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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B43L 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B43L |
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管理番号 | 1183935 |
審判番号 | 不服2006-5618 |
総通号数 | 106 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-10-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-03-27 |
確定日 | 2008-09-04 |
事件の表示 | 平成 8年特許願第133355号「磁気吸着型起立表示器具」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年12月 9日出願公開、特開平 9-315090〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成8年5月28日に出願したものであって、平成18年2月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年3月27日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。 前置審査においては、これを審理した結果、平成18年7月11日付けで拒絶の理由を通知した(いわゆる最後の拒絶理由通知であって、特許法第29条第2項の規定により特許できないとする内容の指摘をした。)ところ、請求人は同年9月11日付けで手続補正書(以下、この補正を「本件補正」という。)を提出した。 前記拒絶理由通知は、最後の拒絶理由通知であるから、本件補正を却下すべきか否かの検討を要する。 本件補正は、補正前請求項1の「前記高透磁率材料はセンダストまたはパーマロイからなる粉末であって、」の記載を、「前記高透磁率材料はセンダストからなる不定形粉末であって、」と限定した補正をなすと共に、補正前請求項4の「高透磁率材料からなる合金粉末」に関して、「前記合金粉末はセンダストからなる不定形粉末である」と限定する追加特定をなすものである。 すると、本件補正は、補正前請求項1及び2の記載を、補正後請求項1及び2となす、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。 ここで、補正後請求項1及び2に係る発明について、「高透磁率材料」或いは「高透磁率材料からなる合金粉末」が、いずれも「センダスト」からなるものであることは、本件審決において、新規性或いは進歩性があるものか否かの判断対象である。 そこで、本件補正により補正された請求項1及び2が特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かの判断を省略して、補正後請求項1に係る発明が新規性あるいは進歩性があるものか否かについて、以下、判断する。 第2 本願発明 本願の特許請求の範囲【請求項1】の記載は、本件補正により補正された次のとおりのものであり、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、そこに記載された事項によって特定されるものである。 「強磁性材料からなる平板状ボード板と、予め視覚識別情報が表示された又は知覚識別情報を表示しうる、前者ボード板より小さい、高透磁率材料を含有した塗膜を有する片とからなり、前記高透磁率材料はセンダストからなる不定形粉末であって、かつ結合剤樹脂中に分散されていることを特徴とする磁気吸着型起立表示器具。」 第3 当審の判断 3-1 前置審査における拒絶理由通知の骨子 当該拒絶理由通知に記載された拒絶理由は、本願請求項1?4に係る発明が、以下に示す提示した7つの文献に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、とするものであった。 1.特開平7-129089号公報 2.特開平3-295206号公報 3.特開平3-58085号公報 4.実願昭57-38471号(実開昭58-140608号)のマイクロフィルム 5.特開昭54-23998号公報 6.実願昭56-126495号(実開昭58-34157号)のマイクロフィルム 7.実願昭50-95201号(実開昭52-10793号)のマイクロフィルム これらの提示された文献は、以下、番号順に「文献1」?「文献7」と呼称する。 3-2 前記文献1及び文献3の記載内容 3-2-1 文献1:特開平7-129089号公報 発明の名称:「貼着機構」 【特許請求の範囲】 多極着磁したシート状磁石を有する基板と、この基板に磁力によって吸着固定する装飾シートとから成り、装飾シートは任意の形状、模様、色彩を有する薄いシート上部と裏面側に設けた極薄の磁性体層とから成り、この装飾シートは無地又は図柄を施した基板表面に複数枚を重ね貼りできる厚さを有し、1枚または複数枚の磁力のよる吸着固定により、あらかじめ定められた又は即興的な図柄を表示する貼着機構。」 段落【0002】「【従来の技術】従来、レイアウト用シートを貼着するものとしては実公昭53-10871号あるいは実公平3-9470号がある。実公昭53-10871号はディスプレー用の組合わせセットで、鉄板を用いた基台と一面に接着剤層を有し他面に磁性層を有する吸着小片と立体または平面の表示用小品との複数グループから成るセットの中、各グループから少なくとも1種を選んで互いに吸着することにより、立体的部分を含む特殊なディスプレーを行っている。」 段落【0003】「また実公平3-9470号は磁性体又は強磁性体を有する基板と透明なレイアウト板とから成り、透明なレイアウト板の一部に磁性体又は強磁性体を有する被覆層を設け、複数のレイアウト板を重ねるときはそれぞれの被覆層が重ならないように、被覆層の形成位置がずれているレイアウト板を重ね、基板とレイアウト板とを吸着させるものである。」 段落【0004】「【発明が解決しようとする課題】上記の従来品は2枚以上積層をするためにディスプレー用小品の裏に別の吸着小片を取り付けたり、2枚の被覆層が重ならないように配置するなど特別な構成を必要とし、自由に重ね貼りすることができなかった。このため、図柄表現上、貼着したい位置にレイアウト板を貼ることができず自由な表現ができない欠点があった。」 段落【0005】「本発明は上記のような従来の欠点を解消し、基板上のいずれの位置でも重ね貼りができ、自由自在に図柄を表現をすることのできる貼着機構を提供するものである。」 段落【0008】「【作用】本発明は多極着磁したシート状磁石で形成した基板に、一面側に図柄を表示し他面側に磁性体層を有する装飾シートを貼着するもので、基板は表面を無地又は図柄を描いた合成樹脂製フィルムで被覆することがある。いずれの場合も装飾シートを基板に貼ることによって表現したい図柄を完成させるが、基板上で装飾シートを摺動しながら、あるいは着脱を繰り返し、どの位置が最も良い貼着位置かを検討することができ、また、装飾シートの磁性体部分が非常に薄いため複数の装飾シートを基板上に重ね貼りすることができる。」 段落【0009】「【実施例】1は基板、2は基板1を構成する多極着磁したシート状磁石で、表面側又は表裏両面に吸着力を有する。3はシート状磁石2の表面を被覆した合成樹脂フィルム、4はシート状磁石2の裏面に貼着した台板である。」 段落【0010】「5A,5Bは基板1の表面に磁力によって貼着する装飾シートで、紙または合成樹脂フィルムに任意の形状、模様、色彩を施した薄いシート状部6とシート状部6裏面の極薄の磁性体層7とによって構成されている。磁性体層7は鉄箔の貼着又は磁性粉を含有する塗料のコーティングまたはシルクスクリーン印刷などの手段で形成されている。」 段落【0012】「基板1のシート状磁石2として、異方性磁石 厚さ0,8mm 着磁ピッチ2.5mm を用い、装飾シート5Aのシート状部6に図柄を印刷したポリエステルフィルムを用い、磁性体層7として鉄箔を用いたときに、基板1に貼着できる装飾シート5Aの枚数は、鉄箔の厚さが20μで3枚、25μで2枚、35μで2枚であった。基板1に吸着力の強い磁石2を用いることにより装飾シート5A,5Bの重ね貼りの枚数を増加することができるが、1枚目の吸着が強くなり剥がしにくくなるので、この場合は周縁に磁性体層を設けない装飾シート5Bのタイプが好ましい。」 段落【0002】、【0003】記載によれば、従来、鉄板を用いた基台と一面に接着剤層を有し他面に磁性層を有する吸着小片と立体または平面の表示用小品との複数グループから成るセットを用いて、各グループから選んだものを基台に吸着させてディスプレーするものが存在したこと、磁性体又強磁性体を有する基板に、一部に磁性体又は強磁性体を有する被覆層を設けた透明なレイアウト板を重ねる際に、被覆層が重ならないように注意が必要であったことが把握できる。 そして、段落【0004】、【0005】記載によれば、当該文献1記載の発明の目的は、2枚以上のレイアウト板を貼着したい位置に自由に貼着させ得ることと把握でき、この点は、段落【0008】の【作用】記載からも把握できる。 実施例に係る段落【0009】記載によれば、基板1は、多極着磁したシート状磁石2の裏面に台紙4を貼着し、表面を合成樹脂フィルム3で被覆されており、段落【0010】記載によれば、基板1の表面に磁力によって貼着する装飾シート5A、5Bは、紙または合成樹脂フィルムに任意の形状、模様、色彩を施した薄いシート状部6とシート状部6裏面の極薄の磁性体層7とによって構成されており、磁性体層7は鉄箔の貼着又は磁性粉を含有する塗料のコーティングまたはシルクスクリーン印刷などの手段で形成されている。 また、実施例の詳細に係る段落【0012】記載によれば、装飾シート5Aの磁性体層7に用いる鉄箔の厚さを減らすと、基板1に貼着できる装飾シート枚数を増加させ得ること、或いは、基板1に吸着力の強い磁石2を用いれば、装飾シート5A、5Bの重ね貼り枚数を増加し得ることが把握できる。 してみれば、前記【特許請求の範囲】及び段落記載を参照するに、当該文献1からは以下の発明が把握できる。 「多極着磁したシート状磁石を有する基板と、この基板に磁力によって吸着固定する装飾シートとから成り、 装飾シートは、任意の形状、模様、色彩を有する薄いシート上部と、 鉄箔の貼着又は磁性粉を含有する塗料のコーティングまたはシルクスクリーン印刷などの手段で形成された裏面側に設けた極薄の磁性体層とから成り、 この装飾シートは無地又は図柄を施した基板表面に複数枚を重ね貼りできる厚さを有し、 1枚または複数枚の磁力のよる吸着固定により、あらかじめ定められた又は即興的な図柄を表示する貼着機構。」(以下、「引用発明」という。) 3-2-2 文献3:特開平3-58085号公報 発明の名称:「簡易掲示装置及び掲示用シートの製造方法」 特許請求の範囲「(1) 少なくとも片面の全部あるいは一部分に磁性トナーから成る略均一なベタパターンを有した掲示用シートと、このベタパターンと吸着する磁気層を有した磁気板とから成ることを特徴とする簡易掲示装置。 (2)前記掲示用シートは、磁性トナーを用いる複写機によりその少なくとも片面の全部あるいは一部分に略均一なベタパターンを形成することによって得られることを特徴とする掲示用シートの製造方法。 」 1頁左下欄16行?右下欄2行「(産業上の利用分野) 本発明は簡易に紙葉類等を掲示することができる掲示用シートの作成方法に関し、より詳細には紙葉類を磁気板上にクリップ或はマグネット等の掲示用具を用いずに簡単な方法で正確に掲示することができる簡易掲示装置及び掲示用シートの製造方法に関する。」 2頁左上欄14行?右上欄1行「(発明の目的) 本発明は上述した如き従来の問題点に鑑みなされたものであって、磁気を有する掲示板面上に掲示用シートを掲示用具を用いずに貼付け或は取り外すことができると共に、掲示にあたっては掲示用シートを損傷することなく、さらに掲示後のファイリングを容易とする簡易掲示装置及び掲示用シートの製造方法を提供することを目的とする。」 2頁右上欄15行?左下欄2行「第1図(a)は本発明に係る簡易掲示装置の一実施例であって、この簡易掲示装置は簡易用シート1と、磁気板11とから成る。 掲示用シート1は例えば複写紙のごとき一般的な紙葉であって、該シート1の表面には掲示用画像2が複写機等の手段により作成されると共に該シートの裏面には磁性トナーによるベタパターン3が形成されている。」 2頁左下欄16行?右下欄2行「磁気板11に掲示用シート1を接近させると、その断面は第2図に示すように磁気層から発生する磁力線13により掲示用シートの裏面に構成された磁気トナーからなるベタパターン部分3を吸着しようとするため、画鋲、接着テープ等の掲示用具を用いること無く磁気板に係止することができる。」 3-3 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「貼着機構」は、着磁された磁石を有する「基板」と、この磁力によって前記「基板」上に吸着固定する「装飾シート」とから成り、「基板」上に図柄等を表示するものであるのに対し、本願発明の「磁気吸着型起立表示器具」が、「予め視覚識別情報が表示された又は知覚識別情報を表示しうる片」を「平板状ボード板」に磁気吸着固定するものであるから、両者は少なくとも磁気吸着固定することで起立表示を可能とする器具である点で共通する。 そして、引用発明の「多極着磁したシート状磁石を有する基板」及び「この基板に磁力によって吸着固定する装飾シート」は、両者が磁力により吸着固定される関係にあると共に、表示にあたって「基板」の上に「装飾シート」は複数配されるので、「装飾シート」が「基板」よりも小さいといえることから、本願発明の「磁性材料からなる平板状ボード板」及び「予め視覚識別情報が表示された又は知覚識別情報を表示しうる、前者ボード板より小さい、片」にひとまず相当するといえる。 すると、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、他方、以下の点で相違している。 《一致点》 「平板状ボード板と、予め視覚識別情報が表示された又は知覚識別情報を表示しうる、前者ボード板より小さい、片とからなることを特徴とする磁気吸着型起立表示器具。」 《相違点1》 本願発明においては、「平板状ボード板」が、「磁性材料からなる」と特定され、「片」が「高透磁率材料を含有した塗膜を有する」と特定されているのに対して、 引用発明においては、「平板状ボード板」に相当する「基板」が、「多極着磁したシート状磁石を有する」と特定され、「片」に相当する「装飾シート」が「鉄箔の貼着又は磁性粉を含有する塗料のコーティングまたはシルクスクリーン印刷などの手段で形成された裏面側に設けた極薄の磁性体層」と特定されているものの、前記各特定を有するとはいえない点。 《相違点2》 本願発明においては、「片」の有する「高透磁率材料を含有した塗膜」に関して、「前記高透磁率材料はセンダストからなる不定形粉末であって、かつ結合剤樹脂中に分散されている」と特定されているのに対して、 引用発明においては、「片」に相当する「装飾シート」が「鉄箔の貼着又は磁性粉を含有する塗料のコーティングまたはシルクスクリーン印刷などの手段で形成された裏面側に設けた極薄の磁性体層」を有するものの、前記特定を有するとはいえない点。 3-4 判断 3-4-1 相違点1について 本願発明における「平板状ボード板」に係る「磁性材料からなる」の特定には、当該磁性材料が「着磁」されているか否かについて明記がない。 そこで、本願明細書の 段落【0002】「【従来の技術】磁気吸着型表示器具としては常磁性材料からなる平板状ボード板と、前者板より小さい強磁性材料片とからなる磁気吸着型起立表示器具が知られている。」、 段落【0003】「【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前記した常磁性材料のボード板と強磁性材料片の組み合わせからなる表示器具は材料片がお互いに着き合うという欠点があった。」及び 段落【0004】「【課題を解決するための手段】そこで本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行なった結果、従来の強磁性材料と常磁性材料との組み合わせで表示器具を構成するのではなく、強磁性材料のボード板と高透磁率材料を含有した塗膜を有する片の組み合わせで表示器具を構成することにより、上記課題を解決することを見い出し、本発明を完成するに至った。」の記載を参照するに、 従来技術においては、「平板状ボード板」側を「常磁性材料」、「片」側を「強磁性材料」としていること、「片」側が「強磁性材料」とされている故に、「片」がお互いに着き合う欠点があるとされていること、さらに、この欠点を解消すべく、「平板状ボード板」側を「強磁性材料」となし、「片」側は「常磁性材料」ではなく「高透磁率材料を含有した塗膜を有する」ものとしたとある。 それ故に、本願発明においては、少なくとも、「平板状ボード板」側を「磁石」としていることが前提とされているといえる。 すると、本願発明の「平板状ボード板」と、引用発明の「基板」とは、「磁石」としての機能を期待されているものであって、いずれも「強磁性材料からなる」ものであって異ならない。 次に、本願発明における「高透磁率材料を含有した塗膜を有する」との特定に関し、当該「塗膜」に係る「高透磁率材料」として如何なるものが想定されているかについて、本願明細書を参照するに、段落【0015】「高透磁率材料を含有した塗膜2cを得るには、例えば次の様な、従来公知の低保磁力の高透磁率材料からなる合金粉末が使用できる。低保磁力の高透磁率材料のなかでも、センダスト又はパーマロイが好ましい。」なる記載がある。 当該記載によれば、本願発明における前記「塗膜」には、「従来公知の低保磁力の高透磁率材料からなる合金粉末」を使用するとあり、本願発明に係る「塗膜」に「高透磁率材料」を使用するのは、当該「高透磁率材料」の「低保磁力」の性質に期待することにある。 ここで、「高透磁率材料」を「磁性材」として使用することに関しての技術常識を確認する。 本願出願前の平成4年に発行された「機械設計 1992年4月号」(第36巻第4号、発行所:株式会社日刊工業新聞社)には、「焼結軟磁性材の材料特性」と題した記事に、以下の記載がある。 39頁左欄1?11行 「軟磁性材料は,エレクトロニクス,メカトロニクスを中心に現在の工業技術において重要な位置を占めている.その使われ方は,「磁気エネルギー」⇔「電気エネルギー」の変換,「磁気エネルギー」⇔「機械エネルギー」の変換を利用したものが主であり,変圧器,リアクトルからモータ,リレー,その他各種電磁アクチュエータにいたるまで広く使用されている. 金属軟磁性材料としては,鉄,けい素鋼をはじめ高透磁率材料のパーマロイ,センダスト,高磁束密度のパーメンダなどがある.」 当該記載によれば、「金属軟磁性材料」として「鉄」、「けい素鋼」に並んで、「高透磁率材料」である「パーマロイ,センダスト」も広く知られていたことが窺える。 また、前記「機械設計 1992年4月号」(第36巻第4号、発行所:株式会社日刊工業新聞社)の「焼結軟磁性材の材料特性」と題した記事には、「各種焼結軟磁性材料の磁気特性」の節に、以下の記載がある。 43頁左下欄下から3行目?右欄7行 「5.鉄-樹脂系 この材料は粉末冶金法によってのみ製造できるもので,鉄粉と鉄粉の間がエポキシなどの樹脂で絶縁された,いわゆる複合材料である.樹脂絶縁層によって材料の見掛けの電気抵抗が著しく高くなり,交流(特に高周波域)での過電流損失が非常に小さくなる. 鉄粉の変わりに金属磁性粉としてパーマロイ,センダストを用い,絶縁層も無機物からなるものなど,用途に応じて各種のバリエーションがある.」 当該記載によれば、軟磁性材料として「鉄-樹脂系」なる複合材料が知られており、鉄粉に代えて金属磁性粉としてセンダストを用いることも知られていたことが窺える。 以上の検討を踏まえると、「高透磁率材料」を「磁性材」として使用することは、本願出願前によく知られていたといえるのであって、「従来公知の低保磁力の高透磁率材料からなる合金粉末」を使用することに格別の困難性があるとはいえない。 また、磁性材粉末を用いて磁性層構成を得るに際して、磁性材粉末をバインダと呼ばれる結着剤樹脂中に分散された塗料を塗付することで塗膜として構成することは、従来周知の事項である(特開平7-263214号公報など)。 すると、相違点1に係る「片」を「高透磁率材料を含有した塗膜を有する」との構成は、当業者にとって容易に想到し得た程度のものであって、格別なものとはいえない。 3-4-2 相違点2について 相違点2に係る「片」の有する「高透磁率材料を含有した塗膜」の特定に関し、「高透磁率材料が粉末であって、かつ結合剤樹脂中に分散されている」ことについて、及び、「高透磁率材料」として「センダスト」がよく知られていること自体は、既に相違点1において検討した。 そこで、残る「高透磁率材料」として「センダストからなる不定形粉末」を採用することについて検討する。 原審で引用された特開平3-295206号公報(2頁左下欄最下行?同右上欄1行)に係る磁気シールド用に用いられる軟磁性粉末として「センダスト」を採用することは周知事項に属する。 そして、当該「磁気シールド用軟磁性粉末」として「センダストからなる不定形粉末」を用いることは、特開平3-295206号公報(2頁左下欄最下行?同右上欄1行)に加え、特開平4-12502号公報(2頁右下欄6?7行)、特公昭62-58631号公報(特許請求の範囲1「Fe-Si-Al系合金」、同2「上記・・・不定形状の粒子」、第1図)等を参照するに、よく知られている。 してみれば、相違点2に係る構成を採用することは、当業者であれば容易に想到し得る程度のことであって、格別なこととはいえない。 3-4-3 まとめ 以上に検討したとおりであるから、相違点1が実質的な差異を形成せず、相違点2は当業者が容易に想到し得る程度のことである以上、本願発明は、引用発明と周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、その作用効果も当業者が容易に推察可能なものでしかない。 すなわち、本願発明は引用発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 第3 むすび 本願発明は特許法29条2項の規定により特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-07-09 |
結審通知日 | 2008-07-10 |
審決日 | 2008-07-23 |
出願番号 | 特願平8-133355 |
審決分類 |
P
1
8・
57-
WZ
(B43L)
P 1 8・ 121- WZ (B43L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 蔵野 いづみ |
特許庁審判長 |
酒井 進 |
特許庁審判官 |
菅野 芳男 上田 正樹 |
発明の名称 | 磁気吸着型起立表示器具 |
代理人 | 河野 通洋 |