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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C 審判 査定不服 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 B29C 審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 B29C |
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管理番号 | 1183702 |
審判番号 | 不服2006-6750 |
総通号数 | 106 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-10-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-04-10 |
確定日 | 2008-08-13 |
事件の表示 | 平成 7年特許願第525339号「プラスチックワークピース及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年10月12日国際公開、WO95/26869、平成 9年11月 4日国内公表、特表平 9-510930〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成7年3月23日を国際出願日(優先日 1994年3月31日 ドイツ)とする出願であって、平成14年3月5日に手続補正書が提出され、平成17年4月11日付けで拒絶理由が通知され、同年10月26日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月26日付けで拒絶査定され、これに対して、平成18年4月10日に審判請求がなされ、同年5月10日に手続補正書及び審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年7月11日付けで前置報告がなされ、当審において平成19年4月13日付けで審尋がなされ、同年10月18日に回答書及び手続補足書が提出されたものである。 2.本願発明 平成18年5月10日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下の事項により特定されるとおりのものと認める。 「ワークピースであって、少なくとも小区域において、レーザービーム(11)のスペクトルに対して互いに異なる透過係数及び吸収係数を有し、接合部分(10)に沿ってレーザービーム(11)により溶接される、熱可塑性のプラスチックからなる二つのワークピース部(7、8)が設けられ、第一ワークピース部(8)は第一結合部分(12)の領域においてレーザービーム(11)を透過するようになされ、レーザービーム(11)は第一ワークピース部(8)の接合部分(10)に侵入し、それによりレーザービーム(11)の一部が第一ワークピース部(8)を貫通し、第二結合部分(13)で第二ワークピース部(7)に侵入し、さらに、第二ワークピース部(7)は接合部分(10)の第二結合部分(13)の領域においてレーザービーム(11)を吸収するようになされ、第一ワークピース部(8)の透過係数及び第二ワークピース部(7)の吸収係数並びに可視光線のスペクトルに対する二つのワークピース部(7、8)の反射率は、プラスチックにおける添加物であるガラス繊維、顔料の割合によって調節されることによって、第一ワークピース部(8)は第一結合部分(12)から接合部分(10)までの領域においてレーザービーム(11)のスペクトルの少なくとも一部を透過し、第二ワークピース部(7)は第二結合部分(13)の領域においてレーザービーム(11)のスペクトルの少なくとも一部を吸収し、可視光線のスペクトルに対する二つのワークピース部(7、8)の反射率は同じであるように選択されたワークピース。」 3.拒絶査定の理由について 原審において拒絶査定の理由とされた、平成17年4月11日付けの拒絶理由通知書に記載した理由の内、理由1の概要は以下のとおりである。 「1.この出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。 <理由1> a)請求項1及び7に「可視光線のスペクトルに対する二つのワークピース部(7、8)の反射率は実質上、同じである」と記載されているが、発明の詳細な説明には、どのようにして二つのワークピース部の反射率を同じにするのか、具体的な方法や実施例が記載されていない。-以下、省略-」 4.合議体の判断 (1)本願発明について 本願発明は、上記2.のとおりであり、「接合部分(10)に沿ってレーザービーム(11)により溶接される、熱可塑性のプラスチックからなる二つのワークピース部(7、8)が設けられ」た「ワークピース」に係るものであって、整理すると、次の構成要件を含むものと認められる。 (a)「レーザービーム(11)のスペクトル」に対する「第一ワークピース部(8)の透過係数及び第二ワークピース部(7)の吸収係数」並びに「可視光線のスペクトルに対する二つのワークピース部(7、8)の反射率」は、「プラスチックにおける添加物であるガラス繊維、顔料の割合によって調節される」こと。 (b)「第一ワークピース部(8)は第一結合部分(12)から接合部分(10)までの領域においてレーザービーム(11)のスペクトルの少なくとも一部を透過し、第二ワークピース部(7)は第二結合部分(13)の領域においてレーザービーム(11)のスペクトルの少なくとも一部を吸収」すること。 (c)「可視光線のスペクトルに対する二つのワークピース部(7、8)の反射率は同じであるように」すること。 (2)本願明細書の記載事項 本願明細書の発明の詳細な説明には、次のとおり、記載されている。 ア.「本発明は、レーザービームは、レーザービーム源に最も近い位置で、実質上、妨げられることなく第一ワークピース部を通過し、第二ワークピース部にかなり吸収され、それにより接合部分において二つのワークピース部が溶融されるという概念に基づく。この目的で、第一ワークピース部は少なくともレーザービームが接触した部分において、かなりレーザービームを透過するようになされ、第二ワークピース部は適切な割合で添加剤を添加することによって、かなりレーザービームを吸収するようになされる。このため、第一ワークピース部は第二ワークピース部と比べて高い透過係数及び低い吸収係数を有する。即ち第一ワークピース部は第二ワークピース部よりも透過係数が高く、第二ワークピース部は第一ワークピース部よりも吸収係数が高い。しかしながら、ワークピース部は両方とも添加剤を含むので、人間の目の可視範囲の光線に対して不透過性を有し、それにより実質上、均一な印象を与えるという利点がある。溶接後、個々のワークピース部は実質上、視覚による識別が不可能である。」(平成18年5月10日付けの手続補正書(以下、同じ。)第4頁11?22行) イ.「特に、第二ワークピース部は、レーザービームが第二ワークピース部をわずかにしか透過できないように表面で吸収するようになされることができる。従って、低いレーザー出力でさえ、溶接時、よい結果が得られる。二つのワークピース部の透過係数は透過の程度を示し、吸収係数は吸収の程度を示しているが、これらはプラスチックに例えば顔料の添加剤を加えることによって調節可能である。第一ワークピース部が60%以上の透過率T、30%以下の吸収率Aに調節され、第二ワークピース部が90%以上の吸収率A、特にごくわずかな透過率Tに調節されると好都合であることが発見された。」(第4頁24?30行) ウ.「上述したように、ハウジング6はプラスチックからなる。スチレン-アクリロニトリル共重合体、ポリアミド等を使用することは本実施例では特に電気スイッチのハウジングとして適切であることが証明されている。レーザービーム11のスペクトルに対するハウジングカバー8の部分透過性及びハウジングベース7の部分吸収性、即ち透過係数及び吸収係数を調節するために、顔料、ガラス繊維等がプラスチックに使用される。この場合、二つのワークピース部7、8における添加剤の割合を違えることによって調節が行われる。割合は可視光線のスペクトルに対する二つのワークピース部7、8の反射率が実質上、同じになるように選択される。特に黒の顔料によってハウジングベース7の吸収係数を高くすることが好適であることが発見された。上述した型のプラスチックをテストすることによって、ハウジングベース7の部分吸収プラスチックには、1%?2%、顔料を追加する一方、部分透過ハウジングカバー8のプラスチックには、より低い率の顔料を添加するか、特別な場合は、顔料を添加しないことが好都合であることが示された。従って、二つのワークピース部7、8は実質上、可視光線を通さず、ほぼ均等な視覚効果を与えるために黒く着色される。従って、好都合なことにハウジング6の二つのワークピース部7、8は視覚上、同じ印象を与えるので、プラスチック毎に調節を変えていることは目には見えない。」(第7頁26?41行) エ.「上述した型のプラスチックに特に適している約1.06μmの波長でレーザービームを出す10W出力のNd:YAGレーザーによって、光システム3に対するハウジング6の前進速度を3m/minでテストを行ったところ、以下のパラメータを維持すれば溶接のよい結果がえられることがわかった。Nd:YAGレーザービームのスペクトルに対して、ハウジングカバー8は60%以上の透過率T、30%以下の吸収率A、必要な場合は、20%以下の反射率Rを備えている必要がある。さらに、ハウジングベース7は90%以上の吸収率、特に、ごく僅かな透過率T、必要な場合は、10%以下の反射率Rを備えている必要がある。このパーセンテージは本実施例の場合、結合部分12、13に接触するレーザービーム11に関する。各々の場合に、 T+A+R=100%」(第7頁42行?第8頁1行) (3)発明の詳細な説明の記載不備について 発明の詳細な説明には、「ワークピース部は両方とも添加剤を含むので、人間の目の可視範囲の光線に対して不透過性を有し、それにより実質上、均一な印象を与えるという利点がある。溶接後、個々のワークピース部は実質上、視覚による識別が不可能である」こと〔摘示ア.〕、そして、「特に黒の顔料」を用いて、「ハウジングベース7の部分吸収プラスチックには、1%?2%、顔料を追加する一方、部分透過ハウジングカバー8のプラスチックには、より低い率の顔料を添加する」ことにより、「二つのワークピース部7、8は実質上、可視光線を通さず、ほぼ均等な視覚効果を与えるために黒く着色される。従って、好都合なことにハウジング6の二つのワークピース部7、8は視覚上、同じ印象を与える」こと〔摘示ウ.〕が記載されており、更に、透過率T、吸収率A及び反射率Rについて「T+A+R=100%」(摘示エ.)との式も記載されていることから、本願発明の構成要件(c)である「可視光線のスペクトルに対する二つのワークピース部(7、8)の反射率は同じであるように」することは、溶接・接合後のワークピース部の視覚・外観上の識別性・印象に関する前記作用・効果と密接に関連するものと解される。 一方、「レーザービーム(11)のスペクトル」に対する「第一ワークピース部(8)の透過係数及び第二ワークピース部(7)の吸収係数」ないしその程度〔構成要件(a)及び(b)〕に関し、「二つのワークピース部の透過係数は透過の程度を示し、吸収係数は吸収の程度を示している」〔摘示イ.〕と説明されており、また、特定のレーザービーム(Nd:YAGレーザー、波長:約1.06μm)に対して、「ハウジングカバー8は60%以上の透過率T、30%以下の吸収率A、必要な場合は、20%以下の反射率Rを備えている必要がある」こと、および「ハウジングベース7は90%以上の吸収率、特に、ごく僅かな透過率T、必要な場合は、10%以下の反射率Rを備えている必要がある」こと〔摘示イ.及びエ.〕が記載されているが、前記「透過率T」等は測定光の波長に依存する数値であると解されるから、結局、本願発明の「第一ワークピース部(8)」及び「第二ワークピース部(7)」に係る構成要件(a)及び(b)について、発明の詳細な説明に、添加物(ガラス繊維、顔料)の割合によって調節された具体的数値等が開示されているということにはならない。 更に、上記のとおり、「ハウジングカバー8」について「20%以下の反射率R」、また、「ハウジングベース7」について「10%以下の反射率R」と記載されているが、前記「反射率R」は、特定のレーザービーム(Nd:YAGレーザー、波長:約1.06μm)に対してのものであり、また、両者の数値範囲が一致していないことから、本願発明の構成要件(c)である「可視光線のスペクトルに対する二つのワークピース部(7、8)の反射率」及び前記「反射率R」を同じにすることについては、具体的には、結局、何も開示されていない。 そして、「熱可塑性のプラスチック」として、スチレン-アクリロニトリル共重合体とポリアミドが例示されているが〔摘示ウ.〕、その他の「熱可塑性のプラスチック」及び「添加剤」の具体的種類、「添加剤」の「第一ワークピース部(8)」と「第二ワークピース部(7)」への添加量・割合、及び(添加後の)前記各部における「可視光線のスペクトル」に対する各「反射率」の数値、並びに、(添加後の)前記各部における「レーザービーム(11)のスペクトル」に対する透過性ないし吸収性の程度について、更に、レーザービームによる溶接・接合後のワークピース部の視覚・外観上の識別性・印象の評価に関して、本願明細書には、本願発明の構成要件(a)?(c)に係る技術的事項・意義を裏付けるべき実施例のデータ等が、一切何も記載されていない。 すると、「第一ワークピース部(8)」と「第二ワークピース部(7)」とを構成する(同一又は異なる)熱可塑性プラスチックの選択、並びに、前記各部に添加する(同一又は異なる)添加物(ガラス繊維、顔料)の選択及び添加量(前記各部における添加割合)の調節・設定に関する諸要素の数多くの組み合わせについて、「ワークピース」群を実際に製造して、「レーザービーム(11)のスペクトル」に対する「第一ワークピース部(8)」の透過性の程度と「第二ワークピース部(7)」の吸収性の程度とを確認し、かつ、特に「可視光線のスペクトルに対する二つのワークピース部(7、8)の反射率は同じ」となるか確認し、そして、本願発明に係るワークピース部の視覚・外観上の識別性・印象について所定の作用・効果が得られるか、評価するためには、当業者といえども過度の試行錯誤を強いられるものといわざるを得ない。 なお、審判請求人は、平成19年10月17日に手続補足書により、参考資料1(欧州特許出願公開第0159169A2号明細書)及び参考資料2(ヨアヒム アドリオ(Joachim Adrio)による“Die Strahlungseigenschaften pigmentierter Kunstoffe im Bereich der Temperaturstrahlung"「熱放射領域における着色プラスチックの放射特性」と題する学術論文)を提出し、また、同日付けの回答書において、 「参考資料1を当業者が見れば、レーザビームにより板部材1と板部材2の間に接合領域を形成するために、板部材1に添加物として黒色の顔料を用いることは容易に見出すことができます。参考資料1から、いくつかの添加物あるいは顔料を板部材2に導入し、添加物あるいは顔料の比率を求めることによって上部の板部材2の色を例えば黒色に変更することは、当業者であれば容易に考えることができると思われます。但し、板部材2におけるレーザビームの透過率を良好に維持するには、板部材2の添加物あるいは顔料の量を少なくしなければなりません。 参考資料2においては、光の波長に対して、吸光率、反射率及び透過率を得るために、いくつかの合成樹脂が試験されています。ワークピースにおける添加物あるいは顔料の異なる比率における吸光率、反射率及び透過率の関係性を試験したものです。参考資料2から、光の波長と、合成樹脂における添加物あるいは顔料の量との関係を知るために、ワークピースにどのような添加物あるいは顔料をどの程度添加するべきかを見つけることができるようになります。 参考資料1及び参考資料2は、本願の出願当時において技術常識となっており、これらの知識と本願の明細書の詳細な説明の記載から、本願の請求項に記載の発明を実施すること、つまり、(1)本願の請求項1に記載の発明に関して、二つのワークピース部について、添加物であるガラス繊維、顔料の割合を調節して、レーザービームのスペクトルの一部を一方は透過し、他方は吸収し、双方の可視光線のスペクトルに対する反射率を同じにすること・・・は、当業者による期待しうる程度を超える試行錯誤を伴わずとも可能であり、本願は特許法第36条第4項にいう「実施可能要件」を満たしていると思量致します。」と主張している。 しかし、参考資料1には、重ね合わされた合成樹脂材料のうち、一方をレーザ光に対して非吸収性とするとともに、他方をレーザ光に対して吸収性として、レーザ光を照射する接合方法が記載され、レーザ光に対して吸収性を有する合成樹脂材料としては、カーボンブラック等を添加したものが記載されているのであって、本願発明に係る「第一ワークピース部(8)」と「第二ワークピース部(7)」との双方に添加物(ガラス繊維、顔料)を加える点については、記載されておらず、また、示唆もない。したがって、上記「いくつかの添加物あるいは顔料を板部材2に導入」するとの審判請求人の主張には、合理的根拠がない。 また、参考資料2には、概略、プラスチック材料に顔料等(二酸化チタン等)を加えたものについて、その「反射率」等の波長依存性に関するデータ(グラフ)が記載されているのみであって、合成樹脂材料のレーザービームによる溶接・接合については、一切、何も記載されていない。そして、該参考資料2によっても、本願発明に係る、「第一ワークピース部(8)」と「第二ワークピース部(7)」との双方に添加物(ガラス繊維、顔料)を加えて、「可視光線のスペクトルに対する二つのワークピース部(7、8)の反射率は同じ」とするように調節することを、過度の試行錯誤を要することなく当業者がなし得るものということはできない。 よって、回答書における審判請求人の主張は、採用できない。 (3)まとめ したがって、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明に係る上記構成要件(a)?(c)、特に、「可視光線のスペクトルに対する二つのワークピース部(7、8)の反射率は同じであるように」にする点に関して、具体的手段が十分開示されているものということができないから、発明の詳細な説明には、本願発明を当業者が容易にその実施をすることができる程度に発明の目的、構成及び効果が記載されているものとはいえない。 5.むすび 以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-03-12 |
結審通知日 | 2008-03-18 |
審決日 | 2008-03-31 |
出願番号 | 特願平7-525339 |
審決分類 |
P
1
8・
531-
Z
(B29C)
P 1 8・ 121- Z (B29C) P 1 8・ 534- Z (B29C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 高田 和孝 |
特許庁審判長 |
井出 隆一 |
特許庁審判官 |
宮坂 初男 福井 美穂 |
発明の名称 | プラスチックワークピース及びその製造方法 |
代理人 | 足立 勉 |