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審決分類 審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C03B
審判 査定不服 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C03B
管理番号 1183547
審判番号 不服2005-4215  
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-03-10 
確定日 2008-08-27 
事件の表示 平成 6年特許願第266878号「光学用合成石英ガラス及びその製造方法並びにその用途」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 5月28日出願公開、特開平 8-133753〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成6年10月31日の出願であって、平成17年2月8日付けで拒絶査定が通知され、同年3月10日に拒絶査定に対する審判が請求されるとともに、同日付で手続補正書が提出され、前置審査において同年8月2日付けで拒絶理由が通知され、同年10月3日付けで意見書が提出され、その後、当審において平成19年11月20日付けで拒絶理由が通知され、平成20年1月18日付けで意見書が提出され、同年3月18日付けで審尋が通知され、回答書が提出されなかったものである。

2.当審の拒絶理由の内容
当審において平成19年11月20日付けで通知した、拒絶理由の理由の内容は、次のとおりのものである。
「本件出願は、明細書の記載が下記a及びbの点で不備のため、特許法第36条第4項及び第5項第1号に規定する要件を満たしていない。
a.請求項1に係る発明は、シリカ多孔質体の密度を不活性ガス雰囲気下で1.6?2.0g/cm^(3)まで加熱処理する点を構成とするものであるが、発明の詳細な説明には、当該構成を調整するためには単に温度及び時間を設定すればよいと記載され、1250℃と1300℃が例示されているだけである(【0024】?【0025】)。
しかしながら、当該密度に関する構成を採用し、気泡を残さずに光学用石英ガラスとするには、特殊で複雑な工程を選択することが必要であると認められる(例えば、特開平3-187934号公報参照)から、上記したように単に温度及び時間を設定することのみで実現できるか不明である。しかも、気泡以外にも本件発明の「OH濃度が10ppm?60ppm、Cl濃度が5ppm以下、実質的に金属不純物を含まず、170nmでの透過率(厚さ10mm)が80%?85%であり、かつ、3方向に脈理がない」という構成を併せて実現するための条件が発明の詳細な説明には何ら記載されておらず、これら全てを同時に満たす製造条件は試行錯誤による外はなく、当業者に過度の負担を強いるものであり、実施可能要件を満たすものとすることはできない。
また、請求項2に係る発明についても、上記理由と同様の理由により、実施可能要件を満たすものとすることはできない。
したがって、本件出願の発明の詳細な説明に、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その目的、構成及び効果を記載したものとすることができない。
b.請求項1に係る発明においては、周知のスート法により得たシリカ多孔質体を「不活性ガス雰囲気下で1200?1350℃の温度領域で一定時間保持し、加熱処理後の密度が1.6?2.0g/cm^(3)の範囲になる様に加熱処理する工程」を経てガラス化したものとあるが、発明の詳細な説明を参照してもわずか二実施例が開示されるだけで、これら構成事項の、特に数値範囲の全てにおいて「OH濃度が10ppm?60ppm、Cl濃度が5ppm以下、実質的に金属不純物を含まず、170nmでの透過率(厚さ10mm)が80%?85%であり、かつ、3方向に脈理がない」石英ガラスが裏付けられたものか否かを確認することができない。故に、特許請求の範囲に記載された発明が不当に広いという不備があるといわざるを得ない。
また、請求項2に係る発明においては、周知のスート法により得たシリカ多孔質体を「一酸化炭素濃度が5?30%で、残りが不活性ガスである混合ガス雰囲気下で1200?1350℃の温度領域で一定時間保持し、加熱処理後の密度が1.0?1.5g/cm^(3)の範囲になる様に加熱処理する工程」を経てガラス化したものとあるが、発明の詳細な説明を参照してもわずか二実施例が開示されるだけで、これら構成事項の、特に数値範囲の全てにおいて「OH濃度が10ppm?60ppm、Cl濃度が5ppm以下、実質的に金属不純物を含まず、170nmでの透過率(厚さ10mm)が80%?85%であり、かつ、3方向に脈理がない」石英ガラスが裏付けられたものか否かを確認することができない。故に、特許請求の範囲に記載された発明が不当に広いという不備があるといわざるを得ない。
したがって、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとすることができない。」

3.請求人の主張
請求人は、平成20年1月18日付け意見書において以下のように主張している。
「a項について
第1発明の第2工程は、「シリカ多孔質体を不活性ガス雰囲気下で1200?1350℃の温度領域で一定時間保持し、加熱処理後の密度が1.6?2.0g/cm^(3)の範囲になる様に加熱処理する工程」であり、本明細書【0023】によれば、上記の密度内に制御するために、温度と時間を設定すればよいとの記載がある。
この記載に関し、審判官殿は、「当該密度に関する構成を採用し、気泡を残さずに光学用石英ガラスとするには、特殊で複雑な工程を選択することが必要であると認められる(例えば、特開平3-187934号公報参照)から、上記したように単に温度及び時間を設定することのみで実現できるか不明である。」と認定された。
ここで、審判官殿が引用された特開平3-187934号公報(以下、引例と称す)の第2頁左上欄第1?8行には、四塩化ケイ素を熱加水分解すると共に、生成したシリカ微粒子を沈着、堆積し、これを高熱処理して透明ガラス化するというスート法に関しての説明があり、更に、スート法は高純度で無気泡のガラス体を得やすいとの記載がある。
一方、第1発明第1工程は、「ガラス生成原料を火炎加水分解して生成されるシリカ微粒子を出発部材に堆積,成長させてシリカ多孔質体を形成する工程」を規定しており、この工程はスート法における多孔質ガラス成形体の製造工程そのものである。
従って、当業者であれば、第1発明第1工程において、スート法によるシリカ多孔質体の製造工程が規定されていることから、第1発明が高純度で無気泡のガラス体を得やすい方法であることを技術的背景として理解し、第2工程における温度と時間の制御に注力すれば、気泡を生ずることなく、シリカ多孔質体を規定された密度範囲内に調整可能であることは容易に想達するものであるので、何ら当業者に過度の負担を強いるものでなく、実現に際して不明な点はないものと出願人は考えるものである。
次に、審判官殿は「「OH濃度が10ppm?60ppm、C1濃度が5ppm以下、実質的に金属不純物を含まず、170nmでの透過率(厚さ10mm)が80%?85%であり、かつ、3方向に脈理がない」という構成を併せて実現するための条件が発明の詳細な説明には何ら記載されておらず、これら全てを同時に満たす製造条件は試行錯誤による外はなく、当業者に過度の負担を強いるものであり、実施可能要件を満たすものとすることはできない。」と認定された。
第1発明第2工程におけるシリカ多孔質体の密度と第1発明に従って得られる石英ガラスのOH基濃度および170nmでの透過率は、それぞれ関連のある構成要件であり、例えば、シリカ多孔質体の密度とOH基濃度との関係は、【0026】に、密度が1.6g/cm^(3)より低い場合には最終的に得られる石英ガラス中のOH基濃度が60ppmより低くなってしまうとの記載があり、OH基と透過率との関係は、【0034】に、「ガラス中のOH濃度を最適化することで、従来の石英ガラスでは達成できなかった真空紫外領域の透過率を高めることができるようになった。」という記載がある。
審判官がご指摘のように、Cl濃度を5ppm以下にすること及び3方向に脈理がないことにつき、具体的な記載は明細書にないものの、OH基濃度、Cl濃度、透過率及び3方向に脈理がないとの特性は、第1発明における各工程を経ることにより得られる特性であり、また、高純度の石英ガラスを得ようとする当業者であれば、金属不純物を実質的に含まないようにするために、原料を精製し、また、装置等からの汚染を防ぐ手段を講じることは、日常行っていることである。
第2発明についても出願人は同様な考えであり、当業者であれば、第2発明第1工程でスート法によるシリカ多孔質体の製造工程を規定していることから、第2発明が高純度で無気泡のガラス体を得やすい方法であることを技術的背景として理解し、第2工程における温度と時間の制御に注力すれば、気泡を生ずることなく、シリカ多孔質体を規定された密度範囲内に調整可能であることは容易に想達するものであるので、何ら当業者に過度の負担を強いるものでなく、実現に際して不明な点はないものと考えるものである。
そして、第2発明第2工程におけるシリカ多孔質体の密度と第2発明に従って得られる石英ガラスのOH基濃度および170nmでの透過率は、それぞれ関連のある構成要件であり、例えば、シリカ多孔質体の密度とOH基濃度との関係は、【0032】に、密度が1.0g/cm^(3)より低い場合には最終的に得られる石英ガラス中のOH基濃度が60ppmより高くなってしまい、一方、密度が1.5g/cm^(3)よりも高い場合には、石英ガラス中のOH基濃度が10ppmよりも低くなってしまうとの記載があり、OH基と透過率との関係は、前述のように【0034】に記載がある。
更に、Cl濃度を5ppm以下にすること及び3方向に脈理がないことにつき、具体的な記載は明細書にないものの、OH基濃度、Cl濃度、透過率及び3方向に脈理がないとの特性は、第2発明における各工程を経ることにより得られる特性であり、高純度の石英ガラスを得ようとする当業者であれば、金属不純物を実質的に含まないようにするために、原料を精製し、また、装置等からの汚染を防ぐ手段を講じることは、日常行っていることである。
以上詳述したように、本出願人は、本件出願の発明の詳細な説明に、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その目的、構成及び効果が記載されているものと思料する。
b項について
第1発明の第2工程は、「シリカ多孔質体を不活性ガス雰囲気下で1200?1350℃の温度領域で一定時間保持し、加熱処理後の密度が1.6?2.0g/cm^(3)の範囲になる様に加熱処理する工程」であるが、この第1発明に係る実施例は審判官殿が指摘するように、実施例1及び実施例2である。
当該実施例1においては、第2工程として窒素ガス雰囲気下、1300℃で24時間加熱処理して、得られたシリカ多孔質体の密度が1.7g/cm^(3)であったことが記載され、実施例2においては、第2工程としてヘリウムガス雰囲気下、1275℃で36時間加熱処理して、得られたシリカ多孔質体の密度が1.9g/cm^(3)であったことが記載されている。
一方、比較例1においては、実施例1の第2工程における加熱時間を24時間のかわりに16時間で行い、得られたシリカ多孔質体の密度が1.5g/cm^(3)であったことが示され、また、比較例2においては、実施例2の第2工程における加熱温度を1275℃のかわりに1300℃で行い、得られたシリカ多孔質体の密度が2.1g/cm^(3)であったことが示されている。
本出願人としては、確かに実施例は2例しかないものの、これらの比較例1及び比較例2で得られた石英ガラスの物性と、実施例1及び実施例2で得られて石英ガラスの物性と合わせて検討すれば、「OH濃度が10ppm?60ppm、Cl濃度が5ppm以下、実質的に金属不純物を含まず、170nmでの透過率(厚さ10mm)が80%?85%であり、かつ、3方向に脈理がない」石英ガラスが得られるか否かは、当業者であれば容易に確認することができるものであり、特許請求の範囲に記載された発明が不当に広いものではないと思料する。
第2発明についても出願人は同様の考えである。即ち、第2発明に係る実施例は実施例3及び実施例4であり、実施例3においては、第2工程として10%一酸化炭素ガス含有窒素ガス雰囲気下、1300℃で12時間加熱処理して、得られたシリカ多孔質体の密度が1.2g/cm^(3)であったこと、及び実施例4においては、第2工程として25%一酸化炭素ガス含有窒素ガス雰囲気下、1300℃で12時間加熱処理して、得られたシリカ多孔質体の密度が1.2g/cm^(3)であったことが記載されている。
一方、比較例3においては、実施例3の第2工程における加熱時間を12時間のかわりに20時間行い、得られたシリカ多孔質体の密度が1.6g/cm^(3)であったこと、比較例4においては、実施例3の第2工程における加熱温度を1300℃のかわりに1200℃で行い、得られたシリカ多孔質体の密度が0.8g/cm^(3)であったこと、及び比較例5においては、実施例3の第2工程における処理ガスを10%一酸化炭素ガス含有窒素ガスのかわりに3%一酸化炭素ガス含有窒素ガスで行い、得られたシリカ多孔質体の密度が1.2g/cm^(3)であったものの、最終的に得られた石英ガラス中のOHき濃度が高く、また、170nmにおける透過率が低くなったことが示されている。
これらの記載から、比較例3?5で得られた石英ガラスの物性と、実施例3及び実施例4で得られて石英ガラスの物性と合わせて検討すれば、「OH濃度が10ppm?60ppm、Cl濃度が5ppm以下、実質的に金属不純物を含まず、170nmでの透過率(厚さ10mm)が80%?85%であり、かつ、3方向に脈理がない」石英ガラスが得られるか否かは、当業者であれば容易に確認することができるものであり、特許請求の範囲に記載された発明が不当に広いものではないと思料する。」

4.当審の審尋の内容
当審において平成20年3月18日付けで通知した、審尋の内容は、次のとおりのものである。
「本件出願は、平成20年1月18日付け意見書の記載内容によっても依然として明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項及び同第5項第1号に規定する要件を満たしていないと判断せざるを得ないので、回答書により釈明されたい。

(1)当審から平成19年11月14日付けで通知された拒絶理由において示された特開平3-187934号公報の外にも前置審査において平成17年7月21日付けで通知された拒絶理由において引用文献2として示された特開平6-92648号公報の段落【0006】に「OH基含有量が50ppm 以下である合成石英ガラス部材の製造方法について種々検討した結果、塩素などのハロゲン化合物を含まない多孔質シリカ母材を溶解炉内に固定し、不活性ガス中または真空下に 1,150℃?1,350 ℃の温度で仮焼結する第1次熱処理工程と、これを引続き昇温して 1,400?1,600 ℃で透明ガラス化する第2次熱処理工程からなる合成石英ガラス部材の製造方法において、この第1次熱処理工程で得られる多孔質シリカ母材をかさ密度が0.90?1.30g/cm^(3) のものとすると、この第1次熱処理工程での脱水および焼結度が十分となるので第2次熱処理工程までの昇温過程での収縮が少ないものとなるし、この場合焼結が進みすぎて多孔質シリカ母材の一部閉口化でOH基が閉じ込められて脱OH基処理が十分に行なわれなくなるということもなくなるので、OH基量の少ないものを得ることができるということ、またさらには第1次熱処理工程から第2次熱処理工程までの昇温速度を10℃/分以上とするとこれが急速昇温となって多孔質ガラス母材に気泡、OH基が閉じ込められるということを見出し」たとあり、これ以上のかさ密度では、多孔質シリカ母材の一部閉口化でOH基が閉じ込められて脱OH基処理が十分に行なわれなくなるおそれがあることが示唆されており、特開平4-338122号公報の【請求項1】において「アルキルシリケ-トの加水分解で得たシリカ粉を耐熱容器中において一軸プレスしながらヘリウムガス中で熱処理してカサ比重が1.0?1.5の焼結体としたのち、炉中において1×10^(-2)ト-ル以上の減圧下に加熱してカサ比重が2.2以上のものとし、ついで常圧下に1,750℃以上の温度で熱処理することを特徴とする無水合成石英ガラスの製造方法。」が記載され、段落【0010】に「この工程で耐熱容器はヘリウムガス雰囲気中において最高1,300℃で加熱されるのであるが、・・・シリカ粉は一軸プレスされ、ヘリウムガス雰囲気中での加熱によりカサ比重の増加した焼結体とされるのであるが、このカサ比重はそれが1.0未満では完全にガラスになるカサ比重2.2までの収縮率が大きく、つぎの操作でクラックが発生し、1.5より大きくすると焼結体のところどころが閉孔化して泡が閉じこめられ、無泡のものにならないので、これは1.0?1.5の範囲とすることが必要とされる。」と記載されていることからみて、本件の請求項1における「(2)前記シリカ多孔質体を不活性ガス雰囲気下で1200?1350℃の温度領域で一定時間保持し、加熱処理後の密度が1.6?2.0g/cm^(3)の範囲になる様に加熱処理する工程、」の密度範囲のものを単に「(3)前記加熱処理されたシリカ多孔質体を透明ガラス化して石英ガラス体を得る工程からなること」だけで達成することが困難であることが窺える。また、この(3)の工程について本件の明細書において「【0033】 透明ガラス化の工程の温度は、特に限定されるものではないが、1400?1600℃であることが好ましい。また、この工程の雰囲気は、脱泡ができるようなものであれば特に制限はないが、例えば、ガス透過性のよいヘリウム等のガス雰囲気や真空雰囲気であることが好ましい。」とあるだけで、具体的な説明はない。
審判請求人は、これに対して「本出願人としては、確かに実施例は2例しかないものの、これらの比較例1及び比較例2で得られた石英ガラスの物性と、実施例1及び実施例2で得られて石英ガラスの物性と合わせて検討すれば、「OH濃度が10ppm?60ppm、Cl濃度が5ppm以下、実質的に金属不純物を含まず、170nmでの透過率(厚さ10mm)が80%?85%であり、かつ、3方向に脈理がない」石英ガラスが得られるか否かは、当業者であれば容易に確認することができるものであり、特許請求の範囲に記載された発明が不当に広いものではないと思料する。」と意見書において主張しているが、2実施例について確認されたと具体的な根拠を示さず主張するのみであって、請求項1に記載された発明の特に脱泡の困難な高密度のものが気泡もなく全ての物性を得られたとの説明もなく、何らサポート要件違反について答えていないものであり、本件について、特許請求の範囲に記載された発明が不当に広いものであるという疑念を解消することができない。また、実施可能要件についても審判請求人は、「第2工程における温度と時間の制御に注力すれば、気泡を生ずることなく、シリカ多孔質体を規定された密度範囲内に調整可能であることは容易に想達するものであるので、何ら当業者に過度の負担を強いるものでなく、実現に際して不明な点はないものと出願人は考えるものである。」と述べるに留まり、何らの具体的手段もなく単に温度と時間の制御に注力するのみでは、困難とされてきた高密度の多孔質体の無泡でのガラス化が可能であるとは認められない。さらに「OH基濃度、Cl濃度、透過率及び3方向に脈理がないとの特性は、第1発明における各工程を経ることにより得られる特性であり、また、高純度の石英ガラスを得ようとする当業者であれば、金属不純物を実質的に含まないようにするために、原料を精製し、また、装置等からの汚染を防ぐ手段を講じることは、日常行っていることである。」との主張は、本質的発明特定事項にである密度について何ら言及されておらず、実施可能要件違反についての釈明足り得ないものである。
(2)なお、上記審尋事項に対して、高密度でも脱泡が容易であるという主張がなされる場合には、(1)において引用した特開平4-338122号公報に記載された最高1300℃で熱処理し比重1.0?1.5の焼結体としたものを減圧して加熱でかさ比重を上げた後加熱してガラス化し、無泡でOH含有量フリーの無水合成石英ガラスを製造する方法の発明に基づいて、温度と時間に注力することにより比重が1.6以上でも無泡でOH含有量フリーの無水合成石英ガラスを製造する方法のとすることが当業者であれば容易であるという内容の進歩性を否定する拒絶理由が本件発明1について存在することになると考えられるが、これについても釈明されたい。
(3)また、本件明細書の段落【0027】及び【0028】における一酸化炭素-不活性ガスの混合雰囲気の一酸化炭素ガスの濃度の限定理由が「ことがある」という不明瞭なもので実質的には説明がなされていないことから、上記(1)において引用した特開平4-338122号公報に記載された最高1300℃で熱処理し比重1.0?1.5の焼結体としたものを減圧して加熱でかさ比重を上げた後加熱してガラス化し、無泡でOH含有量フリーの無水合成石英ガラスを製造する方法の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるという内容の進歩性を否定する拒絶理由が本件発明2においても若干の雰囲気の相違があるものの存在することになると考えられるが、これについても一酸化炭素の添加理由及び濃度の限定理由と併せて釈明されたい。」

5.本願特許請求の範囲の記載
本願の特許請求の範囲の記載は、平成17年3月10日付けで提出した手続補正書に記載した次のとおりのものである。
「【請求項1】以下に示す(1)から(3)の工程、
(1)ガラス生成原料を火炎加水分解して生成されるシリカ微粒子を出発部材に堆積,成長させてシリカ多孔質体を形成する工程、
(2)前記シリカ多孔質体を不活性ガス雰囲気下で1200?1350℃の温度領域で一定時間保持し、加熱処理後の密度が1.6?2.0g/cm^(3)の範囲になる様に加熱処理する工程、
(3)前記加熱処理されたシリカ多孔質体を透明ガラス化して石英ガラス体を得る工程からなることを特徴とする、OH濃度が10ppm?60ppm、Cl濃度が5ppm以下、実質的に金属不純物を含まず、170nmでの透過率(厚さ10mm)が80%?85%であり、かつ、3方向に脈理がない光学用合成石英ガラスの製造方法。
【請求項2】以下に示す(1)から(3)の工程、
(1)ガラス生成原料を火炎加水分解して生成されるシリカ微粒子を出発部材に堆積,成長させてシリカ多孔質体を形成する工程、
(2)前記シリカ多孔質体を一酸化炭素濃度が5?30%で、残りが不活性ガスである混合ガス雰囲気下で1200?1350℃の温度領域で一定時間保持し、加熱処理後の密度が1.0?1.5g/cm^(3)の範囲になる様に加熱処理する工程、
(3)前記加熱処理されたシリカ多孔質体を透明ガラス化して石英ガラス体を得る工程からなることを特徴とする、OH濃度が10ppm?60ppm、Cl濃度が5ppm以下、実質的に金属不純物を含まず、170nmでの透過率(厚さ10mm)が80%?85%であり、かつ、3方向に脈理がない光学用合成石英ガラスの製造方法。」

6.当審の判断
上記したように、当審において、平成20年3月18日付け審尋により再度釈明の機会を設けたにも拘わらず、審判請求人は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載不備について回答書を提出せず、釈明を行っていない。
そして、当審において通知した、平成19年11月20日付け拒絶理由の理由である、a.特許法第36条第4項(実施可能要件)違反及びb.特許法第36条第5項第1号(サポート要件)違反は、いずれも妥当なものと認められる。

7.むすび
以上のとおりであるから、本願は、依然として、特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たしていないので、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-19 
結審通知日 2008-06-24 
審決日 2008-07-07 
出願番号 特願平6-266878
審決分類 P 1 8・ 534- WZ (C03B)
P 1 8・ 531- WZ (C03B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 永田 史泰柿崎 美陶板谷 一弘前田 仁志  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 木村 孔一
大工原 大二
発明の名称 光学用合成石英ガラス及びその製造方法並びにその用途  

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