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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1184685
審判番号 不服2005-19910  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-10-13 
確定日 2008-09-16 
事件の表示 平成 8年特許願第209723号「磁気記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 2月24日出願公開、特開平10- 55529〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯、本願発明
本願は、平成8年8月8日の出願であって、拒絶理由通知に対し平成16年6月25日付けで手続補正がされたが、平成17年9月12日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年10月13日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年11月7日付けで手続補正がされたものである。
そして、その請求項1乃至5に係る発明は平成17年11月7日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1乃至5に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】支持体上に少なくとも1層の磁性層を有する磁気記録媒体において、該磁性層は、1分子中に少なくとも2個のイソシアネート基を有し且つ数平均分子量が10,000?40,000である線状ポリウレタンを硬化剤として含み、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基又はヒドロキシル基を含有するか或いはそれらの両方の基を含有する数平均分子量が5,000?50,000の結合剤を更に含むことを特徴とする磁気記録媒体。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平5-159281号公報(以下、「引用例」という。)には、「磁気記録媒体」に関して、以下の事項が記載されている。
(なお、下線は当審で付加した。)
ア.「【請求項1】磁性層を含む複数の構成層からなり、最上層の硬膜物性と最上層以外の少くとも1層の硬膜物性とを異にすることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】前記最上層の硬膜物性が、イソシアネート基を1分子当り2重量%以上含有する数平均分子量2000以上ポリウレタンによって整えられたことを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。」(特許請求の範囲)
イ.「【0007】特開平3-141020号において、主鎖に直接結合していない水酸基を2重量%以下含む塩化ビニル系重合体とイソシアネート基を1分子当り2.3個以上有する数平均の分子量2000以上のポリウレタンを磁性粉のバインダとし、かつ両バインダが架橋されている媒体が開示されている。
【0008】この技術によれば低分子量のポリイソシアネートを使用しないでもすむため、従来より問題となっていたカレンダヒートロール汚れの発生による生産性の低下を防止できる利点があった。
【0009】しかし、ポリイソシアネートを使用しない代りにポリウレタンに残存するイソシアネートを活用するので、ポリウレタンの量を比較的多く使用するに従い、塗液の停滞安定性が悪くなるという問題がおこった。停滞安定性の問題を改良するためには、上記のイソシアネート基を含むポリウレタンのバインダ中の比率を50wt%以下、より好ましくは30wt%以下とするのがより好ましいが、そのようにテープを設計すると、イソシアネート基が比較的少くなるため、テープの物性が劣化するという問題が発生した。そのため40℃,80%RHといった高湿多湿下でテープを走行させた場合、テープが貼りついてストップするといった現象がみられた。特に最上層に強磁性金属粉を用いた場合は、潤滑剤が金属粉に吸着されやすいため、摩擦が上昇する傾向にあり、テープ物性の劣化と相俟って、走行ストップが多発した。」
ウ.「【0012】本発明の態様においては、前記最上層の硬膜物性が、イソシアネート基を1分子当り2重量%以上含有する数平均分子量2000以上ポリウレタンによって整えられることが好ましく、更に前記イソシアネート基を1分子当り2?6重量%含有し数平均分子量が2000?5000であることが好ましい。」
エ.「【0019】本発明において硬膜物性を整えるために用いられるポリウレタンは主として、ポリイソシアネートとポリオール及び必要に応じ他の共重合体との反応で製造され、そして遊離イソシアネート基及び/又はヒドロキシル基を含有するウレタン樹脂またはウレタンプレポリマーの形であってもよい。」
オ.「【0022】本発明の磁気テープの磁性層等構成層の耐久性等の硬膜物性を向上させるために各種硬化剤を含有させる。例えばイソシアネートを含有させる。」
カ.「【0025】このポリイソシアネート系硬化剤としては、例えばトリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネート等の2官能イソシアネート、コロネートL(商品名;日本ポリウレタン工業(株)製)、デスモジュールL(商品名;バイエル社製)等の3官能イソシアネート、また硬化剤として使用可能であるポリイソシアネートであるものをいずれも使用することができる。」
キ.「【0027】本発明においては用いられるバインダは、必要に応じ従来用いられている非変性もしくは極性基導入により変性した塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂或いはポリエステル樹脂を混用することもできるし、更に繊維素系樹脂、フェノキシ樹脂或は特定の使用方式を有する熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂、電子線照射硬化型樹脂等を併用してもよい。」
ク.「【0067】まず実施例及び比較例試料作成に用いる塗料処方において変動要素成分のウレタンプレポリマー及び磁性粉末、カーボンブラック等の遮光剤の特性について列記する。
【0068】
【表1】


ケ.「【0071】
:最上層用磁性塗料,処方A:
GA1:[強磁性金属粉末(M)* 100 部
GA2:スルホン酸カリウム変性塩化ビニル樹脂 10 部
スルホン酸ナトリウム変性ポリウレタン樹脂 5 部
アルミナ(平均粒径0.2μm) 6 部
遮光剤S** 0.4部
ミリスチン酸 1 部
ブチルステアレート 1 部
メチルエチルケトン 100 部
シクロヘキサノン 100 部
トルエン 100 部」
<中略>
【0072】次に得られた上層用塗料に夫々ウレタンプレポリマーHを5部、下層用磁性塗料にポリイソシアネート(コロネートL;日本ポリウレタン社製)5部を加え(但し比較例(3)のみはH1を5部加える)、ウェット・オン・ウェット方式により厚み10μmの非磁性支持体ポリエチレンテレフタレートに塗布した後、塗膜が未乾燥のうちに磁場配向処理を行い、続いて乾燥後カレンダで表面平滑化処理を施し磁性層を形成した。カレンダ条件は温度80℃,圧力300Kg/cm^(2)であり、その時の上層及び下層膜厚を表4に示した。」

上記ア、ケによれば、引用例には次の発明が記載されている。
「非磁性支持体及び磁性層を含む複数の構成層からなり、最上層は強磁性金属粉末、スルホン酸カリウム変性塩化ビニル樹脂及びスルホン酸ナトリウム変性ポリウレタン樹脂を含み、最上層の硬膜物性が、イソシアネート基を1分子当り2重量%以上含有する数平均分子量2000以上ポリウレタンによって整えられた磁気記録媒体」(以下、「引用例発明」という。)

3.対比
引用例発明における「非磁性支持体及び磁性層を含む複数の構成層からなり」は、本願発明の「支持体上に少なくとも1層の磁性層を有する」に相当し、引用例発明の「最上層」は、強磁性金属粉末を含むから、本願発明の「磁性層」に相当する。
また、引用例発明において、硬膜物性を整えるために各種硬化剤としてポリイソシアネートを含有させており、ポリイソシアネートとしてイソシアネート基を1分子当り2重量%以上含有する数平均分子量2000以上ポリウレタンによって硬膜物性が整えられるのであって(上記ウ?カ)、イソシアネート基を1分子当り2重量%以上含有するとは、従来技術(上記イ)からみてイソシアネート基を1分子当り少なくとも2個以上有することを意味するから、引用例発明の「最上層の硬膜物性が、イソシアネート基を1分子当り2重量%以上含有するポリウレタンによって整えられた」は、本願発明の「該磁性層は、1分子中に少なくとも2個のイソシアネート基を有し(する)ポリウレタンを硬化剤として含み」に相当する。
そして、引用例発明の「スルホン酸カリウム変性塩化ビニル樹脂及びスルホン酸ナトリウム変性ポリウレタン樹脂」は、本願発明の「結合剤」に相当する。

したがって、両者の一致点、相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「支持体上に少なくとも1層の磁性層を有する磁気記録媒体において、該磁性層は、1分子中に少なくとも2個のイソシアネート基を有するポリウレタンを硬化剤として含み、結合剤を更に含む磁気記録媒体。」である点。
[相違点]
(1)本願発明で硬化剤として用いるポリウレタンが「数平均分子量が10,000?40,000である線状ポリウレタン」であるのに対し、引用例発明のものは「数平均分子量2000以上のポリウレタン」であって「線状」であることは特定されていない点。
(2)本願発明の結合剤は、「1分子中に少なくとも2個のエポキシ基又はヒドロキシル基を含有するか或いはそれらの両方の基を含有する数平均分子量が5,000?50,000」であるのに対し、引用例発明のものは、かかる限定が付されていない点。

4.判断
相違点(1)について
引用例には、先行技術としてイソシアネート基を1分子当り2.3個以上有する数平均分子量2000以上のポリウレタンを用いることが知られていることが記載されており(上記イ)、硬膜物性を整えるために硬化剤として使用するポリウレタンの数平均分子量は、2000以上であることが好ましく、更に2000?5000であることが好ましい旨記載されている(上記ウ)。
しかし、5000を上限とする理由については具体的に記載されていないから、5000以上のものを使用することについて特段の阻害事由があると認めることはできない。
一方、本願明細書には、「上記硬化剤化合物は、その数平均分子量が上述の通り3000?40000であり、好ましくは10000?30000であり、更に好ましくは15000?30000である。該分子量が3000に満たないと耐久性改良効果が発現しにくく、40000を超えると磁性塗料が増粘し平滑な塗膜が得られない。」(段落[0032])と記載されているが、分子量の下限を10000とする具体的な理由については記載されていない。
本願明細書の表2において、出力は、数平均分子量が10000の実施例3で+1.5dB、20000の実施例1で+1.1dB、25000の実施例2で+0.5dBであって、分子量が小さい方が出力は大きくなっており、数平均分子量10000を下限とすることによって出力の向上は特にないものというべきである。
しかも、保存後のエラーレートは、実施例2及び3ではそれぞれ5.0×10^(-4)、8.0×10^(-4)であって、分子量1500である比較例5の1.0×10^(-4)よりも劣っており、本願発明のものが分子量1500であるものと比べて総合的に優れているということもできない。
また、ポリウレタンとして線状のものと分岐状のものがあることは周知であるから(例えば、特開平3?141020号公報(上記イ)の10頁の表-3に示されている試料e(短鎖ポリオールとしてトリメチロールプロパンを使用しており、分岐状である)及びf(短鎖ポリオールとして1,4-ヒドロキシブタンを使用しており線状である)の例参照。)、線状のものを使用することは当業者が適宜選択しうることである。
したがって、ポリウレタンとして「数平均分子量が10,000?40,000である線状ポリウレタン」を用いることは、当業者が容易に推考しうる事項にすぎない。

なお、請求人は、請求の理由について補正する平成18年1月13日付け手続補正書において実施例4及び5はエラーレート及び出力の記載に誤記がある旨主張しているが、仮に実施例4及び5に誤記があり、実施例4及び5の結果を無視したとしても、上記のとおり本願発明が顕著な効果を奏するものと認めることはできない。

相違点(2)について
磁気記録媒体の結合剤として、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基又はヒドロキシル基を含有するか或いはそれらの両方の基を含有する数平均分子量が5,000?50,000である材料、例えば、日本ゼオン(株)のMR110、東洋紡(株)のUR8300等を使用し、これらをポリイソシアネート化合物で架橋することは周知である。(例えば、特開平6?290446号公報、特開平5-73886号公報、特開平6-28658号公報、特開平6-203358号公報、特開平7-268053号公報等参照。)
引用例には、バインダ(結合剤)は必要に応じ従来用いられている非変性もしくは極性基導入により変性した塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂等が使用できる旨記載されている(上記キ)から、引用例発明において、本願出願時において周知であった「1分子中に少なくとも2個のエポキシ基又はヒドロキシル基を含有するか或いはそれらの両方の基を含有する数平均分子量が5,000?50,000」である樹脂を結合剤として使用することは当業者が容易に推考しうることである。

そして、上記の相違点について総合的にみても、本願発明の作用効果は、引用例及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物である引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

なお、請求人は、請求の理由について補正する平成18年1月13日付け手続補正書において、本願発明は磁性層及び中間層の結合剤及び硬化剤は同様のものを用いるものであって、最上層とそれ以外の層とで硬膜物性を異なるものとする引用例発明とは逆の技術思想に基づくものであり、本願発明を明確化する補正をする用意がある旨主張している。
しかし、平成14年改正前特許法第17条の2第1項第3号に規定する明細書の補正をできる時期を徒過しており、また、補正できる期間内に補正することができなかった合理的理由があると認めることもできない。
そして、上記のとおり、本願発明を拒絶すべきものとした原審の判断は妥当なものであって、当審で新たな拒絶の理由を発見していない。
したがって、本願について、補正の機会を設けるには及ばない。
しかも、磁性層及び中間層の結合剤及び硬化剤は同様のもの、あるいは別のものを用いることは公知であるから(上記特開平6?290446号公報の各実施例、特開平6-28658号公報の各実施例参照)、仮に補正案のとおり補正したとしても、拒絶理由は解消しない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項についてみるまでもなく、本願は拒絶されるべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-07-14 
結審通知日 2008-07-15 
審決日 2008-08-04 
出願番号 特願平8-209723
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 蔵野 雅昭  
特許庁審判長 小林 秀美
特許庁審判官 横尾 俊一
漆原 孝治
発明の名称 磁気記録媒体  
代理人 野口 恭弘  

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