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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01D
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B01D
管理番号 1183224
審判番号 不服2005-18405  
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-09-22 
確定日 2008-08-21 
事件の表示 平成11年特許願第138625号「排ガス中の有害物の除去方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年11月28日出願公開、特開2000-325737〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯 ・本願発明
本願は、平成11年5月19日の出願であって、平成17年4月27日付け拒絶理由通知に対して、同年7月14日付けで手続補正書及び意見書が提出されたが、同年8月9日付けで拒絶査定され、これに対して、同年9月22日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
本願の請求項1に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。
「モンモリロナイトもしくはこれを主成分とする粘土鉱物からなる吸着剤を、単独の吸着剤として排ガス中に投入することを特徴とする、排ガス中の有害物の除去方法。」

第2 引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願の日前である平成11年1月19日に頒布された「特開平11-9963号公報 」(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。
(a)「無機酸化物の多孔性物質と飽和水溶液のpH値が11.5以下の粉体状酸性ガス中和剤および/又は、活性炭もしくは活性コークスからなる粉体状の焼却炉煙道吹込剤。」(【請求項1】)
(b)「無機酸化物の多孔性物質が、酸性白土、活性白土、・・・、ベントナイト、・・・等の粘土鉱物およびこれらの粘土鉱物を酸で処理し、アルミニウム、マグネシウムなどの不純物を除去した物質からなる群から選択される少なくとも1種の粉体状の物質を含有する請求項1?3に記載の焼却炉煙道吹込剤。」(【請求項4】)
(c)「請求項1?14に記載のいずれかの吹込剤を焼却炉煙道に吹き込んだ後に、集塵機を用いて排ガスから該吹込剤を含有する煤塵を分離することを特徴とする排ガス処理方法。」(【請求項15】)
(d)「本発明は、都市ごみ焼却場の排ガス処理設備で排出されるダイオキシン類等の有害有機物や重金属を含有する排ガス処理に使用される煙道吹込剤とその処理方法に関するものである。」(段落【0001】)
(e)「本発明の処理剤のダイオキシン類の除去メカニズムついて説明する。・・・無機酸化物の多孔質物質はダイオキシン類の吸着性能は活性炭には劣るが、活性炭と比較して低価格であり、多量に使用することが出来るので、活性炭と併用することにより、ダイオキシン類の排出濃度をより低減することができる。」(段落【0018】)
(f)「本発明に用いる無機酸化物の多孔質物質について説明する。・・・また、ダイオキシン類や重金属を吸着する能力は無機酸化物の多孔質物質の比表面積に依存し、比表面積が大きいほどダイオキシン類や重金属の吸着能力は向上する。通常、比表面積が50m^(2)/g以上である無機酸化物の多孔質物質が効果的にダイオキシン類や重金属を吸着するために使用されるが、本発明では比表面積が100m^(2)/g以上のものが好ましく使用される。」(段落【0020】)
(g)「本発明の活性炭の配合量について説明する。本発明で使用する活性炭を増量することによりダイオキシン類等の有機物系の汚染物質を除去する能力は増大する。しかし、混入量が多すぎると粉塵爆発の原因にもなる可能性がある。また、過剰に配合すると薬剤全体の吹き込み量が増大するため、コスト的にも不利となる。したがって、活性炭の配合量は、無機酸化物の多孔質物質100重量部に対して1重量部以上20重量部以下であることが望ましい。」(段落【0027】)
(h)「実施例1
酸性白土を、硫酸を用いて、含有されるAlやMg等の不純物除去し、水洗して得られた比表面積230m^(2)/g無機酸化物の多孔質物質(SiO_(2)含有量が90重量%以上)と・・・粉体状の活性炭、および酸化マグネシウムを混合した物質を処理剤とした。表1に処理剤の配合を記載する。
ストーカー式、塩酸処理方式が乾式、集じん方式がバグフィルター方式、・・・通常の消石灰吹き込み量が25kg/hr・・・である都市ごみ焼却炉にて実験を行った。排ガス処理工程に酸性ガスの除去剤として消石灰を吹き込む形式の焼却炉(乾式処理)に、本処理剤を吹き込んだ。吹き込み量は、10kg/hrとした。消石灰の吹き込み量を20kg/hrに減少させた。
バグフィルター出口のダイオキシン類の排出濃度・・・を測定した結果(「環境庁告示第13号」による)を表2に示す。消石灰のみを25kg/hrで煙道に吹き込んだ場合の結果も同時に示す。表2から明らかなように、本処理剤を用いることによりバグフィルター出口のダイオキシンの排出濃度は大きく低下していることがわかる。」(段落【0032】?【0034】)
(i)【表1】及び【表2】には、吹込剤1-1(配合:重量部で、多孔質物質100、酸化マグネシウム0、活性炭5)を用いた実施例1-1と、消石灰のみを煙道に吹き込んだ比較例1-1とのダイオキシン類濃度TEQng/Nm^(3)が、それぞれ0.090と0.87であったことが示されている。
(j)「本発明の廃棄物処理剤を用いて産業廃棄物や都市ゴミの焼却炉から排ガスとして排出される酸性ガスおよびダイオキシン類等の有害有機物を減少させることができる・・・。」(段落【0037】)

引用例1には、記載事項(a)及び(c)に「無機酸化物の多孔性物質と飽和水溶液のpH値が11.5以下の粉体状酸性ガス中和剤および/又は、活性炭もしくは活性コークスからなる粉体状の焼却炉煙道吹込剤」を「焼却炉煙道に吹き込んだ後に、集塵機を用いて排ガスから該吹込剤を含有する煤塵を分離する排ガス処理方法」が記載され、記載事項(b)に「無機酸化物の多孔性物質が、酸性白土、活性白土、ベントナイト等の粘土鉱物」を含有するものであること、記載事項(d)に引用例1に記載の発明は「ダイオキシン類等の有害有機物や重金属を含有する排ガス」を処理対象とし、記載事項(j)に「ダイオキシン類等の有害有機物を減少させることができる」ことが記載されているから、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「酸性白土、活性白土、ベントナイト等の粘土鉱物を含有する無機酸化物の多孔性物質と飽和水溶液のpH値が11.5以下の粉体状酸性ガス中和剤(以下、「酸性ガス中和剤」という。)および/又は、活性炭もしくは活性コークスからなる焼却炉煙道吹込剤を焼却炉煙道に吹き込んだ後に、集塵機を用いて排ガスから該吹込剤を含有する煤塵を分離する、排ガスからダイオキシン類等の有害物を減少させる方法。」

第3 対比
本願発明と引用発明を対比する。
酸性白土、ベントナイトは、モンモリロナイトを主成分とする鉱物である(必要であれば、日本粘土学会編「粘土ハンドブック」第二版、技法堂出版、1987年4月30日発行、第162頁及び第266頁参照)から、引用発明の「酸性白土、活性白土、ベントナイト等の粘土鉱物」は、本願発明の「モンモリロナイトを主成分とする粘土鉱物」に該当し、引用発明の「煙道吹込剤」と本願発明の「吸着剤」とは、どちらもモンモリロナイトを主成分とする粘土鉱物を含む点で共通する。
引用発明の「吹込剤を焼却炉煙道に吹き込」むことは、本願発明の吸着剤を「排ガス中に投入すること」に相当し、引用発明の「排ガスからダイオキシン類等の有害物を減少させる方法」は、本願発明の「排ガス中の有害物の除去方法」に相当する。
そうすると、両者は、「モンモリロナイトを主成分とする粘土鉱物」を「排ガス中に投入することを特徴とする、排ガス中の有害物の除去方法。」の発明である点で一致し、
次の点で一応相違する。
相違点:本願発明は、「モンモリロナイトを主成分とする粘土鉱物からなる吸着剤を、単独の吸着剤として」投入するのに対して、引用発明は、「酸性白土、活性白土、ベントナイト等の粘土鉱物を含有する無機酸化物の多孔性物質と酸性ガス中和剤および/又は、活性炭もしくは活性コークスからなる煙道吹込剤」を投入する点。

第4 判断
上記相違点について検討する。
引用例1の記載事項(b)(e)及び(f)によれば、「酸性白土、活性白土、ベントナイト等の粘土鉱物を含有する無機酸化物の多孔性物質」がダイオキシン類の吸着能力を有することは明らかであるから、引用発明の「無機酸化物の多孔性物質」は吸着剤であるということができ、引用発明はモンモリロナイトを主成分とする粘土鉱物を吸着剤として用いているといえる。(以下、引用発明における「酸性白土、活性白土、ベントナイト等の粘土鉱物を含有する無機酸化物の多孔性物質」を簡単のために「多孔質物質」という。)
次に、引用発明の「多孔性物質と酸性ガス中和剤および/又は、活性炭もしくは活性コークスからなる煙道吹込剤」についてみてみると、字句通り解釈すれば、当該煙道吹込剤には「多孔性物質と酸性ガス中和剤又は、活性炭もしくは活性コークスからなる煙道吹込剤」である場合(「および/又は」の記載のうち、「又は」を選択した場合)が含まれる。ここで、多孔性物質をA、酸性ガス中和剤をB、活性炭をC、活性コークスをDとすると、「活性白土等の多孔性物質と酸性ガス中和剤および/又は、活性炭もしくは活性コークスからなる煙道吹込剤」は「AとB又は、CもしくはD」と表記される。「又は」の後に読点「、」があること、及び、広辞苑によれば「もしくは」という接続詞がどちらか一つを選択する場合を表すことを考慮すると、「AとB又は、CもしくはD」は、”「AとB」と「CかDのどちらか一方」とのどちらか”を意味するものと解釈される。そうすると、引用発明における「多孔性物質と酸性ガス中和剤および/又は、活性炭もしくは活性コークスからなる煙道吹込剤」という表現には、「AとB」だけの場合(すなわち、活性炭を成分として使用しない場合)も含まれるものと解釈される。
そして、酸性ガス中和剤は吸着剤にはあたらないので、引用発明においても、吸着剤としては多孔性物質からなる吸着剤のみを投入するものである。
一方、本願発明も、本願明細書の実施例1、2(段落【0015】【0019】)で、消石灰と吸着剤である活性白土とを一緒に吹き込んでいることから、単独の吸着剤と消石灰とを一緒に投入する態様を含んでいる。
そうすると、吸着剤としてはモンモリロナイトを主成分とする粘土鉱物のみを投入する点において、本願発明と引用発明に差違はない。

したがって、上記相違点は実質的な相違点とはいえず、本願発明と引用発明とは実質的に同一である。

なお、請求人は、審判請求書の請求の理由において、引用例1の記載は、「必須要件を列挙する場合に使用される接続詞「と」と、必須要件を列挙する「および」と択一的要件を列挙する「または」を複合し、列挙された要素が必須要件および択一的要件のいずれでもよいことを表す「および/または」と、択一的要件を列挙する場合に使用される「もしくは」とが混雑して使用されており、上記記載のどれが必須要件でどれが択一的要件であるのか極めて理解し難い記載になっている。」旨主張し、平成17年7月14日意見書でも「どの要素が必須要素でどの要素が択一的要素であるかが全く理解できないので、請求項1の記載によっては「活性炭」が択一的な要件であることは支持されない。また、引用文献1(引用例1)の詳細な説明の記載を参照しても、その段落番号[0018]に、無機酸化物の多孔質物質と活性炭とを併用することができる旨が記載されているが、活性炭を完全に省いてもよいとの記載はない。」と主張しているので、この点について併せて検討する。
請求人が主張するように、引用例1の実施例(記載事項(h)(i))では、活性炭を併用する場合しか記載されていないことから、引用例1の請求項1(記載事項(a))における「および/又は、」の記載が、仮に、「および」のみ(すなわち、活性白土等の多孔質物質と活性炭との併用)を意図しているものと解釈しても、ダイオキシン類等の有害物を含む排ガスの処理において活性炭を使用する場合に活性炭が発火の危険性を有していることは、本願の出願前周知の事項であって(必要であれば、本願出願前に頒布された、特開平10-249160号公報(段落【0004】、特開平10-249138号公報(段落【0005】)、特開平11-70315号公報(段落【0008】)参照)、引用例1に記載された発明においても、活性炭の混入量を多くすると粉塵爆発の危険性があることは認識されていた(記載事項(g))ことであるから、活性炭による発火の危険性がなく、安全性の向上を図ることに特に主眼をおけば、活性炭を使用しないようにすることは当業者の容易に想到しうることであり、「無機酸化物の多孔性物質がダイオキシン類の吸着性能は活性炭には劣るが、活性炭と比較して低価格であり、多量に使用することが出来」(記載事項(e))、「比表面積が50m^(2)/g以上である無機酸化物の多孔質物質が効果的にダイオキシン類や重金属を吸着するために使用」できる(記載事項(f))という引用例1に開示された事項に基づき、活性炭は使用せずに、無機酸化物の多孔性物質だけをダイオキシン類等の有害物の吸着剤として用いるようにすることに、当業者が格別創意を要したものとは認められない。そして、活性炭は使用せずに、無機酸化物の多孔性物質だけをダイオキシン類等の有害物質の吸着剤として用いたことより本願発明が奏する効果も当業者であれば自明のものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明と同一と認められ、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。また、仮に、本願発明が引用例1に記載された発明でないとしても、引用例1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-12 
結審通知日 2008-06-17 
審決日 2008-06-30 
出願番号 特願平11-138625
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B01D)
P 1 8・ 113- Z (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 澤田 浩平  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 小川 慶子
斎藤 克也
発明の名称 排ガス中の有害物の除去方法  
代理人 清末 康子  
代理人 岸本 瑛之助  
代理人 日比 紀彦  
代理人 渡邊 彰  

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