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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B09B
管理番号 1185079
審判番号 不服2005-13420  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-07-14 
確定日 2008-09-25 
事件の表示 特願2003- 19182「廃液晶パネルの処理方法およびその処理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 8月19日出願公開、特開2004-230229〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年1月28日の出願であって、平成17年6月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対し同年7月14日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?3に係る発明は、平成17年8月12日付けの手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により、それぞれ特定されるとおりものであり、その請求項1に係る発明(以下、必要に応じて「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】廃液晶パネルを破砕しないで反応炉内に配置し、反応炉内を0.01?10kPaの圧力で減圧状態にすると共に雰囲気温度を200?800℃にして廃液晶パネルを加熱し、廃液晶パネルを構成する液晶、およびガラス基板の内・外面に配した固形有機物の一部を揮発させるとともに、固形有機物の残部を炭化させ、反応炉内に不活性のキャリアガスを導入して、揮発させた液晶および揮発させた固形有機物の一部を、不活性のキャリアガスとともに反応炉外に排出し、この揮発ガスを排出過程で冷却し凝縮させて液状有機物および固形有機物として分離・回収し、かつ、前記反応炉で処理後のガラス基板を炉外に取り出し、ガラス基板に付着した固形有機物の炭化物や灰を除去した後、ガラス基板に付着している金属類を溶解・分離除去してガラス基板を回収することを特徴とする廃液晶パネルの処理方法。」

3.刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2002-23126号公報(原査定における引用文献3、以下「刊行物1」という。)、特開2001-198565号公報(原査定における引用文献1、以下「刊行物2」という。)及び特開2002-346505号公報(原査定における引用文献2、以下「刊行物3」という。)のそれぞれには次の事項が記載されている。

3-A.刊行物1(特開2002-23126号公報)
(A-1)
「廃液晶パネル(10)をチャンバ(21)に配置し、前記チャンバ(21)内を減圧しかつ加熱して、前記廃液晶パネル(10)を構成する有機物をガス化することを特徴とする廃液晶パネルの処理方法。」(特許請求の範囲の請求項1)

(A-2)
「チャンバ(21)内の圧力を0?40kPa、温度を200?400℃にする請求項1記載の廃液晶パネルの処理方法。」(特許請求の範囲の請求項2)

(A-3)
「廃液晶パネル(10)を前記パネルを構成する2枚のガラス基板(11,11)を破砕した状態でチャンバ(21)内に配置する請求項1又は2記載の処理方法。」(特許請求の範囲の請求項3)

(A-4)
「チャンバ(21)内にキャリアガスを導入し、ガス化した有機物を前記チャンバ(21)外に排出する請求項1ないし3いずれか記載の処理方法。」(特許請求の範囲の請求項4)

(A-5)
「チャンバ(21)外に排出した有機ガスを有機ガス分解装置(31、41、51、61)に導入して前記分解装置で無機ガスと水に分解する請求項1ないし4いずれか記載の処理方法。」(特許請求の範囲の請求項5)

(A-6)
「一般的な液晶パネルは、ITO(In-Sn Oxide)などの透明電極が蒸着されたガラス基板同士を貼り合わせ、その間に主として有機溶媒からなる液晶を封入した後、外周の接合面をエポキシ系などの接着剤により接着し封印した構造となっている。また、ガラス基板の外側には偏光板が接着されており、内側にはカラーフィルタなどの有機材料が配置されている。」(段落【0003】)

(A-7)
「本発明の目的は、液晶を安全かつ確実に無害化することのできる廃液晶パネルの処理方法及びその装置を提供することにある。本発明の別の目的は、廃液晶パネルからガラスを有効に再利用し得る廃液晶パネルの処理方法及びその装置を提供することにある。」(段落【0004】)

(A-8)
「廃液晶パネルを減圧加熱する以前に破壊するのは、ガラス基板11,11に挟まれて存在する液晶をその破壊部分から外気に接触させ、この液晶のガス化を容易にする意義と、減圧加熱する装置への廃液晶パネルの投入を容易にするサイズ調整の意義を有する。」(段落【0015】)

(A-9)
「キャリアガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス又は空気が挙げられる。」(段落【0018】)

(A-10)
「一方、チャンバ21内に残存する残渣はその後そのチャンバ21から取り出され、ガラス基板11が回収される。減圧加熱により液晶は除去されるが、偏光板14は完全に分離せず、一部が熱分解により揮発し、残りは固体のままガラス基板11に付着した状態になる。従って偏光板14が付着している場合には回収されたガラス基板11からその偏光板14を分離する作業がなされる。但し、加熱処理により偏光板14の付着力は弱くなっており、ガラス基板11から容易に分離が可能である。・・・選別されたガラス基板11はその後洗浄され、質の高い状態で再利用される。一方、ガラス基板から分離された偏光板14等は、セメントキルンや非鉄精錬炉等でその後燃料として使用される。」(段落【0025】)

3-B.刊行物2(特開2001-198565号公報)
(B-1)
「LCD装備製品を粉砕や分解をせずに製品のまま炉に入れて酸素の無い状態で、合成樹脂が熱分解・ガス化溶融し、かつ、製品に含まれる各種金属及びガラスが溶融しない範囲の温度に加熱する熱分解・ガス化溶融工程と、炉内に発生したガスを無害化処理する工程と、熱分解・ガス化溶融された製品をふるい分けし、ガラス、金属、電子部品、タールに分離する工程と、分離されたガラスを粉砕する工程と、粉砕されたガラスを薬品処理して付着している残滓を分離除去する工程と、を有することを特徴とするLCD装備製品の無害化・資源化処理方法。」(特許請求の範囲の請求項1)

(B-2)
「図3は、パソコンに最も多く使用されているアモルファスシリコンTFTの代表的なLCDの構造を示す。まず、上部には、上側ガラス基板1があって、その上面には合成樹脂製の偏光板2が貼り付けられ、下面には、R,G,Bと黒のマトリクスのカラーフィルタ3が形成されている。下部には、絶縁保護膜、半導体層、各種導電膜(電極)などTFTアレイ回路4を形成した下側ガラス基板5がある。そして、これら上下のガラス基板の中間に液晶材6が配向膜7,7と対向電極8とでサンドイッチされている。液晶材6の周辺にはシール材9がある。・・・。このようなLCDの構成材料は、重量比率でガラスが85%前後、偏光板が15%前後である。これ以外の液晶材料、シール樹脂、カラーフィルター層、TFT層などは、数千ppmと比率は少ない。しかし、これらの微小なものの中には、透明電極に使用されているインジウム等のレアメタルも含まれており、資源としての価値が高い。」(段落【0004】?【0005】)

(B-3)
「〔薬品処理〕ここで、ガラスに付着しているクロムや導電膜に含まれるITO等を酸で洗って落とす。酸としては、クロムやインジウム等の残滓に含有されている金属を溶かすことのできるものが使用され、たとえば、フッ酸、塩酸等を使用する。この工程でガラスは残滓を全て落とされ、不純物のないガラスとなる。」(段落【0032】)

3-C.刊行物3(特開2002-346505号公報)
(C-1)
「LCDを炉に入れ、可燃性物質が燃焼又は炭化する温度以上で、かつガラスの溶融温度未満で加熱する工程と、該加熱する工程で発生したガスを集めて冷却する工程と、冷却されたガスを活性炭層に通してガスに含有される有害物質を活性炭に吸着させる工程と、使用済みの活性炭を超臨界水で無害化する工程と、炉内の残存物からガラス基板を取り出し、取り出されたガラス基板にサンドブラスト処理を行い付着物を分離除去する工程と、を有することを特徴とするLCDから環境負荷を低減してガラスを回収する方法。」(特許請求の範囲の請求項1)

(C-2)
「本発明は、ノート型パソコン、携帯電話等の液晶ディスプレイ(LCD)を備えた各種機器のLCD部分の処理に関し、特に、廃棄物としてのLCDからガラスを回収するとともに、他の物質を無害化処理する技術に関する。」(段落【0001】)

(C-3)
「図2は、パソコンに最も多く使用されているアモルファスシリコンTFTの代表的なLCDの構造を示す。まず、上部には、上側ガラス基板1があって、その上面には合成樹脂製の偏光板2が貼り付けられ、下面には、R,G,Bと黒のマトリクスのカラーフィルタ3が形成されている。下部には絶縁保護膜、半導体層、各種導電膜(電極)などTFTアレイ回路4を形成した下側ガラス基板5がある。そして、これら上下のガラス基板の中間に液晶材6が配向膜7,7と対向電極8とでサンドイッチされている。液晶材6の周辺にはシール材9がある。また、図示は省略するが、LCDには、上記の他にドライバ用のICが含まれる。・・・。このようなLCDの構成材料は、重量比率でガラスが85%前後、その他が15%前後である。また、液晶材料、シール樹脂、カラーフィルタ層、TFT層などは、数千ppmと比率は少ない。しかし、これらの微量なものの中には、透明電極に使用されるインジウム等のレアメタルも含まれており、資源としての価値が高い。」(段落【0004】?【0006】)

(C-4)
「〔LCDの加熱工程10〕このLCDの加熱工程10では、LCDを炉内に投入し加熱する。加熱温度は、ガラスが溶融しない温度で、ガラス以外の可燃性物質、たとえば、合成樹脂製の偏光板、カラーフィルタ、絶縁保護膜、液晶材、等々が炭化又は燃焼する温度以上で、ガラスが溶融しない温度、具体的には、750?1,020K程度とする。炉に投入するLCDは、粉砕したものでも良いが、サンドブラスト処理が容易になることから、粉砕していない方が望ましい。」(段落【0015】)

4.刊行物発明の認定
刊行物1には、その記載事項(A-1)によれば、「廃液晶パネルをチャンバに配置し、前記チャンバ内を減圧しかつ加熱して、前記廃液晶パネルを構成する有機物をガス化する廃液晶パネルの処理方法」が記載され、該「廃液晶パネル」は、記載事項(A-3)に「前記パネルを構成する2枚のガラス基板(11,11)を破砕した状態でチャンバ(21)内に配置する」ことが記載され、該「減圧しかつ加熱して」について、記載事項(A-2)に「チャンバ(21)内の圧力を0?40kPa、温度を200?400℃にする」と記載されている。また、該「廃液晶パネルを構成する有機物」について、記載事項(A-6)によれば「液晶、接着剤、偏光板、カラーフィルタ」が記載されており、そのうち、液晶と偏光板については、記載事項(A-10)に「減圧加熱により液晶は除去されるが、偏光板14は完全に分離せず、一部が熱分解により揮発し、残りは固体のままガラス基板11に付着した状態になる。」と記載されていることから、チャンバ内では、少なくとも「液晶と偏光板の一部はガス化するが、偏光板の残りは固体のままガラス基板に付着した状態」になるといえる。また、記載事項(A-4)に「チャンバ(21)内にキャリアガスを導入し、ガス化した有機物を前記チャンバ(21)外に排出する」と記載され、該キャリアガスとしては、記載事項(A-9)によれば、「窒素ガス、アルゴンガス」が挙げられている。さらに、記載事項(A-5)に「チャンバ(21)外に排出した有機ガスを有機ガス分解装置(31、41、51、61)に導入」することが記載され、記載事項(A-10)によれば、「チャンバ内に残存する残渣はそのチャンバから取り出されガラス基板が回収され」、「回収されたガラス基板に固体のまま付着している偏光板の一部を、そのガラス基板から分離し、選別されたガラス基板は、その後洗浄され再利用される」ことが記載されているといえる。
よって、刊行物1には、
「廃液晶パネルを前記パネルを構成する2枚のガラス基板を破砕した状態でチャンバ内に配置し、前記チャンバ内の圧力を0?40kPaに減圧し、かつ温度を200?400℃に加熱し、前記廃液晶パネルを構成する有機物である液晶と偏光板の一部はガス化するが、偏光板の残りは固体のままガラス基板に付着した状態となり、チャンバ内にキャリアガスとして窒素ガスやアルゴンガスを導入し、ガス化した有機物である有機ガスを前記チャンバ外に排出し、チャンバ外に排出した有機ガスを有機ガス分解装置に導入すると共に、チャンバ内に残存する残渣はそのチャンバから取り出され、ガラス基板が回収され、回収されたガラス基板に固体のまま付着している偏光板の一部を、そのガラス基板から分離し、選別されたガラス基板は、その後洗浄され再利用される廃液晶パネルの処理方法。」の発明が(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認める。

5.対比・判断
そこで本願発明1と刊行物1発明とを対比する。
刊行物1発明の「チャンバ」、「キャリアガスとしての窒素ガスやアルゴンガス」は、それぞれ本願発明1の「反応炉」、「不活性のキャリアガス」に相当することは明らかである。そして、刊行物1発明のチャンバ内の圧力を「0?40kPaに減圧し、かつ温度を200?400℃に加熱」することと、本願発明1の反応炉内を「0.01?10kPaの圧力で減圧状態にすると共に雰囲気温度を200?800℃」とすることを対比すると、両者は「0.01?10kPaの圧力で減圧状態にすると共に雰囲気温度を200?400℃」とする点で一致しているといえる。また、刊行物1発明の「偏光板」は本願発明1の「ガラス基板の外面に配した固形有機物」に相当することは明らかであるから、刊行物1発明の「前記廃液晶パネルを構成する有機物である液晶、偏光板の一部はガス化する」ことは、本願発明1の「廃液晶パネルを構成する液晶、およびガラス基板の外面に配した固形有機物の一部を揮発させる」ことに相当するといえる。また、同一の対象物を同一範囲の減圧、温度条件で加熱処理すれば、同様の結果を生じることは予測できることであるから、刊行物1発明の「偏光板の残りが固体のままガラス基板に付着」しているとは、本願発明1の「固形有機物の残部を炭化させ」ることに相当するといえ、刊行物1発明の「回収されたガラス基板に固体のまま付着している偏光板の一部を、そのガラス基板から分離し」とは、本願発明1の「ガラス基板に付着した固形有機物の炭化物を除去」することに相当するといえる。そして、刊行物1発明の「ガス化した有機物」は、廃液晶パネルを構成する「液晶と偏光板の一部」であるから、本願発明1の「揮発させた液晶および揮発させた固形有機物の一部」に相当するといえる。
よって、両者は
「廃液晶パネルを反応炉内に配置し、反応炉内を0.01?10kPaの圧力で減圧状態にすると共に雰囲気温度を200?400℃にして廃液晶パネルを加熱し、廃液晶パネルを構成する液晶、およびガラス基板の外面に配した固形有機物の一部を揮発させるとともに、固形有機物の残部を炭化させ、反応炉内に不活性のキャリアガスを導入して、揮発させた液晶および揮発させた固形有機物の一部を、不活性のキャリアガスを反応炉外に排出し、前記反応炉で処理後のガラス基板を炉外に取り出し、ガラス基板に付着した固形有機物の炭化物を除去する廃液晶パネルの処理方法。」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。

【相違点1】
本願発明1の廃液晶パネルを「破砕しないで」反応炉内に配置しているのに対して、刊行物1発明の廃液晶パネルは「前記パネルを構成する2枚のガラス基板を破砕した状態で」チャンバ内に配置する点。

【相違点2】
本願発明1は、「揮発ガスを排出過程で冷却し凝縮させて液状有機物および固形有機物として分離・回収」するのに対して、刊行物1発明は「チャンバ外に排出した有機ガスを有機ガス分解装置に導入する」ものである点。

【相違点3】
本願発明1には、「ガラス基板に付着している金属類を溶解・分離除去」するのに対して、刊行物1発明は、「選別されたガラス基板は、その後洗浄され再利用される」点。

【相違点1】について
刊行物3には、その記載事項(C-1)、(C-2)によれば、「廃棄物としてのLCD(液晶ディスプレイ)を炉に入れ、可燃性物質が燃焼又は炭化する温度以上で、かつガラスの溶融温度未満で加熱し、LCDからガラスを回収する方法」が記載されているといえる。そして、記載事項(C-2)に「炉に投入するLCDは、粉砕したものでも良いが、サンドブラスト処理が容易になることから、粉砕していない方が望ましい。」と記載されていることから、LCDを炉に投入する際に「破砕しないこと」は、後段の処理工程に応じて選択できる技術的事項であることが示唆されているといえる。
一方、刊行物1発明の「廃液晶パネルの処理方法」において、「前記パネルを構成する2枚のガラス基板を破砕した状態でチャンバ内に配置」する意義は、その記載事項(A-8)によれば、「液晶のガス化を容易にする」ことと、「減圧加熱する装置への廃液晶パネルの投入を容易にするサイズ調整」をすることであるといえ、処理効率の観点と加熱装置の大きさによって選択される技術的な事項であり、チャンバ内に配置する際に「前記パネルを構成する2枚のガラス基板を破砕した状態」でなければ、刊行物1発明の「液晶を安全かつ確実に無害化することのできる廃液晶パネルの処理方法及びその装置を提供すること」、「廃液晶パネルからガラスを有効に再利用し得る廃液晶パネルの処理方法及びその装置を提供すること」という目的(記載事項(A-7)参照)を達成できないとまではいえない。
そうであれば、刊行物1発明と刊行物3記載の発明は、共に廃棄物である液晶パネルを加熱処理し、液晶パネルからガラスを回収する方法であり、装置の大きさ、処理条件、処理効率等を勘案して、どのような処理工程を採用するかは当業者が検討することであるから、刊行物1発明のチャンバ内にパネルを配置する際に、「2枚のガラス基板を破砕した状態」で配置することに代えて、刊行物3記載の「LCDを破砕しない」で、つまり「パネルを破砕しない」で配置することに格別な困難性を有するとはいえない。

【相違点2】について
ガス化した有機物を、冷却、凝縮処理し、液状有機物や固形有機物として分離することは周知の技術事項であり(要すれば、特開2001-321750号公報の段落【0017】?【0018】、特開平8-300352号公報の段落【0028】参照)、ガス化した有機物をどのように処理するかは当業者が適宜検討することである。
してみると、刊行物1発明のチャンバ外に排出した有機ガスを処理する「有機ガス分解装置」として、「冷却、凝集処理し、液状有機物や固形有機物として分離する」ことを採用することは当業者が容易に想到し得ることである。

【相違点3】について
まず、刊行物1発明の処理対象物である廃液晶パネルは、「ガラス基板、液晶、接着剤、偏光板、カラーフィルタ」の他にも「ITOなどの透明電極」も構成物として含むものであり(要すれば、刊行物1の記載事項(A-6)、刊行物2の記載事項(B-2)、刊行物3の記載事項(C-3)参照)、刊行物1発明のチャンバ内では、本願発明1と同様の対象物に対して、同程度の圧力、温度で加熱処理することから、廃液晶パネルを構成する電極等の金属類は、本願発明1と同様に、ガス化することなく、チャンバからの残渣である「ガラス基板」に付着しているものとみることができる。
一方、刊行物2には、その記載事項(B-1)によれば、「LCD装備製品を炉に入れ、合成樹脂が熱分解・ガス化溶融し、かつ、製品に含まれる各種金属及びガラスが溶融しない範囲の温度に加熱する熱分解・ガス化溶融工程を有し、熱分解・ガス化溶融された製品をふるい分けし、ガラス、金属、電子部品、タールに分離するLCD装備製品の無害化・資源化処理方法。」が記載されているといえ、その一工程として、記載事項(B-3)によれば、「ガラスに付着しているクロムや導電膜に含まれるITO等を金属を溶かすことができる酸で洗って落とし、不純物のないガラスとする」ことが記載されているといえる。
そして、刊行物1発明と刊行物2記載の発明は、共に廃液晶パネルの処理を含む方法で、液晶パネルに含まれる材料を分別回収することを目的とするものであるから、刊行物1発明の、電極等の金属類が付着している「選別されたガラス基板」を、その後「洗浄」するに際して、刊行物2記載の「ガラスに付着しているクロムや導電膜に含まれるITO等を金属を溶かすことができる酸で洗って落とす」こと、つまり「ガラス基板に付着している金属類を溶解・分離除去」を採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。

【請求人の主張】について
請求人は、審判請求書の平成17年8月12日付け手続補正書(方式)で、「引用文献3では、揮発ガスを常圧で分解無害化を行っている(図2の減圧ポンプ22は有機ガス分解装置の前にある。従って、有機ガス分解装置は減圧ポンプ22の減圧作用下にはない。)のに対して、本願発明では液晶成分のリサイクルを行うことを目的として、液晶成分が減圧ポンプ内の充填油等と接触して充填油等が液晶成分に混入ことを防ぐために減圧ポンプ前、即ち真空下での冷却・凝縮を行っている。」と主張している。
しかしながら、特許請求の範囲の請求項1には「揮発ガスを排出過程で冷却し凝縮させて液状有機物および固形有機物として分離・回収し」と記載されており、冷却、凝集について「真空下」で行うことについては規定していないことから、上記「本願発明では・・・真空下での冷却・凝縮を行っている。」との主張は、特許請求の範囲の記載に基づかない主張であり、採用することはできない。
なお、仮に特許請求の範囲に「真空下で冷却・凝縮すること」を規定したとしても、ガス化した有機物を「真空下で冷却・凝縮し、液状有機物や固体有機物を分離回収すること」は周知技術であり(要すれば、特開2001-321750号公報の段落【0017】?【0018】、特開平8-300352号公報の段落【0028】参照、ともに、減圧するためのポンプは、凝縮槽よりも後段に配置されている。)、上記「【相違点2】について」で検討したとおり、上記周知技術を刊行物1記載のガス化した有機物に適用することは当業者が容易に想到し得ることである。

6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、本願出願前に頒布された刊行物1?3に記載された発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-07-24 
結審通知日 2008-07-29 
審決日 2008-08-11 
出願番号 特願2003-19182(P2003-19182)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B09B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小久保 勝伊  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 斉藤 信人
中村 敬子
発明の名称 廃液晶パネルの処理方法およびその処理装置  
代理人 田村 弘明  
代理人 矢葺 知之  

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