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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20057335 審決 特許
不服200013562 審決 特許
不服20061033 審決 特許
不服200421684 審決 特許
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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1185168
審判番号 不服2005-17013  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-09-05 
確定日 2008-09-24 
事件の表示 特願2001-261760「抗IgEワクチン」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月 2日出願公開、特開2002-281984〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2001年8月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2000年8月30日、米国)に出願されたものであって、平成16年11月24日付で手続補正がなされ、平成17年6月2日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月5日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付で手続補正がなされたものである。


第2 平成17年9月5日付の手続補正書について補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年9月5日付の手続補正書を却下する。

I 本件補正
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】 動物へ投与されるときにアナフィラキシー(anaphylaxis)を引き起さない抗IgE免疫応答を誘発する、配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、又は配列番号:4のアミノ酸配列を含んでなる、単離された抗原性ペプチド。」
と補正された。
また、本件補正により、特許請求の範囲の請求項7は、
「【請求項7】IgE分子のCH3ドメインのアミノ酸残基を含んでなるアミノ酸配列又は配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3若しくは配列番号:4のアミノ酸配列を有する1つ又はそれ以上の抗原性ペプチドを含んでなる、アナフィラキシーを引き起こさない抗IgE免疫応答を誘発するための医薬組成物。」
と補正された。

上記請求項1についてなされた補正は、補正前の請求項1に択一的に記載された抗原性ポリペプチドの中から、配列番号5のアミノ酸配列を含んでなる抗原性ポリペプチドを削除するものであって、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の限縮を目的とするものに該当する。
また、上記請求項7についてなされた補正は、「少なくとも5アミノ酸残基長のそのフラグメントのアミノ酸残基を含んでなる抗原性ペプチド」が、「配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3若しくは配列番号:4のアミノ酸配列を有する」ものであることを特定するものであるから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の限縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1および請求項7に記載された発明(以下、「本願補正発明1」および「本願補正発明7」という。)が特許出願の際、独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

II 特許法第29条第2項について
1.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本出願の優先日前に頒布された各刊行物には、それぞれ以下の事項が記載されている。

(1)引用例1:国際公開第99/67293号
(i)「本発明の要約 本発明は、活性免疫化によるIgE 仲介アレルギー疾患を治療するための、新しい合成ペプチド複合体組成物を提供する。免疫化は、免疫化宿主におけるIgE のエフェクター部位に対して特異的の高い力価の非アナフィラキシー性ポリクローナル抗体の産生を誘導する。これは引き続いてマスト細胞/好塩基球の誘発および活性化を妨害し、IgE 合成をダウンレギュレートする。
治療はペプチド組成物で宿主を免疫化することによって実施され、その中に含有される各ペプチドは、ヒトIgE のイプシロン(ε)重鎖のCH3 ドメイン(例えば、配列番号1 または配列番号5 のアミノ酸413 -435 )のセグメントまたは他の種からの相同配列(例えば、配列番号6 ?8 および84)から修飾された、ターゲット抗原ペプチド配列(本明細書において「IgE -CH3 ドメイン抗原」または「IgE -CH3 ドメイン抗原ペプチド」と呼ぶ)を含むものである。」(公報第20頁第1-21行)

(ii)「同様に、他の種のIgEの対応するターゲット部位は、関係する種の相同的ε鎖セグメントから誘導することができる。例えば、このようなターゲット配列は表1に示すイヌ、ラットおよびマウスのε配列(配列番号2,3および4)、またはNavarro他、Molc. Immunol., 1995, 32 p.1-8により提供されるウマIgE-CH3配列から取得することができる。(略)
好ましくは、本発明のIgE-CH3ドメイン抗原は、化学的カップリングにより担体タンパク質への共有結合を介して、より好ましくは直接的合成により、免疫刺激性因子、例えば、プロミシャスThエピトープを介して、いっそう免疫原性とされる。担体タンパク質および免疫優性因子の特定の例は、例えば、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)担体、人工的Th(配列番号9)、人工的SSALTh(配列番号10および11)、病原体由来Th(配列番号12)、および免疫刺激性インベーシンペプチド(配列番号13)である。」(公報第21頁最終行-第22頁第22行)

(iii)「表1 はイヌ、ラット、およびマウス由来の相同配列と整列された、ヒトIgE のε重鎖のCH2 、CH3 およびCH4 ドメインを示す。本発明のIgE-CH3ドメインとして表すのに有用であると決定されたヒトε鎖上のターゲット部位には、表1において下線が引かれており、ヒトε鎖の413-435残基を含むものである。イヌ、ラット、およびマウスのタンパク質中の相同ターゲット配列にも表1において下線が引かれている。ウマにおける相同配列は、Navarro 他、Molec. Immunol.、1995、32:1 -8 のアミノ酸配列中の残基296 ?318 である。
本発明の下線が引かれているターゲットIgE CH3 エフェクター部位、および誘導されたIgE -CH3 ドメイン抗原ペプチドは、短いペプチド配列であり、それら自体合成されるとき、通常免疫原性が弱いか、あるいは非免疫原性であるので、自己抗原である。これらの短いペプチドは、担体タンパク質、例えば、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH )に化学的にカップリングすることによって、免疫増強することができる。」(公報第26頁第24行-第27頁第10行)(表1)

(iv)「こうして、IgE -CH3 ドメイン抗原配列番号5 を含んでなるペプチド複合体免疫原(配列番号14および15)による活性免疫化は非アナフィラキシー性抗IgE 抗体を誘発し、これらの抗体はそれら自体ヒスタミン放出を引き起こさないでIgE 仲介感作を阻害する。」(公報第54頁第8-13行)
(v)「表3 ヒスタミン遊離阻害における抗IgE抗体の評価
IgE 抗原番号:No.15
IgE抗原表記(配列番号):(C)CH3(413-435)(C)*(C418→S)(配列番号5)
IgE抗原に結合された免疫原性要素:b Syn Th(1,2,4)-GG
c Inv-GG-Syn Th(1,2,4)-GG-
ヒスタミン遊離の阻害%:58%と71%」(表3)

(2)引用例2:FEBS Lett. Vol.314, no.3, p.229-231 (1992)
(i)「Fcε受容体へ結合することで、同受容体をブロックするために、結合部位を含むペプチドが化学的メディエーターの放出を妨げるであろう。そのようなIgE受容体結合ペプチドを同定することは、喘息や花粉症や食物アレルギーのような即時型アレルギーのための抗アレルギー薬の開発へとつながるだろう。
構造的な研究と同様に、ヒトIgEのプロテアーゼで開裂されたペプチド断片とその組み換え遺伝子産物を研究することにより、ヒトIgE分子における結合部位は、CH3および/またはCH4ドメインに位置していることが示唆されている。しかしながら、正確な結合部位は未だ同定されていない。
結合部位を詳細に位置づけるために、我々はCH3-CH4ドメインをカバーする多くのペプチド断片を化学合成し、インビボで受身皮膚アナフィラキシー(PCA)反応を阻害する能力を試験した。」(第229頁左欄第9行-同頁右欄第2行)

(ii)「表1 合成ヒトIgEペプチド断片の、ラットにおける受身皮膚アナフィラキシー(PCA)への影響
ペプチド番号 化合物 阻害(%)
1(329-348) (略) 23.2
2(345-356) (略) 15.9
(略)
7(417-437) (略) 20.0
8(426-440) (略) 33.2
9(438-456) (略) 25.4
10(454-466)(略) 28.3
11(456-470)(略) 25.2」 (表1)

(iii)「図1 ヒトIgE分子のCH3およびCH4ドメインのアミノ酸配列、および、PCA反応における阻害活性を有する二つの領域(1および2)の部位」(図1)

(iv)「表1は、PCAへの合成ペプチドの阻害活性の結果を要約するものである。CH3-CH4ドメインをカバーする一連の化合物1-17において、化合物1,2,7,8,9,10,11が非常にPCA反応を阻害した(表1)。」(第230頁右欄第6-10行)

(v)「PCAを阻害するペプチドフラグメントは、CH3ドメインのAla329-Thr357(領域1)および、CH3とCH4ドメインの間の結合部位のArg419-Ala463に位置していた。(略)最近、Helmらは、一連のオーバーラップする組み換えFcε遺伝子産物を調製し、ヒトIgEのIgE受容体結合部位は、CH2/CH3結合部位の76アミノ酸内に位置していることを示唆した。領域1はHelmのペプチド断片に含まれている。Fcε受容体結合部位の一つはおそらく領域1に位置しているだろう。」(第230頁右欄下から18-4行)

(vi)「これらの結果から、我々は、CH3とCH4ドメインの3つの部位(Pro343-Leu348、Pro425-Thr433、Ser456-Thr461)が、タイプI介在性過感受性において重要であり、その受容体へのIgE分子の結合へも寄与しているだろうと暫定的に結論づけた。」(第231頁左欄下から5-1行)

2.引用例1との対比・判断
(1)対比
上記記載事項1.(1)(i)(ii)からみて、引用例1には、表1(配列番号1)のヒトIgEのε鎖のCH3ドメインの413-435残基、または、イヌ等の他の種由来のその相同配列に対して特異性の高い力価の非アナフィラキシー性ポリクローナル抗体の産生を誘導するペプチド組成物が記載されており、具体的には上記記載事項1.(1)(iv)(v)からみて、表1(配列番号1)のヒトIgEのε鎖のCH3ドメインの413-435位を含み、418位のCがSに置換された配列番号5で表されるペプチドを含む免疫原により、非アナフィラキシー性抗IgE抗体が産生されたことが記載されている。
すると、引用例1には、ヒトへ投与されるときに非アナフィラキシー性ポリクローナル抗体の産生を誘導する、ヒトIgEのε鎖のCH3ドメインの413-435位を含み、418位のCがSに置換された配列を含んでなるペプチドという発明が記載されているものと認められる。

引用例1の上記記載事項1.(1)(iii)で指摘の表1の配列、および、引用例2の上記記載事項1.(2)(iii)で指摘の図1の配列を参照すれば、本願の配列番号1-4はイヌ由来のIgEのε重鎖のCH3ドメイン由来のものであることは明らかである。

本願補正発明1と引用例1に記載された発明を対比すると、引用例1に記載の「ヒト」および「非アナフィラキシー性ポリクローナル抗体の産生を誘導する」は、それぞれ、本願補正発明1の「動物」および「投与されるときにアナフィラキシーを引き起こさない抗IgE免疫応答を誘発する」に相当し、両者は、動物へ投与されるときにアナフィラキシーを引き起こさない抗IgE免疫応答を誘発する、IgEのCH3ドメイン由来の抗原性ペプチドに関する発明である点で一致するものであり、
本願補正発明1では、抗原性ペプチドがイヌ由来の配列番号:1,2,3または4のアミノ酸配列を含んでなるものであるのに対して、
引用例1に記載された発明は、ペプチドがヒト由来のIgE-CH3残基413-435位(GETYQCRVTHPHLPRALMRSTTK)において418位のCがSに置換された配列を含んでなるものである点で相違するものである。

(2)判断
本願補正発明1は、その一態様として抗原性ペプチドが配列番号:4のアミノ酸配列を含んでなるものを包含するものである。
本願の配列番号4のアミノ酸配列は、上記記載事項1.(1)(iii)の指摘によれば、引用例1に非アナフィラキシー性抗IgE抗体を産生できるようなターゲット部位として記載されるヒト由来のIgE-CH3(GETYQCRVTHPHLPRALMRSTTK)に対応する、イヌ由来の相同配列(GETYYCRVTHPHLPKDIVRSIAK)において、N末端が5アミノ酸残基欠如しかつC末端に2アミノ酸残基延長したペプチドに相当するものである。
引用例1にも上記記載事項1.(1)(i)-(iii)で指摘のとおり、イヌ等の他の種由来の配列に対して特異性の高い力価の非アナフィラキシー性ポリクローナル抗体の産生を誘導するペプチド組成物を得ることが記載されているように、ヒトのみならず様々な哺乳動物由来のアナフィラキシーを引き起こさない抗体を産生できるようなペプチドを得ようとすることは、当該分野における周知の課題である。
哺乳動物由来のオーソログペプチド、および、構造的に類似したペプチドは同機能を奏するであろうことは、本願の優先日前当該分野における技術常識であるから、非アナフィラキシー性抗IgE抗体を産生できることが引用例1に記載されているヒト由来のIgE-CH3に対応するイヌ由来の相同配列において数アミノ酸残基程度異なるペプチドを含んでなるペプチドを作製し、非アナフィラキシー性IgE抗体を産生できるか否かを検討することは、当業者が適宜なしえる範囲内の事項である。
そして、本願の発明の詳細な説明には、配列番号4で表されるペプチドで免疫化した際に7匹のイヌのうち2匹のイヌについては皮膚膨疹反応性の抑制がみられたことが記載され、平成20年2月6日付けで前置審尋に対して提出された回答書においても、同様に配列番号4で表されるペプチドで免疫化した際に7匹のイヌのうち3匹については皮膚膨疹反応性の抑制が見られたことが記載されているものの、上記記載事項1.(1)(v)で指摘のとおり、引用例1にはヒト由来のIgE-CH3エフェクター部位(GETYQCRVTHPHLPRALMRSTTK)の6番目のCがSに置換された配列を含むペプチドを用いて抗IgE抗体を産生させることにより、ヒスタミン遊離が58%、71%阻害されたことが記載されていることからも、上記皮膚膨張疹反応性の抑制の結果が引用例1に記載された発明から予測しえない有利なものであるとはいえない。
そしてそもそも本願補正発明1は、「含むペプチド」に関するものであって、具体的なペプチドの長さや配列は不明であり、本願補正発明1のペプチドにより、引用例1に記載された発明から予測しえない有利な効果が奏されたということはできない。
したがって、本願補正発明1は引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易になしえたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3.引用例2との対比・判断
(1)対比
上記記載事項1.(2)(i)からみて、引用例2には、ヒトIgE分子におけるFcε受容体への結合部位はCH3および/またはCH4ドメインに位置していることが示唆されていることが記載され、また上記記載事項1.(2)(ii)および(iv)からみて、引用例2には、結合部位を詳細に位置づけるために、当該ドメインに対応するペプチド断片を合成してインビボで皮膚受身アナフィラキシー(PCA)反応を阻害する能力を試験したこと、および、Fcε受容体へ結合することで同受容体をブロックして化学的メディエーターの放出を妨げ、受身皮膚アナフィラキシー(PCA)反応を非常に阻害するペプチド断片として、化合物1(329-348位)および化合物2(345-356位)が記載され、さらに記載事項(vi)の記載からみて、引用例2にはPro343-Leu348が、タイプI介在性過感受性において重要であり、受容体へのIgE分子の結合へも寄与しているであろうことが記載されている。

すると、引用例2には、ヒトIgE分子において、Fcε受容体との結合部位であることが示唆されているCH3ドメイン由来であって、インビボでの受身皮膚アナフィラキシー(PCA)反応を阻害する能力を有するペプチド断片という発明が記載されていると認められる。

引用例1の上記記載事項1.(1)(iii)で指摘の表1の配列、および、引用例2の上記記載事項1.(2)(iii)で指摘の図1の配列を参照すれば、本願の配列番号1-4はイヌ由来のIgEのε重鎖のCH3ドメイン由来のものであることは明らかである。

本願補正発明1と引用例2に記載された発明を対比すると、引用例2に記載された発明の「ヒト」および「インビボでの受身皮膚アナフィラキシー(PCA)反応を阻害する能力を有する」は、それぞれ本願補正発明1の「動物」および「投与されるときにアナフィラキシーを引き起こさない」に相当し、両者は、
動物へ投与されるときにアナフィラキシーを引き起こさない、IgEのCH3ドメイン由来の単離されたペプチドに係る発明である点で一致するものであり、
本願補正発明1では、ペプチドがイヌ由来の配列番号:1,2,3または4のアミノ酸配列を含んでなる、抗IgE免疫応答を誘発する抗原性ペプチドであるのに対して、
引用例2には、当該ペプチドはFcε受容体へ結合するものであることが記載されているものの、抗IgE免疫応答を誘発することについては記載されていない点で相違するものである。

(2)判断
ヒトのみならず様々な哺乳動物由来のアナフィラキシーを引き起こさないペプチドを得ようとすることは当該分野における周知の課題である。
すると、代表的な哺乳動物の一種であるイヌ由来の周知のIgEアミノ酸配列において、CH3ドメイン由来のFcε受容体へ結合するアナフィラキシーを引き起こさないペプチドを得ようとすることは、当業者が引用例2に記載された発明および周知技術に基づいて容易に想到しえるものである。
そして、Fcε受容体と相互作用するIgE由来のオリゴペプチドに対して産生された抗体の中には、血漿内のIgEをFcε受容体から遮断することによりアナフィラキシーを防げるものが存在するであろうこともまた、本出願の優先日前の技術常識である(要すれば、国際公開第98/24808号 第11頁第30-32行参照、Nature Biotechnology, vol.18, p.157-162, February 2000 第158頁図2 同頁右欄下から2行-第159頁左欄第1行等)から、上記のように得られたFcε受容体への結合ペプチドの中から、アナフィラキシーを引き起こさない抗IgE免疫応答を誘発する性質をも有するペプチドを取得しようとすることも、当業者が適宜なしえる範囲内の事項である。

特に、本願の配列番号1のアミノ酸配列は、上記記載事項1.(2)(ii)(iv)の指摘および上記記載事項1.(1)(iii)で指摘の表1の配列によれば、引用例2においてFcε受容体への結合が確認されている化合物1(329-348位)および化合物2(345-356位)双方を含む部位(329-356位)に対応するイヌ由来の相同配列において、N末端およびC末端に1アミノ酸残基がそれぞれ付加されたペプチドに相当するものであり、かつ上記記載事項1.(2)(vi)で指摘される、タイプI介在性過感受性において重要とされるPro343-Leu348に相当する配列を含むものであるから、イヌ由来のCH3ドメインの中でも上記領域に対応する領域において数アミノ酸残基程度異なるペプチドを包含するペプチドを作製し、非アナフィラキシー性IgE抗体を産生できるか否かを検討することは、引用例2に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が適宜なしえる範囲内の事項である。

そして、本願の発明の詳細な説明には、配列番号1または2で表されるペプチドで免疫化した際に7匹のイヌでは全く皮膚膨疹反応性の抑制がみられなかったことが記載されており、また、平成20年2月6日付けで前置審尋に対して提出された回答書においても、同様に配列番号2で表されるペプチドで免疫化した際に7匹のイヌでは皮膚膨疹反応性の抑制が見られなかったことが記載されており、これらの結果をもって本願補正発明1により上記引用例に記載された発明から予測しえない有利な効果が奏されたということはできない。
そもそも本願補正発明1は、いずれも「含むペプチド」に関するものであって、これらの具体的なペプチドの長さや配列は不明であり、本願補正発明1のペプチドにより、引用例2に記載された発明および周知技術から予測しえない有利な効果が奏されたということはできない。
したがって、本願補正発明1は引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易になしえたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.小括
以上のとおりであるから、本願補正発明1は、引用例1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。


III.特許法第36条第4項の要件について
本願補正発明7は「IgE分子のCH3ドメインのアミノ酸残基を含んでなるアミノ酸配列又は配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3若しくは配列番号:4のアミノ酸配列を有する1つ又はそれ以上の抗原性ペプチドを含んでなる、アナフィラキシーを引き起こさない抗IgE免疫応答を誘発するための医薬組成物。」に関するものである。
本願の発明の詳細な説明には表3として、配列番号1および2のIgEペプチドで免疫化したイヌでは対照実験(PBS)同様に皮膚膨疹反応の抑制が確認できなかったことが記載されている。また、前置審尋に対する平成20年2月6日付の回答書においても同様の実験において、配列番号1および2のIgEペプチドで免疫化したイヌでは対照実験(PBS)同様に皮膚膨疹反応の抑制が確認できなかったことが記載されている。
そして、これらのペプチドがアナフィラキシーを引き起こさない抗IgE免疫応答を誘発するものであることを示す、上記以外の薬理試験またはそれに代わる実施例等の記載は発明の詳細な説明になされていない。
すると、本願の発明の詳細な説明には、「配列番号:1または配列番号:2のアミノ酸配列を有する1つ又はそれ以上の抗原性ペプチドを含んでなる、アナフィラキシーを引き起こさない抗IgE免疫応答を誘発するペプチドなるものは記載されておらず、そのようなペプチドを医薬として使用できるように発明の詳細な説明に開示されているとはいえない。
よって、本願の発明の詳細な説明には、当業者が本願補正発明7の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。


IV.小括
してみれば、本願補正発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願補正発明1は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
また、本願は、本願補正発明7については特許法第36条第4項の規定を満たすものでもないから、本願補正発明7は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


V.むすび
よって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


第3 本願発明について
I 平成17年9月5日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1および7に係る発明(以下、「本願発明1」および「本願発明7」という。)は、明細書の記載および図面からみて、平成16年11月24日付で補正された特許請求の範囲の請求項1および7に記載された以下のとおりのものであると認められる。
「【請求項1】 動物へ投与されるときにアナフィラキシー(anaphylaxis)を引き起さない抗IgE免疫応答を誘発する、配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:4、又は配列番号:5のアミノ酸配列を含んでなる、単離された抗原性ペプチド。
【請求項7】 IgE分子のCH3ドメイン又は少なくとも5アミノ酸残基長のそのフラグメントのアミノ酸残基を含んでなるアミノ酸配列を有する1つ又はそれ以上の抗原性ペプチドを含んでなる、アナフィラキシーを引き起こさない抗IgE免疫応答を誘発するための医薬組成物。」

また、本願の請求項29および30に係る発明は、明細書の記載および図面からみて、平成16年11月24日付で補正された特許請求の範囲の請求項29および30に記載された以下のとおりのものであると認められる。
「【請求項29】 配列番号:15、配列番号:16、配列番号:17、配列番号:18、配列番号:19、配列番号:20、又は配列番号:21のポリヌクレオチド配列を含んでなる、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項30】 配列番号:22、配列番号:23、配列番号:24、配列番号:25、配列番号:26、配列番号:27、又は配列番号:28のポリヌクレオチド配列を含んでなる、単離されたポリヌクレオチド。」

II 判断
1.特許法第29条第2項について
本願発明1は、本願補正発明1において、動物へ投与されるときにアナフィラキシーを引き起こさない抗IgE免疫応答を誘発する抗原ペプチドの選択肢として、さらに配列番号5のアミノ酸配列を含んでなるものを、包含するものである。
すると、本願発明1は本願補正発明1をそのままの態様で包含するものであるから、上記「第2 II」に記載した本願補正発明1に関する理由と同様の理由により、本願発明1は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2.特許法第36条第4項について
本願発明7は、本願補正発明7における抗原性ペプチドに関する「配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3若しくは配列番号:4のアミノ酸配列を有する」との記載が削除された、「少なくとも5アミノ酸残基長のIgE分子のCH3ドメインのフラグメントのアミノ酸残基を含んでなる抗原性ペプチド」に関する発明であり、「IgE分子のCH3ドメインの少なくとも5アミノ酸残基長のフラグメントのアミノ酸残基を含んでなるアミノ酸配列を有する抗原性ペプチド」を含む、アナフィラキシーを引き起こさない抗IgE免疫応答を誘発するための医薬組成物に関するものである。

「IgE分子のCH3ドメインの少なくとも5アミノ酸残基長のフラグメント」なるものには、たとえば配列番号:5-14で表されるペプチドが包含されるが、これらのペプチドがアナフィラキシーを引き起こさない抗IgE免疫応答を誘発することについて、発明の詳細な説明には、薬理試験等の具体的な試験はなされていない。また「IgE分子のCH3ドメインの5アミノ酸残基長さのフラグメント」という小さなペプチドがアナフィラキシーを引き起こさない抗IgE免疫応答を誘発することについても発明の詳細な説明には記載されていない。そして、CH3ドメインの少なくとも5アミノ酸残基長のフラグメントのアミノ酸残基を含んでなるアミノ酸配列を有するペプチドなるものには、非常に様々なペプチドが包含され、このような様々なペプチドが、アナフィラキシーを引き起こさない抗IgE免疫応答を誘発するものであることについても、薬理試験等の具体的な記載はなされていない。
すると、当業者が過度な実験を要することなく本願の発明の詳細な説明の記載に基づいて、「IgE分子のCH3ドメイン又は少なくとも5アミノ酸残基長のそのフラグメントのアミノ酸残基を含んでなるアミノ酸配列を有する1つ又はそれ以上の抗原性ペプチドを含んでなるアナフィラキシーを引き起こさない抗IgE免疫応答を誘発する医薬組成物」なるものを得ることができるとはいえない。
したがって、本願の発明の詳細な説明には、当業者が本願発明7を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

また、請求項29および30に記載される配列番号15-28のポリヌクレオチドについて、本願の発明の詳細な説明には、このような様々なポリヌクレオチドをどのように使用できるかについて、具体的に開示されていない。
請求人は平成19年8月3日付前置審尋に対する平成20年2月6日付回答書において、配列番号:15-28のヌクレオチド配列は、配列番号:1-14のアミノ酸配列からなるペプチドをコードするものであり、配列番号15のヌクレオチド配列は、配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするものである旨主張している。
しかしながら、たとえば配列番号15のヌクレオチド配列が対応するアミノ酸配列は「CSDPRGVT・・」であるのに対して、配列番号1のアミノ酸配列は「CSESDPRGVT・・」であるから、上記請求人の主張は認められない。
さらに請求人は、配列番号:19-28のヌクレオチド配列は、配列番号:5-14のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするものである旨主張するが、そもそもこれらのペプチドについては本願明細書に実施例等の具体的な記載もなされておらず、これらのペプチドがどのような機能を奏するものであるかも不明である。すなわち、仮に配列番号:19-28のヌクレオチド配列が、配列番号:5-14のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするものであったとしても、対応するペプチドの具体的な機能が不明な以上、当該ヌクレオチドについて技術的に意味のある特定の用途が開示されているということはできない。
したがって、本願の発明の詳細な説明には、当業者が本願の請求項29および30に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。また、本願は、請求項7、29および30に係る発明について、特許法第36条第4項に規定する要件を満たすものでもない。
したがって、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
 
審理終結日 2008-04-28 
結審通知日 2008-04-30 
審決日 2008-05-15 
出願番号 特願2001-261760(P2001-261760)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C12N)
P 1 8・ 536- Z (C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田村 明照  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 鈴木 恵理子
光本 美奈子
発明の名称 抗IgEワクチン  
代理人 社本 一夫  
代理人 小林 泰  
代理人 千葉 昭男  
代理人 富田 博行  
代理人 野▲崎▼ 久子  
代理人 増井 忠弐  

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