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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60R
管理番号 1185471
審判番号 不服2005-5383  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-03-30 
確定日 2008-10-02 
事件の表示 特願2002- 26776「電流供給回路」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 8月12日出願公開、特開2003-226223〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 本願発明
本件出願は、平成14年2月4日の出願であって、その請求項1ないし9に係る発明は、平成20年1月9日の手続補正書により補正がなされた特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1は次のとおり記載されている。
「【請求項1】車両の電子制御ユニット内にバッテリーのバックアップ用コンデンサを含み、前記バッテリーのバックアップ用コンデンサが、20?200μsecの範囲内のパルスと、前記パルスに応じた電流値とから定まる、電気式点火器を正常作動させるに要する電流量に基づく容量を有するものであり、前記電気式点火器の金属細線からなる抵抗発熱体に電流を供給する電流供給回路。」(以下、請求項1に係る発明を「本願発明1」という。)

2 引用刊行物の記載事項
当審における平成19年11月12日付け拒絶理由通知書の拒絶の理由に引用した、本件出願の出願前に頒布された刊行物である特表2000-500856号公報(以下「刊行物1」という。)には、以下の記載がある。

a:「薄膜ブリッジ型起爆体は、爆薬を起爆させるための作動装置として広く使用することができる。自動車の安全性自体に関しては、偶発的な衝突からの乗員の保護対策が発展していて、シートベルトのプリテンショナ(予張力手段)及びエアバックのための火工技術作動型の圧力カートリッジが開発されている。より詳細に言えば、本発明は、セラミック上に設けられていて火工物質を低エネルギで且つ高速で機能させる薄膜抵抗素子を用いる、火工技術的な圧力カートリッジ又は起爆体に関する。『薄膜抵抗素子』という用語は、本明細書においては、蒸発法、スパッタリング法又は他の方法でセラミック又は他の被覆可能な材料に堆積される、窒化タンタル又はニクロム(ニッケル/クロム)の如き任意の抵抗素子を意味している。半導体ブリッジ、及び、伝統的なブリッジワイヤ装置は、多くの点に関して満足すべきものであるが、以下の通り特徴づけられる下記の条件を総て満足するものではない。すなわち、そのような条件とは、高速機能性(すなわち、電力を与えてから100マイクロ秒よりも短い時間)、低エネルギ消費量(すなわち、1ミリジュールよりも少ない)、極めて高い静電放電(ESD)耐久性(すなわち、0.1マイクロ秒の間に最大24アンペアで1,150ワットの消散)、及び、点火エネルギが与えられている間の非常に安定した抵抗である。」(6頁4行ないし19行)

b:「下の表は、現在市販されている半導体ブリッジ(SCB)及び通常のブリッジワイヤ装置に対するTFBの利点を明らかに示している。
本発明のTFBに対するSCB及び熱線装置の比較
ブリッジワイヤ SCB(61A2) TFB(3Z2)
消費エネルギ: 5-6mJ 1.4mJ 0.8mJ
CDUエネルギ:9-10mJ 2-2.5mJ 1-1.5mJ
非点火電流: 0.20A 0.5A 0.8A
機能時間: 400マイクロ秒 70マイクロ秒 40マイクロ秒
抵 抗: 1.8-2.5オーム 1.8-2.5オーム 1.8-2.5オーム
抵抗率計数の
符号: 正 負 正(小さい)」 (7頁14行ないし24行)

刊行物1記載のものにおいて、上記表のTFBに点火電流を機能時間だけ供給するためには当然に「電流供給回路」と称されるべき回路の存在することが明らかであるから、上記記載から、刊行物1には次の発明が記載されているものと認めることができる。
「40マイクロ秒の機能時間、点火のため必要な電流をTFBに供給する自動車の電流供給回路。」

同じく上記拒絶理由通知書の拒絶の理由に引用した、本件出願の出願前に頒布された刊行物である特開2001?341612号公報(以下「刊行物2」という。)には、以下の記載がある。

c:「【0007】・・・従って本発明は、バックアップ電源によるエアバッグ点火回路の性能を低下させることなく、バックアップ電源容量を小さくし、かつ寸法を縮小し、低価格とすることを目的とするものである。」

d:「【0009】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明エアバッグ点火回路は、点火用トランジスタを介して前記スクイブに点火電流を供給するバックアップ用コンデンサと、点火用トランジスタのゲートに印加する電圧を供給する別のバックアップ用コンデンサを設けている。そして、該別のバックアップ用コンデンサの前記ゲートと反対側に逆流防止用ダイオードを設け、前記バックアップ用コンデンサから点火電流が流れて該コンデンサの電位が低下した場合、前記別のバックアップ用コンデンサの電荷が引き抜かれてこのコンデンサの充電電位が低下しないようにしている。」

これらの記載によれば、刊行物2には、エアバッグ点火回路に点火電流を供給するバックアップ用コンデンサを有し、その容量を小さくさせようとする発明が記載されているといえる。

同じく上記拒絶理由通知書の拒絶の理由に引用した、本件出願の出願前に頒布された刊行物である特開平11?78771号公報(以下「刊行物3」という。)には、以下の記載がある。

e:「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、エアバッグ装置で、エアバッグを膨張させるためのスクイブに通電する点火電流を制限する回路であって、スクイブ点火駆動回路が形成される半導体集積回路と、半導体集積回路内に形成される基準電源と、半導体集積回路の外部に接続され、基準電源から電流が供給されるプルダウン抵抗と、半導体集積回路内部に形成され、基準電源からプルダウン抵抗に供給される基準電流値を基準として、スクイブに通電する点火電流値を予め定める範囲内に制限する電流制限回路とを含むことを特徴とするエアバッグ装置用点火電流制限回路である。」

f:「【0008】本発明に従えば、スクイブ点火駆動回路が形成される半導体集積回路内に基準電源を生成し、半導体集積回路の外部に基準電源から電流が供給されるプルダウン抵抗を接続する。半導体集積回路内に形成される電流制限回路は、基準電源からプルダウン抵抗に供給される基準電流値を基準として、スクイブに通電する点火電流値を予め定める範囲内に制限する。半導体集積回路内部に形成する基準電源は、出力電圧を精度よく調整することが比較的容易である。したがって半導体集積回路外部のプルダウン抵抗に、プルダウン抵抗の抵抗値に対応する基準電流を精度よく供給することができる。電流制限回路は、基準電流値を基準としてスクイブに通電する点火電流値を制御するので、点火電流値の制御も精度よく行うことができる。点火電流値を精度よく制限することができるので、電源バップアップ用のコンデンサなどの容量値の余裕を少なくすることができ、部品コストの低減と必要な基板面積などの縮小を図ることができる。」

これらの記載によれば、刊行物3には、エアバッグの点火駆動回路に点火電流を供給するバックアップ用コンデンサを有する発明が記載されているといえる。

3 対比
本願発明1と刊行物1記載の発明とを比較すると次のことが明らかである。
・刊行物1記載の発明の「自動車」、「機能時間」は、本願発明1の「車両」、「(幅を時間で規定した)パルス」に相当する。
・本願発明1の「電気式点火器の金属細線からなる抵抗発熱体」と、刊行物1記載の発明の「TFB」とは、「電気式点火器の抵抗発熱体」との点で共通する。
すると、両者は、
「40マイクロ秒のパルスで、点火のための電流を電気式点火器の抵抗発熱体に供給する車両の電流供給回路。」
である点で一致し、次の点で相違する。
相違点;本願発明1が「電子制御ユニット内にバッテリーのバックアップ用コンデンサを含み」、そのバックアップ用コンデンサが、「20?200μsecの範囲内のパルスと、前記パルスに応じた電流値とから定まる、電気式点火器を正常作動させるに要する電流量に基づく容量を有する」ものであって、電気式点火器の抵抗発熱体が、「金属細線」であるのに対して、刊行物1記載の発明は、そのようなバックアップ用コンデンサの存在が不明であって、抵抗発熱体が「TFB」である点。

4 相違点の検討
上記相違点について検討する。
一般に、エアバッグシステムを装備した車両において、車両に搭載したECUに、エアバッグシステムのためのバッテリバックアップ用電源として、コンデンサを備えさせることは周知の技術であり、この種のコンデンサで小型化の要請があることも周知である(例えば、刊行物2、3或いは特開2001-191892号公報など参照)。
刊行物1記載の発明において、「電流供給回路」は、機能時間が40マイクロ秒とされており、この時間内において火薬に点火させるに必要な電流が流されるものであるが、この必要な電流値は、その機能時間に応じて予め容易に求められることは明らかである。そして、この機能時間と電流値とから、火薬を点火させるに必要となる着火エネルギ量が求められることも明らかである。例えば、国際公開01/034437号の8頁などには、点火に必要なエネルギ量を少なくするべく、通電時間と点火電流との値を適宜選定するとの技術思想が記載されており、刊行物1記載の発明においても、その機能時間を適宜変化させ得ることは明らかである。
ところで、刊行物1記載の発明の抵抗発熱体はTFBである。そして、刊行物1には、「半導体ブリッジ、及び、伝統的なブリッジワイヤ装置は、多くの点で満足すべきものであるが、以下に特徴づけられる下記の条件を総て満足するものではない。」として、その「条件」を、「高速機能性(すなわち、電力を与えてから100マイクロ秒よりも短い時間)」、「低エネルギ消費量(すなわち、1ミリジュールよりも少ない)」と記載されている。
しかし、ブリッジワイヤ装置を使用したとしても、高速機能性、低エネルギ消費量などは、ブリッジワイヤ自体の構成や点火薬の種類などによっても変化し得るものと認められ、これら要件を適宜選択して、100マイクロ秒より短い機能時間においても点火が行えないかについて実験を行う程度のことは当業者にとって格別困難とはいえない。
すると、「低エネルギ消費量」となることを考慮しつつ、例えば、ブリッジワイヤ装置を使用して、その機能時間を20?200マイクロ秒との範囲で設定することも格別とはいえない。そして、バックアップ用コンデンサの容量は、正常に着火させるに必要なエネルギ量が備えられていればよいことは技術的にみて明らかであるから、着火エネルギが「低エネルギ消費量」となれば、その容量もそれだけ小さくできることが明らかである。
そうすると、刊行物1記載の発明において、「電流供給回路」を、電子制御ユニット内に備えさせ、そのユニット内にバッテリーのバックアップ用コンデンサを含ませるとともに、抵抗発熱体としてブリッジワイヤを使用して、機能時間を20?200マイクロ秒の範囲内とし、その時間に応じて予め求めた所定電流を供給することとし、コンデンサを容量をその供給量に見合うものとすることにより、本願発明1の上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

そして、本願発明1が奏する効果も、刊行物1ないし刊行物3記載の発明及び周知の技術的事項から当業者が予測し得たものであって、格別顕著なものとはいえない。
したがって、本願発明1は、刊行物1ないし刊行物3記載の発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-07-30 
結審通知日 2008-08-05 
審決日 2008-08-18 
出願番号 特願2002-26776(P2002-26776)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B60R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西本 浩司  
特許庁審判長 寺本 光生
特許庁審判官 柴沼 雅樹
柿崎 拓
発明の名称 電流供給回路  
代理人 溝部 孝彦  
代理人 古谷 聡  
代理人 持田 信二  
代理人 義経 和昌  

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