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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1184115
審判番号 不服2006-175  
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-01-04 
確定日 2008-09-11 
事件の表示 特願2000-314025「内燃機関の排気浄化方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 2月15日出願公開、特開2002- 47956〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成12年10月13日(優先権主張、平成12年5月26日)の出願であって、平成16年10月26日付けで拒絶理由が通知され、平成16年12月24日付けで手続補正がなされるとともに意見書が提出されたが、平成17年11月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年1月4日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、平成18年1月31日付けで明細書を補正する手続補正がなされたものである。


第2.補正却下の決定

〔結 論〕
平成18年1月31日付けの手続補正を却下する。

〔理 由〕
1.本件補正の内容
(1)平成18年1月31日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関しては、本件補正により補正される前の(すなわち、平成16年12月24日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲の下記(b)に示す請求項1?5の記載を、下記(a)に示す請求項1?5と補正するものである。

(a)本件補正後の請求項
「【請求項1】 内燃機関の排気ガスを浄化する内燃機関の排気浄化方法において、
SO_(2)、SO_(3)を酸化させてSO_(3)、SO_(4)を生成することにより硫酸塩生成反応を促進する機能を有する遷移金属元素と生成されたSO_(3)、SO_(4)を固形化させて硫酸塩を生成する塩基性のアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素とを含む硫黄成分固形化剤を用いて、前記内燃機関の燃焼後に硫黄酸化物を生成させる原因となる硫黄成分を、排気通路上に設置されたNO_(x)吸蔵還元型の排気浄化触媒に排気ガスが流入する以前に固形化させることを特徴とする内燃機関の排気浄化方法。
【請求項2】 前記硫黄成分固形化剤を、予め燃料に混合させておくことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化方法。
【請求項3】 前記硫黄成分固形化剤を、燃料とは別に、吸気通路、燃焼室内、又は、排気通路において添加することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化方法。
【請求項4】 前記硫黄成分固形化剤に含まれる塩基性の金属元素が、カリウムの原子番号以上の原子番号を持つアルカリ金属元素であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化方法。
【請求項5】 前記硫黄成分固形化剤に含まれる遷移金属元素が、セリウムCeであることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化方法。」

(b)本件補正前の請求項
「【請求項1】 内燃機関の排気ガスを浄化する内燃機関の排気浄化方法において、
硫黄成分を酸化させる機能を有する遷移金属元素と塩基性のアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素とを含む硫黄成分固形化剤を用いて、前記内燃機関の燃焼後に硫黄酸化物を生成させる原因となる硫黄成分を、排気通路上に設置されたNO_(x)吸蔵還元型の排気浄化触媒に排気ガスが流入する以前に固形化させることを特徴とする内燃機関の排気浄化方法。
【請求項2】 前記硫黄成分固形化剤を、予め燃料に混合させておくことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化方法。
【請求項3】 前記硫黄成分固形化剤を、燃料とは別に、吸気通路、燃焼室内、又は、排気通路において添加することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化方法。
【請求項4】 前記硫黄成分固形化剤に含まれる塩基性の金属元素が、カリウムの原子番号以上の原子番号を持つアルカリ金属元素であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化方法。
【請求項5】 前記硫黄成分固形化剤に含まれる遷移金属元素が、セリウムCeであることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化方法。」

(2)すなわち、本件補正は、
(ア)請求項1に記載された遷移金属元素の機能に関して、本件補正前の「硫黄成分を酸化させる機能」を、本件補正後の「SO_(2)、SO_(3)を酸化させてSO_(3)、SO_(4)を生成することにより硫酸塩生成反応を促進する機能」と限定し、
(イ)同じく請求項1に記載された本件補正前の「塩基性のアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素」を、本件補正後の「生成されたSO_(3)、SO_(4)を固形化させて硫酸塩を生成する塩基性のアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素」と限定するものである。
したがって、請求項1に関する本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項について限定を付加するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(3)そこで、本件補正による補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、単に「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて、以下に検討する。

3.本件補正の適否についての判断
(1)引用文献1
特開2000-27712号公報(平成12年1月25日公開)(以下、「引用文献1」という。)

(2)引用文献1の記載内容
引用文献1には、次の事項が図面とともに記載されている。(なお、下線は理解の一助のために当審で付加した。)
(a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 燃料で作動せしめられる自動車の内燃機関の排気ガス中のSO_(2)又はSO_(3)を中和する方法であって、排気ガス中に固体の形で存在しかつ燃料の燃焼の際安定な硫酸塩を形成しかつ燃料中で溶解可能な1つ又は複数の金属化合物を含む少なくとも1つの添加剤を燃料に添加するものにおいて、無機化合物及び有機金属化合物から成る群から成る1つ又は複数の金属化合物を含む添加剤を使用し、酸化性雰囲気中で燃料の燃焼を行うことを特徴とする、排気ガス中のSO_(2)又はSO_(3)を中和する方法。
【請求項2】 金属化合物が無機又は有機酸の塩であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】 金属化合物として無機又は有機金属錯化物を使用することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】 二価金属を持つ金属化合物を使用することを特徴とする、請求項1?3の1つに記載の方法。
【請求項5】 金属化合物に含まれる金属をBa,Mg,Ca,Sr,Mo,Cd,Pb,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni及びZnから成る群から選ぶことを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】 生じる硫酸塩を粒子フイルタ中で捕捉することを特徴とする、請求項1?5の1つに記載の方法。
【請求項7】 粒子フイルタをフイルタカートリツジの形で使用することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】 粒子フイルタを自動車の排気系に設けることを特徴とする、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項9】 粒子フイルタを最終消音器に設けることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項10】 NO_(x)貯蔵触媒を持つ乗用車及び商用車両のガソリン機関及びデイーゼル機関に使用することを特徴とする、請求項1?9の1つに記載の方法。」(【特許請求の範囲】)

(b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、排気ガス中に固体の形で存在しかつ燃料の燃焼の際安定な硫酸塩を形成しかつ燃料中で溶解可能な1つ又は複数の金属化合物を含む少なくとも1つの添加剤を燃料に添加する、燃料で作動せしめられる自動車の内燃機関の排気ガス中のSO_(2)又はSO_(3)を中和する方法に関する。
【0002】内燃機関の排気ガスは、常にSO_(2)又はSO_(3)の形で硫黄を含んでいる。それにより望ましくない硫酸の排気ガスが形成される可能性がある。更にこれらの硫黄化合物は、ガソリン機関及びデイーゼル機関の触媒による排気ガス浄化の際有害に作用する。従って排気ガスからのこれらの硫黄酸化物の除去が望ましい。
【0003】内燃機関特に希薄混合気機関及びガソリン機関における窒素酸化物の除去のため可能な代案とみなされていわゆるNO_(x)貯蔵触媒に関連して、特別な問題が生じる。即ちNO_(x)貯蔵触媒は、大体において酸化アルミニウムに混合されるバリウム化合物又はストロンチウム化合物から成っている。しかしこの触媒及び使用されるNO_(x)用貯蔵材料の動作態様から、排気ガス中の硫黄に伴う問題が認められる。これは次の考察からわかる。
【0004】λ値は、周知のように内燃機関の燃焼空間へ導入される空気又は酸素の量と完全燃焼のため理論的に必要な空気又は酸素の量との比の尺度である。内燃機関では、λ値は全酸素量とシリンダ内で空気?燃料混合気の完全燃焼に必要な酸素量との比を示す。三元触媒により排気ガスを浄化される内燃機関は、最適な排気ガス浄化を可能にするため、1のλ値で、またNO_(x)貯蔵触媒はを使用する場合1より大きいか又は1に等しいλ値で作動せしめられねばならない。しかし大きい空気/燃料比即ち酸化性雰囲気(λ≧1)では、NO_(x)貯蔵触媒中で2つの反応が互いに競合する。
1.窒素酸化物NO_(x)は所望の吸収反応で炭酸バリウムと反応して硝酸バリウムになる。
BaCO_(3)+2NO_(2)+1/2O_(2)→Ba(NO_(3))_(2)+CO_(2)(λ≧1)
2.硫黄は三酸化硫黄として炭酸バリウムと反応して硫酸バリウムになる。
BaCO_(3)+SO_(3)→BaSO_(4)+CO_(2) (λ≧1)
それにより窒素酸化物の吸収ポテンシヤルは失われ、触媒が作用を失う。
【0005】しかし三酸化硫黄が排気ガス中に存在すると、非常に安定な硫酸バリウムになる反応が有利に進行する。硫黄の燃焼の際燃料及び油からまず二酸化硫黄のみが生じるが、ここで必要な空気/燃料比(λ≧1)では、二酸化硫黄が酸化されて三酸化硫黄になり、この反応は内燃機関の温度上昇と共に抑制される。しかし乗用車のガソリン機関及び乗用車及び商用車両のデイーゼル機関における観察から、硫酸塩の形成は実際上抑制されないことがわかった。これは、比較的高い温度でも三酸化硫黄が充分形成されることの兆候である。硫黄の主要な量は燃料に由来するので(品質に応じて5?700ppm)、NO_(x)貯蔵触媒の寿命はそれにより限定される。(段落【0001】-【0005】)

(c)「【0006】
【従来の技術】火力発電所及びごみ燃焼設備における燃焼の際、炭酸アルカリ及び炭酸アルカリ土類、酸化アルカリ土類のような硫黄結合物質を供給することは公知である(ドイツ連邦共和国の特許第3306795号明細書、特許出願公開第3234315号明細書、特許第3840212号明細書)。更に二酸化硫黄及び三酸化硫黄の放出を減少するため、このような燃焼の際有機酸の金属塩を供給することも公知である(特開昭50-117805号及び特開昭54-81536号公報)。しかしこれらの手段は内燃機関に転用されない。」(段落【0006】)

(d)「【0007】
【発明の解決しようとする課題】本発明の課題は、内燃機関の排気ガスの確実な脱硫を可能にする、最初にあげた種類の方法を提供することである。」(段落【0007】)

(e)「【0008】
【課題を解決するための手段】この課題を解決するため本発明によれば、無機化合物及び有機金属化合物から成る群から成る1つ又は複数の金属化合物を含む添加剤を使用し、酸化性雰囲気中で燃料の燃焼を行う。
【0009】本発明によれば、二酸化硫黄及び三酸化硫黄は燃焼の際生じる安定な硫酸塩の形で結合され、これらの硫酸塩は固体粒子の形で排気ガスと共に内燃機関から排出される。その際金属硫酸塩粒子は、排気系例えば消音器に沈積するか又は排気管から吹出される。こうして排気ガスの確実な脱硫が行われる。それにより特にNO_(x)貯蔵触媒が作用を失うのを防止される。
【0010】燃料中で溶解可能な金属化合物は、なるべく無機又は有機金属化合物例えば無機又は有機酸の塩及び無機又は有機金属酸化合物である。
【0011】安定な硫酸塩が形成される条件は、特にMg,Ca,Sr,Mo,Cd,Pbのような二価金属、及びV,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu及びZnのような二価遷移金属の化合物によって満たされる。これらの金属化合物は燃料の燃焼の際一般に熱分解され、その際金属酸化物が形成され、これらの金属酸化物が再びSO_(2)又はSO_(3)と反応して、安定な硫酸塩になる。
【0012】本発明による方法の発展では、生じる硫酸塩が粒子フイルタ中で捕捉される。これには特に容易に変換可能なフイルタカートリツジの形の粒子フイルタが適している。粒子フイルタ又はフイルタカートリツジは排気系例えば自動車では最終消音器にもうけられ、そこでは粒子フイルタに容易に到達可能であり、従って容易に組込み又は交換可能である。
【0013】本発明による添加剤は、乗用車及び商用車両のガソリン機関又はデイーゼル機関に使用するのに特によく適している。」(段落【0008】-【0013】)

(f)「【0015】
【実施例】好ましい添加剤はバリウムの塩又は錯化合物である。バリウムはほぼ定量的に反応して硫酸バリウムになり、存在する硫黄が硫酸バリウム粒子の形で沈殿するようにする。
【0016】酸化性雰囲気(λ≧1)では、燃料中に溶解可能なバリウム化合物から酸化バリウムが形成される。同時に燃料に含まれる硫黄が酸化されて、二酸化硫黄又は三酸化硫黄になる。燃焼中に酸化バリウムが二酸化硫黄又は三酸化硫黄と反応して、安定な硫酸バリウムとなる。
BaO+SO_(3)→BaSO_(4)
BaO+SO2(当審注;SO_(2)の誤記)+1/2O_(2)→BaSO_(4)
【0017】硫酸バリウムは粒子の形で内燃機関から吹出されて、排気ガスへ達する。硫酸バリウムは排気装置内で沈積するか、吹出される。排気系例えば自動車の最終消音器へ粒子フイルタが設けられていると、硫酸バリウムを適切に捕捉することもできる。
【0018】上述した反応は、安定な硫酸塩を形成するすべての2価金属に通用する。燃料例えばガソリン燃料又はデイーゼル燃料に溶解可能なすべての金属は、なるべく無機又は有機金属錯化合物の形で、特に有機金属錯塩の形で、二酸化硫黄又は三酸化硫黄の中和に適している。これは例えばBa,Mg,Ca,Sr,Mo,Cd,Pb,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu及びZnに、無機又は有機酸の塩の形で当てはまる。」(段落【0015】-【0018】)

上記の記載事項(a)?(f)及び図面の記載を総合すると、引用文献1には、次のような発明が記載されているものと認められる。(以下、「引用文献1記載の発明」という。)

「内燃機関の排気ガス中のSO_(2)又はSO_(3)を中和し捕捉する方法であって、
遷移金属元素(V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Mo,Cd,Pb)または塩基性のアルカリ土類金属元素(Ba,Mg,Ca,Sr)を含む添加剤を用いて、前記内燃機関の燃焼後に硫黄酸化物を生成させる原因となる硫黄成分を、排気通路上に設置されたNO_(x)貯蔵触媒に排気ガスが流入する以前に沈殿させる内燃機関の排気浄化方法。」

4.本願補正発明と引用文献1記載の発明との対比
本願補正発明と引用文献1記載の発明を対比すると、引用文献1記載の発明における「内燃機関の排気ガス中のSO_(2)又はSO_(3)を中和し捕捉する方法」、「添加剤」、「NO_(x)貯蔵触媒」及び「沈殿させる」は、その機能及び作用からみて、本願補正発明における「内燃機関の排気ガスを浄化する内燃機関の排気浄化方法」、「硫黄成分固形化剤」、「NO_(x)吸蔵還元型の排気浄化触媒」及び「固形化させる」にそれぞれ相当する。

そうすると、本願補正発明と引用文献1記載の発明とは、
「内燃機関の排気ガスを浄化する内燃機関の排気浄化方法であって、
遷移金属元素または塩基性のアルカリ土類金属元素を含む硫黄成分固形化剤を用いて、前記内燃機関の燃焼後に硫黄酸化物を生成させる原因となる硫黄成分を、排気通路上に設置されたNO_(x)吸蔵還元型の排気浄化触媒に排気ガスが流入する以前に固形化させる内燃機関の排気浄化方法。」で一致し、次の点において相違している。

<相違点>
硫黄成分固形化剤として、本願補正発明は、「SO_(2)、SO_(3)を酸化させてSO_(3)、SO_(4)を生成することにより硫酸塩生成反応を促進する機能を有する遷移金属元素と生成されたSO_(3)、SO_(4)を固形化させて硫酸塩を生成する塩基性のアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素とを含む硫黄成分固形化剤」を添加するのに対し、引用文献1記載の発明においては、「遷移金属元素または塩基性のアルカリ土類金属元素を含む添加剤」を添加する点。

5.当審の判断
上記<相違点>について検討する。
まず、本願補正発明の「SO_(2)、SO_(3)を酸化させてSO_(3)、SO_(4)を生成することにより硫酸塩生成反応を促進する機能を有する遷移金属元素」という記載について検討するに、本願の出願当初の明細書(段落【0035】?【0037】)には、「SO_(2)を酸化させてSO_(3)を生成する」旨の記載はあるものの、「SO_(3)を酸化させてSO_(4)を生成する」旨の記載はない。ただし、明細書には、「M_(2)SO_(3)」を「M_(2)SO_(4)」にする旨の記載があるので、前記「SO_(2)、SO_(3)を酸化させてSO_(3)、SO_(4)を生成する」という記載は、「SO_(2)、M_(2)SO_(3)を酸化させてSO_(3)、M_(2)SO_(4)を生成する」という意味であると解される。
ところで、原査定において、「硫黄成分を酸化させる雰囲気を形成するために、遷移金属元素を用いること」が周知技術であることを示すために例示された文献である特開昭57-137388号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。(なお、下線は理解の一助のために当審で付加した。)
(a)「本発明は、低温用脱硫剤として、遷移金属酸化物を用い、高温用脱硫剤として、Ca(OH)_(2)、CaCO_(3)、ドロマイト(CaCO_(3)・MgCO_(3))から選択される化合物と、K_(2)CO_(3)とを用いるものである。
まず800℃以下で脱硫効果を発揮する遷移金属酸化物について述べる。遷移金属酸化物は、金属酸化物触媒とも呼ばれ、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cuなどの酸化物が含まれる。
なおこの遷移金属酸化物の代わりに燃焼時に金属酸化物になる炭酸塩、水酸化物などを用いた場合も熱分解で、酸化物となるので、出発物質としてこれらを用いてもよい。
これらの金属酸化物の特徴は、酸化作用に優れているのは無論のこと、ガスの吸着剤としても優れた効果を発揮することである。なかでも二酸化マンガンは優れた排ガス中のSO_(2)の吸着剤として実用に供されている。本発明は遷移金属酸化物のこうした特長に着目したもので、固形燃料に混合添加することにより、低温での脱硫効果を高めようとするものである。遷移金属酸化物の中でも性能、価格、安全性の面から、Mn、Cuの酸化物が好ましい。特にMnO_(x)は優れた脱硫性能を示し、中でも電解によって製造されたγ-MnO_(2)が好ましい。これらの遷移金属酸化物は、いったんSO_(2)を吸着した後SO_(2)と反応し、それぞれMnSO_(4),CuSO_(4)として固定化する。しかしながら、この硫酸塩は、それぞれ850℃、650℃付近で熱分解を起こし、SO_(2)を放出する。したがって、この金属酸化物を、単独で脱硫剤として用いることはできない。本発明では、このために、高温でも硫酸塩として安定な脱硫剤を添加し、遷移金属の硫酸塩の熱分解によって発生したSO_(2)を固定する必要がある。高温用の第2の脱硫剤は、Ca(OH)_(2)、CaCO_(3)、ドロマイト(CaCO_(3)・MgCO_(3))から選択される化合物を少なくとも1種とK_(2)CO_(3)とで構成される。この第2の脱硫剤は、燃焼温度が800℃以上になると活性化されるので、遷移金属の硫酸塩の熱分解により生じたSO_(2)を固定化できる。」(公報第2ページ左下欄第15行?第3ページ左上欄第13行)
つまり、引用文献2には、「脱硫効果を発揮する遷移金属酸化物が、酸化作用に優れていること」(以下、「引用文献2の記載事項1」という。)、「遷移金属酸化物がSO_(2)と反応し、MnSO_(4)、CuSO_(4)として固定化すること」(以下、「引用文献2の記載事項2」という。)、「高温用の第2の脱硫剤として、アルカリ土類金属元素であるCaの化合物とアルカリ金属元素であるKの化合物とで構成される脱硫剤により、SO_(2)を固定化すること」(以下、「引用文献2の記載事項3」という。)が記載されている。
そうすると、本願補正発明の前記「SO_(2)、SO_(3)を酸化させてSO_(3)、SO_(4)を生成することにより硫酸塩生成反応を促進する機能を有する遷移金属元素」という事項は、引用文献2の記載事項1及び2から明らかなように、単に、遷移金属元素が有している性質を表現したものにすぎない。
同様に、「生成されたSO_(3)、SO_(4)を固形化させて硫酸塩を生成する塩基性のアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素」という事項は、引用文献2の記載事項3から明らかなように、単に、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素の性質を表現したものにすぎない。
また、引用文献2には、「塩基性のアルカリ土類金属元素であるカルシウムと、塩基性のアルカリ金属元素であるカリウムと、遷移金属の酸化物を同時に添加すること」(以下、「引用文献2の記載事項4」という。)も記載されている(請求項1及び前記記載(a)参照。)。

そうすると、燃焼一般の技術における硫黄成分処理技術に係る引用文献2の記載事項1乃至4のような知見のもとに、内燃機関の硫黄成分処理技術である引用文献1記載の発明に採用し、本願補正発明の上記<相違点>に係る構成のようにすることは、当業者にとり、格別な創作力を要することなくなし得る程度の程度のことにすぎない。

したがって、本願補正発明は引用文献1記載の発明及び引用文献2の記載事項1乃至4に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、独立して特許を受けることができないものである。

よって、結論のとおり決定する。


第3.本願発明について

1.本願発明
平成18年1月31日付け手続補正書による補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明は、平成16年12月24日付け手続補正書により補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された以下の事項により特定されるものである(以下、「本願発明」という。)。
(1)本願発明(再掲)
「【請求項1】 内燃機関の排気ガスを浄化する内燃機関の排気浄化方法において、
硫黄成分を酸化させる機能を有する遷移金属元素と塩基性のアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素とを含む硫黄成分固形化剤を用いて、前記内燃機関の燃焼後に硫黄酸化物を生成させる原因となる硫黄成分を、排気通路上に設置されたNO_(x)吸蔵還元型の排気浄化触媒に排気ガスが流入する以前に固形化させることを特徴とする内燃機関の排気浄化方法。」

2.引用文献1に記載された発明
引用文献1には、上記第2.、3.、(2)に指摘したとおりの発明(引用文献1記載の発明)が記載されている。

3.対比
本願発明と引用文献1記載の発明とを対比すると、引用文献1記載の発明における「内燃機関の排気ガス中のSO_(2)又はSO_(3)を中和し捕捉する方法」、「添加剤」、「NO_(x)貯蔵触媒」及び「沈殿させる」は、その機能及び作用からみて、本願発明における「内燃機関の排気ガスを浄化する内燃機関の排気浄化方法」、「硫黄成分固形化剤」、「NO_(x)吸蔵還元型の排気浄化触媒」及び「固形化させる」にそれぞれ相当する。

そうすると、本願発明と引用文献1記載の発明とは、
「内燃機関の排気ガスを浄化する内燃機関の排気浄化方法であって、
遷移金属元素または塩基性のアルカリ土類金属元素を含む硫黄成分固形化剤を用いて、前記内燃機関の燃焼後に硫黄酸化物を生成させる原因となる硫黄成分を、排気通路上に設置されたNO_(x)貯蔵触媒に排気ガスが流入する以前に固形化させる内燃機関の排気浄化方法。」で一致し、次の点において相違している。

<相違点>
硫黄成分固形化剤として、本願発明は、「硫黄成分を酸化させる機能を有する遷移金属元素と塩基性のアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素とを含む硫黄成分固形化剤」を添加するのに対し、引用文献1記載の発明においては、「遷移金属元素または塩基性のアルカリ土類金属元素を含む添加剤」を添加する点。

4.当審の判断
硫黄成分固形化剤として、「硫黄成分を酸化させる機能を有する遷移金属元素と塩基性のアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素とを含む硫黄成分固形化剤」を用いることは、燃焼一般の分野における硫黄成分処理技術において従来周知の技術(必要であれば、前記引用文献2、特表平4-504979号公報の請求項13、14及び第4ページ左下欄第13行?第20行、特開平9-206561号公報の請求項1?5参照。以下、「周知技術」という。)にすぎない。
そして、引用文献1記載の発明において、燃焼一般の分野の上記周知技術を適用し、本願発明のようにすることは、当業者にとり通常の創作力の範囲でなしうる程度のことにすぎず、また、本願発明のようにした結果、顕著な効果が生じたものとも認められない。

5.むすび、
以上の通り、本願発明は、引用文献1記載の発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、上記結論の通り審決する。
 
審理終結日 2008-07-10 
結審通知日 2008-07-15 
審決日 2008-07-28 
出願番号 特願2000-314025(P2000-314025)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F02D)
P 1 8・ 121- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 倉橋 紀夫  
特許庁審判長 早野 公惠
特許庁審判官 西本 浩司
金澤 俊郎
発明の名称 内燃機関の排気浄化方法  
代理人 黒木 義樹  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 上田 和弘  
代理人 上田 和弘  
代理人 黒木 義樹  

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