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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08F |
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管理番号 | 1185186 |
審判番号 | 不服2006-19764 |
総通号数 | 107 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-11-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-09-07 |
確定日 | 2008-09-22 |
事件の表示 | 平成 8年特許願第281798号「ポリイソブチレンのシャク解方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 4月21日出願公開、特開平10-101736〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成8年10月2日に特許出願されたものであって、平成16年9月10日付けで拒絶理由が通知され、同年11月17日に意見書及び手続補正書が提出され、平成18年7月27日付けで拒絶査定がされたものであるところ、同年9月7日に審判が請求され、同年9月25日に審判請求書の手続補正書(方式)及び手続補正書が提出され、同年11月10日付けで前置報告がなされ、その後、当審において平成20年2月12日付けで審尋がなされ、同年4月3日に回答書が提出されたものである。 第2.平成18年9月25日付けの明細書についての手続補正に対する補正の却下の決定 [結論] 平成18年9月25日付けの明細書についての手続補正を却下する。 [理由] 1.補正の内容 平成18年9月25日付けの明細書についての手続補正(以下、「審判時補正」という。)は、明細書の特許請求の範囲について、 「【請求項1】 ポリイソブチレンを有機溶媒中でラジカル発生剤によりシャク解処理することを特徴とするシャク解方法。 【請求項2】 請求項1において、ベンゼン中における10時間半減期温度が60℃以上のラジカル発生剤を用いるシャク解方法。 【請求項3】 請求項1又は2において、ラジカル発生剤がベンゾイルパーオキシドであるシャク解方法。 【請求項4】 請求項1?3の一において、有機溶媒に炭素数が6?8の脂肪族系炭化水素類を80重量%以上含有するものを用いるシャク解方法。 【請求項5】 請求項1?4の一に記載のシャク解方法により処理してなる重量平均分子量が30万?70万のポリイソブチレン。」を、 「【請求項1】 重量平均分子量が250万以下のポリイソブチレンを有機溶媒中でラジカル発生剤によりシャク解処理して、重量平均分子量が30万?70万で、数平均分子量が10万?40万の分子量分布を有する状態に低分子量化することを特徴とするシャク解方法。 【請求項2】 請求項1において、ベンゼン中における10時間半減期温度が60℃以上のラジカル発生剤を用いるシャク解方法。 【請求項3】 請求項1又は2において、ラジカル発生剤がベンゾイルパーオキシドであるシャク解方法。 【請求項4】 請求項1?3の一において、有機溶媒に炭素数が6?8の脂肪族系炭化水素類を80重量%以上含有するものを用いるシャク解方法。 【請求項5】 請求項1?4の一に記載のシャク解方法により処理してなる重量平均分子量が30万?70万で、数平均分子量が10万?40万のポリイソブチレン。」とする補正を含むものである。 2.新規事項の有無について 上記特許請求の範囲についての補正は、請求項1について、「シャク解処理すること」を、「シャク解処理して、重量平均分子量が30万?70万で、数平均分子量が10万?40万の分子量分布を有する状態に低分子量化すること」とする補正事項(以下、「補正事項1」という。)を含むものである。 しかしながら、本願の願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)には、シャク解処理により「重量平均分子量が30万?70万で、数平均分子量が10万?40万の分子量分布」を有する状態に低分子量化することは記載されていない。 当初明細書には、段落【0006】に、「本発明によれば、有機溶媒中での処理によりイソブチレン系ポリマーを分子量の制御性よく効率的に分解して、使用目的に応じた分子量分布を有する当該ポリマーを少ないエネルギー消費量で得ることができる。従ってかかるシャク解処理で低分子量化した好適分子量分布のイソブチレン系ポリマーをベースポリマーに用いて、上記した初期接着力とその維持性と耐候性が良好にバランスして、糊残りなく容易に再剥離できる表面保護材も容易に得ることができる。」と記載され、段落【0010】に、「特に重量平均分子量30万?70万、数平均分子量10万?40万にシャク解処理したものが好ましい。」と記載されているが、これは単に「重量平均分子量30万?70万、数平均分子量10万?40万」との、各々の範囲を示す記載に過ぎず、その両者の関係で分子量分布の数値を決めることは当初明細書にはどこにも記載されていない。 そして、分子量分布は、簡便に、重量平均分子量/数平均分子量の値として表されることが多いものではあるが、その場合であっても、あくまで、その両者の比として表される値であって、単に「重量平均分子量30万?70万、数平均分子量10万?40万」との、各々の範囲を示すにすぎない記載をもって、分子量分布が自明であるということはできない。 したがって、当初明細書の記載から、「重量平均分子量が30万?70万で、数平均分子量が10万?40万の分子量分布」との事項が自明であるということもできない。 よって、補正事項1は、当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものではない。 3.補正の目的について 補正事項1により、請求項1に係る発明は、「シャク解処理して、重量平均分子量が30万?70万で、数平均分子量が10万?40万の分子量分布を有する状態に低分子量化すること」を発明を特定するために必要な事項として備えるものとなった。 しかしながら、補正前の請求項1には、シャク解処理後のポリイソブチレンの状態に関する事項は何ら記載されていない。 そうであるから、補正事項1は、請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものとはいえない。 したがって、審判時補正は、平成18年改正前特許法17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。また、請求項の削除、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明のいずれかを目的とするものであるとも認められない。 よって、審判時補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1ないし第4号に掲げる事項のいずれをも目的とするものではない。 4.まとめ 以上のとおり、審判時補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第3項及び第4項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 第3.原査定についての当審の判断 1.本願発明 上記第2.で述べたとおり、平成18年9月25日付けの明細書についての手続補正は却下されたので、本願の請求項1?5に係る発明は、平成16年11月17日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「【請求項1】 ポリイソブチレンを有機溶媒中でラジカル発生剤によりシャク解処理することを特徴とするシャク解方法。」 2.原査定の拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由とされた、平成16年9月10日付けの拒絶理由通知書に記載した理由の概要は、本願の請求項1?5に係る発明は、本願出願前日本国内において頒布された刊行物1(特公昭44-20620号公報)及び刊行物2(特開昭59-184205号公報)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。 3.引用刊行物の記載事項 上記刊行物2には、以下の事項が記載されている。 (ア)「(1)パーオキサイドとハイドロパーオキサイドとのオキシダント混合物が、分子量減成を生じさせるのに十分な量で存在し、そして、パーオキサイドのハイドロパーオキサイドに対するモル比が3.2:1?0.4:1の範囲内である前記のパーオキサイドとハイドロパーオキサイドとのオキシダント混合物の存在下溶剤中においてオレフィンポリマーを酸化することを特徴とする分子状酸素の不存在におけるオレフィンポリマーの酸化減成方法。」(特許請求の範囲請求項1) (イ)「「オレフィンポリマー」(Olefinic polymer)の語は、オレフィン状に不飽和のモノマーから誘導されるポリマーを言う。そのポリマーは、ホモポリマー、ランダムおよびブロックコポリマーを含む語であるコポリマー、トリマーおよびテトラポリマーなどのいずれでもよい。好適なホモポリマーには、5,000?60,000の範囲内、好ましくは10,000?45,000の範囲内のM_(n)を有するポリイソブテンのようなポリブテンが含まれる。」(第3頁右下欄13行?第4頁左上欄2行) (ウ)「酸化は、反応条件に比較的不活性な溶剤中で行われる。トルエン、キシレン、ヘキサンまたは鉱物性ニュートラルオイルのような溶剤が使用される。」(第5頁左下欄15?18行) (エ)「酸化反応によって生成した生成物は、出発物質より低分子量の油溶性生成物である。その分子量は、酸化反応の間に使用する条件および程度によって決まる。・・・・ 酸化されたポリマー物質は、元の物質の分子量の約1/2?約1/10の粘度平均分子量(Viscosity average molecular weight)を有する。」(第5頁右下欄4?18行) 4.引用刊行物に記載された発明 刊行物2には、「(1)パーオキサイドとハイドロパーオキサイドとのオキシダント混合物が、分子量減成を生じさせるのに十分な量で存在し、そして、パーオキサイドのハイドロパーオキサイドに対するモル比が3.2:1?0.4:1の範囲内である前記のパーオキサイドとハイドロパーオキサイドとのオキシダント混合物の存在下溶剤中においてオレフィンポリマーを酸化することを特徴とする分子状酸素の不存在におけるオレフィンポリマーの酸化減成方法。」(摘示事項(ア))の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 5.本願発明と引用発明との対比 本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明の溶剤は、有機溶剤を包含するものである(摘示事項(ウ))。 また、引用発明の「パーオキサイドとハイドロパーオキサイドとのオキシダント混合物」は、本願明細書段落【0014】にラジカル発生剤として挙げられているように、いずれもラジカル発生剤であるものの混合物であるから、本願発明のラジカル発生剤に相当すると認められる。 さらに、本願発明のシャク解方法とは、本願明細書の段落【0001】に記載されるように、分子量を効率よく低下させる方法であるから、低分子量化する方法といえるものであるところ、引用発明の酸化減成方法も、低分子量化する方法といえるものである(摘示事項(エ))。 そうであるから、本願発明と引用発明とは、「オレフィンポリマーを有機溶媒中でラジカル発生剤によって低分子量化する方法」である点で一致し、次の相違点1で相違し、相違点2で一応相違するものと認められる。 相違点1:本願発明では、オレフィンポリマーがポリイソブチレンであるのに対し、引用発明ではポリマーが特定されていない点。 相違点2:本願発明では、低分子量化する方法がシャク解方法であるのに対し、引用発明では、分子状酸素の不存在における酸化減成方法である点。 6.相違点に対する判断 (1)相違点1について 刊行物2には、好適なホモポリマーとして、「5,000?60,000の範囲内、好ましくは10,000?45,000の範囲内のM_(n)を有するポリイソブテンのようなポリブテン」(摘示事項(イ))が記載されており、オレフィンポリマーとしてポリイソブテン(すなわち、ポリイソブチレン)を選択することは当業者が適宜なし得る事項であり、これを困難とする理由も格別認められない。 また、そのことによる作用効果も格別なものとすることはできない。 (2)相違点2について 本願発明のシャク解方法は、酸化を伴う酸化減成を格別排除しているものではない。 すなわち、本願明細書の段落【0011】には、シャク解剤として機能するラジカル発生剤として「有機過酸化物」が記載され、同段落【0014】、【0017】には、ラジカル発生剤として多数のパーオキシドが例示され、実施例1?3においてはベンゾイルパーオキシド、ジクミルパーオキシドが使用されている点に鑑みるに、本願発明においても、ラジカル発生剤としてパーオキシドを使用した場合には、ポリイソブチレンに対して何らかの酸化が伴っている蓋然性が高いものである。 さらに、本願明細書の段落【0021】には、「シャク解処理における処理容器内の雰囲気は、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気でもよいし、空気でもよい。」と記載され、実施例1?3においては1気圧の窒素雰囲気下にシャク解処理を行っていることから、本願発明のシャク解方法は、「分子状酸素の不存在における酸化減成方法」を包含するものと認められる。 したがって、相違点2は実質的な相違点とはいえない。 なお、審判請求人は、審判請求書及び回答書において、本願発明の作用効 果として、初期接着力とその維持性と耐候性のバランスに優れ、糊残りなく容易に再剥離できる表面保護材が得られる旨主張しているが、本願発明はシャク解方法の発明であって、表面保護材の発明ではないから、審判請求人の主張は特許請求の範囲の記載に基づかないものである。 さらに、本願明細書の実施例には、低分子量化されたポリイソブチレンを表面保護材とした例は記載されておらず、初期接着力とその維持性と耐候性のバランスに優れ、糊残りなく容易に再剥離できるという作用効果については何ら裏付けがなされていない。 したがって、本願発明の作用効果を格別顕著なものということはできない。 7.まとめ 以上のとおり、本願発明は、刊行物2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 第4.むすび 以上のとおりであるから、本願は拒絶を免れないものであるので、原査定は妥当である。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-07-07 |
結審通知日 | 2008-07-15 |
審決日 | 2008-07-30 |
出願番号 | 特願平8-281798 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C08F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐藤 邦彦、渡辺 仁 |
特許庁審判長 |
一色 由美子 |
特許庁審判官 |
野村 康秀 前田 孝泰 |
発明の名称 | ポリイソブチレンのシャク解方法 |
代理人 | 藤本 勉 |