• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01P
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01P
管理番号 1183654
審判番号 不服2006-4747  
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-03-14 
確定日 2008-08-28 
事件の表示 特願2002-191462「方向性結合器及びこれを用いた電子装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 2月 5日出願公開、特開2004- 40259〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成14年6月28日の出願であって、平成18年2月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対し同年3月14日に審判請求がなされるとともに、同年4月11日付けで手続補正書の提出があったものである。


第2.補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年4月11日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の平成17年10月17日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項2に記載された、
「【請求項2】 2つの伝送ラインと該2つの伝送ライン間に位置するとともに該2つの伝送ラインに結合する1つのカップリングラインとを有し、前記2つの伝送ラインと前記1つのカップリングラインとはそれぞれ異なる高さの位置に設けられており、かつ、前記2つの伝送ラインと前記1つのカップリングラインは、上下にオーバラップしておらず、横方向に僅かなギャップを形成する領域を有することを特徴とする方向性結合器。」
という発明(以下、「本願発明」という。)を、

「【請求項2】 異なる2つの周波数のバンドを送信する2つの伝送ラインと該2つの伝送ライン間に位置するとともに該2つの伝送ラインに結合する1つのカップリングラインとを有し、前記2つの伝送ラインと前記1つのカップリングラインとはそれぞれ異なる高さの位置に設けられており、かつ、前記2つの伝送ラインと前記1つのカップリングラインは、相対する全領域に渡って上下にオーバラップしておらず、横方向にほぼ同じサイズの僅かなギャップを形成することを特徴とし、
更に前記カップリングラインがモニタする信号レベルがほぼ等しくなるよう、前記2つの伝送ラインのうち、高い周波数のバンドを送信する伝送ラインは低いバンドを送信する伝送ラインより前記カップリングラインと結合する長さが短く設定されていることを特徴とする方向性結合器。」
という発明(以下、「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。


2.補正の適否
(1)新規事項の有無、補正の目的要件
上記補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項2に記載された「2つの伝送ライン」に関し、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において、「異なる2つの周波数のバンドを送信する」という構成を追加して限定し、
同じく「上下にオーバラップしておらず」の点に関し、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において、「相対する全領域に渡って」という構成を追加して限定し、
同じく「横方向に僅かなギャップを形成する」点に関し、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において、「ほぼ同じサイズの」という構成を追加して限定し、
同じく「伝送ライン」が「カップリングラインと結合する長さ」に関し、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において、「更に前記カップリングラインがモニタする信号レベルがほぼ等しくなるよう、前記2つの伝送ラインのうち、高い周波数のバンドを送信する伝送ラインは低いバンドを送信する伝送ラインより前記カップリングラインと結合する長さが短く設定されている」という構成を追加して限定することにより特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第17条の2第3項(新規事項)及び第4項第2号(補正の目的)の規定に適合している。

(2)独立特許要件
上記補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。

[補正後の発明]
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で「補正後の発明」として認定したとおりである。

[引用発明]
原審の拒絶理由に引用された、特開平10-303761号公報(以下、「引用例」という。)には、「デュアルバンドRF検出器と利得制御機能とを有する移動局」として、図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【0018】ここで図4を参照して、図1の送信装置14の一部分をなすと考えられる改良された送信装置電力制御サブシステム(TPCSと略記)14Bについて説明する。TPCS14Bは、この実施例では、800MHz帯域の第1送信装置信号(Tx)と1900MHz帯域の第2Tx信号とを受け取るようになっている。移動局10は何時でもそれら2つの帯域のうちの一方で送信するだけである。また、800MHz及び1900MHzの周波数帯域の使用は単なる例であって、本発明の実施に制限を課すものと解されてはならない。これら2つのTx信号は、それぞれの可変利得増幅器(VGA1及びVGA2)に印加され、次に付随の帯域フィルター(BPF1及びBPF2)に印加される。濾波された信号はそれぞれの電力増幅器PA1及びPA2に印加される。VGA、BPF、及びPAの組み合わせは、可変利得RF増幅器セクションであると見なすことができる。
【0019】本発明の特徴に従って、PA1及びPA2の出力は多素子方向性結合器(DC)に印加されるが、このDCは、第1素子即ちストリップライン(SL1)、第2素子即ちストリップライン(SL2)及び第3の、共通素子即ちストリップライン(SL3)を有する。PA1からのRF信号は、アンテナ(図示せず)に進む途中でSL1を通過する。同様にPA2の出力はSL2を通過する。SL3は、SL1及びSL2の間に置かれて、SL1又はSL2を通過するRF信号の電力を表わす信号をRF結合によりその中に誘導する。適当な終端素子RTをSL3に結合させて反射信号を減少させ或いは無くすることができる。例えば、終端素子RTは、SL3のインピーダンス(図示の例では約100オーム)にほぼ等しい値を有する抵抗である。SL1及びSL2は各々約50オームのインピーダンスを持つことができ、SL3は、もっと大きなインピーダンスを持つために、より狭くされる。」(6頁9?10欄)

ロ.「【0022】図4において、SL1及びSL2の長さは、それらの動作周波数と関連していて、両方の帯域でほぼ同程度の結合を与えるように選択される。図示の800/1900MHz動作の例では、方向性結合素子は下記の寸法を有することができる:
SL1 L=15mm、 W=1mm;
SL2 L=7.5mm、W=1mm;
SL3 L=15mm、 W=0.2mm。
第3の結合ラインが存在するので、挿入損は顕著には増大しないことが分かっている。」(6頁10欄?7頁11欄)

(引用発明)
上記引用例の記載及び関連する図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、
引用例の図4には、「デュアルバンド」すなわち「異なる2つの周波数バンド」に対応した「送信装置電力制御サブシステム(TPCS14B)」の一部として、「多素子方向性結合器(DC)」が記載されており、この「多素子方向性結合器(DC)」は「方向性結合器」の一種であることは自明であり、
上記イ.【0019】の記載も参照すれば、この「方向性結合器」(DC)は、「第1素子即ちストリップライン(SL1)、第2素子即ちストリップライン(SL2)及び第3の、共通素子即ちストリップライン(SL3)」を有してなり、
上記イ.【0018】の記載も参照すれば、前記「第1素子即ちストリップライン(SL1)、第2素子即ちストリップライン(SL2)」はそれぞれ、「800MHz」と「1900MHz」の「異なる2つの周波数バンドを送信する2つの伝送ライン」を構成するものであると言うことができ、
「共通素子即ちストリップライン(SL3)」は、「SL3は、SL1及びSL2の間に置かれて、SL1又はSL2を通過するRF信号の電力を表わす信号をRF結合によりその中に誘導する。」(上記イ.【0019】中段、6頁9欄48?50行)とあって、「RF結合」とは「結合」すなわち「カップリング」であるから、「該2つの伝送ライン間に位置するとともに該2つの伝送ラインに結合する1つのカップリングライン」ということができる。
そして、上記ロ.【0022】の数値の記載例を検討すれば、「高い周波数のバンドを送信する伝送ライン」(SL2)の長さが「L=7.5mm」とあって、「低いバンドを送信する伝送ライン」(SL1)の長さ「L=15mm」よりも短く、この伝送ラインの長さLが「カップリングラインと結合する長さ」に相当するから、
「2つの伝送ラインのうち、高い周波数のバンドを送信する伝送ラインは低いバンドを送信する伝送ラインより前記カップリングラインと結合する長さが短く設定されている」ことを見て取ることができ、
また、同じく上記ロ.【0022】には、「両方の帯域でほぼ同程度の結合を与える」とあるから、前記「カップリングライン」(SL3)が「モニタする信号レベルがほぼ等しくなるよう」構成されているということができる。

したがって、引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という)が開示されている。

「異なる2つの周波数のバンドを送信する2つの伝送ラインと該2つの伝送ライン間に位置するとともに該2つの伝送ラインに結合する1つのカップリングラインとを有し、
更に前記カップリングラインがモニタする信号レベルがほぼ等しくなるよう、前記2つの伝送ラインのうち、高い周波数のバンドを送信する伝送ラインは低いバンドを送信する伝送ラインより前記カップリングラインと結合する長さが短く設定されている方向性結合器。」


[対比・判断]
補正後の発明と引用発明を対比すると、両者は以下の点で一致し、また相違している。

(一致点)
「異なる2つの周波数のバンドを送信する2つの伝送ラインと該2つの伝送ライン間に位置するとともに該2つの伝送ラインに結合する1つのカップリングラインとを有し、
更に前記カップリングラインがモニタする信号レベルがほぼ等しくなるよう、前記2つの伝送ラインのうち、高い周波数のバンドを送信する伝送ラインは低いバンドを送信する伝送ラインより前記カップリングラインと結合する長さが短く設定されている方向性結合器。」

(相違点)
伝送ラインとカップリングラインの位置関係が、補正後の発明では、
「前記2つの伝送ラインと前記1つのカップリングラインとはそれぞれ異なる高さの位置に設けられており、かつ、前記2つの伝送ラインと前記1つのカップリングラインは、相対する全領域に渡って上下にオーバラップしておらず、横方向にほぼ同じサイズの僅かなギャップを形成する」のに対し、引用発明にはこの構成がない点。


そこで、上記相違点について検討するに、
例えば、特開平01-262479号公報(第5図)、特開平05-037213号公報(図1、図4、図10)、特開平06-045811号公報(図1)、特開平11-308024号公報(図6?11)にあるように、いわゆる多層構造の「伝送ラインとカップリングラインとがそれぞれ異なる高さの位置に設けられた方向性結合器」は周知のものであって、これを引用発明に適用するのに阻害要因はないことから、「2つの伝送ラインと1つのカップリングラインとはそれぞれ異なる高さの位置に設け」ようにすることに格別な困難性は認められない。
そして、このような多層構造の方向性結合器における、伝送ラインとカップリングラインの横方向の位置関係(上下にオーバーラップさせるか、否か、ギャップを設けるか、否か)も、上記の周知例には全てオーバーラップしたものから、部分的にオーバーラップしたもの、オーバーラップが無く、ギャップを有するものに至るまで種々の態様のものの開示があり、ライン間の距離(ギャップ)と結合度の関係についても例えば上記特開平01-262479号公報の第6図に記載があって、本相違点のようになす事に格別の臨界的意義も認められないことに鑑みれば、「2つの伝送ラインと前記1つのカップリングラインを相対する全領域に渡って上下にオーバラップしておらず、横方向にほぼ同じサイズの僅かなギャップを形成する」程度のことは、必要な結合度などに応じて当業者が適宜に定め得る設計的事項に過ぎず、本相違点は格別なものではない。

また、補正後の発明が奏する効果も前記引用発明及び周知技術から容易に予測出来る範囲内のものである。
そして、当審の審尋に対する回答書を参酌しても、上記認定を覆すに足りるものは見あたらない。

よって、補正後の発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


3.結語
以上のとおり、本件補正は、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第5項の規定により準用する特許法第126条第5項の規定に適合していない。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について
1.本願発明
平成18年4月11日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は上記「第2.補正却下の決定」の項中の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2.引用発明及び周知技術
引用発明及び周知技術は、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「(2)独立特許要件」の項中で認定したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は上記補正後の発明から本件補正に係る限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「(2)独立特許要件」の項で検討したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明できたものであるから、本願発明も同様の理由により容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、上記引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-20 
結審通知日 2008-06-24 
審決日 2008-07-11 
出願番号 特願2002-191462(P2002-191462)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01P)
P 1 8・ 575- WZ (H01P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西脇 博志  
特許庁審判長 石井 研一
特許庁審判官 竹井 文雄
柳下 勝幸
発明の名称 方向性結合器及びこれを用いた電子装置  
代理人 片山 修平  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ