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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B05B
審判 査定不服 判示事項別分類コード:275 特許、登録しない。 B05B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B05B
管理番号 1185291
審判番号 不服2007-18610  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-04 
確定日 2008-10-02 
事件の表示 平成 9年特許願第310830号「無線操縦ヘリコプターに搭載する薬剤散布装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 5月25日出願公開、特開平11-138071〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 [1] 手続の経緯
本件出願は、平成9年11月12日に出願されたものであって、平成19年2月23日付けで拒絶理由が通知され、同年4月27日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年6月1日付けで拒絶査定がなされ、同年7月4日に同拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同年8月3日に手続補正書が提出されて明細書を補正する手続補正がなされたものである。

[2]平成19年8月3日付けの手続補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成19年8月3日付けの手続補正を却下する。

〔理 由〕
1.本件補正の内容、及び補正の目的
平成19年8月3日付けの手続補正(以下、単に「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成19年4月27日付けの手続補正書により補正された)下記の(ロ)に示す請求項1を下記の(イ)に示す請求項1と補正するものである。

(イ)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】 空中にて薬剤を散布する無線操縦ヘリコプターに搭載する薬剤散布装置において、薬液タンク(2)に充填された薬液は、左右二台のモーター(46・46)によって駆動される左右二台のポンプ(31・31)により、それぞれ左右二台のアトマイザー噴霧装置(16・16)に供給し、該左右のアトマイザー噴霧装置(16・16)は、それぞれのモーター(46・46)により駆動し、無線操縦ヘリコプターの機体内には、機体制御用の受信機とは別に、薬液散布装置用の受信機(42)及びコントローラ(41)を設け、該コントローラ(41)には、前記受信機(42)及びアトマイザー噴霧装置駆動用のモーター(25・25)、アトマイザー噴霧装置の角度を変更するための駆動装置(45・45)、及びポンプ駆動用のモーター(46・46)に接続し、前記アトマイザー噴霧装置(16・16)は、機体下部において左右両方向に突出した支持アーム(4)の左右両端部に懸架され、下方に向け配設され、該薬液タンク(2)からアトマイザー噴霧装置(16・16)に接続する給液チューブ(6・6)より給液し、該支持アーム(4)の機体中央部とアトマイザー噴霧装置(16)の略中間部に、回動部(27)を設け、該支持アーム(4)は回動部(27)において、後方に回動可能に構成し、収納及び移動時に左右の幅を減少可能に構成し、更に、送信機(43)の無線操作により、アトマイザー噴霧装置(16・16)を前記支持アーム(4)に対して角度を変更可能に構成し、該角度変更装置は、無線操縦ヘリコプターの機体から突設された支持アーム(4)の先端に枢軸を設け、該枢軸によって回転自在に枢支されたステー(18)の後面にギヤ(44)を固設し、前記支持アーム(4)の上には駆動装置(45を固設し、該駆動装置(25)の駆動軸にはギヤ部(45a)を固設し、該ギヤ部(45a)は前記ギヤ(44)と噛合し、該駆動装置(45)の駆動によりアトマイザー噴霧装置(16・16)の薬液散布角度を変更可能に構成し、送信機(43)による無線操縦にて、左右両側のアトマイザー噴霧装置(16・16)の角度を変更することにより、薬剤散布幅を変更可能としたことを特徴とする無線操縦ヘリコプターに搭載する薬剤散布装置。」

なお、上記請求項1の中で括弧をして用いられている図面において使用した符号のうち、
「それぞれのモーター(46・46)」は「それぞれのモーター(25・25)」の、「駆動装置(45」は「駆動装置(45)」の、「該駆動装置(25)」は「該駆動装置(45)」の誤記と認める。

(ロ)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】 空中にて薬剤を散布する無線操縦ヘリコプターに搭載する薬剤散布装置において、薬液タンクに充填された薬液は、左右二台のモーターによって駆動される左右二台のポンプにより、それぞれ左右二台のアトマイザー噴霧装置に供給し、該左右のアトマイザー噴霧装置は、それぞれのモータにより駆動し、無線操縦ヘリコプターの機体内には、機体制御用の受信機とは別に、薬液散布機装置用の受信機及びコントローラを設け、該コントローラには、前記受信機及びアトマイザー噴霧装置駆動用のモータ、アトマイザー噴霧装置の角度を変更するための駆動装置、及びポンプ駆動用のモーターに接続し、送信機の無線操作により、アトマイザー噴霧装置の角度を変更可能に構成し、該アトマイザー噴霧装置の角度変更装置は、無線操縦ヘリコプターの機体から突設された支持杆の先端に枢軸を設け、該枢軸によって回転自在に枢支されたステーの後面にギヤを固設し、前記支持杆の上には駆動装置を固設し、該駆動装置の駆動軸にはギヤ部を固設し、該ギヤ部は前記ギヤと噛合し、該駆動装置の駆動によりアトマイザー噴霧装置の薬液散布角度を変更可能に構成し、送信機による無線操縦にて、左右両側のアトマイザー噴霧装置の角度を変更することにより、薬剤散布幅を変更可能としたことを特徴とする無線操縦ヘリコプターに搭載する薬剤散布装置。」

2.補正の適否の判断
[理由1]
(1)当審の判断
本件補正は、本件補正後の請求項1の「該支持アーム(4)の機体中央部とアトマイザー噴霧装置(16)の略中間部に、回動部(27)を設け、該支持アーム(4)は回動部(27)において、後方に回動可能に構成し、収納及び移動時に左右の幅を減少可能に構成し、」なる発明特定事項を追加するものである。そして、かかる発明特定事項の追加によって「収納及び移動時に左右の幅を減少させる」(明細書段落【0007】)という課題が実質的に追加されたことになるが、かかる課題は、本件補正前の請求項1に記載された発明が解決しようとする課題である「従来の構成においては、薬剤の散布方向及び散布幅は散布器の取り替えによって行われていた。このため、散布幅変更の作業が煩雑になり、散布幅及び散布方向の変更に時間を要する。また、飛行中に変更することができないために、余分に往復飛行したり、重複散布部分が大きくなったりして、無駄な飛行や散布作業をすることがあったのである。」(明細書段落【0003】)と同一であるとはいえない。
よって、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項1を限定的に減縮したものとは認められず、請求項1に関する本件補正は、平成14年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的としたものではない。
さらに、本件補正は、平成14年改正前特許法第17条の2第4項第1号、第3号又は第4号に規定される請求項の削除、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明を目的とするものでもない。

(2)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成14年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するものである。

[理由2]
仮に、本件補正が、平成14年改正前特許法第17条の2第4項第2号の限定的減縮に該当するとした場合、本件補正により補正された請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかどうかについて検討する。

(1) 当審の判断
1)引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平09-275876号公報(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。(なお、下線は引用箇所等を特に明示するために当審で付した。)

ア.「【0004】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳述する。図1はヘリコプタの正面説明図、図2はヘリコプタの側面説明図であり、図中(A)は遠隔操縦によって無人飛行させるヘリコプタであり、メインロータ(1)及びスタビライザ(2)をヘリコプタ(A)の胴体(3)上側に設けると共に、脚体(4)を胴体(3)下側に固定させる。また、胴体(3)後側のテールブーム(5)後端にテールロータ(6)を設けると共に、胴体(3)下側に施肥タンク(7)を固定させ、無人飛行させ乍ら肥料または薬液などの液剤(B)を空中散布させるように構成している。
【0005】・・・図示しない無線操縦用の送信機を操縦者が手元操作してヘリコプタ(A)を飛行させるように構成している。・・・」(公報段落【0004】及び【0005】)

イ.「【0009】さらに、前記前受板(20)に四角筒形台フレーム(30)を固定させ、台フレーム(30)に支点軸(31)を介してアーム基板(32)を回転自在に連結させ、長孔(33)及び止めネジ(34)を介してアーム基板(32)を角度変更自在に取付けると共に、丸パイプ形アトマイザーアーム(34)基端をアーム基板(32)に固定させ、液剤(B)を散布するアトマイザー(35)を前記アトマイザーアーム(34)先端に角度変更自在に止めボルト(36)を介して取付ける。
【0010】そして、図1の如く、アトマイザーアーム(34)を略水平に倒伏させて胴部(3)側方に延出させる散布位置と、アトマイザーアーム(34)を略垂直に起立させて胴部(3)上方に延出させる格納位置とに、アトマイザー(35)支持位置を変更でき、アトマイザーアーム(34)をコンパクトに折畳んでヘリコプタ(A)の運搬及び格納を行える。・・・」(公報段落【0009】及び【0010】)

ウ.「【0011】また、図1から明らかなように、遠隔操縦用ヘリコプタ(A)に防除タンク(7)を搭載させると共に、該タンク(7)の液剤(B)を空中散布するアトマイザー(35)を設ける噴霧装置において、・・・
【0012】さらに、図9に示す如く、前記アトマイザーアーム(34)先端に止めボルト(36)を介して角度調節自在に取付ける本体フレーム(37)と、該フレーム(37)に固定させる電動モータ(38)と、該モータ(38)の出力軸(39)に固定させる散布板(40)と、前記フレーム(37)に固定させて散布板(40)上面側に遮閉する散布カバー(41)と、該カバー(41)に貫通させて散布板(40)上面中央部に液剤(B)を供給する注入ノズル(40a)を、前記アトマイザー(35)に備える。そして、アトマイザーアーム(34)の内孔に挿通させる電源線(42)を介して前記モータ(38)をヘリコプタ(A)のバッテリ(図示省略)に電気接続させると共に、アトマイザーアーム(34)の内孔に挿通させる配液管(43)を介して注入ノズル(42)を防除ポンプ(23)に連通接続させる。
【0013】上記のように、止めボルト(36)回りにアトマイザー(35)を回転させて取付け角度を変化させることにより、アトマイザーアーム(34)の取付け角度を略一定に保ち乍らアトマイザー(35)の散布方向を変更でき、例えば隣接圃場への液剤(B)散布を防止でき、また風向き及び風力に対してアトマイザー(35)の散布幅を修正できると共に、最終工程の液剤(B)散布幅を調節して液剤(B)の圃場外への散布を防止できる。なお、遠隔操作によって作動させるサーボモータ(図示省略)をアトマイザーアーム(34)と本体フレーム(37)の間に連結させ、サーボモータの遠隔制御によって止めボルト(36)回りにアトマイザー(35)を回転させて散布方向を修正することも行える。」(公報段落【0011】?【0013】)

エ.「【0015】さらに、図5、図10に示す如く、前記防除タンク(7)下面に配管キャップ(7a)を取付け、左右防除ポンプ(23)(23)とキャップ(7a)間に吸込管(44)(44)及び戻し管(45)(45)を接続させ、吸込管(44)を介してタンク(7)の液剤(B)をポンプ(23)に吸入し、吸入した液剤(B)の余りをタンク(7)に戻し管(45)を介して戻すと共に、各ポンプ(23)(23)から吐出される液剤(B)を合流させる合流管(46)と、液剤(B)が一定圧よりも高くなったときに開動する逆止弁(47)(47)を介して左右配液管(43)(43)を接続させる分流管(48)の間に、サーボモータ(49)によって開閉させるボールバルブ(50)を設け、各ポンプ(23)(23)からの液剤(B)を合流後にバルブ(50)を介して各逆止弁(47)(47)から左右のアトマイザー(35)(35)に送出させるもので、ボールバルブ(50)を閉じているとき、該バルブ(50)と閉動状態の逆止弁(47)の間の分流管(48)内に液剤(B)が封入され、前記バルブ(50)の閉によって分流管(48)内の液剤(B)がアトマイザー(35)から滴下するのを防げる。なお、前記サーボモータ(49)に代えて電磁ソレノイドを用いてもよい。」(公報段落【0015】)

オ.上記ウの記載から、引用例の遠隔操縦用ヘリコプタ(A)は、遠隔操作によって作動されるサーボモータにより、アトマイザー(35)を回転させて散布方向を修正できるので、サーボモータ等から構成される散布方向修正装置を備え、噴霧装置用の受信機及びコントローラを設けて、コントローラは受信機及びアトマイザーの散布方向を修正するためのサーボモータに接続されているとともに、送信機により遠隔操作可能であることが分かる。

上記ア乃至オ及び各図の記載によれば、引用例には、次の発明が記載されていると認められる。

「空中にて液剤(B)を散布する遠隔操縦用ヘリコプタ(A)に搭載する噴霧装置において、防除タンク(7)に充填された液剤(B)は、二台の防除ポンプ(23)(23)により、左右二台のアトマイザー(35)に供給し、該左右のアトマイザー(35)は、それぞれの電動モータ(38)により駆動し、遠隔操縦用ヘリコプタ(A)の胴体(3)内には、噴霧装置用の受信機及びコントローラを設け、該コントローラには、受信機及びアトマイザー(35)の散布方向を修正するためのサーボモータに接続し、前記アトマイザー(35)は、胴体(3)下部において左右両方向に突出したアトマイザーアーム(34)の左右両端部に懸架され、下方に向け配設され、防除タンク(7)からアトマイザー(35)に接続する配液管(43)より給液し、台フレーム(30)の胴体(3)中央部とアトマイザー(35)の略中間部に、アーム基板(32)を設け、該アトマイザーアーム(34)はアーム基板(32)において、垂直に起立可能に構成し、運搬及び格納時にコンパクトに折畳み可能に構成し、更に、遠隔操作により、アトマイザー(35)を前記アトマイザーアーム(34)に対して散布方向を修正可能に構成し、該散布方向修正装置は、遠隔操縦用ヘリコプタ(A)の胴体(3)から突設されたアトマイザーアーム(34)の先端に止めボルト(36)を設け、該止めボルト(36)によって回転自在に枢支された本体フレーム(37)を設け、前記アトマイザーアーム(34)との本体フレーム(37)間にサーボモータを連結させ、該サーボモータの駆動によりアトマイザー(35)の液剤(B)の散布方向を修正可能に構成し、送信機による遠隔操作にて、左右両側のアトマイザー(35)の角度を変更することにより、液剤(B)散布幅を変更可能とした遠隔操縦用ヘリコプタ(A)。」(以下、「引用例記載の発明」という。)

2)対比・判断
本願補正発明と引用例記載の発明とを対比すると、機能・構成からみて、引用例記載の発明の「遠隔操縦用ヘリコプタ(A)」は、本願補正発明の「無線操縦ヘリコプター」に相当する。以下、同様に、引用例記載の発明の「噴霧装置」は、本願補正発明の「薬剤散布装置」に、「防除タンク(7)」は「薬液タンク」に、「液剤(B)」は「薬液」に、「二台の防除ポンプ(23)(23)」は「二台のポンプ」に、「アトマイザー(35)」は「アトマイザー噴霧装置」に、「それぞれの電動モータ(38)」は「それぞれのモーター」又は「アトマイザー噴霧装置駆動用のモーター」に、「胴体(3)」は「機体」に、「噴霧装置用の受信機及びコントローラ」は「薬液散布装置用の受信機及びコントローラ」に、「散布方向を修正」は「角度を変更」に、「サーボモータ」は「駆動装置」に、「アトマイザーアーム(34)」は「支持アーム」に、「配液管(43)」は「給液チューブ」に、「台フレーム(30)の胴体(3)中央部とアトマイザー(35)の略中間部」は「支持アーム(4)の機体中央部とアトマイザー噴霧装置(16)の略中間部」に、「アーム基板(32)」は「回動部」に、「運搬及び格納」は「収納及び移動」に、「コンパクトに折畳み可能」は「左右の幅を減少可能」に、「遠隔操作」は「送信機の無線操作」に、「散布方向修正装置」は「角度変更装置」に、「止めボルト(36)」は「枢軸」に、「本体フレーム(37)」は「ステー」に、「液剤(B)の散布方向を修正可能」は「薬液散布角度を変更可能」に、「送信機による遠隔操作」は「送信機による無線操縦」に、「液剤(B)散布幅」は「薬剤散布幅」に、それぞれ相当する。
また、引用例記載の発明の「垂直に起立可能」は、「回動可能」という限りにおいて本願補正発明の「後方に回動可能」に相当する。

してみると、両者は、
「空中にて薬剤を散布する無線操縦ヘリコプターに搭載する薬剤散布装置において、薬液タンクに充填された薬液は、二台のポンプにより、左右二台のアトマイザー噴霧装置に供給し、該左右のアトマイザー噴霧装置は、それぞれのモーターにより駆動し、無線操縦ヘリコプターの機体内には、受信機及びコントローラを設け、該コントローラには、前記受信機及びアトマイザー噴霧装置の角度を変更するための駆動装置に接続し、前記アトマイザー噴霧装置は、機体下部において左右両方向に突出した支持アームの左右両端部に懸架され、下方に向け配設され、薬液タンクからアトマイザー噴霧装置に接続する給液チューブより給液し、該支持アームの機体中央部とアトマイザー噴霧装置の略中間部に、回動部を設け、該支持アームは回動部において、回動可能に構成し、収納及び移動時に左右の幅を減少可能に構成し、更に、送信機の無線操作により、アトマイザー噴霧装置を前記支持アームに対して角度を変更可能に構成し、該角度変更装置は、無線操縦ヘリコプターの機体から突設された支持アームの先端に枢軸を設け、駆動装置を固設し、該駆動装置の駆動によりアトマイザー噴霧装置の薬液散布角度を変更可能に構成し、送信機による無線操縦にて、左右両側のアトマイザー噴霧装置の角度を変更することにより、薬剤散布幅を変更可能とした無線操縦ヘリコプター。」の点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点
相違点1:本願補正発明では、「左右二台のモーター(46・46)によって駆動される左右二台のポンプ(31・31)」であるのに対して、引用例記載の発明では、「二台のポンプ(23)(23)」が前後に配置されるとともに駆動源が明らかではない点(以下、「相違点1」という。)。
相違点2:薬液散布装置用の受信機及びコントローラに関して、本願補正発明では、「機体制御用の受信機とは別に」設けるとともに、「コントローラには、」「アトマイザー噴霧装置駆動用のモーター(25・25)、」「及びポンプ駆動用のモーター(46・46)に接続し」ているのに対して、引用例記載の発明では、機体制御用の受信機とは別に設けられているものかどうか明らかではなく、コントローラには、電動モータ(38)、及びポンプ駆動用のモーターに相当するものが接続されているか明らかではない点(以下、「相違点2」という。)。
相違点3:支持アームは回動部において回動可能であることに関して、本願補正発明では、「後方に回動可能」であるのに対して、引用例記載の発明では「垂直に起立可能」である点(以下、「相違点3」という。)。
相違点4:駆動装置に関して、本願補正発明では、「ステー(18)の後面にギヤ(44)を固設し、前記支持アーム(4)の上には駆動装置(45)を固設し、該駆動装置(25)の駆動軸にはギヤ部(45a)を固設し、該ギヤ部(45a)は前記ギヤ(44)と噛合し、該駆動装置(45)の駆動によりアトマイザー噴霧装置(16・16)の薬液散布角度を変更可能に構成し」たのに対して、引用例記載の発明では、「アトマイザーアーム(34)との本体フレーム(37)間にサーボモータを連結させ、該サーボモータの駆動によりアトマイザー(35)の液剤(B)の散布方向を修正可能に構成し」ている点(以下、「相違点4」という。)。

そこで、上記各相違点について検討する。
まず、上記相違点1について検討する。二台のポンプを前後左右の如何なる配置とするかは、無線操縦ヘリコプターに搭載するに当たり、設計上適宜に選択する程度のことである。また、無線操縦ヘリコプターに搭載するポンプの駆動源についてはモータとすることは、特に例示するまでもなく周知の技術であって、引用例記載の発明が備える二台のポンプ(23)(23)を具体化するに際し設計上適宜採用する程度のことにすぎない。したがって、当業者であれば、引用例記載の発明において、上記相違点1に係る本願補正発明のように構成することは格別困難なくなし得ることである。
次に相違点2について検討する。無線操縦ヘリコプターに搭載する薬剤散布装置は、無線空中撮影等の種々の用途に利用される汎用の無線操縦ヘリコプターに付加的に薬剤散布装置を設置することが本願出願前に通例のことであるから、機体制御用の受信機とは別に薬液散布装置用の受信機及びコントローラを設けることは当業者が通常選択する設計手法であり、格別のものではない。また、引用例記載の発明において、コントローラに、電動モータ(38)及び二台のポンプ(23)(23)を接続することも、無線操縦する上で適宜に採用する程度のことである。したがって、当業者であれば、引用例記載の発明において、上記相違点2に係る本願補正発明のように構成することは格別困難なくなし得ることである。
次に相違点3について検討する。収納及び移動時に左右の幅を減少可能に構成するに際して、垂直に起立可能とするか後方に回動可能とするかは、設計上適宜に選択し、採用する程度のことである(例えば、実願昭63-105923号(実開平2-28762号)のマイクロフィルムの「支柱折畳みに手段(5)」を参照されたい。)。したがって、当業者であれば、引用例記載の発明において、上記相違点3に係る本願補正発明のように構成することは格別困難なくなし得ることである。
さらに、相違点4について検討する。アトマイザー噴霧装置の薬液散布角度を変更可能に構成するに際して、無線操縦ヘリコプターに搭載することを考慮すれば、その駆動手段としては、模型用のサーボモータから成る駆動手段又はモータとギヤ部から成る駆動手段が選択可能であることは周知の技術(モータとギヤ部から成る駆動手段については、例えば、実願平1-130591号(実開平3-76476号)のマイクロフィルムの「駆動機構」を参照されたい。)であり、周知の駆動手段のいずれを選択するかは当業者が適宜なし得る設計事項である。してみると、引用例記載の発明において、サーボモータの具体的手段として、周知のモータとギヤ部から成る駆動手段を採用し、「ステー(18)の後面にギヤ(44)を固設し、前記支持アーム(4)の上には駆動装置(45)を固設し、該駆動装置(25)の駆動軸にはギヤ部(45a)を固設し、該ギヤ部(45a)は前記ギヤ(44)と噛合」する等の上記相違点4に係る本願補正発明のように構成することは、当業者にとって格別の創作力を要することもなく、なし得る程度のことにすぎない。

また、本願補正発明を全体として検討しても、引用例記載の発明及び周知の技術から予測される以上の格別の効果を奏するとも認められない。

以上のとおり、本願補正発明は、引用例記載の発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2) むすび
以上から、本願補正発明は、引用例記載の発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。したがって、平成14年改正前特許法第17条の2第4項第2号において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものである。

3.むすび
以上[理由1]又は[理由2]のとおり、本件補正は、平成14年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、又は、平成14年改正前特許法第17条の2第4項第2号において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

[3]本願発明について
1. 本願発明
上記のとおり、平成19年8月3日付けの手続補正は却下されたため、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年4月27日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものと認められるところ、上記[2](ロ)に記載したとおりである。
なお、「薬液散布機装置用」は「薬液散布装置用」の誤記と認める。

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平09-275876号公報の記載事項の記載事項は、上記[2]2.[理由2](1)1)に記載したとおりである。

3.当審の判断
本願発明は、前記[2]2.[理由2]で検討した本願補正発明の「前記アトマイザー噴霧装置(16・16)は、機体下部において左右両方向に突出した支持アーム(4)の左右両端部に懸架され、下方に向け配設され、該薬液タンク(2)からアトマイザー噴霧装置(16・16)に接続する給液チューブ(6・6)より給液し、該支持アーム(4)の機体中央部とアトマイザー噴霧装置(16)の略中間部に、回動部(27)を設け、該支持アーム(4)は回動部(27)において、後方に回動可能に構成し、収納及び移動時に左右の幅を減少可能に構成し、更に、」なる事項を有しないものに実質的に相当する。
そうすると、本願発明を特定する事項を全て含み、さらに本願発明を減縮(ただし、限定的減縮ではないのは上記[2][理由1]のとおり。)したものに相当する本願補正発明が、上記[2]2.[理由2]に記載したとおり、引用例記載の発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例記載の発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例記載の発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-07-29 
結審通知日 2008-08-05 
審決日 2008-08-18 
出願番号 特願平9-310830
審決分類 P 1 8・ 572- Z (B05B)
P 1 8・ 121- Z (B05B)
P 1 8・ 275- Z (B05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神谷 径  
特許庁審判長 深澤 幹朗
特許庁審判官 早野 公惠
森藤 淳志
発明の名称 無線操縦ヘリコプターに搭載する薬剤散布装置  
代理人 矢野 寿一郎  

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