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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1184724
審判番号 不服2006-2810  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-02-16 
確定日 2008-09-18 
事件の表示 特願2000-313118「誘導型薄膜磁気ヘッド」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 4月19日出願公開、特開2002-117507〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年10月6日の出願であって、平成17年6月9日付けで手続補正がなされ、平成18年1月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年2月16日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、平成18年3月14日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成18年3月14日付け手続補正(以下「本件補正」という。)について
[補正却下の決定の結論]
平成18年3月14日付け手続補正を却下する。
[理由]
1.本件補正
本件補正は、特許請求の範囲の請求項3について、補正前の、
(a) 「【請求項3】 基板の上に形成された下部磁気コアと、
浮上面より後退して設けられた第1上部磁気コアと、
前記第1上部磁気コアと前記下部磁気コアとの間に形成されたコイルと、
前記下部磁気コアと前記第1上部磁気コアの先端部の間に設けられた、第1磁性膜と、非磁性の磁気ギャップ膜と、第2上部磁気コアとを有し、前記下部磁気コアと前記第1上部磁気コアは後端部で結合された磁気ヘッドの製造方法において、
前記第1磁性膜と前記磁気ギャップ膜と前記第2上部磁気コアをめっき法により連続的にフレームを用いて形成し、
前記第2上部磁気コアが、浮上面において、前記磁気ギャップ膜に接した面の幅が前記磁気ギャップ膜とは反対側面の幅より小さくなるようイオン・ミリング又はリアクティブ・イオン・エッチングすることを特徴とする磁気ヘッドの製造方法。」を、
(b) 「【請求項3】 基板の上に形成された下部磁気コアと、
浮上面より後退して設けられた第1上部磁気コアと、
前記第1上部磁気コアと前記下部磁気コアとの間に形成されたコイルと、
前記下部磁気コアと前記第1上部磁気コアの先端部の間に設けられた、第1磁性膜と、非磁性の磁気ギャップ膜と、第2上部磁気コアとを有し、
前記下部磁気コアと前記第1上部磁気コアは後端部で結合され、
前記第1上部磁気コアの浮上面側の端面より浮上面側において、前記第2上部磁気コアの下部における幅は、前記第2上部磁気コアの上部における幅より小さい磁気ヘッドの製造方法において、
前記第1磁性膜と前記磁気ギャップ膜と前記第2上部磁気コアをめっき法により連続的にフレームを用いて形成し、
前記第2上部磁気コアが、浮上面において、前記磁気ギャップ膜に接した面の幅が前記磁気ギャップ膜とは反対側面の幅より小さくなるようイオン・ミリング又はリアクティブ・イオン・エッチングすることを特徴とする磁気ヘッドの製造方法。」
と補正するものである。
本件補正は、補正前の請求項3に記載された発明の「磁気ヘッド」について、「前記第1上部磁気コアの浮上面側の端面より浮上面側において、前記第2上部磁気コアの下部における幅は、前記第2上部磁気コアの上部における幅より小さい」との限定を付加するものであって、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、補正後における特許請求の範囲の請求項3に記載されている事項により特定される発明(以下「補正後の発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

2.引用例
(1)原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-105906号公報(以下「引用例1」という。)には、「薄膜磁気ヘッドの製造方法」に関し、次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与したものである。)
(ア)「【請求項3】書き込みポール部を含む薄膜磁気ヘッドを製造する方法であって、前記書き込みポール部は第1のポール部と第2のポール部とをギャップ膜を介して互いに対向させて構成されており、
前記第1のポール部、前記ギャップ膜及び前記第2のポール部の積層膜を、フォトリソグラフィによるパターンニング工程によって形成し、
次に、前記積層体の両側面に対し、ドライエッチングを施し、縮小されたトラック幅を得る工程を含む薄膜磁気ヘッドの製造方法。
【請求項5】請求項1乃至4の何れかに記載された製造方法であって、
前記ドライエッチング工程は、イオン.ビーム.ミリング工程である製造方法。」(特許請求の範囲の請求項3、5)
(イ)「【0005】トラック幅を狭小化する試みは、公知文献に種々見られる。例えば、(略)号公報は、フォトリソグラフィ工程の適用によって得られた第2のポール部をマスクとして用い、イオン.ビーム.ミリングにより、第1のポール部のトラック幅を、第2のポール部のトラック幅に合わせる手段を開示している。
【0006】特開平6ー28626号公報は、第1の磁気ヨーク層(第1のヨーク部)を形成した後、フォトレジスト層を付着させ、フォトレジスト層に、第1のポール部、ギャップ膜及び第2のポール部でなる磁極端アセンブリをパターン形成するための開口部を設け、次に、開口部に磁極端アセンブリを形成した後、磁極端アセンブリの前部に位置するフォトレジスト層を除去し、この後、従来方法によりコイル構造や絶縁膜等を構成し、更に第2の磁気ヨーク層(第2のヨーク部)を形成する方法を開示している。
【0007】上述した先行技術は、基本的には、フォトリソグラフィ工程によってパターンニングされたマスクを用いて、トラック幅を画定するものである。(略)」(従来の技術の項)
(ウ)「【0011】上記製造方法によれば、フォトリソグラフィによって画定された書き込みトラック幅を、ドライエッチングによる削減により、更に狭小化することができる。(略)」(課題を解決するための手段の項)
(エ)「【0016】
【発明の実施の形態】図1は本発明に係る製造方法によって得られる薄膜磁気ヘッドの斜視図、図2は図1に図示された薄膜磁気ヘッドの断面図である。(略)図1を参照すると、図示された薄膜磁気ヘッドは、スライダ1と、少なくとも1つの誘導型薄膜磁気変換素子2とを含む。スライダ1は媒体対向面側にレール部11、12を有し、レール部11、12の基体表面がABS13、14として用いられる。(略)」
(オ)「【0049】図18は本発明に係る製造方法を適用し得る薄膜磁気ヘッドの他の例を示す断面図、図19は図18の19ー19線に沿った断面図、図20は図18及び図19に示した薄膜磁気ヘッドの書き込みポール部の拡大斜視図である。(略)
【0050】書き込み素子2は、誘導型薄膜磁気変換素子であり、MR読み取り素子3の上に積層されている。書き込み素子2の第1の磁性膜21は、第1のヨーク部211と、第1のポール部210とを含み、第1のポール部210が第1のヨーク部211の上に突出して付着されている。
【0051】第2の磁性膜22は、第2のポール部220と、第2のヨーク部221とを含んでいる。第2のポール部220は、第1のポール部210の上に付着されたギャップ膜24の上に付着され、トラック幅W21が第1のポール部210のトラック幅W11と実質的に等しくなっている。
【0052】第1のポール部210、第2のポール部220及びギャップ膜24は、周りが非磁性絶縁膜27によって埋められている。(略)
【0053】第2のヨーク部221は、先端部が第2のポール部220のトラック幅W21よりも広いトラック幅W22を有して第2のポール部220の上に積層され、トラック幅方向の両端が非磁性絶縁膜27の上面に付着されている。コイル膜23を支持した絶縁膜25は、非磁性絶縁膜27の上面上に形成されている。
【0054】第1の磁性膜21及び第2の磁性膜22は、そのヨーク部211、221が第1のポール部210及び第2のポール部220とは反対側にある後方の結合部223において、磁気回路を完成するように互いに結合されている。絶縁膜25の上に、結合部223のまわりを渦巻状にまわるように、コイル膜23を形成してある。(略)
【0055】上述したように、書き込み素子2の第2のポール部220は、第1のポール部210と対向し、かつ、ギャップ膜24によって分離され、トラック幅W21が第1のポール部210のトラック幅W11と実質的に等しくなっている。このため、サイドフリンジング磁界の発生を抑え、トラック密度を高め、高密度記録を達成することができる。
【0056】第2のヨーク部221は、先端部が第2のポール部220のトラック幅W21よりも広いトラック幅W22を有して第2のポール部220の上に積層されているから、第2のポール部220のトラック幅W21を狭小化しても、書き込み能力を損なうことがない。
【0057】更に、第2のヨーク部221を、第2のポール部220と同時に形成するのではなく、第2のポール部220の上に積層する構造であるから、第2のポール部220を、第1のポール部210及びギャップ膜24と同一のトラック幅(W21=W11)を有するように形成した後、第2のヨーク部221を形成することができる。この構造は、後で説明するように、製造工程上、多くの利点をもたらす。
【0058】第1のポール部210、第2のポール部220及びギャップ膜24は、周りが非磁性絶縁膜27によって埋められている。(略)」(発明の実施の形態の項)
(カ)「【0061】次に図21?図38を参照して、本発明に係る薄膜磁気ヘッドの製造方法について説明する。(略)
【0062】(略)図21及び図22に示す工程では、基体1の上に、既に、MR読み取り素子3が形成されている。MR読み取り素子3の第2シールド膜21は無機絶縁膜34の表面に形成されている。
【0063】次に、図23及び図24に示すように、第2シールド膜21の上に、レジストフレーム60を形成する。レジストフレーム60はフォトリソグラフィ工程によって形成されたもので、書き込みポール部のパターンを画定する内側パターン61を有する。内側パターン61の幅W31は書き込みポール部のトラック幅W10、W20を画定する。
【0064】次に、図25及び図26に示すように、レジストフレーム60によって画定された内側パターン61及び外側パターンに、第1の磁性膜51、非磁性膜52及び第2の磁性膜53の積層膜71、72を付着させる。これらは、フレームメッキ法によって形成できる。
【0065】(略)内側パターン61に付着した積層膜71のうち、第2シールド膜21の上に付着された第1の磁性膜51が第1のポール部210となり、その上に積層された非磁性膜52がギャップ膜24となり、その上に積層された第2の磁性膜53が第2のポール部220となる。この製造工程によれば、レジストフレーム60を、積層過程の低段差の段階で形成できるため、第1のポール部210及び第2のポール部220のトラック幅W10、W20を、フォトリソグラフィ工程によって定まる微小値に設定することができる。
【0066】しかも、第1のポール部210、ギャップ膜24及び第2のポール部220は、形成されたレジストフレーム60により、同時に画定されるため、高精度で容易に位置合わせすることができる。
【0067】次に、図29及び図30に示すように、レジストフレーム60を除去する。(略)
【0068】(略)本発明では、トラック幅を、更に狭小化するための工程が続く。
【0069】まず、図31に示すように、積層膜71に対し、ドライエッチングを施す。これにより、図32に示すように、縮小されたトラック幅W21を得る。
【0070】上記方法によれば、書き込みポールのトラック幅を、フォトリソグラフィによって定まるトラック幅W10、W20から、ドライエッチングによる削減により、更に狭小化された幅W11、W21まで、狭小化することができる。(略)
【0071】(略)
【0072】(略)
【0073】図31に示すドライエッチング工程は、好ましくは、Arイオンを用いたイオン.ビーム.ミリング工程である。(略)」(発明の実施の形態の項)

(2)同じく引用された特開2000-48318号公報(以下「引用例2」という。)には、「薄膜磁気ヘッド及びその製造方法」に関し、次の事項が記載されている。
(サ)「【請求項1】記録ギャップを介して互いに対向する下部磁極及び上部磁極を含む記録ヘッド部を備えた薄膜磁気ヘッドであって、前記上部磁極は、前記記録ギャップ側の第1の端から少なくとも所定距離離れた位置まで等しい幅を有し、かつ該記録ギャップの反対側の第2の端が前記第1の端の幅より広い幅を有していることを特徴とする薄膜磁気ヘッド。
【請求項7】下部磁極用の層を積層した後、記録ギャップ用の層を積層し、該記録ギャップ用の層上にコイルを形成すると共に上部磁極を形成する薄膜磁気ヘッドの製造方法であって、前記上部磁極を、前記記録ギャップ側の第1の端から少なくとも所定距離離れた位置まで等しい幅を有し、かつ該記録ギャップの反対側の第2の端が前記第1の端の幅より広い幅を有する形状に形成することを特徴とする薄膜磁気ヘッドの製造方法。
【請求項10】前記上部磁極の形状を、フレームめっき法におけるレジストの露光条件を制御して形成することを特徴とする請求項7から9のいずれか1項に記載の製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1、7、10)
(シ)「【0002】
【従来の技術】インダクティブ記録ヘッド部は、ABS(浮上面)に露出した先端が記録ギャップを介して互いに対向しており、後部においてヨークとして互いに接触している2つの磁極と、そのヨークの周囲に巻回されているコイルとから主として構成されている。
【0003】図1及び図2は、従来のインダクティブ記録ヘッドにおける磁極のABS側から見た概略構造を表わす断面図である。
【0004】図1において、10は下部磁極、11は記録ギャップ、12は上部磁極をそれぞれ示している。このインダクティブ記録ヘッドにおいては、上部磁極12の幅W_(P2)が記録ギャップ側においてもその反対側においても同一となるように形成されている。
【0005】このような形状の上部磁極12を有するインダクティブ記録ヘッドは、磁極への磁束の流入に抵抗が生じるため、オーバーライト特性が比較的低くなってしまう。
【0006】このような不都合を改善する構造として、図2に示すような形状の上部磁極を備えたインダクティブ記録ヘッドが存在する。同図において、20は下部磁極、21は記録ギャップ、22は上部磁極をそれぞれ示している。このヘッドは、上部磁極22のW_(P2)が記録ギャップ側からその反対側に向かって徐々に大きくなっており、これによって磁束の流入側が広くなるため、オーバーライト特性を向上させることができる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、図2に示す従来のインダクティブ記録ヘッドによると、記録のための実効トラック幅がどうしても広がってしまうという問題が生じる。特に近年、磁気記録の高密度化に伴って磁気ヘッドのトラック幅をより狭くすることが要求されているため、このような実効トラック幅の広がりは大きな問題である。
【0008】従って本発明の目的は、狭トラック幅化及びオーバーライト特性の向上の両方を同時に達成できる薄膜磁気ヘッド及びその製造方法を提供することにある。」
(ス)「【0009】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、記録ギャップを介して互いに対向する下部磁極及び上部磁極を含む記録ヘッド部を備えた薄膜磁気ヘッドであって、上部磁極は、記録ギャップ側の第1の端から少なくとも所定距離離れた位置まで等しい幅を有し、かつ記録ギャップの反対側の第2の端が第1の端の幅より広い幅を有している薄膜磁気ヘッドが提供される。
【0010】上部磁極が、ABS方向から見た形状として、記録ギャップの反対側の第2の端が記録ギャップ側の第1の端の幅より広い幅を有する形状となっているので、磁束の入口側の幅が広くなりかつ出口側の幅が狭くなることとなり、オーバーライト特性が大幅に向上する。しかも、記録ギャップ側の第1の端から少なくとも所定距離離れた位置まで等しい幅を有しているので、磁気ヘッドの実効トラック幅が広がってしまうような不都合がなくなる。」
(セ)「【0022】
【発明の実施の形態】図3は本発明の一実施形態におけるインダクティブ記録ヘッド部についてABS側から見た形状を概略的に示す図である。
【0023】同図において、30は下部磁極、31は記録ギャップ、32は上部磁極、30aは下部磁極30の凸状の突出部をそれぞれ示している。上部磁極32の下端は、記録ギャップ31を介して下部磁極30の突出部30aの上端に対向している。突出部30aは、幅W_(P2A)を有しており、上部磁極32もその下端から所定距離L_(S)の位置33までこの幅W_(P2A)に等しい幅を有している。上部磁極32の幅は、この位置33から徐々に曲線状に大きくなりその上端では、幅W_(P2B)となっている。(略)
【0024】上部磁極は、図3に示したようにその幅が位置33から徐々に曲線状に大きくなる形状の他に、図4に示すように上部磁極の下端から所定距離L_(S)の位置43から徐々に直線的に大きくなる形状であってもよい。(略)」
(ソ)「【0041】なお、上部磁極60は、フレームめっき法の代わりに、スパッタ法とミリング法とを組み合わせたドライプロセスで形成することも可能である。」(発明の実施の形態の項)
(タ)「【0054】図11は、本発明のさらに他の実施形態における薄膜磁気ヘッドの製造方法を説明する工程図であり、磁気ヘッドのトラックの中心を通る平面による断面図及びABS方向から見た断面図をそれぞれ示している。(略)
【0055】?【0057】(略)
【0058】次いで、図11(C)に示すように、上部磁極の磁極部111a及びヨーク後端部111bをフレームめっき法で形成する。この工程も上部磁極の磁極部111a及びヨーク後端部111bのみを形成する点を除いて、図5に述べたものと全く同様である。
【0059】その後、図11(D)に示すように、このようにして形成した上部磁極の磁極部111aをマスクとして、イオンミリング、RIE(反応性イオンエッチング)等のドライエッチングを行い、フレームめっき工程で用いた低抵抗膜及び記録ギャップ57用の絶縁層のマスクに覆われていない部分を除去し、さらに下部磁極56用の磁性層の途中までマスクに覆われていない部分を除去する。
【0060】これにより、図11(E)に示すように、上部磁極の磁極部111aの下端に、記録ギャップ57を介して対向しかつ同じ幅を有する突出部56aが下部磁極56に形成される。(略)
【0061】次いで、図11(F)に示すように、絶縁層112上に、図5の場合と同様に、コイル113及びこのコイル113を取り囲む絶縁層114を形成し、さらに、その上に上部磁極のヨーク部115を形成する。このヨーク部115は、先に形成した上部磁極の磁極部111a及びヨーク後端部111bと一体化されて最終的に上部磁極となる。
【0062】ヨーク部115の前端(ABS側端)は、図11(F)に示すように、磁極部111a上に補助磁極部115aとして連接するように形成され、その幅が磁極部111aの上端の幅以上に形成される。補助磁極部115aは、その前端(ABS側)をABS側端まで形成しない方が好ましい。(略)」(発明の実施の形態の項)

3.対比判断
(1)対比
補正後の発明と引用例1に記載された発明とを対比する。
上記2で摘示した記載事項、特に(ア)(エ)(オ)(カ)(下線部参照)によれば、引用例1には、
「薄膜磁気ヘッドの書き込みポール部は、第1のポール部と第2のポール部とをギャップ膜を介して互いに対向させて構成されており、前記第1のポール部、前記ギャップ膜及び前記第2のポール部の積層膜を、フォトリソグラフィによるパターンニング工程によって形成し、次に、前記積層体の両側面に対し、イオンビームミリング等のドライエッチングを施し、縮小されたトラック幅を得る工程を含む薄膜磁気ヘッドの製造方法であって、
薄膜磁気ヘッドは、スライダを含み、スライダの媒体対向面側にレール部を有し、レール部の基体表面がABSとして用いられ、
書き込み素子は、第1のヨーク部と、第1のポール部と、第2のポール部と、第2のヨーク部とを備え、
第1のヨーク部は、基体の上に形成され、
第2のヨーク部は、先端部が前記第2のポール部の上に積層され、
第1のヨーク部及び第2のヨーク部が後方の結合部において、磁気回路を完成するように互いに結合され、
結合部のまわりを渦巻状にまわるように、コイル膜が形成され、
レジストフレームによって画定された内側パターンに、第1のポール部、ギャップ膜及び第2のポール部の積層膜をフレームメッキ法によって形成する、薄膜磁気ヘッドの製造方法。」
の発明が記載されている。

引用例1に記載された発明の「第1のヨーク部」「第2のヨーク部」「基体」は、それぞれ補正後の発明の「下部磁気コア」「第1上部磁気コア」「基板」に相当している。
引用例1に記載された発明の「第1のポール部」「第2のポール部」「ギャップ膜」は、それぞれ補正後の発明の「第1磁性膜」「第2上部磁気コア」「磁気ギャップ膜」に相当している。
引用例1に記載された発明の「イオンビームミリング」は、補正後の発明の「イオン・ミリング」に相当している。
引用例1に記載された発明の薄膜磁気ヘッドは、「スライダを含み、スライダの媒体対向面側にレール部を有し、レール部の基体表面がABSとして用いられ」るので、引用例1に記載された発明の「媒体対向面」は、補正後の発明の「浮上面」に相当している。
引用例1に記載された発明は、「第1のヨーク部及び第2のヨーク部が後方の結合部において、磁気回路を完成するように互いに結合され」ているので、補正後の発明の「下部磁気コアと第1上部磁気コアは後端部で結合され」に相当する構成を備えている。
引用例1に記載された発明は、「レジストフレームによって画定された内側パターンに、第1のポール部、ギャップ膜及び第2のポール部の積層膜をフレームメッキ法によって形成する」ので、補正後の発明の「第1磁性膜と磁気ギャップ膜と第2上部磁気コアをめっき法により連続的にフレームを用いて形成し」に相当する構成を備えている。
そうすると、補正後の発明と引用例1に記載された発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
(一致点) 「基板の上に形成された下部磁気コアと、
第1上部磁気コアと、
第1上部磁気コアと下部磁気コアとの間に形成されたコイルと、
下部磁気コアと第1上部磁気コアの先端部の間に設けられた、第1磁性膜と、非磁性の磁気ギャップ膜と、第2上部磁気コアとを有し、
下部磁気コアと第1上部磁気コアは後端部で結合された磁気ヘッドの製造方法において、
第1磁性膜と磁気ギャップ膜と第2上部磁気コアをめっき法により連続的にフレームを用いて形成し、
イオン・ミリングする、磁気ヘッドの製造方法。」
(相違点1) 補正後の発明は、「第1上部磁気コア」が「浮上面より後退して設けられた」ものであり、「第2上部磁気コア」の形状が「第1上部磁気コアの浮上面側の端面より浮上面側において、第2上部磁気コアの下部における幅は、第2上部磁気コアの上部における幅より小さい」ものであり、「イオンミリングする」際に「第2上部磁気コアが、浮上面において、磁気ギャップ膜に接した面の幅が磁気ギャップ膜とは反対側面の幅より小さくなるようイオンミリングする」と特定しているのに対して、引用例1に記載された発明は、そのように特定していない点。

(2)相違点1についての判断
磁気ギャップを介して互いに対向する下部磁極と上部磁極を含む薄膜磁気ヘッドにおいて、上部磁極の形状を、磁気ギャップ側の第1の端から少なくとも所定距離離れた位置まで等しい幅を有し、かつ磁気ギャップとは反対側の第2の端が前記第1の端の幅より広い幅を有する形状(即ち、磁気ギャップ側の第1の端の幅が、磁気ギャップとは反対側の第2の端の幅より小さい幅を有する形状)に、形成することが、引用例2に記載されている(上記(サ)参照)。そして、引用例2には、上部磁極を、浮上面から見た形状として、磁気ギャップの反対側の第2の端が磁気ギャップ側の第1の端の幅より広い幅を有する形状とすることにより、磁束の入口側の幅が広くなりかつ出口側の幅が狭くなることとなり、オーバーライト特性が大幅に向上すること、及び、磁気ギャップ側の第1の端から少なくとも所定距離離れた位置まで等しい幅を有しているので、磁気ヘッドの実効トラック幅が広がってしまうことがないという作用効果のあることが、記載されている(上記(シ)(ス)参照)。
そして、引用例2には、上部磁極をヨーク部と磁極部とから構成した具体例においては、該ヨーク部をABS(浮上面)側端から後退して形成し、該磁極部を、ABS(浮上面)側端から見た形状として、磁気ギャップとは反対側の第2の端が磁気ギャップ側の第1の端の幅より広い幅を有する形状にすることが記載されている(上記(タ)、図11参照)。即ち、該磁極部を、磁気ギャップとは反対側の第2の端でより幅が広くなるように形成することで、ヨーク部との接触面積が大きくなる作用効果を奏することが示されている。
また、上記形状を形成する方法として、フレームめっき法が例示されていると共に、ミリング法を用いることも、引用例2には示されている(上記(ソ)参照)。
そうすると、引用例1に記載された発明の、フレームめっきをしてイオンミリングする磁気ヘッドの製造方法において、上部磁極である「第1上部磁極」及び「第2上部磁極」の形状として、トラック幅の狭小化及び磁路の改善のため、引用例2に記載された上部磁極の形状を採用することは、当業者が容易に想到しうることである。
そして、補正後の発明の効果は、引用例1乃至2に記載された発明から予測される範囲内であるので、上記相違点に格別の困難性を要したものではない。

(3)請求人の主張について
請求人は、請求の理由及び平成18年7月26日付け上申書において、(ア)引用例1には、本願の特徴である、第2上部磁気コアの磁気ギャップ側の幅を、磁気ギャップと反対側の幅より小さくする発想がなく、むしろサイドフリンジングの抑制のためそのような構成を否定しているので、引用例1に記載された発明に上部磁気コアの幅を変える技術を結びつけることには阻害要因があること、(イ)引用例1の、フレームめっき法で下部磁極・ギャップ・上部磁極を形成する技術と、上部磁極の幅を変える技術とを結びつける動機付けがないこと、(ウ)本願は、第1磁性膜と磁気ギャップ膜と第2上部磁気コアの積層膜をフレームめっき法で形成することにより相対的に磁気ギャップの奥行き方向長さが長くなり磁界が弱くなるという問題を解決するものであり、第2上部磁気コアと第1上部磁気コアとの接続部が広がり、磁気ギャップ幅を狭くしても高い記録磁界が確保できるという効果があること、(エ)引用例2では、磁気ギャップ膜を絶縁材料で形成しているから、引用例2の技術を、引用例1のフレームめっき(ギャップ膜が金属)による技術と組み合わせるには、阻害要因があること、を主張している。
しかしながら、引用例1において、サイドフリンジングは、磁気ギャップを挟む上下のポール部の側面の磁束の漏洩に関するものであり、特に下のポール部の形状との関係でサイドフリンジングを抑制するものであって、阻害要因にはならないので、請求人の主張(ア)は採用できない。
また、引用例2には、上部磁極の形状を、磁気ギャップとは反対側の第2の端が磁気ギャップ側の第1の端の幅と同じである従来の形状から、該第2の端がより広い幅を有する形状とすることにより、磁路の抵抗の改善及びヨーク部との接続面積を大きくする作用効果を奏することが示され、かつ、磁気ギャップ側近傍の一定範囲では同一幅として、磁気ギャップ側とは反対側でのみ広い幅とすることにより、実効トラック幅が広がらないように即ちサイドフリンジングを抑制しながらヨーク部との接続面積を大きくする作用効果を奏することが示されている(上記(サ)(シ)(ス)参照)。そして、引用例1と引用例2とは、下部磁極・ギャップ・上部磁極の構造において共通するのであるから、引用例1に記載された発明の上部磁極の形状として、引用例2の上部磁極の形状を採用することは当業者であれば適宜なし得ることである。よって、請求人の主張(イ)は採用できない。
また、請求人は、本願は、第1磁性膜と磁気ギャップ膜と第2上部磁気コアの積層膜をフレームめっき法で形成することによって生じる特有の問題を解決するものであると主張しているが、本願の明細書には、上記特有の問題及びこれを解決する旨の記載はなく、また請求人が相対的に磁気ギャップの奥行き方向長さが長くなる根拠とする図3及び図4は、寸法を正確に図示しているものでなく、当初からその長さの違いを表現することを意図して図示されているものでもなく、根拠とはなりえない。そして、引用例2には、上部磁極の形状の改良という点で、磁気ギャップを挟む上下の磁極から構成される磁気ヘッドに共通して、形成方法にかかわらず採用できること(上記(ソ)等参照)が示されているのであるから、引用例1に記載された発明のように積層膜をフレームめっき法で形成するものにおいて採用することは当業者が容易に想到しうることである。また、接続面積を大とできるという作用効果は、引用例2の記載から予測しうるものであり、請求人の主張(ウ)は採用できない。
また、引用例2は、上部磁極の幅を従来例から改善することにより作用効果を奏するものであって、磁気ギャップ膜の材料によらないものであるから、引用例2で例示されている材料が絶縁材料であっても、引用例2で示されている形状を引用例1に記載された発明において採用することに、何ら阻害要因はなく、請求人の主張(エ)は採用できない。

4.むすび
以上のとおり、補正後の発明は、本願出願前に頒布された引用例1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成18年3月14日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1乃至5に係る発明は、平成17年6月9日付け手続補正の特許請求の範囲の請求項1乃至5に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項3に記載された発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2の1の(a)」のとおりである。

1.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1及び2の記載事項は、上記「第2の2」に記載されたとおりである。

2.対比判断
本願発明は、上記「第2の3」で検討した補正後の発明から、「磁気ヘッド」についての限定事項である「前記第1上部磁気コアの浮上面側の端面より浮上面側において、前記第2上部磁気コアの下部における幅は、前記第2上部磁気コアの上部における幅より小さい」との構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する補正後の発明が、上記「第2の3」に記載したとおり、引用例1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
以上のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された引用例1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。他の請求項を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-07-11 
結審通知日 2008-07-15 
審決日 2008-07-28 
出願番号 特願2000-313118(P2000-313118)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
P 1 8・ 575- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 達也石坂 博明  
特許庁審判長 小林 秀美
特許庁審判官 吉川 康男
横尾 俊一
発明の名称 誘導型薄膜磁気ヘッド  
代理人 井上 学  

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