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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1185063
審判番号 不服2007-1893  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-01-18 
確定日 2008-09-26 
事件の表示 平成 9年特許願第 17680号「潤滑プレートを備えた直動案内ユニット」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 8月 4日出願公開、特開平10-205534〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成9年1月17日の出願であって、平成18年11月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年1月18日に審判請求がなされるとともに、平成19年2月9日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成19年2月9日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年2月9日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)本件補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】 長手方向両側面に軌道溝が形成された軌道レール及び前記軌道レール上を相対摺動するスライダから成る直動案内ユニットにおいて,
前記スライダは,前記軌道レールの前記軌道溝に対向して形成された軌道溝を備えたケーシング,前記軌道溝間を転走する転動体,前記ケーシングの両端面にそれぞれ固定されたエンドキャップ,前記エンドキャップの端面に取り付けられた潤滑プレート及び前記潤滑プレートの端面に取り付けられたエンドシールを具備し,
前記潤滑プレートは,高密度ポリエチレン樹脂の微粒子を所定の金型に充填して加熱成形して作製された多孔質構造を有する焼結樹脂部材と,前記焼結樹脂部材の前記多孔質構造の前記微粒子間に形成された多孔部に含浸された潤滑油とから構成され,前記軌道レールの前記軌道溝に摺接する内方に突出した凸部を備え前記軌道レールに対して相対移動することを特徴とする直動案内ユニット。
【請求項2】 長手方向両側面に軌道溝が形成された軌道レール及び前記軌道レール上を相対摺動するスライダから成る直動案内ユニットにおいて,
前記スライダは,前記軌道レールの前記軌道溝に対向して形成された軌道溝を備えたケーシング,前記軌道溝間を転走する転動体,前記ケーシングの両端面にそれぞれ固定されたエンドキャップ,前記エンドキャップの端面に取り付けられた潤滑プレート及び前記潤滑プレートの端面に取り付けられたエンドシールを具備し,
前記潤滑プレートは,合成樹脂の微粒子を所定の金型に充填して加熱成形して作製された多孔質構造を有する焼結樹脂部材と,前記焼結樹脂部材の前記多孔質構造の前記微粒子間に形成された多孔部に含浸された潤滑油とから構成され,前記軌道レールの前記軌道溝に摺接する内方に突出した凸部を備え前記軌道レールに対して相対移動し,
前記潤滑プレートは,少なくとも前記軌道レールの前記軌道溝に対向する部分が他の部分より多孔質の目が細かい密部分に形成され,前記他の部分が前記軌道溝に対向する部分より多孔質の目が粗い粗部分に形成されていることを特徴とする直動案内ユニット。
【請求項3】 前記潤滑プレートは,少なくとも前記軌道レールの前記軌道溝に対向する内周面が気孔が外気と通じている開放状態の多孔質表面に形成され,他の部分の表面が気孔が閉じた無孔質表面に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の直動案内ユニット。
【請求項4】 前記潤滑プレートは,上面と前記軌道レールの前記軌道溝に対向する内周面とが気孔が外気と通じている開放状態の多孔質表面に形成され,他の部分の表面が気孔が閉じた無孔質表面に形成されていることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項5】 前記潤滑プレートは,上面に開口した上部内に潤滑油を収容できる潤滑油収容室が形成されていることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項6】 前記潤滑プレートには,前記エンドキャップに設けられたグリースニップル又は潤滑油供給管継ぎ手に対応する部分が切りかかれていることを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項7】 前記潤滑プレートには,側面と上面を被覆できる弾性薄板から成るカバーが設けられていることを特徴とする請求項1?6のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項8】 長手方向両側面に軌道溝が形成された軌道レール及び前記軌道レール上を相対摺動するスライダから成る直動案内ユニットにおいて,
前記スライダは,前記軌道レールの前記軌道溝に対向して形成された軌道溝を備えたケーシング,前記軌道溝間を転走する転動体,前記ケーシングの両端面にそれぞれ固定されたエンドキャップ,前記エンドキャップの端面に取り付けられた潤滑プレート及び前記潤滑プレートの端面に取り付けられたエンドシールを具備し,
前記潤滑プレートは,合成樹脂の微粒子を所定の金型に充填して加熱成形して作製された多孔質構造を有する焼結樹脂部材と,前記焼結樹脂部材の前記多孔質構造の前記微粒子間に形成された多孔部に含浸された潤滑油とから構成され,前記軌道レールの前記軌道溝に摺接する内方に突出した凸部を備え前記軌道レールに対して相対移動し,
前記潤滑プレートは,前記軌道レールの両側面に対応する部分に前記潤滑油が含浸された前記焼結樹脂部材が二分割された潤滑プレート部分から成り,前記潤滑プレート部分は前記軌道レールの上方に位置する支持プレートで互いに連結されていることを特徴とする直動案内ユニット。
【請求項9】 前記エンドシール,前記潤滑プレート,及び前記エンドキャップを前記ケーシングに固定するためのボルトは,前記エンドシール及び前記エンドキャップを挿通すると共に前記潤滑プレートに形成された切欠き部に配置されたカラーを挿通して前記ケーシングのボルト穴に螺入されていることを特徴とする請求項1?8のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項10】 前記エンドキャップ及び前記潤滑プレートの変形を防止するため,前記潤滑プレートと前記エンドキャップとの間には,間座が配置されていることを特徴とする請求項1?9のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。」と補正された。
本件補正は、請求項1についてみると、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「合成樹脂の微粒子」を「高密度ポリエチレン樹脂の微粒子」と減縮するものであって、平成15年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(2)引用例
(2-1)引用例1
特開平8-200362号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「【産業上の利用分野】本発明は、リニアガイド装置に係り、特に、その構成部品であるシール装置から、スライダ内を転動する多数の転動体に対して長期にわたり潤滑剤を自動的に供給することを可能とした潤滑剤含有ポリマ潤滑方式のリニアガイド装置に関する。」(段落【0001】参照)
(い)「【実施例】以下に、本発明の実施例を図面を参照して説明する。なお、従来と同一ないし相当部分には同一の符号を付してある。まず、本実施例のリニアガイド装置の全体の構造について説明する。図1、図2において、角形の案内レール1上に横断面形状がほぼコ字形のスライダ2が軸方向に相対移動可能に跨架されている。スライダ2の本体2Aの軸方向の両端部にはエンドキャップ2Bが着脱可能に固着されている。この実施例の場合、案内レール1の上面1aと両側面1bが交叉する稜線部に、断面ほぼ1/4円弧形状の軸方向の凹溝からなる一方の転動体転動溝13が形成されると共に、案内レールの両側面1b中間位置に断面ほぼ半円形の他方の転動体転動溝3が形成されている。転動体転動溝3の溝底には、スライダ2を案内レール1に組み付けない状態での転動体Bの脱落を防ぐ保持器14の逃げ溝16が形成されている。
これに対して、スライダ2の本体2Aの両袖部4の内側のコーナ部に、案内レール1の一方の転動体転動溝13に対向する断面ほぼ半円形の負荷転動体転動溝18が形成され、スライダ袖部4の内側面の中央部に案内レール1の他方の転動体転動溝3に対向する断面ほぼ半円形の負荷転動体転動溝19が形成されている。上記の案内レールの転動体転動溝13とスライダの負荷転動体転動溝18とで負荷転動体転動路21が構成され、案内レールの転動体転動溝3とスライダの負荷転動体転動溝19とで負荷転動体転動路22が構成されている。
また、スライダ本体2Aの肉厚の袖部4の上部には、負荷転動体転動溝18に平行な軸方向の断面円形の貫通孔からなる転動体戻し路23が形成され、袖部4の下部に、転動体転動溝3に平行する同様の軸方向貫通孔からなる転動体戻し路24が形成されている。25はエンドキャップ2B取付け用のねじ穴である。エンドキャップ2Bは、合成樹脂材の射出成形品で、断面ほぼコ字状に形成されている。そして、スライダ本体2Aとの接合面(裏面)には、図3に示すように、両袖部分に斜めに傾斜した半円状の上凹部31と下凹部32が上下に形成されるとともに、各半円状の凹部31,32の中心部を横断して半円柱状の凹溝33が設けてある。その半円柱状の凹溝33に、図示しない半円筒状のリターンガイドを嵌合することにより、エンドキャップ2Bの裏面には断面円形の半ドーナツ状の湾曲路が上下二段に形成される。そのエンドキャップ2Bをスライダ本体2Aに取り付け、前記半ドーナツ状の湾曲路で、スライダ本体2Aの負荷転動体転動溝18と転動体戻し路23とを連通させる。下段の負荷転動体転動溝19と転動体戻し路24も同様に連通させる。
上記の負荷転動体転動溝18(19),転動体戻し路23(24)及びその両端の湾曲路で転動体無限循環経路が構成される、その経路内に多数の転動体Bが転動自在に挿入されている。続いて、上記のリニアガイド装置のスライダ2と案内レール1との間のすき間の両サイドの開口をシールするシール装置について述べる。
この実施例のシール装置であるサイドシール40は、エンドキャップ2Bの外形に合わせたほぼコ字形状の冷延鋼板(SPCC材)にポリオレフィン系合成樹脂であるポリエチレンを被覆してなる補強板42の外表面に、潤滑剤含有ポリマ部材43を一体成形で接合して形成したものである。その潤滑剤含有ポリマ部材43は、低分子量ポリエチレン(三菱油化製,PZ50U)21重量%と超高分子量ポリエチレン(三井石油化学製,ミペロンXM220)9重量%からなるポリエチレンに、潤滑剤としてパラフィン系鉱油(日本石油製,FBK RO100)70重量%を含有させたものを原料とし、これを射出成形機を用い一度可塑化(溶解)させた後、所定の金型に注入して加圧しつつ冷却固化させて成形されている。この成形時、適当な温度に保持された所定の金型のキャビティ内に、予め前記補強板42を挿入し固定しておく。その後、そのキャビティ内に、可塑化した潤滑剤含有ポリマ部材43の原料を射出成形機で注入してキャビティ形状に成形した。これにより、補強板42の被覆ポリエチレンと潤滑剤含有ポリマ部材43のポリエチレン同志が一体化されて、補強板42と潤滑剤含有ポリマ部材43とを強固に接合することができた。
こうして形成したサイドシール40は、ほぼコ字状の潤滑剤含有ポリマ部材43の内周が補強板42の内周よりも内側に張出しており、案内レール1の上面1a及び外側面1b面に摺接する。更に、内側に向けて、案内レール1の片側2条づつの転動体転動溝3,13に摺接させるべく溝形状に合致させた形状の溝内摺動突起44a,44bがそれぞれ突設されている。一方、サイドシール40の板面には、エンドキャップ2Bへの取付け孔45が二個と、グリースニップル取付け孔46が一個設けてある。
図5に示すように、サイドシール40の外側に補強用サイドシール49として従来のサイドシールを取り付けるか、又は金属プレートであるプロテクタ50を取り付ける場合には、エンドキャップ2Bへの取付け孔45にリング状間座47が装着される。補強用サイドシール49とプロテクタ50はサイドシール40を補強する機能を有する。補強用サイドシール49は、ほぼコ字状の金属板の内周に突出したゴム製シール材を固着してなり、案内レール1とスライダ2の対向面のすき間の前後の開口をシールしスライダ2の前後からの塵埃の侵入を阻止する機能をも有し、サイドシール40との併用でダブルシールを形成する。」(段落【0022】?【0028】参照)
以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「両側面1b中間位置に転動体転道溝3が形成された案内レール1及び前記案内レール1上を相対移動可能に跨架されているスライダ2から成るリニアガイド装置において,
前記スライダ2は,前記案内レール1の前記転動体転道溝3に対向して形成された負荷転動体転道溝19を備えた本体2A,前記転道溝3,19間を転走する転動体B,前記本体2Aの両端面にそれぞれ固定されたエンドキャップ2B,前記エンドキャップ2Bの端面に取り付けられたサイドシール40及び前記サイドシール40の端面に取り付けられた補強用サイドシール49を具備し,
前記サイドシール40は,エンドキャップ2Bの外形に合わせたほぼコ字形状の冷延鋼板(SPCC材)にポリオレフィン系合成樹脂であるポリエチレンを被覆してなる補強板42の外表面に潤滑剤含有ポリマ部材43を一体成形で接合して形成したものであり、前記案内レール1の前記転動体転道溝3に摺接させるべく溝形状に合致させた形状の溝内摺動突起44a,44bが突設されているリニアガイド装置。」
(2-2)引用例2
特開平8-19210号公報(以下、「引用例2」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(か)「【産業上の利用分野】この発明は、軸を支持する軸受を有する軸受装置に関するものである。」(段落【0001】参照)
(き)「【実施例】以下、本発明の軸受装置を電動機に用いた実施例について説明する。
実施例1.図1において、20は電動機の軸で、多孔質の含油素材により構成された軸受21によって支持されている。軸受21は、本実施例では焼結金属により構成され、保持部材としての円形の上プレート22及び中プレート23並びにブラケット23によって電動機2の筐体2に保持されている。上プレート22及び中プレート23には孔25が4箇所それぞれ設けられている。
軸受21の外周側には、円環状の焼結樹脂により構成された潤滑油を含んだ第1の部材としての樹脂部材26が当接しており、この焼結樹脂は焼結金属と同様の製造方法即ち、粒状樹脂を加熱,圧縮することにより製造され、細かい小孔を多数有し、この小孔内部に潤滑油を予め含ませてある。
27は第2の部材としての樹脂部材で、樹脂部材26と同一の材質により形成されている。樹脂部材27は、中プレート23の孔25を貫通する凸部28を上面に4箇所有し、下プレート29に保持されている。凸部28の先端は、樹脂部材26に形成された対応する位置にある凹部30に嵌合するようにしてある。30は樹脂部材26,27と同一の材質からなる樹脂部材で、上プレート22の孔25を貫通する凸部32を下端に4箇所有し、上プレート22及びブラケット24に保持されている。また、この凸部32も凸部25と同様にその先端を樹脂部材26の上面にの凹部30に嵌合するようにしてある。なお樹脂部材の凸部28と凹部30とは逆にしてもよい。つまり、樹脂部材27,31に形成された凸部28を無くし、これを凹部30に換え、樹脂部材26の凹部30を無くし、これを凸部28に入れ換えることも可能である。」(段落【0021】?【0023】参照)
以上の記載事項及び図面からみて、引用例2には、次の発明(以下、「引用例2発明」という。)が記載されているものと認められる。
「電動機の軸20は多孔質の含油素材により構成された軸受21によって支持されていて、軸受21は焼結金属により構成され、保持部材としての円形の上プレート22及び中プレート23並びにブラケット24によって電動機の筐体2に保持されており、
軸受21の外周側に、円環状の焼結樹脂により構成された潤滑油を含んだ第1の部材としての樹脂部材26が当接していて、この焼結樹脂は焼結金属と同様の製造方法即ち、粒状樹脂を加熱,圧縮することにより製造され、細かい小孔を多数有し、この小孔内部に潤滑油を予め含ませてあり、
第2の部材としての樹脂部材27は、樹脂部材26と同一の材質により形成されており、中プレート23の孔25を貫通する凸部28を上面に4箇所有し、下プレート29に保持されており、凸部28の先端は、樹脂部材26に形成された対応する位置にある凹部30に嵌合するようにしてある軸受装置。」
(2-3)引用例3
特開平6-200947号公報(以下、「引用例3」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(さ)「【産業上の利用分野】本発明は、たとえば転がり軸受等において転動体を保持するために使用される転動体用保持器とその製造方法に関するものある。」(段落【0001】参照)
(し)「本発明は以上の事情に鑑みてなされたものであって、潤滑剤が切れたりその供給がストップしたりしても直ちに焼きつき、停止等の不具合を生じるおそれのない、潤滑性にすぐれた転動体用保持器と、その効率的な製造方法とを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段および作用】上記課題を解決するため、本発明者らは、平均分子量が100万?600万程度である超高分子量ポリエチレンにより転動体用保持器を製造することを検討した。この超高分子量ポリエチレンは、一般の高密度ポリエチレン(平均分子量2万?20万程度、融点80?90℃程度)に比べて融点が100?140℃程度と高く耐熱性にすぐれるとともに、この高密度ポリエチレンや他のエンジニアリングプラスチックに比べてとくに耐摩耗性、耐衝撃性、自己潤滑性および耐薬品性にすぐれている。しかし超高分子量ポリエチレンからソリッドな保持器を製造した場合には、依然として、潤滑剤が切れたり供給がストップした際に、焼きつき、停止等の不具合を生じる可能性がある。そこでさらに検討を行った結果、上記超高分子量ポリエチレンの粉粒体の加圧、加熱成形により形成される多孔質体で保持器を構成し、その孔内に潤滑剤を含油させれば、超高分子量ポリエチレン自体の自己潤滑性と相俟って、焼きつき、停止等の不具合を生じるおそれのない、潤滑性にすぐれた転動体用保持器が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明の転動体用保持器は、超高分子量ポリエチレンの多孔質体からなることを特徴とする。孔内には前記のように潤滑剤が含油される。なお上記転動体用保持器は、強化繊維により強化されているのが好ましい。また本発明の転動体用保持器の製造方法は、上記超高分子量ポリエチレンの粉粒体を潤滑剤と混合した状態で加圧、加熱成形することにより、粉粒体からなる多孔質体の孔内に潤滑剤が含油された転動体用保持器を製造することを特徴とする。
上記構成からなる本発明の転動体用保持器においては、保持器自身が自己潤滑性にすぐれた超高分子量ポリエチレンにて形成されているとともに、この超高分子量ポリエチレンの粉粒体からなる多孔質体の孔内に潤滑剤を含油させることができるので、潤滑剤が切れたり供給がストップしたりしても直ちに焼きつき、停止等の不具合を生じるおそれがない。」(段落【0004】?【0007】参照)
(す)「本発明の転動体用保持器は、上記超高分子量ポリエチレンの粉粒体と、必要に応じて強化繊維とを混合した混合物を、保持器の形状の型窩を有する型内に充填して加圧、加熱成形することにより製造されるが、その際、本発明の製造方法の構成に基づき、上記混合物にさらに潤滑剤を配合すると、保持器の成形と潤滑剤の含油とを1工程で行えるので、先に成形した保持器に後から潤滑剤を含油させる場合に比べて生産効率を向上させることができる。また保持器の内部まで均一に含油させることもできる。しかしながら、多孔質状に形成した後に潤滑油を含油させてもよい。」(段落【0018】参照)
以上の記載事項及び図面からみて、引用例3には、次の発明(以下、「引用例3発明」という。)が記載されているものと認められる。
「転がり軸受等の転動体用保持器であって、
超高分子量ポリエチレンの粉粒体と、必要に応じて強化繊維とを混合した混合物を、保持器の形状の型窩を有する型内に充填して加圧、加熱成形することにより製造され、多孔質状に形成した後に潤滑油を含油させた転動体用保持器。」
(3)対比
本願補正発明1と引用例1発明とを比較すると、後者の「転動体転道溝3」は前者の「軌道溝」に相当し、以下、同様に、「案内レール1」は「軌道レール」に、「相対移動可能」は「相対摺動」に、「リニアガイド装置」は「直動案内ユニット」に、「前記案内レール1の前記転動体軌道溝3に対向して形成された負荷転動体転道溝19」は「前記軌道レールの前記軌道溝に対向して形成された軌道溝」に、「本体2A」は「スライダ」に、「補強用サイドシール49」は「エンドシール」にそれぞれ相当する。また、後者の「サイドシール40」は潤滑油を必要な部位に供給し得るプレート状の部材であり、その限りで一応、前者の「潤滑プレート」に相当するということができる。以上より、本願補正発明の用語に倣って整理すると、両者は、
「長手方向両側面に軌道溝が形成された軌道レール及び前記軌道レール上を相対摺動するスライダから成る直動案内ユニットにおいて,
前記スライダは,前記軌道レールの前記軌道溝に対向して形成された軌道溝を備えたケーシング,前記軌道溝間を転走する転動体,前記ケーシングの両端面にそれぞれ固定されたエンドキャップ,前記エンドキャップの端面に取り付けられた潤滑プレート及び前記潤滑プレートの端面に取り付けられたエンドシールを具備する直動案内ユニット。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
「潤滑プレート」が、本願補正発明1では「前記潤滑プレートは,高密度ポリエチレン樹脂の微粒子を所定の金型に充填して加熱成形して作製された多孔質構造を有する焼結樹脂部材と,前記焼結樹脂部材の前記多孔質構造の前記微粒子間に形成された多孔部に含浸された潤滑油とから構成され,前記軌道レールの前記軌道溝に摺接する内方に突出した凸部を備え前記軌道レールに対して相対移動する」ものであるのに対し、引用例1発明では「前記サイドシール40は,エンドキャップ2Bの外形に合わせたほぼコ字形状の冷延鋼板(SPCC材)にポリオレフィン系合成樹脂であるポリエチレンを被覆してなる補強板42の外表面に潤滑剤含有ポリマ部材43を一体成形で接合して形成したものであり、前記案内レール1の前記転動体転道溝3に摺接させるべく溝形状に合致させた形状の溝内摺動突起44a,44bが突設されている」ものである点。
(4)判断
[相違点1]について
引用例1発明において、潤滑油を必要な部位に供給し得るサイドシール40としてどのような構造のものを採用するかは寿命や耐久性等を考慮して適宜設計する事項にすぎない。
ここで、引用例2発明は、軸受21の外周側に当接する樹脂部材26を具備しており、この樹脂部材26は、粒状樹脂を加熱,圧縮することにより製造され、細かい小孔を多数有し、この小孔内部に潤滑油を予め含ませてあるものである。引用例2発明は軸受装置に関するものであるが、樹脂部材26もその潤滑油を必要な部位に供給し得るものであるから、引用例1発明のサイドシール40の構造として引用例2発明の樹脂部材26の構造を採用することは、上記のような適宜の設計の一例として当業者が容易に想到し得たものと認められる。
ただ、本願補正発明1は潤滑プレートの材質が「高密度ポリエチレン樹脂」であるのに対して、引用例2発明の粒状樹脂の材質は不明であるが、それは適宜の選択的事項にすぎない。そして、引用例3発明は超高分子量ポリエチレンの粉粒体を用いて多孔質状に形成した保持器を具備している。引用例3発明は超高分子量ポリエチレンを選択しているが、引用例3には上記に摘記したように「この超高分子量ポリエチレンは、一般の高密度ポリエチレン(平均分子量2万?20万程度、融点80?90℃程度)に比べて融点が100?140℃程度と高く耐熱性にすぐれるとともに、この高密度ポリエチレンや他のエンジニアリングプラスチックに比べてとくに耐摩耗性、耐衝撃性、自己潤滑性および耐薬品性にすぐれている。」と記載されており、用途や使用状況等によっては高密度ポリエチレンを用いることが可能であることは明らかである。したがって、引用例1発明のサイドシール40の構造として引用例2発明の樹脂部材26の上記構造を採用するにあたって、粒状樹脂の材質として高密度ポリエチレンを採用することは、引用例3発明、及び引用例3の上記記載事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものと認められる。
そして、引用例1発明の「前記案内レール1の前記転動体軌道溝3に摺接させるべく溝形状に合致させた形状の溝内摺動突起44a,44b」は実質的に本願発明1の「前記軌道レールの前記軌道溝に摺接する内方に突出した凸部」に相当することを合わせ考えると、上記のように、引用例1発明のサイドシール40の構造として引用例2発明の樹脂部材26の上記構造を採用し、粒状樹脂の材質として高密度ポリエチレンを採用したものが、実質的に、「前記潤滑プレートは,高密度ポリエチレン樹脂の微粒子を所定の金型に充填して加熱成形して作製された多孔質構造を有する焼結樹脂部材と,前記焼結樹脂部材の前記多孔質構造の前記微粒子間に形成された多孔部に含浸された潤滑油とから構成され,前記軌道レールの前記軌道溝に摺接する内方に突出した凸部を備え前記軌道レールに対して相対移動する」という事項を具備することは明らかである。
また、本願補正発明1の作用効果は、引用例1?3に記載された発明に基づいて当業者が予測し得た程度のものである。

なお、審判請求の理由において、「刊行物1の特開平8-200362号公報に開示されたものは,先の意見書で相違点を主張したように,潤滑剤含有ポリマ部材43は強度等がかなり低くなっており,そのまでは配設すると,破損,亀裂,変形等が発生し,配設不可であるので,潤滑剤含有ポリマ部材43に一体成形により接合した補強板42を必要とするものであり,即ち,潤滑剤含有ポリマ部材43と補強板42とを一体成形で接合しなければならないものであり,この点でも本願発明の焼結樹脂部材とは構成も作用効果も全く異なっている。また,刊行物1のものは,シール装置になっており,高温環境や異物の多い環境で使用して効果的なものとしており,リニアガイド装置の滑らかな摺動を考慮したものになっていないことは明らかである。更に,刊行物1の潤滑剤含有ポリマ部材は,ポリエチレン樹脂と材料が同様であっても,刊行物1の製造方法で得たものは樹脂微粒子が膨潤して微粒子内に潤滑油が包含される状態になるので,ポリマ部材からの潤滑油の排出,吸収等の作用は,本願発明とは全く異なり,全く性質を異にする別物になっている。」と主張されているが、まず、引用例1発明のサイドシール40の構造として引用例2発明の樹脂部材26の構造を採用することは当業者が容易に想到し得たものと認められることは上記のとおりであり、補強板を設けるかどうかは設計的事項にすぎない。また、請求項1には「前記潤滑プレートは,…前記軌道レールに対して相対移動する」と記載されているにすぎず、「滑らかな摺動」とはどの程度ものか、「滑らかな摺動を考慮したもの」という主張が請求項1のどの記載に基づくのか、必ずしも明らかではないが、各構成要素にどのようなシール性をもたせるかは所要のシール性や摺動性等を斟酌して適宜設計する事項にすぎず、「滑らかな摺動」とすることは設計的事項にすぎない。
同じく、「刊行物2の特開平8-19210号公報に開示されたものは,先の意見書で相違点を主張したように,リング状の含油焼結樹脂は,軸と含油軸受との間に配設され,回転軸受に適用されたものであり,また,含油焼結樹脂26が軸20を支持する多孔質の含油素材に構成された軸受21に当接しているものであり,含油焼結樹脂26の樹脂部材に含まれる潤滑油が焼結金属からなる軸受21へ毛細管現象により伝わり,軸受21から軸20へと伝わるものになっており,本願発明の焼結樹脂部材とは構成及び作用効果も全く相違することは明らかである。」と主張されているが、引用例2発明は、軸受21の外周側に当接する樹脂部材26を具備しており、この樹脂部材26は、粒状樹脂を加熱,圧縮することにより製造され、細かい小孔を多数有し、この小孔内部に潤滑油を予め含ませてあること、及び、引用例2発明は軸受装置に関するものであるが、樹脂部材26もその潤滑油を必要な部位に供給し得る部材であることは、上記のとおりである。

したがって、本願補正発明1は、引用例1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(5)むすび
本願補正発明1について以上のとおりであるから、本件補正は、平成15年改正前特許法第17条の2第5項で準用する特許法第126条第4項の規定に違反するものであり、本件補正における他の補正事項を検討するまでもなく、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明
平成19年2月9日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?10に係る発明は、平成18年8月28日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】 長手方向両側面に軌道溝が形成された軌道レール及び前記軌道レール上を相対摺動するスライダから成る直動案内ユニットにおいて,
前記スライダは,前記軌道レールの前記軌道溝に対向して形成された軌道溝を備えたケーシング,前記軌道溝間を転走する転動体,前記ケーシングの両端面にそれぞれ固定されたエンドキャップ,前記エンドキャップの端面に取り付けられた潤滑プレート及び前記潤滑プレートの端面に取り付けられたエンドシールを具備し,
前記潤滑プレートは,合成樹脂の微粒子を所定の金型に充填して加熱成形して作製された多孔質構造を有する焼結樹脂部材と,前記焼結樹脂部材の前記多孔質構造の前記微粒子間に形成された多孔部に含浸された潤滑油とから構成され,前記軌道レールの前記軌道溝に摺接する内方に突出した凸部を備え前記軌道レールに対して相対移動することを特徴とする直動案内ユニット。
【請求項2】 前記潤滑プレートは,少なくとも前記軌道レールの前記軌道溝に対向する部分が多孔質の密部分に形成され,他の部分が多孔質の粗部分に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の直動案内ユニット。
【請求項3】 前記潤滑プレートは,少なくとも前記軌道レールの前記軌道溝に対向する内周面が多孔質表面に開放状態に形成され,他の部分の表面が無孔質表面に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の直動案内ユニット。
【請求項4】 前記潤滑プレートは,上面と前記軌道レールの前記軌道溝に対向する内周面が開放状態の多孔質表面に形成され,他の部分の表面が無孔質表面に形成されていることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項5】 前記潤滑プレートは,上部内に潤滑油を収容できる潤滑油収容室が形成されていることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項6】 前記潤滑プレートには,前記エンドキャップに設けられたグリースニップル又は潤滑油供給管継ぎ手に対応する部分が切りかかれていることを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項7】 前記潤滑プレートには,側面と上面を被覆できる弾性薄板から成るカバーが設けられていることを特徴とする請求項1?6のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項8】 前記潤滑プレートは,前記軌道レールの両側面に対応する部分に前記潤滑油が含浸された前記焼結樹脂部材が二分割された潤滑プレート部分から成り,前記潤滑プレート部分は前記軌道レールの上方に位置する支持プレートで互いに連結されていることを特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項9】 前記エンドシール,前記潤滑プレート,及び前記エンドキャップを前記ケーシングに固定するためのボルトは,前記エンドシール及び前記エンドキャップを挿通すると共に前記潤滑プレートに形成された切欠き部に配置されたカラーを挿通して前記ケーシングのボルト穴に螺入されていることを特徴とする請求項1?8のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項10】 前記エンドキャップ及び前記潤滑プレートの変形を防止するため,前記潤滑プレートと前記エンドキャップとの間には,間座が配置されていることを特徴とする請求項1?9のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。」

3-1.本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)について
(1)本願発明1は上記のとおりである。
(2)引用例
引用例1?3、及びその記載事項は上記「2.平成19年2月9日付けの手続補正についての補正却下の決定」に記載したとおりである。
(3)対比・判断
本願発明1は実質的に、上記「2.平成19年2月9日付けの手続補正についての補正却下の決定」で検討した本願補正発明1の「高密度ポリエチレン樹脂の微粒子」を「合成樹脂の微粒子」と拡張するものである。
そうすると、本願発明1の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明1が、上記「2.平成19年2月9日付けの手続補正についての補正却下の決定」に記載したとおり、引用例1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記の本願補正発明1における減縮事項(潤滑プレートの材質を「高密度ポリエチレン樹脂」とした点)に関する上記の「(4)判断」の記載に留意すると、本願発明1も、同様の理由により、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願発明1が特許を受けることができないものである以上、請求項2?10に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-07-10 
結審通知日 2008-07-15 
審決日 2008-08-04 
出願番号 特願平9-17680
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16C)
P 1 8・ 121- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤田 和英  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 村本 佳史
岩谷 一臣
発明の名称 潤滑プレートを備えた直動案内ユニット  
代理人 尾仲 一宗  

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