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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1185171
審判番号 不服2005-24607  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-12-21 
確定日 2008-09-22 
事件の表示 特願2001-311007「磁気記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成15年4月25日出願公開、特開2003-123222〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成13年10月9日の出願であって、本願請求項1乃至3に係る発明は、平成17年9月29日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】非磁性支持体上に磁性粉末又は非磁性粉末及び結合剤を含む下層並びに強磁性粉末及び結合剤を含む少なくとも一層の磁性層をこの順に有する磁気記録媒体であって、少なくとも前記下層に含まれる結合剤は、ガラス転移温度が100?200℃の範囲であり、環状構造及び炭素数2?18のアルキル基を有するジオール成分からなるポリウレタン樹脂を含み、最上層に位置する磁性層は、その表面に高さ10?20nmの表面突起を5?1000個/100μm^(2)有することを特徴とする磁気記録媒体。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-124848号公報(以下、「引用例1」という。)には、「磁気記録媒体」に関して、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。)

ア.「【請求項1】非磁性支持体上に、強磁性粉末を結合剤中に分散してなる磁性層を設けた磁気記録媒体または前記磁性層と前記非磁性支持体の間に更に無機粉末と結合剤とを含む下層塗布層を設けた磁気記録媒体において、前記磁性層中の結合剤または前記下層塗布層中の結合剤の少なくとも一つの結合剤が環状構造とエーテル基とを含むポリウレタン樹脂であり、前記磁性層表面は原子間力顕微鏡(AFM)によって10nm毎の突起高さを測定したとき、30μm×30μm角中に10nm以上20nm未満の高さの突起の数:M_(10)が4000コ以下で、20nm以上40nm未満の高さの突起の数:M_(20)が20コ以上あり、かつM_(10)/M_(20)の比率が10?35であることを特徴とする磁気記録媒体。」
イ.「【0012】本発明に規定のポリウレタン樹脂を磁性層または非磁性層の結合剤として使用することにより、上層塗布層の磁性体や下層塗布層の微粒子無機粉体の分散性が向上するために、表面性、とくにAFM測定による10nm以上20nm未満の高さの突起数:M_(10)を大きく減少する事が出来、その結果電磁変換特性が向上した。通常、表面性が平滑になると摩擦係数が上昇するが、上記ポリウレタン樹脂を用いても、固体潤滑剤(フィラー)によって形成される20nm以上の突起数はほとんど変化しないため、摩擦係数の上昇が見られない。
【0013】即ち、従来は、表面性を平滑にするための手法として、分散を強くする、カレンダーを強くする、固体潤滑剤量を少なくする事を行ってきた。しかしながらこの手法では、高い突起と低い突起両方が同じ割合で増減するのみであり、電磁変換特性が高くなると摩擦係数が上昇する現象の中で、最もバランスのとれる点を探索するしかなかった。今回上記ポリウレタン樹脂を用いる事によって、今まで不十分であった微粒子の磁性体や微粒子粉体の分散が向上する為に、地肌に近い低い突起のみを大きく減少する事ができ、電磁変換特性を向上する事ができるのである。また、このポリウレタン樹脂が、環状構造を有する短鎖ジオールで有る場合、ガラス転移点を上げることができ、耐久性に対しても信頼性を向上させる事ができる。」
ウ.「【0025】 また、本発明のポリウレタン樹脂の数平均分子量(Mn)は5000?100,000が好ましく、さらに好ましくは10,000?50,000であり、特に好ましくは20,000?40,000であり、5000未満では、磁性層の強度が低下し、耐久性が低下する。また、100,000より大では溶剤への溶解性が低下し、分散性が低下する。本発明のポリウレタン樹脂のガラス転移温度Tgは、50?200℃であり、好ましくは、80?150℃であり、さらに好ましくは、100?130℃である。50℃未満のものは高温での磁性層の強度が低下するので耐久性、保存性が低下する。また、200℃より大のものはカレンダー成形性が低下し、電磁変換特性が低下する。 <以下、略>」
エ.「【0076】
【発明の効果】本発明の磁気記録媒体は、規定のポリウレタン樹脂を磁性層または非磁性層の結合剤として使用することにより、上層塗布層の磁性体や下層塗布層の微粒子無機粉体の分散性が向上するために、表面性、とくにAFM測定による10nm以上20nm未満の高さの突起数を大きく減少する事ができるようにした。これにより摩擦係数の上昇なく走行耐久性に優れ、かつ電磁変換特性を向上させることができるようになった。」

上記記載事項によれば、引用例1には、
「非磁性支持体上に、強磁性粉末を結合剤中に分散してなる磁性層と前記非磁性支持体の間に更に無機粉末と結合剤とを含む下層塗布層を設けた磁気記録媒体において、前記下層塗布層中の結合剤が環状構造とエーテル基とを含み、ガラス転移温度Tgは、50?200℃であるポリウレタン樹脂であり、前記磁性層表面は30μm×30μm角中に10nm?20nm未満の高さの突起の数が4000コ以下である磁気記録媒体。」の発明(以下「引用例1発明」という。)が開示されている。

3.対比

引用例1発明の「無機粉末と結合剤とを含む下層塗布層」「強磁性粉末を結合剤中に分散してなる磁性層」「突起」は、それぞれ、本願発明の「磁性粉末又は非磁性粉末及び結合剤を含む下層」「強磁性粉末及び結合剤を含む少なくとも一層の磁性層」「表面突起」に相当する。
引用例1発明の磁気記録媒体において、非磁性支持体上に磁性層があり、磁性層と非磁性支持体との間に下層塗布層を設けてあるから、非磁性支持体上に下層塗布層、磁性層をこの順に有しており、本願発明の「下層」と「磁性層」の順と同じであり、引用例1発明における「磁性層」は最上層に位置している。
そして、ポリウレタン樹脂がジオール成分を含むことは自明である。

そこで、本願発明と引用例1発明とを比較すると、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「非磁性支持体上に磁性粉末又は非磁性粉末及び結合剤を含む下層並びに強磁性粉末及び結合剤を含む少なくとも一層の磁性層をこの順に有する磁気記録媒体であって、少なくとも前記下層に含まれる結合剤は、ガラス転移温度が所定の範囲であり、環状構造及びジオール成分からなるポリウレタン樹脂を含み、最上層に位置する磁性層は、その表面に高さ10?20nmの表面突起を所定数有する磁気記録媒体。」である点。

[相違点1]本願発明の結合剤に含まれる環状構造を有するポリウレタン樹脂は「ガラス転移温度が100?200℃の範囲」であり、「炭素数2?18のアルキル基を有するジオール成分」からなるのに対し、引用例1発明のものは「ガラス転移温度が50?200℃範囲」であり、「エーテル基を含むジオール成分」からなる点。
[相違点2]磁性層表面の突起について、本願発明では、高さ10?20nmの突起は、5?1000個/100μm^(2)であるのに対し、引用例1発明では30μm×30μm角中に4000コ以下である点。

4.判断
[相違点1]について
引用例1には、ポリウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg)について、「さらに好ましくは100?130℃である。50℃未満のものは高温での磁性層の強度が低下するので耐久性、保存性が低下する。また、200℃より大のものはカレンダー成形性が低下し、電磁変換特性が低下する」と記載されている(上記ウ)のであるから、ガラス転移温度の範囲を100?200℃とすることは、当業者が適宜なし得ることである。
そして、「環状構造及び炭素数2?18のアルキル基を有するジオール成分」として、例えばダイマージオールは、磁気記録媒体の結合剤として用いられるポリウレタン樹脂のジオール成分として周知であるから(特開平11-96539号公報、国際公開WO00/05714号パンフレット、特開2001-134921号公報等参照。)、引用例1発明におけるポリウレタン樹脂のジオール成分として、環状構造及び炭素数2?18のアルキル基を有するジオール成分を使用することは、当業者が容易に想到できたものである。

この点について、請求人は、請求の理由について補正する平成18年3月8日付け手続補正書において、引用例1発明においては、特定構造のジオール成分を使用しなければ、引用例1発明の所期の目的を達成できないことが明確に記載されているから、引用例1発明におけるジオール成分を他のものと置換する動機付けがない旨主張している。
しかし、引用例1においては、特定構造のジオールを含みガラス転移温度(Tg)が94℃のポリウレタンAの1例と、特定構造のジオールを含まずTgが38℃のポリウレタンBの1例とが比較されているにすぎず(段落[0051]の表2及び各実施例、比較例参照。)、特定構造のジオールを含まないがTgが高いポリウレタン樹脂、及び、特定構造のジオールを含むがTgが低いポリウレタン樹脂を使用した場合と比較した効果について記載されていない。
そうすると、ジオールとして「引用例1の特定構造のジオール」以外は、他のいかなるジオールを用いたとしても引用例1発明の所期の目的を達成することが不可能であることが記載されていると認めることはできない。磁気記録媒体の結合剤として用いられるポリウレタン樹脂のジオール成分として周知であるダイマージオールを使用することについて特段の阻害事由はなく、少なくともダイマージオールをジオール成分として含みTgが100?200℃のポリウレタン樹脂の使用を試みる程度の動機付けがあるというべきである。
また、特定の構造のジオールを含まないポリウレタンBを下層に用いた実施例2-5も引用例1発明の所期の目的を達成しているのであるから(段落[0069]の表5参照)、上記請求人の主張には理由がない。
一方、本願の実施例7は、環状構造及び炭素数2?18のアルキル基を有するジオールを含まずTgが100℃であるポリウレタンFを下層に用いているにもかかわらず、本願発明の目的を達成していることからみて、環状構造及び炭素数2?18のアルキル基を有するジオールを含むことにより、本願発明が格別顕著な効果を奏するものと認めることはできない。

[相違点2]について
引用例1発明において、高さ10?20nmの突起の数は、30μm×30μm角中すなわち900μm^(2)中に4000個以下であるから、100μm^(2)では444個以下(4000÷900×100≒444)となる。
引用例1において、高さ10?20nmの突起の数が少なくなることは電磁変換特性の向上をもたらすものであり、また、表面の突起は摩擦係数にも関係しているのであるから(上記イ参照)、摩擦係数を上昇させることがなく、かつ、電磁変換特性を向上できるように高さ10?20nmの突起の数の範囲を5?1000個/100μm^(2)とすることは当業者が容易に想到しうることであり、5?1000個/100μm^(2)であることによる効果も引用例1の記載から当業者が予測しうる程度のものにすぎない。

そして、上記各相違点について総合的に判断しても、本願発明が奏する効果は、引用例1発明から予測しうる程度のものにすぎない。
したがって、本願発明はその出願前に頒布された刊行物である引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-07-28 
結審通知日 2008-07-29 
審決日 2008-08-11 
出願番号 特願2001-311007(P2001-311007)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 馬場 慎  
特許庁審判長 小林 秀美
特許庁審判官 吉川 康男
横尾 俊一
発明の名称 磁気記録媒体  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  

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