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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F03B
管理番号 1183851
審判番号 不服2006-27812  
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-12-11 
確定日 2008-09-04 
事件の表示 特願2005-500456「浮力利用の発電装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 5月19日国際公開、WO2005/045241〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、2003年(平成15年)11月10日を国際出願日とする出願(国際出願番号:PCT/JP03/14285)であって、平成18年11月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月11日に拒絶査定不服の審判請求がなされると共に、平成19年1月8日付けで手続補正書が提出されたものである。
平成19年1月8日付け手続補正書による補正は、補正前の請求項5に係る発明の「ほぼ」なる用語を削除して、新たな請求項1としたものであり、明りょうでない記載の釈明を目的としたものと認められ、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に適合する。
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。

「液体が貯留された上下方向に起立する筒状のタワーと、該タワー内側の上下方向に巡回可能にループ状に張設されたコンベヤと、該コンベヤ外側の長手方向に沿って所定のピッチで並べて付設された、開口部がコンベヤの巡回方向とは逆の方向を向く複数のバケットと、前記タワー内側を上方に向けて巡回させるコンベヤ側の下部に位置するバケット内に、その下方を向く開口部を通して、泡状をした気体を供給する供給手段と、
前記コンベヤを巡回可能に支持する回転軸に連結された発電機とが備えられて、前記供給手段によりタワー内側を上方に向けて巡回させるコンベヤ側の下部に位置するバケット内に供給された気体がタワー内側に貯留された液体中を浮力を受けてバケットと共に上昇する力を利用して、そのバケットが付設されたコンベヤ側を上方に向けて巡回させると共に、そのコンベヤの巡回に伴って、そのコンベヤの巡回方向に回転する前記回転軸に連結された発電機を回転させる構造の発電装置であって、
前記供給手段が、タワー内側下部に配置された先端が封じられたパイプ内側に圧縮された気体を送り込むための気体送給手段と、
該気体送給手段によりパイプ内側に送り込まれた気体を、多数の微小径の泡状にして前記タワー内側の液体中に送り出すための、前記パイプ周壁に散点状に設けられた多数の微細径の穴と、
そのパイプ周壁の多数の微細径の穴からタワー内側の液体中に送り出された多数の微小径の気体を集めて、タワー内側を上方に向けて巡回させるコンベヤ側の下部に位置するバケット内に送り込むための気体導入ノズルとからなり、
前記液体上端の液面レベルが、タワー内側に張設されたコンベヤの上端と同一高さとなるように、所定量の液体がタワー内側に貯留されたことを特徴とする浮力利用の発電装置。」

2.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用した特開昭50-136541号公報(以下「引用例」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

イ.「本発明は、液体中の気泡の浮力を利用する動力発生装置に関する。」(公報1頁左下欄13?14行)

ロ.「水中に空気を吹込むと該空気は気泡となって上昇し、この上昇気泡を水中に置かれた水車に作用させると該水車は回転する。この水車から動力を取出すには大型化または多段化すればよいが、この場合当然タンクの水深は深くなり、その底部に空気を吹き込むにはその水圧より高い空気圧を作る強力な送風機が必要になる。
本発明はこの点を改善し、送風空気圧が低い弱力の送風機でも水深が深いタンクの底部に充分空気を吹込むことができるようにし、こうして少ないエネルギで強力な発電を行うことができるようにするものである。勿論、空気の代りに適宜の気体を用いることができ、また水の代りに適宜の液体を使用でき、更に発生した動力は発電に利用する代りに動力のまゝ使用してもよいが、次に適当な一例として水、空気を用いて発電する図示実施例装置を参照しながら本発明を詳細に説明する。」(公報1頁左下欄15行?右下欄12行)

ハ.「第1図で1は細長い筒状のタンクで内部には給水管2により水が満たされる。3は浮子、4はスイッチ、5は電磁弁であって、これらによりタンクの水位はほゞ一定に保持される。6は排水管、7はそのコックである。タンク底部には回転翼装置8,その駆動モータ9,複数個の渦巻き防止板10が配置され、この回転翼装置8にはパイプ11、逆止弁12、送風機13、そのケース14からなる送風機構が配設される。
回転翼装置8には種々の構造のものを利用できる。」(公報1頁右下欄13行?2頁左上欄3行)

ニ.「再び第1図に戻って、15は放散された空気を集めて気泡塊を作る空気誘導板であり、ホッパー状をなして頂部には開口15aを有する。16,17,18,19は回転装置30を構成する水車で、これらは歯車16a?19a、チエーン20により増速歯車装置21に連結されている。22,23,24は水車間に配設された空気誘導板である。歯車装置21には発電機22がチエーン23を介して連結される。」(公報2頁右上欄12行?20行)

ホ.「この発電装置では給水管2を通してタンク1に水を満たし、モータ9により回転翼装置9を回転させ、かつ送風機13を起動させて送風すると、空気は回転翼装置8により水中に放散される。回転翼装置8が高速で回転するとき、周囲の水は追従し切れないで切欠き8bの後面には減圧部又は空洞部が発生する。この空洞部へは周囲の水又は空気が吸い込まれるから、送風機13から回転翼装置8内へ送給された空気はこの空洞部を通って容易に水中に出ることができ、この結果送風機13の送風圧力は低くてもよい効果が得られる。」(公報2頁左下欄1行?11行)

ヘ.「水中へ放散された空気は気泡となって上昇し、空気誘導板15で集められ、その開口15aを通って更に浮上する。この上昇気泡塊の通路には水車16が設けられているので、水車は気泡塊の浮力を一側縁に受けて回転する。」(公報2頁左下欄12行?16行)

ト.「第4図は本発明の他の実施例を示す。この装置は気泡塊により駆動される回転装置の構造が第1図のものとは異なり、他は同じであって従って同じ符号が付されている。 本例では回転装置30は三角形の各頂点に配置された歯車31,32,33を有し、これらの歯車に環状チエーン34が噛合い、このチエーンに多数のカップ35が並べて取付けられる。
動作を説明すると、第1図と同様にして空気が回転翼装置8により水中へ放散され、空気誘導板15により集められ、気泡塊15bを作る。チエーン34に多数取付けられたカップ35は気泡塊15bに入るとき中の水を排出し、代って空気を詰め込み、カップと水密状態に密嵌する誘導板孔15aを通って浮力により順次上昇する。これにより歯車31?33は回転し、歯車31はチエーン20、増速歯車21、チエーン23を介して発電機22を回転し、発電させる。カップ35内に入った気泡塊は歯車31を通って歯車32へ斜め下方に下降するとき排出され、通気口25を通ってタンク外へ出る。この発電装置は気泡をカップ内に閉じ込め、タンク底部から頂部まで有効にカップを押して浮上させるので、高効率で発電することができる。空気誘導板15の開口15aとチエーンおよびカップとの間に隙間があると空気が抜けて損失を生ずるので、この部分には適当なパッキングを設け、またチエーンおよびカップそれ自身を密閉に適した形状にするとよい。」(公報2頁右下欄12行?同3頁左上欄19行)

チ.第4図には、タンク1が上下方向に起立して設けられていること、及び浮子3及びスイッチ4等によって一定に保持されるタンク1の水位は、環状チエーン34に接続されて到達するカップ35の最上位位置よりも低く設定されていることが示されている。

リ.また、第4図には、多数のカップ35が、ループ状に張設された環状チエーン34の外側の長手方向に沿って所定のピッチで並べて取り付けられ、環状チエーンの巡回方向とは逆の方向を向く開口部を備えていることが示されている。

ヌ.また、第4図には、環状チエーン34と噛合い支持する歯車31と、発電機22とが、チエーン20、増速歯車21、チエーン23等を介して連結されており、環状チエーン34を巡回可能に支持する回転軸(歯車31の回転軸)と発電機とが連結された態様が示されている。

ル.また、第4図には、タンク1内を上方に向けて巡回させる環状チエーン34側の下部に位置するカップ内に、その下方を向く開口部を通して、気泡塊15bを供給するために、空気誘導板15、回転翼装置8、送風機13等からなる気体供給手段が設けられた構成が図示されているといえる。

ヲ.また、第4図には、上記気体供給手段(上記ル.参照)により、タンク内を上方に向けて巡回させる環状チエーン側の下部に位置するカップ内に供給された空気がタンク内の水中を浮力を受けてカップと共に上昇する力を利用して、そのカップが取り付けられた環状チエーン側を上方に向けて巡回させると共に、その環状チエーンの巡回に伴って、その環状チエーンの巡回方向に回転する歯車31の回転軸に連結された発電機22を回転させる構造が示されている。

ワ.上記ホ.に「送風機13を起動させて送風すると、空気は回転翼装置8により水中に放散される。」、「送風機13から回転翼装置8内へ送給された空気」等の記載があること、及び第4図の記載から、引用例1には、送風機がタンク底部に設けられた回転翼装置に圧縮された空気を送り込むことが開示されているといえる。

これらの記載事項のうち、第4図に関する記載事項及び図示内容を総合すると、引用例には、次の事項からなる発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているといえる。

「水が満たされた上下方向に起立する細長い筒状のタンクと、該タンク内に設けられた上下方向に巡回するループ状に張設された環状チエーンと、該環状チエーン外側の長手方向に沿って所定のピッチで並べて取り付けられた、開口部が環状チエーンの巡回方向とは逆の方向を向く多数のカップと、前記タンク内を上方に向けて巡回させる環状チエーン側の下部に位置するカップ内に、その下方を向く開口部を通して、気泡塊を供給する気体供給手段と、前記環状チエーンを巡回可能に支持する回転軸に連結された発電機とが備えられて、前記気体供給手段によりタンク内を上方に向けて巡回させる環状チエーン側の下部に位置するカップ内に供給された空気がタンク内の水中を浮力を受けてカップと共に上昇する力を利用して、そのカップが取り付けられた環状チエーン側を上方に向けて巡回させると共に、その環状チエーンの巡回に伴って、その環状チエーンの巡回方向に回転する前記回転軸に連結された発電機を回転させる構造の発電装置であって、
前記気体供給手段が、タンク底部に設けられた回転翼装置に圧縮された空気を送り込むための送風機と、
該送風機により送り込まれた空気をタンク内の水中に放散する回転翼装置と、
タンク内を上方に向けて巡回させる環状チエーン側の下部に位置するカップ内に空気を詰め込むために、該回転翼装置から放散された空気の気泡を集めてカップが入り込むことのできる気泡塊を形成する空気誘導板とからなり、
前記タンクの水位を前記環状チエーンに取付けられた前記カップの最上位位置よりも低く設定した浮力利用の発電装置。」

また、同じく第1図に関する記載事項及び図示内容を総合すると、引用例には、次の事項からなる発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているといえる。

「浮力を利用して回転される水車と、該水車と連結する発電機と、送風機からの空気を水中に放散するためタンク底部に設けられた回転翼装置と、水中に放散されて気泡となった空気を集めて気泡塊を作る空気誘導板を備えた発電装置において、前記空気誘導板の頂部に開口を備え、該開口を前記水車の一側縁下方に配置して、前記気泡塊の浮力により前記水車を回転させてなる浮力利用発電装置。」

3.対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「水」は本願発明の「液体」に相当し、以下同様に、「(水が)満たされた」は「(液体が)貯留された」に、「細長い筒状」は「筒状」に、「タンク」は「タワー」に、「上下方向に巡回するループ状に張設された」は「上下方向に巡回可能にループ状に張設された」に、「環状チエーン」は「コンベヤ」に、「取り付けられた」は「付設された」に、「多数の」は「複数の」に、「カップ」は「バケット」に、「気泡塊」は「泡状をした気体」に、「空気」は「気体」に、「気体供給手段」は「供給手段」に、「送風機」は「気体送給手段」に、それぞれ相当する。
また、引用発明1の「タンク底部に設けられた回転翼装置に圧縮された空気を送り込むための送風機」と、本願発明の「タワー内側下部に配置された先端が封じられたパイプ内側に圧縮された気体を送り込むための気体送給手段」とは、「タワー内側下部に配置された、気体を液体中に放散させるための装置に、圧縮された気体を送り込むための気体送給手段」という概念で共通する。
また、同様に「送風機により送り込まれた空気をタンク内の水中に放散する回転翼装置」と「気体送給手段によりパイプ内側に送り込まれた気体を、多数の微小径の泡状にしてタワー内側の液体中に送り出すための、前記パイプ周壁に散点状に設けられた多数の微細径の穴」とは、「気体送給手段により送り込まれた気体をタワー内側の液体中に送り出すための手段」との概念で共通する。
また、同様に「タンク内を上方に向けて巡回させる環状チェーン側の下部に位置するカップ内に空気を詰め込むために、回転翼装置から放散された空気の気泡を集めてカップの入り込むことのできる気泡塊を形成する空気誘導板」と「パイプ周壁の多数の微細径の穴からタワー内側の液体中に送り出された多数の微小径の気体を集めて、タワー内側を上方に向けて巡回させるコンベヤ側の下部に位置するバケット内に送り込むための気体導入ノズル」とは、「液体中に送り出された気体を集めて、タワー内側を上方に向けて巡回させるコンベヤ側の下部に位置するバケット内に供給するための手段」との概念で共通する。
また、同様に「タンクの水位を環状チェーンに取り付けられたカップの最上位位置よりも低く設定した」態様と、「液体上端の液面レベルが、タワー内側に張設されたコンベヤの上端と同一高さとなるように、所定量の液体がタワー内側に貯蔵された」態様とは、これらの液面レベル(水位)は、いずれも「コンベヤの上端に位置するバケットの少なくとも一部が液体中に没しない位置」ということができるから、「液面レベルが、コンベヤの上端に位置するバケットの少なくとも一部が液体中に没しない位置となるように、所定量の液体がタワー内側に貯蔵され」るとの概念で共通する。

したがって、両者は、
「液体が貯留された上下方向に起立する筒状のタワーと、該タワー内側の上下方向に巡回可能にループ状に張設されたコンベヤと、該コンベヤ外側の長手方向に沿って所定のピッチで並べて付設された、開口部がコンベヤの巡回方向とは逆の方向を向く複数のバケットと、前記タワー内側を上方に向けて巡回させるコンベヤ側の下部に位置するバケット内に、その下方を向く開口部を通して、泡状をした気体を供給する供給手段と、前記コンベヤを巡回可能に支持する回転軸に連結された発電機とが備えられて、前記供給手段によりタワー内側を上方に向けて巡回させるコンベヤ側の下部に位置するバケット内に供給された気体がタワー内側に貯留された液体中を浮力を受けてバケットと共に上昇する力を利用して、そのバケットが付設されたコンベヤ側を上方に向けて巡回させると共に、そのコンベヤの巡回に伴って、そのコンベヤの巡回方向に回転する前記回転軸に連結された発電機を回転させる構造の発電装置であって、
前記供給手段が、タワー内側下部に配置された、気体を液体中に放散させるための装置に圧縮された気体を送り込むための気体送給手段と、
該気体送給手段により送り込まれた気体をタワー内側の液体中に送り出すための手段と、
タワー内側の液体中に送り出された気体を集めて、タワー内側を上方に向けて巡回させるコンベヤ側の下部に位置するバケット内に供給するための手段とからなり、
液面レベルが、コンベヤの上端に位置するバケットの少なくとも一部が液体中に没しない位置となるように、所定量の液体がタワー内側に貯蔵された浮力利用の発電装置。」の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
気体送給手段が圧縮された気体を送り込む送給先について、本願発明では「タワー内側下部に配置された先端が封じられたパイプ内側に」送り込むのに対し、引用発明1では「タンク底部に設けられた回転翼に」送り込む点。

[相違点2]
気体送給手段により送り込まれた気体を液体中に送り出すための手段について、本願発明では「気体を多数の微小径の泡状にしてタワー内側の液体中に送り出すための、パイプ周壁に散点状に設けられた多数の微細径の穴」を備えた「パイプ」であるのに対し、引用発明1では「回転翼装置」である点。

[相違点3]
液体中に送り出された気体を集めてバケット内に供給するための手段について、本願発明では「多数の微小径の気体を集めて」、「タワー内側を上方に向けて巡回させるコンベヤ側の下部に位置するバケット内に送り込むための気体導入ノズル」で構成しているのに対し、引用発明1では「タンク内を上方に向けて巡回させる環状チェーン側の下部に位置するカップ内に空気を詰め込むために、回転翼装置から放散された空気の気泡を集めてカップが入り込むことのできる気泡塊を形成する空気誘導板」で構成している点。

[相違点4]
タワー内側に貯蔵された液体の液面レベルについて、本願発明では「液体上端の液面レベルが、タワー内側に張設されたコンベヤの上端と同一高さ」としているのに対し、引用発明1では「タンクの水位を環状チエーンに取付けられたカップの最上位位置よりも低く設定」している点。

4.判断
上記相違点について検討する。

・相違点1、2について
引用発明1は、浮力を利用した発電装置においては、水中に空気を吹込むために水圧より高い空気圧を作る送風機が必要になるところ、送風機を大型化することなく深い水深でも送風を可能とするために、回転翼装置を設けたものである。
そして、送風機として充分な容量のものを使用し得る場合には、当該回転翼装置を使用せず、送風機からの圧縮空気を直接、水中に送り出す機構を採用し得ることは自明であり、浮力を利用した発電装置の分野において、気体をパイプ等の供給部材から液体中に直接送り出すように構成することは、原査定の拒絶の理由に引用された特表平10-513527号公報(「圧力ガスは入口ラインIを介して容器に入る。穴があいたチューブ40が入口ラインIに垂直に接続され、バケツの開口端46の全幅にわたって天然ガスを分配する。」(公報8頁11?13行)参照。)、特開平2-99780号公報(「前記ケーシング5の下部周壁には複数のノズル14…が装着され、前記空気溜まり室3からの圧搾空気が同ノズル14…から噴出されて、上昇するバケット13…に送り込まれて溜まるようになっている。」(公報3頁右上欄1?5行)参照。)等に開示されるように、周知の技術である。
また、水中に空気を送り出す手段として、パイプ周壁に散点状に設けられた多数の微細径の穴を備えた多孔性パイプを用いることも、実公昭61-33344号公報(以下「周知例」という。「数ミクロン?数100ミクロンの連続気孔がパイプの周方向及び長手方向に亘って均等に形成される。したがって、パイプの灌水能力(通気能力)にむらができず、農地あるいは水槽中に水あるいは空気を均等に供給することができる」(公報2頁3欄8行?4欄4行)参照。)に記載されるように周知の技術である。
そして、引用発明1は空気を泡状(気泡)にして水中に送り出すものであるから、液体中に気体を気泡として送り出すための手段として、回転翼装置を用いることなく、上記周知の技術を採用して、「パイプ周壁に散点状に設けられた多数の微細径の穴」を備えた「先端が封じられたパイプ」を用いることは、当業者が格別の創意を要せずなし得た事項に過ぎない。
したがって、引用発明1において、相違点1、2に係る本願発明の構成とすることは、上記周知技術に基づいて当業者が容易になし得たものである。
なお、請求人は、平成19年1月8日付け手続補正書(審判請求の理由補充)において、本願発明は、パイプ周壁の多数の微細孔を通して、気体を多数の微小径の泡状にして送り出しているので、気体を液体中に抵抗少なく円滑に送り出すことができること、また、周知例のものは、養殖用魚槽に使用するための酸素供給パイプであり、本願発明の浮力利用の発電装置とは、利用分野が大幅に異なるから、適用が容易とはいえない旨主張する。
しかし、請求人が主張する本願発明の上記効果が十分なものとして認められるか否かはともかく、水中に泡状の空気を供給する手段として、周壁に多数の微細径の穴を設けたパイプが広く知られたものに過ぎず、また、利用分野が異なるとしても周知例のパイプは、本願発明におけるパイプと同様、水中に微小径の気泡を供給し得る機能を有するものである以上、このような周知の技術を引用発明1に適用することが困難であるとする理由はない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

・相違点3について
引用発明2には、浮力利用の発電装置において、水中に放散されて気泡となった空気(本願発明における「多数の微小径の気体」に相当)を空気誘導板15(同じく「気体導入ノズル」に相当)で集め、その開口15aを水車16(同じく「タワー内側を上方に向けて巡回させるコンベヤ側の下部に位置するバケット」に相当)の一側縁下方に配置し、開口を通った空気を更に浮上させて水車16に下方から送り込む構成が示されている。
そして、引用発明1、2は共に浮力利用の発電装置であるから、引用発明2に開示された構成を引用発明1に適用することに、格別の困難性は認められない。
したがって、引用発明1において、相違点3に係る本願発明の構成とすることは、引用発明2に基づいて当業者が容易になし得るものである。

・相違点4について
本願発明においては、液体上面の液面レベルを、タワー内側に張設されたコンベヤの上端と同一高さとしているが、この場合には、本願明細書に記載されるように、コンベヤの上端付近に達して浮力に寄与しなくなったバケットの流体抵抗を減らす作用効果を奏するものである。
一方、引用発明1では、タンクの水位を環状チェーンに取り付けられたカップの最上位位置よりも低く、環状チェーンの上端よりも高い位置に設定しており、環状チェーンの上端付近に達して浮力に付与しなくなったカップは、一部が水面上に、残部が水中に没した状態で移動する。したがって、引用発明1のものは、本願発明の場合に比べて、カップ(バケット)が一部液体中に没して移動する分、流体抵抗が増大するといえる。
しかし、引用発明1において、タンクの水位を環状チェーンの上端と同一高さとすれば、カップの流体抵抗を減らすことが可能であるが、一方で、カップを水面上に全て露出させると、そのカップ内の水は環状チェーンの上端位置付近で全て排出されることとなるから、環状チェーンが上端で折り返して、カップが開口部を上に向けた状態で下方に移動し再度水面下に没する際には、カップの容積分の浮力を環状チェーンの巡回方向とは逆方向に受け、すなわち、巡回方向に対するブレーキ作用が生じることも明かである。
したがって、タワー(タンク)の液面レベルは、発電装置全体の効率を考慮するのであれば、上記のような得失両面を総合的に判断して、当業者が適宜設定すべき事項というべきである。
そうすると、引用発明1において、タンクの水位を環状チェーンの上端と同一高さとなるように設定することは、当業者が上記の点を勘案して容易に選択し得る事項である。
よって、引用発明1において、相違点4に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得るものである。

そして、本願発明の全体構成により奏される効果も引用発明1、引用発明2及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用例1に記載された引用発明1、引用発明2及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-07-10 
結審通知日 2008-07-11 
審決日 2008-07-24 
出願番号 特願2005-500456(P2005-500456)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F03B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齊藤 公志郎  
特許庁審判長 大河原 裕
特許庁審判官 米山 毅
仁木 浩
発明の名称 浮力利用の発電装置  
代理人 松田 宗久  

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