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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B43L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B43L
管理番号 1185323
審判番号 不服2006-729  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-01-12 
確定日 2008-10-01 
事件の表示 特願2003- 70788「黒板」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月 7日出願公開、特開2004-276405〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願の主な手続の経緯は、以下のとおりである。
特許出願 平成15年 3月14日
拒絶理由通知 平成17年 8月 4日
拒絶査定 平成17年12月 6日
審判請求 平成18年 1月12日
手続補正書(明細書)提出 平成18年 1月30日
手続補正書(理由補充書)提出 平成18年 2月10日

第2 平成18年1月30日付け明細書についての手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年1月30日付け明細書についての手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
本件補正における特許請求の範囲についての補正は、
補正前(願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「本願当初明細書」という。)参照)に
「【請求項1】基板に黒板表面板が再剥離接着剤を介して貼着されていることを特徴とする黒板。
【請求項2】再剥離接着剤が水溶性のアクリル樹脂系の接着剤であることを特徴とする請求項1記載の黒板。」
とあったものを、
「【請求項1】基板に黒板表面板が水で希釈された水溶性のアクリル樹脂系の再剥離接着剤を介して貼着され、溶質と水との混合比率が70対30乃至80対20の範囲であることを特徴とする黒板。 」
と補正しようとするものである。

つまり、本件補正は、特許請求の範囲についての以下の補正事項を含む。 〈補正1〉補正前の請求項1を削除するとともに、補正前の請求項2を独立形式として補正後の請求項1にする補正。
〈補正2〉補正前の請求項2における「再剥離接着剤が水溶性のアクリル樹脂系の接着剤」を補正後の請求項1において「水で希釈された水溶性のアクリル樹脂系の再剥離接着剤」「溶質と水との混合比率が70対30乃至80対20の範囲である」とする補正。

2.本件補正の適否
〈補正1について〉
補正1は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除を目的としたものと認める。
〈補正2について〉
補正2は、補正前の請求項2に「水で希釈された水溶性のアクリル樹脂系の再剥離接着剤」「溶質と水との混合比率が70対30乃至80対20の範囲である」を追加するものであるが、この追加された「水で希釈された水溶性のアクリル樹脂系の再剥離接着剤」「溶質と水との混合比率が70対30乃至80対20の範囲である」は、補正前の請求項2に記載された発明の特定事項、すなわち「水溶性のアクリル樹脂系の再剥離接着剤」の溶質と水との混合比率を特定するものであるから、補正2は補正前の請求項2に記載された発明の特定事項を限定するものといえる。
よって補正2は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものとしてひとまず扱う。

3.独立特許要件について
以上のとおり、本件補正は平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものを含んでいるので、同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか否かについて検討する。

(3-1)本願補正発明の認定
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲【請求項1】に記載された次のとおりのものと認める。
「基板に黒板表面板が水で希釈された水溶性のアクリル樹脂系の再剥離接着剤を介して貼着され、溶質と水との混合比率が70対30乃至80対20の範囲であることを特徴とする黒板。」

(3-2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-59068号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の〈ア〉乃至〈オ〉の記載が図示とともにある。
〈ア〉「【特許請求の範囲】
【請求項1】合板製の基板の表面に接着剤によってマグネットシートを貼着し、該マグネットシートの表面にその磁気吸引力によって鋼板製の黒板表面材を貼着してなる黒板。
【請求項2】前記接着剤は、酢酸ビニル系接着剤からなる請求項1に記載の黒板。
【請求項3】前記基板は、建物の壁面に取り付けられる木製の台枠に装着されている請求項1又は2に記載の黒板。」
〈イ〉「【0011】
【発明の実施の形態】図1は、学校の教室に設置された大型の黒板を示したもので、長さを例えば3600mm、高さが例えば1200mmとする。図2はその黒板を長手方向と直交する方向に断面した拡大断面図である。図において1は、厚さが例えば5mmのベニヤ合板により形成された基板で、この基板1は、周枠2とその中間に配設された中桟3とからなる木製の台枠4に、木工用の接着剤により又は釘打ちによって装着されている。5は厚さ0.5?1.0mm程度のマグネットシートで、基板1の表面に接着剤6によって貼着されている。7は厚さ0.3?0.5mm程度の塗装鋼板またはほうろう鋼板からなる黒板表面材で、上記マグネットシート5の表面にその磁気吸引力によって貼着されている。8及び9は黒板の上側縁部及び左右両縁部に沿って取り付けられたアルミ製縁枠、10は下側縁部に沿って取り付けられたアルミ製の粉受けである。」
〈ウ〉「【0013】この黒板を工場生産する場合には、周枠2と中桟3とからなる台枠4を木工用接着剤あるいは釘打ち等によって所定高さ寸法、例えば1200mmで横長さが3600mmの合板からなる基板1に固着し、この基板1にマグネットシート5を同じく木工用接着剤6を用いて固着する。しかる後、このマグネットシート5に同じサイズの塗装鋼板やほうろう鋼板7をマグネットシート5の磁気吸引力によって貼着する。・・・」
〈エ〉「【0015】また設置現場に取り付けられる黒板がかなり径大で、例えば長さが1200mmで、横長さが7200mmもある場合には、工場でユニット製作したものを現場に持ち込むことが困難であるから、工場で例えば高さ1200mmで横長さが例えば1200?2400mmの基板1に上記台枠4を固着し、且つ基板1にマグネットシート5を固着したものを予め多数製作して、これら半製品である複数の基板側ユニットを設置現場に持ち込み、一方黒板表面材7である塗装鋼板やほうろう鋼板を工場で高さ1200mm、横長さ7200mmに切断したものをコイル状に巻いた状態で設置現場に搬入する。」
〈オ〉「【0019】上記のような黒板が長期間使用されて、黒板表面材7に傷がつくなどして当該表面材7の取り替え(リボード)を必要とするときには、縁枠8,9及び粉受け10を取り外した後、その傷ついた古い黒板表面材7をマグネットシート5から引き剥がし、新しい黒板表面材7をマグネットシート5の表面に貼着し、縁枠8,9及び粉受けを取り付ければよい。即ち、黒板表面材7を取り替える際には、この表面材7をマグネットシート5の磁気吸引力に抗して引き剥がし、そのマグネットシート5表面に新しい黒板表面材7を当該シート5の磁気吸引力により貼着するだけでよいから、取り替え作業が非常に簡単容易で、その作業コストを著しく安くでき、また新しい表面材7を貼着するのに接着剤を必要としない上、木製の基板1及び台枠4を廃棄することなくそのまま使用できるから、材料、資源の節約及び産業廃棄物の節減を図ることができる。」
〈カ〉上記〈イ〉乃至〈オ〉及び図1乃至3の記載より、
上記〈ア〉に記載の「鋼板製の黒板表面材」は「黒板表面板」であることが把握できる。

上記〈ア〉乃至〈オ〉より、引用例1には、次のような発明が記載されていると認めることができる。
「合板製の基板に鋼板製の黒板表面材がマグネットシートを介して貼着された黒板」(以下、「引用発明」という。)

(3-3)対比
a.引用発明の「合板製の基板」は、本願補正発明の「基板」に相当する。
b.引用発明の「鋼板製の黒板表面材」は、上記〈カ〉の記載より、本願補正発明の「黒板表面板」に相当することは明らかである。
c.引用発明の「マグネットシート」は、上記〈オ〉より、再剥離性を有する材料である点で本願補正発明の「水で希釈された水溶性のアクリル樹脂系の再剥離接着剤」と共通する。
してみれば、本願補正発明と引用発明とは、
「基板に黒板表面板が再剥離性を有する材料を介して貼着された黒板」
である点で一致し、以下の点で相違する。
〈相違点1〉本願補正発明では、前記「再剥離性を有する材料」に関して「水で希釈された水溶性のアクリル樹脂系の再剥離接着剤であって、当該再剥離接着剤が溶質と水との混合比率が70対30乃至80対20の範囲である」と特定されているのに対し、引用発明ではそのような特定がなされていない点。

(3-4)判断
〈相違点1〉について
原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-2176号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の〈キ〉の記載が図示とともにある。
〈キ〉「【0020】この場合この接着層3は、書き込み用ボードWの重量や被接着物の材質等に応じて適当な粘着力を有するものとすればよいが、特に、該ボードWの取り外しを可能とするため、この接着層3を再剥離性を有するものとすることが好ましい。さらには、この再剥離性の接着層3は、被接着物に対する貼付・剥離を繰り返し行うことができるように構成されていると、該ボードWの再利用が可能となるため特に好ましい。この再剥離性を有する接着層としては、当該分野で既知のものを使用すればよい。
【0021】上記接着層3を構成する粘着剤としては、天然ゴム系、合成ゴム系または合成樹脂系の通常の粘着剤が使用できるが、なかでもアクリルエマルジョン系粘着剤が好適に使用される。さらに、このアクリルエマルジョン系粘着剤として、より具体的にはMFタイプ(商品名)、LS-9053(商品名)等が好適なものとして例示されるが、なかでも接着力等の点でMFタイプが特に好適である。なお上記接着層3は、使用前は通常シリコーン等による剥離処理を施した剥離シート4で被覆される。」
上記〈キ〉及び図1乃至図2より、
引用例2には、書き込み用シートと背面シートからなる書き込み用ボードに再剥離性を有する接着層を設け、この再剥離性を有する接着層は、被接着物に対する貼付・剥離を繰り返し行うことができるように構成されており、この再剥離性を有する接着層はアクリル樹脂系の再剥離接着剤であることが記載されている。
また、水で希釈された水溶性のアクリル樹脂系の接着剤であって、当該接着剤が溶質と水との混合比率が70対30乃至80対20の範囲である接着剤は、例えば、特開2002-225002号公報、段落【0008】乃至【0010】に記載の如く、周知の技術事項である。

してみれば、引用発明において、再剥離性を有する材料であるマグネットシートに代えて、同じく再剥離性を有する材料である引用例2に記載のアクリル樹脂系の再剥離接着剤を用いることは、当業者が容易に想到できたものである。
そして、上記周知の技術事項より、当該アクリル樹脂系の再剥離接着剤として、水で希釈された水溶性のアクリル樹脂系の再剥離接着剤であって、当該再剥離接着剤が溶質と水との混合比率が70対30乃至80対20の範囲とすることは通常のことといえるから、そのような通常の範囲を含む範囲に特定することは、当業者が適宜になし得る設計事項にすぎない。

したがって、相違点1に係る本願補正発明の特定事項は、引用発明並びに引用例2及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得る程度のことである。

なお、本願補正発明は、発明の特定事項として「水で希釈された水溶性のアクリル樹脂系の再剥離接着剤」及び「溶質と水との混合比率が70対30乃至80対20の範囲である」を含む「黒板」の発明であるが、乾燥工程を経ることにより、前記水溶性のアクリル樹脂系の再剥離接着剤を希釈する水は黒板から除去されるのであるから、本願補正発明の特定事項のうち前記「水で希釈された」及び「溶質と水との混合比率が70対30乃至80対20の範囲である」は、本願補正発明の物の発明としての特定事項とはいえないと解する余地もある。
そうすると、本願補正発明は、実質的に「基板に黒板表面板が水溶性のアクリル樹脂系の再剥離接着剤を介して貼着されたことを特徴とする黒板。」と相違しないとも解され、上記〈相違点1〉のうち、「水溶性のアクリル樹脂系の再剥離接着剤」に係る「水で希釈された」及び「溶質と水との混合比率が70対30乃至80対20の範囲である」は上記〈相違点1〉の構成要件といえなくなることを指摘しておく。

〈まとめ〉
このように、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項は、引用発明並びに引用例2及び周知の技術事項に基づいて、当業者が想到容易な事項であり、これらの発明特定事項を採用したことによる本願補正発明の効果も、当業者が容易に予測し得る程度のものである。
したがって、本願補正発明は、引用発明並びに引用例2及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(3-5)独立特許要件についてのまとめ
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たさない。

4.本件補正についてのむすび
前記「第2 3.」に記載のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たさないものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明の認定
平成18年1月30日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、本願当初明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「基板に黒板表面板が再剥離接着剤を介して貼着されていることを特徴とする黒板。」(以下、「本願発明」という。)

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1及びその記載事項は、前記「第2 3.(3-2)」に記載のとおりである。

3.対比・判断
前記「第2 2.」に記載のとおり、本願補正発明は、本願発明の「再剥離接着剤」について限定するものであるから、本願発明は、その発明特定事項を省いたものである。
そうすると、実質的に本願発明の発明を特定する事項を全て含み、さらに他の発明を特定する事項を付加するものに相当する本願補正発明が、前記「第2 3.(3-4)」に記載したとおり、引用発明並びに引用例2及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び引用例2に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-07-22 
結審通知日 2008-07-29 
審決日 2008-08-11 
出願番号 特願2003-70788(P2003-70788)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B43L)
P 1 8・ 121- Z (B43L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 蔵野 いづみ  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 菅野 芳男
坂田 誠
発明の名称 黒板  
代理人 衞藤 彰  

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