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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16D
管理番号 1183227
審判番号 不服2005-20135  
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-10-19 
確定日 2008-08-21 
事件の表示 平成10年特許願第 77452号「一方向クラッチ」拒絶査定不服審判事件〔平成11年10月 5日出願公開、特開平11-270596〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯の概要
本願は、平成10年3月25日の出願であって、平成17年9月13日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年10月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、さらに当審において、平成20年3月25日(起案日)付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)を通知したところ、同年6月2日付けで明細書を補正する手続補正がなされるとともに意見書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成17年8月19日付け、平成19年12月7日付け、及び平成20年6月2日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。なお、平成17年10月19日付けの手続補正は当審において平成19年9月13日付けで決定をもって却下されている。

「【請求項1】 同心状に配設される内外2つの環体と、内側環体の外周面の円周方向で偶数の箇所に設けられて外側環体の内周面との間でくさび状空間を形成するカム面と、前記各くさび状空間に1つずつ配置されてロック位置とフリー位置との間で変位して状態を切り換えるくさび部材としての転動体と、前記2つの環体の間に介装されかつ前記カム面に対応する円周方向で偶数の箇所に前記転動体が周方向転動可能に1つずつ収納されるポケットを有する保持器と、保持器の各ポケットに設けられて転動体をくさび状空間の狭い側へ弾発付勢する弾発付勢手段とを備え、前記カム面のそれぞれは、前記内側環体の外周面における側面視で偶数辺を有する正多角形状の各辺に位置するとともに平坦面に形成され、各カム面については周方向で180度の反対側に各カム面と平行にカム面が配置されるものとなっており、前記カム面の隣り合うもの同士の間は、外側凸曲面となる円弧面部分でつながっており、前記保持器は、内径面が円筒状に形成されて内側環体の外周面に圧入嵌合されている、ことを特徴とする一方向クラッチ。」

3.引用刊行物とその記載事項
当審拒絶理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である、英国特許出願公開第774016号明細書(以下、「刊行物1」という。)には、「シャフトの逆回転阻止のための改良手段」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている(和文は当審による仮訳である)。

(a)「リング部材jの内周面とスリーブbの7角形の外周との間に、周方向に間隔を開けて7個のローラoが配置されている。それらの各ローラはスプリングpにより付勢され・・・(略)・・・。ローラoは、環状のケージrのポケットr^(1)内に配置されており、ケージrは後述するようにスリーブb上に固定され、・・・(略)・・・」(第1頁第88行?第2頁第8行)
(b)「シャフトaが、第2図の矢印に示すように所望の方向に回転し続ける限り、ローラoは自由に回転するが、シャフトの回転方向が反転しようとすると、ローラはリング部材jとスリーブb上の7角形の表面との間に押し込まれ、それによって、スリーブ、結果として、シャフトを、そのような逆回転に対して固定する・・・(略)・・・」(第2頁第18?26行)

(c)「ケージr及びエンドリングsは、・・・(略)・・・スリーブbの7角形の部分の外側面においてスリーブbから突出しケージrの内側フランジ部のスロットr^(2)内に係合するペッグuにより、周方向の動きが阻止される。」(第2頁第32?43行)

(d)「7角形部材と協働する7個のローラについて述べたが、他の適当な数のローラ及び対応する数の面を有する多角形部材を採用してもよい・・・(略)・・・」(第2頁第54?59行)

(e)「シャフトの逆回転を阻止する一方向ローラ・ラチェット・クラッチ・・・(略)・・・」(第2頁第73?74行)

また、第1図及び第2図からみて、スリーブbの外周面における各カム面は、側面視で7つの辺を有する正7角形状の各辺に位置しているとともに平坦面に形成されているものと認められる。
また、第1図及び第2図から、ケージr(保持器)は、内径面が円筒状に形成されていることが看取できる。

したがって、上記摘記事項(a)?(e)、及び図面の記載からみて、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

【引用発明】
同心状に配設されるスリーブb及びリング部材jと、スリーブbの外周面の円周方向で7箇所に設けられてリング部材jの内周面との間でくさび状空間を形成するカム面と、前記各くさび状空間に1つずつ配置されてロック位置とフリー位置との間で変位して状態を切り換えるくさび部材としてのローラoと、前記スリーブb及びリング部材jの間に介装されかつ前記カム面に対応する円周方向で7箇所に前記ローラoが周方向転動可能に1つずつ収納されるポケットr^(1)を有するケージrと、ケージrの各ポケットr^(1)に設けられてローラoをくさび状空間の狭い側へ弾発付勢するスプリングpとを備え、前記カム面のそれぞれは、前記スリーブbの外周面における側面視で7つの辺を有する正7角形状の各辺に位置するとともに平坦面に形成されており、前記ケージrは、内径面が円筒状に形成されてスリーブb上に固定されている一方向ローラ・ラチェット・クラッチ。

4.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「スリーブb」は本願発明の「内側環体」に相当し、以下同様に、「リング部材j」は「外側環体」に、「ローラo」は「転動体」に、「ポケットr^(1)」は「ポケット」に、「ケージr」は「保持器」に、「スプリングp」は「弾発付勢手段」に、「一方向ローラ・ラチェット・クラッチ」は「一方向クラッチ」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「7」と本願発明の「偶数」とは、複数である限りにおいて一致し、「正7角形」も「正多角形」である。そしてまた、引用発明の「スリーブb上に固定されている」と本願発明の「内側環体の外周面に圧入嵌合されている」とは、内側環体に固定されている限りにおいて一致している。
したがって、両者は以下の一致点及び相違点1ないし3を有する。

(一致点)
同心状に配設される内外2つの環体と、内側環体の外周面の円周方向で複数の箇所に設けられて外側環体の内周面との間でくさび状空間を形成するカム面と、前記各くさび状空間に1つずつ配置されてロック位置とフリー位置との間で変位して状態を切り換えるくさび部材としての転動体と、前記2つの環体の間に介装されかつ前記カム面に対応する円周方向で複数の箇所に前記転動体が周方向転動可能に1つずつ収納されるポケットを有する保持器と、保持器の各ポケットに設けられて転動体をくさび状空間の狭い側へ弾発付勢する弾発付勢手段とを備え、前記カム面のそれぞれは、前記内側環体の外周面における側面視で複数辺を有する正多角形状の各辺に位置するとともに平坦面に形成されており、前記保持器は、内径面が円筒状に形成されて内側環体に固定されている一方向クラッチ、である点。

(相違点1)
本願発明は、カム面及びポケットが設けられる箇所が「偶数の箇所」であり、「前記カム面のそれぞれは、前記内側環体の外周面における側面視で偶数辺を有する正多角形状の各辺に位置するとともに平坦面に形成され、各カム面については周方向で180度の反対側に各カム面と平行にカム面が配置されるものとなって」いるものであるのに対し、引用発明は、カム面及びポケットが設けられる箇所が7箇所であり、カム面のそれぞれは、スリーブb(内側環体)の外周面における側面視で7つの辺を有する正7角形状の各辺に位置するとともに平坦面に形成されているものであって、各カム面については周方向で180度の反対側に各カム面と平行にカム面が配置されるものとはなっていない点。

(相違点2)
本願発明は、「カム面の隣り合うもの同士の間は、外側凸曲面となる円弧面部分でつながって」いるものであるのに対し、引用発明はそのような構成であるか否か明らかでない点。

(相違点3)
本願発明では、「保持器」は、「内側環体の外周面に圧入嵌合されている」ものであるのに対し、引用発明では、ケージr(保持器)は、スリーブb(内側環体)に固定されるものではあるものの、スリーブb(内側環体)の外周面に圧入嵌合されているものではない点。

上記各相違点について以下に検討する。
(相違点1について)
上記摘記事項(d)に示されるように、刊行物1には、カム面及びポケットの数は7に限らず、適宜の数を採用することができることが記載又は示唆されているし、また、一方向クラッチにおいて、カム面及びポケットの数を偶数とし、各カム面が周方向で180度の反対側に各カム面と平行にカム面が配置されるものとすることは、例えば、特公昭38-25312号公報(第4図参照)、及び、実公昭46-21287号公報(第2図参照)等に記載されるように本願出願前周知の事項であることから、引用発明において、カム面及びポケットが設けられる箇所を偶数の箇所とし、各カム面が周方向で180度の反対側に各カム面と平行にカム面が配置されるものとすることは、当業者が必要に応じて適宜になし得る事項であって、格別創意を要することではない。

(相違点2について)
刊行物1の第2図からみて、引用発明も、カム面の隣り合うもの同士の間は、所定の面部分でつながっているものであると認められるし、また、一方向クラッチにおいて、カム面の隣り合うもの同士の間が外側凸曲面となる円弧面部分でつながっているものは、例えば、米国特許第2815838号明細書(第3図参照)、米国特許第2457907号明細書(第2?7図参照)、及び、欧州特許出願公開第0825363号明細書(第3図等参照)等に記載されるように本願出願前周知であるから、引用発明において、カム面の隣り合うもの同士の間が外側凸曲面となる円弧面部分でつながっているものとすることは、当業者が必要に応じて容易になし得る事項であって、格別創意を要することではない。

(相違点3について)
一般に環状部材の固定手段として圧入嵌合は慣用手段であるし、また、一方向クラッチにおいて、内外の環体のうち一方の環体の周面に保持器を圧入嵌合することが、例えば、実願平4-48363号(実開平6-1859号)のCD-ROM(段落【0002】の記載を参照)、実公平7-29316号公報(第2頁第4欄第38?44行の記載を参照)、及び、実願平4-49567号(実開平6-4435号)のCD-ROM(段落【0009】の記載を参照)に記載されるように本願出願前周知の事項であることに鑑みても、引用発明において、ケージr(保持器)を、スリーブb(内側環体)の外周面に圧入嵌合されるものとすることは、当業者が格別の創意を要することなく容易に想到し得ることである。

また、本願発明の奏する効果についてみても、引用発明及び上記周知の事項から当業者が予測し得る程度のものであって、格別顕著なものとはいえない。
したがって、本願発明は、引用発明及び上記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ところで、請求人は、当審拒絶理由に対する平成20年6月2日付けの意見書において、
「引用文献1に記載の発明は、同心状に配設される内外2つの環体と、内側環体の外周面の円周方向で7箇所に設けられて外側環体の内周面との間でくさび状空間を形成するカム面と、前記各くさび状空間に1つずつ配置されてロック位置とフリー位置との間で変位して状態をくさび部材としての転動体と、前記2つの環体の間に介装されかつ前記カム面に対応する円周方向で7つの箇所に前記転動体が周方向転動可能に1つずつ収納されるポケットを有する保持器と、保持器の各ポケットに設けられて転動体をくさび状空間の狭い側へ弾発付勢する弾発付勢手段とを備えた一方向クラッチであって、カム面を平坦面とするものが開示されています。
この引用文献1に記載のものでは、カム面が内側環体の外周面の円周方向で7箇所に設けられたものが示されていることから、本願発明のようにカム面を外周面の円周方向で偶数個となるものでなく、奇数個とするものです。したがって、引用文献1に記載のものでは、各カム面に対して円周上180度反対側には、隣り合うカム面同士をつなぐ円弧状部分がちょうど位置するものとなります。このため、引用文献1に記載のものにおいて、このような内側環体についてカム面を形成するなどの加工を行う際には、隣り合うカム面同士をつなぐ円弧状部分をチャックの掴み位置とするだけでは内輪部材を安定した状態で保持することができないものであって、カム面を平坦面とする加工や、隣り合うカム面同士の相対的な傾き角度を所定角度とする加工を精度良く行うことができないという課題を有しています。
また、引用文献1では、他の適当な数のローラ及び対応する数の面を有する多角形部材を採用してもよい(第2頁第54?59行)と示されているにしても、その多角形部材が外周円周方向で偶数個の正多角形とすることや、さらに隣り合うカム面の間にカム面をつなぐ円弧状部分を設けることまで特定する具体的構成を示すものでなく、したがって、引用文献1に記載のものでは、本願発明のようにカム面などの加工を精度良く行えるよう、加工時に内輪部材を安定して保持できる形態とすることの課題をも示したり示唆するものではありません。また、一方向クラッチにおいて、カム面及びポケットの数を偶数の箇所とすることが周知であるとして、特公昭38-25312号公報や、実公昭46-21287号公報に示される一方向クラッチについて提示されていますが、確かにカム面は周方向で偶数個のものが示されているものの、隣合うカム同士をつなぐ部分が無いものであり、本願発明のように加工時にチャックで掴むことができるつなぎ部分を想定できるものではありません。
よって、このような課題を示すものでない引用文献1に記載の発明や周知技術からは本願発明の上記構成のうち、内側環体のカム面などの加工精度を高くすることができる構成である(ロ)と(ハ)については、容易に想定できるものでありません。
以上のことから、引用文献1に記載のものおよびカム面を偶数とする多角形状とすることが周知であっても、そのように偶数のカム面を備えるものでありながら、互いの対向面が平行となる平坦面にカム面を高精度に加工するのに安定した保持を行えるようにチャックを掴むことのできる部分として隣り合うカム面間に円弧状のつなぎ部分を設けることまで周知技術として示すものでないとともに、カム面の平坦度を高くするとともに対向するカム面同士の平行度を高くすることに関する課題が引用文献1や上記周知技術を示す文献には何ら示されていないから、引用文献1に記載の発明や上記周知技術に基づいて補正後の本願発明を想到することは当業者といえども困難であると思料する次第であります。」
と主張している。(【意見の内容】の「(4-2)引用発明についておよび本願発明との対比」の項参照)
しかしながら、刊行物1や周知技術を示す各文献に請求人の主張する上記のような課題が記載又は示唆されていなくても、本願発明は、その発明を特定するために必要な事項が引用発明及び本願出願前周知の事項に基づいて当業者であれば容易に想到することができるものであることは上記説示のとおりであって、請求人が主張する上記効果も、引用発明及び本願出願前周知の事項から当業者が予測し得る程度のものであり、格別顕著なものとはいえないことも、上記のとおりである。
よって、請求人の上記意見書における主張は採用することができない。

5.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、刊行物1に記載された発明(引用発明)及び本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-18 
結審通知日 2008-06-24 
審決日 2008-07-07 
出願番号 特願平10-77452
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 稔  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 溝渕 良一
礒部 賢
発明の名称 一方向クラッチ  
代理人 岡田 和秀  

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