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審決分類 審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1185271
審判番号 不服2006-6633  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-04-07 
確定日 2008-10-01 
事件の表示 平成 7年特許願第519122号「ビーム和-チャンネル相関を用いた多重素子配列超音波スキャナに対するビーム形成遅延時間の補正」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 7月20日国際公開、WO95/19137、平成 8年 8月27日国内公表、特表平 8-507951〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成7年1月17日(優先権主張1994年1月18日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成18年1月12日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年4月7日に拒絶査定不服審判の請求が行われるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成18年4月7日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成18年4月7日付けの手続補正を却下する。

[理由]
2-1.補正内容・補正の目的の適否
平成18年4月7日付けの手続補正は、補正前(平成17年9月27日付け手続補正書)の請求項6に、補正前の請求項7の内容を加入すると共に、補正前の請求項7を削除し、補正前の請求項8及び9の項番を順次繰り上げたものである。
この請求項6についての補正は、具体的には、補正前の請求項6に「前記配列の素子の各々に対する前記遅延時間補正値Tc,kに応答して、前記方向決めされた送信ビームが発生されるときに前記配列の素子の各々にそれぞれ印加される別々の信号パルスのそれぞれの送信遅延時間Tt,kを変更する工程と、前記配列の素子の各々に対する前記遅延時間補正値Tc,kに応答して、前記配列の素子のエコー信号のサンプルの各々に加えられるそれぞれ別々の受信遅延時間Tr,kを変更する工程」を追加するものであって、新たな発明特定事項を追加するものであるから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的としたものであるとは認められない。
また、この請求項6についての補正が、補正前の請求項6を削除し、補正前の請求項7を独立形式で請求項6として記載したものと言えるかについて検討すると、補正前の請求項8は補正前の請求項6を引用している一方、補正前の請求項8に対応する補正後の請求項7は補正後の請求項6を引用しており、この引用関係から上記請求項6についての補正が、補正前の請求項6を削除したものと言うことはできない(請求項6についての補正が、補正前の請求項6を削除したものと言えるためには、補正前の請求項8が補正前の請求項7を引用しているか、または補正前の請求項8に対応する補正後の請求項が、補正前の請求項6を引用した内容で独立形式で記載される必要がある)。よって、上記請求項6についての補正が、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1号に規定する請求項の削除を目的としたものであるとは認められない。
さらに、上記補正が、誤記の訂正または明りようでない記載の釈明を目的としたものでないことは明らかである。

2-2.補正却下の決定についてのむすび
以上のように、上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1号乃至第4号に掲げる事項のいずれをも目的としていないから同法第17条の2第4項の規定に適合しないものであり、同法第159条第1項において準用する同法第53条第1項の規定により、却下されるべきものである。

3.本願発明
平成18年4月7日付けの手続補正は上記の通り却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成17年9月27日付けの手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下「本願発明」という。)
「【請求項1】 ビームに対する伝送媒質の伝搬速度の非一様性を補正するコヒーレント振動エネルギ・ビーム作像システムであって、
あるパターンに設けられた一組の配列素子を有している変換器配列であって、前記素子の各々は、送信モードの間に振動エネルギのパルスを発生すると共に受信モードの間に該素子に入射する振動エネルギに応答してエコー信号を発生するように、別々に動作可能である、変換器配列と、
該変換器配列に接続されており、送信モードの間に、方向決めされた送信ビームが発生されるように、前記配列素子の各々に対してそれぞれの送信遅延時間Tt,kを有する別々の送信信号パルスを印加するよう動作可能である送信器と、
複数のN個の受信チャンネルを含み、前記変換器配列に接続されており、受信モードの間に、方向決めされた受信ビームが発生されるように、振動エネルギが入射したときに前記配列素子の各々により発生されるエコー信号をサンプリングすると共に該エコー信号のサンプルの各々にそれぞれ別々の受信遅延時間Tr,kを加えるよう動作可能である受信器と、
前記変換器配列内の各々の配列素子に加えられる送信信号パルスの送信遅延時間Tt,kを補正するために前記送信器に印加されると共に、前記エコー信号のサンプルの各々に加えられる受信遅延時間Tr,kを補正するために前記受信器に印加される遅延時間補正値Tc,kを前記受信器に応答して発生する補正手段とを備え、
前記補正手段は、 前記遅延時間補正値Tc,kを発生する遅延時間補正プロセッサと、 該遅延時間補正プロセッサに応答して、前記遅延時間補正値Tc,kに応答して前記送信遅延時間Tt,k及び前記受信遅延時間Tr,kを発生するディジタル制御器とを含んでおり、
前記遅延時間補正プロセッサは、 前記受信チャンネルに接続されている複数のN個の相関器であって、前記受信チャンネルの各々1つの出力が該相関器のそれぞれ1つに接続されている、複数のN個の相関器と、 前記受信チャンネルの各々1つに接続されており、基準ビーム和信号を形成するように該チャンネルにより発生された出力信号を算術的に合算する合算手段が、前記相関器の各々に対して前記基準ビーム和信号を供給するように該相関器に接続されている、合算手段とを含んでいる、
コヒーレント振動エネルギ・ビーム作像システム。」

4.引用例
4-1.引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である、特開平5-95951号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審にて付加した)。

(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、超音波照射に従って被検査物体の断層像を得る超音波影像装置に関し、特に、小さなハードウェア量に従いつつ、被検査物体中の音速の不均一性に起因する画像劣化を防止して、高精度の画像を得ることができるようにする超音波影像装置に関するものである。
【0002】医療分野等を中心にして、物体内部を可視化する超音波影像装置が広く用いられている。この超音波影像装置は、超音波を放射する電気音響変換素子を1列に配設し、物体内の点から反射されてくる超音波をこの電気音響変換素子で検出して、遅延処理に従ってこの検出値を整相してから加算していくことで、物体内の特定の点にフォーカスされた影像信号を得るようにするとともに、超音波を放射する電気音響変換素子を走査することでフォーカス点を直線上に走査したり、遅延処理を制御することでフォーカス点を扇形に走査したりしていくことで、物体内部の断層像を得るようにしていく構成を採るものである。このような構成を採るものであることから、物体内部の音速が均一でないと鮮明な画像を得ることができなくなる。これから、超音波影像装置では、被検査物体中の音速の不均一性に起因する画像劣化を防止できるようにする手段を備えていく必要がある。
【0003】
【従来の技術】先ず最初に、特開昭53-28989号公報や特開昭54-96286号公報に開示されている超音波影像装置の回路構成に従って、超音波影像装置の基本動作について説明する。
【0004】図6に、この超音波影像装置の回路構成を図示する。図中、1-i(i=1?n)は1列に配列されて、超音波を放射するとともに反射されてくる超音波を検出する複数の電気音響変換素子、2は各電気音響変換素子1-iに電気パルスを印加することで超音波放射を制御する送信回路、3-i(i=1?n)は電気音響変換素子1-iの検出する反射超音波信号を増幅するプリアンプ、4-i(i=1?n)はLC回路により構成されて、プリアンプ3-iの出力する電気信号を設定変更可能な遅延量でもって遅延する小遅延線、5-i(i=1?n)はLC回路により構成されて、小遅延線4-iの出力する電気信号を設定変更可能な遅延量でもって遅延する固定遅延線、6は固定遅延線5-iの出力する電気信号を整相加算する加算回路、7は小遅延線4-i及び固定遅延線5-iの遅延量を管理するROM、8はROM7の管理する遅延量に従って小遅延線4-i及び固定遅延線5-iに遅延量を設定する制御回路である。」

(イ)「【0010】次に、この問題点の解決を図るために用いられている従来技術について説明する。図10に、これらの従来技術の基本回路構成を図示する。図中、図6で説明したものと同じものについては同一の記号で示してある。この回路構成から分かるように、従来技術では、音速の不均一性に起因する影像の劣化を防止するために、新たに位相検出回路9を備える構成を採っている。
...
【0012】図11に、この位相検出回路9の詳細な回路構成を図示する。この図に示すように、位相検出回路9は、プリアンプ3-iの出力する受信信号を一時的に記憶する波形メモリ10と、波形メモリ10から隣接する電気音響変換素子1-iの受信信号を選択して相互相関値を算出する相互相関器11と、相互相関器11の算出する相互相関値の最大値を示す時間変位を検出する変位検出器12と、変位検出器12の検出する時間変位を積算していくことで全受信信号の遅延量を決定して制御回路8に通知する積算器13とから構成されるものである。なお、波形メモリ10がディジタルメモリで構成される場合には、A/Dコンバータが必要になり、アナログメモリで構成される場合には、サンプル・ホールド回路が必要となるが、これらは、波形メモリ10に含まれているものとして図示するのを省略してある。
...
【0014】なお、この位相検出回路9の台数は、1台だけ備える構成を採って、この1台の位相検出回路9が、全受信信号の遅延量を決定していくという構成を採る場合もあるし、あるいは、電気音響変換素子1-iの台数から“1”引いた台数備える構成を採って、各位相検出回路9が対応の受信信号の遅延量を決定していくとともに、制御回路8側でこの遅延量の積算処理を実行していくことで全受信信号の遅延量を決定していくという構成を採る場合もある。」

(ウ)「【0028】
【実施例】以下、実施例に従って本発明を詳細に説明する。図2に、本発明の一実施例を図示する。図中、図10及び図11で説明したものと同じものについては同一の記号で示してある。ここで、この実施例では、位相検出回路9を1台用意し、全プリンアンプ3-iの出力する受信信号をこの位相検出回路9の波形メモリ10に記憶して、被検査物体中の音速の不均一性に起因する遅延量の乱れを検出していくことで、音速の不均一性に起因する画像劣化を補正していく構成を想定している。
【0029】この実施例と、図10及び図11で説明した従来技術とを比較すれば分かるように、本発明では、被検査物体中の音速の不均一性を補正する遅延量を決定するために、新たに基準信号発生器20を備える構成を採るとともに、位相検出回路9が、積算器13を備えずに、変位検出器12の検出する遅延量を制御回路8に直接通知していく構成を採っている。
【0030】この新たに備えられる基準信号発生器20は、電気音響変換素子1-iで受信する超音波の受信波と同一の周波数を持つ基準信号を発生して、この発生した基準信号を相互相関器11に入力していくよう処理するものである。そして、本発明の相互相関器11は、この基準信号の入力を受けて、波形メモリ10から読み出す受信信号とこの基準信号との相互相関値を算出し、変位検出器12は、この相互相関器11の算出する相互相関値の最大値を示す時間変位を検出して制御回路8に通知していくよう処理する。
【0031】この遅延量を受け取ると、制御回路8は、従来技術と変わることない処理に従って、小遅延線4-iに音速の不均一性を補正するための遅延量を設定していく。すなわち、変位検出器12から通知される遅延量と、その通知される遅延量の受信信号に対応付けられるROM7の管理する対応の遅延量(〔数1〕で説明した遅延量)との差分値を算出することで、音速の不均一性に起因する位相の乱れの遅延量を検出して、小遅延線4-iに設定してある遅延量をこの検出した遅延量分補正していくのである。
【0032】このようにして、本発明では、位相検出回路9は、図3に示すように、基準信号発生器20の発生する基準信号を共通の基準として、各受信信号の持つ遅延量を検出していくものであることから、従来技術のように、積算器13を備える必要がなく、累積誤差のない状態でもって、小遅延線4-iに設定していく遅延量を決定できるようになる。これにより、被検査物体中の音速の不均一性に起因する画像劣化を防止して、高精度の画像を得ることができるようになるのである。
【0033】この実施例では、基準信号発生器20は、全受信信号に対して同一の位相を持つ基準信号を発生していくことで説明したが、基準信号の位相を受信信号対応に変化させて、受信信号に対応付けられるROM7の管理する対応の遅延量となるようにと変化させる構成を採ると、変位検出器12は、補正対象の遅延量を直接検出できるようになり、制御回路8は、上述の差分処理を実行しなくても済むようになる。
【0034】図4及び図5に、本発明の他の実施例を図示する。この図4の実施例は、基準信号発生器20を備えずに、加算回路6の出力する整相加算された受信信号を基準信号として用いることで構成した実施例である。加算回路6は、音速の不均一性が存在してもその不均一性が小さなものである場合には、概略整相加算された受信信号を出力していくので、その概略整相加算された受信信号を基準信号として用いていくことで、基準信号発生器20の省略を図ったものである。」

以上の記載から、引用例1には、「被検査物体中の音速の不均一性に起因する画像劣化を防止して、高精度の画像を得ることができるようにする超音波影像装置であって、
1列に配列されて、超音波を放射するとともに反射されてくる超音波を検出する複数の電気音響変換素子1-iと、
各電気音響変換素子1-iに電気パルスを印加することで超音波放射を制御する送信回路2と、
電気音響変換素子1-iの検出する反射超音波信号を増幅するプリアンプ3-i、プリアンプ3-iの出力する電気信号を設定変更可能な遅延量でもって遅延する小遅延線4-i、小遅延線4-iの出力する電気信号を設定変更可能な遅延量でもって遅延する固定遅延線5-i、固定遅延線5-iの出力する電気信号を整相加算する加算回路6、小遅延線4-i及び固定遅延線5-iの遅延量を管理するROM7及びROM7の管理する遅延量に従って小遅延線4-i及び固定遅延線5-iに遅延量を設定する制御回路8と、
プリアンプ3-iの出力する受信信号を一時的に記憶する波形メモリ10と、加算回路6の出力する整相加算された受信信号を基準信号として用い、波形メモリ10から読み出す受信信号とこの基準信号との相互相関値を算出する相互相関器11と、相互相関器11の算出する相互相関値の最大値を示す時間変位を検出して制御回路8に通知していく変位検出器12からなる位相検出回路9とを備え、
制御回路8は、変位検出器12から通知される遅延量に基づいて、小遅延線4-iに設定してある遅延量を補正して設定する、
超音波影像装置」(以下、「引用例1に記載された発明」という。)が記載されているものと認められる。

4-2.引用例2
原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である、特開平5-223924号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審にて付加した)。

(エ)「【0002】
【従来の技術】現在のエコーグラフの動作原理は、一般に検査される組織における超音波の速度が一定であると云う仮定に基づき特に計算すべきビーム集束および傾斜により種々の遅延を生ぜしめ、且つ深さ情報に変換すべきエコーの走行時間に関する情報を得るようにしている。しかし、かかう仮定は殆ど真実ではない。」

(オ)「【0006】
【実施例】図面につき本発明の実施例を説明する。図1に示す超音波エコーグラフ装置はアナログスイッチ15に接続されたm個の超音波トランスジューサ10a乃至10mのアレイを具え、アナログスイッチ15によってアパーチュアを規定する。このスイッチの他端を送信段20および受信兼処理段300に接続する。
【0007】本例では送信段20は次の素子を具える:
(a)例えば3kHz乃至5kHzの繰返し比を有する超音波バーストを規定するシーケンサ回路21;この回路は基本的には所望の種々のクロック信号を供給する発信器および分周器を具える;
(b)このシーケンサ回路21の出力側に設けられトランスジューサの励起を行う電気信号送信用の回路22;この励起は超音波信号を集束せしめる時間の関数として、または逆に位相を制御し、この際、種々の異なる集束遅延は送信に用いられるn個のトランスジューサに関連するn個の個別の送信チャネル(nはmよりも小さい)で回路22の後段に設けられたn個の遅延線23a乃至23nによって図1に示す例の場合のように得られる;
(c)前述したように回路22によって集束が行い得ない場合にn個の遅延線23a乃至23nによって形成する電子集束回路23;および
(d)トランスジューサを駆動する高電圧パルスを供給する高電圧駆動回路24。
【0008】シーケンサー回路21によって前記遅延線バーストを同期化するパルスおよび送信モード集束制御回路25の制御信号を供給する。この回路25によって各トランスジューサの送信遅延機能のシーケンスを記憶し、このシーケンスを適応させて集束回路23の遅延線23a乃至23nの構成が各バーストの所定関数に従うようにする。
【0009】受信兼処理段300はn個の受信兼処理チャネルを具え、本例ではこれを各々が次に示す素子を具える:
...
【0010】本発明によれば、受信兼処理段300にはn個の受信兼処理チャネルに関連して図3に詳細に示される集束補正段54をも設ける。図3に示すようにこの集束補正段54は各々が集束されたエコーグラフ信号の2つを受ける図4に54iで詳細に示される並列配置の(n-1)個の補正回路54a乃至54n-1を具える。」

(カ)「【0017】これがため、回路155の(n-1)個の出力によって集束補正段54の出力を構成する。かくして計算した遅延をメモリ回路55に記憶し、次いで次のバーストをトリガする前にこれら遅延を電子集束回路23の直前に配列された送信モード補正回路56を形成する遅延線56a乃至56nによって送信チャネルに導入する。次いで、新たな送信を行い、これにより、送信モードの集束においてかくして各送信チャネルの遅延に適用された補正を行う。この新たなバーストに対応するエコーグラフ信号を受信すると、これら信号間の遅延を、再び上述した所と同様に決め、次いで次のバーストの直前に各送信チャネルに再導入されるようになる。かようにして、検査される物体における超音波の速度差に対し対話式補正を行うことができる。」

以上の記載から、引用例2には、「検査される組織における超音波の速度が一定でないことによる集束遅延の補正を行う超音波エコーグラフ装置として、
アナログスイッチ15に接続されたm個の超音波トランスジューサ10a乃至10mのアレイを具え、このスイッチの他端を送信段20および受信兼処理段300に接続し、
超音波バーストを規定するシーケンサ回路21、シーケンサ回路21の出力側に設けられトランスジューサの励起を行う電気信号送信用の回路22、回路22によって集束が行い得ない場合にn個の遅延線23a乃至23nによって形成する電子集束回路23及びトランスジューサを駆動する高電圧パルスを供給する高電圧駆動回路24を備える送信段20と、
n個の受信兼処理チャネルを具える受信兼処理段300とを有し、
受信兼処理段300にはn個の受信兼処理チャネルに関連して集束補正段54を設け、集束補正段54の出力である計算した遅延をメモリ回路55に記憶し、次いで次のバーストをトリガする前にこれら遅延を電子集束回路23の直前に配列された送信モード補正回路56を形成する遅延線56a乃至56nによって送信チャネルに導入する、
超音波エコーグラフ装置」(以下、「引用例2に記載された発明」という。)が記載されているものと認められる。

5.対比
本願発明と引用例1に記載された発明とを対比する。
引用例1に記載された発明の「被検査物体中の音速の不均一性に起因する画像劣化を防止して、高精度の画像を得ることができるようにする」ことは、上記摘記事項(ウ)に「【0031】この遅延量を受け取ると、制御回路8は、従来技術と変わることない処理に従って、小遅延線4-iに音速の不均一性を補正するための遅延量を設定していく。」とあることからすると、被検査物体中の音速の不均一性を補正することにより行われており、また本願発明の「コヒーレント振動エネルギ・ビーム作像システム」は、発明の詳細な説明を参照すると、超音波を用いて作像を行う装置のことを意味しているから、引用例1に記載された発明の「被検査物体中の音速の不均一性に起因する画像劣化を防止して、高精度の画像を得ることができるようにする超音波影像装置」は、本願発明の「ビームに対する伝送媒質の伝搬速度の非一様性を補正するコヒーレント振動エネルギ・ビーム作像システム」に相当する。
また、引用例1に記載された発明の「1列に配列されて、超音波を放射するとともに反射されてくる超音波を検出する複数の電気音響変換素子1-i」は、当業者における技術常識からして、本願発明の「あるパターンに設けられた一組の配列素子を有している変換器配列であって、前記素子の各々は、送信モードの間に振動エネルギのパルスを発生すると共に受信モードの間に該素子に入射する振動エネルギに応答してエコー信号を発生するように、別々に動作可能である、変換器配列」に相当する。
次に、引用例1に記載された発明の「各電気音響変換素子1-iに電気パルスを印加することで超音波放射を制御する送信回路2」と、本願発明の「該変換器配列に接続されており、送信モードの間に、方向決めされた送信ビームが発生されるように、前記配列素子の各々に対してそれぞれの送信遅延時間Tt,kを有する別々の送信信号パルスを印加するよう動作可能である送信器」とは、「該変換器配列に接続されており、送信モードの間に、別々の送信信号パルスを印加するよう動作可能である送信器」である点で共通する。
そして、引用例1に記載された発明の「電気音響変換素子1-iの検出する反射超音波信号を増幅するプリアンプ3-i、プリアンプ3-iの出力する電気信号を設定変更可能な遅延量でもって遅延する小遅延線4-i、小遅延線4-iの出力する電気信号を設定変更可能な遅延量でもって遅延する固定遅延線5-i、...小遅延線4-i及び固定遅延線5-iの遅延量を管理するROM7及びROM7の管理する遅延量に従って小遅延線4-i及び固定遅延線5-iに遅延量を設定する制御回路8」なる構成について検討すると、当該構成は電気音響変換素子1-iの検出する反射超音波信号を受信するためのものであり、小遅延線4-i及び固定遅延線5-iに設定される遅延量は、上記摘記事項(ア)の【0002】段落に「この超音波影像装置は、超音波を放射する電気音響変換素子を1列に配設し、物体内の点から反射されてくる超音波をこの電気音響変換素子で検出して、遅延処理に従ってこの検出値を整相してから加算していくことで、物体内の特定の点にフォーカスされた影像信号を得るようにする」と記載されていることを鑑みると、フォーカスのため、すなわち受信ビームの方向決めのために、それぞれ別々の遅延量が設定されるものであるから、引用例1に記載された発明の上記の構成は、当該構成が具備する機能からして、本願発明の「複数のN個の受信チャンネルを含み、前記変換器配列に接続されており、受信モードの間に、方向決めされた受信ビームが発生されるように、振動エネルギが入射したときに前記配列素子の各々により発生されるエコー信号をサンプリングすると共に該エコー信号のサンプルの各々にそれぞれ別々の受信遅延時間Tr,kを加えるよう動作可能である受信器」に相当する。
さらに、引用例1に記載された発明の「波形メモリ10から読み出す受信信号とこの基準信号との相互相関値を算出する相互相関器11」は、「波形メモリ10」が「プリアンプ3-iの出力する受信信号を一時的に記憶する」ものであることから、本願発明の「前記受信チャンネルに接続されている複数のN個の相関器であって、前記受信チャンネルの各々1つの出力が該相関器のそれぞれ1つに接続されている、複数のN個の相関器」と「受信チャンネルからの各々の出力が相関器に接続されている、相関器」である点で共通する。
また、引用例1に記載された発明の「固定遅延線5-iの出力する電気信号を整相加算する加算回路6」は、その出力が「加算回路6の出力する整相加算された受信信号を基準信号として用い」られ、「相互相関器11」によって「波形メモリ10から読み出す受信信号とこの基準信号との相互相関値を算出」されるものであるから、本願発明の「前記受信チャンネルの各々1つに接続されており、基準ビーム和信号を形成するように該チャンネルにより発生された出力信号を算術的に合算する合算手段が、前記相関器の各々に対して前記基準ビーム和信号を供給するように該相関器に接続されている、合算手段」に相当する。
そして、引用例1に記載された発明の「位相検出回路9」は、「相互相関器11の算出する相互相関値の最大値を示す時間変位を検出して制御回路8に通知していく変位検出器12」及び上記の「相互相関器11」を含み、「加算回路6の出力する整相加算された受信信号を基準信号として用い」るものであり、この「変位検出器12」が通知する「相互相関器11の算出する相互相関値の最大値を示す時間変位」は、制御回路8において、小遅延線4-iに設定してある遅延量を補正して設定するために用いられる、すなわち遅延量補正値として用いられるものであることからすると、引用例1に記載された発明の「位相検出回路9」は本願発明の「前記遅延時間補正値Tc,kを発生する遅延時間補正プロセッサ」に相当する。
さらに、引用例1に記載された発明の「制御回路8」は、「変位検出器12から通知される遅延量に基づいて、小遅延線4-iに設定してある遅延量を補正して設定する」ものであるから、本願発明の「該遅延時間補正プロセッサに応答して、前記遅延時間補正値Tc,kに応答して前記送信遅延時間Tt,k及び前記受信遅延時間Tr,kを発生するディジタル制御器」と、「該遅延時間補正プロセッサに応答して、前記遅延時間補正値Tc,kに応答して前記受信遅延時間Tr,kを発生するディジタル制御器」である点で共通する。
そうすると、上記引用例1に記載された発明の「位相検出回路9」及び「制御回路8」の本願発明との相当関係から、当該「位相検出回路9」及び「制御回路8」は、本願発明の「前記変換器配列内の各々の配列素子に加えられる送信信号パルスの送信遅延時間Tt,kを補正するために前記送信器に印加されると共に、前記エコー信号のサンプルの各々に加えられる受信遅延時間Tr,kを補正するために前記受信器に印加される遅延時間補正値Tc,kを前記受信器に応答して発生する補正手段」と、「前記エコー信号のサンプルの各々に加えられる受信遅延時間Tr,kを補正するために前記受信器に印加される遅延時間補正値Tc,kを前記受信器に応答して発生する補正手段」である点で共通する。
してみると、本願発明と、引用例1に記載された発明とは、
「ビームに対する伝送媒質の伝搬速度の非一様性を補正するコヒーレント振動エネルギ・ビーム作像システムであって、
あるパターンに設けられた一組の配列素子を有している変換器配列であって、前記素子の各々は、送信モードの間に振動エネルギのパルスを発生すると共に受信モードの間に該素子に入射する振動エネルギに応答してエコー信号を発生するように、別々に動作可能である、変換器配列と、
該変換器配列に接続されており、送信モードの間に、別々の送信信号パルスを印加するよう動作可能である送信器と、
複数のN個の受信チャンネルを含み、前記変換器配列に接続されており、受信モードの間に、方向決めされた受信ビームが発生されるように、振動エネルギが入射したときに前記配列素子の各々により発生されるエコー信号をサンプリングすると共に該エコー信号のサンプルの各々にそれぞれ別々の受信遅延時間Tr,kを加えるよう動作可能である受信器と、
前記エコー信号のサンプルの各々に加えられる受信遅延時間Tr,kを補正するために前記受信器に印加される遅延時間補正値Tc,kを前記受信器に応答して発生する補正手段とを備え、
前記補正手段は、
前記遅延時間補正値Tc,kを発生する遅延時間補正プロセッサと、
該遅延時間補正プロセッサに応答して、前記遅延時間補正値Tc,kに応答して前記受信遅延時間Tr,kを発生するディジタル制御器とを含んでおり、
前記遅延時間補正プロセッサは、
受信チャンネルからの各々の出力が相関器に接続されている、相関器と、
前記受信チャンネルの各々1つに接続されており、基準ビーム和信号を形成するように該チャンネルにより発生された出力信号を算術的に合算する合算手段が、前記相関器の各々に対して前記基準ビーム和信号を供給するように該相関器に接続されている、合算手段とを含んでいる、
コヒーレント振動エネルギ・ビーム作像システム。」
である点で一致し、次の点で相違している。

(相違点1)本願発明の「送信器」は、「方向決めされた送信ビームが発生されるように、前記配列素子の各々に対してそれぞれの送信遅延時間Tt,kを有する」別々の送信信号パルスを印加するように構成されているのに対し、引用例1に記載された発明では方向決めされた送信ビームを発生する構成を備えていないことから、送信遅延時間Tt,kに関する構成を備えておらず、それに伴い本願発明の「補正手段」は「前記変換器配列内の各々の配列素子に加えられる送信信号パルスの送信遅延時間Tt,kを補正するために前記送信器に印加される」点についての構成を備え、本願発明の「ディジタル制御器」は遅延時間補正値Tc,kに応答して「前記送信遅延時間Tt,k」を発生するのに対し、引用例1に記載された発明では、それぞれ送信遅延時間Tt,kに関する構成を備えていない点。

(相違点2)本願発明の「相関器」は、「前記受信チャンネルに接続されている複数のN個の相関器であって、前記受信チャンネルの各々1つの出力が該相関器のそれぞれ1つに接続されている、複数のN個の相関器」であるのに対し、引用例1に記載された発明の「相関器」は、各受信信号を波形メモリ10から読み出すものであって、複数のN個のものではない点。

6.判断
上記相違点について判断する。
相違点1について。
超音波撮像装置において送信するパルスの遅延を制御することで送信ビームを集束させることは、例えば本願優先日前に頒布された刊行物である特開平4-117948号公報に「従来より列状に配列された複数の振動子を備え、振動子から生体に向けて超音波を送波させるための励振信号及びこの振動子が生体からの超音波反射波を受波して得られる受信信号に、各振動子の幾何学的位置情報に基づく所定遅延時間を与え、受信信号の集束点か形成されるように各受信信号の整相加算処理を行って超音波像を得るようにした超音波診断装置が知られている。この所定遅延時間は、送信時と受信時とで同じ遅延時間を与えるようにして集束点を形成するようにしている。」(第2頁右上欄第2行目から第12行目)と記載されるように、周知の技術である。
ここで、引用例2に記載された発明は、「検査される組織における超音波の速度が一定でないことによる集束遅延の補正を行う超音波エコーグラフ装置」であって、超音波トランスジューサに供給するパルスを、遅延線23a乃至23nを有する電子集束回路23によって遅延させることで、送信する超音波ビームを集束させる構成を備えており、さらに、送信する超音波ビームの集束遅延の補正を行うために、集束補正段54によって遅延を計算するとともに、その遅延を電子集束回路23の直前に配列された送信モード補正回路56を形成する遅延線56a乃至56nによって送信チャネルに導入している。
してみると、上記周知の技術に鑑み、引用例1に記載された発明の送信回路に、上記引用例2に記載されるような電子集束回路を採用し、送信する超音波ビームの方向を決めるように、電気音響変換素子の各々に印加する電気パルスをそれぞれ遅延させること、さらに集束遅延の補正を行うための構成も適用することは、当業者であれば容易に為し得たものであり、そのようにして得られた構成は、送信信号パルスの送信遅延時間を補正するための構成を備え、遅延時間補正値に応答して送信遅延時間を発生するものとなることは、当業者には明らかである。

相違点2について。
引用例1には、上記摘記事項(イ)の【0014】段落に「なお、この位相検出回路9の台数は、1台だけ備える構成を採って、この1台の位相検出回路9が、全受信信号の遅延量を決定していくという構成を採る場合もあるし、あるいは、電気音響変換素子1-iの台数から“1”引いた台数備える構成を採って、各位相検出回路9が対応の受信信号の遅延量を決定していくとともに、制御回路8側でこの遅延量の積算処理を実行していくことで全受信信号の遅延量を決定していくという構成を採る場合もある。」と記載されるように、相関処理を行うために、位相検出回路を、1台だけ用いて全受信信号を処理するか、電気音響変換素子の台数に応じた台数だけ用いてそれぞれの受信信号を処理するかは、選択的になし得ることが記載されている。
そして、引用例1に記載された発明の「相関器」は、その動作として、プリアンプ3-iの出力する受信信号を一時的に記憶する波形メモリ10から受信信号を読み出して、基準信号との相関をとっており、各電気音響変換素子ごとの信号の相関をとっているもの、すなわち1台の相関器ですべての受信信号を処理しているものである。
すると、引用例1の上記の記載に鑑み、各電気音響変換素子ごとの信号の相関をとるために、1台の相関器ですべての受信信号を処理するのではなく、各電気音響変換素子ごとに相関器を設け、それぞれの相関器で基準信号とそれぞれの電気音響変換素子からの受信信号との相関をとるように構成することは、当業者であれば適宜為し得たものである。

そして、本願発明の作用効果も、引用例1及び2それぞれに記載された発明並びに周知技術から、当業者であれば予測できる範囲のものである。

7.むすび
以上の通り、本願発明は、引用例1及び2それぞれに記載された発明並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、請求項2乃至8に係る発明について審理するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-04-24 
結審通知日 2008-05-07 
審決日 2008-05-21 
出願番号 特願平7-519122
審決分類 P 1 8・ 571- Z (A61B)
P 1 8・ 572- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 順也  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 信田 昌男
田邉 英治
発明の名称 ビーム和-チャンネル相関を用いた多重素子配列超音波スキャナに対するビーム形成遅延時間の補正  
代理人 松本 研一  
代理人 小倉 博  
代理人 黒川 俊久  

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