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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) D21G
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) D21G
管理番号 1185306
審判番号 不服2004-19468  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-09-21 
確定日 2008-10-01 
事件の表示 特願2000-570417「ドクタブレード」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 3月23日国際公開、WO00/15904、平成14年 8月13日国内公表、特表2002-525447〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、1999年9月9日(パリ条約による優先権主張 1998年9月10日(FI)フィンランド共和国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、以下のとおりである。
・平成15年4月14日付けで拒絶理由を通知
・平成15年10月22日に意見書及び手続補正書を提出
・平成16年6月16日付けで拒絶査定
・平成16年9月21日に拒絶査定に対する審判請求
・平成16年10月21日に手続補正書を提出
・平成16年12月27日に手続補正書(方式)を提出
(平成16年9月21日付け審判請求書の【請求の理由】を補正)
・平成19年6月20日付けで補正の却下の決定
(平成16年10月21日付けの手続補正を却下)
・平成19年6月20日付けで拒絶理由を通知
・平成19年12月18日に意見書及び手続補正書を提出


第2 この出願の発明
この出願の発明は、平成15年10月22日付け及び平成19年12月18日付けの手続補正により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される下記のものである。なお、平成16年10月21日付けの手続補正は、平成19年6月20日付けで却下されている。
「 【請求項1】 強化繊維、および熱硬化性プラスチック重合体材料を含む、抄紙機におけるロール洗浄用ドクタブレードにおいて、前記重合体材料は、ビニルエステルウレタンであり、該ビニルエステルウレタンのガラス転移温度Tgは、前記ビニルエステルウレタンが作動状態において受ける温度より20度?30度高く、該ビニルエステルウレタンのHDT温度は最高で220度であり、前記ビニルエステルウレタンは衝撃に対する抵抗が大きく、前記ドクタブレードはプルトルージョン法により製造されることを特徴とするドクタブレード。
【請求項2】 請求項1に記載のドクタブレードにおいて、該ブレードは、填料材を含むことを特徴とするドクタブレード。
【請求項3】 抄紙機におけるロール洗浄用ドクタブレードにおいて、該ブレードは強化繊維を含み、ビニルエステルウレタンのハイブリッド構造を有し、該構造には、ポリウレタンによる公知のウレタン結合と、ビニルエステルの典型的な結合とが存在し、前記ブレードはプルトルージョン法によって製造されることを特徴とするドクタブレード。
【請求項4】 請求項3に記載のドクタブレードにおいて、該ブレードは填料材を含むことを特徴とするドクタブレード。」


第3 当審における拒絶理由の概要
当審において、平成19年6月20日付けで、以下の内容を含む拒絶理由が通知された。
1 特許法第17条の2第3項違反
平成15年10月22日付けでした手続補正は、下記の点で、願書に最初に添付した明細書(特許法第184条の6第2項の規定により、同法第36条第2項に規定する願書に添付した明細書とみなされる国際出願日における明細書の翻訳文(以下、「当初明細書」という。))に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
ア 補正後の請求項1について
当初明細書には、摘記「ア」及び摘記「ウ」にあるとおり、「ガラス転移温度Tgはその作動温度より20?30℃高く、該材料の衝撃に対する抵抗は大きい」という特徴を有する熱硬化性プラスチック重合体材料を含む抄紙機におけるロール洗浄用ドクタブレード及び該材料がビニルエステルウレタンであることについて記載されている。
そして、実施例として、摘記「エ」の事項が記載され、摘記「カ」の効果を得ることができると記載されている。
一方、補正後の請求項1は、「熱硬化性重合体材料としてビニルエステルウレタンを含む、抄紙機におけるロール洗浄用ドクタブレード」に係るものであるから、ビニルエステルウレタンは、「ガラス転移温度Tgはその作動温度より20?30℃高く、該材料の衝撃に対する抵抗は大きい」という特徴を有さないものも包含する。
しかしながら、当初明細書には、上記特徴を有さないビニルエステルウレタンを含む抄紙機におけるロール洗浄用ドクタブレードについて記載されていないし、また、これは自明な事項でもない。
したがって、請求項1についてした補正は、当初明細書に記載された事項の範囲内においてしたものではない。
オ 補正後の請求項5について
補正後の請求項5は、ビニルエステルウレタンが特定の構造を有するものであることをさらに特定したものであるから、補正後の請求項1をさらに特定したものである。
したがって、補正後の請求項5は、上記アに記載した理由と同様の理由で、当初明細書に記載された事項の範囲内のものではない。
キ 補正後の請求項7及び8について
補正後の請求項7及び8は、補正後の請求項5又は6を引用するものである。
したがって、補正後の請求項7及び8は、上記オ又はカに記載した理由と同様の理由で、当初明細書に記載された事項の範囲内のものではない。
ク 補正後の請求項9について
補正後の請求項9は、補正後の請求項4又は7を引用するものである。
したがって、補正後の請求項9は、上記エ又はキに記載した理由と同様の理由で、当初明細書に記載された事項の範囲内のものではない。
(当審注)
(1) 上記の「補正後の請求項」は、平成15年10月22日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項を指す。
(2) 上記の「摘記「ア」」、「摘記「ウ」」、「摘記「エ」」及び「摘記「カ」」は、当初明細書の記載を摘記したものであって、下記「第4 当審の判断」の「1(2)」において「あ」、「え」、「か」及び「き」としてそれぞれ摘記したものに相当する。

2 特許法第36条第4項、第6項第1号及び第2号違反
この出願は、明細書の記載が下記の点で、特許法第36条第4項、第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。
(1) 請求項1における「ビニルエステルウレタン」について、これが具体的にどのようなモノマーを反応させて得られ、どのような構造のものであるのかなどが明確でない。
また、発明の詳細な説明には、ビニルエステルウレタンが、二重結合を含有するポリエステルポリオル(ポリエステルポリオール)と、ポリイソシアン酸塩(ポリイソシアネート)とを反応させた後にスチレンと反応させることで得られ(【0019】)、ウレタン結合とビニルエステル結合を有する(【0020】)という一般的な記載がなされているだけで、具体的にどのようなモノマーなどを用いればよいのかなどの所期の目的・効果を得るための一般的な解決手段を教示するような記載は何ら見いだせないし、出願時の技術常識などに照らしても、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化し得るものとも認められない。
そうすると、発明の詳細な説明の記載は、請求項1に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められず、また、請求項1に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されていない発明をも含むものであり、さらに、請求項1に係る発明は明確でない。
(3) 請求項3における「熱硬化性重合体材料を含む、抄紙機におけるロール洗浄用ドクタブレードにおいて、該重合体材料のガラス転移温度Tgはロールとドクタブレードとの間における作動温度より少なくとも20℃高く、該重合体材料は、エポキシに比較して実質的に5倍の靭性値G1Cを有し、これによって該材料の衝撃に対する抵抗は大きい」熱硬化性重合体材料について、これが具体的にどのようなモノマーなどを反応させどのような構造などの熱硬化性重合体材料であるのかなどが明確でない。
発明の詳細な説明には、
(i)二重結合を含有するポリエステルポリオールと、イソシアネートとを反応させた後にスチレンと反応させることで得られ(【0019】)、ウレタン結合とビニルエステル結合を有する(【0020】)という一般的な記載のみで特定される「ビニルエステルウレタン」、
・・・
について記載されているものの、ビニルエステルウレタンについて、どの程度のガラス転移温度Tg及び・・・であるのか何ら明らかにされていない・・・。
・・・
加えて、「ガラス転移温度Tgはロールとドクタブレードとの間における作動温度より少なくとも20℃高く」について、ロール及びドクタブレードの詳細や作動条件などが何ら明らかにされていないことから、具体的にどの程度のガラス転移温度Tgを有するものであるのかを把握することができない。
・・・
そうすると、発明の詳細な説明の記載は、請求項3に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められず、また、請求項3に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されていない発明をも含むものであり、さらに、請求項3に係る発明は明確でない。
(4) 請求項4は、請求項1ないし3のいずれかを引用するものであるから、上記(1)?(3)のいずれかに記載した理由と同様の理由で、特許法第36条第4項、第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。
(5) 請求項5は、実質的に請求項1と同じものであるから、上記(1)に記載した理由と同様の理由で、特許法第36条第4項、第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。
(7) 請求項7及び8は、請求項5又は6を引用するものであるから、上記(1)又は(2)に記載した理由と同様の理由で、特許法第36条第4項、第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。
(8) 請求項9は、請求項4又は7を引用するものであるから、上記(1)?(3)のいずれかに記載した理由と同様の理由で、特許法第36条第4項、第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。


第4 当審の判断
以下、平成19年12月18日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?請求項4は、それぞれ「新請求項1」?「新請求項4」と、平成15年10月22日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項5、請求項7、請求項8及び請求項9は、それぞれ「旧請求項5」、「旧請求項7」、「旧請求項8」及び「旧請求項9」という。
1 特許法第17条の2第3項違反について
(1) 新請求項3及び新請求項4について
新請求項3及び4は、
「 【請求項3】 抄紙機におけるロール洗浄用ドクタブレードにおいて、該ブレードは強化繊維を含み、ビニルエステルウレタンのハイブリッド構造を有し、該構造には、ポリウレタンによる公知のウレタン結合と、ビニルエステルの典型的な結合とが存在し、前記ブレードはプルトルージョン法によって製造されることを特徴とするドクタブレード。
【請求項4】 請求項3に記載のドクタブレードにおいて、該ブレードは填料材を含むことを特徴とするドクタブレード。」
というものである。
一方、旧請求項5、旧請求項7、旧請求項8及び旧請求項9は、それぞれ、
「 【請求項5】 抄紙機におけるロール洗浄用ドクタブレードにおいて、該ブレードはビニルエステルウレタンのハイブリッド構造を有し、該構造には、ポリウレタンによる公知のウレタン結合と、ビニルエステルの典型的な結合とが存在することを特徴とするドクタブレード。
【請求項7】 請求項5または6に記載のドクタブレードにおいて、該ブレードは強化繊維を含むことを特徴とするドクタブレード。
【請求項8】 請求項5または6に記載のドクタブレードにおいて、該ブレードは填料材を含むことを特徴とするドクタブレード。
【請求項9】 請求項4または7に記載のドクタブレードにおいて、該ブレードはプルトルージョン法によって製造されていることを特徴とするドクタブレード。」
というものである。
そうすると、新請求項3は、旧請求項9のうち、旧請求項5を引用する旧請求項7を引用するものに相当するということができる。
また、新請求項4は、旧請求項9のうち、旧請求項5を引用する旧請求項7を引用するものに、さらに、旧請求項8に係る特定を行ったものに相当するということができる。
(2) 当初明細書の記載事項
当初明細書には、以下の記載がある。
あ 「【請求項1】 熱硬化性プラスチック重合体材料を含む、抄紙機におけるロール洗浄用ドクタブレードにおいて、該重合体材料のガラス転移温度Tgはその作動温度より20?30℃高く、該材料の衝撃に対する抵抗は大きいことを特徴とするドクタブレード。
【請求項2】 請求項1に記載のドクタブレードにおいて、前記重合体材料はビニルエステルウレタンであることを特徴とするドクタブレード。
【請求項3】 請求項1に記載のドクタブレードにおいて、前記重合体材料はポリエーテルアミドであることを特徴とするドクタブレード。
【請求項4】 請求項1に記載のドクタブレードにおいて、該ドクタブレードは強化繊維および/または填料材を含むことを特徴とするドクタブレード。
【請求項5】 請求項4に記載のドクタブレードにおいて、該ブレードはプルトルージョン法によって製造されていることを特徴とするドクタブレード。」(【特許請求の範囲】)
い 「本発明は、請求項1の前段に記載の抄紙機用ドクタブレードに関するものである。
抄紙機/板紙抄紙機におけるロール面は、当該工程から派生する不純物やドクタブレードから到来する材料で覆われ易い。それらの材料をロール面から除去するためにドクタブレードが用いられている。抄紙機の運転速度が速くなるほど、ドクタブレードに使用されている材料は、毎分1400メートルを超えるような抄紙機の速度に耐え切れず、溶解し始め、急速に摩滅してしまい、その場合、それらはもはやロール面の清掃の役には立たない。
したがって、本発明は抄紙機のより高い運転速度に耐え、したがって、高い作動温度にも耐えるドクタブレード用材料を提供することを目的とする。
本発明は、高い作動温度に加えて、優れた機械強度および剛性をも有するドクタブレードを提供することを目的とする。」(【0001】?【0004】)
う 「上述の従来技術から明らかなように、母材に関しては多数のさまざまな熱可塑性樹脂材料が提唱されている。それらが有すると考えられる優れた抗熱特性にも拘らず、熱可塑性樹脂は、その高いコストおよび困難な加工性のため、ドクタ材料として商業的重要性を獲得していない。作業中における高い熱に対する抵抗が期待される熱硬化性プラスチックも、相当に高い溶融処理温度が必要とされる。実際上、市販品には、殆どすべてにエポキシ樹脂が使用されている。
エポキシ母材を含むドクタブレードの問題は、その早い摩耗およびその結果生じる稼動寿命の短縮である。抄紙機の運転速度が高くなるほど、この問題は悪化している。高い速度は回転ロールとドクタブレードとの間の摩擦熱を増大する。エポキシは軟化し、溶融する。この軟化現象は湿潤条件下で著しくなる。なぜなら、エポキシはある程度水を吸収する性向があるからである。この軟化および溶融はロール面を母材で覆ってしまうという結果をもたらす。これは更に、抄紙機の走行性の観点から常に重要な特性であるロール面の接着性、剥離性および表面エネルギーの特性に変化を生じさせる。
エポキシの第2の重要な欠点は、ドクタブレードの連続製造を可能にすると考えられているプルトルージョン法およびそれに類する方法に対する適性が劣っていることである。」(【0012】?【0014】)
え 「上述および後述の目的を達成するため、本発明によるドクタブレードは請求項1の記載を主たる特徴とする。
従来技術から明らかになっている問題は、本発明では新規の母材によって克服されている。これらの材料は熱硬化性材料であり、そのガラス転移温度Tgは、その母材が作動状態において受ける温度より十分に、少なくとも約20?30℃高く、優れた衝撃強さを有することを特徴とする。この母材は稼動中はそのTg温度に近くなることはないため、軟化/溶融の結果として生じる摩耗は緩慢である。更にその場合、摩耗はブレードの先端を破損することなく、調整された状態で生じる。摩耗の調整は、ブレードの稼動寿命全体を通してブレードを鋭い状態に保つために重要である。高い衝撃強さのため、ブレードの先端は、ロール面に付着している材料が稼動中のブレードの下を通過しても、容易には破損されない。」(【0015】?【0016】)
お 「熱硬化性プラスチックの性質により、本発明による材料は、熱硬化性プラスチックの場合に用いられるプルトルージョン法を含むすべての方法による加工に適していて、熱可塑性樹脂材のような相当の高温を必要としない。長方片の製造においては、プルトルージョン法に対する適性は非常に望ましい特徴となる。なぜなら、プルトルージョン法は連続製造を可能にし、その場合、製造全体の経費が節減され、その製品が均質のものになるからである。
本発明の好ましい実施例によれば、ドクタブレードは複合構造物であり、重合体母材と、強化材と、場合に応じて填料材とを含む。強化材は、ガラス、炭素もしくはアラミド繊維、または上記材料から織った構造物、または上記繊維強化材の混合物などの従来の繊維強化材としてよい。例えば、多層構造物は混合物で作ってよく、その構造物において繊維ガラスおよび炭素繊維の強化材と、上記強化繊維の配列とがさまざまな層で変化/交代する。」(【0017】?【0018】)
か 「本発明の実施例によれば、この複合構造物の母材として熱硬化性プラスチックの種類の新規の重合体材料が用いられる。この材料はスチレンに溶解したポリエステル系ポリオルと、ポリイソシアン酸塩とを含む。・・・
形成される重合体はビニルエステルウレタンであり、これはいわゆるハイブリッド構造を有し、ポリウレタンによる公知のウレタン結合と、ビニルエステルの典型的な結合とが存在する。・・・。いくつかのさまざまな反応促進剤系および開始剤系があり、それらによって反応速度を制御可能である。それらの手段およびポリエステルポリオルの選択により、ドクタブレードの材料の特性を調整し、それらを使用目的および加工方法の観点から理想的なものとすることができる。
ビニルエステルウレタンの優れた力学的性質(温度耐性の高いポリエステル/エポキシ材の代表的な値に等しいかまたはそれを上回る強さ、モジュールおよび靭性の値)に加えて、上記材料は優れた温度耐性を有していて、そのHDT温度は220℃にのぼる。したがって、ドクタブレードの表面温度が相当に高くなる、特に近代の高速抄紙機におけるドクタブレードの材料に適している。
ビニルエステルウレタンの優れた力学的性質は高い温度で保持され、熱による経年変化にもよく耐える。
ビニルエステルウレタンの原料は溶液状になっていて、熱硬化性プラスチックの代表的な方法によって加工することができる。本発明によるドクタブレードの製造においては、望ましくはプルトルージョン法が用いられる。・・・。
プルトルージョン法において、ビニルエステルウレタンの場合の製造速度はビニルエステルの場合より4倍も速くなり、製造コストを低下させる。さまざまな填料に対するビニルエステルウレタンの接着力は優れていて、例えば、セラミックおよび金属性填料、または切断繊維強化材を、織り繊維強化材に加えて用いることができる。」(【0019】?【0024】)
き 「本発明によるドクタブレードが、エポキシ母材を含有するブレードに比して、摩耗に対しての抵抗性を著しく改善し、稼動寿命を延ばしていることは、明らかである。」(【0032】)
く 「以上、本発明をそのいくつかの実施例のみを参照して説明したが、特許請求の範囲に記載する発明の概念の範囲内で多くの修正および改変が可能である。」(【0033】)
(3) 特許法第17条の2第3項に規定する要件についての検討
あ 新請求項3について
上記「(2)い」及び「(2)え」によると、当初明細書には、「上述及び口述の目的」(「抄紙機のより高い運転速度に耐え、したがって、高い作動温度にも耐えるドクタブレード用材料を提供」、「高い作動温度に加えて、優れた機械強度および剛性をも有するドクタブレードを提供」、「従来技術から明らかになっている問題」を克服など)を達成するため、当初明細書の請求項1の記載を主たる特徴、すなわち、抄紙機におけるロール洗浄用ドクタブレードを構成する熱硬化性プラスチック重合体材料が、「ガラス転移温度Tgはその作動温度より20?30℃高く、該材料の衝撃に対する抵抗は大きい」という特徴を有するもののみが記載されているということができる。
一方、新請求項3には、抄紙機におけるロール洗浄用ドクタブレードを構成する熱硬化性プラスチック重合体材料が、「ビニルエステルウレタンのハイブリッド構造を有し、該構造には、ポリウレタンによる公知のウレタン結合と、ビニルエステルの典型的な結合とが存在」するものであると記載されるのみであって、当該ビニルエステルウレタンのガラス転移温度Tgや衝撃に対する抵抗について何ら記載されていない。また、特定のハイブリッド構造を有するビニルエステルウレタンが「ガラス転移温度Tgはその作動温度より20?30℃高く、該材料の衝撃に対する抵抗は大きい」という特徴を必ず有するということはできない。
そうすると、「ガラス転移温度Tgはその作動温度より20?30℃高く、該材料の衝撃に対する抵抗は大きい」という特徴を有さなくてもよいビニルエステルウレタンによって構成される、新請求項3に記載された「抄紙機におけるロール洗浄用ドクタブレードにおいて、該ブレードは強化繊維を含み、ビニルエステルウレタンのハイブリッド構造を有し、該構造には、ポリウレタンによる公知のウレタン結合と、ビニルエステルの典型的な結合とが存在し、前記ブレードはプルトルージョン法によって製造されることを特徴とするドクタブレード。」は、当初明細書に記載されていないし、また、当初明細書の記載から自明なものとも認められない。
い 新請求項4について
新請求項4は、新請求項3について、さらに填材料を含むことのみを規定するものであるから、上記「(3)あ」に記載した理由と同様の理由で、当初明細書に記載されていないし、また、当初明細書の記載から自明なものとも認められない。
(4) 小括
以上のとおり、平成19年12月18日付けでした手続補正は、当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

2 特許法第36条第6項第1号及び第2号違反について
事案にかんがみ、特許法第36条第6項第2号違反について先に検討する。
(1) 特許法第36条第6項第2号違反について
あ 新請求項1について
新請求項1におけるビニルエステルウレタンについて、これが具体的にどのようなモノマーを反応させて得られ、どのような構造のものであるのかについて、依然として何ら明確ではない。
熱硬化性樹脂の技術分野において、ビニルエステルウレタンは、ある特定の樹脂(群)を具体的に意味するとまで明確な規定であるとはいえない。たとえば、ポリエステルウレタンと解されるものとして、当審で通知した拒絶理由通知における刊行物E(段落【0020】)には、ポリエステルウレタン樹脂が、イソシアネート、多価アルコール、ヒドロキシアルキル-(メタ-)アクリレートから構成されるものである旨、同刊行物F(第3欄6?10行)には、「不飽和ポリエステルにイソシアネート化合物を反応させて得られるウレタン化不飽和ポリエステル樹脂を重合性不飽和単量体に溶解ないしは混合せしめたものを指称する」と、同刊行物G(特許請求の範囲)には、不飽和ポリエステル、ポリイソシアネート化合物、重合性ビニル単量体より構成されるものである旨が、それぞれ記載されているところである。
一方、発明の詳細な説明の段落【0019】には、ビニルエステルウレタンとして、「この材料はスチレンに溶解したポリエステル系ポリオルと、ポリイソシアン酸塩とを含む。反応の第1段階において、ポリオル成分がイソシアン酸塩と反応すると、いわゆる連鎖拡大反応においてウレタン結合が形成される。反応の第2段階において、ポリエステルポリオル内の二重結合が基の重合としてスチレンと反応し」と記載されており、このようなものが新請求項1におけるビニルエステルウレタンに包含されることは理解できるものの、当該記載により、新請求項1における「ビニルエステルウレタン」が明確にされたということはできない(なお、請求人は、平成19年12月18日付けの意見書において、「なお本発明は、特定のビニルエステルウレタンに限定するわけではなく、ガラス転移温度Tg、およびHDT温度を満たす任意のビニルエステルウレタンを用いることが可能です。」と主張している。)。
さらに検討すると、新請求項1において、ビニルエステルウレタンは、「ガラス転移温度Tgは、前記ビニルエステルウレタンが作動状態において受ける温度より20?30度高く、HDT温度は最高で220度であり、前記ビニルエステルウレタンは衝撃に対する抵抗が大きく」という特性を有するものとされる。
しかしながら、「ガラス転移温度Tgは、前記ビニルエステルウレタンが作動状態において受ける温度より20?30度高く、」と規定したとしても、当審で通知した拒絶理由の理由3(3)中で指摘したとおり、ロール及びドクタブレードの詳細や作動条件などが何ら明らかにされていないことから、ビニルエステルウレタンが具体的にどの程度のガラス転移温度Tgを持つものであるかを把握することすらできないし、また、「HDT温度は最高で220度であり」との規定は、単にHDT温度(なお、HDT温度の定義が明細書中になされておらず詳細は不明であるが、「熱変形温度」と解するのが自然である。)が220℃以下であることを規定するのみであって、結局、ガラス転移温度Tg及びHDT温度は、ビニルエステルウレタンが具体的にどのようなモノマーを反応させて得られ、どのような構造のものであるのかを明確にするものではないから、これらの規定により、ビニルエステルウレタンが具体的にどのようなものであるかが明確になるわけではない。
そうすると、ビニルエステルウレタンについては、少なくとも具体的にどのようなモノマーを反応させて得られ、どのような構造のものであるのかを明確にしなければならないところ、新請求項1のビニルエステルウレタンは、これらについて依然として明確でない。
よって、特許請求の範囲における新請求項1の記載は、「特許を受けようとする発明が明確であること。」との要件に適合せず、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
い 新請求項2について
新請求項2は、新請求項1について、さらに填材料を含むことを特定したものであるから、上記「あ」に記載した理由と同様の理由で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
う 新請求項3について
新請求項3は、新請求項1において、ガラス転移温度Tg、HDT温度及び衝撃に対する抵抗に係る規定を削除し、特定のハイブリッド構造を有するものである旨を規定したものに相当するものということができる。
ところで、新請求項3は、上記「1」のとおり、そもそも、当初明細書に記載した事項の範囲内のものではないが、その点はさておき、新請求項3は、ビニルエステルウレタンについて、ビニルエステルウレタンのハイブリッド構造を有し、該構造には、ポリウレタンによる公知のウレタン結合と、ビニルエステルの典型的な結合とが存在する旨一応規定されているものの、当該規定は、実質的にビニルエステルウレタンの構造中に含まれる結合の種類を単にあげただけにすぎないものであって、樹脂自体の構造を何ら明確にするものではないし、さらに、少なくとも具体的にどのようなモノマーを反応させて得られたものかを明確にするものではない。
そして、その余の点は、上記「あ」に記載した理由と同様の理由で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
え 新請求項4について
新請求項4は、新請求項3について、さらに填材料を含むことを特定したものであるから、上記「う」に記載した理由と同様の理由で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(2) 特許法第36条第6項第1号違反について
あ はじめに
先に指摘したとおり、請求人は、平成19年12月18日付けの意見書において、「なお本発明は、特定のビニルエステルウレタンに限定するわけではなく、ガラス転移温度Tg、およびHDT温度を満たす任意のビニルエステルウレタンを用いることが可能です。」と主張している。
したがって、ビニルエステルウレタンが、ビニル(-C=C-)、エステル(-COO-)及びウレタン(-NHCOO-)の各結合を構造中に有し、さらに、新請求項1?4でそれぞれ特定されるような樹脂であるという範囲において明確であると仮にいうことができ、そして、新請求項1?4が、特許法第36条第6項第2項に規定する要件を満たすものということが仮にできたとしてさらに検討する。
い この出願の明細書の発明の詳細な説明に記載された事項
この出願の明細書の発明の詳細な説明には、以下のような記載がある。
(あ) 「抄紙機/板紙抄紙機におけるロール面は、当該工程から派生する不純物やドクタブレードから到来する材料で覆われ易い。それらの材料をロール面から除去するためにドクタブレードが用いられている。抄紙機の運転速度が速くなるほど、ドクタブレードに使用されている材料は、毎分1400メートルを超えるような抄紙機の速度に耐え切れず、溶解し始め、急速に摩滅してしまい、その場合、それらはもはやロール面の清掃の役には立たない。
したがって、本発明は抄紙機のより高い運転速度に耐え、したがって、高い作動温度にも耐えるドクタブレード用材料を提供することを目的とする。
本発明は、高い作動温度に加えて、優れた機械強度および剛性をも有するドクタブレードを提供することを目的とする。」(【0002】?【0004】)
(い) 「上述の従来技術から明らかなように、母材に関しては多数のさまざまな熱可塑性樹脂材料が提唱されている。それらが有すると考えられる優れた抗熱特性にも拘らず、熱可塑性樹脂は、その高いコストおよび困難な加工性のため、ドクタ材料として商業的重要性を獲得していない。作業中における高い熱に対する抵抗が期待される熱硬化性プラスチックも、相当に高い溶融処理温度が必要とされる。実際上、市販品には、殆どすべてにエポキシ樹脂が使用されている。
エポキシ母材を含むドクタブレードの問題は、その早い摩耗およびその結果生じる稼動寿命の短縮である。抄紙機の運転速度が高くなるほど、この問題は悪化している。高い速度は回転ロールとドクタブレードとの間の摩擦熱を増大する。エポキシは軟化し、溶融する。この軟化現象は湿潤条件下で著しくなる。なぜなら、エポキシはある程度水を吸収する性向があるからである。この軟化および溶融はロール面を母材で覆ってしまうという結果をもたらす。これは更に、抄紙機の走行性の観点から常に重要な特性であるロール面の接着性、剥離性および表面エネルギーの特性に変化を生じさせる。
エポキシの第2の重要な欠点は、ドクタブレードの連続製造を可能にすると考えられているプルトルージョン法およびそれに類する方法に対する適性が劣っていることである。」(【0012】?【0014】)
(う) 「上述および後述の目的を達成するため、本発明によるドクタブレードは請求項1の記載を主たる特徴とする。
従来技術から明らかになっている問題は、本発明では新規の母材によって克服されている。これらの材料は熱硬化性材料であり、そのガラス転移温度Tgは、その母材が作動状態において受ける温度より十分に、少なくとも約20?30℃高く、優れた衝撃強さを有することを特徴とする。この母材は稼動中はそのTg温度に近くなることはないため、軟化/溶融の結果として生じる摩耗は緩慢である。更にその場合、摩耗はブレードの先端を破損することなく、調整された状態で生じる。摩耗の調整は、ブレードの稼動寿命全体を通してブレードを鋭い状態に保つために重要である。高い衝撃強さのため、ブレードの先端は、ロール面に付着している材料が稼動中のブレードの下を通過しても、容易には破損されない。
熱硬化性プラスチックの性質により、本発明による材料は、熱硬化性プラスチックの場合に用いられるプルトルージョン法を含むすべての方法による加工に適していて、熱可塑性樹脂材のような相当の高温を必要としない。長方片の製造においては、プルトルージョン法に対する適性は非常に望ましい特徴となる。なぜなら、プルトルージョン法は連続製造を可能にし、その場合、製造全体の経費が節減され、その製品が均質のものになるからである。」(【0015】?【0017】)
(え) 「本発明の実施例によれば、この複合構造物の母材として熱硬化性プラスチックの種類の新規の重合体材料が用いられる。この材料はスチレンに溶解したポリエステル系ポリオルと、ポリイソシアン酸塩とを含む。反応の第1段階において、ポリオル成分がイソシアン酸塩と反応すると、いわゆる連鎖拡大反応においてウレタン結合が形成される。反応の第2段階において、ポリエステルポリオル内の二重結合が基の重合としてスチレンと反応し、その材料中に熱可塑性樹脂の典型的な網状組織を架橋させる。
形成される重合体はビニルエステルウレタンであり、これはいわゆるハイブリッド構造を有し、ポリウレタンによる公知のウレタン結合と、ビニルエステルの典型的な結合とが存在する。反応の第1および第2段階は典型的には同時に行われる。いくつかのさまざまな反応促進剤系および開始剤系があり、それらによって反応速度を制御可能である。それらの手段およびポリエステルポリオルの選択により、ドクタブレードの材料の特性を調整し、それらを使用目的および加工方法の観点から理想的なものとすることができる。
ビニルエステルウレタンの優れた力学的性質(温度耐性の高いポリエステル/エポキシ材の代表的な値に等しいかまたはそれを上回る強さ、モジュールおよび靭性の値)に加えて、上記材料は優れた温度耐性を有していて、そのHDT温度は220℃にのぼる。したがって、ドクタブレードの表面温度が相当に高くなる、特に近代の高速抄紙機におけるドクタブレードの材料に適している。
ビニルエステルウレタンの優れた力学的性質は高い温度で保持され、熱による経年変化にもよく耐える。
ビニルエステルウレタンの原料は溶液状になっていて、熱硬化性プラスチックの代表的な方法によって加工することができる。本発明によるドクタブレードの製造においては、望ましくはプルトルージョン法が用いられる。更に可能な方法は、例えば熱硬化性樹脂加工(硬化およびオートクレーブ処理)、樹脂射出(RTM)、または反応射出成形による製造である。
プルトルージョン法において、ビニルエステルウレタンの場合の製造速度はビニルエステルの場合より4倍も速くなり、製造コストを低下させる。さまざまな填料に対するビニルエステルウレタンの接着力は優れていて、例えば、セラミックおよび金属性填料、または切断繊維強化材を、織り繊維強化材に加えて用いることができる。」(【0019】?【0024】)
う 新請求項1について
新請求項1に係る発明が解決しようとする課題は、上記「(2)い(あ)?(う)」によると、「抄紙機のより高い運転速度に耐え、したがって、高い作動温度にも耐えるドクタブレード用材料を提供すること」、「高い作動温度に加えて、優れた機械強度および剛性をも有するドクタブレードを提供すること」及び「熱硬化性プラスチックの場合に用いられるプルトルージョン法を含むすべての方法による加工に適していて、熱可塑性樹脂材のような相当の高温を必要としない」を主たる目的とするものということができる。
ところで、新請求項1の記載が、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」との要件に適合するためには、新請求項1の記載と明細書の発明の詳細な説明の記載とを対比し、新請求項1に係る発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができなければならない。
一方で、ビニルエステルウレタンについて、発明の詳細な説明に具体的に記載されているということができるのは、上記「(2)い(え)」に記載されている、
「この材料はスチレンに溶解したポリエステル系ポリオルと、ポリイソシアン酸塩とを含む。反応の第1段階において、ポリオル成分がイソシアン酸塩と反応すると、いわゆる連鎖拡大反応においてウレタン結合が形成される。反応の第2段階において、ポリエステルポリオル内の二重結合が基の重合としてスチレンと反応し、その材料中に熱可塑性樹脂の典型的な網状組織を架橋させる。
形成される重合体はビニルエステルウレタンであり、これはいわゆるハイブリッド構造を有し、ポリウレタンによる公知のウレタン結合と、ビニルエステルの典型的な結合とが存在する。」
というもののみである。
通常、構造中に含まれる結合だけを規定したとしても、樹脂全体としてどのような特性を有するものとなるかなどは、当業者であっても予測困難であることが周知であり、しかも、ビニル(-C=C-)、エステル(-COO-)及びウレタン(-NHCOO-)の各結合を構造中に有する樹脂としては、極めて多数のもの(例えば、通常、ウレタン結合と、ビニル結合及びエステル結合から構成されるアクリル結合とを有するウレタンアクリレートや、当審における拒絶理由通知で引用した刊行物Eに記載されたものも該当する。)を想定し得るし、さらに、ガラス転移温度TgやHDT温度に係る規定を考慮し、また、出願時の技術常識に照らしてみても、新請求項1に係る発明である特定のビニルエステルウレタンを含むドクタブレードにまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張又は一般化し得るということができない。
加えて、発明の詳細な説明の記載(特に、上記「(2)い(あ)?(え)」の記載)は、新請求項1に係る発明が、「抄紙機のより高い運転速度に耐え、したがって、高い作動温度にも耐えるドクタブレード用材料を提供すること」、「高い作動温度に加えて、優れた機械強度および剛性をも有するドクタブレードを提供すること」及び「熱硬化性プラスチックの場合に用いられるプルトルージョン法を含むすべての方法による加工に適していて、熱可塑性樹脂材のような相当の高温を必要としない」という点において有効であることを、何ら客観的に開示するものではない。なお、段落【0019】には、一応、実施例によればという記載がなされているが、これは、実質的に新請求項1?4に係る発明を定性的に記載しただけ異のものであって、具体的にどのようなビニルエステルウレタンを用いてドクタブレードを構成したのかを明らかにするものではない。
したがって、発明の詳細な説明の記載をもって、新請求項1に係る発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでなく、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでないというべきものである。
よって、特許請求の範囲における新請求項1の記載は、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」との要件に適合せず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
え 新請求項2について
新請求項2は、新請求項1について、さらに填材料を含むことを特定したものであるから、上記「う」に記載した理由と同様の理由で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
お 新請求項3について
新請求項3は、新請求項1において、ガラス転移温度Tg、HDT温度及び衝撃に対する抵抗に係る規定を削除し、特定のハイブリッド構造を有するものである旨を規定したものに相当するものということができる。
ところで、新請求項3は、上記「1」のとおり、そもそも、当初明細書に記載した事項の範囲内のものではないが、その点はさておき、新請求項3は、ビニルエステルウレタンについて、ビニルエステルウレタンのハイブリッド構造を有し、該構造には、ポリウレタンによる公知のウレタン結合と、ビニルエステルの典型的な結合とが存在する旨一応規定されているものの、当該規定は、実質的にビニルエステルウレタンの構造中に含まれる結合の種類を単にあげただけにすぎないものである。
そして、その余の点は、上記「う」に記載した理由と同様の理由で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
か 新請求項4について
新請求項4は、新請求項3について、さらに填材料を含むことを特定したものであるから、上記「お」に記載した理由と同様の理由で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(3) 小括
以上のとおり、この出願は、明細書の記載が、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。

3 当審の判断のまとめ
したがって、平成19年12月18日付けでした手続補正は、当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
さらに、この出願は、明細書の記載が、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。


第5 むすび
以上のとおりであるから、この出願は、その余について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-04-28 
結審通知日 2008-05-07 
審決日 2008-05-21 
出願番号 特願2000-570417(P2000-570417)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (D21G)
P 1 8・ 561- WZ (D21G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 澤村 茂実  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 鈴木 紀子
安藤 達也
発明の名称 ドクタブレード  
代理人 香取 孝雄  

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