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審決分類 |
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない H02M 審判 訂正 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正しない H02M 審判 訂正 2項進歩性 訂正しない H02M 審判 訂正 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 訂正しない H02M |
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管理番号 | 1185463 |
審判番号 | 訂正2007-390110 |
総通号数 | 107 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-11-28 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2007-09-28 |
確定日 | 2008-03-10 |
事件の表示 | 特許第2765315号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.経緯 特許第2765315号に係る発明についての出願は、平成3年11月18日に特許出願され、平成10年4月3日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、平成19年9月28日に本件審判の請求がなされ、当審において、平成19年10月26日付けで、期間を指定して訂正拒絶の理由を通知したところ、これに対し、平成19年11月30日付けで意見書が提出されたものである。 2.請求の要旨 本件審判の請求の要旨は、「特許第2765315号の明細書を請求書に添付した全文訂正明細書のとおり訂正することを認める、との審決を求める。」というもので、次の訂正事項1、2のとおり訂正することを求めるものである。 (2-1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項3に 「直流を3以上の電位を有する交流相電圧に変換する電力変換装置において、出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間とを出力電圧の半周期中に有するように構成し、これら両期間の比率を変更する手段を備えた電力変換装置。」とあるのを、 「出力電圧指令を入力しパルス幅変調制御された電圧を電動機に出力する電力変換装置であって、直流を3以上の電位を有する交流相電圧に変換する電力変換装置において、出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間とを出力電圧の半周期中に有するように構成し、前記出力電圧指令に応じて、これら両期間の比率を変更する手段を備えることにより、前記出力電圧指令通りのパルス幅変調制御された電圧を出力する電力変換装置。」 と訂正する。 (2-2)訂正事項2 【発明の詳細な説明】の【課題を解決するための手段】の【0016】欄に 「また、上記他の目的は、直流を3以上の電位を有する交流相電圧に変換する電力変換装置において、出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間とを出力電圧の半周期中に有するように構成し、これら両期間の比率を変更する手段を備えることにより達成される。」とあるのを 「また、上記他の目的は、出力電圧指令を入力しパルス幅変調制御された電圧を電動機に出力する電力変換装置であって、直流を3以上の電位を有する交流相電圧に変換する電力変換装置において、出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間とを出力電圧の半周期中に有するように構成し、前記出力電圧指令に応じて、これら両期間の比率を変更する手段を備えることにより、前記出力電圧指令通りのパルス幅変調制御された電圧を出力することにより達成される。」 と訂正する。 3.訂正拒絶理由の概要 一方、平成19年10月26日付けで通知した訂正拒絶の理由の概要は、次のとおりである。 (3-1)訂正事項1について 請求人は、訂正事項1における、 「?手段を備えることにより、前記出力電圧指令通りのパルス幅変調制御された電圧を出力する」との訂正は、訂正前の請求項3の発明の構成要件である「電力変換装置」を限定するものであり、その根拠として段落【0049】、【0077】をあげ、該訂正が願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内である旨主張している。 しかし、段落【0077】が係る図4の実施例においては、段落【0065】?【0077】にその説明があるが、特に段落【0068】?【0073】に記載されているように、ユニポーラ変調領域では、一方の極性のパルスパタンでは電圧を表現できないので、不足した電圧を逆極性側の出力電圧で補うよう、【数8】、【数9】式で示されるように振幅指令を設定することにより、インバータ出力電圧指令を忠実に出力電圧として表現しているものであり、出力電圧指令に応じて、ユニポーラ領域とダイポーラ領域の両期間の比率を変更する手段を備えることだけにより、出力電圧指令通りのパルス幅変調制御された電圧を出力するように構成されているとは認められないので、該訂正が、願書に添付した明細書又は図面に記載されている範囲内のものとは認められない。 したがって、訂正事項1は、平成6年改正前特許法第126条1項ただし書の規定に適合しないものと認められる。 また、本訂正後の請求項3において、「?手段を備えることにより、前記出力電圧指令通りのパルス幅変調制御された電圧を出力する」とは、装置としてどのような構成を限定しているのか不明であるので、平成6年改正前特許法第36条第5項第2号の規定に適合しているとは認められず、同法第126条第3項の要件を満たさないものと認められる。 さらに、出力電圧指令に応じて、ユニポーラ領域とダイポーラ領域の両期間の比率を変更する手段を備えることにより、出力電圧指令通りのパルス幅変調制御された電圧を出力することができるのであるのならば、特開平2-101969号公報に記載されたものも、出力電圧指令に応じて、ユニポーラ領域とダイポーラ領域の両期間の比率が、結果的に変わるので、本訂正後の請求項3に記載されたものと同程度には、出力電圧指令通りのパルス幅変調制御された電圧を出力することができるものと認められる。電力変換装置において、電圧指令値を変更できるようにすることは周知であること(例えば、特開昭58-133199号公報参照)を考慮すれば、本訂正後の請求項3に記載された発明は、特開平2-101969号公報記載の発明、および周知技術に基づいて、当業者が容易になし得るものと認められ、特許法第29条第2項の規定により特許をうけることができないものと認められるので、平成6年改正前特許法第126条第3項の要件を満たさないものと認められる。 (3-2)訂正事項2について 訂正事項2は訂正事項1と同様の訂正内容であるので、同様の理由により願書に添付した明細書又は図面に記載されている範囲内のものとは認められない。 4.訂正拒絶の理由に対する意見書での主張の概要 請求人は、平成19年11月30日付け意見書において、概ね以下のように主張している。 なお、訂正後における特許請求の範囲の請求項3に記載された構成要件A?Eは次の通りである。 A:出力電圧指令を入力しパルス幅変調制御された電圧を電動機に出力す る電力変換装置であって、 B:直流を3以上の電位を有する交流相電圧に変換する電力変換装置にお いて、 C:出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパ ルスを出力する期間とを出力電圧の半周期中に有するように構成し、 前記出力電圧指令に応じて、これら両期間の比率を変更する手段を備 えることにより、 D:前記出力電圧指令通りのパルス幅変調制御された電圧を出力する E:電力変換装置。 (4-1)(3-1)訂正事項1についての前段について 訂正拒絶理由が特に指摘する段落【0068】?【0073】は、半周期中の全てをダイポーラ変調とし、オフセット量を小さくした場合に、電圧指令の大きさが高い部分において不都合が生じることを説明しているのであって、この期間をユニポーラ変調とすれば、かかる不都合は生じない。【数8】、【数9】式で示されるように振幅指令を設定することにより、実現するのは、ダイポーラユニポーラ混在変調、すなわち「部分ダイポーラ変調」であって、構成要件C中の、「出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間とを出力電圧の半周期中に有するように構成」することである。かかる構成に基づき、構成要件Dの「前記出力電圧指令通りのパルス幅変調制御された電圧を出力する」ことを実現するのである。 (4-2)(3-1)訂正事項1についての中段について 構成要件Dの「前記出力電圧指令通りのパルス幅変調制御された電圧を出力する」という構成は、出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間とを出力電圧の半周期中に有するように構成したことによりもたらされる。従って、装置としてどのような構成を限定しているのか不明であるとすることはできない。 (4-3)(3-1)訂正事項1についての後段について 第1に指摘すべきことは、本件発明は、期間Iと期間IIの比率を変更することによって、構成要件Dの構成を実現しようとするものではない。 第2に指摘すべきことは、訂正拒絶理由が、本件訂正発明について、見かけ上、「出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間」が構成されている場合を含むものであると理解していることである。本件訂正発明において、出力されるパルスは、出力電圧指令どおりの電圧を出力するために制御されて出力されるものであるから、「出力パルスを正負交互に出力する」とは、出力電圧指令どおりの電圧を出力するために正負交互に出力する制御を行った結果として出力されるもの、「出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する」とは、出力電圧指令どおりの電圧を出力するために出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する制御を行った結果として出力されるものであることは明らかである。従って、見かけ上、ユニポーラ期間を構成する際に形成される同一極性パルスが、ダイポーラ変調の一方のパルスが欠落したものに過ぎない特開平2-101969号公報は、出力電圧指令を入力しパルス幅変調制御された電圧を電動機に出力する電力変換装置としては不適格であり、構成要件D及びEの「前記出力電圧指令通りのパルス幅変調制御された電圧を出力する」「電力変換装置」ではないから、これと本件訂正発明を同様に扱うことはできない。 第3に指摘すべきことは、訂正拒絶理由が、電圧指令値を変更する手段をもって、比率変更手段であると理解している点である。電圧指令自体が変更される結果、当該運転状態に対応した所望の電圧が出力できなくなってしまうため、これをもって本件発明の比率変更手段に相当するとすることはできず、電圧指令自体を変更する手段を特開平2-101969号公報に記載されたものに適用しても本件発明には至らない。 (4-4)(3-2)訂正事項2について 訂正拒絶理由(3-1)と同様の理由によって、訂正要件がないとするものであるから、訂正事項1に関する反論と同様の理由で、訂正拒絶理由には理由がない。 5.訂正の適否についての判断 (5-1)(3-1)訂正事項1についての前段について 該点に関する請求人の主張は、特許請求の範囲の構成要件C中の、「出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間とを出力電圧の半周期中に有するように構成」することが、ダイポーラ変調の期間とユニポーラ変調の期間を組み合わせたものであることを前提としているものと認められるが、請求項3の記載をみる限り「出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間とを出力電圧の半周期中に有するように構成」するとは、結果として出力されるパルスの態様を限定しているにすぎず、該前提が請求項3において限定されているとは認められない。ただし、「出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間とを出力電圧の半周期中に有するように構成」することに基づき、構成要件Dの「前記出力電圧指令通りのパルス幅変調制御された電圧を出力する」ことを実現するという主張については、その限りにおいて、願書に添付した明細書又は図面に記載されている範囲内のものであると認められる。 したがって、該点に関し、訂正事項1が、平成6年改正前特許法第126条1項ただし書の規定に適合しないものとはいえない。 (5-2)(3-1)訂正事項1についての中段について 該点に関する請求人の主張は、構成要件Dの「前記出力電圧指令通りのパルス幅変調制御された電圧を出力する」という構成は、出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間とを出力電圧の半周期中に有するように構成したことによりもたらされるというものであるので、その限りにおいて、「?手段を備えることにより、前記出力電圧指令通りのパルス幅変調制御された電圧を出力する」との記載が、装置としてどのような構成を限定しているのか不明であるとは認められない。 したがって、該点に関し、訂正事項1が、平成6年改正前特許法第36条第5項第2号の規定に適合していないとはいえない。 (5-3)(3-1)訂正事項1についての後段について (5-3-1)訂正発明 訂正明細書の請求項3に係る発明(以下「本件訂正発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「出力電圧指令を入力しパルス幅変調制御された電圧を電動機に出力する電力変換装置であって、直流を3以上の電位を有する交流相電圧に変換する電力変換装置において、出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間とを出力電圧の半周期中に有するように構成し、前記出力電圧指令に応じて、これら両期間の比率を変更する手段を備えることにより、前記出力電圧指令通りのパルス幅変調制御された電圧を出力する電力変換装置。」 (5-3-2)引用例 当審における訂正拒絶の理由に引用した特開平2-101969号公報(平成2年4月13日公開、以下「引用例」という)には、「三点インバータの作動方法」に関する発明が開示されており、そこには、図面とともに次の事項が記載されている。 a)「三点インバータは周知のように二点インバータにくらべて、インバータ出力端における近似的に正弦波状の電圧経過を模擬するために3つの直流電位を利用し得るという利点を有する。」(第(2)頁右下欄第9行から第12行) b)「文献「三レベルPWM波形の発生および最適化への新規なアプローチ(A novel approach to the generation and optimization of threelevel PWM wave forma)」、PESC'88Record、IEEE、1988年4月、第1255?1262頁から、特にその第5図に基づいて、三点インバータに対する空間フェーザ変調の、二重変調と呼ばれる1つの特別な形態が知られている。」(第(4)頁左上欄第6行から第13行) c)「第3図には例として、その極値により破線で示されている好ましくは正規化された上側または下側走査限界+1.0または-1.0を規定する1つのこのような好ましくは三角波状の変調信号MSが示されている。二重変調によれば、三点インバータの相のなかの弁に対する切換パルス信号を形成するため、零点をずらされた2つの同相の目標信号システムが変調信号により走査される。第3図には2つのこのようなそれぞれ三相の目標信号システムが例として示されている。これらは以下で第1または第2の目標信号システムと呼ばれ、またそれぞれ3つの好ましくは正弦波状の120°だけ互いに位相のずれた相信号経過U^(*)_(RO)、U^(*)_(SO)、U^(*)_(TO)またはU^(*)_(RU)、U*_(SU)、U^(*)_(TU)から成っている。その際に両目標信号システムのなかの対応する相信号経過、たとえば経過U^(*)_(RO)およびU^(*)_(RU)は互いに同相である。その際に第1の目標信号システムの相信号経過は普通は変調信号の上側範囲に位置し、他方において第2の目標信号システムの相信号経過は下側範囲に位置している。従って、第1の目標信号システムの相信号経過の中心線MLOは第2の目標信号システムの相信号経過の中心線MLUよりも大きく、または少なくともそれと等しい。第3図の例では第1または第2の目標システムの相信号経過は値+0.5または-0.5の中心線MLOまたはMLUを有し、また値2のスパンを有する1つの正規化された変調信号MSにより走査される。」(第(4)頁左上欄第18行から同頁左下欄第5行) d)「本発明の課題は、三点インバータの作動のための二重変調の公知の方法を、周波数変換装置の出力端における電気的量が特に負荷として給電される電気機械に対して望ましい高調波スペクトルを有するように構成することである。」(第(4)頁左下欄第7行から同欄第11行) e)「第3図中ではこの重畳が既に1つのドライブ値A=0.53において交叉範囲SBの生起により明らかに認められる。このような交叉範囲の生起も、変調信号MSのピークにより予め設定された上側または下側走査限界の上方または下方超過も、過制御が存在することを指示する。このような場合に、第1または第2の目標信号システムの極大または極小の範囲内の相信号経過の上側走査限界を上方超過する範囲または下側走査限界を下方超過する範囲は変調信号によりもはや検出されない。こうして、好ましくは正弦波状であり、また周波数変換装置の出力端における電気的量に対する目標経過としての役割をする相信号経過の"刈り込み(Kuppen)"が変調信号によりもはや走査され得ないので、1つの変調誤差が生ずる。」(第(5)頁右下欄第9行から第(6)頁左上欄第4行) f)「その結果として、第5図中でたとえば、相信号経過U’_(SO)は上側走査限界との交点SP1とSP2との間の範囲B2内でその値に制限される。」(第(6)頁左下欄第9行から同欄第11行) g)「上記の制限により“失われた”スパンは、そのつどの目標信号システムのその他の制限されない相信号経過のなかで、本発明によれば、第1または第2の間隔値の減算または加算により考慮される。」(第(6)頁左下欄第19行から同頁右下欄第3行) 上記の文献「三レベルPWM波形の発生および最適化への新規なアプローチ(A novel approach to the generation and optimization of threelevel PWM wave forma)」、PESC'88Record、IEEE、1988年4月、第1255?1262頁により知られているように、「二重変調によれば、三点インバータの相のなかの弁に対する切換パルス信号を形成するため、零点をずらされた2つの同相の目標信号システムが変調信号により走査される。」(上記「c)」参照)とは、上側範囲に位置する第1の目標信号システムの相信号経過と変調信号MSを比較し、第1の目標信号システムの相信号経過が変調信号MSよりも小さいとき、負のパルスを出力し、下側範囲に位置する第2の目標信号システムの相信号経過と変調信号MSを比較し、第2の目標信号システムの相信号経過が変調信号MSよりも大きいとき、正のパルスを出力するものであり、引用例のFIG3(第3図)における変調信号MSのピークにより予め設定された上側または下側走査限界の上方または下方超過した範囲では、パルスが出力されないものであると認められる。 また、「目標信号システム」があることからなんらかの「電圧の目標信号」が入力されていることは明らかである。 さらに、該変調信号MSのピークにより予め設定された上側または下側走査限界の上方または下方超過した範囲は、電圧の目標信号に応じて、第1の目標信号システム、第2の目標信号システムの相信号経過が変化すれば、それに伴って変化するものと認められる。 これと上記の記載事項を総合すると、引用例には 「電圧の目標信号が入力されPWM制御された電気的量を電気機械に給電する三点インバータであって、近似的に正弦波状の電圧経過を模擬するために3つの直流電位を利用する三点インバータにおいて、上側範囲に位置する第1の目標信号システムの相信号経過と変調信号を比較し、第1の目標信号システムの相信号経過が変調信号よりも小さいとき、負のパルスを出力し、下側範囲に位置する第2の目標信号システムの相信号経過と変調信号を比較し、第2の目標信号システムの相信号経過が変調信号よりも大きいとき、正のパルスを出力するものであり、変調信号のピークにより予め設定された上側または下側走査限界の上方または下方超過した範囲では、パルスが出力されないように構成され、電圧の目標信号に応じて、変調信号のピークにより予め設定された上側または下側走査限界の上方または下方超過した範囲が変化する三点インバータ。」の発明(以下、「引用例記載の発明」という。)が記載されていると認められる。 (5-3-3)対比 本件訂正発明と引用例記載の発明を対比すると、後者における「電圧の目標信号」は、前者における「出力電圧指令」に相当し、同様に、後者における「PWM制御された電気的量」は、前者における「パルス幅変調制御された電圧」に、後者において「近似的に正弦波状の電圧経過を模擬するために3つの直流電位を利用する」ことは、前者において「直流を3以上の電位を有する交流相電圧に変換する」ことに相当する。また、後者において「上側範囲に位置する第1の目標信号システムの相信号経過と変調信号を比較し、第1の目標信号システムの相信号経過が変調信号よりも小さいとき、負のパルスを出力し、下側範囲に位置する第2の目標信号システムの相信号経過と変調信号を比較し、第2の目標信号システムの相信号経過が変調信号よりも大きいとき、正のパルスを出力するものであり、変調信号のピークにより予め設定された上側または下側走査限界の上方または下方超過した範囲では、パルスが出力されないように構成」したことは、FIG3(第3図)を参照すると、出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間とを出力電圧の半周期中に有することになるので、前者において「出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間とを出力電圧の半周期中に有するように構成」したことに相当する。また、後者における「三点インバータ」は前者における「電力変換装置」に相当する。 また、後者においては「電圧の目標信号に応じて、変調信号のピークにより予め設定された上側または下側走査限界の上方または下方超過した範囲が変化する」ものであり、その結果一方のパルスが出力されない範囲が変化するものと認められるから、前者における「出力電圧指令に応じて、これら両期間の比率を変更する手段」に相当する手段を備えているものといえる。 また、後者における「電気機械」と前者における「電動機」とは、ともに「電動機械」である点で共通する。 したがって、両者は、 「出力電圧指令を入力しパルス幅変調制御された電圧を電動機械に出力する電力変換装置であって、直流を3以上の電位を有する交流相電圧に変換する電力変換装置において、出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間とを出力電圧の半周期中に有するように構成し、出力電圧指令に応じて、これら両期間の比率を変更する手段を備えた電力変換装置。」である点で一致し、次の各点において相違する。 [相違点1] 「電動機械」について、本件訂正発明では、「電動機」であるのに対し、引用例記載の発明においては、「電気機械」である点。 [相違点2] 「電力変換装置」について、本件訂正発明では、「出力電圧指令通りのパルス幅変調制御された電圧を出力する」とされているのに対し、引用例記載の発明においては、そのような限定がされていない点。 (5-3-4)相違点に対する判断 相違点1について検討すると、インバータにより電動機に給電することは周知であり(一例として、特開昭58-133199号公報参照)、引用例記載の発明における「電気機械」として電動機を選択することは、当業者にとって、適宜なし得ることにすぎない。 次に、相違点2について検討すると、「出力電圧指令通りのパルス幅変調制御された電圧を出力する」ことを実現するための構成は、請求人の主張によれば、(4-1)、(4-2)にあるように「出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間とを出力電圧の半周期中に有するように構成したことによりもたらされる」ものであり、該構成は引用例記載の発明も備えている構成であるので、本件訂正発明と引用例記載の発明とで、該点に関し実質的に差異があるとは認められない。また、「出力電圧指令通りのパルス幅変調制御された電圧を出力する」こと自体は、当然に目標とされる事項であり、精度の差はあれ、引用例記載の発明においても備えている事項であると認められる。さらに、引用例には、(5-3-2)引用例のf)、g)に記載されているように、目標信号に近づくように補正することも記載されており、具体的な手段を限定せず「出力電圧指令通りのパルス幅変調制御された電圧を出力する」ことが、当業者にとって、格別なことであるとも認められない。 また、請求人は意見書中において、本件訂正発明が、見かけ上、「出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間」が構成されている場合を排除するものであるかのように主張しているが、請求項3の記載をみる限り、そのような限定がされていないばかりか、実施例を参照しても、半周期中の全てをダイポーラ変調とし、振幅指令を設定することにより「出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間とを出力電圧の半周期中に有するように構成」したものが記載されているのみであるので、該請求人の主張は採用できない。 そして、本件訂正発明の構成によってもたらされる効果も、引用例記載の発明、および周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。 したがって、本件訂正発明は、引用例記載の発明、および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 6.むすび 以上のとおりであるから、訂正事項1は、平成6年改正前特許法第126条第3項の規定に適合しないので、上記訂正事項1を含む本件訂正は認められない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-01-10 |
結審通知日 | 2008-01-15 |
審決日 | 2008-01-29 |
出願番号 | 特願平3-301512 |
審決分類 |
P
1
41・
841-
Z
(H02M)
P 1 41・ 534- Z (H02M) P 1 41・ 856- Z (H02M) P 1 41・ 121- Z (H02M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 手島 聖治 |
特許庁審判長 |
丸山 英行 |
特許庁審判官 |
田良島 潔 田中 秀夫 |
登録日 | 1998-04-03 |
登録番号 | 特許第2765315号(P2765315) |
発明の名称 | 電力変換装置及びこれを利用した電気車の制御装置 |
代理人 | 篁 悟 |
代理人 | 隈部 泰正 |
代理人 | 飯田 秀郷 |
代理人 | 特許業務法人第一国際特許事務所 |
代理人 | 井坂 光明 |