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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A63B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63B
管理番号 1185508
審判番号 不服2006-11443  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-06-06 
確定日 2008-10-02 
事件の表示 平成 8年特許願第 65456号「ゴルフクラブヘッド」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 9月 2日出願公開、特開平 9-225076〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願の主な手続の経緯は、以下のとおりである。
特許出願 平成 8年 2月27日
拒絶理由通知 平成17年 8月 1日
意見書及び手続補正書(明細書)提出 平成17年 9月14日
拒絶理由通知 平成17年11月25日
意見書及び手続補正書(明細書)提出 平成18年 1月17日
拒絶査定 平成18年 4月27日
審判請求 平成18年 6月 6日
手続補正書(明細書)提出 平成18年 6月26日
手続補正書(理由補充書)提出 平成18年 6月26日

第2 平成18年6月26日付け明細書についての手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年6月26日付け明細書についての手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
本件補正における特許請求の範囲についての補正は、
補正前(平成18年1月17日付け手続補正書参照)に
「【請求項1】
フェースとバックフェースとの間に空間を形成したアイアン系のゴルフクラブヘッドにおいて、
トウ,ヒール,ソール,トップブレード,フェース,バックフェースを金属材料で成形してヘッド本体となし、
バックフェースの中央部分に比較的大きな窓を形成し、
フェース及びバックフェースの肉厚は最も薄く2mm以下に形成するとともに、ソールの最大厚み個所を15?20mm、トップブレードの最大厚み個所を3?10mmに形成し、
トウ側やヒール側にも重量を配分して周辺重量配分とし、
フェースとバックフェースとの間の空間に繊維強化プラスチックを充填したことを特徴とするゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
バックフェースの窓にチタニウムやその合金,アルミニウムやその合金等のヘッド本体を形成する材料よりも比重の小さい材料から成るバック部材を取付けたことを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
フェース表面に刻まれるスコアラインの裏側は表面の窪みに対応した突条に形成され、スコアラインが刻まれた部分と刻まれていない部分でのフェースの肉厚を一定にしたことを特徴とする請求項1又は2に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
前記ヘッド本体としてステンレススチール、前記繊維強化プラスチックとしてCFRPを使用したことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。」
とあったものを、
「【請求項1】
フェースとバックフェースとの間に空間を形成したアイアン系のゴルフクラブヘッドにおいて、
トウ,ヒール,ソール,トップブレード,フェース,バックフェースを金属材料で成形してヘッド本体となし、
バックフェースの中央部分に窓を形成し、
フェース及びバックフェースの肉厚は最も薄く2mm以下に形成するとともに、ソールの最大厚み個所を15?20mm、トップブレードの最大厚み個所を3?10mmに形成し、
トウ側やヒール側にも重量を配分して周辺重量配分とし、
フェースとバックフェースとの間の空間に繊維強化プラスチックを充填し、バックフェースの窓にチタニウムやその合金,アルミニウムやその合金等のヘッド本体を形成する材料よりも比重の小さい材料から成るバック部材を取付けたことを特徴とするゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
フェース表面に刻まれるスコアラインの裏側は表面の窪みに対応した突条に形成され、スコアラインが刻まれた部分と刻まれていない部分でのフェースの肉厚を一定にしたことを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
前記ヘッド本体としてステンレススチール、前記繊維強化プラスチックとしてCFRPを使用したことを特徴とする請求項1又は2に記載のゴルフクラブヘッド。」
と補正するものである。

つまり、本件補正は以下の補正事項を含む。
〈補正1〉補正前の請求項1を削除するとともに、補正前の請求項2乃至請求項4をそれぞれ補正後の請求項1乃至請求項3に繰り上げる補正。
〈補正2〉補正前の請求項1における「比較的大きな」を、補正後の請求項1において削除する補正。

〈補正1〉について
上記補正1は、補正前の請求項1を削除するとともに、それに伴って他の請求項を形式的に補正するものであるから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除を目的としたものと認める。
〈補正2〉について
上記補正2は、補正前の請求項1に係る発明を特定する事項である「窓」に関して、「比較的大きな」との限定を削除するものであるから、特許請求の範囲を拡張するものであり、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当しない。
また、上記補正2は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除、同法同条同項第3号に掲げる誤記の訂正、同法同条同項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る)のいずれを目的としたものにも該当しない。
なお、請求人は、審判請求書の【請求の理由】(平成18年6月26日付けで理由補充されている)において、
「また、「比較的大きな窓」も単に「窓」に補正することにより、明確にするとともに……」(【請求の理由】のうち「4.本願発明が特許されるべき理由」を参照)
と、上記補正2が明りょうでない記載の釈明を目的とした補正であるかのように主張している。
しかしながら、拒絶査定の備考欄における
「また、出願人は、本願発明の「比較的大きな窓」と引用文献2(特開平6-319836号公報)に記載の「オリフィス」とは相違する旨主張しているが、「比較的大きな窓」が何と比較してどの程度大きいのかが把握できないため、この点での差異は認められない。」
との指摘は、あくまでも先行技術との差異が認識できないことをいうのであって、「比較的大きな」との限定を削除して無限定の「窓」とすることまでを許容するものではない。

以上のとおり、上記補正2を含む本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていないものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明の認定
平成18年6月26日付け明細書についての手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成18年1月7日付けで補正された特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「フェースとバックフェースとの間に空間を形成したアイアン系のゴルフクラブヘッドにおいて、
トウ,ヒール,ソール,トップブレード,フェース,バックフェースを金属材料で成形してヘッド本体となし、
バックフェースの中央部分に比較的大きな窓を形成し、
フェース及びバックフェースの肉厚は最も薄く2mm以下に形成するとともに、ソールの最大厚み個所を15?20mm、トップブレードの最大厚み個所を3?10mmに形成し、
トウ側やヒール側にも重量を配分して周辺重量配分とし、
フェースとバックフェースとの間の空間に繊維強化プラスチックを充填したことを特徴とするゴルフクラブヘッド。」(以下、「本願発明」という。)

2.引用例
本願の出願前に頒布された刊行物であって、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭61-185282号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の〈ア〉?〈キ〉の記載が図示とともにある。
〈ア〉「1.背面部4から凹窪部6を形成してフェース面7には所定肉厚Tの板状部8を残した受皿状の鉄鋼系金属材料のクラブヘッド本体と、
該クラブヘッド本体3の凹窪部6内に繊維体乃至ウィスカーを詰め、溶融軽金属を注入固化し該クラブヘッド本体3に一体化してなる軽量複合鋳物体5と、
から構成されたことを特徴とするアイアン型クラブヘッド。
2.上記板状部8の所定肉厚Tの最小値を1.0?3.0mmに設定した特許請求の範囲第1項記載のアイアン型クラブヘッド。」(第1頁左欄第5行?第16行参照)
〈イ〉「クラブヘッドの重心附近の重量を軽減し、その軽減分を周縁部に配分出来る。」(第2頁右上欄第2行?第3行参照)
〈ウ〉「なお、ウィスカー10は……高強度、高弾性率、軽量といった優れた材料特性を有している。」(第3頁左上欄第3行?第5行参照)
〈エ〉「第2図に示すように、クラブヘッド2の全体の重量を従来のものと同一とした条件下で、外周縁部の質量分布が増加して」(第3頁左上欄第9行?第11行参照)
〈オ〉第2図において、クラブヘッド本体3がトウ、ヒール、ソール、トップブレード、フェース面7を有していること、また凹窪部6がクラブヘッド本体3の中央部分に比較的大きなサイズで設けられていること、が看取できる。
〈カ〉第1図において、フェース面7の板状部8の背面側に凹窪部6が形成されるとともに、凹窪部6の開口部がクラブヘッド本体3の背面部4に位置していること、またクラブヘッド本体3の断面においてフェース面7の板状部8が最も薄く、ソールの最大厚み個所及びトップブレードの最大厚み個所がフェース面7の板状部8よりも大きな厚みを有していること、が看取できる。
〈キ〉第3図乃至第5図において、凹窪部6の開口部から凹窪部内にウィスカー10及び溶融軽金属Mが充填されることが看取できる。

上記〈イ〉、〈エ〉、及び〈カ〉の記載等から、クラブヘッド本体3の重心附近の重量が軽減され、ソールの最大厚み個所及びトップブレードの最大厚み個所がフェース面7の板状部8よりも大きな厚みを有するとともにトウ側やヒール側にも重量が配分された周辺重量配分とされているものと解される。

以上のことから、上記〈ア〉?〈キ〉の記載等を含む引用例1には、次の発明が記載されていると認めることができる。
「フェース面7の板状部8の背面側に凹窪部6を形成したアイアン型クラブヘッドにおいて、
トウ、ヒール、ソール、トップブレード、フェース面7の板状部8を鉄鋼系金属材料で成形してクラブヘッド本体3となし、
クラブヘッド本体3の背面部4の中央部分に比較的大きな凹窪部6の開口部を形成し、
フェース面7の板状部8の肉厚は最も薄く1.0?3.0mmに形成するとともに、ソールの最大厚み個所及びトップブレードの最大厚み個所をフェース面7の板状部8よりも大きな厚みに形成し、
トウ側やヒール側にも重量を配分して周辺重量配分とし、
フェース面7の板状部8の背面側の凹窪部6に軽量複合鋳物体5を充填したアイアン型クラブヘッド。」(以下、「引用発明」という。)

3.対比
a.引用発明の「フェース面7の板状部8」、「アイアン型クラブヘッド」、及び「クラブヘッド本体」は、それぞれ本願発明の「フェース」、「空間」、「アイアン系のゴルフクラブヘッド」または「ゴルフクラブヘッド」、及び「ヘッド本体」に相当する。
b.本願発明の「フェースとバックフェースの間」は、ヘッド本体の構造からみてフェースの背面側と称することができるので、引用発明の「フェース面7の板状部8の背面側」の「凹窪部6」と本願発明の「フェースとバックフェースとの間」の「空間」とは、フェースの背面側の空間である点で共通する。
c.引用発明の「鉄鋼系金属材料」は、本願発明の「金属材料」と相違しない。
d.引用発明の「凹窪部6の開口部」は、「ヘッド本体」(クラブヘッド本体3)の背面部の中央部分に設けられた開口部である点で本願発明の「窓」と共通し、本願発明に倣って「窓」と称することができる。
e.引用発明のフェース(「フェース面7の板状部8」)の肉厚は「1.0?3.0mm」であり、本願発明のフェースの肉厚は「2mm以下」であるので、両者は1.0mm?2mmの範囲において一致する。
f.本願発明においては、フェースの肉厚が「最も薄く2mm以下に形成」されるとともに「ソールの最大厚み個所を15?20mm、トップブレードの最大厚み個所を3?10mmに形成」してあるのであるから、引用発明の「ソールの最大厚み個所」及び「トップブレードの最大厚み個所」と本願発明の「ソールの最大厚み個所」及び「トップブレードの最大厚み個所」とは、フェース(「フェース面7の板状部8」)よりも大きな厚みに形成されている点で共通する。
g.本願明細書段落【0012】に「……フェースの強度も充填された繊維強化プラスチックにより十分保持できる。……」と記載されていること、また本願発明が「周辺重量配分」とされていることから、本願発明の「繊維強化プラスチック」は軽量で高強度の材料であると解される。他方、上記〈ア〉及び〈ウ〉の記載から、引用発明の「軽量複合鋳物体5」は軽量で高強度の材料であるウィスカーを含むものである。してみれば、本願発明の「繊維強化プラスチック」と引用発明の「軽量複合鋳物体」とは、軽量で高強度の材料である点で共通する。

してみれば、本願発明と引用発明とは、
「フェースの背面側に空間を形成したアイアン系のゴルフクラブヘッドにおいて、
トウ,ヒール,ソール,トップブレード,フェースを金属材料で成形してヘッド本体となし、
ヘッド本体の背面部の中央部分に比較的大きな窓を形成し、
フェースの肉厚は最も薄く1.0mm?2mmに形成するとともに、ソールの最大厚み個所及びトップブレードの最大厚み個所をフェースよりも大きな厚みに形成し、
トウ側やヒール側にも重量を配分して周辺重量配分とし、
フェースの背後の空間に軽量で高強度の材料を充填したゴルフクラブヘッド。」
である点で一致し、以下の点でひとまず相違する。
〈相違点1〉
本願発明ではヘッド本体が「バックフェース」を有し、その「肉厚は最も薄く2mm以下に形成する」と特定されているのに対し、引用発明ではそのような特定がなされていない点。
〈相違点2〉
本願発明が「ソールの最大厚み個所を15?20mm、トップブレードの最大厚み個所を3?10mmに形成し」と特定されているのに対し、引用発明ではそのような特定がなされていない点。
〈相違点3〉
本願発明では空間に「繊維強化プラスチック」を充填したと特定されているのに対し、引用発明ではそのような特定がなされていない点。

4.判断
〈相違点1〉について
本願発明では「バックフェースの肉厚は最も薄く2mm以下に形成する」と特定されているのであるから、バックフェースの肉厚が0mm、すなわちバックフェースを有しないものも含まれると解される。そしてその場合、バックフェースの有無に関して本願発明と引用発明が相違するとはいえないのであるから、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明との実質的な相違点とはいえない部分を含んでいる。

他方、本願の出願前に頒布された刊行物であって、原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-319836号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の〈あ〉?〈お〉の記載が図示とともにある。
〈あ〉「【実施例】図1は本発明のアイアンタイプのゴルフクラブヘッドの一例を示す外観斜視図であり、図2?図4はそれぞれヘッドの内部構造を示すA-A′断面図である。中空構造の本体1は、ゴルフボールを打つためのフェースを有する打撃壁10,後部壁12及び打撃壁10の周囲と後部壁12の周囲をつなぐ側面壁(この例ではヘッドのソールを構成する壁11及びヘッドのトウを構成する壁13)により一体的に形成されている。……」(【0006】参照)
〈い〉「……また、図3に示す例では後部壁12に孔が設けられている。この孔を設けることにより、ヘッドのバランスをさらに容易に調節することが可能となる。……」(【0007】参照)
〈う〉「【0008】図5及び図6は、本発明のアイアンタイプのゴルフクラブヘッドの製造方法の一例を説明するための分解斜視図及びC-C′断面図である。第1段階では、打撃壁10で成る第1の要素と、ネック部3と一体化された側面壁11,13及び後部壁12から成る第2の要素5とを例えば鋳造により鋼材で別々に製造する。この鋳造の際に、側面壁11,13及び後部壁12と一体化させた形で中空側にウエイト6,7を製造することも可能である。これらのウエイト6,7はヘッドのトウ側及びヒール側に間隔をあけて配設されている。このようなウエイト6,7の配置により、ゴルファーがこのゴルフクラブをスウィングしたときの側面方向の慣性モーメントを高めることが可能となるので、スウィングを滑らかに行うことができると共に、スウィングが偏心してもその許容誤差を大きくとることができる。なお、ウエイトの配置は本発明においては任意とすることができる。
【0009】第2段階では、第1の要素(打撃壁)10を第2の要素5の周縁50に密接させて溶接する。ウエイト6,7は打撃壁10の中空側表面100から一定距離e1だけ離れており、ウエイト6,7とこの面100の間に形成される空間は、粘弾性樹脂の薄層4の保持手段として用いられる溝20の役割をなす。
【0010】第3段階では、膨張せずにその場で硬化反応する2成分から成る粘弾性樹脂を、反応射出成形法(RIM)により低圧又は重力を用いて後部壁12に設けられたオリフィス120から中空部分2に注入する。粘弾性樹脂は反応前においては低粘度の液状を呈しているので、注入された粘弾性樹脂は打撃壁10の中空側表面100上に自然に広がり、ほぼ一定の厚みの層を形成する。なお、粘弾性樹脂の注入中及び硬化中においては、ヘッドはそのまま水平に維持する。さらに、ヘッドを所定の角度で傾けた状態で粘弾性樹脂を注入・硬化することにより、ヘッドの所定の部分、例えばトウ又はヒールにおける粘弾性樹脂の薄層の厚みを厚くし、振動の減衰特性を向上させることができる。」(【0008】?【0010】参照)
〈え〉【図3】において、アイアンタイプのゴルフクラブヘッドの後部壁12に孔が設けられていることが看取できる。
〈お〉【図5】及び【図6】において、アイアンタイプのゴルフクラブヘッドの後部壁12に設けられたオリフィス120から、ヘッドの中空部分2に粘弾性樹脂が注入されることが看取できる。
これらの記載等から、引用例2には、アイアン系(「アイアンタイプ」)のゴルフクラブヘッドにおいて、ヘッド(「ヘッド本体」)にバックフェース(「後部壁12」)を設け、バックフェースに窓(「孔」または「オリフィス120」)を形成する点が記載されているといえる。
ここで、引用発明は「凹窪部6に軽量複合鋳物体5を充填した」と特定されており、上記〈キ〉に記載のように当該充填は凹窪部6の開口部を介して行われるものであるが、引用例2においては上記〈う〉及び〈お〉に記載のようにバックフェース(「後部壁12」)の窓「オリフィス120」)からヘッドの中空部分2(「空間」)に粘弾性樹脂を充填可能とされているものであるから、引用例2に記載の窓を有するバックフェースを引用発明に適用することを妨げる事情はなく、当該適用はヘッド本体の強度等を考慮して当業者が容易になし得る事項であるといえる。
また、引用発明においてフェースの肉厚が本願発明と重複する1.0?3.0mmに形成されていることを考慮すれば、バックフェースの肉厚もフェースと同程度となすことは、当業者が容易に想到し得る事項である。
このように、上記相違点1に係る本願発明の特定事項のうち、引用発明との実質的な相違点とはいえない部分を除いた部分については、引用発明及び引用例2に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得る程度の事項であるといえる。

〈相違点2〉について
本願発明では、「ソールの最大厚み個所を15?20mm、トップブレードの最大厚み個所を3?10mmに形成し」と特定されているものの、この点に関しては、請求人が審判請求書の【請求の理由】(平成18年6月26日付けで理由補充されている)において、
「トップブレード、ソール厚を見た目において通常の厚さとして違和感を与えないものでありながら、深く低い重心、大きな慣性モーメントを達成できるようになっているものである。」(【請求の理由】のうち「4.本願発明が特許されるべき理由」を参照)
と主張していることから、いずれの数値も当業者にとって周知である「通常の厚さ」の範囲内であると解される。
してみれば、たとえ具体的な数値が引用例1に記載されていないとしても、引用例1の記載からはソール及びトップブレードの最大厚み個所がフェース面7の板状部8よりも大きな厚みに形成されていることが少なくとも把握できるのであるから、それらの箇所の具体的な厚みを周知の「通常の厚さ」の範囲内とすることは、当業者が容易に想到し得る程度の事項であるといえる。
このように、上記相違点2に係る本願発明の特定事項は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得る程度の事項であるといえる。

〈相違点3〉について
例えば、本願の出願前に頒布された刊行物である実願平5-33357号(実開平7-1958号)のCD-ROMには、
「【0017】
そして、フェース部23には、その周縁部を残してフェース部23の形状と一致する凹部25が設けられており、当該凹部25内に、カーボンやガラス等の非金属繊維で強化された高弾性の繊維強化合成樹脂材からなるフェース材27が装着され、更に当該フェース材27の打球面側全面を覆って保護層29がフェース部23と面一に装着されている。
【0018】
保護層29は、フェース材27よりも硬度が高く、比重がヘッド本体17より小さく、厚さがフェース材27よりも薄い金属板で形成されており、その素材としては、ステンレス,チタン,アルミニウム,ベリリウム,リチウム、その他これら金属の合金等が用いられ、その外形は凹部25と略同一形状となっている。又、その表面には複数本のスコアライン溝30が形成されており、これらのスコアライン溝30によってボールにスピンを与えるようになっている。」(段落【0017】?【0018】参照)と記載されており、また【図2】において保護層29の背面側の凹部25にフェース材27が配置されていることが看取でき、
同じく本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭63-19169号公報には、
「この発明は、金属材料からなるヘッドの打球面部に繊維強化プラスチックス(以下、FRPと略記する)などの繊維強化部材を裏打ちしたゴルフ用アイアンクラブヘッドに関する。」(第1頁右欄第14行?第17行参照)と、また、
「最近、ゴルフ用アイアンクラブには……金属材料からなるヘッド本体とFRP、特にカーボン繊維を補強繊維とした高弾性率材料のCFRPと称されるカーボン繊維強化プラスチックスとを組合せ使用した複合構造を有するものが提案され、実用に供されている。」(第2頁左上欄第2行?第9行参照)と、さらに、
「第1図及び第2図は、この発明に係るゴルフ用アイアンクラブヘッドの第1実施例を示し、図中1は……金属材料からなるヘッド本体で、……このヘッド本体1の打球面部2に対応する打球方向の裏面側には、凹部4がほぼ全面に亘って形成され……さらに、図中5は、前記ヘッド本体の裏面側に形成した凹部4の打球面部2に対応する面4aに密着状態で接合し添設した繊維強化部材で、CFRPなどの高い弾性率材料からなり」(第2頁右下欄第2行?第18行参照)とそれぞれ記載されており、加えて、第2図において打球面部2の背面側の凹部4に繊維強化部材5が配置されていることが看取できる。
これらの記載等から、フェースの背面側に位置する空間に繊維強化プラスチックを配置することは、本願出願前に周知であるといえる。そして、引用発明において軽量で高強度の材料として使用されている軽量複合鋳物体に代えて、かかる周知の繊維強化プラスチックを採用することは、当業者が容易に想到し得る事項である。
このように、上記相違点3に係る本願発明の特定事項は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得る程度の事項であるといえる。

以上のように、上記相違点1に係る本願発明の特定事項は、実質的には相違点といえない事項であるか、あるいは引用発明及び引用例2に記載の技術事項に基づいて当業者が想到容易な事項であり、また上記相違点2乃至相違点3に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が想到容易な事項であって、かかる発明特定事項を採用したことによる本願発明の効果も当業者が容易に予測し得る程度のものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用例2に記載の技術事項、及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-05 
結審通知日 2008-08-07 
審決日 2008-08-20 
出願番号 特願平8-65456
審決分類 P 1 8・ 572- Z (A63B)
P 1 8・ 121- Z (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鉄 豊郎  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 菅野 芳男
坂田 誠
発明の名称 ゴルフクラブヘッド  
代理人 増田 竹夫  

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