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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03G |
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管理番号 | 1183273 |
審判番号 | 不服2006-17505 |
総通号数 | 106 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-10-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-08-10 |
確定日 | 2008-08-21 |
事件の表示 | 特願2002-169503「定着装置及び画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月15日出願公開、特開2004- 13045〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成14年6月11日の出願であって、平成18年7月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年8月10日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年9月11日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。 2.平成18年9月11日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成18年9月11日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] (1)補正の内容 本件補正により、本件補正前の平成18年6月15日付け手続補正書により補正された請求項1が、「加熱体を有する加熱部材と加圧部材とのニップで画像を担持した記録材を挟持搬送させて記録材上の画像を加熱する像加熱装置において、加熱部材近傍の温度を検出する温度検出素子と、前記温度検出素子からの出力に基づいて、加熱部材近傍の温度が目標温度になるように、加熱体への電力供給を制御する制御部とを有し、前記制御部は、第1の幅の記録材が通紙された後に前記第1の幅より広い第2の幅の記録材を通紙する場合、前記第1の幅の記録材の通紙枚数が多いほど低く、且つ前記第1の幅の記録材の通紙終了から前記第2の幅の記録材の通紙開始までの時間が短いほど、前記第2の幅の記録材の通紙時の目標温度が低くなるように制御するとともに、前記第1の幅の記録材が通紙された後に前記第2の幅の記録材を通紙する場合、前記第2の幅の記録材の通紙枚数に応じて段階的に目標温度を上げていくことを特徴とした像加熱装置。」から 「可撓性の移動部材、該移動部材と摺動する摺動面を有し移動部材を支持する支持部材、及び前記支持部材のニップ部近傍に配設され、該加熱体により記録材上の未定着画像を移動部材を介して加熱する加熱体を有する加熱部材と、加圧部材とのニップで未定着画像を担持した記録材を挟持搬送させて記録材上の未定着画像を加熱定着する定着装置において、加熱部材近傍の温度を検出する温度検出素子と、前記温度検出素子からの出力に基づいて、加熱部材近傍の温度が目標温度になるように、加熱体への電力供給を制御する制御部とを有し、前記制御部は、第1の幅の記録材が通紙された後に前記第1の幅より広い第2の幅の記録材を通紙する場合、前記第1の幅の記録材の通紙枚数が多いほど低く、且つ前記第1の幅の記録材の通紙終了から前記第2の幅の記録材の通紙開始までの時間が短いほど、前記第2の幅の記録材の通紙時の目標温度が低くなるように制御するとともに、前記第1の幅の記録材が通紙された後に前記第2の幅の記録材を通紙する場合、前記第2の幅の記録材の通紙枚数に応じて段階的に目標温度を上げていくことを特徴とした定着装置。」と補正された。 本件の請求項1に係る補正は、出願当初の明細書又は図面の記載の範囲内で、補正前の請求項1における「加熱部材」を「可撓性の移動部材、該移動部材と摺動する摺動面を有し移動部材を支持する支持部材、及び前記支持部材のニップ部近傍に配設され、該加熱体により記録材上の未定着画像を移動部材を介して加熱する加熱体を有する加熱部材」と限定し、補正前の請求項1における「画像」を「未定着画像」と限定するとともに、補正前の請求項1における「像加熱装置」を「定着装置」と限定したものである。 したがって、本件補正は、いずれも平成18年改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 (2)引用刊行物 本願出願前に頒布された刊行物であり、原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-143291号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の記載が図示とともにある。 ア.「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、記録材上に形成された未定着画像を定着させるための定着装置、特にフィルム加熱方式の定着装置を備えた、例えば、電子写真式プリンター、複写機、及び、静電記録装置などの画像形成装置に関するものである。」 イ.「【0009】ここで、熱ローラ式の加熱定着装置の場合には熱容量が大きいので、温調は所定温調に一定に保つという簡単なもので良いが、上述のフィルム加熱方式の定着装置の場合では、オンデマンド性を持たせるため熱容量を小さくする必要があり、以下に示すように温調制御する必要性があった。 【0010】すなわち、フィルム加熱方式の定着装置では、加圧ローラの温度によって紙に与える熱量がかなり異なるので、一定温調にすることができず、プリント枚数や前回定着してからの経過時間などにより、紙に与える熱量を一定にするように温調温度を常に変更する。 【0011】例えば、具体的には電源スイッチオン後の加圧ローラ温度が低いときは、温調温度を高く設定し、プリントを重ねるうちに加圧ローラ温度が高くなると、温調温度を徐々に下げていく。 【0012】このような温調制御により、定着不良やホットオフセットを防止することができた。 【0013】例えば、図6に温調制御の一例を示す。図において、横軸はプリント枚数で、縦軸は温調温度である。 【0014】図に示したのは連続プリントの例であるが、10枚ごとに温調温度を低下させている。 【0015】ただ、いくらでも温調温度を下げるわけではなく、本例では50枚程度で加圧ローラ温度が安定してくるので、この温調を最終温調として一定にしている。 【0016】また、プリントと休止が交互に行われる間欠プリントでは、プリント間隔すなわち紙と紙との間隔が広がり、定着装置でフィルムを介して加圧ローラがヒータに加熱される時間が長いため加圧ローラ温度が連続プリントの場合よりも上昇する。 【0017】そこで連続プリントの場合よりも温調温度を早い枚数から低下させる。 【0018】図6中、点線で示したものがそれである。 【0019】ただし、間欠プリントの場合は休止の間隔によって加圧ローラの温度が変わるので一概に同じ温調とすることはできない。 【0020】たとえば、30枚間欠プリントをしたあと最終温調に入るが、ここで長い休止をはさむと加圧ローラ温度が低下してしまうため、再び、高い温調温度としていた。 【0021】この場合、加圧ローラの温度を推測するために、ヒータに付いている温調用サーミスタ等のセンサーで検知して、所定のテーブルに対応した最適の温調に入れるようにしていた。」 ウ.「【0022】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述の従来技術に係るオンデマンド式の定着装置では、サーミスタ部分の加圧ローラ温度しか考慮していなかった。 【0023】したがって、封筒のような小サイズ紙のプリント後は、長手方向において封筒が通っていた通紙域は、従来の方法でも加圧ローラ温度検知が可能であるが、ヒータが長手方向最大通紙幅全域で均一な発熱を行っているため、非通紙域においては、紙に奪われる熱量がないことから高温になっていた(いわゆる非通紙部昇温)。 【0024】この場合、通紙域にあるサーミスタにより、従来の方法で設定した温調では、非通紙域では過定着となるためホットオフセットによる画像汚れが発生していた。 【0025】ここで、次のプリントがこれまでと同じ封筒の場合(すなわち、同じサイズのものを搬送する場合)については、通紙域では異常昇温は起こっていないので、単に温調温度を低下させるようにすると、定着不良が発生してしまう。 【0026】また、加圧ローラ駆動方式のオンデマンド定着で、特に加圧ローラにフッ素樹脂のチューブを用いた場合には、封筒などの小サイズ紙通紙後に、加圧ローラの非通紙部昇温により、記録材である紙から激しく水分が蒸発して、加圧ローラの搬送力が失って、記録材がスリップすることもあった。 【0027】本発明は上記の従来技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、サイズの異なるものに交換して、続けて作業を行った場合においても安定した画像品質を可能とする品質性に優れた画像形成装置を提供することにある。」 エ.「【0054】 図2において、13は加熱用回転体を構成するエンドレスベルト状の耐熱フィルム(定着フィルム)であり、半円弧状のフィルムガイド部材(ステイ)10に対して周長に余裕を持たせた形で外嵌している。」 オ.「【0057】 12は加熱ヒーターとしてのセラミックヒーターであり、セラミック基板上に発熱ペーストを印刷した発熱体、発熱体の保護と絶縁性を確保するためのガラスコーティング層を順次形成したものであり、ヒーター12上の発熱体へ電力制御されたAC電流を流すことにより発熱させることができる。 【0058】 セラミック基板の裏にはチップサーミスタ14が接着してあり、非通紙時の一定時間ヒーターへの通電をOFF又はONした時間内の温度変化を該チップサーミスタ14により検知し、この検知結果を基にヒーターの目標温度を決定して、不図示のヒーター駆動手段を制御してヒーター12への電力制御を行いヒーター温度を目標温度(プリント温度)に保つ構成となっている。」 カ.「【0061】 加圧ローラ11は不図示のバネにより加熱部材に圧接され配され、不図示の駆動系により回転駆動されており、記録材Pと定着フィルム10は加圧ローラ11によって従動回転され、搬送される構成となっている。 【0062】 未定着のトナー像は定着装置の加熱部(フィルム及びセラミックヒーター)と加圧ローラにより形成された圧接ニップ部内で加熱・加圧されて、記録材P上に定着され、定着後の記録材Pは機外へ排出される。」 キ.「【0065】 本実施の形態においては、小サイズの記録材として封筒をプリントした後に、普通サイズの記録材として普通紙をプリントする場合に、ホットオフセットや定着不良を防止する制御を示す。」 ク.「【0092】 本実施の形態では、小サイズ紙をプリントしたあとに、普通サイズ紙をプリントする場合には、封筒通紙枚数に応じて、普通サイズのプリント時の温調低下温度を所定の値に変化させている。」 ケ.「【0094】 本実施の形態では、小サイズ紙を1?10枚連続プリントした後は、普通サイズ紙10℃低下、小サイズ紙を11?20枚連続プリントした後は、普通サイズ紙20℃低下、小サイズ紙を21?30枚連続プリントした後は、普通サイズ紙30℃低下、小サイズ紙を31枚以上連続プリントした後は、普通サイズ紙40℃低下させる。」 コ.「【0140】 以上のように、本実施の形態においては、封筒など小サイズ紙のプリントが行われ終了した後、次のプリントを行うとき、次の記録材の通紙領域の、加圧ローラの温度を予測し、その温度に対応して適正な後回転、前回転延長後にプリントを行うことで、ホットオフセット、スリップジャム防止に効果がある。」 サ.図2より、セラミックヒータ12がフィルムガイド部材10の圧接ニップ部近傍に配設され、セラミックヒーター12により記録材P上の未定着トナー像を定着フィルム13を介して加熱していることが看取できる。 シ.図3より、画像形成装置において定着制御装置が設けられていることが看取できる。 エ.及びカ.の記載より、定着フィルム13はフィルムガイド部材10に外嵌しており、加圧ローラ11によって従動回転されるから、刊行物1においても、フィルムガイド部材10は定着フィルム13と摺動する摺動面を有し定着フィルム13を支持するといえる。 ケ.の記載より、引用発明の制御は、「小サイズ紙を通紙したあとに、普通サイズ紙を通紙する場合に、小サイズ紙の通紙枚数が多いほど普通サイズ紙の通紙時の温度を低くするよう制御する」ものである。 従って、上記記載及び図面を含む刊行物1全体の記載から、刊行物1には、以下の発明が開示されていると認められる。 「定着フィルム13、該定着フィルム13と摺動する摺動面を有し定着フィルム13を支持するフィルムガイド部材10、フィルムガイド部材10の圧接ニップ部近傍に配設され、セラミックヒーター12により記録材P上の未定着トナー像を定着フィルム13を介して加熱するセラミックヒーター12を有し、定着装置6の加熱部と加圧ローラ11との圧接ニップで未定着トナー像を担持した記録材Pを搬送させて記録材P上の未定着トナー像を圧接ニップ部内で加熱・加圧して記録材P上に定着する定着装置6において、セラミックヒーター12の温度変化を検知するチップサーミスタ14と、チップサーミスタ14の検知結果を基に、セラミックヒーター12の温度を目標温度を決定し、セラミックヒーター12への電力制御を行う定着制御装置とを有し、前記定着制御装置は、小サイズ紙を通紙したあとに、普通サイズ紙を通紙する場合、前記小サイズ紙の通紙枚数が多いほど、前記普通サイズ紙の通紙時の目標温度が低くなるように制御する定着装置6。」(以下、「引用発明」という。) また、原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開平6-27855号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の記載が図示とともにある。 ス.「【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は複写機、プリンタ等の画像形成装置に用いられ記録材上の未定着画像を定着する定着装置に関する。」 セ.「【0057】 コピー終了と共に時間を計測し、1分以内に新たなコピーを開始しないと計測を終了し、その後、コピーを行うと通常のコピーを行う。 【0058】 1分以内に新たにコピーを行うと、まず、前回のコピーで通紙された枚数を判断する。これは、前回のコピーで大量に通紙した場合には温度分布の不均一が発生しているからで本実施例においては40枚を基準に考え40枚以下ならば前回のコピーにおいて不均一な温度分布が発生しなかったと判断する。 【0059】 この場合は、前回のコピーにおける条件を無視し、今回のコピーにおいて通紙される紙サイズにより強制点灯で使用するハロゲンヒータを決定する。 【0060】 つまり、今回通紙される紙サイズが最大通紙巾(大サイズ)ならばサブヒータのみによって強制点灯を行い、大サイズ紙の通紙によって起こる端部温度の低下を保証する。今回通紙される紙サイズが最大通紙巾より狭い紙(小サイズ紙)の場合は非通紙部昇温を軽減するためにメインヒータのみで強制点灯を行う。両者の場合でも強制点灯の後はそのサイズに適応したヒータの発光間隔比率で定着を行う。もちろん、大サイズ、小サイズの2つの区別だけでなく各種の紙サイズに応じてヒータの発光間隔比率を変えて強制点灯を行うことができる。また、ヒータも2本限る必要もない。 【0061】 前回のコピー枚数が40枚より多い場合は、前回のコピーの紙サイズに応じて紙が定着器に突入するまでの強制点灯で使用するヒータを決定する。 【0062】 前回の紙サイズが大サイズならば端部の温度が低下しているためにサブヒータのみで強制点灯を行い、前回のコピーの紙が小サイズならば、非通紙部昇温を軽減するためにメインヒータによって強制点灯を行う。そのご、今回のコピーの紙サイズによって、紙が定着器に突入してから排出されるまでの強制点灯で使用するヒータを決定する。今回通紙される紙サイズが大サイズならばサブヒータのみによって強制点灯を行い、大サイズ紙の通紙によって起こる端部温度の低下を保証する。今回通紙されるサイズが小サイズ紙の場合は非通紙部昇温を軽減するためにメインヒータのみで強制点灯を行う。この場合でも強制点灯の後はそのサイズに適応したヒータの発光間隔比率で定着を行う。本実施例においては定着器に紙が突入するときで強制点灯の方法を切り替えたが、これはその装置によって個別に設定される。もちろんヒータの発光間隔比率を連続的に変化させることで対応することもできる。」 (3)対比 補正発明と引用発明とを対比する。 a.引用発明の「定着フィルム13」、「フィルムガイド部材10」、「圧接ニップ部」、「セラミックヒーター12」、「未定着トナー像」、「定着装置6の加熱部及びフィルムガイド部材10」、「加圧ローラ11」、「チップサーミスタ14」、「定着制御装置」、「小サイズ紙」、「普通サイズ紙」は本願発明の「可撓性の移動部材」、「支持部材」、「ニップ部」、「加熱体」、「未定着画像」、「加熱部材」、「加圧部材」、「温度検出素子」、「制御部」、「第1の幅の記録材」、「第2の幅の記録材」に相当する。 b.引用発明においても、定着装置6の加熱部と加圧ローラ11との圧接ニップで未定着トナー像を担持した記録材Pを搬送させているから、「記録材Pを挟持搬送させて」いるものといえる。 c.引用発明においても、チップサーミスタ14は加熱部材であるセラミックヒーター12の温度変化を検知しているから、「加熱部材近傍の温度を検出」しており、「加熱部材近傍の温度が目標温度になるように、加熱体への電力供給を制御する」といえる。 したがって、補正発明と引用発明を比較すると、 「可撓性の移動部材、該移動部材と摺動する摺動面を有し移動部材を支持する支持部材、及び前記支持部材のニップ部近傍に配設され、該加熱体により記録材上の未定着画像を移動部材を介して加熱する加熱体を有する加熱部材と、加圧部材とのニップで未定着画像を担持した記録材を挟持搬送させて記録材上の未定着画像を加熱定着する定着装置において、加熱部材近傍の温度を検出する温度検出素子と、前記温度検出素子からの出力に基づいて、加熱部材近傍の温度が目標温度になるように、加熱体への電力供給を制御する制御部とを有し、前記制御部は、第1の幅の記録材が通紙された後に前記第1の幅より広い第2の幅の記録材を通紙する場合、前記第1の幅の記録材の通紙枚数が多いほど低くなるように制御する定着装置。」の点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点1]補正発明においては、「第1の幅の記録材の通紙終了から前記第2の幅の記録材の通紙開始までの時間が短いほど、前記第2の幅の記録材の通紙時の目標温度が低くなるように制御する」と特定されているのに対し、引用発明では、そのような制御が行われているか不明な点。 [相違点2]補正発明においては、「第1の幅の記録材が通紙された後に前記第2の幅の記録材を通紙する場合、前記第2の幅の記録材の通紙枚数に応じて段階的に目標温度を上げていく」と特定されているのに対し、引用発明では、そのような制御が行われているか不明な点。 (4)判断 [相違点1]について検討する。 刊行物1【0009】?【0021】に記載されているように、刊行物1は補正発明と同様のフィルム加熱方式の定着装置に関する発明である。フィルム加熱方式の定着装置においては加圧ローラの温度によって紙に与える熱量がかなり異なるため、小サイズ紙をプリントした後大サイズ紙をプリントする場合、刊行物1【0022】?【0027】に記載されているように、プリント時に小サイズ紙が通過する通紙領域に比べて、紙に奪われる熱量がない非通紙領域は高温になり、ホットオフセットが発生する。そのため、引用発明は補正発明ともに目標温度(温調温度)を常に制御することにより、この課題を解決している。 第1の幅の記録材の通紙終了から第2の幅の記録材の通紙開始までの時間が短いほど加熱部材の非通紙領域の温度が上昇したままで、ホットオフセットが発生し易いこと、ホットオフセットを防止するために、第2の幅の記録材の通紙開始までに、加熱部材の非通紙領域の温度を低下させる必要があることは、技術常識を参酌すれば、当業者にとって明らかである。そのため、例えば刊行物1においては第1の幅の記録材である小サイズ紙のプリント枚数が多いほど非通紙領域の温度が上昇しているから、小サイズ紙のプリント枚数に応じて休止時間を長くするよう制御し(刊行物1【0100】?【0105】参照)、刊行物2においては、定着ローラに不均一な温度分布が発生したと判断される40枚以上のコピー終了から新たなコピーを開始するまでの間の間隔が1分以内の場合、非通紙部昇温を軽減するためにメインヒータによって強制点灯し、1分以内でない場合は通常のコピーを行うよう制御している(上記「セ.」の記載参照)。 引用発明において、加熱部材の目標温度を通常の設定温度より低く設定するシーケンスは、幅の狭い記録材の通紙に起因する加熱部材の非通紙領域の温度上昇を解消し、ホットオフセットの防止を目的とするものであるから、引用発明の加熱部材の制御方法として、「第1の幅の記録材の通紙終了から前記第2の幅の記録材の通紙開始までの時間が短いほど、前記第2の幅の記録材の通紙時の目標温度が低くなるように制御する」制御方法、すなわち相違点1に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が容易に想到しうる程度のことである。 [相違点2]について検討する。 第2の幅の記録材の通紙を続けると、上昇していた加熱部材の非通紙領域の温度は、通紙枚数の増加に伴って解消していくこと、通紙枚数が増加するに従い、加熱部材の目標温度を通常の設定温度より低く設定したままでは、第2の幅の記録材を定着するには不十分な温度となることは当業者にとって明らかであるから、第2の幅の記録材通紙枚数の増加に伴って段階的に目標温度を上げるようにすることは、良好な画像を得るために当然行われるべき制御である。したがって、「第1の幅の記録材が通紙された後に前記第2の幅の記録材を通紙する場合、前記第2の幅の記録材の通紙枚数に応じて段階的に目標温度を上げていく」制御方法、すなわち相違点2に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が適宜行う程度のことである。 そして、補正発明の作用効果も、刊行物1、2記載の発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。 したがって、補正発明は、本願出願前に頒布された刊行物1、2記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (5)補正却下の決定についてのむすび 以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3.本願発明について (1)本願発明の認定 本件補正が却下されたから、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成18年6月15日付け手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定された次のとおりのものと認める。 「加熱体を有する加熱部材と加圧部材とのニップで画像を担持した記録材を挟持搬送させて記録材上の画像を加熱する像加熱装置において、加熱部材近傍の温度を検出する温度検出素子と、前記温度検出素子からの出力に基づいて、加熱部材近傍の温度が目標温度になるように、加熱体への電力供給を制御する制御部とを有し、前記制御部は、第1の幅の記録材が通紙された後に前記第1の幅より広い第2の幅の記録材を通紙する場合、前記第1の幅の記録材の通紙枚数が多いほど低く、且つ前記第1の幅の記録材の通紙終了から前記第2の幅の記録材の通紙開始までの時間が短いほど、前記第2の幅の記録材の通紙時の目標温度が低くなるように制御するとともに、前記第1の幅の記録材が通紙された後に前記第2の幅の記録材を通紙する場合、前記第2の幅の記録材の通紙枚数に応じて段階的に目標温度を上げていくことを特徴とした像加熱装置。」 (2)進歩性について 本願発明は、2.における「(2)補正発明の認定」で検討したように、「加熱部材」、「画像」、「定着装置」についての限定を一部削除したものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに前記の各限定を行ったものに相当する補正発明が、前記2.における「(4)判断」に記載したとおり、刊行物1、2記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1、2記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 4.むすび 以上のとおり、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物1、2記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本願のその余の請求項について検討するまでもなく本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-06-19 |
結審通知日 | 2008-06-24 |
審決日 | 2008-07-07 |
出願番号 | 特願2002-169503(P2002-169503) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G03G)
P 1 8・ 575- Z (G03G) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | ▲高▼橋 祐介 |
特許庁審判長 |
山下 喜代治 |
特許庁審判官 |
七字 ひろみ 赤木 啓二 |
発明の名称 | 定着装置及び画像形成装置 |
代理人 | 高梨 幸雄 |