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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1185637
審判番号 不服2007-5117  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-02-16 
確定日 2008-10-06 
事件の表示 特願2002-159400「光ヘッド装置の製造方法および光ヘッド装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月 8日出願公開、特開2004- 5823〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件審判の請求に係る特許願(以下「本願」という。)は、平成14年5月31日に出願されたものであって、平成18年6月12日付けで手続補正されたものの平成19年1月17日付付けで拒絶すべきものである旨の査定がされた。
そして、平成19年2月16日付けで拒絶査定不服審判が請求され、平成19年3月16日付けで手続補正され、平成20年6月5日付けで審尋通知がされ、該審尋通知を踏まえ平成20年6月20日に面接をしたものである。

本願請求項1?6に係る発明は、平成18年6月12日付け手続補正書の明細書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとものと認められるところ、請求項1に係る発明は以下のとおりである。
「【請求項1】 レーザ発光素子と、該レーザ発光素子から出射されたレーザ光を反射して対物レンズに導く反射ミラーと、前記対物レンズをフォーカシング方向およびトラッキング方向に駆動する対物レンズ駆動装置と、光記録媒体からの戻り光を受光する受光素子と、該受光素子、前記レーザ発光素子、前記反射ミラーおよび前記対物レンズが搭載されたフレームとを有し、前記フレームに対して面接触する取り付け部材を介して前記レーザ発光素子を前記フレームに搭載する際、あるいは搭載した後、当該レーザ発光素子からレーザ光を出射し、そのモニター結果に基づいて、前記反射ミラーの光軸上の位置あるいは傾きを調整することにより前記対物レンズに導かれるレーザ光束の光強度分布を調整する光ヘッド装置の製造方法において、
前記フレームは金属製であり、
前記取り付け部材は金属製であり、前記フレームに面接着されるプレートと、前記レーザ発光素子を保持した状態で前記プレートを介して前記フレームに搭載される素子ホルダとを備え、
前記素子ホルダと前記プレートとは、前記フレームに対する前記レーザ発光素子の出射光軸の傾きを切り替え可能な摺動曲面を介して接しており、
前記素子ホルダは前記プレートに対して光軸と直交する方向の内側に配置されており、
前記フレームに対して前記取り付け部材を介して前記レーザ発光素子を搭載する際、前記摺動曲面において前記プレートに対して前記素子ホルダを摺動させて前記レーザ発光素子の出射光軸の傾きを調整することにより前記対物レンズに導かれるレーザ光束の光強度分布を調整することを特徴とする光ヘッド装置の製造方法。」(以下「本願発明」という。)

2.刊行物及びその記載
原査定の拒絶理由に引用された刊行物である実願昭62-18862号(実開昭63-129218号)のマイクロフィルム(以下「刊行物1」という。)は、光ピックアップに関するものであって以下の記載がある。(下線は当審での付与。)
(2-1)「3.考案の詳細な説明
[技術分野]
本考案は、光ディスク等の光記憶媒体に形成されている記録トラックに、光ビームを位置決めする光ピックアップに関する。
[従来技術]
近年、光記憶媒体をディスク状に構成した光ディスクを記憶媒体として用いる光ディスク記憶装置が提案されている。この光ディスクには、そのデータ記憶面に、例えばトラック幅が1μm程度でトラックピッチが2μm程度の微細な構造の記録トラックが形成されており、この記録トラックにスポット径が1μm程度のレーザピームを照射する。
そして、光ディスクを回転駆動しながら、レーザピームの強度を記録するデータに対応して変調することでデータを記憶し、また、レーザビームのデータ記憶面からの反射光のレベルの変動を検出することで記憶したデータを再生している。
このように、レーザビームを記録トラックに追従するとともに、そのスポット径を所定の大きさに絞り、さらに、再生信号を形成する部分が、光ピックアップであり、その概略構成例を第5図に示す。なお、この光ピックアップは、ナイフエッジ法によって、レーザピームの焦点を合せるものであり、一体的に構成されて全体が光ディスクの半径方向に移動される。
同図において、レーザダイオード(半導体レーザ素子)1から出力されたレーザ光は、カップリングレンズ2によって平行光(以下、レーザビームという )に変換され、偏光ビームスプリッタ3を透過し、1/4波長板4によって偏光されたのちに、対物レンズ5によって絞られ、光ディスク6の記録トラックに結像される。
この光ディスク6からの反射光は、再度対物レンズ5を介して平行光に変換されたのちに、1/4波長板4によってさらに偏光されて偏光面が変えられ、これにより、偏光ビームスプリッタ3によってレンズ7の方向に反射される。
レンズ7を通過した光束は、その半分がナイフエッジをなすプリズム8によって反射され、同図(b)に示すように、トラッキング方向Tに受光面が2分割されているトラックサーボ用の受光素子9に結像され、それ以外の部分はプリズム8の端緑と直角方向に受光面が2分割されているフォーカスサーボ用の受光素子10に結像される。
また、対物レンズ5には、この対物レンズ5を光ディスク6の半径方向に位置決めするためのトラツキング機構と、焦点を合せるためのフォーカシング機構が付設されている。なお、以下、このトラッキング機構とフォーカシング機構を合わせて対物レンズ移動機構という。
そして、図示しないサーボ制御部により、受光素子9の出力信号に基づいて記録トラック上におけるレーザビームの位置誤差(トラッキングエラー)が検出されるとともに受光素子10の出力信号に基づいてレーザビームの焦点誤差が検出され、それらの誤差に応じてトラッキング機構およびフオーカシンク機構が制御されて、記録トラック上における レーザビームの位置ずれおよび焦点ずれを小さくする方向に対物レンズ5が移動される。また、受光素子9の出力信号から記録データが取り出される。
このような光ピックアップでは、例えばオートコリメータ等の測定器を使用し、レーザダイオード1およびカップリングレンズ2の光軸が一致するように、3次元的に調整しながら組み立てる。
ところが、従来、光学部品の光学的な誤差、および、機構的な誤差により、光軸がトラッキング方向にずれるという不都合を生じていた。」(1頁14?5頁2行)
(2-2)「[目的]
本考案は、かかる従来技術の不都合を解消するためになされたものであり、光軸のトラッキング方向へのずれを除去できる光ピックアップを提供することを目的とする。」(5頁3?7行)
(2-3)「[構成]
本考案は、この目的を達成するために、光ビームを発生する光ビーム発生ユニットを筐体と独立して構成するとともに、その光ビーム発生ユニットをトラッキング方向に調整可能に筐体に取り付けたものである。
以下、添付図面を参照しながら、本考案の実施例を詳細に説明する。
第1図およびは、本考案の一実施例にかかる光ピックアップの構成例を示す。なお、この光ピックアップの基本的な構成は、第5図(a),(b)に示したものと同一である。
図において、光ピックアップの筐体20は、偏光ビームスプリッタ3およびレンズ7を収納する部屋20a、プリズム8および受光素子9を収納する部屋20b、受光素子10を収納する部屋20c、および、対物レンズ移動機構(図示略)を取り付けるために部屋20aの外側に設けられたベース20dからなり、おのおのの部屋20a,20b,20cは、光束を通過させるための孔によって連絡されている。
また、ベース 20dには、偏光ビームスプリッタ3を透過したレーザビームを、ベース20dから立ち上げられた態様に取り付けられる対物レンズ移動機構30(第3図参照)に案内するための偏光プリズム 21が配設されている。
一方、レーザダイオード1およびカップリングレンズ2は、円筒の両端に緑を設けた構成のホルダ22に一体的に取り付けられる。第2図に示すように、レーザダイオード1は、取付板23に取り付けられた状態でホルダ22の一方の縁22aにネジ止めされる。カップリングレンズ2は、鏡筒24に収納された状態で、ホルダ22の円筒部に挿入され、ネジで固定される。またその取り付けられた状態では、鏡筒24の先端部が所定寸法ホルダ22から突出する。なお、第2図は、全てのネジ止めの様子がわかるように断面したものである。
また、ホルダ22に取り付けるネジを通すために取付板23に穿設されているネジ孔23a,23bは、レーザダイオード1とカップリングレンズ2の光軸合わせの調整のために、取付板23を2次元的に移動できるよう、挿入されるネジの径よりもその調整幅に対応して大きい寸法に形成されている。
このホルダ22は、他方の緑22bが部屋20aの外側からネジ止めされて筐体20に取り付けられる。また、その取付位置に対応して、筐体20にはレーザビームのトラッキング方向に延びる長穴20eが穿設されており、この長穴20eに鏡筒24が嵌合した状態で、ホルダ22を長穴20eの長手方向に移動できる。また、長穴20eにおける鏡筒24の位置を調整できるように、筐体20に取り付けるネジを通すために縁22bに穿設されているネジ孔22c,22dは、挿入されるネジの径よりもその調整幅に対応して大きい寸法に形成されている。
以上の構成で、この光ピックアップを組み立てるときの光軸調整は、次のように行なうことができる。
まず、ホルダ22にカップリングレンズ2を収納した鏡筒24を取り付け、レーザダイード1の光軸がカップリングレンズ2の光軸に一致するようにオートコリメータ等の測定器を用いて視察しながら、取付板23の位置を調整し、光袖が合ったところで固定する。
次に、対物レンズ移動機構30に代えて、第4図に示すような治具40をベース20dに取り付ける。この治具40は、トラッキング方向Tに2分割されている受光素子41を、取付部材42に取り付けたもので、ベース20dに冶具40を取り付けたときに、光軸が受光素子41の分割線に一致するように、受光素子41が位置決めされている。なお、この受光素子41の位置決めは、顕微鏡で観察しながら数μm程度の精度で行なうことができる。
そして、ホルダ22を筐体20に仮止めしてレーザダイオード1を点灯駆動する。このとき、治具40の受光素子41の2つの出力が同一になるように測定器で観察しながら、長穴20eでのホルダ22の位値を調整する。
これにより、光学部品の光学的誤差および機構的な誤差が原因となるトラッキング方向の光軸ずれを解消することができる。
このようにして、本実施例では、レーザビームの光軸がトラッキング方向にずれることを防止できるので、トラックサーボ用の受光素子9の検出信号にオフセット成分を含むことを防止でき、その結果、トラックサーボ制御を適切に行なうことができる。
なお、上述した実施例では、ナイフエッジ法によってレーザビームの焦点を合せを行なっているが、これ以外の方法でレーザビームの焦点を合せる機構の光ピックアップにも、本考案を同様に適用できる。」(5頁8行?9頁17行)

以上の摘示事項及び各図面等を総合勘案して整理すると、刊行物1には以下の発明が記載されているものと認める。(なお、記号は図面と対応するために残した。)
「レーザダイオード(半導体レーザ素子)1から出力されたレーザ光は、カップリングレンズ2によって平行光に変換され、偏光ビームスプリッタ3を透過し、偏光ビームスプリッタ3を透過したレーザビームを偏光プリズム21で対物レンズ異動機構30に案内し、1/4波長板4によって偏光され、対物レンズ5によって絞られ光ディスク6の記録トラックに結像され、
光ディスク6からの反射光は、再度対物レンズ5を介して平行光に変換されたのち、1/4波長板4によってさらに偏光されて偏光面が変えられ、偏光ビームスプリッタ3によって反射され、トラッキング方向Tに受光面が2分割されているトラックサーボ用の受光素子9に結像され、それ以外の光速はフォーカスサーボ用の受光素子10に結像されることにより、
対物レンズ5を光ディスク6の半径方向に位置決めするトラツキング機構と、焦点を合せるフォーカシング機構が付設されている光ピックアップにおいて、
光ピックアップは、偏光ビームスプリッタ3およびレンズ7を収納する部屋20a、プリズム8および受光素子9を収納する部屋20b、受光素子10を収納する部屋20c、および、対物レンズ移動機構を取り付けるために部屋20aの外側に設けられたベース20dからなる筐体20であり、
レーザダイオード1およびカップリングレンズ2は、円筒の両端に緑を設けた構成のホルダ22に一体的に取り付けられ筐体20に固着され、レーザダイオード1は、取付板23に取り付けられた状態でホルダ22の一方の縁22aにネジ止めされ、ホルダ22に取り付けるネジを通すために取付板23に穿設されているネジ孔23a,23bは、レーザダイオード1とカップリングレンズ2の光軸合わせの調整のために、取付板23を2次元的に移動できるよう、挿入されるネジの径よりもその調整幅に対応して大きい寸法に形成されていることで記録トラックに光ビームを位置決め調整する光ピックアップの製造方法。」(以下「刊行物1発明」という。)

同じく原査定の拒絶理由に引用された刊行物である特開平2-220228号公報(以下「刊行物2」という。)は光学ヘッドに関するものであって、従来技術として以下の記載がある。
(2-4)「光学ヘッド3は、第5図に示すように、対物レンズ5と、光源である半導体レーザ6と、コリメータレンズ7と、偏光プリズム8と、四分の一波長板9と、対物レンズ5をフォーカス方向及びトラッキング方向に駆動する磁気回路を構成した、例えばムービングコイル型のアクチエエータ10と、プリズム11と、検出レンズ12と、フォーカス検出器13と、トラッキング誤差信号及び再生信号兼用検出器14と、これらの部品を取付けるヘッド本体15等を有している。通常、前記半導体レーザ6はヘッド本体15に直接取付けられ、そのヘッド本体15は、半導体レーザ6の発生する熱を放散させるため放熱効果の高い材料で作られている。」(1頁右下欄12行?2頁左上欄4行)
(2-5)「また、レーザ寿命の問題から、ヘッド本体材料として放熱効果の高い材料(アルミニウム等)を使用せざるを得ないため、より比重の面で有利な樹脂等を使用できなかった。」(2頁左下欄9?12行)


3.対比・判断
本願発明と刊行物1発明とを対比する。
〔対比〕
(i)刊行物1発明の「レーザダイオード(半導体レーザ素子)1」「対物レンズ5」は、本願発明の「レーザ発光素子」「対物レンズ」に相当する。そして、刊行物1発明の「偏光プリズム 21」は“ベース20dから立ち上げられた態様に取り付けられる対物レンズ移動機構30(第3図参照)に案内する”(上記(2-3)参照)から、本願発明の「対物レンズに導く反射ミラー」に相当する。
(ii)刊行物1発明の「対物レンズ5を光ディスク6の半径方向に位置決めするトラツキング機構と、焦点を合せるフォーカシング機構が付設」は、本願発明の「対物レンズをフォーカシング方向およびトラッキング方向に駆動する対物レンズ駆動装置」に相当する。
(iii)刊行物1発明の「トラックサーボ用の受光素子9」及び「フォーカスサーボ用の受光素子10」は、本願発明の「光記録媒体からの戻り光を受光する受光素子」に相当する。
(iv)刊行物1発明の“偏光ビームスプリッタ3およびレンズ7を収納する部屋20a、プリズム8および受光素子9を収納する部屋20b、受光素子10を収納する部屋20c、および、対物レンズ移動機構を取り付けるために部屋20aの外側に設けられたベース20d”(上記(2-3)参照)からなる「筐体20」は、本願発明の「受光素子、レーザ発光素子、反射ミラーおよび対物レンズが搭載されたフレーム」に相当する。
(v)刊行物1発明の「レーザダイオード1およびカップリングレンズ2は、円筒の両端に緑を設けた構成のホルダ22に一体的に取り付けられ筐体20に固着」について、レーザダイオードの取付部材であるホルダ22は他方の縁22bが筐体20に対して面接触しており、「レーザダイオード1を取り付ける取付板23」とで、本願発明に対応する「取り付け部材」を構成し、さらに本願発明の「フレームに対して面接触する取り付け部材を介してレーザ発光素子をフレームに搭載」で共通していることは、第1図及び第2図からも明らかである。
(vi)刊行物1発明の「記録トラックに光ビームを位置決め調整」する構成であるが、上記(2-3)によれば、「光ピックアップを組み立てるときの光軸調整は、次のように行なうことができる。」(8頁1?2行)としているから、「組み立てるとき」とは本願発明の『レーザダイオードを筐体に取付ける際、あるいは取り付けた後』のタイミングと共通し、また「まず、ホルダ22にカップリングレンズ2を収納した鏡筒24を取り付け、レーザダイード1の光軸がカップリングレンズ2の光軸に一致するようにオートコリメータ等の測定器を用いて視察しながら、取付板23の位置を調整し、光袖が合ったところで固定する。次に、対物レンズ移動機構30に代えて、第4図に示すような治具40をベース20dに取り付ける。この治具40は、トラッキング方向Tに2分割されている受光素子41を、取付部材42に取り付けたもので、ベース20dに冶具40を取り付けたときに、光軸が受光素子41の分割線に一致するように、受光素子41が位置決めされている。」「そして、ホルダ22を筐体20に仮止めしてレーザダイオード1を点灯駆動する。このとき、治具40の2つの出力が同一となるように測定器で観察しながら、長穴20eでのホルダ22の位置を調整する」と記載しており、上記後者の位置決め調整手段はレーザダイオードからレーザ光を実際に出射状態下として光軸ずれを解消するもので光軸ずれの調光は光強度分布の調整」であるから、これは本願発明の「レーザ発光素子をフレームに搭載する際、あるいは搭載した後、当該レーザ発光素子からレーザ光を出射し、そのモニター結果に基づいて、反射ミラーの光軸上の位置を調整」「対物レンズに導かれるレーザ光束の光強度分布を調整」することと共通する。
(vii)刊行物1発明の「レーザダイオード1およびカップリングレンズ2は、円筒の両端に緑を設けた構成のホルダ22に一体的に取り付けられ筐体20に固着され、レーザダイオード1は、取付板23に取り付けられた状態でホルダ22の一方の縁22aにネジ止めされ取付板23」であるが、筐体に面接触される「ホルダ22」及びレーザダイオード1を保持した状態で上記ホルダを介して筐体20に搭載する「取付板23」は、第1図及び第2図も参酌して、本願発明の「プレート」及び「素子ホルダ」に相当する。
(viii)刊行物1発明の「ホルダ22に取り付けるネジを通すために取付板23に穿設されているネジ孔23a,23bは、レーザダイオード1とカップリングレンズ2の光軸合わせの調整のために、取付板23を2次元的に移動できるよう、挿入されるネジの径よりもその調整幅に対応して大きい寸法に形成」は「記録トラックに光ビームを位置決め調整」のであり、素子ホルダとプレート間との摺動面であるとの特定のあえてない本願発明の「素子ホルダとプレートとは、フレームに対するレーザ発光素子の出射光軸を切り替え可能な摺動面を介して接しており、
フレームに対して取り付け部材を介してレーザ発光素子を搭載する際、摺動面においてプレートに対して素子ホルダを摺動させてレーザ発光素子の出射光軸を調整することにより対物レンズに導かれるレーザ光束の光強度分布を調整」に相当する。
(ix)刊行物1発明の「光ビームを位置決め調整する光ピックアップの製造方法」は、本願発明の「光ヘッド装置の製造方法」で共通する。

結局のところ、本願発明と刊行物1発明との[一致点]及び[相違点]は以下のとおりである。

[一致点]
「レーザ発光素子と、該レーザ発光素子から出射されたレーザ光を反射して対物レンズに導く反射ミラーと、前記対物レンズをフォーカシング方向およびトラッキング方向に駆動する対物レンズ駆動装置と、光記録媒体からの戻り光を受光する受光素子と、該受光素子、前記レーザ発光素子、前記反射ミラーおよび前記対物レンズが搭載されたフレームとを有し、前記フレームに対して面接触する取り付け部材を介して前記レーザ発光素子を前記フレームに搭載する際、あるいは搭載した後、当該レーザ発光素子からレーザ光を出射し、そのモニター結果に基づいて、前記反射ミラーの光軸上の位置を調整することにより前記対物レンズに導かれるレーザ光束の光強度分布を調整する光ヘッド装置の製造方法において、
前記フレームに面接着されるプレートと、前記レーザ発光素子を保持した状態で前記プレートを介して前記フレームに搭載される素子ホルダとを備え、
前記素子ホルダと前記プレートとは、前記フレームに対する前記レーザ発光素子の出射光軸を切り替え可能な摺動面を介して接しており、
前記フレームに対して前記取り付け部材を介して前記レーザ発光素子を搭載する際、前記摺動面において前記プレートに対して前記素子ホルダを摺動させて前記レーザ発光素子の出射光軸を調整することにより前記対物レンズに導かれるレーザ光束の光強度分布を調整する光ヘッド装置の製造方法。」

[相違点]
(a)「フレーム」及び「取付部材」について、本願発明は「金属製」であるが、刊行物1発明は上記構成について言及がない点。

(b)レーザ発光素子の出射光軸を切り替えについて、本願発明は「レーザ発光素子の出射光軸の傾きを切り替え可能な摺動曲面を介して」するが、刊行物1発明は平面摺動で『摺動曲面』をもって傾き調整をしていない点。

(c)取付部材を構成する素子ホルダとプレートであるが、本願発明は「摺動曲面を介して接しており、前記素子ホルダは前記プレートに対して光軸と直交する方向の内側に配置」されているが、刊行物1発明は平面摺動で上記構成の記載がない点。

〔判断〕
上記相違点(a)について
刊行物1発明の『筐体』に相当するヘッド本体を放熱効果の高い金属で形成して半導体レーザから発生する熱をヘッド本体で放熱させることは上記(2-4)(2-5)に記載があるから、刊行物1発明においても筐体で半導体レーザの発生する熱を放出させることは適宜採用できることであり、この際ホルダ及び取付部材も金属製とすることは適宜なし得る事項である。

上記相違点(b)(c)について
刊行物1発明においても「光ピックアップを組み立てるときの光軸調整は、次のように行なうことができる。」として、「まず、ホルダ22にカップリングレンズ2を収納した鏡筒24を取り付け、レーザダイード1の光軸がカップリングレンズ2の光軸に一致するようにオートコリメータ等の測定器を用いて視察しながら、取付板23の位置を調整し、光袖が合ったところで固定する。」次に「対物レンズ移動機構30に代えて、第4図に示すような治具40をベース20dに取り付ける。この治具40は、トラッキング方向Tに2分割されている受光素子41を、取付部材42に取り付けたもので、ベース20dに冶具40を取り付けたときに、光軸が受光素子41の分割線に一致するように、受光素子41が位置決めされている。」と記載しており、本願発明でいう「素子ホルダ」と「プレート」からなる取付部材がフレームに対して面接触されている。
そして、光軸調整手段として、特開平5-81693号公報(審尋通知での提示文献)には「【0012】【実施例】以下、この発明を実施例に基づいて説明する。図1はこの発明の実施例になるレ-ザ-ダイオ-ドの光軸調整構造を示す要部の断面図であり、・・・。図において、レ-ザ-ダイオ-ド1は円板状の可動座21に形成された階段状の孔に基準面8が密接するよう挿入,固定され、可動座21の外周面は基準面8に垂直な図示しない軸線に対して同心状に球面加工される。また、光ヘッドのベ-ス12の定位置に固定された板状の固定座23に形成された皿孔は、その内周縁が可動座21側の球面と同じ曲率半径で球面加工されて球面接触部22を形成し、光軸調整機構部20が構成される。・・・。
【0013】・・・、レ-ザ-ビ-ム50の光軸52と,図3における光ヘッドの投射光学系10の光軸51とが一致するよう、レ-ザ-ビ-ムの光軸52の傾きを補正することにより行われる。この時、球面接触部22はボ-ルジョイントとして機能し、可動座21の姿勢を任意の角度方向に連続的に調整できるとともに、・・・、例えば情報記録媒体6からの反射光を検出光学系7で監視しつつ光軸調整を行うことにより、光軸調整を容易に精度よく行うことができる。調整終了後は、球面接触部22の隙間に接着剤29を注入し、接着剤を硬化させることにより、可動座21は固定座23に固定され、レ-ザ-ビ-ム50の光軸52が投射光学系10の光軸上に位置決めされる。なお、紫外線硬化型の接着剤を用いることにより、硬化時間の短縮が可能である。硬化処理が終了した時点で光軸調整部25は取り外してよく、また光軸調整部25をそのまま残せば使用中に光軸ずれが生じた場合、その修正を容易に行える利点が得られる。」
等の記載があるように「レーザ発光素子の出射光軸の傾きを摺動面」で行うこと「素子ホルダをプレートに対して光軸と直交する方向の内側に配置」することは周知であるから、刊行物1発明においても上記「レーザ発光素子の出射光軸の傾きを切り替え可能な摺動曲面を介して」及び「摺動曲面を介して接しており、前記素子ホルダは前記プレートに対して光軸と直交する方向の内側に配置」するように構成して、上記相違点(b)(c)は当業者が容易に想到できることである。

そして、上記相違点を総合しても、本願発明の奏する効果は、刊行物1発明,刊行物2及び周知技術から、当業者が十分に予測できたものであって、格別なものといえない。


4.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1発明,刊行物2乃至周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論ずるまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-07-08 
結審通知日 2008-07-10 
審決日 2008-08-22 
出願番号 特願2002-159400(P2002-159400)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 古河 雅輝  
特許庁審判長 江畠 博
特許庁審判官 小松 正
漆原 孝治
発明の名称 光ヘッド装置の製造方法および光ヘッド装置  
代理人 横沢 志郎  
代理人 河合 徹  

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