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審決分類 審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 C03B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C03B
管理番号 1185617
審判番号 不服2005-16439  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-08-26 
確定日 2008-10-06 
事件の表示 平成 8年特許願第145163号「離型膜形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年11月25日出願公開、特開平 9-301722〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯

本願は、平成 8年 5月14日に特許出願がなされ、平成11年11月29日に手続補正書の提出がなされ、平成14年 4月26日付けで拒絶理由の通知がなされ、平成14年 6月28日に意見書及び手続補正書の提出がなされ、平成14年10月16日付けで拒絶理由の通知がなされ、平成14年12月20日に意見書及び手続補正書の提出がなされ、平成16年9月28日付けで拒絶理由の通知がなされ、平成16年11月24日に意見書及び手続補正書の提出がなされ、平成17年 7月20日付けで拒絶査定がなされ、平成17年 8月26日に審判請求がなされ、平成17年 9月21日に手続補正書の提出がなされ、平成17年10月17日に審判請求書の請求の理由の補正がなされたものである。

II.平成17年 9月21日の手続補正に対する判断

平成17年 9月21日の手続補正の手続補正1は、補正前の請求項1を削除し、その請求項3を補正後の請求項1とする補正である。
この手続補正1は、請求項の削除を目的とするものであり、明細書の記載の範囲内のものである。
同じく手続補正2は補正前の【0008】の記載を手続補正1に整合するように補正するもので、明細書の記載の範囲内のものである。
したがって、平成17年 9月21日の手続補正は妥当なものであり、平成18年改正前特許法第17条の2の規定に違反するものではなく、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものではない。

III.対比・判断

(1)本願発明

平成17年 9月21日の手続補正は妥当なものであるので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成17年 9月21日付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】光学素子のプレス成形に使用する、上型、下型および胴型からなる成形用金型に離型膜を形成する方法において、
前記上型および下型の少なくとも成形面に単層のTiAlN膜を形成し、該TiAlN膜を、中心線平均粗さが略1nm以下の鏡面となるように、直径が0.1μm以下のダイヤモンド砥粒を含んだ研磨剤を用い、前記成形用金型を回転させながら、研磨することを特徴とする離型膜形成方法。」

(2)本願出願前に頒布された刊行物の記載

(2-1)原査定における引用文献1:特開平3-153533号公報
(い)「特許請求の範囲
1.ガラスよりなる光学素子のプレス成形に用いる光学素子成形用型において、型母材の少なくとも成形面に、複窒化膜が被覆されていることを特徴とする光学素子成形用型。
2.複窒化膜を構成する金属が、5?95atom%のアルミニウム(Al)と、・・・、チタン(Ti)、・・・からなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1記載の光学素子成形用型。」(第1頁左下欄4?15行)、
(ろ-1)「型母材の材料としては、例えば超硬合金や焼結SiCを用いることができる。」(第2頁左下欄16?17行)
(ろ-2)「このようにして被覆された複窒化膜は、高温での耐酸化性も高いのでガラスとの融着性が低く離型性が良好であるので、繰返し使用しても良好な精度の光学素子を得ることができる。」(第2頁右下欄12?15行)
(ろ-3)「複窒化膜を構成する金属がアルミニウムと上記他の金属である場合、成形が行なわれる高温において膜表面部分の窒化アルミニウムが雰囲気ガス及びガラスと反応、酸化されて酸化アルミニウム(・・・)になる。しかし、生成したAl_(2)O_(3)は・・・他の酸化物より硬いため、・・・膜表面の硬度低下は少なく、膜の耐傷性は良好に保たれる。更に、生成したAl_(2)O_(3)は・・・ガラスと融着を起こしにくい。
また、複窒化膜中に窒化アルミニウムが存在すると、残りの窒化物が酸化されにくくなる。」(第2頁右下欄16行?第3頁左上欄10行参照)、
(は)「複窒化膜が被覆された型の製造:
型母材は、・・・所定の形状に加工され、レンズ成形面が鏡面加工されている。該型母材の成形面に複窒化膜を被覆して、以下の通り本発明による型を製造した。・・・No.1及びNo.2については、・・・反応性スパッタリング法により型母材の成形面上に窒化アルミチタン(TiAlN)膜を形成した。」(第3頁右上欄18行?同頁左下欄11行参照)、
(に)「得られた窒化アルミチタン層の厚さは1μmであった。」(第4頁左上欄18?19行)、
(ほ)「複窒化膜被覆型によるレンズのプレス成形:
このよにして得られた型を用いて第4図に示す成形装置によりレンズの成形試験を行った。
・・・53は光学素子を成形する為の上型、54はその下型、・・・56は胴型、・・・を示す。」(第4頁右上欄12行?同頁左下欄5行参照)、
(へ)「以上の様なプレス成形(n=5000)の前後における型部材53(上型)、54(下型)の成形面の表面粗さ及び成型された光学素子の光学面の表面粗さ、ならびに成形光学素子と型部材53、54との離型性について表1に示す。」(第4頁右下欄12?16行)、
(と)母材材料を超硬合金とし、被覆を窒化アルミチタンとしたNo.1の成形前型部材の成形前の表面粗さRmaxは0.03μmであり、母材材料を焼結SiCとし、被覆を窒化アルミチタンとしたNo.2の成形前型部材の成形前の表面粗さRmaxは0.06μmであること、および、No.1、No.2ともに離型性が良好であることを示す表(第5頁左上欄の表1参照)、
(ち)「上記実施例では、PVD法やCVD法で型母材上に形成された複窒化膜をそのまま用いているが、該方法により複窒化膜を比較的厚く形成しておき、その後表面を鏡面研磨して用いることもできる。」(第5頁左下欄12?16行)、
(り)前記(ほ)の内容を示す図面(第8頁第4図)。

(2-2)原査定における引用文献2:特開平6-199530号公報
(ぬ)「 【発明の名称】光学ガラス素子のプレス成形用型及びこれを用いた光学ガラス素子の製造方法」(第1頁下欄)、
(る)「直径20mm、厚さ5mmのWCを主成分とする超硬合金を曲率半径がそれぞれ46mm及び200mmの凹面形状のプレス面を有する上下の型からなる一対の光学ガラスレンズのプレス成形用型に加工した。これらの型のプレス面を超微細なダイヤモンド砥粒を用いて鏡面に研磨した。次に、この鏡面上にスパッタ法により3μmの厚みでTa-Pt、Rh、Ir、Ru、Os、Re、W、Pd合金薄膜をそれぞれコーティングしてプレス成形用型を作製した。」(第3頁右欄、段落番号0016参照)、
(を)試料番号2,3のプレス前の表面粗さ(RMS、Å)が10.5、10.1であり、プレス後の表面粗さが255.6、105.4であるとする「表1」(第3頁右欄49行?第4頁上欄の段落番号0020参照)、
(わ)「【0022】 また、試料No.2及び3のようにPtまたはIrスパッタ膜でコーティングした型では、ガラスの付着は起こらないが、10000回プレス後には、表面粗さ(RMS値)でそれぞれ255.6 オングストローム、105.4 オングストロームと非常に粗くなり、表面が白濁し実用的でないことがわかる。」(第4頁)、
(か)試料番号4?43のプレス前の表面粗さ(RMS、Å)が9.7?10.5であり、プレス後の表面粗さが9.8?37.8であり、いずれもプレス後の表面状態は良好とする「表2」?「表5」(第4?5頁の段落番号0023?0026参照)、

(2-3)原査定における引用文献3:特開平5-294642号公報
(よ)「型のプレス面を超微細なダイヤモンド砥粒を用いて鏡面に研磨した。次に、この鏡面状に研磨したプレス面にスパッタリング法によって多層膜を形成した。」(第3頁左欄の段落0011参照)、
(た)本発明の型のプレス前の表面粗さ(rms値、Å)が、上型が9.9Åで、下型が10.3Åであるとする「表1」(第3頁段落0017参照)

(3)本願発明と刊行物に記載の発明との比較・検討

原査定における引用文献1には、(い)に「1.ガラスよりなる光学素子のプレス成形に用いる光学素子成形用型において、型母材の少なくとも成形面に、複窒化膜が被覆されていることを特徴とする光学素子成形用型。」と記載され、(ち)に「・・・複窒化膜を比較的厚く形成しておき、その後表面を鏡面研磨して用いることもできる。」と記載されているから、光学素子のプレス成形に用いる光学素子成形用型の少なくとも成形面に複窒化膜を形成し、その後表面を鏡面研磨して光学素子成形用型とすることが記載されている。
そして、前記複窒化膜について、(は)には「型母材の成形面に複窒化膜を被覆して、以下の通り本発明による型を製造した。・・・No.1及びNo.2については、・・・反応性スパッタリング法により型母材の成形面上に窒化アルミチタン(TiAlN)膜を形成した。」と記載されていることからして「TiAlN膜」が記載されているといえ、そして、(ち)に「上記実施例では、PVD法やCVD法で型母材上に形成された複窒化膜をそのまま用いている」と記載されているから、そのまま用いる例である前記(は)のNo.1及びNo.2の複窒化膜は単層のTiAlN膜であるといえ、(ろ-2)に「このようにして被覆された複窒化膜は、高温での耐酸化性も高いのでガラスとの融着性が低く離型が良好であるので、」と離型性が良好である旨が記載されていることからして、前記複窒化膜は、離型膜である。
また、前記「光学素子成形用型」は、(ほ)の「複窒化膜被覆型によるレンズのプレス成形:・・・53は光学素子を成形する為の上型、54はその下型、・・・56は胴型、・・・を示す。」および(り)の図面の記載から、上型、下型および胴型からなるものといえ、(ろ-1)に「型母材の材料としては、例えば超硬合金や焼結SiCを用いる」と記載され(と)に「母材材料を超硬合金とする」ことが表1に記載されている旨が記載されていることからして、前記「光学素子成形用型」は、金型であるといえる。
してみると、原査定における引用文献1には、
「光学素子のプレス成形に用いる、上型、下型および胴型からなる光学素子成形用金型に離型膜を形成する方法であり、少なくとも成形面に、単層のTiAlN膜を形成し、その後表面を鏡面研磨する方法。」(以下、「引用文献1発明」という。)が記載されている。
そこで、本願発明と引用文献1発明とを対比すると、後者の「光学素子成形用金型」は前者の「成形用金型」に相当し、後者の「表面を鏡面研磨する」は、前者の「TiAlN膜を鏡面となるように研磨する」に相当し、記載事項(へ)及び(と)から上型53と下型54の成形面に離型膜が形成されることがわかることからして、後者の「少なくとも成形面」は「上型および下型の少なくとも成形面」に相当するといえることからして、両者は、
「光学素子のプレス成形に使用する、上型、下型および胴型からなる成形用金型に離型膜を形成する方法において、
前記上型および下型の少なくとも成形面に単層のTiAlN膜を形成し、該TiAlN膜を鏡面となるように研磨することを特徴とする離型膜形成方法。」である点で一致し、

(A)表面粗さについて、本願発明では、「中心線平均粗さが略1nm以下」とするのに対して、引用文献1発明ではこのことの記載がない点、

(B)研磨について、本願発明では、「直径が0.1μm以下のダイヤモンド砥粒を含んだ研磨剤を用い、前記成形用金型を回転させながら、研磨」
としているのに対して、引用文献1発明ではこのことの記載がない点、

で相違している。

以下、相違点について検討する。

相違点(A)について

原査定における引用文献1には、(と)に、TiAlN膜の表面粗さについて、Rmaxで「0.03μm」および「0.06μm」が記載されるものの、この値は、(は)の「型母材の成形面に複窒化膜を被覆して、以下の通り本発明による型を製造した。・・・No.1及びNo.2については、・・・反応性スパッタリング法により型母材の成形面上に窒化アルミチタン(TiAlN)膜を形成した。」との記載、および(ち)の「上記実施例では、PVD法やCVD法で型母材上に形成された複窒化膜をそのまま用いている」との記載から、表面を鏡面研磨しない複窒化膜の表面粗さであり、表面研磨した後の複窒化膜の表面粗さを示すものでないうえに、Rmaxの「0.03μm」および「0.06μm」という値も、Rmaxが中心線平均粗さと異なるものであり、「0.03μm」および「0.06μm」という数値が1nm以下とは大きく異なるものであるから、研磨した複窒化膜の表面粗さを「中心線平均粗さが略1nm以下」にすることを示唆しない。
しかし、原査定における引用文献2には、(ぬ)で示されるように、
引用文献1発明と同様、光学素子をプレス成形する際に使用する成形用型において、(る)で示されるように、型として、プレス面に薄膜をコーティングしたものを使用すること、その際に、コーティングした表面の粗さを、(を)及び(わ)で示されるように、「RMS」で表記して「255.6Å」および「105.4Å」とすると、「非常に粗く」、「表面が白濁し実用的でない」ものが得られるとの考えのもとに、(か)で示されるように、RMSを「9.7?10.5」Åとすることが記載され、原査定における引用文献3にも、(た)で示されるように、引用文献1発明と同様、光学素子をプレス成形する際に使用する成形用型において、上型及び下型の表面粗さをrms(前記「RMS」と同義と解される。)で9.9Åおよび10.3Åとすることが記載されており、したがって、原査定における引用文献2、3には、光学素子のプレス成形用型におけるコーティング薄膜の表面粗さは、小さいことが好ましく、実用的という観点で、RMS値を「9.7?10.5」Åとすることが記載されている。
してみると、引用文献1発明で得られる型を、光学素子の成形用型としてさらに好ましく、「実用的」なものにするという観点のもとに、研磨後のTiAlN膜の表面粗さを、原査定における引用文献2、3で示されるRMS値「9.7?10.5」Å程度、または、それ以下となるようにすることは、当業者が容易に想到できたことである。
そして、研磨後のTiAlN膜の表面粗さをRMS値「9.7?10.5」Å程度以下にすることは、「中心線平均粗さ略1nm以下」にすることと少なくとも重複する内容である。
してみると、相違点(A)に係る本願発明の構成は、当業者が原査定における引用文献1?3に記載された発明に基づき容易に想到できた構成にすぎない。

相違点(B)について

引用文献1発明は、前記(ち)に記載されるように、光学用素子の製造用型を鏡面研磨するものであるところ、原査定における引用文献2,3には、前記(る)、(よ)に記載されるように、光学用素子の製造用型の製造において、その鏡面研磨に、超微細なダイヤモンド砥粒を用いることが記載されている。
したがって、引用文献1発明における研磨を超微細なダイヤモンド砥粒を用いて行うことは当業者が容易に想起できることである。
そして、本願発明における「直径が0.1μm以下」は、本願明細書中に、「0.1μm以下のダイヤモンド砥粒」の具体例や入手方法が記載されていないから、ダイヤモンド砥粒としては周知のものを使用すると解されるところである。
してみると、相違点(B)の「直径が0.1μm以下のダイヤモンド砥粒を含んだ研磨剤を用い、研磨」の点は、前記した、超微細なダイヤモンド砥粒を用いて研磨することが当業者に容易に想起できたことであるとする理由と同様に、当業者が原査定における引用文献1?3に記載の発明に基づいて容易に想到できたことである。
また、光学用素子を製造するための型を研磨するに際して、均一な研磨を行うべく型を回転させることは、本出願前に周知である(必要ならば、特開平7-100751号参照)から、相違点(B)の「成形用金型を回転させながら、研磨」の点は格別のことでない。
よって、相違点(B)に係る本願発明の構成は、当業者が原査定における引用文献1?3に記載された発明に基づき容易に想到できたことである。

(4)効果について

本願発明の耐久性、耐酸化性、耐熱性、鏡面性、離型性に係る効果は、原査定における引用文献1の(ろ-3)の「複窒化膜を構成する金属がアルミニウムと上記他の金属である場合、成形が行われる高温において膜表面部分の窒化アルミニウムが雰囲気ガス及びガラスと反応、酸化されて酸化アルミニウム(・・・)になる。しかし、生成したAl_(2)O_(3)は・・・他の酸化物より硬いため、・・・膜表面の硬度低下は少なく、膜の耐傷性は良好に保たれる。更に、生成したAl_(2)O_(3)は・・・ガラスと融着を起こしにくい。また、複窒化膜中に窒化アルミニウムが存在すると、残りの窒化物が酸化されにくくなる。」との記載、および、本願発明の構成から予期される効果にすぎず、格別顕著な効果が奏されているとは認められない。

(5)むすび

したがって、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物である原査定における引用文献1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

IV.むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、本願の出願日前に頒布された刊行物である原査定における引用文献1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものであり、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-01 
結審通知日 2008-08-07 
審決日 2008-08-20 
出願番号 特願平8-145163
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C03B)
P 1 8・ 571- Z (C03B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 靖寺本 光生  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 小川 慶子
斎藤 克也
発明の名称 離型膜形成方法  
代理人 川野 宏  

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