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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G11B |
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管理番号 | 1185667 |
審判番号 | 不服2005-3188 |
総通号数 | 107 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-11-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-02-24 |
確定日 | 2008-10-09 |
事件の表示 | 平成9年特許願第138912号「相変化型光学的情報記録ディスク」拒絶査定不服審判事件〔平成10年12月18日出願公開、特開平10-334512〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続きの経緯、本願発明 本願は、平成9年5月28日の出願であって、平成17年2月3日付けで拒絶査定されたため、平成17年2月24日付けで拒絶査定不服の審判を請求するとともに、平成17年3月3日付けで手続き補正がされ、これに対し当審は平成19年5月17日付けで拒絶理由を通知したところ、平成19年7月13日付けで手続き補正がされたものである。 本願の請求項1乃至2に係る発明は平成19年7月13日付け手続き補正により補正された請求項1乃至2に記載された事項により特定されるとおりのものであって、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。 「透明基板と該透明基板上に形成された少なくとも1層以上の記録層,保護層とからなる多層構造の記録,消去可能な相変化型光学的情報記録ディスクにおいて、該ディスクは、トラックピッチTpが0.74μmであるグルーブにデータが記録されたディスクであって、該グルーブの溝幅を0.4?0.5μm、溝深さを0.11λ?0.18λまたは0.36λ?0.43λとすることにより、相変化型光学的情報記録ディスクに対してDPDトラッキングを可能とした相変化型光学的情報記録ディスク。」 2.引用例 当審が拒絶の理由に引用した本願出願前に頒布された刊行物である特開平9-81967号公報(以下、「引用例」という。)には以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付加した。) ア.「【請求項1】溝が形成された透明基板上に、誘電体層、相変化型記録層、誘電体層、金属反射層を順次積層した構成からなり、前記溝上とランド上の両方を記録領域として用い、700nm以下の波長のレーザー光を照射することによって情報の記録、消去、再生を行なう光記録媒体であって、 (1)溝幅が0.3μm以上0.8μm以下、ランド幅が0.3μm以上0.8μm以下で、かつ溝深さdが以下に示す不等式を満たし、 【数1】 λ/7n<d<λ/5n (λ:照射光の波長、n:基板の屈折率、d:溝の深さ) (2)下記で定義される未記録領域からの反射光と記録領域からの反射光のうち、反射率の大きい方をRhigh(%)、低い方をRlow(%)とし、未記録領域と記録領域からの反射光の位相差をαとすると、以下に示す式を満たし、 【数2】 10≦Rhigh≦40 【数3】 Rlow /Rhigh≦0.15 mπ≠α (mは整数) ただし、 α=(未記録領域からの反射光の位相)-(記録領域からの反射光の位相) (3)ランド幅LWが次式を満たし、 【数4】 0.62λ/NA<LW<0.8λ/NA λは照射光波長、NAは集束レンズの開口数 (4)溝幅GW及びランド幅LWが次式を満たす 【数5】(LW+GW)/2>0.6λ/NA ことを特徴とする光記録媒体。」(請求項1) イ.「【0004】記録が可能な光ディスクでは、あらかじめ案内溝がディスク上に刻まれ、いわゆるトラックが形成されている。 通常、案内溝相互間もしくは案内溝内にレーザー光が集光されることによって、情報信号の記録、再生又は消去が行われる。 現在市販されている一般的な光ディスクにおいては、通常案内溝相互間もしくは案内溝内のどちらか一方にのみ情報信号が記録され、他方は隣接トラックを分離して信号の漏れ込みを防ぐための境界の役割を果たしているに過ぎない。 【0005】この境界部分、例えば案内溝相互間に記録する場合においては案内溝内、また、案内溝内に記録する場合においては案内溝相互間、にも同様に情報の記録が可能となれば記録密度は2倍となり記録容量の大幅な向上が期待できる。 以下、案内溝をグルーブ、案内溝相互間をランド、ランド部とグルーブ部の両方に情報を記録する方法をL&G記録と記述することにする。」 上記記載事項によれば、引用例には次の発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されている。 「溝が形成された透明基板上に、誘電体層、相変化型記録層、誘電体層、金属反射層を順次積層した構成からなり、前記溝上とランド上の両方を記録領域として用い、700nm以下の波長のレーザー光を照射することによって情報の記録、消去、再生を行なう光記録媒体であって、溝幅が0.3μm以上0.8μm以下、ランド幅が0.3μm以上0.8μm以下で、かつ溝深さdが以下に示す不等式を満たす光記録媒体。 【数1】 λ/7n<d<λ/5n (λ:照射光の波長、n:基板の屈折率、d:溝の深さ)」 3.対比 引用例発明において、誘電体層は、相変化型記録層を保護する機能を有することは明らかであるから、引用例発明の「溝」「透明基板」「相変化型記録層」「誘電体層」は、それぞれ、本願発明の「グルーブ」「透明基板」「透明基板状に形成された少なくとも1層の記録層」「保護層」に相当する。 そして、引用例発明は相変化型記録層を有する光ディスクであるから、引用例発明の「光記録媒体」は、本願発明の「相変化型光学的情報記録ディスク」に相当する。 そこで、本願発明と引用例発明とを比較すると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。 [一致点] 「透明基板と該透明基板上に形成された少なくとも1層以上の記録層,保護層とからなる多層構造の記録,消去可能な相変化型光学的情報記録ディスク」 [相違点] 本願発明が、トラックピッチTpが0.74μmであるグルーブにデータが記録され、溝幅が0.4?0.5μm、溝深さが0.11λ?0.18λまたは0.36λ?0.43λとすることにより、DPDトラッキングを可能としたものであるのに対し、引用例発明は、トラックピッチが特定されておらず、ランドとグルーブの両方に記録するものであって、溝幅が0.3μm以上0.8μm以下、溝深さがλ/7n<d<λ/5n (ただし、λ:照射光の波長、n:基板の屈折率、d:溝の深さ)であって、トラッキングについて特定されていない点。 4.相違点についての判断 上記相違点について、以下検討する。 引用例発明は、ランド及びグルーブの双方に記録を行う媒体ではあるものの、そのグルーブの溝幅及び溝深さは、グルーブのみに記録する媒体におけるグルーブの溝幅及び溝深さについて強く示唆するものであることは明らかである。 しかも、光学的情報記録ディスクの記録方式として、ランド又はグルーブの一方に記録する方法及びその双方に記録する方法はいずれも広く知られており(上記イ参照)、本願出願時にはDVD-ROMのトラックピッチを0.74μmとする規格が既に周知であったことからすると、同規格との互換性を図ってトラックピッチを0.74μmとし、グルーブにデータを記録することは、当業者が容易に想到できた事項にすぎない。 また、グルーブに記録する場合、記録及び読み取りの際の信号強度を得るためにはグルーブ幅は広い方が有利であり、一方、ランドの幅が狭すぎると隣接トラックを分離して信号の漏れ込みを防ぐための境界の役割を果たせなくなることは当業者にとって自明である。 そうすると、トラックピッチを0.74μmとした場合、グルーブの幅(溝幅)を可能な限り広くし、かつ、必要なランド幅を確保することを考慮して、当該トラックピッチをグルーブ幅とランド幅に振り分けるとすれば、グルーブの溝幅をトラックピッチの半分よりもやや大きめの0.4?0.5μmとすることはごく自然な設定であり、当業者が容易に推考しうる事項である。 そして、光学的情報記録ディスクにおけるトラッキング方法としては、プッシュプル法及びヘテロダイン法等があること、RF信号(ディスク情報記録面からの変調信号)は、ディスクのピットの高さ(深さ)がレーザーの波長のλ/4で最大となり、プッシュプル法のトラッキングエラー検出信号はピットの高さ(深さ)が波長λの1/8の時最大になることから、同じレーザービームでRF信号とプッシュプル方式のトラッキングエラー検出信号とを同時に読み出すにはピット高さをλ/5程度に設計すること、ヘテロダイン法(差動位相検出法すなわちDPD法)ではピット高さの影響が少なく、ピット高がλ/4であってもトラッキング信号が得られることは周知である。(例えば、応用光エレクトロニクスハンドブック編集委員会編「応用光エレクロトニクスハンドブック」(株式会社昭晃堂 1989年4月10日初版1刷発行)の511?516頁参照) また、光ディスクの案内溝の深さは、λ/8?λ/4の範囲に設定され、プッシュプル信号が波長のλ/4周期で増減することも周知である(例えば、特開平3?80443号公報の第2図参照)。 そうすると、溝深さをλ/8?λ/4の付近である0.11λ?0.18λ又はこれにλ/4すなわち0.25λを加えた0.36λ?0.43λとすることは単なる設計事項にすぎず、本願明細書及び図面の記載事項からみて、0.11λ?0.18λとすることによって格別顕著な効果が奏されるものとは認められない。 次に、溝幅を0.4?0.5μmとし、溝深さを0.11λ?0.18λまたは0.36λ?0.43λとすることによりDPDトラッキングを可能とする点について、検討する。 本願明細書の表1及び図1(A)において、トラックピッチを0.74μm、溝深さ0.145λとしたときの溝幅(0.4?0.5μm)に対するDPD出力信号の振幅及びpush-pull出力信号の振幅の関係が示されている。しかし、表1及び図1(A)からみて、溝幅が0.4?0.5μmの範囲をはずれると必要なDPD信号の強度が得られなくなるとは認められず、溝幅が0.4?0.5μmであることと、DPDトラッキングの可否との間で直接の因果関係があるということはできない。 また、本願明細書及び図面には、溝深さとDPD出力信号との関係は何ら記載されていないから、本願発明において、溝深さを0.11λ?0.18λまたは0.36λ?0.43λとすることによって、DPDトラッキングの可能としたものということもできない。 DPDトラッキング法は周知の方法であるから、本願発明は、上記引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、トラックピッチ、溝の幅、溝の深さの範囲を設定したものにすぎない。 したがって、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物である引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたというべきである。 なお、請求人は当審の審尋に対する回答書において、特開平10-283671号公報の図5に言及し、溝深さを所定の範囲にすることによって位相差をDPD信号が得られる範囲とすることができる旨主張している。 しかし、同公報の図5は、非マークに対するマークの反射光の位相差(δ)を変化させたときの、DPD信号感度を非マークに対するマークの反射光の反射率をサブパラメータとして示した図であって([図面の簡単な説明]参照)、溝深さとDPD信号強度との関係を示すものではない。そして、上記位相差(δ)は干渉膜の厚さを変化させることによって調節しており(段落[0027]参照)、位相差と溝深さとは関係がない。 また、上記公報記載の発明において、溝深さはプッシュプル法を適用できるように設定しているのであって(段落[0024]参照)、溝深さとDPD法を適用することとは関係がない。 さらに、請求人は、溝幅をトラックピッチの半分(0.37μm)以上とすることは、トラッククロスとの関係でドライブが位置情報をとれなくなり、また、成型時の問題がある旨主張しているが、その根拠は示されていない。もし、そうであれば、本願発明のディスクにおいても同じ問題が生ずると解される。 したがって、上記請求人の主張を採用することはできない。 5.むすび 以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-08-04 |
結審通知日 | 2008-08-05 |
審決日 | 2008-08-25 |
出願番号 | 特願平9-138912 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(G11B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 石坂 博明、相田 義明、蔵野 雅昭、馬場 慎 |
特許庁審判長 |
江畠 博 |
特許庁審判官 |
山田 洋一 横尾 俊一 |
発明の名称 | 相変化型光学的情報記録ディスク |
代理人 | 高野 明近 |