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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16L
管理番号 1183368
審判番号 不服2007-2093  
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-01-18 
確定日 2008-08-21 
事件の表示 平成10年特許願第 63950号「高シ-ル性のホ-ス」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 9月14日出願公開、特開平11-248052〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成10年2月28日の出願であって、平成18年11月28日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年1月18日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年2月15日に明細書についての補正がなされたものである。

2.平成19年2月15日付の手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願の発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「ホース先端に金具を挿入し、板バネ式のクランプで締め付けてシール性を保持するホースであって、前記ホースは内管ゴムとその外側に繊維補強層、更に外被ゴム層を順次積層したものであり、繊維補強層の編上角度がホース軸方向に対して55?58度で構成され、かつ前記繊維補強層に用いられる補強糸がアラミドまたはPENであり、該補強糸の弾性率が、2%歪み時に3g/デニール以上であることを特徴とする高シール性のホース。」
と補正された。
上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「補強糸」の材料について「アラミドまたはPEN」との限定を付加するものであって、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用文献
(2-1)原査定の拒絶の理由に引用された特開昭55-49250号公報(以下「引用文献1」という。)には、「ガソリン循環用管路」と題し、図面と共に次の事項が記載されている。
・「金属パイプの端部近くにニツプルのような膨大部を設け、この金属パイプの外面に金属パイプの外径より小さな内径を有するゴムホースを挿入して膨大部にてゴムホース内径を拡大し、膨大部と補強層との間に挟さまれる内面ゴム層を圧縮することによるシール効果が期待された。ところがかゝる方式は初期のうちは大きな効果があるが長期テストにおいては全く効果がなかつた。
この理由は近年において自動車産業の発展は著しく、特に車の排気対策に伴う燃料の高圧化、高温化によりエンジンルーム内は上は100℃以上、下は-40℃以下と非常に幅の広い温度変化をし、更にガソリンは高温にて酸化されたガソリンとなつて循環するので、たとえ内面ゴム層に耐溶剤性に優れた高ニトリルゴムの材料を用いても長期においてガソリンで可塑剤が抽出されて硬くなり、又超耐ガソリン性を有するふつ素ゴムの材料を用いてもガソリンに浸漬されて低温が続くと柔軟性をなくし、いずれもシール機能を全く失うからであつて、材料だけではこの問題は解決できなかつた。」(第1頁右下欄第14行?第2頁左上欄第14行)
・「補強層の編組角度を静止角度より大きな角度で粗にブレード編みした補強層とし、金属パイプの外径より小さな内径を有する前記構造のゴムホースを、その挿入先端部が膨大部を越えて金属パイプの中ほどに向つて若干長さ挿入することにより、前記した問題を解決したガソリン循環用管路を得ることが出来たものである。」(第2頁右上欄第6?12行)
・「第1図、第2図において1は金属パイプで端部には断面が山形状の環状の膨大部2を有している。3は金属パイプ1に挿入するゴムホースでゴムホース3は内面側より外側に順次、内側層4と外側層5の二層よりなる内面ゴム層6と補強層7、外面ゴム層8より構成される。」(第2頁右上欄第15?20行)
・「補強層7(注:「6」は誤記)は編組角度を静止角度より大きな角度即ち54°44′より大きな角度(55°?57°)で補強糸が相互に動きうるように補強糸が交差して生じた升目内間隙を有するように粗にブレード編みして構成してある。そして補強糸は熱疲労に対して強いビニロン糸或はテトロン糸などを用い、ゴムホース内に圧力がかゝつた際、径方向の膨張を充分に押さえるため伸びの小さい糸(実際には10%以下)を用いるのがよい。」(第2頁右下欄第9?17行)
・「そしてゴムホース内径の拡大と同時に静止角度より大き目に編組されている補強層は膨大部によつて更に静止角度より大きな編み目に押し拡げられ、この結果補強層は軸に対して直角近くに配列され、ゴムホースの径方向の膨張を阻止する役目をなし、ゴムホース内に圧力がかゝると補強層は静止角度の位置まで戻ろうとする。この結果ゴムホース内に圧力がかゝるたびに内面ゴム層6は膨大部2と補強層7との間の圧縮の他に加わつた内圧による補強層7の軸方向伸びによつて更に強く外より締め付けられることになり、高いシール効果を金属パイプの膨大部2にて生じる効果がある。」(第4頁左上欄第12行?同頁右上欄第4行)

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用文献1には、次の事項からなる発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「ゴムホース3先端に金属パイプ1を挿入してシール効果を生じるゴムホース3であって、前記ゴムホース3は内面ゴム層6とその外側に補強層7、更に外面ゴム層8を順次積層したものであり、補強層7の編組角度が静止角度より大きな角度である55°?57°で構成され、かつ前記補強層7に用いられる補強糸がビニロン糸或はテトロン糸などであり、伸びの小さい糸である高いシール効果を生じるゴムホース3。」

(2-2)同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-144379号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
・「【0001】
【技術分野】本発明は、車両用配管ホースに係り、特に、ホースの耐圧性と耐久性を高めるために、複数本の補強糸を用いて形成した補強層がゴム層上に積層された構造の車両用配管ホースに関するものである。」
・「【0007】
【解決課題】そこで、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、スパイラル編組構造の補強層を有する車両用配管ホースにおいて、その耐圧性、耐久性を有利に高めることにあり、特に高温雰囲気下での耐繰り返し加圧性を改善することにある。
【0008】
【解決手段】そして、そのような課題を解決するために、本発明にあっては、内側ゴム層の外周面上に、複数本の補強糸を引き揃えて一方向にスパイラル状に巻き付けることによって第一の補強層を形成すると共に、該第一の補強層上に、中間ゴム層を介して、複数本の補強糸を引き揃えて前記一方向とは逆の方向にスパイラル状に巻き付けることによって第二の補強層を形成し、更に該第二の補強層の外周面上に、ゴム又は樹脂からなる外側層を設けてなる車両用配管ホースにおいて、少なくとも前記第一の補強層が、乾熱収縮が0.8%以下であり、且つ伸度が1.7%以下である低収縮低伸度糸とポリエステルフィラメント糸との混撚糸からなる補強糸を用いて形成されていると共に、該補強糸中の低収縮低伸度糸の割合が15%以上とされ、且つ該補強糸の総デニールが2000?6000デニールとされていることを特徴とする車両用配管ホースを、その要旨とするものである。
【0009】また、本発明に従う車両用配管ホースにおいては、有利には、上記低収縮低伸度糸として、アラミドフィラメント糸又はポリエチレンナフタレートフィラメント糸が用いられることとなる。」
・「【0031】先ず、図1に示される如き、内側樹脂層、内側ゴム層、第一の補強層、中間ゴム層、第二の補強層、外側層が積層された構造の各種配管ホース(内径:12.1mm、外径:19.7mm)を、それぞれ異なる設計値に従って作製した。但し、何れのホースでも、内側樹脂層はナイロン6/オレフィン系エラストマーブレンド樹脂にて0.15mmの厚さで形成し、内側ゴム層はCl-IIRにて1.0mmの厚さで形成し、中間ゴム層はCl-IIRにて0.3mmの厚さで形成し、外側層はEPDMにて1.5mmの厚さで形成した。一方、第一の補強層及び第二の補強層には、ポリエステルフィラメント糸(PET)と、アラミドフィラメント糸(テクノーラ:帝人株式会社製)又はポリエチレンナフタレート(PEN)フィラメント糸との混撚糸を用い、それぞれ、下記表1、表2に示される設計値に従い、互いに逆の巻付け方向となるようにして、スパイラル編組構造で形成した。なお、乾熱収縮は、150℃×60分の乾熱処理時の糸の収縮量を示し、また伸度は、6.8kgの重量を掛けた時の糸の伸びを示している。更に、補強糸の巻付け角度は、すべての実施例及び比較例において、第一、第二の補強層の何れもホース軸方向に対して56°の角度となるようにした。」

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「ゴムホース3」はその機能・作用からみて、前者の「ホース」に相当し、以下同様に「金属パイプ1」は「金具」に、「シール効果を生じる」は「シール性を保持する」に、「内面ゴム層6」は「内管ゴム」に、「補強層7」は「繊維補強層」に、「外面ゴム層8」は「外被ゴム層」に、「高いシール効果を生じる」は「高いシール性の」にそれぞれ相当する。
また、後者の「補強層7に用いられる補強糸がビニロン糸或はテトロン糸などであり、伸びの小さい糸である」と前者の「繊維補強層に用いられる補強糸がアラミドまたはPENであり、該補強糸の弾性率が、2%歪み時に3g/デニール以上である」とは、「繊維補強層に用いられる補強糸が弾性率が高い糸である」との概念で共通している。
そして、「55°?57°」という範囲の条件が「55?58度」という範囲の条件を充足するものであることから、後者の「補強層7の編組角度が静止角度より大きな角度である55°?57°で構成され」は、前者の「繊維補強層の編上角度がホース軸方向に対して55?58度で構成され」に相当するものといえる。
したがって両者は、
[一致点]
「ホース先端に金具を挿入し、シール性を保持するホースであって、前記ホースは内管ゴムとその外側に繊維補強層、更に外被ゴム層を順次積層したものであり、繊維補強層の編上角度がホース軸方向に対して55?58度で構成され、かつ前記繊維補強層に用いられる補強糸が弾性率が高い糸である高シール性のホース。」である点で一致し、
[相違点]
(イ)シール性保持のために、本件補正発明では、「板バネ式のクランプで締め付けて」いるのに対して、引用発明では、そのような構成を有していない点、
(ロ)「繊維補強層に用いられる補強糸」として用いられる「弾性率が高い糸」が、本件補正発明では、「アラミドまたはPENであり、該補強糸の弾性率が、2%歪み時に3g/デニール以上」であるのに対し、引用発明では、「ビニロン糸或はテトロン糸などであり、伸びの小さい糸」である点で相違している。

(4)相違点に対する判断
相違点(イ)について
本願の出願前において、流体を取り扱う機器において、高圧化が進んでいたことは、引用文献1(第1頁右下欄第14行?第2頁左上欄第14行の記載事項参照。)にも示されるとおりである。そして、そのような機器において、流体の高圧化に伴って、ホースとの接続部でのシール性に配慮することは当然のことである。
ところで、ホース先端に金具を挿入し、板バネ式のクランプで締め付けてシール性を保持することは、慣用手段である(例えば、特開平8-261373号公報(クランプ10に関する記載)、特開平8-21578公報(バネクランプ310に関する記載)参照。)。
したがって、上記慣用手段を踏まえれば、引用発明においても、板バネ式のクランプで締め付けてシール性を保持することで上記相違点(イ)に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が必要に応じて任意になし得たものというべきである。

相違点(ロ)について
ゴムホースの繊維補強層に用いられる補強糸として、ゴムホース内に圧力がかゝった際、径方向の膨張を十分に押さえるために伸びの小さい糸(高弾性率の糸と同義)が望ましいことは、引用文献1の上記第2頁右下欄第9?17行にも記載されている。このことは、機器とホースとの接続部でのシール性を考慮すれば容易に理解されることである。
また、ホースの繊維補強層に用いられる補強糸として、アラミドやPEN(ポリエチレンナフタレート)の糸を用いることは、例えば引用文献2に記載されているように周知技術である。
そして、アラミド繊維やPEN(ポリエチレンナフタレート)繊維が、高弾性率であることは技術常識(例えば、特開昭63-196778号公報(第1頁右下欄第2?6行の記載)、特開平6-346322号公報(段落【0001】の記載)参照。)である。
そうすると、引用発明に上記周知技術を適用して、繊維補強層の補強糸にアラミドまたはPENを用いて高弾性率のものとすることは当業者が容易に想到し得ることである。そしてその際に、高弾性率として弾性率が2%歪み時に3g/デニール以上とすることは、当業者が通常の創作能力の下に適宜設計し得ることにすぎない。

また、本件補正発明の全体構成により奏される効果は、引用発明、上記慣用手段及び上記周知技術から予測し得る程度のものと認められる。

したがって、本件補正発明は、引用発明、上記慣用手段及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する特許法第126条第5項の規定に違反するものであり、平成18年改正前特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成18年4月17日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「ホース先端に金具を挿入し、板バネ式のクランプで締め付けてシール性を保持するホースであって、前記ホースは内管ゴムとその外側に繊維補強層、更に外被ゴム層を順次積層したものであり、繊維補強層の編上角度がホース軸方向に対して55?58度で構成され、かつ前記繊維補強層に用いられる補強糸の弾性率が、2%歪み時に3g/デニール以上であることを特徴とする高シール性のホース。」

(1)引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献及びその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、上記したとおりであって、前記「2.」で検討した本件補正発明から「補強糸」の材料についての周知技術である「アラミドまたはPEN」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに上記周知技術を付加したものに相当する本件補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、引用発明、上記慣用手段及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、前記「2.(4)」での判断を踏まえれば、本願発明は引用発明及び上記慣用手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び上記慣用手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-19 
結審通知日 2008-06-24 
審決日 2008-07-07 
出願番号 特願平10-63950
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16L)
P 1 8・ 575- Z (F16L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷口 耕之助  
特許庁審判長 田良島 潔
特許庁審判官 小川 恭司
大河原 裕
発明の名称 高シ-ル性のホ-ス  
代理人 福田 浩志  
代理人 中島 淳  
代理人 西元 勝一  
代理人 加藤 和詳  

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