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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20061033 審決 特許
不服20057335 審決 特許
不服200517013 審決 特許
不服200524083 審決 特許
不服200013562 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1185032
審判番号 不服2006-13980  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-07-03 
確定日 2008-09-12 
事件の表示 特願2001-507467「高選択的ノルエピネフリン再取込みインヒビターおよびその使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 1月11日国際公開、WO01/01973、平成15年 1月28日国内公表、特表2003-503450〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成12年6月22日(パリ条約による優先権主張1999年7月1日,米国)の出願であって,平成18年3月23日付けで拒絶査定がなされ,これに対し同年7月3日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同年8月2日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成18年8月2日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年8月2日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,
「【請求項1】 ノルエピネフリン再取込みの選択的阻害は望まれるが,セロトニン再取込みの阻害は望まれない慢性疼痛の治療または予防のための医薬組成物であって,該組成物は存在する(S,S)および(R,R)レボキセチンの総重量に基づき,少なくとも90重量%の場合により医薬上許容される塩の形態の(S,S)-レボキセチン,および10重量%未満の場合により医薬上許容される塩の形態の(R,R)-レボキセチンを含むことを特徴とする上記医薬組成物。」
と補正された。

上記補正は,請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「医薬組成物」の用途を「慢性疼痛の治療または予防」に限定するものであって,特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用文献の記載
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先日前に頒布されたことが明らかな特開昭61-129174号公報(以下,「引用文献1」という。),「European Neuropsycopharmacology, 1997, Vol.7, Suppl.1, p.S23-S35」(以下,「引用文献3」という。),「Journal of Clinical Psychiatry, 1998, Vol.59, Suppl.14, p.4-7」(以下,「引用文献7」という。),「Journal of Affective Disorders, 1998, Vol.51, p.313-322」(以下,「引用文献8」という。)には,以下の記載がある。

引用文献1の主な記載事項
(1-a)「(+)2-〔α-(2-エトキシ-フェノキシ)-ベンジル〕-モルホリンである特許請求の範囲第5項記載の化合物またはその薬学的に許容しうる塩。」(特許請求の範囲第9項)
(1-b)「活性成分としての特許請求の範囲第1?11項のいずれかに記載の化合物および薬学的に許容しうる担体および/または希釈剤を含む薬学的組成物。」(特許請求の範囲第14項)
(1-c)「本発明の化合物が中枢神経系に対して活性であり,特に抗うつ剤として活性であることはたとえば本発明の化合物が生理学的に活性なモノアミン類の取り込みを遮断することによりそれらの濃度を高める能力を有し,…。
…。
その濃度が本発明の化合物により高められる生理学的に活性なモノアミンとしてはセロトニン,ノルエピネフリンおよびドーパミンがあげられる。
本発明の化合物の抗うつ活性はまたそれらがマウスにおけるレセルピンで誘発された眼瞼痙攣および低体温症の抑制に対して活性であるという事実により証明される。
…。」(第8頁左上欄第4行-第9頁左上欄第6行)
(1-d)「実施例2
…(+)2S,3S-2-〔α-(2-エトキシ-フェノキシ)-ベンジル〕-モルホリンメタンスルホン酸塩(13.05g)が得られる。…。
…。
(±)RS,RSラセミ形から得られた(+)2S,3S-および(-)2R,3R-2-〔α-(2-エトキシ-フェノキシ)-ベンジル〕-モルホリンメタンスルホン酸塩の光学純度は下記のようにして決定される。
無水トルエン(40ml)中(+)2S,3S-2-〔α-(2-エトキシ-フェノキシ)-ベンジル〕-モルホリン塩基(1g)(対応する(±)RS,RSジアステレオ異性体から得られる。)およびトリエチルアミン(0.90ml)の溶液に温度10℃で急激に攪拌しながら無水トルエン(10ml)中のL(-)メントキシ-アセチル-クロリド(0.80ml)を滴加する。室温で1時間攪拌したのちその反応は完結する。この反応混合物を水洗し,硫酸ナトリウムで乾燥し,そして真空下で蒸発乾固する。
…。
そのようにして得られた2種のジアステレオ異性体アミドをそれぞれ高速液体クロマトグラフイー(HPLC)の技術…により分析すると保持時間(R.T.)はそれぞれ15,13分および17,23分であつた。
両方の場合に結果は相対純度≧98.5%であり,このことから(+)および(-)鏡像異性体の両方に対して光学純度≧97%を推定することができる。」(実施例2)
(1-e)「実施例13
それぞれ重量200mgを有し,そしてぞれぞれ活性成分5mgを含有する錠剤は下記の方法で製造される。
組成(10,000錠に対して)
(+)2S,3S-2-〔α-(2-エト
キシ-フェノキシ)-ベンジル〕
-モルホリンメタンスルホン酸塩 50g
(±)RS,RSラセミ形から誘導された
デキストロ(+)鏡像異性体
乳糖 1,430g
…。
(+)2S,3S-2-〔α-(2-エトキシ-フェノキシ)-ベンジル〕-モルホリンメタンスルホン酸塩,…圧縮し錠剤を製造する。」(実施例13)

引用文献3の主な記載事項
(3-a)「人及び動物モデルにおける,選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害剤であるレボキセチンの薬物動態及び代謝についてここにレビューする。レボキセチンは,強い抗うつ活性を有し,アルファアドレナリン及びムスカリン受容体に対して低い親和性を持ち,動物での毒性は低い。これは(R,R)及び(S,S)エナンチオマーの混合物であり,後者はより強力であるが,両者の間に,薬力学的性質において質的な違いは観察されなかった。」(要約第1-4行)(審決注 ノルアドレナリンとはノルエピネフリンのこと。)
(3-b)「レボキセチン,すなわち(RS)-2-[(RS)-α-(2-エトキシフェノキシ)ベンジル]モルホリンメタンスルホネートは,新規化学物質であり,最近いくつかの国で抗うつ剤として承認された。」第S23頁左欄第1?4行
(3-c)「レボキセチンは,選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害剤であることが示されており,」第S23頁左欄第9?11行
(3-d)「レボキセチンの強力な抗うつ活性は,最初,ハツカネズミでの2つの試験で明らかにされた。・・・」第S23頁右欄第12-17行
(3-e)「MAO-A活性に対してレボキセチンの影響が無いことは,ラットの脳のホモジェネートを用いたインビトロで確認された・・・。MAO-Bに対するレボキセチンの非常に弱い阻害活性は,生理学上重要なことではないと信じられている。」第S24頁左欄第10?17行
(3-f)「(S,S)エナンチマーは,その鏡像異性体に比べて,マウスにおけるレスペリン誘発眼瞼痙攣の抑制(ED_(50)はそれぞれ0.56,11.64mg/kgp.o.)及びノルアドレナリンの再取り込み抑制(IC_(50)はそれぞれ3.6nM,85nM)のいずれにおいても,より強力である。」第S24頁右欄第11?16行
(3-g)「レボキセチンはノルアドレナリン再取り込みの選択的な阻害剤であるので,レボキセチンは,MAO-Aに選択的な,あるいは混合MAOに対する阻害剤と遊離に併用されるであろう。さらに,レボキセチンのノルアドレナリン再取り込み機構に対する高い選択性は,MAO阻害剤やセロトニン再取り込み阻害剤,さらに頻繁にはそれらの併用において報告されている致命的となる可能性のある合併症である’主要なセロトニン症候群’をレボキセチン治療を受ける患者で引き起こすことはないに違いない。」第S33頁左欄第5?15行

引用文献7の主な記載事項
(7-a)「レボキセチンは,予想された抗うつ特性について,薬理学的および生物学的試験において抗うつ効果が証明された,珍しい選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害剤(NRI)である。」アブストラクト第1?2行
(7-b)「ノルアドレナリン機構に焦点を絞った研究により,選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害剤(NRI)としては初めてのものであるレボキセチンが開発された。・・・。これは,旧来の三環式抗うつ剤に伴う典型的な副作用を免れるものであり,それ故に,セロトニン及びドーパミン再取り込み部位に親和性がないだけでなく,ムスカリン,ヒスタミン,あるいはアドレナリン受容体に対するいかなる親和性からも免れるものである。」第4頁左欄第8行-右欄第4行
(7-c)図2,図3として,レボキセチンの抗うつ薬としての臨床試験データが示されている。

引用文献8の主な記載事項
(8-a)「選択的ノルエピネフリン再取込み阻害剤であるレボキセチンの出現は,レボキセチンは鎮静剤でなく,また,体重増加を伴わず,そして過剰投与において安全であるので,これらの問題の幾つかを我々が未然に防ぐことに役立つであろう。」第314頁右欄第22-26
(8-b)「レボキセチンは,ヴィロキサジン由来の選択的ノルエピネフリン再取り込み阻害剤である。以前のノルエピネフリン再取り込み阻害剤,クレシプラミン,マプロチリン,およびロフェプラミンとは異なり,それはノルエピネフリン再取り込み部位以外のヒスタミン性もしくはコリン性受容体,またはアドレナリン性受容体において有意な影響は与えない。」第314頁右欄第36-42行
(8-c)「これは(審決注 レボキセチンのこと)は,5HT(審決注 セロトニンのこと)の再取り込みを阻害する性質が無いという長所のため,他の向精神性薬剤との併用に有用である可能性がある。」第315頁左欄第17-22行
(8-d)「2.1.レボキセチン:臨床試験」の項には,レボキセチンの臨床試験が記載されている。
(8-e)「対照的に,ノルエピネフリン再取り込み阻害剤(複数)は,うつ病性障害に有用であり,パニック障害に対しても有用である可能性がある一方,それらは,注意欠陥多動性障害および疼痛症候群を含む異なるスペクトルの疾患に,SSRI(複数)(審決注 選択的セロトニン再取り込み阻害剤のこと)よりも有用であろう。」第318頁左欄下から第15?10行

(3)対比・判断
引用文献1の特許請求の範囲第14項に「活性成分としての特許請求の範囲第1?11項のいずれかに記載の化合物および薬学的に許容しうる担体および/または希釈剤を含む薬学的組成物。」が記載され(摘示事項(1-b)),その活性成分として,「(+)2-〔α-(2-エトキシ-フェノキシ)-ベンジル〕-モルホリン」が同第9項(摘示事項(1-a))に記載されている。そして,実施例2として,「相対純度が98.5%以上の(+)2S,3S-2-〔α-(2-エトキシ-フェノキシ)-ベンジル〕-モルホリン」が製造され(摘示事項(1-d)),実施例13として,このものを活性成分とする錠剤が記載されている(摘示事項(1-e))。
そうすると,引用文献1には,「活性成分としての相対純度98.5%以上の(+)2S,3S-2-〔α-(2-エトキシ-フェノキシ)-ベンジル〕-モルホリンおよびその薬学的に許容しうる塩,並びに薬学的に許容しうる担体および/または希釈剤を含む薬学的組成物。」の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

本願補正発明1と引用発明とを対比する。なお,文献によりノルエピネフリンはノルアドレナリンと表記されているが,以下,ノルエピネフリンとの表記に統一して記載する。
引用発明の「(+)2S,3S-2-〔α-(2-エトキシ-フェノキシ)-ベンジル〕-モルホリン」,「(-)2R,3R-2-〔α-(2-エトキシ-フェノキシ)-ベンジル〕-モルホリン」は,それぞれ,本願補正発明1の「(S,S)-レボキセチン」,「(R,R)-レボキセチン」のことである。
そして,引用発明でいう「相対純度」とは,「(+)2S,3S-2-〔α-(2-エトキシ-フェノキシ)-ベンジル〕-モルホリン」とそれに少量混在する鏡像異性体である「(-)2R,3R-2-〔α-(2-エトキシ-フェノキシ)-ベンジル〕-モルホリン」を併せたもののうちの,前者(+)体の割合を%で表したものである(摘示事項(1-d))。そうすると,後者(-)体の相対純度は1.5%未満となる。 また,(+)2S,3S-2-〔α-(2-エトキシ-フェノキシ)-ベンジル〕-モルホリンと,その鏡像異性体の分子量は同じであるから,相対純度の%と重量%は同じ値になる。
そうすると,両発明は,「医薬組成物であって,該組成物は存在する(S,S)および(R,R)レボキセチンの総重量に基づき,98.5重量%以上の場合により医薬上許容される塩の形態の(S,S)-レボキセチン,および1.5重量%未満の場合により医薬上許容される塩の形態の(R,R)-レボキセチンを含むことを特徴とする上記医薬組成物。」である点で一致し,本願補正発明1が「ノルエピネフリン再取込みの選択的阻害は望まれるが,セロトニン再取込みの阻害は望まれない慢性疼痛の治療または予防のための」ものであるのに対し,引用発明には,このような医薬用途が記載されていない点,で相違する。

以下,この相違点について検討する。
引用発明は,(S,S)-レボキセチンを有効成分とする医薬組成物に関するものであり,引用文献1には,医薬用途としては抗うつ剤などに使用できるものであることが記載されている(摘示事項(1-c))。

一方,(S,S)-レボキセチンに関して,レボキセチンに関する総説である引用文献3には,レボキセチンが,(R,R)及び(S,S)-レボキセチンの混合物であり,選択的ノルエピネフリン再取り込み阻害剤であり,抗うつ薬に使用でき,いくつかの国で抗うつ剤として承認されたこと(摘示事項(3-a)?(3-d)),そして,(S,S)-レボキセチン自体について,(R,R)-レボキセチンに比べて,マウスにおけるレスペリン誘発眼瞼痙攣の抑制作用及びノルエピネフリンの再取り込み抑制作用のいずれにおいても,より強力であることが具体的な実験データとともに記載されている(摘示事項(3-f))。
ここで,レスペリン誘発眼瞼痙攣の抑制作用は抗うつ剤としての効果を調べるための試験項目であるから,引用文献3には,(S,S)-レボキセチンが,ノルエピネフリン再取り込み阻害剤であり,抗うつ剤として使用できること,ノルエピネフリン再取り込み阻害剤,抗うつ剤として(R,R)-レボキセチンに比べて,より強力であることが記載されているといえる。

また,(R,R)及び(S,S)-レボキセチンの混合物である「レボキセチン」については,引用文献3には,上記の記載の加え,レボキセチンは高い選択性を有するので,レボキセチンの投与において,'主要なセロトニン症候群’を合併症として引き起こすことはないに違いないと述べられている(摘示事項(3-g),(3-e))。
また,レボキセチンに関する総説である引用文献7には,レボキセチンが選択的ノルエピネフリン再取り込み阻害剤であること,抗うつ効果が証明されていること,セロトニン再取り込み部位に対する親和性がないことが記載されている(摘示事項(7-a)?(7-c))。
さらに,レボキセチンに関する研究報告である引用文献8には,レボキセチンが選択的ノルエピネフリン再取込み阻害剤であること,抗うつ効果の臨床試験,セロトニンに対する親和性がないことが記載されている。
そして,ノルエピネフリン再取り込み阻害剤(複数)は,抗うつ剤であるとともに,注意欠陥多動性障害および疼痛症候群を含む異なるスペクトルの疾患に有用であろうと記載されている(摘示事項(8-a)?(8-e)。

してみると,上記のとおり,引用文献3には,(S,S)-レボキセチンが,ノルエピネフリン再取り込み阻害剤であり,抗うつ剤として使用できることが記載されており,一方,引用文献8には,ノルエピネフリン再取り込み阻害剤は,抗うつ剤であるとともに,疼痛症候群の疾患に有用であることとが示唆されているのであるから,ノルエピネフリン再取り込み阻害剤であり,抗うつ剤として使用できる(S,S)-レボキセチンが,疼痛症候群の疾患に有効であることは当業者が容易に予測し得ることである。
そして,引用文献3,7,8に記載されているとおり,(R,R)及び(S,S)レボキセチンのラセミ混合物である「レボキセチン」は,高い選択性を有するノルエピネフリン再取り込み阻害剤であり,セロトニン再取り込み部位に対する親和性がないものである。そして,引用文献3には,高い選択性を有する「レボキセチン」は,'主要なセロトニン症候群’を引き起こさないものであることが記載されている。さらに,引用文献3には,レボキセチンのエナンチオマー間に,薬力学的性質において質的な違いは観察されなかったことが記載されている(摘示事項(3-a))のであるから,(S,S)-レボキセチンが,セロトニン再取り込み部位に対する親和性がなく,高い選択性を有し,'主要なセロトニン症候群’を引き起こさないことも,当業者が容易に予測し得ることである。
したがって,引用発明の医薬組成物の用途を,「ノルエピネフリン再取込みの選択的阻害は望まれるが,セロトニン再取込みの阻害は望まれない慢性疼痛の治療または予防のための」ものとすることは当業者が容易に想到し得ることである。

また,上記のとおり,(S,S)-レボキセチンは,'主要なセロトニン症候群’を引き起こさないと容易に予測し得るのであるから,(S,S)-レボキセチンを有効成分とする本願補正発明1が,セロトニン再取り込み阻害により引き起こされる副作用を生ぜしめる可能性が低いことも当業者が容易に予想し得ることである。
なお,請求人は,本願補正発明1は副作用が極めて低い点で格別な効果を奏するものである旨主張するが,本願明細書には,段落【0071】に【表1】として,セロトニン/ノルエピネフリンのK_(i)の選択性のデータは記載されているが,慢性疼痛の治療または予防のための医薬組成物の発明である本願補正発明1の効果である治療または予防効果,副作用については一切具体的な記載は無く,請求人の主張は採用することはできない。

したがって,本願補正発明1は,引用文献1,3,7及び8に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
以上のとおり,本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正は,特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり,特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成18年8月2日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?12に係る発明のうち,請求項1に係る発明(以下,「本願発明1」という。)は,平成18年2月22日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。

「【請求項1】 ノルエピネフリン再取込みの選択的阻害は望まれるが,セロトニン再取込みの阻害は望まれない慢性疼痛,失禁,偏頭痛,線維筋痛症もしくは他の身体表現性障害,末梢性神経障害,または慢性疲労症候群の治療または予防のための医薬組成物であって,該組成物は存在する(S,S)および(R,R)レボキセチンの総重量に基づき,少なくとも90重量%の場合により医薬上許容される塩の形態の(S,S)レボキセチン,および10重量%未満の場合により医薬上許容される塩の形態の(R,R)レボキセチンを含むことを特徴とする上記医薬組成物。」

(1)引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献及びその記載事項は,前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明1は,本願補正発明1と発明を特定するために必要な事項である「医薬組成物」の用途が,本願補正発明1における「医薬組成物」の用途である「慢性疼痛の治療または予防」を含む「慢性疼痛,失禁,偏頭痛,線維筋痛症もしくは他の身体表現性障害,末梢性神経障害,または慢性疲労症候群の治療または予防」である点においてのみ相違し,本願発明1は,本願補正発明1を含むものである。
そうすると,本願発明1に含まれる本願補正発明1が,前記「2.(3) 対比・判断」の項に記載したとおり,引用文献1,3,7及び8に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用文献1,3,7及び8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり,本願発明1は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-05-29 
結審通知日 2007-06-05 
審決日 2007-06-18 
出願番号 特願2001-507467(P2001-507467)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61K)
P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小堀 麻子  
特許庁審判長 塚中 哲雄
特許庁審判官 穴吹 智子
谷口 博
発明の名称 高選択的ノルエピネフリン再取込みインヒビターおよびその使用方法  
代理人 高木 千嘉  

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