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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B |
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管理番号 | 1183640 |
審判番号 | 不服2005-20863 |
総通号数 | 106 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-10-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-10-28 |
確定日 | 2008-08-28 |
事件の表示 | 平成 9年特許願第 17960号「磁気記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 8月11日出願公開、特開平10-214414〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成9年1月31日の出願であって、拒絶理由通知に対し平成17年5月13日付けで手続補正がされたが、同年9月22日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年10月28日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 本願請求項1乃至8に係る発明は、平成17年5月13日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至8に記載された事項により特定されるとおりものであって、請求項1は次のとおりである。 「可撓性支持体の表面に磁性層を有し、反対面にバックコート層を有する磁気記録媒体において、バックコート層が、酸化チタン、α-酸化鉄又はその混合物からなる粒状酸化物と、カーボンブラックとを重量比60/40?90/10で含有し、さらに粒状酸化物とカーボンブラックの合計重量を100重量部として10?40重量部のバインダーを含有し、前記媒体の厚さは4?9μmの範囲であることを特徴とする磁気記録媒体。」(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。) 2.引用例 (1) 原査定の拒絶の理由に引用された特開昭59-14128号公報(以下、「引用例1」という。)には、「磁気記録媒体」に関して、以下の事項が記載されている。 ア.「(1) 主面に磁性層を有するベースの背面に、平均粒子径0.1μ以下の酸化チタンを含むバックコート層を設けたことを特徴とする磁気記録媒体。」(特許請求の範囲) イ.「この発明は主面に磁性層を有するベースの背面にバックコート層を設けてなるビデオテープなどの磁気記録媒体の上記バックコート層の改良に関する。」(1頁左下欄。「3.発明の詳細な説明」の最初の4行) ウ.「酸化チタンと後述のカーボンブラックを含めた充填剤の含有量としては、バックコート層のバインダとの合計重量中30?80重量%を占める程度とするのがよく、この量が少なすぎると前記効果中走行安定性を損う結果となり、また多くなりすぎると塗膜特性を損ってビデオ特性に悪影響をおよぼすおそれがある。」(2頁左上欄下2行?右上欄5行) エ.「この発明におけるバックコート層は、上記のバインダに酸化チタンを混合分散させた塗料を、予め主面に磁性層が形成されたベースの背面に通常0.3?3.0μの厚みに塗着されることによって形成されるが、この層には必要に応じて充填剤の1部としてのカーボンブラックや適宜の潤滑剤などの添加剤を含有させるようにしても差し支えない。 カーボンブラックは、磁性層背面の着色化(不透明化)によって、VHS方式のカセット式VTRにおける磁気テープ端の検出に好結果を与えるものであるが、その使用量としては充填剤全量の60重量%まで(通常10?40重量%)とするのがよい。」(2頁右上欄12行?左下欄4行) オ.「実施例 <中略> 上記組成からなる磁性塗料を、14μ厚の表面平滑性の良いポリエステルベースフィルム上に乾燥厚みが5μとなるように塗布、乾燥したのち、表面処理を行った。 得られた磁気テープの背面に、下記の組成からなるバックコート用塗料を、乾燥厚みが0.8μとなるように塗布、乾燥したのち、表面処理を行ない、所定の巾に裁断してビデオテープをつくった。 酸化チタン 210部 カーボンブラック(キャボット社製の ブラックパールL、揮発成分5重量%) 90部 繊維素系樹脂(硝化綿) 100部 ポリウレタン樹脂 70部 三官能性低分子量イソシアネート化合物 30部 <以下、略>」(2頁右下欄3行?3頁左上欄12行) (2) 同じく、引用された特開平8?273146号公報(原審における引用例4。以下、「引用例4」という。)には、「磁気記録媒体」に関して、以下の事項が記載されている。 カ.「【0046】このような磁性粉末を含有する磁性層14の厚さは、0.05?1.0μm、より好ましくは、0.1?1.0μmとされる。この値が、1.0μmを超えると、自己減磁損失の影響が大きくなり、また、0.08μm未満となると、磁束密度の減少による出力低下となる。」(6頁左欄) キ.「【0048】バックコート層8には、さらに公知の種々の研磨材や帯電防止剤などの粒状成分が含有される。このようなバックコート層8の厚さは、0.3μm以上必要である。この値が、0.3μm未満となるとバックコート層本来の機能がなくなってしまう。」(6頁左欄) ク.「【0056】このような可撓性を備える非磁性支持体10の厚さに特に制限はないが、磁気記録媒体の小型化の要求に応じるために、2?14μm、好ましくは、3?13μmの厚さにするのがよい。」(7頁左欄) ケ.「【0064】このような各種の塗料を用いて、下記の要領で磁気記録媒体サンプルを作成した。 【0065】まず、厚さ10μmのポリエチレンテレフタレート(PET)からなる非磁性支持体10の上に、上記下地層形成用の塗料を塗設、乾燥させ、乾燥厚さ2.0μmの下地層12を形成させた。この下地層12の上に、上記磁性層形成のための磁性塗料を塗設後、所定の磁場配向を行った後に乾燥させ、さらにカレンダ加工を行ない磁性層14を形成した(乾燥厚みは、下記表1に示す通りとした)。 【0066】この一方で、PETフィルム支持体10の裏面(磁性層を設けない面)に上記のバックコート層用塗料を塗布した後、乾燥させてバックコート層8(厚さ0.5μm)を形成させた。しかる後、60℃、24時間で塗膜を硬化処理した。このように作製された磁気記録媒体用の原反を8mm幅に裁断し、テープ状の磁気記録媒体サンプルを作製した(実施例サンプル1?5)。」(8頁左欄。) コ.表1の磁性層の厚さの欄には、実施例1?5の磁性層の厚さは0.3μm又は0.5μmであること。(9頁) 3.対比 前記ア?オによれば、引用例1には次の発明が記載されている。 「主面に磁性層を有するベースの背面に、平均粒子径0.1μ以下の酸化チタンを含むバックコート層を設け、酸化チタンとカーボンブラックを含めた充填剤の含有量としては、バックコート層のバインダとの合計重量中30?80重量%であり、カーボンブラックは充填剤全量の通常10?40重量%である磁気記録媒体。」(以下、「引用例1発明」という。) 引用例1発明の磁気記録媒体において、ベースにはポリエステルベースフィルムを用いており、該ベースが可撓性であることは明らかであるから、引用例1発明の「主面に磁性層を有するベースの背面に、平均粒子径0.1μ以下の酸化チタンを含むバックコート層を設け」た「磁気記録媒体」は、本願発明の「可撓性支持体の表面に磁性層を有し、反対面にバックコート層を有する磁気記録媒体」に相当する。 引用例1発明において、バックコート層に含まれるカーボンブラックは充填剤全量の10?40重量%であるから、引用例1発明における酸化チタンとカーボンブラックとの重量比は60/40?90/10となる。 また、引用例1発明において、酸化チタンとカーボンブラックを含めた充填剤の含有量としては、バックコート層のバインダとの合計重量中30?80重量%であるから、酸化チタンとカーボンブラックを含めた充填剤100重量部に対するバインダの量は25?約233重量部(20/80?70/30)となる。 したがって、本願発明と、引用例1発明とを比較すると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。 [一致点] 「可撓性支持体の表面に磁性層を有し、反対面にバックコート層を有する磁気記録媒体において、バックコート層が、酸化チタンからなる粒状酸化物と、カーボンブラックとを重量比60/40?90/10で含有し、バインダーを含有した磁気記録媒体。」である点。 [相違点] (1) 粒状酸化物とカーボンブラックの合計重量を100重量部とした場合のバインダーの量が、本願発明では10?40重量部であるのに対し、引用例1発明では25?約233重量部である点 (2) 本願発明では、媒体の厚さが4?9μmであるのに対し、引用例1発明では媒体の厚さが特定されていない点。 4.判断 相違点(1)について 引用例1発明において、粒状酸化物とカーボンブラックの合計重量を100重量部とした場合のバインダーの量は、25?40重量部の範囲で本願発明と重なっている。 引用例1の実施例(上記オ参照)において、酸化チタンとカーボンブラックの合計重量を100重量部とした場合のバインダーの量は67重量部で((100+70+30)/(210+90)≒67)本願発明の範囲外であるが、引用例1には「酸化チタンと後述のカーボンブラックを含めた充填剤の含有量としては、バックコート層のバインダとの合計重量中30?80重量%を占める程度とするのがよく、この量が少なすぎると前記効果中走行安定性を損う結果となり、また、多すぎると塗膜特性を損ってビデオ特性に悪影響をおよぼすおそれがある。」と記載されているとおり(前記ウ)、粒状酸化物とカーボンブラックの合計に対するバインダの量が多すぎても少なすぎても好ましくないのであるから、その適切な比率は当業者が適宜設定しうる事項である。 そうすると、粒状酸化物とカーボンブラックの合計重量を100重量部とした場合のバインダーの量を、10?40重量部とすることは、当業者が適宜設定しうる事項であって、かかる構成により当業者が予測し得ない効果が奏されるものということはできない。 相違点(2)について 引用例4には、媒体の厚さが12.8μmである磁気記録媒体の例(10μmの非磁性支持体上に、2.0μmの下地層、0.3 μmの磁性層、0.5μmのバックコート層が形成されている。上記ケ、コ参照)が記載されている。非磁性支持体の厚さは磁気記録媒体の小型化の要求に応じるために、2?14μm、好ましくは、3?13μmの厚さにするのがよいのであるから(前記ク)、より薄い支持体を用いれば実施例よりも薄い媒体が得られることは当業者が容易に想到しうる事項である。 本願出願当時、高密度記録化に伴い磁気記録媒体の薄手化が進行していたことは、当業者にとって周知であったと認められるから、引用例1記載の磁気記録媒体において、媒体の厚さを4?9μmとすることは当業者が容易に推考しうる事項にすぎない。 そして、上記各相違点について総合的にみても、かかる相違点による効果は当業者が予測しうる範囲を超えるものということはできない。 よって、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物である上記引用例1及び4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 なお、請求人は、請求の理由について補正する平成18年1月26日付け手続補正書において、補正案を提示し、補正の機会を要求している。 しかし、平成14年改正前特許法第17条の2第1項第3号に規定する明細書の補正をできる時期を徒過しており、また、補正できる期間内に補正することができなかった合理的理由があると認めることもできない。 そして、上記のとおり、本願発明を拒絶すべきものとした原審の判断は妥当なものであって、当審で新たな拒絶の理由を発見していない。 したがって、本願について、補正の機会を設けるには及ばない。 参考までに、補正案について以下検討する。 「バインダーとして、分子量50以上500未満の環状構造を有する短鎖ジオール単位17?40重量%と分子量500?5000の長鎖ジオール単位10?50重量%を含み、長鎖ジオール単位のエーテル基を1.0?5.0mol/g含むポリウレタン樹脂を含む」ものは、特開平8-293115号公報に記載されており、そのようなバインダーをバックコート層に使用することによって奏される効果が当業者の予測を超えるものとは認められないから、補正案に示された発明は、その出願前に頒布された刊行物である上記引用例1、4及び特開平8-293115号公報に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。 5.むすび 以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項に係る発明についてみるまでもなく、本願は拒絶されるべきである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-06-25 |
結審通知日 | 2008-07-01 |
審決日 | 2008-07-16 |
出願番号 | 特願平9-17960 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G11B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山崎 達也 |
特許庁審判長 |
小林 秀美 |
特許庁審判官 |
溝本 安展 横尾 俊一 |
発明の名称 | 磁気記録媒体 |
代理人 | 特許業務法人特許事務所サイクス |