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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1183252
審判番号 不服2006-8962  
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-05-08 
確定日 2008-08-21 
事件の表示 平成 9年特許願第101972号「バルーンカテーテル及びそれに用いるマルチルーメンシャフトの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年11月 4日出願公開、特開平10-290837号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成9年4月18日の出願であって、平成18年3月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年5月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成18年6月7日受付で明細書についての手続補正がなされたものである。

第2 平成18年6月7日受付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年6月7日受付の手続補正(以下、「本件補正」という)を却下する。

[理由]
1 補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
「バイ(若しくはデュアル)ルーメンチューブを含むマルチルーメンチューブから構成されるシャフトを有するバルーンカテーテルであって、前記マルチルーメンチューブが押込力伝達性と曲路追従性に寄与する範囲の曲げ弾性率を有する樹脂材料からなり、該マルチルーメンチューブのルーメンの内、ガイドワイヤルーメンの内面に更に潤滑度の高い(表面エネルギーが50dyn/cm以下)樹脂材料からなるチューブが密着状態で存在するシャフトを用いたことを特徴とするバルーンカテーテル。」(下線部分が補正箇所である。)

2 補正の目的の適否
本件補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「チューブが存在するシャフト」に、「密着状態で」との限定を付加するものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反しないか)について以下に検討する。

(1)引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、国際公開第95/28196号パンフレット(以下「引用例1」という)、国際公開第96/15824号パンフレット(以下「引用例2」という)には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア 引用例1
(ア)「The drug delivery portion 50 of the catheter 10 comprises an inner catheter shaft 52,・・・The distal occlusion balloon 58 can lie within the second lumen 40 in the dilation position, as well.(このカテーテル10の薬剤搬送部分50は、内方カテーテル軸52を有しており、この内方カテーテル軸52の末端部は第2ルーメン即ち中央ルーメン40内に少なくとも一部が位置している。内方カテーテル軸52は、薬剤搬送ルーメン54を有しており、該薬剤搬送ルーメン54は、薬剤搬送口56を介して軸52の外方に連通している。好ましくはこれらの薬剤搬送口56の数は2?20個であり、形状は円形又は楕円形であり、その直径又は長さはそれぞれ約0.003?0.020インチである。この実施例においては3個の薬剤搬送口56が示してある。拡大部位へ適切な薬剤の搬送を確実に行うために好ましくは、このような搬送口を複数個設けることが好ましい。薬剤搬送口56は好ましくは拡張の間中、中央ルーメン40内に存在している。図3は薬剤搬送ルーメン54が好ましくは半円形を有していることを示している。
図1及び図2を再び参照すると、薬剤搬送中拡張部位を断絶するため好ましくは末端部閉塞バルーン58及び基端部閉塞バルーン60が設けてある。これらの閉塞バルーン58、60は膨張した状態の側面図が図5に示されている。これらの閉塞バルーン58、60は、拡張された動脈壁部分の近位部に薬剤を保持し、薬剤の吸収性と有効性とを改良している。閉塞バルーン58、60まで膨張流体を搬送するため内方カテーテル軸52内に膨張ルーメン62が設けてある。さらにこの内方カテーテル軸52は通常、ガイドワイヤルーメン64を含んでいる。膨張ルーメン62及びガイドワイヤルメーン64は図3に断面が示してある。膨張ルーメン62は更に好ましくは半円形をなし、薬剤搬送ルーメン54と同一の半径方向面にある。許容された時間内に適量の薬剤を搬送するため、この薬剤搬送ルーメン54は一般に膨張ルーメン62よりも大きい必要がある。図示した実施例において、末端部閉鎖バルーン58を含んでいるこの内方カテーテル軸52の部分は、このカテーテルが拡張位置にある際に、拡張部分20の末端部頂部を越えて伸びている。この末端部閉塞バルーン58は更に拡張位置にある第2ルーメン40内に位置することも出来る。」(6頁4行?7頁11行)(訳は当審訳、以下同様)
(イ)「The inner and outer catheter shafts・・・or other non-thrombogenic materials.(内方カテーテル軸及び外方カテーテル軸は、カテーテルとしての適切な材料によって形成されることが出来る。このような材料としては例えば、直鎖状低密度又は高密度ポリエチレン、ナイロン、ポリウレタン、ポリプロピレン、シリコーンゴム又はその他の非トロンボゲン材料がある。)」(9頁33行?10頁3行)

上記(ア)(イ)の記載事項からみて、引用例1には次の発明(以下、「引用発明1」という)が記載されていると認められる。
「薬剤搬送ルーメン54と膨張ルーメン62とガイドワイヤルーメン64とが設けられていて、閉塞バルーン58、60を備えた内方カテーテル軸52を有するカテーテルであって、直鎖状低密度又は高密度ポリエチレン、ナイロン、ポリウレタン、ポリプロピレン、シリコーンゴム等で形成されている内方カテーテル軸52を用いたカテーテル。」

イ 引用例2
(ア)「1. Field of the Invention The present invention relates generally to medical balloon catheters and methods for their fabrication. ・・・a soft distal tip and an elastomeric balloon at the tip for the partial or total occlusion of a vessel;(1.発明の分野 本発明は広く医療用バルーンカテーテル及びそれらの製造方法に関する。より詳細には、本発明は制御された可撓性と、柔軟な遠位先端及び該先端に血管の部分的または全体的な閉塞のためのエラストマーバルーンを有する、大きい及び小さい直径双方の、編み組み(braid)強化されたバルーンカテーテルの構造に関する;)」(1頁11行?19行)(訳は当審訳、以下同様)
(イ)「In the exemplary embodiment, a major portion of the catheter body extending from its proximal end ・・・The use of such materials provides a very smooth surface for introducing devices and high velocity fluids through the lumen defined by the inner tubular member.(典型的な実施の形態においては、その近位末端から編み組み強化範囲の終端まで延びるカテーテル本体の主な部分は、最も可撓性がないが、優れたトルク伝動及びフープ強度特性を有する。編み組みの終端の遠位であって内部管状部材終端の近位であるカテーテル部分は、増大された可撓性を有し、その一方で、カテーテルをガイドワイヤーの上を導くことを可能とし、カテーテル内腔の捩れやつぶれを防ぐために適性なねじれ可能性及びフープ強度を維持する。カテーテルの最も遠位部分は唯柔軟な外層だけを含み、最大の可撓性と共に最小のねじれ可能性及びフープ強度を有し、そして本発明のカテーテルは脳の血管系の離れた、蛇行した部位への導入に適している。本発明の第1の特別な形態では、内部管状部材が潤滑性物質、例えばフロロカーボンポリマー、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリイミド、等から構成され、好ましくはポリテトラフロロエチレン(PTFE)から構成される。そのような物質の使用は、装置及び高速度の流体を、内部管状部材で規定されるところの内腔を通して導入するための非常に滑らかな表面を与える。)」(5頁8行?31行)
(ウ)「In a preferred construction, the catheter body of the present invention will consist essentially of three structural components.・・・It would also be possible to form the inner tubular members as a laminate structure comprising a non-lubricious outer layer and an inner lubricious layer or coating.(好ましい構成では、本発明のカテーテル本体は、主として3つの構成部材から成る。第1の部材は、内部管状部材であり、それは内腔を規定し、血管系または他の体管内の標的位置へ導入すべき流体又は装置を受け入れるための滑らかな表面を提供する。典型的には、内部管状部材は単一の物質、好ましくは潤滑性のポリマー、例えば、フロロカーボン(例えば、四フッ化エチレン(PTFE))、ポリアミド(例えばナイロン)、ポリオレフィン、ポリイミド等、から作られるスリーブ(sleeve)である。内部管状部材を、非潤滑性の外層と潤滑性の内層又は被覆とを含むラミネート構造として形成することもできる。)」(11頁29行?12頁6行)

上記(ア)ないし(ウ)の記載事項及び図示内容からみて、引用例2には、次の発明(以下、「引用発明2」という)が記載されていると認められる。
「潤滑性物質(潤滑性のポリマー、例えば、フロロカーボン(例えば、四フッ化エチレン(PTFE))、ポリアミド(例えばナイロン)、ポリオレフィン、ポリイミド等)から構成された内部管状部材を備えたバルーンカテーテル。」

(2)対比
本願補正発明と引用発明1とを対比すると、その構造または機能からみて、引用発明1の「内方カテーテル軸52」は、本願補正発明の「シャフト」に相当し、以下同様に、「直鎖状低密度又は高密度ポリエチレン、ナイロン、ポリウレタン、ポリプロピレン、シリコーンゴム等」は「樹脂材料」にそれぞれ相当する。
また、引用発明の「内方カテーテル軸52」は、薬剤搬送ルーメン54と膨張ルーメン62とガイドワイヤルーメン64とが設けられているから、バイ(若しくはデュアル)ルーメンチューブを含むマルチルーメンチューブから構成されるシャフトであるといえる。
さらに、引用発明1の「カテーテル」は、閉塞バルーン58、60を備えているから、バルーンカテーテルであるといえる。

そうすると、両者は、本願補正発明の文言を用いて表現すると、
「バイ(若しくはデュアル)ルーメンチューブを含むマルチルーメンチューブから構成されるシャフトを有するバルーンカテーテルであって、樹脂材料からなるシャフトを用いたバルーンカテーテル。」で一致し、次の点で相違する。
<相違点1>
シャフトの樹脂材料に関し、本願補正発明は、マルチルーメンチューブが押込力伝達性と曲路追従性に寄与する範囲の曲げ弾性率を有するものであるのに対し、引用発明は、その点が明らかでない点。
<相違点2>
本願補正発明は、マルチルーメンチューブのルーメンの内、ガイドワイヤルーメンの内面に更に潤滑度の高い(表面エネルギーが50dyn/cm以下)樹脂材料からなるチューブが密着状態で存在するのに対し、引用発明は、そのようなチューブが存在しない点。

(3)相違点の判断
上記相違点1、2について以下に検討する。
ア 相違点1について
本願明細書の発明の詳細な説明の【従来の技術】の項に記載されているように、従来から、バルーンカテーテルのシャフトには、押込力伝達性と曲路追従性に寄与する範囲の曲げ弾性率を有する特性を持たせるものである。
したがって、シャフトの樹脂材料として、押込力伝達性と曲路追従性に寄与する範囲の曲げ弾性率を有する樹脂材料を用い、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
引用発明2は、潤滑性物質(潤滑性のポリマー、例えば、フロロカーボン(例えば、四フッ化エチレン(PTFE))、ポリアミド(例えばナイロン)、ポリオレフィン、ポリイミド等)から構成された内部管状部材を備えたバルーンカテーテルの発明である。そして、引用発明2は、内部管状部材の内腔は、導入すべき装置を受け入れるための滑らかな表面を提供し(上記「(1)イ(ウ)の記載事項参照)、また、内部管状部材の内腔にはガイドワイヤーが挿通される(上記「(1)イ(イ)の記載事項参照)。
したがって、ガイドワイヤーの滑り性を良好とするために、ガイドワイヤーが挿通されるチューブを潤滑度の高い樹脂材料から形成することは、引用発明2から当業者が容易に想到し得ることである。
そして、表面エネルギーを50dyn/cm以下とすることに特段の臨界的意義はなく、潤滑度の高い(表面エネルギーが50dyn/cm以下)樹脂材料とすることは当業者が適宜なし得る設計的事項である。
また、マルチルーメンチューブの内孔の表面を平滑にするために、マルチルーメンチューブの内孔に、チューブを密着状態で存在させることは周知の技術である(例えば、特開平6-142207号公報参照)。
そうすると、マルチルーメンチューブのルーメンの内、ガイドワイヤルーメンの内面に、カイドワイヤーの滑り性を良好とするために、潤滑度の高い樹脂材料からなるチューブを密着状態で存在させ、相違点2の本願補正発明の発明特定事項とすることは、引用発明1、2及び上記周知の技術から当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願補正発明による効果も、引用発明1、2及び周知の技術から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明1、2及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(4)むすび
したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を、「本願発明」という)は、平成18年3月3日受付の手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「バイ(若しくはデュアル)ルーメンチューブを含むマルチルーメンチューブから構成されるシャフトを有するバルーンカテーテルであって、前記マルチルーメンチューブが押込力伝達性と曲路追従性に寄与する範囲の曲げ弾性率を有する樹脂材料からなり、該マルチルーメンチューブのルーメンの内、ガイドワイヤルーメンの内面に更に潤滑度の高い(表面エネルギーが50dyn/cm以下)樹脂材料からなるチューブが存在するシャフトを用いたことを特徴とするバルーンカテーテル。」

第4 引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及び、その記載事項は、前記「第2 3(1)」に記載したとおりである。

第5 対比・判断
本願発明は、前記「第2 1」の本願補正発明から、「チューブが存在するシャフト」の限定事項である「密着状態で」との構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2 3(3)」に記載したとおり、引用発明1、2及び周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明1、2及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1、2及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-19 
結審通知日 2008-06-24 
審決日 2008-07-07 
出願番号 特願平9-101972
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61M)
P 1 8・ 121- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 門前 浩一  
特許庁審判長 阿部 寛
特許庁審判官 北村 英隆
蓮井 雅之
発明の名称 バルーンカテーテル及びそれに用いるマルチルーメンシャフトの製造方法  
代理人 柳野 隆生  

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