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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J |
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管理番号 | 1184114 |
審判番号 | 不服2005-24707 |
総通号数 | 106 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-10-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-12-22 |
確定日 | 2008-09-11 |
事件の表示 | 平成 8年特許願第275953号「インク残量検出装置」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 5月12日出願公開、特開平10-119301〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
I.手続の経緯 本願は、平成8年10月18日の出願であって、平成17年10月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月22日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに、平成18年1月19日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。 II.平成18年1月19日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成18年1月19日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.補正の内容 平成18年1月19日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲を次のように補正することを含むものである。 <補正前> 「【請求項1】 印字装置に付設され、印字ヘッドに対してインクを供給するインクカートリッジ内のインクの有無を検出するインク残量検出装置において、 前記インクタンク内に配設され、インクタンク内に存在するインク残量に応じて変化する抵抗値を有する抵抗体を含んで構成されたマルチバイブレータ回路を有し、入力信号を受けてインク残量に応じたパルス幅のパルスを出力するパルス発生手段と、 前記パルス発生手段に対して検出動作を行うための入力信号を与えると共に、前記入力信号に対応して前記パルス発生手段より出力されるパルスを受け、そのパルスのパルス幅に基づいてインクカートリッジ内のインクの有無を検出する検出手段とを備え、 前記検出手段は、前記パルス発生手段により出力されたパルスのパルス幅をタイマー計測する計測手段と、この計測手段によって計測された計測値を規定値と比較する比較手段と、 を備えたことを特徴とするインク残量検出装置。 【請求項2】 前記パルス発生手段は、前記インクタンク内に配設され、インクタンク内に存在するインクとの協働により前記抵抗体を構成する一対の電極と、コンデンサ及びロジックICとからなることを特徴とする請求項1に記載のインク残量検出装置。 【請求項3】 印字装置に付設され、印字ヘッドに対してインクを供給するインクタンク内のインクの有無を検出するインク残量検出装置において、 前記インクタンク内に配設され、インクタンク内に存在するインク残量に応じて変化する静電容量を有するコンデンサを含んで構成されたマルチバイブレータ回路を有し、入力信号を受けてインク残量に応じたパルス幅のパルスを出力するパルス発生手段と、 前記パルス発生手段に対して検出動作を行うための入力信号を与えると共に、前記入力信号に対応して前記パルス発生手段より出力されるパルスを受け、そのパルスのパルス幅に基づいてインクカートリッジ内のインクの有無を検出する検出手段とを備え、 前記検出手段は、前記パルス発生手段により出力されたパルスのパルス幅をタイマー計測する計測手段と、この計測手段によって計測された計測値を規定値と比較する比較手段と、 を備えたことを特徴とするインク残量検出装置。 【請求項4】 前記パルス発生手段は、前記インクタンク内に配設され、インクタンク内に存在するインクとの協働により前記コンデンサを構成する一対の電極と、抵抗体及びロジックICとからなることを特徴とする請求項3に記載のインク残量検出装置。」 <補正後> 「【請求項1】 印字装置に付設され、印字ヘッドに対してインクを供給するインクカートリッジ内のインクの有無を検出するインク残量検出装置において、 前記インクタンク内に配設され、インクタンク内に存在するインク残量に応じて変化する抵抗値を有する抵抗体を含んで構成されたマルチバイブレータ回路を有し、入力信号を受けてインク残量に応じたパルス幅を有する単一のパルスを出力するパルス発生手段と、 前記パルス発生手段に対して検出動作を行うための入力信号を与えると共に、前記入力信号に対応して前記パルス発生手段より出力されるパルスを受け、そのパルスのパルス幅に基づいてインクカートリッジ内のインクの有無を検出する検出手段とを備え、 前記検出手段は、前記パルス発生手段により出力されたパルスそのもののパルス幅をタイマー計測する計測手段と、この計測手段によって計測された計測値を規定値と比較する比較手段と、 を備えたことを特徴とするインク残量検出装置。 【請求項2】 前記パルス発生手段は、前記インクタンク内に配設され、インクタンク内に存在するインクとの協働により前記抵抗体を構成する一対の電極と、コンデンサ及びロジックICとからなることを特徴とする請求項1に記載のインク残量検出装置。 【請求項3】 印字装置に付設され、印字ヘッドに対してインクを供給するインクタンク内のインクの有無を検出するインク残量検出装置において、 前記インクタンク内に配設され、インクタンク内に存在するインク残量に応じて変化する静電容量を有するコンデンサを含んで構成されたマルチバイブレータ回路を有し、入力信号を受けてインク残量に応じたパルス幅を有する単一のパルスを出力するパルス発生手段と、 前記パルス発生手段に対して検出動作を行うための入力信号を与えると共に、前記入力信号に対応して前記パルス発生手段より出力されるパルスを受け、そのパルスのパルス幅に基づいてインクカートリッジ内のインクの有無を検出する検出手段とを備え、 前記検出手段は、前記パルス発生手段により出力されたパルスそのもののパルス幅をタイマー計測する計測手段と、この計測手段によって計測された計測値を規定値と比較する比較手段と、 を備えたことを特徴とするインク残量検出装置。 【請求項4】 前記パルス発生手段は、前記インクタンク内に配設され、インクタンク内に存在するインクとの協働により前記コンデンサを構成する一対の電極と、抵抗体及びロジックICとからなることを特徴とする請求項3に記載のインク残量検出装置。」 2.本件補正の補正目的について 本件補正は、以下の補正事項A,Bを含んでいる。 A.補正前の請求項1、3の発明を特定するために必要な事項である「パルス発生手段」が、入力信号を受けて出力する「パルス」について、「インク残量に応じたパルス幅のパルス」を「インク残量に応じたパルス幅を有する単一のパルス」と補正する。 B.補正前の請求項1、3の発明を特定するために必要な事項である「計測手段」がタイマー計測する対象を「パルスのパルス幅」から、「パルスそのもののパルス幅」と補正する。 補正事項Aについて 「パルス発生手段」は「マルチバイブレータ回路」を有しているから、上記「パルス」がこの「マルチバイブレータ回路」から出力されることは明らかである。 「マルチバイブレータ」には、双安定マルチバイブレータ、単安定マルチバイブレータ、非安定マルチバイブレータの3種類があり、請求項に記載の「マルチバイブレータ」がいずれのものなのか一義的に決まらないので、本願明細書を参照するに、本願の図4、図7に「マルチバイブレータ回路」が「74HC221」を含んだものとして示されており、当該「74HC221」は単安定マルチバイブレータとして周知のICである。 ところでこのICはCLR端子を有しており、このCLR端子にハイレベルの信号が与えられていればパルスが出力可能であり、ローレベルの信号が与えられるとICの動作をリセットしパルスが出力されない。 そうすると、補正事項Aは、補正前の請求項1、3の発明を特定するために必要な事項である「パルス発生手段」について、入力信号を受けて出力されるパルスの数を1つにするために、1つの入力信号に基づいて発生するパルスが出力される期間ではマルチバイブレータ回路のCLR端子にハイレベルの信号を与え、他の入力信号に基づいて発生するパルスが出力される期間ではマルチバイブレータ回路のCLR端子にローレベルの信号を与えることを特定するものと解される。 他方、双安定マルチバイブレータは、入力信号が入る毎に、出力状態を反転させるもので、そもそも入力信号を受けてパルスを出力するものではないし、非安定マルチバイブレータは、連続した一定周期のパルスを出力するもので、そもそも単一のパルスを出力するものではないから、上記特定は、単安定マルチバイブレータの場合にのみ意味を有する特定である。 したがって、補正事項Aは、マルチバイブレータ回路から、双安定マルチバイブレータと非安定マルチバイブレータを排除したものと解されるから、当該補正事項Aは、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 補正事項Bについて パルスのパルス幅を計測するタイマー計測の一例として、当該パルスのパルス幅の期間中に発生される高周波クロックの数をカウントする計測手段が周知(特開平2-24575号公報(第1頁右下欄、第3,4図等参照。))であるが、この計測手段によるパルス幅の計測では、原理上1クロック分の誤差を含む可能性があるから、「パルスそのもののパルス幅」を計測しているとまではいえない。 そうすると、補正事項Bは、補正前の請求項1、3の発明を特定するために必要な事項である「計測手段」について、上述したような実質的な計測誤差を含む可能性のある計測手段を除外するものと解されるから、当該補正事項Bは、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 3.独立特許要件 本件補正後の請求項1に係る補正は、上記のとおり平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 1)本願補正発明 本願補正発明は、本件補正後の請求項1に記載された発明であり、その記載は「II.[理由]I.」に示してある。 なお、本願補正発明において、「インクカートリッジ」と「インクタンク」という用語が混在しており本願補正発明が不明確となっているが、本願補正発明において、「印字装置に付設され、印字ヘッドに対してインクを供給するインクカートリッジ内のインクの有無を検出するインク残量検出装置において、前記インクタンク内に配設され、インクタンク内に存在するインク残量に応じて」と記載されているように、いずれの用語も技術的にはインクを収容する容器としての意味で用いられており、「インクカートリッジ」と「インクタンク」とは同一視しても差し支えないことが理解されるから、本願補正発明の記載内容を明確にするために用語を統一し、ここでは請求項の「インクカートリッジ」は「インクタンク」と読み替えることとする。 2)引用刊行物 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平3-275360号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 a.「噴射すべき水溶性インクを含浸させたフォームを内蔵するインクタンクと、該インクタンクをキャリッジ上に搭載し、印字指令に応じてインク吐出部からインク滴を噴射する駆動機構を有するオンデマンド型のインクジェット記録装置のインクエンド検出方式において、前記インクタンクに複数の電極と該電極間の電圧制限部を設け、前記電極間に電圧パルスを印加する事により前記インクタンク内部のインピーダンスを検出し、インピーダンスの変化により前記インクタンク内部のインク残量を検出することを特徴とするインクジェット記録装置のインクエンド検出方式。」(特許請求の範囲) b.「第2図において、1はインクタンクであり、インク通路によってインク吐出部3に連通しインクを供給する。インクタンク1、インク通路7、インク吐出部3はキャリッジ2上に配置され、印字指令によって水平方向に移動し、印字を行なう。」(第2頁右上欄第20行?左下欄第4行) c.「第3図において、4はインクを含浸したフォームであり、インクタンク1内に隙間なく充填されている。5a、5bはフォーム4内のインクのインピーダンスを検出するための電極で、フォーム4とインクタンク1の内壁間に密着して配置されている。本実施例において電極5a、5bは、水溶性インクに対する耐腐食性を考慮して、ステンレス鋼を使用した。7はインク通路で、フォーム4に密着したインク供給口6から供給されるインクをインク吐出部3に供給する。」(第2頁左下欄第5行?第14行) d.「第1図は本発明におけるインクエンド検出回路の一実施例である。この回路において、インクエンド検出トリガパルス8が検出パルス生成部9に入力されると、検出パルス生成部9は、ある一定のパルス幅を持った検出パルス10を出力する。検出パルス10はインクエンド検出部11に入力され、遅延ドライブIC1(例えばLS31)を通してトランジスタQ1のon/offを行なう。検出パルス10がhighレベルの間、トランジスタQ1はoff状態になり、電極入力端子12a、12b間に電圧パルスが印加される。電極入力端子12a、12bには前述した電極5a、5bがそれぞれ接続されている。電極入力端子12bは接地されている。トランジスタQ1がoff状態の間、電極入力端子12aにおける電圧Vrは抵抗R1とフォーム4内部の抵抗値Rにより分圧され、ツェナーダイオードDz1を通してトランジスタQ2のベース端子に入力される。」(第2頁左下欄第15行?右下欄第12行) e.「次に第4図に基づき、本実施例の動作を説明する。 インクエンド検出トリガパルス8の立ち上がりエッジによりある一定の期間highレベルとなる検出パルス10が検出パルス生成部9にて生成される。遅延ドライバIC1によりトランジスタQ1のベースには検出パルス10が遅延、反転して印加される。トランジスタQ1がoff状態となり、電極入力端子12aには電極5a、5b間の抵抗値Rと容量成分値C及び抵抗R1により支配される電圧Vrが現われる。インクタンク1内のフォーム4に保持される水溶性インク量が十分であるとき、電極5a、5b間の抵抗値Rは小さく、容量成分値Cは大きいため、電圧Vrはインクエンド状態を示す設定電圧値Vreに対してVr<Vreとなり、検出レベル信号13はhighレベルとなる。この検出パルス信号13はサンプリングパルス15の立ち下がりでIC2がラッチされ、インクエンド信号16は非インクエンド状態を示すhighレベルとなる。 印字等によってフォーム4に保持されている水溶性インクが消費されると、電極5a、5b間の抵抗値Rは増大し、容量成分値Cは減少する。その結果電圧Vrの立ち上がり時間は短くなり、Vr≧Vreとなった時点でツェナーダイオードDz1はon状態となり、トランジスタQ2のベース端子に電流が供給されて検出レベル信号13はlowレベルとなる。検出レベル信号13がlowレベルである時間は遅延ドライバIC1によるトランジスタQ1のoff状態の時間に支配されるため、検出レベル信号13はサンプリングパルス15の立ち下がりで確実にラッチされ、インクエンド信号16はインクエンド状態を示すlowレベルとなる。一方電極入力端子12aにあらわれる電圧はツェナー電圧VzとトランジスタQ2のベースエミッタ間on電圧VBEの和であるVreにクランプされ、供給電力が制限される。 以上のようにインクエンド状態を示す電圧Vreを与えるツェナー電圧Vzとベースエミッタ間on電圧VBEを実現するツェナーダイオードDz1とトランジスタQ2、被検出電圧Vrを与える抵抗R1をそれぞれ適当に選択することにより容易にフォーム内のインク残量を電気的に検出することができる。」(第2頁右下欄第13行?第3頁右上欄第16行) f.インクジェット記録装置のインクタンク内部断面図である第3図より、電極5a、5bがインクタンク1の内壁にインクを含浸したフォーム4を挟んで対峙して配置されていること、及びインクジェット記録装置のインクタンク一実施例を示す断面図である第2図より、インク吐出口3及びインクタンク1がキャリッジ上に配置されていることが看取される。 ここで、上記記載fより、インクタンク1は、インクジェット記録装置内に備えられているといえる。 また、上記記載eより、電極5a、5b間の抵抗値Rがインクタンク内のインク量に応じて変化することが理解でき、さらに上記記載dの「電極入力端子12bは接地されている。トランジスタQ1がoff状態の間、電極入力端子12aにおける電圧Vrは抵抗R1とフォーム4内部の抵抗値Rにより分圧され」並びに第1図より、電極入力端子12aにおける電圧Vrは、Vccと接地電圧との間で、抵抗R1と抵抗値Rにより分圧された電圧として発生するから、電圧Vrが抵抗値Rに比例した値であることが理解できる。 また、第1図について説明する上記記載d、eを参考にすると、第1図より、検出パルス生成部9がインクエンド検出部11に検出パルス10を与え、インクエンド信号出力部14がインクエンド検出部11から検出レベル信号13を受けていること、インクエンド信号出力部14が検出レベル信号13に基づいてインクエンド信号16を出力すること、インクエンド検出部11が回路として構成されていることが理解できる。 また上記記載d、及び第1図、第4図によると、上記検出パルス10がhighレベルの間だけ、電極入力端子12a、12b間の電圧Vr信号、検出レベル信号13を発生すること、即ち検出パルス10を受けて、電圧Vr信号、検出レベル信号13が発生することが理解できる。 また、上記記載dより、インクエンド状態を検出するインク残量検出装置が把握される。 上記記載a?fから、刊行物1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている、といえる。 「インク吐出部3にインクを供給するインクタンク1内のインクエンド状態を検出するインク残量検出装置において、 前記インクタンク1は、印字指令に応じて印字を行うインクジェット記録装置内に備えられており、 前記インクタンク1の内壁に、インクを含浸したフォーム4を挟んで該フォーム4と密着して配置される電極5a、5bとを備え、 インクエンド検出部11の電極入力端子12a、12bに前記電極5a、5bがそれぞれ接続された状態で、検出パルス生成部9からの検出パルス10を受けて、「Vcc-抵抗R1-インクタンク内のインク量に応じて変化する電極5a、5b間の抵抗値R-接地」からなる直列回路の抵抗値Rの両端(電極入力端子12a、12b)に該抵抗値Rに比例する電圧Vr信号を発生し、 前記インクエンド検出部11は、前記検出パルス10に対応して、前記電圧Vr信号がインクエンド状態を示す設定電圧値Vreに対してVr<Vreとなったときhighレベルの前記検出レベル信号13を出力し、同じく電圧Vr信号がインクエンド状態を示す設定電圧値Vreに対してVr≧Vreとなったときlowレベルの前記検出レベル信号13を出力する回路を備え、 インクエンド信号出力部14は、highレベルの前記検出レベル信号13を受け、非インクエンド状態を示すhighレベルの前記インクエンド信号16を出力し、lowレベルの前記検出レベル信号13を受け、インクエンド状態を示すlowレベルインクエンド信号16を出力する、 インク残量検出装置。」 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭53-87274号公報(以下「刊行物2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 g.「被測定コンデンサの容量値または被測定抵抗の抵抗値に比例した幅のパルスを発生する単安定マルチバイブレータと、この単安定マルチバイブレータにトリガーパルスを供給するトリガーパルス発振器と、クロックパルスを発生するクロックパルス発振器と、前記単安定マルチバイブレータからの出力パルスと、前記クロックパルス発振器からの出力とのアンドをとるアンド回路と、このアンド回路からの出力をカウントするカウンターと、このカウンターからの出力によつて前記被測定コンデンサ又は抵抗の測定値を測定する手段とからなることを特徴とする測定器。」(特許請求の範囲) h.「単安定マルチバイブレータの出力パルス幅はCR結合回路のC,Rの時定数できまるのである。本発明に係る測定器はこのことを応用したものである。」(第2頁左上欄第17行?第20行) i.「次に動作について述べる。コンデンサの容量を測定する場合は、・・・単安定マルチバイブレータ(1)の出力パルス幅は、C,R1の時定数によつて定まる。従つて、パルス幅を測定することによつてコンデンサの容量や抵抗値を測定することができる。」(第2頁左下欄第5行?第18行) j.「次にカウンター(13)からの出力を分周器(14)で適当に分周して数字表示器(15)に入力して、被測定コンデンサ(8)の容量を表示させる。」(第2頁右下欄第11行?第13行) k.「なお、上記ではコンデンサの容量を測定する場合について説明したが、抵抗値を測定する場合についても同様に行うことができる。」(第2頁右下欄第19行?第3頁第1行) ここで、記載iの「単安定マルチバイブレータの出力パルス幅は、C,R1の時定数によつて定まる。従つて、パルス幅を測定することによつてコンデンサの容量や抵抗値を測定することができる」、記載gの「このカウンターからの出力によつて前記被測定コンデンサ又は抵抗の測定値を測定する」との記載から、記載gの、単安定マルチバイブレータからの出力パルスと、前記クロックパルス発振器からの出力とのアンドをとるアンド回路からの出力をカウントするカウンターのカウント値が、単安定マルチバイブレータの出力パルス幅に対応したカウント値であることが把握される。 さらに、記載j、kから、カウンターからの出力を被測定抵抗の抵抗値に変換する手段が把握されるから、記載gの「測定する手段」が、上記カウンターのカウント値に基づいて被測定抵抗の抵抗値を得ていることが理解できる。 また、第1図から、単安定マルチバイブレータの回路構成が看取できる。 そうすると、上記記載g?kから、刊行物2には、以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている、といえる。 「被測定抵抗の抵抗値に比例したパルス幅のパルスを発生する単安定マルチバイブレータ回路と、この単安定マルチバイブレータ回路にトリガーパルスを供給するトリガーパルス発振器と、クロックパルスを発生するクロックパルス発振器と、前記単安定マルチバイブレータ回路からの出力パルスと、前記クロックパルス発振器からの出力とのアンドをとるアンド回路と、このアンド回路からの出力をカウントするカウンターと、該カウンターから出力される前記出力パルス幅に対応したカウント値に基づいて被測定抵抗の抵抗値を得る手段とからなる測定器。」 3)対比 本願補正発明と引用発明1とを対比する。 イ.引用発明1の「インクタンク1」、「インク」、「印字指令に応じて印字を行うインクジェット記録装置」は、それぞれ本願補正発明の「インクタンク」、「インク」、「印字装置」に相当する。 ハ.引用発明1の「インク吐出部3」が、印字を行うインクジェット記録ヘッドの一構成要素であることは明らかであるから、引用発明1の「インク吐出部3にインクを供給する」ことは、本願補正発明の「印字ヘッドに対してインクを供給する」ことに相当する。 ニ.引用発明1の「インクタンク内のインク量に応じて変化する電極5a、5b間の抵抗値R」は、同じく引用発明1の「前記インクタンク1の内壁に、インクを含浸したフォーム4を挟んで該フォーム4と密着して配置される電極5a、5b」の記載からみて、電極5a、5b間にあるフォーム4に含浸されたインクの量に応じて変化するから、引用発明1の電極5a、5b間に存在するインクは、本願補正発明の「抵抗体」に相当する。 ホ.引用発明1のインクエンド検出部11の「Vcc-抵抗R1-インクタンク内のインク量に応じて変化する電極5a、5b間の抵抗値R-接地」からなる直列回路は、検出パルス10を受けてインク残量に応じた電圧Vr信号を発生するから、引用発明1の、上記インクエンド検出部11の「Vcc-抵抗R1-インクタンク内のインク量に応じて変化する電極5a、5b間の抵抗値R-接地」からなる直列回路は、本願補正発明の「インクタンク内に配設され、インクタンク内に存在するインク残量に応じて変化する抵抗値を有する抵抗体を含んで構成されたマルチバイブレータ回路を有し、入力信号を受けてインク残量に応じたパルス幅を有する単一のパルスを出力するパルス発生手段」と、「インクタンク内に配設され、インクタンク内に存在するインク残量に応じて変化する抵抗値を有する抵抗体を含んで構成された回路を有し、入力信号を受けてインク残量に応じた信号を出力する信号出力手段」である点で共通している。 また、引用発明1のインク残量に応じた電圧Vr信号は、上記検出パルス10を受けて出力されるから、上記検出パルス10は、上記信号出力手段にインク残量の検出動作を行なわせるための信号といえる。 ヘ.引用発明1のインクエンド検出部11の検出パルス10に対応して電圧Vr信号と設定電圧値Vreとの比較結果に基づいて検出レベル信号13を出力する回路と、インクエンド信号出力部14とは、協働してインクの有無を検出する手段を構成しているということができる。 そうすると、この引用発明1の「インクの有無を検出する手段」は、本願補正発明の「パルス発生手段に対して検出動作を行うための入力信号を与えると共に、前記入力信号に対応して前記パルス発生手段より出力されるパルスを受け、そのパルスのパルス幅に基づいてインクカートリッジ内のインクの有無を検出する検出手段とを備え、 前記検出手段は、前記パルス発生手段により出力されたパルスそのもののパルス幅をタイマー計測する計測手段と、この計測手段によって計測された計測値を規定値と比較する比較手段とを備えた」と、「入力信号に対応して前記信号発生手段より出力される信号を受け、その信号に基づいてインクタンク内のインクの有無を検出する検出手段とを備え、 前記検出手段は、前記信号発生手段により出力された信号を規定値と比較する比較手段とを備えた」点で共通している。 よって、本願補正発明と引用発明1とは、 「印字ヘッドに対してインクを供給するインクタンク内のインクの有無を検出するインク残量検出装置において、 前記インクタンク内に配設され、インクタンク内に存在するインク残量に応じて変化する抵抗値を有する抵抗体を含んで構成された回路を有し、入力信号を受けてインク残量に応じた信号を出力する信号発生手段と、 前記信号発生手段に対して検出動作を行うための入力信号を与える手段と、 前記入力信号に対応して前記信号発生手段より出力される信号を受け、その信号に基づいてインクタンク内のインクの有無を検出する検出手段とを備え、 前記検出手段は、前記信号発生手段により出力された信号を規定値と比較する比較手段を備えたインク残量検出装置。」 の点で一致し、以下の各点で相違する。 [相違点1] インクの有無を検出するインク残量検出装置が、本願補正発明では、印字装置に付設されているのに対して、引用発明1では、印字装置に付設されているか否か明らかではない点。 [相違点2] 「インクタンク内に存在するインク残量に応じて変化する抵抗値を有する抵抗体を含んで構成された回路」が、本願補正発明では「マルチバイブレータ回路」であるのに対して、引用発明1では「「Vcc-抵抗R1-インクタンク内のインク量に応じて変化する電極5a、5b間の抵抗値R-接地」からなる直列回路」であり、「マルチバイブレータ回路」ではない点。 [相違点3] 「信号発生手段」が出力し、「検出手段」が受け、規定値との比較対象となり、それに基づいてインクタンク内のインクの有無を検出する「信号」が、本願補正発明では「入力信号を受けて」出力される「インク残量に応じたパルス幅を有する単一のパルス」であるのに対して、引用発明1では入力信号を受けて出力されるインク残量に応じた電圧Vr信号である点。 [相違点4] 「検出手段」が備える「比較手段」が、本願補正発明では「検出手段」が備える「前記パルス発生手段により出力されたパルスそのもののパルス幅をタイマー計測する計測手段」によって「計測された計測値」を規定値と比較するのに対して、引用発明1では上記特定を有しない点。 [相違点5] 「信号発生手段に対して検出動作を行うための入力信号を与える」のが、本願補正発明では「検出手段」であるのに対して、引用発明1ではその点明らかではない点。 4)判断 上記相違点につき検討する。 [相違点1]について 引用発明1が、「入力信号に対応して、インクタンク内のインクの有無を検出する」ものであるところ、刊行物1には、「プリンタを制御するcpuはインクエンド信号を監視するタイミングを自由に設定できる」(第3頁左下欄第7行?第9行)と記載されているから、該刊行物1の記載を参酌して、引用発明1において、印字装置(プリンタ)を制御するcpuによって入力信号(検出パルス10)を出力するタイミングを制御するように構成することは想到容易である。 そしてこの場合、通常前記cpuは印字装置内に備えられているものであることや、インク残量検出装置が有する電極5a、5bが、印字装置内に備えられたインクタンク内に配置されていることを考慮すれば、前記電極5a、5bからの信号や前記cpuからの制御信号を受けるインク残量検出装置を、印字装置に付設させる程度のことは設計事項である。 よって、引用発明1から、上記相違点1に係る本願補正発明の構成を採用することは想到容易である。 [相違点2-5]について 上記引用発明2は、「抵抗体を含んで構成された単安定マルチバイブレータ回路であって、トリガーパルスを受けて前記抵抗体の抵抗値に比例したパルス幅を有するパルスを出力する回路と、 前記単安定マルチバイブレータ回路に対して測定動作を行うためのトリガーパルスを与えるトリガーパルス発振器と、 前記トリガーパルスに対応して前記単安定マルチバイブレータ回路より出力されるパルスを受け、そのパルスのパルス幅に基づいて前記抵抗体の抵抗値を測定する手段とを備え、 当該測定する手段は、前記単安定マルチバイブレータ回路により出力されたパルスのパルス幅を、当該パルスとクロックパルス発振器からの出力とのアンドをとるアンド回路からの出力をカウンターでカウントしたカウント値に基づいて測定する測定器。」といえるから、単安定マルチバイブレータ回路が出力するパルスのパルス幅は、抵抗体(被測定抵抗)の抵抗値に比例した大きさとなっている。 そうすると、引用発明1において、インクタンク内のインクの有無を検出する信号を、抵抗体の抵抗値に比例した電圧Vr信号に代えて、引用発明2の抵抗体の抵抗値に比例したパルスとすべく、引用発明1の「Vcc-抵抗R1-インクタンク内のインク量に応じて変化する電極5a、5b間の抵抗値R-接地」からなる直列回路に代えて、引用発明2の「単安定マルチバイブレータ回路」を採用することは想到容易である。 そしてこの場合、「信号発生手段」が出力し、「検出手段」が受け、規定値との比較対象となり、それに基づいてインクタンク内のインクの有無を検出する信号は、「抵抗体の抵抗値に比例したパルス幅のパルス」となる。 なお、引用発明2の単安定マルチバイブレータ回路を採用した場合、インクタンク内のインクの有無の検出を、単安定マルチバイブレータ回路から出力されるパルスのパルス幅に基づいて行うこととなるから、インクの有無を正しく検出できる程度に正確なパルス幅を取得することが必要とされる。 そうすると、単安定マルチバイブレータ回路が、インクの有無を正しく検出できる程度に正確なパルス幅のパルスを出力することができる場合には、単一のパルスからインクの有無を正しく検出できるが、例えばノイズ等の影響で上記のような正確なパルス幅のパルスを出力できない場合には、単一のパルスからインクの有無を正しく検出できないことから、複数のパルスのパルス幅の平均値を取得することで正確なパルス幅を取得するようにする方法が一般にはよく知られている。 してみれば、単安定マルチバイブレータ回路に、入力信号を受けてインク残量に応じたパルス幅を有する単一のパルスを出力させるか、複数のパルスを出力させるかは、必要に応じて設定される選択的な事項であるから、単安定マルチバイブレータ回路において、「入力信号を受けてインク残量に応じたパルス幅を有する単一のパルス」を出力するように構成することは設計事項である。 さらに、「単安定マルチバイブレータ回路」を採用した場合、比較手段で規定値と比較するのはパルスのパルス幅となるから、このパルス幅を規定値と比較するためには、当然、予めこのパルス幅を取得しておかなければならない。 そして、上記引用発明2の「パルスのパルス幅を、当該パルスとクロックパルス発振器からの出力とのアンドをとるアンド回路からの出力をカウンターでカウントしたカウント値に基づいて測定する」測定手段は、「II.2.「補正事項Bについて」」でも示したように、パルス幅を計測するタイマー計測手段として周知(特開平2-24575号公報(第1頁右下欄、第3,4図等参照。))であるから、引用発明1の「検出手段」が備える「比較手段」が、規定値と比較するパルスのパルス幅を取得するために、タイマー計測する計測手段で計測して取得するように構成する程度のことは設計事項である。 なお、タイマー計測手段でパルスのパルス幅を計測するにあたり、引用発明2のごとくクロック信号をカウントするタイマー計測手段では、1クロック分の誤差を生じる可能性があり、パルスそのもののパルス幅を計測していることにはならないが、インクの有無を検出するためには、計測されたパルス幅と規定値との大小関係が得られればよいのだから、パルスそのもののパルス幅のような正確なパルス幅を必要とするものでないことは明らかであり、パルス幅を計測するにあたり、パルスそのもののパルス幅を計測するか、多少の誤差を含んだパルス幅を計測するかは設計上の微差にすぎない。 また、引用発明1の「検出手段」は、検出動作を行うための入力信号に対応して信号発生手段より出力される信号を受け、その信号に基づいてインクタンク内のインクの有無を検出する検出動作を行うものであって、「単安定マルチバイブレータ回路」を採用し上記信号発生手段より出力される信号をパルスとした場合であっても、「検出動作を行うための入力信号」に対応して前記検出動作が行われることに変わりはない。 そして、前記「検出動作を行うための入力信号」に検出動作を対応させるにあたっては、対応(例えば同期)を簡単に実現すべく、検出動作を行う「検出手段」自身が「検出動作を行うための入力信号を与える」ように構成することは設計事項である。 よって、引用発明1,2及び周知技術に基づいて、相違点2-5に係る本願補正発明の構成を採用することは想到容易である。 したがって、本願補正発明は、引用発明1,2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 [補正却下のむすび] 以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項の規定に違反しているので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 III.本願発明について 1.本願発明 平成18年1月19日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成17年3月22日付け手続補正によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明は次のとおりのものである。 「【請求項1】 印字装置に付設され、印字ヘッドに対してインクを供給するインクカートリッジ内のインクの有無を検出するインク残量検出装置において、 前記インクタンク内に配設され、インクタンク内に存在するインク残量に応じて変化する抵抗値を有する抵抗体を含んで構成されたマルチバイブレータ回路を有し、入力信号を受けてインク残量に応じたパルス幅のパルスを出力するパルス発生手段と、 前記パルス発生手段に対して検出動作を行うための入力信号を与えると共に、前記入力信号に対応して前記パルス発生手段より出力されるパルスを受け、そのパルスのパルス幅に基づいてインクカートリッジ内のインクの有無を検出する検出手段とを備え、 前記検出手段は、前記パルス発生手段により出力されたパルスのパルス幅をタイマー計測する計測手段と、この計測手段によって計測された計測値を規定値と比較する比較手段と、 を備えたことを特徴とするインク残量検出装置。」(以下、「本願発明」という。) 2.刊行物記載の発明 原査定の拒絶の理由において引用された刊行物の記載事項及び刊行物記載の発明は、前記「II.[理由]3.2)」に記載したとおりである。 3.対比・判断 本願発明は、前記「II.」で検討した本願補正発明から、「パルス発生手段」が、入力信号を受けて出力する「パルス」についての限定、及び「計測手段」についての限定を省いたものである。そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「II.3.」に記載したとおり、引用発明1、引用発明2に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明1、引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおり、本件補正は、引用刊行物の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-07-09 |
結審通知日 | 2008-07-15 |
審決日 | 2008-07-28 |
出願番号 | 特願平8-275953 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B41J)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小松 徹三 |
特許庁審判長 |
酒井 進 |
特許庁審判官 |
長島 和子 名取 乾治 |
発明の名称 | インク残量検出装置 |