に形成されたp型GaN光ガイド層と、 をさらに備え、 前記n型クラッド層は、Al組成比xが0.01≦x≦0.03、かつ厚さが300nm以上のn型AlxGa1-xN層と、前記n型AlxGa1-xN層よりもAl組成比xが大きな部分n型AlGaNクラッド層とを備え、 前記部分n型AlGaNクラッド層は、前記n型クラッド層の下部に配置されており、 前記p型クラッド層は、Al組成比xが0.01≦x≦0.03、かつ厚さが300nm以上のp型AlxGa1-xN層を備えることを特徴とする半導体発光素子。」 3.本願明細書の記載 (1)本願発明の目的等について 本願発明の目的等に関し、本願明細書には、次の記載がある。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、窒化物系III-V族化合物半導体を用いた半導体発光素子に関するものである。 【背景技術】 【0002】 近年、光ディスクの高密度化に必要である青色領域から紫外線領域におよぶ発光が可能な半導体レーザとして、AlGaInNなどの窒化物系III-V族化合物半導体を用いた半導体レーザの研究開発が盛んに行われ、すでに実用化されている。 【0003】 これまでに報告されている窒化物系III-V族化合物半導体を用いた半導体レーザは、SCH(SeparateConfinementHeterostructure)構造を有している。 【0004】 すなわち、活性層へ光を効率よく閉じ込めるために、n側には比較的屈折率の小さい材料であるn型AlGaNクラッド層が、p側には同じく比較的屈折率の小さい材料であるp型AlGaNクラッド層が設けられている。 【0005】 さらに、n型AlGaNクラッド層と活性層との間に、比較的屈折率の大きい材料を用いたn側光ガイド層が、p型AlGaNクラッド層と活性層との間に比較的屈折率の大きい材料を用いたp側光ガイド層が設けられている。 【0006】 ここで、AlGaNクラッド層は、Al組成比が大きいほど屈折率が小さくなる。そのため、Al組成比の大きなAlGaNクラッド層を用いることで、光の分布を活性層近くに収束することができる。これは、光モードの実効屈折率と材料の屈折率の差が大きいほど、活性層から離れるに従う光減衰量が大きくなるためである。このことにより活性層への光閉じ込め量が大きくなる結果、しきい値が低減するなどの利点がある。 【0007】 また、n側においては、n型AlGaNクラッド層の活性層よりも離れた側に、GaN材料が積層されているのが一般的である。これは、サファイア、SiC等、GaNとの格子不整合度の大きな基板を用いた場合には、格子不整合を緩和するための低温GaNバッファ層が基板とクラッド層との間に積層されるし、GaN材料の横方向成長技術を用いた転位低減技術などが用いられる場合にも、基板とAlGaNクラッド層の間に数μm以上のGaN横方向成長層が積層される。近年、GaN基板が多く用いられるが、この場合についても同様に、n型AlGaNクラッド層下にGaN基板が存在することになる。 【0008】 このように、n型AlGaNクラッド層の活性層よりも離れた側に、GaN材料あるいは、光モードの実効屈折率よりも大きな屈折率を持つ材料がある場合には、この材料内での光強度は活性層から離れても減衰しにくいため、大きな光閉じ込め係数を持つこととなる。従って、相対的に活性層の光閉じ込め量が低下し、大幅なしきい値上昇などの特性劣化を引き起こすといった問題があることが知られている(例えばJapaneseJournalofAppliedPhysicsvol.38Part1,No.3B(1999)p.1780-参照)。 【0009】 また、GaN層と屈折率の異なるサファイア基板やSiC基板との界面、あるいは、GaN基板下面では光のフレネル反射が発生するため、GaN層内やGaN基板内には共振モードが形成される。その共振モードが垂直方向の遠視野像(farfieldpattern:FFP)パターンにリップルを発生させるといった問題点があることも、実測及びシミュレーションなどで確認されている。 【0010】 このような問題を回避するために、n型AlGaNクラッド層の活性層よりも離れた側にあるGaN材料、あるいは光モードの実効屈折率よりも大きな屈折率を持つ材料への光の滲み出しを極力抑える必要がある。このためにも、n型AlGaNクラッド層のAl組成比を大きく、すなわちn型AlGaNクラッド層の屈折率を小さくして、活性層から離れるに従う光強度の減衰を大きくし、n型AlGaNクラッド層内で十分光強度を減衰させる必要がある。また、活性層から離れるに従う光強度の減衰を大きくするために、n型AlGaNクラッド層の厚さについてもできるだけ厚くすることが好ましい。 【0011】 一方、サファイア基板上あるいはSiC基板上に低温で成長したGaNバッファ層の格子定数や、サファイア基板上に横方向成長技術を用いて成長したGaN層、あるいはGaN基板の格子定数は、GaNの格子定数に非常に近いものとなっている。 【0012】 これらの層上にn型クラッド層として、n型AlGaN層を成長すると、AlGaN材料の格子定数はAl組成比が大きくなるに従い小さくなるため、Al組成比が大きいほど下地との格子不整合度が大きくなる。その結果、クラックや転位の発生が顕著になることが知られている。また、クラックや転位の発生がなくとも、大きな歪みがかかる状態となるため、素子の寿命に大きな悪影響を与える。 【0013】 このように、n型AlGaNクラッド層のAl組成比を大きくしすぎた場合には、クラックや転位の発生無しに成長可能な膜厚(臨界膜厚)が小さくなるため、かえって基板側への光滲み出しが大きくなる。 【0014】 以上のことから、n型およびp型のAlGaNクラッド層のAl組成比には最適な値が存在し、AlGaNクラッド層に関しては、p型、n型ともに、Al組成比が0.06?0.07程度のAlGaN材料を用いることが一般的となっている(非特許文献1参照)。 【0015】 【非特許文献1】T.Tojyo他,「High-Power AlGaInN Laser Diodes with High Kink Level and Low Relative Intensity Noise」,Jpn.J.Appl.Phys.vol.41(2002),pp.1829-1833 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0016】 しかしながら、n型およびp型AlGaNクラッド層のAl組成比を決定するために考慮しなければならない特性として垂直方向のFFPがある。一般に光ディスク用途の窒化物系LDにおいて、基板に水平な方向のFFPの全半値幅は6?10°程度となるのに対し、基板に垂直な方向のFFPの全半値幅は20°以上となる。このように、水平方向と垂直方向のビーム出射角が大きく異なっている。 【0017】 しかし、光ディスク用途のアプリケーションとしては、この垂直方向と水平方向とFFPの全半値幅の比(アスペクト比)ができるだけ1に近いことが要求される。このため、垂直方向のFFPの全半値幅は、より小さくすることが望ましい。 【0018】 一般に、半導体レーザ素子内部における光分布、すなわち近視野像(Nearfieldpattern:NFP)とFFPはフーリエ変換の関係にあるため、垂直方向のFFPの全半値幅をより小さくするためには、NFPの広がりを大きくすることが必要となる。これを実現するために、活性層の屈折率を小さくして垂直方向の光の広がりを大きくするといった方法があるが、この場合には、当然p型コンタクト層やp型電極への光の滲み出しが大きくなることによる光吸収増加の問題や、前述したような基板側への光滲み出しの問題が大きくなる。 【0019】 これらの問題を回避するためには、n型およびp型のAlGaNクラッド層のAl組成比を大きくするか、AlGaNクラッド層の膜厚を大きくする必要があるが、これについては、前述したようにクラックや転位の発生が問題となってくる。 【0020】 以上の問題は、n型クラッド層よりも基板側に、その屈折率が実効屈折率よりも大きな層(例えば、GaNバッファ層やGaN基板そのもの)が存在し、さらに、AlGaNクラッド層の格子定数がその下地となるGaNの格子定数と異なるといった、窒化物系III-V族化合物半導体を用いた半導体レーザや半導体発光ダイオードの特別な構造に起因して発生するものである。 【0021】 以上のように、基板側への光の滲み出しの問題、下地層との格子不整合に起因するクラックや転位発生の問題、さらに垂直方向のFFPの全半値幅の問題は互いに絡み合っており、全てを解決するためには、AlGaNクラッド層のAl組成比が大きい場合においてもクラックや転位の発生を抑えることができるような特別な技術が必要である。 【0022】 そこで本発明の目的は、基板側への光の滲み出し、及びクラッド層でのクラックや転位の発生の問題なく、良好なFFP特性を備える半導体発光素子を提供することである。」 (2)基板側への光の滲み出しについて この点について、本願明細書には図4,5を参照して、 「【0058】 各n型AlGaNクラッド層3のAl組成比に対し、図3に示した臨界膜厚と同じ厚さのn型クラッド層3を形成した場合において、全光強度に対する、GaNバッファ層2およびGaN基板1内の光強度の割合、すなわち光滲み出し割合を計算した結果を図4に示す。 【0059】 また、臨界膜厚ではなく、臨界膜厚の70%の厚さのn型クラッド層3を形成した場合における、GaNバッファ層2およびGaN基板1内への光滲み出し割合を計算した結果を図5に示す。 【0060】 図4及び図5からわかるように、n型AlGaNクラッド層3のAl組成比として0.06より大きなものを用いるよりも、0.06より小さいものを用いた方が、GaN基板1への光滲み出し割合を大幅に低減できることがわかる。」と記載されている。 (3)クラッド層の厚さ300nmについて また、クラッド層の厚さを300nmとすることについて、本願明細書には、 「【0064】 なお、本実施の形態では、n型AlGaNクラッド層3の組成比xを0.05、膜厚を2μmとしたが、図4,5から明らかなように、Al組成比xは0.01≦x<0.06の範囲であれば、Al組成比が0.06以上の場合に比べて光滲み出しを大幅に小さく抑えることができる。また、n型クラッド層3の膜厚は、300nm以上であれば十分光滲み出しを小さくできる。ここで、Al組成比の下限を0.01としたのは、0.01より小さなAl組成比のn型クラッド層3では、活性層6から離れるに従う光の減衰が十分でなくなる可能性があるためである。 【0065】 また、n型AlGaNクラッド層3が2層以上の多層構造であっても、それぞれのAl組成比が0.06より小さければ、上述した効果を有することは明らかである。 さらに、n型AlGaNクラッド層3が2層以上の多層構造であって、そのうちの少なくとも1層にAl組成比xが0.01≦x<0.06の層が含まれる場合においても、このようなAl組成比の層の合計の膜厚が300nm以上あれば同様の効果が得られる。」と記載されている。 4.明細書の記載についての検討 上記記載、特に段落【0008】?【0010】、【0013】、【0018】及び【0022】によれば、本願発明は、基板側への光の滲み出しの問題がなく、良好なFFP特性を備える半導体発光素子を提供するものであると認められる。 そして、基板側への光の滲み出しについて、上記段落【0058】?【0060】に記載されているところであるが、段落【0058】及び【0059】にそれぞれ記載されるように、図4及び図5は、n型AlGaNクラッド層の膜厚を臨界膜厚及びその70%としたときの光滲み出し割合をそれぞれ計算したものである。 ここで、図4及び図5において黒丸で示されているもののうち、Al組成比が本願請求項1で規定される範囲である0.02及び0.03のものについて、図3にはこれらのものに対応する臨界膜厚が示されておらず、図4及び図5において、それぞれの膜厚をいくらとして計算したものであるか不明である。 また、クラッド層のAl組成比が0.01のものについては、図4,5に記載もない。 さらに検討するに、図4及び図5において黒丸で示されているもののうち、Al組成比が0.04、0.05、0.06、0.065、0.07のものについては、図3に臨界膜厚が示されているから、クラッド層の膜厚がどの程度であるかについての理解ができるので、例えば、Al組成比が0.065のものについて図3をみると、臨界膜厚がほぼ1.5μmであることがみてとれ、この70%は約1μmである。 一方、Al組成比が0.065のものについて図5をみると、その光閉じこめ量、すなわち、基板側への光滲み出し量は約0.11%であることがみてとれる。 したがって、クラッド層のAl組成比が0.065で、その膜厚が1μmのものでは、基板側への光滲み出し量が約0.11%であることが理解される。 ここで、本願請求項1に記載されるように、クラッド層の膜厚が300nm、すなわち0.3μmであるならば、この厚さは、上記の膜厚1μmの3割であり随分と薄いから、基板側への光滲み出し量は、0.11%よりもかなり大きい値になるものと考えられる。 このように、クラッド層の膜厚が300nmであるならば、Al組成比が0.065においてさえ、基板側への光滲み出し量が0.11%よりもかなり大きい値になるところ、本願請求項1のようにAl組成比が0.01?0.03と小さいものであるならば、このクラッド層の屈折率はAl組成比が0.065のものより大きくなり、クラッド層での光強度の減衰が小さくなるのであるから(段落【0010】等参照。)、基板側への光滲み出し量はさらに大きいものとなる。 してみれば、クラッド層のAl組成比が0.01?0.03で、その膜厚が300nmのものにおいて、基板側への光の滲み出しの問題がないと到底認めることはできない。 したがって、例えば、クラッド層のAl組成比が0.01でその膜厚が300nmであるものを含む本願発明が、基板側への光の滲み出しの問題がなく、良好なFFP特性を備える半導体発光素子となるものとして、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されていると認めることができない。 5.むすび 以上のとおりであるから、本願発明が本願明細書の発明の詳細な説明に記載されているとはいえず、本願は、原査定の拒絶理由で指摘したように特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-06-11 |
結審通知日 | 2008-06-17 |
審決日 | 2008-06-30 |
出願番号 | 特願2004-324771(P2004-324771) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
Z
(H01S)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 近藤 幸浩、土屋 知久 |
特許庁審判長 |
稲積 義登 |
特許庁審判官 |
服部 秀男 里村 利光 |
発明の名称 | 半導体発光素子 |
代理人 | 吉竹 英俊 |
代理人 | 有田 貴弘 |
代理人 | 吉田 茂明 |