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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07D
管理番号 1183284
審判番号 不服2005-4371  
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-03-10 
確定日 2008-08-22 
事件の表示 特願2000- 47456「エピスルフィド化合物およびそれを用いた高屈折率樹脂の製造方法。」拒絶査定不服審判事件〔平成12年11月 7日出願公開、特開2000-309584〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯、本願発明

本願は、平成12年2月24日(優先権主張平成11年2月24日)の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成20年5月30日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。

「10?100℃の温度で、0.1?100000Paの圧力下、50時間以下で、遠心式、又は硫化(当審注:「流下」の誤記)膜式の回転機構を組み合わせた蒸留装置を用いてトルエンを除去し、該トルエン含有量が0.5wt%以下の下記(2)式で表されるエピスルフィド化合物を、重合硬化することを特徴とする高屈折率樹脂の製造方法。
【化1】(2)(構造式及び置換基の説明は省略。)」(以下、「本願発明」という。)

2.引用例の記載の概要

これに対して、当審の拒絶の理由に引用された本願の優先権主張の日前に頒布された次の刊行物には以下の事項が記載されている。

・特開平9-110979号公報(以下、「引用例1」という。)

(A)「【請求項1】(1)式で表される直鎖アルキルスルフィド型エピスルフィド化合物。
【化1】(1)(構造式及び置換基の説明は省略。)
……
【請求項5】請求項1記載の直鎖アルキルスルフィド型エピスルフィド化合物を重合硬化して樹脂光学材料を得る方法。」(【特許請求の範囲】)

(B)「本発明の新規な直鎖アルキルスルフィド型エピスルフィド化合物を重合硬化して光学材料を得るに際して、原料となる、エピスルフィド化合物、さらには所望に応じて前述の硬化触媒、不飽和基を有するエピスルフィド基と反応可能な例えばグリシジルメタクリレート、チオグリシジルメタクリレ-ト(グリシジルメタクリレ-トのエポキシ基をエピスルフィド化したもの)等を併用する場合、ラジカル重合開始剤、ラジカル重合可能な単量体、さらには離型剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤混合後、次の様にして重合硬化してレンズ等の光学材料とされる。……各原料、添加剤の混合前、混合時あるいは混合後に、減圧下に脱ガス操作を行う事は、後の注型重合硬化中の気泡発生を防止する点からは好ましい方法である。……さらに、型に注入に際して、ミクロフィルター等で不純物等を濾過し除去することは本発明の光学材料の品質をさらに高める上からも好ましい。」(【0019】)

(C)「【発明の効果】本発明のジエピルフィド化合物を重合硬化して得られる硬化樹脂光学材料より、従来技術の化合物を原料とする限り困難であった十分に高い屈折率と、良好な屈折率とアッベ数のバランスを有する樹脂光学材料が可能となった。すなわち本発明の新規な化合物により樹脂光学材料の軽量化、薄肉化および色収差の低減化が格段に進歩することとなった。これにより眼鏡等のレンズ用途として好ましい材料が製造可能となった。また、本発明の新規な樹脂硬化材料は、耐熱性、強度にも優れ各種用途に使用できる。」(【0020】)

(D)「実施例1(n=1、m=2)
1,2-ジメルカプトエタン1.0mol(94.2g)とエピクロルヒドリン2.0mol(185.0g)を液温を10℃まで冷却し、水酸化ナトリウム10mmol(0.4g)を水4mlに溶かした水溶液を加え、この温度で1時間攪拌した。その後、液温を40-45℃前後に保ちながら2時間攪拌した。室温に戻し、水酸化ナトリウム2mol(80.0g)を水80mlに溶かした水溶液を、液温を40-45℃前後に保ちながら滴下しその後、液温を40-45℃前後に保ちながら3時間攪拌した。反応混合物に水200mlを加え、トルエン300mlで抽出し、トルエン層を水200mlで3回洗浄した。トルエン層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を留去し、無色透明液体の1,2-ビス(グリシジルチオ)エタンを202.0g(理論量の99%)で得た。ついで、ここで得られた、1,2-ビス(グリシジルチオ)エタン0.3mol(79.9g)とエタノール40mlをチオシアン酸カリウム87.5g(0.9mol)を水60mlに溶解させた水溶液に加え、1時間かけて液温を45℃まで上昇させ、この温度で5時間反応させた。反応混合物に水500mlを加え、トルエン500mlで抽出し、トルエン層を水500mlで3回洗浄した。トルエン層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を留去し、白色固体の1,2-ビス(β-エピチオプロピルチオ)エタン(式(1)のm=2,n=1)を78.1g(理論量の88%)得た。
……
さらに、本化合物100重量部にトリブチルアミンを1重量部配合し、これを厚さ2mmに調節した2枚のガラス板からなるモウルド中に注入し、80℃で5時間重合硬化し光学材料を得た得られた材料の屈折率、アッベ数および比重を測定し結果を、表1に示した。」(【0022】)

・特開平8-259884号公報(以下、「引用例2」という。)

(E)「該水性ポリウレタン樹脂の反応において有機溶媒を用いその溶媒を除去する場合、……薄膜蒸留器を用いる方法等いずれの方法をとることもできる。」(【0024】)

・特開平5-142763号公報(以下、「引用例3」という。)

(F)「反応終了後の該反応液は……減圧薄膜蒸留……等により……溶媒……を除去し、精製することにより、一般式[I]の化合物を得ることができる。」(【0014】)

3.当審の判断
(1)対比
引用例1には、溶媒であるトルエンを留去した(1)式で表される直鎖アルキルスルフィド型エピスルフィド化合物を重合硬化して樹脂光学材料を得る方法が、記載されており(摘記事項(A)、(D))、該樹脂光学材料は高い屈折率を有することも記載されている(摘記事項(C)、(D))から、引用例1には「トルエンを留去した(1)式で表される直鎖アルキルスルフィド型エピスルフィド化合物を重合硬化して高い屈折率を有する樹脂光学材料を得る方法。」(以下、「引用発明」という。)が、記載されている。
そこで、本願発明と引用発明を対比する。
引用例1の【請求項1】及び本願明細書の【請求項1】に記載の構造式及び置換基の説明からみて、引用発明の「(1)式で表される直鎖アルキルスルフィド型エピスルフィド化合物」は、本願発明の「(2)式で表されるエピスルフィド化合物」に対応する。
そうすると、両発明は、「トルエンを除去し、本願明細書の(2)式で表されるエピスルフィド化合物を重合硬化する、高屈折率樹脂の製造方法。」で一致し、トルエンの除去が、本願発明は、10?100℃の温度で、0.1?100000Paの圧力下、50時間以下で、遠心式、又は流下膜式の回転機構を組み合わせた蒸留装置を用いてトルエンを除去し、該トルエン含有量が0.5wt%以下としたものであるのに対し、引用発明ではトルエンを除去する条件及びトルエン含有量が特定されていない点で、相違する。

(2)相違点についての判断
レンズ等に用いられる重合性材料において、レンズの種々の物性の低下を防ぐために、重合性材料から重合に関係のない溶媒等の不純物の混入を抑制することは通常の課題であると認められ、引用例1にも、原料から、型に注入に際して、不純物等をろ過し除去することが本発明の光学材料の品質を高める上からも好ましいことが記載されている(摘記事項(B))。そうすると、引用発明のレンズ等の製造用の重合性材料の製造に使用するエピスルフィド化合物から溶媒であるトルエンを除去する際(摘記事項(D))に、不純物となり得るトルエンもできる限り除去し、その含有量を低下させれば、光学材料の品質を高める上からも好ましいことが明らかであるし、そのような低い溶媒含有量を、0.5wt%以下と設定することに、格別の困難性が存在したとも認められない。
そして、引用例2(摘記事項(E))及び引用例3(摘記事項(F))に記載されているとおり、トルエンのような有機溶媒を除去する方法として(減圧)薄膜蒸留を用いることは、周知であり、薄膜蒸留を、流下膜式の回転機構を組み合わせた蒸留装置を用い、加熱条件で高真空で行うことも周知である(化学大辞典8 縮刷版第22刷、昭和53年9月10日、共立出版株式会社、第188ページ左欄第41行?第189ページ左欄第11行)から、そのような0.5wt%以下という低いトルエン含有量のエピスルフィド化合物とするために、周知の薄膜蒸留において、10?100℃の温度で、0.1?100000Paの圧力下、50時間以下という条件を設定することにも格別の困難性が存在したとも認められない。

なお、請求人は平成20年5月16日付けの意見書において、本願発明の効果について、本願発明の高屈折率樹脂は高い透明性を有すると主張している。しかし、引用例1(摘記事項(B))に記載のとおり、不純物等を除去すれば、光学材料の品質が高まるのであるから、溶媒であるトルエンのような不純物の含有量を低下させれば、高屈折率樹脂光学材料の透明性が高くなることは、当業者が十分予測し得ることである。
したがって、そのような本願発明の効果についても、引用例1?3の記載から、当業者であれば、容易に予測し得る範囲内のものである。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-24 
結審通知日 2008-06-25 
審決日 2008-07-08 
出願番号 特願2000-47456(P2000-47456)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安川 聡冨永 保  
特許庁審判長 塚中 哲雄
特許庁審判官 瀬下 浩一
星野 紹英
発明の名称 エピスルフィド化合物およびそれを用いた高屈折率樹脂の製造方法。  

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