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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B05B |
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管理番号 | 1185091 |
審判番号 | 不服2006-4127 |
総通号数 | 107 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-11-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-03-06 |
確定日 | 2008-09-25 |
事件の表示 | 特願2000-353180「静電塗装機用スピンドル」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 5月28日出願公開、特開2002-153778〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯、本願発明 本願は、平成12年11月20日の出願であって、平成17年9月21日付けで拒絶理由が通知され、平成17年11月21日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成18年1月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年3月6日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成18年3月30日付け手続補正書により明細書の補正がなされたものである。 その後、平成18年3月30日付けの明細書を補正する手続補正は、当審において平成20年4月21日付けで却下され、平成20年5月7日付けで当審において拒絶理由が通知され、これに対し、平成20年6月19日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものであり、その請求項1ないし6に係る発明は、平成20年6月19日付けの手続補正により補正された明細書と出願当初の図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。 「【請求項1】 主軸と、その主軸を回転自在に静圧支持する軸受部を構成する軸受スリーブおよびその軸受スリーブに外嵌されたハウジングとを有し、主軸の一端部に塗料を霧化するための霧化頭を取り付けた静電塗装機用スピンドルにおいて、前記軸受スリーブを、自己潤滑性を有する黒鉛で形成すると共に、前記ハウジングを、耐腐食性を有するステンレス鋼で形成し、前記軸受部に供給する圧縮空気の空気通路を前記軸受スリーブ内に形成することにより前記ハウジングを軸受スリーブに比べて肉薄にしたことを特徴とする静電塗装機用スピンドル。」 第2.引用例記載の発明 (1)当審より通知した拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平9-166143号公報(以下、「引用例」という。)には、図面と共に、次の事項が記載されている。(なお、下線は理解の一助のために当審で付加した。) ア.「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、主軸を静圧空気軸受で非接触支持する静圧空気軸受スピンドル装置に関し、穴加工機、精密加工機、静電塗装機等のスピンドル装置として利用することができる。」(段落【0001】) イ.「【0009】 【発明が解決しようとする課題】ところで、上述した加工機等の分野では、近時、加工能率の向上等を目的として、スピンドルの位置決めをより多次元化し、あるいは、高速化しようとする傾向にあり、そのための一つの要素として、スピンドルの重量軽減が重要な課題になってきている。例えば、静電塗装機では、塗装作業をより柔軟にきめ細かく行なうために、従来、往復動テーブルに搭載していたスピンドルを多関節ロボットに取り付けたいという要求が増えているが、ロボットの可搬重量の制限等から、スピンドルのより一層の軽量化は大きなメリットになる。 【0010】一方、この種のスピンドルにおいて、主軸の寸法形状および材質は、スピンドルの負荷容量、剛性、熱変形による伸び、耐摩耗性等の機能上の必要から決まる場合が多いので、スピンドルの軽量化は軸受部の軽量化が中心になる。そのための手段として、軸受部とくに軸受ハウジングを比重の小さい低比重材料、例えば、アルミ合金等の軽金属材料やセラミックス、合成樹脂、黒鉛等の非金属材料で形成したり(一般に、軸受ハウジングはステンレス鋼、軸受スリーブは青銅系合金で形成する場合が多い。)、あるいは、軸受ハウジングや軸受スリーブを薄肉にすることが考えられる。」(段落【0009】-【0010】) ウ.「【0014】 【課題を解決するための手段】本発明では、第1軸受部および第2軸受部のうち少なくとも一方の軸受部の外径壁とこれら軸受部が収容される相手ハウジングの内径壁との間に円周溝を形成すると共に、相手ハウジングに設けた軸受給気口から、円周溝を介して軸受ノズルに圧縮空気を供給する構成とした。このような構成により、軸受部の軸受給気通路を簡素化することができる。 【0015】また、第1軸受部および第2軸受部のうち一方の軸受部の外径壁とこれら軸受部が収容される相手ハウジングの内径壁との間に第2の円周溝を形成すると共に、上記一方の軸受部に、円周溝と各タービンノズルとを各断面内において個別に連通させるタービン給気通路を形成し、相手ハウジングに設けたタービン給気口から、円周溝およびタービン給気通路を介してタービンノズルに圧縮空気を供給する構成とした。このような構成により、タービン駆動方式のスピンドルにおいて、タービン給気通路を簡素化し、タービンノズル部材を不要にすることができる。 【0016】上記2つの構成において、少なくとも第1軸受部の外径壁を構成する部材を低比重材料で形成することができる。このような構成により、スピンドルの軽量化を図ることができる。 【0017】ここで、「少なくとも外径壁を構成する部材」とは、例えば、軸受ハウジングの内径に軸受スリーブを固定する構造の軸受部では、軸受ハウジングのみを上記低比重材で形成した構成、および、軸受ハウジングと軸受スリーブの双方を上記低比重材料で形成した構成を含む意である。軸受ハウジングにジャーナル軸受面やスラスト軸受面を直接形成する構造の軸受部(軸受ハウジングのみの単一円筒構造の軸受部)では、軸受ハウジングを上記低比重材料で形成する。尚、第1軸受部のみならず、第2軸受部の外径壁を構成する部材も低比重材料で形成することができる。 【0018】また、「低比重材料」とは、軸受ハウジングや軸受スリーブの一般的形成材料であるステンレス鋼、青銅系合金等よりも比重の小さい材料の意であり、アルミニウム合金等の軽金属材料、セラミックス、合成樹脂、黒鉛等の非金属材料が含まれる。 【0019】第1軸受部を単一円筒構造とし、さらには、第2軸受部も単一円筒構造とすることができる。このような構成により、シンプルで軽量なスピンドルを実現することができると同時に、軸受部の剛性を確保し、必要とされる回転精度を維持することができる。」(段落【0014】-【0019】) エ.「【0021】図1は、この実施例に係わる静圧空気軸受スピンドルの軸線に沿った縦断面を示している。この実施例の静圧空気軸受スピンドルは、回転運動を行なう主軸1と、主軸1を非接触で支持する第1軸受部Xおよび第2軸受部Yとを主要な構成要素とする。第1軸受部Xは軸受ハウジング2からなる単一円筒構造、第2軸受部Yは軸受ハウジング3からなる単一円筒構造であり、いずれも、図6に示す従来スピンドルの軸受スリーブ(24、26)は備えていない。この実施形態において、軸受ハウジング2はセラミックス、合成樹脂、黒鉛等の非金属材料で形成され、軸受ハウジング3はアルミニウム合金等の軽金属材料で形成されている。このような第1軸受部Xおよび第2軸受部Yは、相手ハウジングZの内径部に適合収容され、両者の間に一対のOリング4、5が介装される。 (中略) 【0023】軸受ハウジング2の内径には、主軸1の外径面と微小なジャーナル軸受隙間を介して対向するジャーナル軸受面2cが直接形成され、その後端には、主軸1のスラスト板1aの先端面と微小なスラスト軸受隙間を介して対向するスラスト軸受面2dが直接形成されている。ジャーナル軸受面2aには複数の微細な軸受ノズル2eおよび2fが開口し、スラスト軸受面2bには複数の微細な軸受ノズル2gが開口している。軸受ノズル2e、2f、2gは同数で(この実施例では各6個づつ)、それぞれ、ハウジング2の軸線と直交する同一横断面内に配列されている(図2参照:図1のA-A横断面)。また、軸受ハウジング2には、軸線に沿った同一縦断面内の軸受ノズル2e、2f、2gを相互に連通させる軸受給気通路(半径方向給気通路2h、2iおよび軸方向給気通路2j)が形成されている。」(段落【0021】-【0023】) オ.「【0035】上述のように、軸受ハウジング(2、3)を低比重材料で形成して軽量化を図る場合は、低比重材料としてアルミニウム合金等の軽金属材料、セラミックス、合成樹脂、黒鉛等の非金属材料を用いることができる。その中でも、過負荷等で主軸1と軸受面とが接触した場合の耐久性を考慮すると、自己潤滑性を有する合成樹脂、黒鉛等を用いるのが良い。(後略)」(段落【0035】) カ.「【0036】尚、上述した実施形態では、軸受ハウジング3において、軸受ノズル3cへの給気を図3に示す多角給気通路3fを経由して行なう構成にしてあるが、軸受ハウジング2と同様に、相手ハウジングZの軸受給気口および円周溝(この円周溝は円周溝7、10とは別に形成する。)に直接連通した軸受給気通路を形成して、軸受ノズル3cに給気しても良い。また、タービン給気通路およびタービンノズルは軸受ハウジング3に形成しても良い。さらに、本発明は、軸受部を軸受ハウジングの単一円筒構造とした構成に限らず、軸受部を軸受ハウジングと軸受スリーブの嵌合一体構造とした構成にも適用することができる。(後略)」(段落【0036】) キ.「【0037】 【発明の効果】本発明によれば、軸受部の外径壁と相手ハウジングの内径壁との間に形成した円周溝を経由して相手ハウジング側から軸受給気、タービン給気を行なう構成としたので、軸受部の給気通路を簡素化することができ、加工工数の削減および軸受部の剛性向上を図ることができる。その結果、スピンドルのコンパクト化、低コスト化ならびに回転精度の向上を達成することができると同時に、スピンドルの回転精度を維持しつつ、軸受部を低比重材料で形成したり、単一円筒構造にしたり、あるいは、薄肉にするといった軽量化のための諸手段を施すことが可能となる。」(段落【0037】) ク.「【図面の簡単な説明】 【図1】本発明の実施形態に係わるスピンドルを示す縦断面図である。 【図2】図1におけるA-A横断面図である。 【図3】図1におけるB-B横断面図である。 【図4】図1の異なる縦断面を示す縦断面図である。 【図5】本発明の他の実施形態に係わるスピンドルを示す縦断面図である。 【図6】従来スピンドルを示す縦断面図である。 【符号の説明】 1 主軸 1a スラスト板 1a1 凹部 X 第1軸受部 2 軸受ハウジング 2a タービンノズル 2b タービン給気通路 2c ジャーナル軸受面 2d スラスト軸受面 2e、2f、2g 軸受ノズル 2h、2i、2j 軸受給気通路 Y 第2軸受部 3 軸受ハウジング 3b スラスト軸受面 3c 軸受ノズル Z 相手ハウジング 6 タービン給気口 7 円周溝 9 軸受給気口 10 円周溝 」(【図面の簡単な説明】) (2)ここで、上記記載事項(1)ア.ないしク.及び図面から、引用例に記載されたものについて、次のことが分かる。 上記記載事項(1)ア.、イ.及び図面から、引用例に記載されたものは、静電塗装機用スピンドルとして用いられるものであることがわかる。 上記記載事項(1)イ.から、従来、スピンドルのより一層の軽量化が技術的課題とされ、スピンドルの軽量化は軸受部の軽量化が中心になり、そのための手段として、軸受部を比重の小さい低比重材料、例えば、黒鉛等の非金属材料で形成したり、あるいは、軸受ハウジングや軸受スリーブを薄肉にすることが考えられていたことが分かる。 上記記載事項(1)イ.から、一般に、軸受ハウジングはステンレス鋼、軸受スリーブは青銅系合金で形成する場合が多いことが分かる。 上記記載事項(1)エ.、ク.及び図面から、引用例の「実施形態」に記載されたものは、主軸1と、主軸1を非接触で支持する第1軸受部Xおよび第2軸受部Yとを主要な構成要素とするものであり、第1軸受部Xは軸受ハウジング2からなる単一円筒構造、第2軸受部Yは軸受ハウジング3からなる単一円筒構造であることが分かる。 上記記載事項(1)エ.、ク.及び図面から、引用例に記載されたものは、軸受ハウジング2に軸受給気通路(2h、2i及び2j)が形成されていることが分かる。 上記記載事項(1)ウ.、エ.、オ.及び図面から、引用例の「実施形態」に記載されたものは、軸受ハウジング2はセラミックス、合成樹脂、黒鉛等の非金属材料で形成され、軸受ハウジング3はアルミニウム合金等の軽金属材料で形成されているが、軸受ハウジング(2、3)を自己潤滑性を有する黒鉛で形成しても良いことが分かる。 上記記載事項(1)カ.、ク.及び図面から、引用例に記載されたものは、軸受部を軸受ハウジングの単一円筒構造とした構成に限らず、軸受部を軸受ハウジングと軸受スリーブの嵌合一体構造とした構成にも適用することができることが分かる。 (3)引用例記載の発明 ここで、上記記載事項(1)、(2)及び図面から、引用例には、以下の発明(以下、「引用例記載の発明」という。)が記載されていることが分かる。 「主軸1と、その主軸1を回転自在に静圧支持する軸受部を構成する軸受ハウジング2、3を有する静電塗装機用スピンドルにおいて、前記軸受ハウジング2、3を、自己潤滑性を有する黒鉛で形成し、かつ、前記軸受部に供給する圧縮空気の軸受給気通路2h、2i、2jを前記軸受ハウジング2、3内に形成した静電塗装機用スピンドル。」 第3.本願発明と引用例記載の発明との対比 本願発明と引用例記載の発明を対比すると、引用例記載の発明における「主軸1」及び「軸受給気通路2h、2i、2j」が、それぞれ、本願発明の「主軸」及び「空気通路」に相当する。 また、引用例記載の発明における「軸受ハウジング2、3」は、「円筒構造の軸受部材」である限りにおいて、本願発明の「軸受スリーブ」に相当する。 そうすると、本願発明と引用例記載の発明とは、 「主軸と、その主軸を回転自在に静圧支持する軸受部を構成する円筒構造の軸受部材を有する静電塗装機用スピンドルにおいて、前記円筒構造の軸受部材を、自己潤滑性を有する黒鉛で形成し、かつ、前記軸受部に供給する圧縮空気の空気通路を前記円筒構造の軸受部材内に形成した静電塗装機用スピンドル。」で一致し、次の点において相違している。 <相違点1>本願発明においては、「主軸の一端部に塗料を霧化するための霧化頭を取り付けた」のに対し、引用例記載の発明においては、「霧化頭」を取り付けるものか明らかでない点。 <相違点2>本願発明においては、「円筒構造の軸受部材」である軸受スリーブに外嵌されたハウジングを有し、前記ハウジングを、耐腐食性を有するステンレス鋼で形成したのに対し、引用例記載の発明においては、「円筒構造の軸受部材」である軸受ハウジング2、3に外嵌されたハウジングを有しない点。(ただし、引用例記載の発明においては、軸受ハウジング2、3に外嵌された相手ハウジングZを有するが、これは、本願発明の塗装機ケース19に対応するものと解されるから、考慮に入れないこととする。) <相違点3>本願発明においては、ハウジングを軸受スリーブに比べて肉薄にしたのに対し、引用例記載の発明においては、その点が記載されていない点。 第4.当審の判断 上記相違点について検討する。 (1)上記<相違点1>について 静電塗装機用スピンドルの技術分野において、「主軸の一端部に塗料を霧化するための霧化頭を取り付けた」点は、従来周知(例、特開平9-94520号公報のベル形回転体3、特開平8-257441号公報のベル3、特開平4-200758号公報のベル3参照)の技術(以下、「周知技術1」という。)に過ぎない。 したがって、引用例記載の発明に、上記周知技術1を適用して、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が格別困難なく想到し得るものである。 (2)上記<相違点2>について 引用例の段落【0036】(第2.(1)カ.参照)には、引用例記載の発明が、軸受部を軸受ハウジングの単一円筒構造とした構成に限らず、軸受部を軸受ハウジングと軸受スリーブの嵌合一体構造とした構成にも適用することができることが記載されている。 また、耐腐食性を向上させるために、静電塗装機用スピンドルのハウジングを耐腐食性を有するステンレス鋼で形成することは、従来周知(例、引用例の段落【0010】、特開平9-294942号公報の段落【0002】、特開平8-326753号公報の段落【0009】、特開平8-323504号公報の段落【0009】参照)の技術(以下、「周知技術2」という。)である。 そうすると、引用例記載の発明に、上記周知技術2を適用して、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が格別困難なく想到し得るものである。 (3)上記<相違点3>について 軽量化のために、静電塗装機用スピンドルのハウジングを軸受スリーブに比べて肉薄にする程度のことは、当業者であれば、ごくあたり前に想到することであり、また、引用例記載の発明のように、「軸受スリーブ」を構成する「軸受ハウジング2、3」に軸受給気通路を設けたのであれば、その周囲に設ける耐腐食性のステンレス鋼で形成されたハウジングを肉薄にできることは、当業者にとり自明である。 なお、本願発明を全体として検討しても、引用例記載の発明及び上記周知技術1及び2から予測される以上の格別の効果を奏するとも認められない。 第5.むすび したがって、本願発明は、引用例記載の発明及び上記周知技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-07-30 |
結審通知日 | 2008-07-31 |
審決日 | 2008-08-13 |
出願番号 | 特願2000-353180(P2000-353180) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B05B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 田口 傑 |
特許庁審判長 |
早野 公惠 |
特許庁審判官 |
西本 浩司 金澤 俊郎 |
発明の名称 | 静電塗装機用スピンドル |
代理人 | 白石 吉之 |
代理人 | 田中 秀佳 |
代理人 | 城村 邦彦 |
代理人 | 江原 省吾 |
代理人 | 熊野 剛 |