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審決分類 |
審判 一部無効 2項進歩性 E04C 審判 一部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) E04C |
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管理番号 | 1184052 |
審判番号 | 無効2007-800267 |
総通号数 | 106 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-10-31 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2007-11-30 |
確定日 | 2008-09-08 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3853627号発明「鉄筋コンクリート建造物の柱頭仕口構造」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第3853627号の請求項4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は,被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件の特許第3853627号に係る出願は,平成13年10月1日に特許出願され,その後の平成18年9月15日に,その請求項1?4に係る発明につき,特許の設定登録がなされたものである。 これに対して,請求人より平成19年11月30日に本件請求項4に係る発明の特許について無効審判の請求がなされたものである。そして,本件無効審判における経緯は,以下のとおりである。 平成19年11月30日 無効審判請求(甲第1?3号証の提出) 平成20年 2月12日 答弁書 2月12日 訂正請求書 3月21日 弁駁書(甲第4号証の提出) 4月15日 訂正拒絶理由通知 なお,上記訂正拒絶理由通知に対して,被請求人からの応答はなかった。 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 本件無効審判の「訂正の請求」は,平成20年2月12日付け訂正請求書に添付の訂正明細書に記載された次のとおりのものである。 特許請求の範囲の請求項4について, 「【請求項4】 柱主筋の頭部と、互いに直交して水平に延びる梁主筋とが、仕口に配筋される鉄筋コンクリート建造物の柱頭仕口構造において、 上記異なる方向に延びる梁主筋の各々が、上下水平面に配筋される上側の複数の梁主筋と下側の複数の梁主筋を含み、 さらに、上記異なる方向に延びる梁主筋の各々に対し、その長手方向に間隔をおいて配筋される複数の補強筋を備え、各補強筋は、ほぼコ字形の鉄筋からなり、上側梁主筋とほぼ直交してこの上側梁主筋の上に配される直線状の水平補強部と、この水平補強部の両端から下方に延びる一対の脚部を有し、 上記補強筋の脚部の下端が上側梁主筋と下側梁主筋との間に位置するとともに、上記補強筋の脚部と上記柱主筋の頭部が、垂直方向の重ね代をもって重なり、 各補強筋の水平補強部は、対応する上側梁主筋の全てに掛け渡され、しかも異なる延び方向の梁主筋に対応した補強筋の水平補強部同士が、上から見た時に互いに交差し、 各上側梁主筋に対応する複数の補強筋のうち両端に位置する補強筋が、異なる延び方向の複数の上側梁主筋のうち両端に位置する上側梁主筋の外側にそれぞれ配置され、これにより、各隅の柱主筋の近傍では、上記端に位置するとともに互いに交差する2本の上側梁主筋の外側において、上記端に位置する2本の補強筋の水平部が互いに交差するとともに、これら2本の補強筋の脚部が配置されていることを特徴とする鉄筋コンクリート建造物の柱頭仕口構造。」(以下,「本件訂正発明」という。)に訂正する。 2 訂正の目的の適否,特許請求の範囲の拡張,変更及び新規事項の追加の有無の存否 (1)まず,「上記補強筋の脚部の下端が上側梁主筋と下側梁主筋との間に位置するとともに、」を追加する訂正について検討するに,該訂正は,「補強筋の脚部」の下端の位置を限定するのものであって,特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。 しかし,本件特許明細書には,上記訂正の「補強筋の脚部の下端が上側梁主筋と下側梁主筋との間に位置する」に対応する記載,あるいは,それを直接に示唆する記載は見当たらない。 たしかに,本件訂正発明に対応する第2実施形態に関連する記載としては,本件特許明細書の段落【0027】には「次に、本発明の第2実施形態について説明する。この実施形態において、第1実施形態に対応する構成部には同番号を付してその詳細な説明を省略する。この実施形態では、補強筋31がネジ鉄筋からなり、その脚部31bの下端近傍にナット35(定着部,定着金物)が螺合されている。ナット35は定着金物17より下方に位置しており、ナット35と定着金物17との間にコンクリート30を介しての力の伝達経路を確保することができ、梁主筋21と柱主筋11との連結強度を高めることができる。本実施形態では、ナット35による連結強度の向上を勘案して脚部31bを第1実施形態より短くしているが、第1実施形態と同程度の長さにしてもよい。」と記載されており,また,図5には,「補強筋31,31′の脚部31b,31b′の下端が上側梁主筋と下側梁主筋とのほぼ中間に位置する」実施形態が記載されているといえる。 また,上記「・・・・・第1実施形態と同程度の長さにしてもよい。」との記載からみて,第1実施形態に関する段落【0018】の記載「上記補強筋31の脚部31bは、柱頭仕口100において下方に延び、その長さは、上記水平面P1,P2間の間隙(水平面P1’,P2’間の間隙)の大部分を占めている。その結果、図2,図3に示すように、脚部31bの下端は柱10の主筋11の上端より下方に位置することになり、主筋11の頭部と補強筋31の脚部31bは、柱頭仕口100において垂直方向の重ね代Lをもって重なり合っている。換言すれば、主筋11の上端に対して脚部31bの下端が、寸法L分だけ下方に位置している。」および図2の記載を参酌すれば,第2実施形態として,「補強筋の脚部」の下端が下側梁主筋の若干上に位置する実施形態も記載されているといえる。 そうすると,本件特許明細書には,第2実施形態における「補強筋の脚部」の下端の位置としては,「上側梁主筋と下側梁主筋とのほぼ中間」および「下側梁主筋の若干上」が記載されているのみであるといわざるを得ない。 一方,本件訂正発明においては,「上記補強筋の脚部の下端が上側梁主筋と下側梁主筋との間に位置する」と特定され,また,「上記補強筋の脚部と上記柱主筋の頭部が、垂直方向の重ね代をもって重なり」と特定されているものの,「柱主筋の頭部」の位置が何ら特定されていないのであるから,本件訂正発明の「補強筋の脚部」の下端位置は,上側梁主筋と下側梁主筋との間の広い範囲において選択し得るといえる。すなわち,本件特許明細書に記載されている,「上側梁主筋と下側梁主筋とのほぼ中間」および「下側梁主筋の若干上」の位置のみではなく,本件特許明細書に記載されておらず示唆もされていない,また自明の事項でもない,広い範囲の位置を含んでいるといえる。 してみると,上記「補強筋の脚部の下端が上側梁主筋と下側梁主筋との間に位置する」を追加する訂正は,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされているものではないというべきである。 また,本件特許明細書の段落【0027】の記載「本実施形態では、ナット35による連結強度の向上を勘案して脚部31bを第1実施形態より短くしている・・・・・」からみて,第2実施形態は,補強筋31,31′の脚部31b,31b′の下端近傍にナット35,35′(定着部、定着金物)が螺合されているが故に、該脚部31b,31b′が第1実施形態より短くなっているものといえる。また,同段落【0027】には「・・・・・第1実施形態と同程度の長さにしてもよい。」と記載されているが,該記載は,補強筋の脚部を第1実施形態と同程度の長さにした場合に,ナット35,35′(定着部、定着金物)を省略すること迄を記載している,あるいは示唆しているとはいえず,また,該省略することが自明な事項であるともいえない。 そうすると,第2実施形態としては,補強筋の脚部の下端近傍にナット(定着部、定着金物)が螺合されているもののみが記載されているのに対し,本件訂正発明においては,「ナット(定着部、定着金物)が螺合され」ることが限定されていないのであるから,本件訂正発明が本件特許明細書に記載された第2実施形態以外の実施形態,すなわち,「ナット(定着部、定着金物)が螺合されて」いない実施形態を含むことは明らかである。 してみると,補強筋の脚部の下端近傍にナット35,35′(定着部,定着金物)が螺合されているとの限定を伴なわずに,「補強筋の脚部の下端が上側梁主筋と下側梁主筋との間に位置する」を追加する訂正は,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされているものではないというべきである。 (2)つぎに,「各上側梁主筋に対応する複数の補強筋のうち両端に位置する補強筋が、異なる延び方向の複数の上側梁主筋のうち両端に位置する上側梁主筋の外側にそれぞれ配置され、これにより、各隅の柱主筋の近傍では、上記端に位置するとともに互いに交差する2本の上側梁主筋の外側において、上記端に位置する2本の補強筋の水平部が互いに交差するとともに、これら2本の補強筋の脚部が配置されている」を追加する訂正は,「複数の補強筋」を限定するものであって,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 しかし,上記訂正に関連する記載としては,本件特許明細書の段落【0028】には「本実施形態の柱頭仕口100には、梁20A,20Bに対応する補強筋31に加えて、梁20Cに対応する他の補強筋31’が配筋されている。この補強筋31’も、補強筋31とほぼ同一形状,寸法を有し、梁20Cの主筋23と直交してこの主筋23の上に配筋された水平補強部31a’と、この水平補強部31a’の両端から下方に延びる一対の脚部31b’を有している。」とあり,また,同段落【0029】には「上記補強筋31’の水平補強部31a’は、補強筋31の水平補強部31aと番線等によって連結されているが、梁主筋23に載せて梁主筋23に番線等で連結してもよい。この補強筋31’の脚部31b’の下端近傍にもナット35’が螺合されている。」とあるのみであって,「各隅の柱主筋の近傍では、上記端に位置するとともに互いに交差する2本の上側梁主筋の外側において、上記端に位置する2本の補強筋の水平部が互いに交差すると共に、これら2本の補強筋の脚部が配置されている」に対応する記載,あるいは,それを直接に示唆する記載は見当たらない。 そして,図4には,上記訂正の内の「各上側梁主筋に対応する複数の補強筋のうち両端に位置する補強筋が、異なる延び方向の複数の上側梁主筋のうち両端に位置する上側梁主筋の外側にそれぞれ配置され、これにより、上記端に位置するとともに互いに交差する2本の上側梁主筋の外側において、上記端に位置する2本の補強筋の水平部が互いに交差する」ことが記載されているといえるものの,図5には,「各隅の柱主筋」の上端が「上側梁主筋」の高さ位置に達しない実施形態が記載されているのみである。なお,第1実施形態についての記載としては,本件特許明細書の段落【0016】には,「柱10の主筋11の上端は、柱頭仕口100の上下水平面P1,P2間および上下水平面P1’,P2’間に位置しており、上側の水平面P1,P1’の近傍に位置している。・・・・・」と記載されているが,上記判断に影響するものではない。 一方,上記訂正の内の「各隅の柱主筋の近傍では,・・・・・上記端に位置する2本の補強筋の水平部が互いに交差する」との特定により,本件訂正発明は,「各隅の柱主筋」の上端が「両端に位置する上側梁主筋」の高さ位置に達する実施形態を含むことは明らかであり,該実施形態は,図5に記載されておらず示唆もされていないし,また,自明の事項ともいえない。 してみると、上記訂正の内の「各隅の柱主筋の近傍では、・・・・・上記端に位置する2本の補強筋の水平部が互いに交差する」を追加する訂正は,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされているものではないというべきである。 3 むすび 以上のとおり,本件訂正は,本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものではないから,本件訂正請求は,特許法134条の2第5項の規定で読み替えて準用する同法126条3項の規定に適合せず,本件訂正請求は認められない。 第3 当事者の主張 1 請求人の主張 請求人は,審判請求書によれば,本件請求項4に係る発明の特許を無効とする理由として概ね次のように主張し,甲第1号証?甲第4号証を提出している。 (無効理由) 請求項4に係る発明は,甲第1号証,甲第2号証および甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。 よって,その特許は特許法123条1項2号に該当し,無効とすべきである。 甲第1号証:鉄筋コンクリート造配筋指針・同解説,編集 社団法人日本建 築学会1998年4月1日 第17刷,第122頁?第124 頁,第166?175頁 甲第2号証:建築構造設計指針 2001,発行 社団法人東京都建築士事 務所協会 改訂6版,2002年3月10日,第850頁 甲第3号証:鉄筋コンクリート構造 計算規準・同解説-許容応力度設計法 -1999,編集 社団法人日本建築学会 第7版第1冊,1 999年11月1日,第189?192頁,第197頁,第3 71頁,第376頁 甲第4号証:建築工事標準仕様書・同解説 JASS5 鉄筋コンクリート 工事 1997,第287?289頁,第293頁 2 被請求人の主張 被請求人は,平成20年2月12日に訂正請求書を提出し,答弁書によれば,請求項4に係る発明は,甲第1?3号証のいずれにも記載されていない構成要件を備えており,これら甲第1?3号証では奏し得ない効果を得られるものであるから,当業者が容易に発明できるものではなく,無効とされるものではない旨主張している。なお,甲第2号証については,本件出願日前に頒布されたか否かは不知であるとしている。 第4 甲号各証の記載内容 1 甲第1号証 本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には,「鉄筋コンクリート造配筋」について図面とともに,以下の事項が記載されている。 (甲1-イ) 「(1)柱頭(最上階)の配筋 」(167頁の右上) (甲1-ロ) 「(c)は,柱筋をはり底で止め,上方からかご鉄筋をかぶせて重ね継手として配筋する方法である。この場合,4隅の柱筋の継手部分は出隅となるので180°フックを付ける。」(170頁7?8行) (甲1-ハ) 「備考図9.7の左側はa.(1)の(a)図の納まりであり,右側は同じく(c)図の納まりである。」(173頁の下から3行目) (甲1-ニ) 「 」(175頁) 2 甲第1号証-1 甲第1号証-1は,柱頭(最上階)の配筋を図説している甲第1号証の167頁右上の図面を拡大し,その上で,当該図面において,本件発明の構成要件である「補強筋の水平補強部」,「補強筋」,「上側梁主筋」,「柱主筋の頭部」,「垂直方向の重ね代」,「補強筋の脚部」,「柱主筋」,「下側梁主筋」に該当する部分を図示したものである。ただし,甲第1号証-1中,甲第1号証の167頁右上の図面に存在していない文字は,請求人が書き加えたものである。 (甲1-1-イ) 「 」 上記記載事項(甲1-イ)?(甲1-ニ)および(甲1-1-イ)ならびに技術常識を総合すれば,甲第1号証には,以下の発明が記載されていると認められる。 「柱頭(最上階)の配筋において,柱筋の頭部をはり底で止め,上方からかご鉄筋をかぶせて重ね継手として配筋する構造において,水平方向に延びるはり筋が、上下水平面に配筋される上側の複数のはり筋と下側の複数のはり筋を含み, 上記かご鉄筋は,2本のほぼコ字形の鉄筋と4本のほぼコ字形の鉄筋を交差させてなり,これらほぼコ字形の鉄筋の脚部が大きく下方に延びて全て(12本)の柱筋に沿うように配置されている鉄筋コンクリート建造物の柱頭(最上階)の配筋構造。」(以下,「甲1発明」という。) 3 甲第2号証 甲第2号証は,鉄筋コンクリート構造配筋標準図に関するものであって,850頁右上には鉄筋コンクリート構造配筋に採用される補強筋の一例が図示されている。 4 甲第2号証-1 甲第2号証-1は,甲第2号証の第850頁右上の図面を拡大し,その上で,当該図面において,本件特許の構成要件である「補強筋の水平補強部」,「補強筋」,「補強筋の脚部」に該当する部分を図示したものである。ただし,甲第2号証-1中,甲第2号証の第850頁右上の図面に存在していない文字は,請求人が書き加えたものである。 5 甲第3号証 本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には,機械式定着について図面とともに,以下の事項が記載されている。 (甲3-イ) 「現在,かなりの機械式定着に関する研究が蓄積されている.これらの研究はいずれも鉄筋端に定着板などの支圧によって応力を伝達する金物,突起(定着具と称する)を設けており・・・・・」(197頁6?7行) (甲3-ロ) 「2)梁主筋の柱への定着,柱主筋の梁への定着にあっては,投影定着長さは仕口部材断面全せいの0.75倍以上を基本とし,接合部パネルゾーン側へ折り曲げることを基本とする.」(190頁22?23行) (甲3-ハ) 「13.柱主筋の定着 ・最上階柱筋端は梁上端筋を超える位置で折曲げ定着,機械式定着するのが望ましい. ・定着用のスタブを設ける方法や四隅以外の柱筋を直線定着として,かご鉄筋をかぶせて重ね継手とする方法もある.」(376頁3?9行) 第5 当審の判断 1 本件発明 本件訂正は認められないから,本件特許の請求項4に係る発明(以下,「本件発明」という。)は,本件特許明細書の記載および図面からみて,その特許請求の範囲請求項4に記載された事項により特定された次のとおりのものである。 「柱主筋の頭部と、互いに直交して水平に延びる梁主筋とが、仕口に配筋される鉄筋コンクリート建造物の柱頭仕口構造において、 上記異なる方向に延びる梁主筋の各々が、上下水平面に配筋される上側の複数の梁主筋と下側の複数の梁主筋を含み、 さらに、上記異なる方向に延びる梁主筋の各々に対し、その長手方向に間隔をおいて配筋される複数の補強筋を備え、各補強筋は、ほぼコ字形の鉄筋からなり、上側梁主筋とほぼ直交してこの上側梁主筋の上に配される直線状の水平補強部と、この水平補強部の両端から下方に延びる一対の脚部を有し、上記補強筋の脚部と上記柱主筋の頭部が、垂直方向の重ね代をもって重なり、 各補強筋の水平補強部は、対応する上側梁主筋の全てに掛け渡され、しかも異なる延び方向の梁主筋に対応した補強筋の水平補強部同士が、上から見た時に互いに交差していることを特徴とする鉄筋コンクリート建造物の柱頭仕口構造。」 2 対比 本件発明と甲1発明とを対比すると,甲1発明の「柱筋」は,本件発明の「柱主筋」に相当し,以下,同様に,「はり筋」は「梁主筋」に,「かご鉄筋」は「梁主筋に対し、その長手方向に間隔をおいて配筋される複数の補強筋」に,「鉄筋コンクリート建造物の柱頭(最上階)の配筋構造」は「鉄筋コンクリート建造物の柱頭仕口構造」に,それぞれ相当するといえる。 また,そもそも,本件発明のような「鉄筋コンクリート建造物の柱頭仕口構造」において,「梁主筋」が互いに直交して水平に延びる構成とすることは,技術常識であり,甲1発明の「はり筋」には,本件発明の「梁主筋」と同様の「互いに直交して水平に延びる」ものを含むといえる。なお,上記記載事項(甲1-ニ)によれば,甲第1号証の備考図9.7には,X軸とY軸方向に延びる「梁主筋」が示されており,本件発明と同様の「柱主筋の頭部と、互いに直交して水平に延びる梁主筋とが、仕口に配筋される鉄筋コンクリート建造物の柱頭仕口構造」であることは,明らかである。 そして,甲1発明において,その「はり筋」が互いに直交して水平に延びているとすると,その上に「かご鉄筋」をかぶせた場合には,該「かご鉄筋」の各コ字形の鉄筋は,その水平部が対応する上側はり筋の全てに掛け渡され,異なる延び方向のはり筋に対応した水平部同士が,上から見た時に互いに交差することとなるといえる。してみると,甲1発明の「上方からかご鉄筋をかぶせて重ね継手として配筋する・・・・・上記かご鉄筋は、2本のほぼコ字形の鉄筋と4本のほぼコ字形の鉄筋を交差させてなり、これらほぼコ字形の鉄筋の脚部が大きく下方に延びて全て(12本)の柱筋に沿うように配置され」は,本件発明の「異なる方向に延びる梁主筋の各々に対し、その長手方向に間隔をおいて配筋される複数の補強筋を備え、各補強筋は、ほぼコ字形の鉄筋からなり、上側梁主筋とほぼ直交してこの上側梁主筋の上に配される直線状の水平補強部と、この水平補強部の両端から下方に延びる一対の脚部を有し、上記補強筋の脚部と上記柱主筋の頭部が、垂直方向の重ね代をもって重なり,各補強筋の水平補強部は、対応する上側梁主筋の全てに掛け渡され、しかも異なる延び方向の梁主筋に対応した補強筋の水平補強部同士が、上から見た時に互いに交差している」との構成と同一の構成を含むこととなるといえる。 してみると,両者は, (一致点) 「互いに直交して水平に延びる梁主筋が、仕口に配筋される鉄筋コンクリート建造物の柱頭仕口構造において、 上記異なる方向に延びる梁主筋の各々が、上下水平面に配筋される上側の複数の梁主筋と下側の複数の梁主筋を含み、 さらに、上記異なる方向に延びる梁主筋の各々に対し、その長手方向に間隔をおいて配筋される複数の補強筋を備え、各補強筋は、ほぼコ字形の鉄筋からなり、上側梁主筋とほぼ直交してこの上側梁主筋の上に配される直線状の水平補強部と、この水平補強部の両端から下方に延びる一対の脚部を有し、上記補強筋の脚部と上記柱主筋の頭部が、垂直方向の重ね代をもって重なり、 各補強筋の水平補強部は、対応する上側梁主筋の全てに掛け渡され、しかも異なる延び方向の梁主筋に対応した補強筋の水平補強部同士が、上から見た時に互いに交差している鉄筋コンクリート建造物の柱頭仕口構造。」 の点で一致し,以下の各点で相違する。 (相違点) 本件発明では,「柱主筋の頭部が、・・・・・仕口に配筋される」のに対し,甲1発明では,「柱筋の頭部をはり底で止め」ている点。 3 相違点について 本件発明の「柱主筋の頭部が、・・・・・仕口に配筋される」とは,「柱主筋の頭部」が「下側の梁主筋」の近くに位置するのではなく,それよりも上方に延ばされていると解することができる。 一方,甲1発明のように「柱筋の頭部をはり底で止め」るのではなく,それよりも上方に延ばし,仕口上部,すなわち,上側のはり筋近くに達する構成とすることも,例えば,実願昭55-99293号(実開昭57-27015号)のマイクロフィルムの第1,2図,特開平4-68149号公報の第1図,特許第2671785号公報の図1(d)および図2(c)あるいは特開平 11-217872号公報の図5等に記載されているように,本件特許の出願前において周知の技術的事項であるといえる。なお,上記記載事項(甲1-ニ)において示されている甲第1号証の備考図9.7の態様も,「柱筋の頭部」が上側の「梁主筋」より上方に延びているものであるといえる。 してみると,甲1発明において,上記周知の技術的事項を適用して,相違点における本件発明の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得ることであるというべきである。 そして,本件特許明細書に記載された本件発明の効果である「交差する他の梁に対応して補強筋を追加するので、より一層柱頭仕口強度を高めることができる」も,甲第1号証の記載および上記周知の技術的事項から容易に予測し得る範囲のものであり,格別顕著なものとはいえない。 4 まとめ 以上のことから,本件発明は,甲1発明および周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである 第6 むすび 以上のとおり,本件請求項4に係る発明は,甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件請求項4に係る発明の特許は,特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり,特許法123条1項2号により,無効とすべきである。 審判に関する費用については,特許法169条2項の規定において準用する民事訴訟法61条の規定により被請求人が負担すべきものとする。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-07-14 |
結審通知日 | 2008-07-18 |
審決日 | 2008-07-29 |
出願番号 | 特願2001-305041(P2001-305041) |
審決分類 |
P
1
123・
841-
ZB
(E04C)
P 1 123・ 121- ZB (E04C) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 木村 史郎 |
特許庁審判長 |
山口 由木 |
特許庁審判官 |
岡田 孝博 伊波 猛 |
登録日 | 2006-09-15 |
登録番号 | 特許第3853627号(P3853627) |
発明の名称 | 鉄筋コンクリート建造物の柱頭仕口構造 |
代理人 | 鈴木 正次 |
代理人 | 原田 三十義 |
代理人 | 渡辺 昇 |
代理人 | 山本 典弘 |
代理人 | 涌井 謙一 |
代理人 | 鈴木 一永 |