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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1183228
審判番号 不服2005-21219  
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-11-04 
確定日 2008-08-21 
事件の表示 平成10年特許願第338011号「インクジェット記録装置およびインク収容体」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 6月13日出願公開、特開2000-158665〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成10年11月27日の特許出願であって、拒絶理由通知に応答して平成17年4月15日付けで手続補正がされたが、同年9月26日付けで拒絶査定がされ、これを不服として同年11月4日付けで審判請求がされたものである。

2.本願発明の認定
本願の請求項1に係る発明は、平成17年4月15日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下、「本願発明」という。 )
「【請求項1】 インク収容体を装着可能な装着部を備え、該インク収容体から供給されたインクを記録ヘッドから媒体に向けて吐出して該媒体に対する記録を行う記録装置本体を有するインクジェット記録装置において、
前記装着部は、複数色のインクをそれぞれ収容する複数のインク収容部を有するインク収容体を装着可能であり、
前記記録装置本体は、
前記記録ヘッドでのインク消費量に基づいて、前記複数色のインクの各残量を監視するためのデータを算出し、
前記インク収容体に備えられ前記複数色のインクの情報を記憶するシーケンシャルアクセス形式の記憶手段であって、読み出し専用データとして前記複数色のインク間で共通するデータを1種類につき1つずつ記憶する記憶手段に対し、前記複数色のインクの前記各残量を監視するためのデータを連続して出力する
ことを特徴とするインクジェット記録装置。」

ここで、「読み出し専用データとして前記複数色のインク間で共通するデータを1種類につき1つずつ記憶する記憶手段」との記載があり、記憶される内容によって記憶手段を特定しているが、記憶される内容によって記憶手段の構成として何が特定されるのか不明である。
しかし、原査定は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとするものであるから、以下その点について検討する。

3.引用例記載の発明

原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平9-309213号公報(以下、「引用例」という。)には図示と共に次の記載事項がある。

記載事項1:【特許請求の範囲】
「【請求項1】交換可能なインクカートリッジであって、インクジェットプリンタを制御するプロセッサ手段を含むインクジェットプリンタのインクジェットプリントヘッド用の交換可能なインクカートリッジであり、前記インクジェットプリンタは前記インクカートリッジを受けるレセプタクルを含み、前記レセプタクルは前記プロセッサ手段に結合された第1のコネクタ手段を含み、前記インクカートリッジは以下(a)ないし(d)を含むことを特徴とする。
(a)インクを保持するインク溜め。
(b)前記インクカートリッジが前記レセプタクルに挿入されると前記第1のコネクタ手段と係合する第2のコネクタ手段。
(c)前記インクカートリッジが前記レセプタクルに挿入されると前記インク溜めを前記インクジェットプリントヘッドに接続する液通手段。
(d)前記第2のコネクタ手段に接続され、1本のデータ入出力線のみを有し、これによって前記プロセッサ手段にとってアクセス可能となるシリアルアクセスメモリであって、少なくとも前記インク溜め内のインクの使用状態を示すデータを記憶するシリアルアクセスメモリを含む。」

記載事項2:段落【0015】
「【課題を解決するための手段】
インクジェット印刷/複写装置は印刷/複写動作に用いられる交換インクカートリッジを収容するようになっている。かかる装置はその装置の動作を制御するプロセッサに結合された第1のコネクタを有するレセプタクルを有する。カートリッジは第2のコネクタを有し、このコネクタは、第1のコネクタおよびこの第2のコネクタに接続されたメモリに係合する。このメモリからのデータ転送およびこのメモリへのデータ転送の両方が可能であり、これによってメモリに記憶された、カートリッジの使用状態、校正および装置の動作を制御するためのパラメータを表わすデータに対するアクセスおよび変更が可能である。カートリッジ上のシリアルアクセスメモリの使用によって1本の電線上での入出力が可能であるが、これによって、カートリッジとカートリッジの装置への係合を可能にするカートリッジ-コネクタとの間の物理的インターフェースに変更を加えることなく、現在設けられているヒューズの代わりにメモリの直接的置換が可能である。」

記載事項3:段落【0018】
「最近では、単線入出力シリアルメモリが市販されるようになってきている。かかる種類のメモリとしてはDallas Semi-Conductors IncのDS1992-DS1995 Touch Memoryシリーズがある。これらのメモリはそれぞれ1Kから16Kバイトの記憶容量を有する不揮発性ランダムアクセスメモリとして構成される。DS1992の場合、内部の128バイトの不揮発性RAMが各32バイトの4つの記憶領域および32バイトのスクラッチパッドとして構成される。この単線メモリからのデータの入出力は、読み出し/書き込み動作の始まりを表わすさまざまな長さのパルスを用いるプロトコルによって行なわれる。これらのパルスの後にビット単位の転送が行なわれ、この転送においては1と0は異なるパルス長で表わされる。本発明にはこれ以外のシリアル入出力メモリを用いることもできる。」

記載事項4:段落【0026】
[インクジェットプリンタ]図4および図5に示すように、インクジェットプリントカートリッジ60はインクを収容する内部インク溜め62を有する。液体連通管64によってレセプタクル66がカートリッジ60からインクを受け取ることができる。また、レセプタクル66内のアクチュエータ(図示せず)にダイヤフラム68が連通されてインク溜め62に加圧する。電気接続部70が回路基板74上の少なくとも1つの接点(contact land)72と接続する。シリアルメモリチップ76(図5)が回路基板74上に設けられ、保護膜78に覆われている。メモリチップ76は単一のアクセス線を介したデータの入出力が可能である。インクカートリッジ60はキー機構80を有し、これらはレセプタクル66の他のキー機構と係合し、インクカートリッジ60が適正なインク色のものであり、そのプリンタシステムに適合するインクを保持しており、適正な向きに位置決めされる場合にのみインクカートリッジ60を挿入しうるようにする。レセプタクル66は導管84を介してインクジェットペン82に液通している。インクジェットペン82およびレセプタクル66はいずれもこのインクジェットプリンタの動作を制御するマイクロプロセッサ86に電気的に接続されている。」

記載事項5:段落【0027】
「周知のように、インクジェットペン82の動作はプリンタドライバから得られるさまざまなパラメータにしたがってマイクロプロセッサ86によって制御される。かかるパラメータには、デフォルトインク射出周波数(すなわち、高品質モード、原稿モード)、個々の加熱抵抗器に印加される信号のパルス幅を決めるパラメータ、印刷動作時のプリントヘッドの温度を最適化および安定化させるためのプリントヘッドへの予熱電流の量を制御するためのパラメータ、1画素あたりに射出されるインク滴の数を指定するパラメータ、サービスステーション用パラメータ、印刷モードデータ(すなわち、プリンタに指定された印刷品質と印刷状態を達成させるパラメータ)、および使用インク量およびインク残量の判定を可能にするパラメータ等がある。」

記載事項6:段落【0029】
「上述したパラメータおよび手順の少なくとも一部は、プリンタドライバに加えてメモリチップ76にも記憶される。印刷ジョブが開始されるたびに、マイクロプロセッサ86はメモリチップ76の内容を調べ、このアクセスされたデータにしたがってプリンタドライバに記憶されたパラメータを変更する。その後、インクジェットプリンタはかかるパラメータにしたがって既知の態様で動作可能となる。」

記載事項7:段落【0031】
「メモリチップ76に記憶されるパラメータデータには、カートリッジから放出されるインク滴の実カウント値、インク入れの日付コード、インクカートリッジの最初の挿入日付コード、システム係数、インクのタイプ/色、カートリッジのサイズ、印刷モード、温度データおよび加熱抵抗器のパラメータ、カートリッジの製造後年数、プリントヘッドのインク滴カウント値、ポンピングアルゴリズム、プリンタのシリアルナンバー、カートリッジの使用状態の情報その他がある。」

記載事項8:段落【0032】
「かかるデータによってマイクロプロセッサ86はインクジェットプリンタ内の多数の制御機能を実行することができる。たとえば、マイクロプロセッサ86はカートリッジ60内のインク残量の概算を計算し、この概算値をあらかじめ記録された供給しきい値と比較する。インクが全容量の25%未満である場合、ユーザーにこれを知らせるメッセージが示される。さらに、この残った25%のインクのかなりの部分が消費されると、マイクロプロセッサ86はインクジェットプリンタを動作停止とすることができ(またさらにユーザーがこの停止を無効にすることができ)、同時にかかる無効化をメモリチップ76に記録する。」

記載事項9:段落【0039】
「印刷の進行につれて、マイクロプロセッサ86はインク滴量係数、インク滴カウント値、および温度測定値を用いてインク使用量を見積もる。メモリチップ76内のインク使用量は周期的に更新され(108)、インク入れが過少になったことがわかると(判断110)ユーザーに警告メッセージが示される。あるいは印刷ジョブがその後停止される(これはユーザーによって無効化されることがある)(112)。印刷ジョブが完了すると(判断114)、インクジェットプリンタの次の動作に備えて修正されたパラメータがメモリチップ76に書き込まれる(116)。」

記載事項7より、メモリチップ76には、カートリッジから放出されるインク滴の実カウント値、インク入れの日付コード、インクのタイプ/色、カートリッジのサイズ、が記憶されるが、これらは、インクまたはインクカートリッジに係わる情報であるからインクの情報と呼べる。

記載事項7には、メモリチップ76に記憶されるパラメータデータにはインク滴カウント値を含むことが記載され、記載事項8には、かかるデータ(記載事項8は記載事項7に続く段落なので「かかるデータ」とは記載事項7の「メモリチップ76に記憶されるパラメータデータ」である。)によって、マイクロプロセッサ86はカートリッジ60内のインク残量の概算を計算することが記載されている。
つまり、メモリチップ76には、インク残量を計算するためのデータである「インク滴カウント値」が記憶される。インク残量は当初のインク量からインク使用量を引くことで計算されることは自明であるし、記載事項9には、「マイクロプロセッサ86はインク滴量係数、インク滴カウント値、および温度測定値を用いてインク使用量を見積もる。」とあるから、「インク滴カウント値」は(インク滴量係数、および温度測定値も用いられるからインク使用量そのものでないにしても)インク使用量に係わるデータである。
一方、記載事項9には、「メモリチップ76内のインク使用量は周期的に更新され(108)、インク入れが過少になったことがわかると(判断110)ユーザーに警告メッセージが示される。」とある。メモリチップ76内のデータが更新されるには、メモリチップ76に対しデータが出力されることが必要である。警告メッセージを示すことは監視することに他ならない。
結局、引用例記載の発明では、メモリチップ76に対し、インクの残量を監視するためのデータが出力されていることになる。

なお、記載事項9には、「メモリチップ76内のインク使用量は周期的に更新され」とあるものの、一度使用して減少したインクの量を増すことはできず、インク使用量自体を更新することはできないから、この記載は「メモリチップ76内のインク使用量に係わる情報は周期的に更新され」を意味することは明らかである。
そして、記載7及び記載9より、この、メモリチップ76内のインク使用量に係わる情報とは、インク滴カウント値自体か、インク滴カウント値を用いて見積もられるインク使用量であるが、いずれにしても、メモリチップ76内に記憶されるインク滴カウント値が、インク残量の概算を計算するのにもインク使用量を見積もるのにも用いられ、かつ、周期的に更新されるのであるから、引用例記載の発明では、メモリチップ76に対し、インクの残量を監視するためのデータが出力されていることになる。

してみるに、引用例には、以下の発明が記載されていると認められる。
「インクカートリッジを装着可能なレセプタクルを備え、該インクカートリッジから供給されたインクをインクジェットプリントヘッドから媒体に向けて吐出して該媒体に対する印刷を行う印刷装置本体を有するインクジェット印刷装置において、
前記レセプタクルは、インクを収容するインク溜めを有するインクカートリッジを装着可能であり、
前記印刷装置本体は、
前記インクジェットプリントヘッドでのインク使用量に基づいて、前記インクの残量を監視するためのデータを算出し、
前記インクカートリッジに備えられ前記インクの情報を記憶する記憶手段であって、インク入れの日付コード、インクのタイプ/色、カートリッジのサイズ、のデータを記憶するメモリチップ76に対し、前記インクの前記残量を監視するためのデータを出力するインクジェット印刷装置。」(以下、引用発明という。)

4.対比
本願発明と引用発明とを比較する。

引用発明の「インクカートリッジ」、「レセプタクル」、「インクジェットプリントヘッド」、「該媒体に対する印刷を行う印刷装置本体」、「インクジェット印刷装置」、「インク使用量」は、本願発明の「インク収容体」、「装着部」、「記録ヘッド」、「該媒体に対する記録を行う記録装置本体」、「インクジェット記録装置」、「インク消費量」に相当する。

引用発明の「インクを収容するインク溜め」は、「インクを収容するインク収容部」である点で、本願発明の「複数色のインクをそれぞれ収容する複数のインク収容部」と共通する。

引用発明の「前記インクの前記残量を監視するためのデータ」は、複数色のインクに関するデータではないものの、「前記インクの前記残量を監視するためのデータ」である点で、本願発明の「前記複数色のインクの前記各残量を監視するためのデータ」と共通する。

引用発明の「前記インクカートリッジに備えられ前記インクの情報を記憶する記憶手段であって、インク入れの日付コード、インクのタイプ/色、カートリッジのサイズ、のデータを記憶するメモリチップ76」は、「前記インク収容体に備えられ前記インクの情報を記憶する記憶手段」である点で、本願発明の「前記インク収容体に備えられ前記複数色のインクの情報を記憶するシーケンシャルアクセス形式の記憶手段であって、読み出し専用データとして前記複数色のインク間で共通するデータを1種類につき1つずつ記憶する記憶手段」と共通する。

本願発明には、「読み出し専用データ」との記載があるが、どのようなデータのことを示しているのか不明である。
そこで、発明の詳細な説明を参照すると、段落【0045】に「これらのデータはいずれも、インクカートリッジ107K、107Fがプリンタ本体100に装着された以降、プリンタ本体100の電源がオンに切り換わっ
たときに、プリンタ本体100側に読み出されて」と記載され、具体的には段落【0044】に「各記憶領域611?620に対して割り当てられたインクカートリッジ107Fの開封時期データ(年)、インクカートリッジ107Fの開封時期データ(月)、インクカートリッジ107Fのバージョンデータ、インクの種類データ、製造年データ、製造月データ、製造日データ、製造ラインデータ、シリアルナンバーデータ、リサイクル有無データである。」と記載されている。
これらの記載から、「読み出し専用データ」とは、記録装置の使用に伴い変化するデータではなく、インク収納体固有のデータであって、記憶手段から読み出されるだけのデータであるということができる。
一方、引用発明の「インク入れの日付コード」、「カートリッジのサイズ」は、インクカートリッジ固有のデータであって、メモリから読み出すだけのデータといえる。
よって、引用発明の「インク入れの日付コード」、「カートリッジのサイズ」は、本願発明の「読み出し専用データ」に相当する。

引用発明の「前記インクの前記残量を監視するためのデータを出力する」は、複数色のインクの残量ではなく、かつ、連続して出力するものではないものの、「前記インクの前記残量を監視するためのデータを出力する」点で、本願発明の「前記複数色のインクの前記各残量を監視するためのデータを連続して出力する」と共通する。

すると、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。

<一致点>
「インク収容体を装着可能な装着部を備え、該インク収容体から供給されたインクを記録ヘッドから媒体に向けて吐出して該媒体に対する記録を行う記録装置本体を有するインクジェット記録装置において、
前記装着部は、インクを収容するインク収容部を有するインク収容体を装着可能であり、
前記記録装置本体は、
前記記録ヘッドでのインク消費量に基づいて、前記インクの残量を監視するためのデータを算出し、
前記インク収容体に備えられ前記インクの情報を記憶する記憶手段であって、前記インクの前記各残量を監視するためのデータを出力するインクジェット記録装置。」

<相違点>
(i)本願発明は、複数色のインクを用いる点に関して、「複数色のインクをそれぞれ収容する複数のインク収容部を有するインク収容体」、「前記記録ヘッドでのインク消費量に基づいて、前記複数色のインクの各残量を監視するためのデータを算出し」、と特定されているのに対して、引用発明は当該特定を有しない点。

(ii)本願発明は、「前記インク収容体に備えられ前記複数色のインクの情報を記憶するシーケンシャルアクセス形式の記憶手段であって、読み出し専用データとして前記複数色のインク間で共通するデータを1種類につき1つずつ記憶する記憶手段に対し、前記複数色のインクの前記各残量を監視するためのデータを連続して出力する」、と特定されているのに対して、引用発明は当該特定を有しない点。

5.当審の判断
相違点(i)について
「複数色のインクをそれぞれ収容する複数のインク収容部を有するインク収容体」を用いる方式のカラーインクジェットプリンタ自体は周知である(例えば、特開平10-309815号公報、特開昭10-100452号公報参照)。そして、複数色のインク毎にインクの消費量は異なるから、インクの残量を監視しようとすれば、各色毎のインク消費量に基づいて、各色のインクの残量を監視するためのデータを算出しなければならないのは当然である。
よって、引用発明において本願発明の相違点(i)に係る構成を備えることは、引用例1の記載及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。

相違点(ii)について
(ア)引用発明において、「複数色のインクをそれぞれ収容する複数のインク収容部を有するインク収容体」を用いる構成を備えることが周知技術より容易であることは、上記「相違点(i)について」で検討した。
そして、引用発明が当該構成を備えると、単一のインクについての2種類のデータである「インク入れの日付コード」及び「カートリッジのサイズ」が、複数のインク間で共通するデータとなる。(色は異なっても同じインク収容体(カートリッジ)に搭載されるインク収容部(インク溜)であるから同じ日(カートリッジの製造日)にインク入れされたと考えるのが自然であるし、少なくともカートリッジのサイズは一つに決まる。)
複数色のインク間で共通する同じデータである以上インク毎に複数のデータとして扱って別々に記憶する必要はなく、1種類につき1つずつ記憶すればよいことは明らかである。
また、上記「3.引用例記載の発明 」で検討したように、「インク入れの日付コード」、「カートリッジのサイズ」は読み出し専用のデータに相当する。

(イ)引用例でシリアルアクセスメモリを使用しているのは、記載事項2にあるように1本の電線上で入出力可能とするためであって、2本以上の電線を使用してもよければデータラインなりアドレスラインなりに2本以上の電線を使うシリアルアクセスメモリであってもよいし、パラレルアクセスメモリであってもよく、インク収容体に取り付けられる大きさ、必要なデータ記憶容量、等の条件を満たすメモリであればどのようなメモリであってもよいことは明らかであるし、上記記載事項3には、「本発明にはこれ以外のシリアル入出力メモリを用いることもできる。」とある。また、1本のラインで入出力するシリアルアクセスメモリであってシーケンシャルアクセス形式のものもあるから、引用発明のシリアルアクセスメモリはシーケンシャルアクセス形式のメモリを除外しているわけではない。

一方、シリアル入出力メモリとしてシーケンシャルアクセス形式のメモリはありふれたものであるし、カセットやカートリッジに取り付けられる大きさであり、カセットやカートリッジに収納された対象に関するデータを記憶するのに十分な記憶容量のメモリであってシーケンシャルアクセス形式のものも周知である。
例えば、特開昭62-184856号公報には、プリンタのインクカートリッジに取り付けるインク残量記憶用メモリとしてRAM12以外に、インクカートリッジに貼設する磁気テープやEPROMを使用してもよいことが記載されている。磁気テープはヘッドで走査する向きにしかアクセスできないからシーケンシャルアクセス形式のメモリであるし、EPROMでシーケンシャルアクセス形式のものもある。
特開昭59-79234号公報には、ロールフィルムを収納したカセットに設けられ、フィルムについてのデータを記憶するメモリとして、RAM、EPROM、EEPROM、磁気バブルメモリ等を用いると記載されている。EEPROMでシーケンシャルアクセス形式のものもあり、本願の請求項7の「記憶手段は、EEPROMである」に対応している。磁気バブルメモリはシーケンシャルアクセス形式のメモリである。
そして、シーケンシャルアクセス形式のメモリはアドレスを毎回指定しなくても一度指定すれば以後はそれに続くアドレスに順にアクセスできることが特徴なのであるから、メモリにシーケンシャルアクセス形式のものを採用した場合には、データを連続して出力して連続するアドレスに記憶することはなんら格別の使い方ではない。
また、引用発明に、複数色のインクをそれぞれ収納する複数のインク収納部を有するインク収納体を用いる構成を適用した場合に、「複数色のインクの前記各残量を監視するためのデータ」は毎回同じ様式で同じタイミング(印刷終了時、電源オフ時、等)で書き込むデータであって、メモリの離れたアドレスに記憶したり別々のタイミングで記憶したりする必要はないから、シーケンシャルアクセス形式のメモリを使うのであれば、当該メモリに対して連続して出力することは自然な使い方である。

一方、読み出し専用の複数のインクに共通するデータは、書き替えず、かつ、インク残量データ更新の時期とは独立に必要なときに読み出せばよいから、インク残量データを記憶するアドレスとは無関係なアドレスに記憶しておくことができ、どのアドレスに記憶するかは設計事項である。

よって、引用発明において本願発明の相違点(ii)に係る構成を備えることは、引用例1の記載及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。

6.むすび

以上のとおり、本願発明は、引用例の記載、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-17 
結審通知日 2008-06-24 
審決日 2008-07-07 
出願番号 特願平10-338011
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 塚本 丈二  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 菅藤 政明
江成 克己
発明の名称 インクジェット記録装置およびインク収容体  
代理人 特許業務法人明成国際特許事務所  

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