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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1185738
審判番号 不服2006-15300  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-07-18 
確定日 2008-10-06 
事件の表示 平成 8年特許願第501264号「測定精度を改善するための改良サイホン」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年12月14日国際公開、WO95/33986、平成10年 2月 3日国内公表、特表平10-501340〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件は、1995年6月5日(パリ条約による優先権主張1994年6月6日、米国)を国際出願日とする特許出願(平成8年特許願第501264号。以下、「本件出願」という。)につき、拒絶査定が平成18年4月4日付けでされ、同月18日に発送されたところ、拒絶査定に対する審判が同年7月18日に請求されるとともに同年8月17日付けで手続補正書が提出されたものである。

第2 平成18年8月17日付けの手続補正についての補正却下の決定
1 補正却下の決定の結論
平成18年8月17日付けの手続補正を却下する。

2 補正却下の決定の理由
(1) 平成18年8月17日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)の内容
本件補正は、平成17年8月25日付け手続補正書により補正された本件出願明細書の特許請求の範囲の請求項1を以下のとおり補正することを含むものである。
ア 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】ロータ本体を有する遠心式ロータであって、
前記ロータ本体が、
液体計量分配室、
液体受け入れ室、および
前記液体計量分配室と前記液体受け入れ室を接続するサイホンを含み、
前記サイホンが、
前記液体計量分配室に接続されたサイホン入口、
前記液体受け入れ室に接続されたサイホン出口、および
前記サイホン入口と前記サイホン出口の間で半径方向内側に延びるサイホン本体部分であって、前記液体分配計量室の最内部分の半径方向内側にある最内部分を有しているサイホン本体部分を含む
遠心式ロータ。」

イ 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】ロータ本体を有する遠心式ロータであって、
前記ロータ本体が、
液体計量分配室、
液体受け入れ室、および
前記液体計量分配室と前記液体受け入れ室を接続するサイホンを含み、
前記サイホンが、
前記液体計量分配室に接続されたサイホン入口、
前記液体受け入れ室に接続されたサイホン出口、および
前記サイホン入口と前記サイホン出口の間のサイホン本体部分であって、前記サイホン入口が前記サイホン出口の半径方向外側にあり、また前記サイホンが、最初に前記サイホン入口の半径方向内側の点に半径方向内側に、次いで前記サイホン出口に半径方向外側に延びることによってエルボ構造を形成しているサイホン本体部分を含む
遠心式ロータ。」

(2) 本件補正の目的の適否について
本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明について、「前記サイホン入口と前記サイホン出口の間で半径方向内側に延びるサイホン本体部分であって、前記液体分配計量室の最内部分の内側にある最内部分を有しているサイホン本体部分」を「前記サイホン入口と前記サイホン出口の間のサイホン本体部分であって、前記サイホン入口が前記サイホン出口の半径方向外側にあり、また前記サイホンが、最初に前記サイホン入口の半径方向内側の点に半径方向内側に、次いで前記サイホン出口に半径方向外側に延びることによってエルボ構造を形成しているサイホン本体部分」と補正するものであって、この補正は、サイホン本体部分の構成のうち、「液体分配計量室の最内部分の内側にある最内部分を有」する構成を削除し、「前記サイホン入口が前記サイホン出口の半径方向外側にあり、また前記サイホンが、最初に前記サイホン入口の半径方向内側の点に半径方向内側に、次いで前記サイホン出口に半径方向外側に延びることによってエルボ構造を形成している」構成を付加する補正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。また、本件補正は、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明、請求項の削除を目的とするものにも該当しない。

なお、請求人は審判請求書の請求の理由において、
(a)「補正した請求項1に記載の発明は、補正前の請求項1に規定されたサイホン本体の形状を、出願時の明細書(特に第7?8頁)および図面の記載に基づいて特定することにより、限定的に減縮しました。」旨の主張をしているが、上述のように、本件補正の内容は特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しないし、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明、請求項の削除を目的とするものにも該当しないから、本件補正は却下しなければならないものである。
したがって、請求人の本件補正に基づく上記(a)の主張は採用できないものである。

(3)補正却下の決定についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条の規定により却下しなければならないものである。

(4)独立特許要件についての検討
本件補正は、上記「第2」で述べたように却下されるべきものであるが、仮に、上記「第2 2 (2)」の項で、サイホン本体部分の構成のうち、「液体分配計量室の最内部分の内側にある最内部分を有」する構成を削除し、「前記サイホン入口が前記サイホン出口の半径方向外側にあり、また前記サイホンが、最初に前記サイホン入口の半径方向内側の点に半径方向内側に、次いで前記サイホン出口に半径方向外側に延びることによってエルボ構造を形成している」構成を付加した構成が限定的減縮を目的とする場合についても一応検討する。
この場合は、本件補正が限定的減縮を目的とするものに該当するから、本件補正後の特許請求の範囲請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(4-1)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭61-167469号公報(以下、「引用刊行物A」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。

(A-1)「本発明は中心から周縁に向かつて(1)分析前の希釈すべき液体を収容する中央収容部と、(2)較正室及び溢流室と、(3)混合室と、(4)測定セルとを備える遠心分離分析装置用ロータに係る。
この種のロータは・・・当業者に知られている。この先行技術の装置は試料液の較正(即ち測定)を実施せしめるものであるが、較正室の配置と該室の溢流口の向きとに起因してこの室から流出する液体が測定の正確さにとつて不利な方向に流動し、且つ分析すべき液体を較正室から測定セルに移したい時にはロータを止めて逆方向に回転させなければならないという問題を有する。
本発明はこれらの欠点を解消すると共に更に別の分析能力をもたらすようなロータを提供する。」(2頁左上欄7行?右上欄3行)
(A-2)「本発明の別の特徴によれば較正室の流出口は、較正室の溢流口とほぼ同じロータ中心からの距離をおいて配置される曲管を備えたサイホンに連通する。このようにすると、較正室の充填完了時にロータを停止させ且つ毛細管力がサイホン内で作用するがままにしておくだけで、液体に余分の圧力を加えなくてもサイホンが自動的に始動する。
これら毛細管力によつて同伴され且つサイホンの曲管を少し越える液体が少量あればロータの再始動時にサイホンを始動させて較正室内に存在する総ての液体を完全に排出させるのに十分であることが判明している。
本発明の別の特徴によれば較正室の流出口は、ロータの中心から溢流口までの距離より数ミリメートル大きい距離をロータの中心からおいて配置される曲管を有するサイホンに終端する。先に説明した構成と異なり、このような構成では液体が曲管レベルを少し越えた時点で且つロータの回転を停止させずにサイホンを始動させることができる。
サイホンの存在は較正(即ち量の測定)の正確さを向上せしめることに留意されたい。これはサイホンの存在によつて、流出口からの流出量を考慮する必要が完全に除去されるか又は著しく低減するからである。
本発明の更に別の特徴によれば、較正室は遠心分離による沈殿物を集めるための補助スペースを流出口の上方に有する。この場合は従つて較正室が流出口のレベルまでしか空にならず、例えば全血から抽出された赤血球の如き沈殿物が補助スペース内に完全に保持される。」(2頁左下欄16行?3頁左上欄10行)
(A-3)「第1図のロータは開口6を介して較正室2に連結される中央収容部1を備えている。較正室2自体は開口7を介して溢流室3に連結される。較正室2は開口8を介して直接的に又は毛細管9を通して混合室4に連通する。混合室4自体は導管10を介して複数の測定セル5に接続される。希釈用液を受容すべく該ロータは別の中央収容部11をも備え、この収容部は開口12を介して別の較正室13に連通し、この較正室13は開口14を介して溢流室3又は別の図示されていない類似のチャンバに連結される。
勿論、前記中央収容部、室及び測定セルの寸法は極めて広範囲に及び得、分析の必要に応じて決定される。
・・・
第3図では室2の開口8はサイホン21の形状で伸長し、このサイホンの曲管22が溢流口7のレベルよりやや上方に位置する。ロータの回転中は毛細管力が遠心力と比べて極めて小さく、液体/空気の界面はロータの軸線と同じ軸線を有し且つロータ中心から開口7までの距離に等しい長さの半径を持つ回転円筒体の形状と合致する。ロータを止めると、毛細管力が比較的大きくなり、後でロータを再始動させた時に残りの液体を誘引するに十分な少量の液体がサイホンの管内に流入する。
第4図では較正室2の先に補助スペース23が続いている。このスペースには遠心分離作用によって分離された沈殿物を回収し得る。較正の正確さを向上させたい場合には、室2の流通断面積をスペース23に向けて減少させるブロツク24を流出口8に対向して配置し得る。」(3頁14行?左下欄12行)
(A-4)また、第3図には、較正室2の底部に設けられた開口8から曲管22を介して混合室に連通する出口を有するサイホン21が描かれている。さらにサイホン21の曲管22はロータの中心方向に設けられ、サイホン21開口8及び出口はロータの中心からほぼ同じ距離の位置にあるとともにロータの中心方向から遠ざかる方向に設けることが描かれている。そして、較正室2の溢流口7をロータの中心方向に設けることが描かれている。
上記引用刊行物Aの(A-1)?(A-4)の記載を参照すると、上記引用刊行物Aには、
「遠心分離分析装置用ロータであって、
較正室2と、
混合室と、
較正室2から混合室に連通するサイホン21とを有し、
サイホン21は、
較正室2の底部に設けられた開口8、混合室への出口と曲管22を有し、
開口8と出口はロータの中心からほぼ同じ距離の位置にある
遠心分離分析装置用ロータ。」の発明(以下、「引用発明a」という。)が記載されている。

(4-2)対比
(i)引用発明aの「遠心分離分析装置用ロータ」が本願補正発明の「遠心式ロータ」に相当する。
(ii)上記引用刊行物Aの(A-1)、及び(A-2)にはそれぞれ「本発明は中心から周縁に向かつて(1)分析前の希釈すべき液体を収容する中央収容部と、(2)較正室及び溢流室と、(3)混合室と、(4)測定セルとを備える遠心分離分析装置用ロータに係る。この種のロータは・・・当業者に知られている。この先行技術の装置は試料液の較正(即ち測定)を実施せしめるものである」こと、及び「サイホンの存在は較正(即ち量の測定)の正確さを向上せしめることに留意されたい。これはサイホンの存在によつて、流出口からの流出量を考慮する必要が完全に除去されるか又は著しく低減するからである。」ことが記載されていることから、引用発明aの「較正室2」が、液体の量を測定する室であることは明らかであり、さらに、上記引用刊行物Aの(A-3)に「較正室2は開口8を介して直接的に又は毛細管9を通して混合室4に連通する。混合室4自体は導管10を介して複数の測定セル5に接続される。」と記載されていることから、引用発明aの較正室3で測定された液体は混合室を介して複数の測定セル5に分配されることになる。よって、引用発明aの「較正室2」は本願補正発明の「液体計量分配室」に相当する。
(iii)引用発明aの遠心分離分析装置用ロータでは、較正室2と混合室とはサイホン21で連通していることから、較正室2で測定された液体がサイホン21を介して混合室に供給されることは明らかであり、引用発明aの「混合室」が本願補正発明の「液体受け入れ室」に相当する。
(v)引用発明aの「較正室2から混合室に連通するサイホン21」が本願補正発明の「液体計量分配室と液体受け入れ室を接続するサイホン」に相当する。
(vi)引用発明aの「サイホン21」は「開口8」及び「出口」を有し、その「開口8」及び「出口」がそれぞれ本願補正発明の「液体計量分配室に接続されたサイホン入口」及び「液体受け入れ室に接続されたサイホン出口」に相当する。
そして、上記引用刊行物Aの(A-4)には「サイホン21の曲管22はロータの中心方向に設けられ、サイホン21開口8及び出口はロータの中心方向から遠ざかる方向に設ける」ことが記載されていることから、引用発明aの「サイホン21」は開口7及び出口からそれぞれロータの中心方向、すなわち、半径方向内側に延びる方向に曲管22を有するから、本願補正発明の「サイホン」と同様に「サイホン入口とサイホン出口の間のサイホン本体部分」を有し、「サイホンが、最初に前記サイホン入口の半径方向内側の点に半径方向内側に、次いで前記サイホン出口に半径方向外側に延びることによってエルボ構造を形成しているサイホン本体部分を含む」ことは明らかである。
そうすると、本願補正発明と引用発明aとは、
「ロータ本体を有する遠心式ロータであって、
前記ロータ本体が、
液体計量分配室、
液体受け入れ室、および
前記液体計量分配室と前記液体受け入れ室を接続するサイホンを含み、
前記サイホンが、
前記液体計量分配室に接続されたサイホン入口、
前記液体受け入れ室に接続されたサイホン出口、および
前記サイホン入口と前記サイホン出口の間のサイホン本体部分であって、前記サイホンが、最初に前記サイホン入口の半径方向内側の点に半径方向内側に、次いで前記サイホン出口に半径方向外側に延びることによってエルボ構造を形成しているサイホン本体部分を含む
遠心式ロータ。」である点で一致し、次の相違点(ア)で相違している。

・相違点(ア)
本願補正発明のサイホンが「サイホン入口がサイホン出口の半径方向外側にあ」るのに対して、引用発明aのサイホン21の開口8と出口はロータの中心からほぼ同じ距離の位置にある点。

(4-3)当審の判断
上記相違点(ア)について検討する。
本願明細書(特許法第184条の3第1項の規定による書面)の7頁24?29行には「混合室136へ送り出される血漿130の量は、サイホン134上の出口139の位置によって決まる。この図で分かるように、血漿計量室110内の血漿の最終高さ133は、出口139と同じ半径方向位置にある。それで、混合室136へ送り出される血漿の量は、血漿計量室110のオーバフロー室への出口129と血漿の最終高さ133の間の容積によって決まる。」と記載されているが、この記載において「混合室136へ送り出される血漿130の量は、サイホン134上の出口139の位置によって決まる」ことは、「サイホン入口がサイホン出口の半径方向外側にある」場合のサイホンの原理に基づくものである。そして、「混合室136へ送り出される血漿130の量は、サイホン134上の出口139の位置によって決まる」ことが、サイホン入口がサイホン出口と同じ位置にある場合か又はサイホン出口の半径方向外側にある場合に適用されることも、サイホンの原理から明らかである。
他方、引用発明aの遠心分離分析装置用ロータのサイホン21は、較正室2の底部に設けられた開口8、混合室への出口と曲管22を有し、開口8と出口はロータの中心からほぼ同じ距離の位置にあるものであり、さらに上記引用刊行物Aの(A-4)には「較正室2の溢流口7をロータの中心方向に設ける」ことが記載されているから、引用発明aにおいても、サイホン31から混合室に供給される較正室の液体の量が、較正室2の溢流口7とサイホンの出口との間にある較正室2の容積によって決まることは本願補正発明と同様にサイホンの原理から明らかである。
そうすると、引用発明aのサイホン21の開口8と出口はロータの中心からほぼ同じ距離の位置にあるが、サイホン21の出口のロータの中心からの距離を開口8のロータの中心からの距離よりも大きく、例えば、上記引用刊行物Aの(A-3)に記載されている「較正室2の先」に続く「補助スペース23」の位置に開口8を設けたとしても、サイホン21の開口8と出口がロータの中心からほぼ同じ距離の位置にある場合と同様に、サイホン31から混合室に供給される較正室の液体の量は、較正室2の溢流口7とサイホンの出口との間にある較正室2の容積によって決まることになるから、引用発明aにおいてサイホン21の開口8を出口とほぼ同じ距離の位置するか、サイホン21の出口のロータの中心からの距離を開口8のロータの中心からの距離よりも大きくするかは、当業者が適宜選択しうる事項であって、引用発明aにおいてもサイホン21の出口のロータの中心からの距離を開口8のロータの中心からの距離よりも大きくする構成を選択して、本願補正発明のごとく「サイホン入口がサイホン出口の半径方向外側にあ」るように構成することは格別のものでない。
そして、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用発明aから予測される範囲内のものである。
したがって、本願補正発明は、引用発明aに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、請求人は審判請求書の請求の理由において、
(b)「(1)引用例1?3
・・・本願発明による遠心式ロータのサイホンは、サイホン入口、サイホン出口、およびエルボ構造を有するサイホン本体部分を有しており、特に独立請求項1および9に規定するサイホンは、サイホン出口の半径方向外側にあるサイホン入口を有し、また独立請求項10、11および13に規定するサイホンは、サイホン出口の半径方向内側にあるサイホン入口を有し、且つ最初に半径方向外側に向かい、次いでサイホン入口の半径方向内側の点に向かって半径方向内側に、さらにサイホン出口に向かって半径方向外側に延びることによってエルボ構造を形成している。
これに対し、引用例1?3は、2つの室に接続されたサイホンを開示しているに過ぎない。引用例1?3には、このサイホンの入口および出口の相対位置の重要性、およびサイホン本体の半径方向における最内部分の位置の重要性について教示するものがない。特に、引用例1?3は、本願請求項1および9に規定されたようなサイホン入口がサイホン出口の半径方向外側にあるサイホンを教示も示唆もしていない。また引用例1?3は、本願請求項10、11および13に規定されたような、最初に液体計量分配室の半径方向外側に向かって延び、次いでサイホン入口の半径方向内側の点に内側に向かって延びるサイホン本体部分を有するサイホンも、教示も示唆もしていない。
したがって引用例1?3のいずれも、本願独立請求項に規定するすべての構成要素を開示していない。
・・・
(4)引用例を修正する動機付け
拒絶査定書において、審査官殿は「サイホンの入口および出口の相対位置、ならびにサイホン本体(エルボ)の半径方向における位置を好適または最適化することは、当業者の通常の創作活動に過ぎない」と認定され、またさらに、「引用例1?3に記載の発明を修正して本願発明のごとくサイホンを構成(配置や形状)することに格別の困難性はない」と認定されている。
しかし出願人は、「サイホン入口とサイホン出口の相対位置を最適化することによって当業者は本願発明を容易に創作できた」という審査官殿による認定は推断的であり、それによって本願発明がいわゆる進歩性を欠くと認定されるには不十分であるものと信じる。実際、審査官殿は、本願発明を容易に得るために引用例を組み合わせ、あるいは修正することを明記または暗示するような示唆または動機付けとなるものと示されておられない。審査官殿は、引用例内の様々な開示を組み合わせることを試みれば本願発明のように再構築され得るという可能性を単に示されているに過ぎない。
さらに、引用例を修正する動機付けは、単に示されるだけでは不十分であり、そのように引用例を修正および/または組み合わせて本願発明を得ることが成功したであろうという正当な可能性が示さなければならないが、審査官殿はそのような根拠も示されておられ
ない。
すなわち、本願発明の進歩性を否定されるには、当業者が類似する従来技術を採用または修正することによって本願発明に到達できたか否かという可能性のみならず、当業者が技術課題を解決することを望んで、またはいくつかの改良または利点を予見して、従来技術を修正または組み合わせる動機付けとなるものが示されなければならない。
この点で、審査官殿の指摘されるように、引用例1?3に開示されたサイホンの配置や形状を本願発明のごとく変更することが、当業者の通常の創作活動であり、あるいは格別の困難性もないというご指摘には承服できない。」旨の主張をしている。
しかしながら、仮に、本件補正の内容が限定的に減縮したものであったとしても、上記「第2 2 (4)」の(4-3)に記載したように、引用発明aにおいて、サイホン21の開口8と出口はロータの中心からほぼ同じ距離の位置にある場合も、サイホン21の出口のロータの中心からの距離を開口8のロータの中心からの距離よりも大きい場合も、ともに、サイホン31から混合室に供給される較正室の液体の量は、較正室2の溢流口7とサイホンの出口との間にある較正室2の容積によって決まることになるから、引用発明aにおいてサイホン21の開口8を出口とほぼ同じ距離の位置するか、サイホン21の出口のロータの中心からの距離を開口8のロータの中心からの距離よりも大きくするかは、当業者が適宜選択しうる事項であって、請求人の上記(b)の主張は採用できないものである。

(4-4)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成18年8月17日付けの手続補正は上記の通り却下されたので、本願の請求項1?19に係る発明は、平成17年8月25日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?19に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2 2 (1)」の「ア 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1」に記載したように、以下のとおりのものである。

「【請求項1】ロータ本体を有する遠心式ロータであって、
前記ロータ本体が、
液体計量分配室、
液体受け入れ室、および
前記液体計量分配室と前記液体受け入れ室を接続するサイホンを含み、
前記サイホンが、
前記液体計量分配室に接続されたサイホン入口、
前記液体受け入れ室に接続されたサイホン出口、および
前記サイホン入口と前記サイホン出口の間で半径方向内側に延びるサイホン本体部分であって、前記液体分配計量室の最内部分の半径方向内側にある最内部分を有しているサイホン本体部分を含む
遠心式ロータ。」

2.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭61-167469号公報(以下、「引用刊行物A」という。)には、上記「第2 2 (4)」の(4-1)に記載された事項が図面とともに記載されている。
上記引用刊行物Aの(A-1)?(A-4)の記載を参照すると、上記引用刊行物Aには、
「遠心分離分析装置用ロータであって、
較正室2と、
混合室と、
較正室2から混合室に連通するサイホン21とを有し、
サイホン21は、
較正室2の底部に設けられた開口8、混合室シル出口と曲管22を有し、
曲管22は較正室2の溢流口7のレベルよりやや上方に位置する
遠心分離分析装置用ロータ。」の発明(以下、「引用発明b」という。)が記載されている。

3.本願発明と引用発明bとの対比
(i)引用発明bの「遠心分離分析装置用ロータ」が本願発明の「遠心式ロータ」に相当する。
(ii)上記引用刊行物Aの(A-1)及び(A-2)にはそれぞれ「本発明は中心から周縁に向かつて(1)分析前の希釈すべき液体を収容する中央収容部と、(2)較正室及び溢流室と、(3)混合室と、(4)測定セルとを備える遠心分離分析装置用ロータに係る。この種のロータは・・・当業者に知られている。この先行技術の装置は試料液の較正(即ち測定)を実施せしめるものである」こと及び「サイホンの存在は較正(即ち量の測定)の正確さを向上せしめることに留意されたい。これはサイホンの存在によつて、流出口からの流出量を考慮する必要が完全に除去されるか又は著しく低減するからである。」ことが記載されていることから、引用発明bの「較正室2」は、液体の量を測定する室であることは明らかであり、さらに、上記引用刊行物Aの(A-3)に「較正室2は開口8を介して直接的に又は毛細管9を通して混合室4に連通する。混合室4自体は導管10を介して複数の測定セル5に接続される。」と記載されていることから、引用発明bの較正室3で測定された液体は混合室を介して複数の測定セル5に分配されることから、引用発明bの「較正室2」は本願発明の「液体計量分配室」に相当する。
(iii)引用発明bの遠心分離分析装置用ロータでは、較正室2と混合室とはサイホン21で連通していることから、較正室2で測定された液体がサイホン21を介して混合室に供給されることは明らかであり、引用発明bの「混合室」が本願発明の「液体受け入れ室」に相当する。
(v)引用発明bの「較正室2から混合室に連通するサイホン21」が本願発明の「液体計量分配室と液体受け入れ室を接続するサイホン」に相当する。
(vi)引用発明bの「サイホン21」は「開口8」及び「出口」を有し、その「開口8」及び「出口」がそれぞれ本願発明の「液体計量分配室に接続されたサイホン入口」及び「液体受け入れ室に接続されたサイホン出口」に相当する。
そして、上記引用刊行物Aの(A-4)には「サイホン21の曲管22はロータの中心方向に設けられ、サイホン21開口8及び出口はロータの中心方向から遠ざかる方向に設ける」ことが記載されていることから、引用発明bの「サイホン21」は開口7及び出口からそれぞれロータの中心方向、すなわち、半径方向内側に延びる方向に曲管22を有するから、本願発明の「サイホン」と同様に「サイホン入口とサイホン出口の間で半径方向内側に延びるサイホン本体部分」を有するものである。
さらに、上記引用刊行物Aの(A-4)には「較正室2の溢流口7をロータの中心方向に設ける」ことが記載されており、この較正室2に充填された液体が較正室2から溢れると溢流口7を介して溢流室に満たされるから、引用発明bの「遠心分離分析装置用ロータ」の較正室2の溢流口7の位置が較正室2のロータの一番中心方向の部分である。そして、引用発明bのサイホン21の曲管22は較正室2の溢流口7のレベルよりやや上方に位置する、すなわち、ロータの中心方向に位置するものであるから、引用発明のサイホン21の曲管22はロータの一番中心方向にある溢流口7よりさらにロータの中心方向にあることになる。
そうすると、引用発明bの「サイホン21」は本願発明の「サイホン」と同様に「液体分配計量室の最内部分の半径方向内側にある最内部分を有しているサイホン本体部分を含む」ことになる。
してみると、本願発明の発明特定事項は、すべて引用刊行物Aに示されているものであって、本願発明は、引用刊行物Aに記載された発明である。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当し、特許を受けることができないものであるので、本件出願は、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。

なお、原査定は、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとしたものであって、当審の理由とは適用する条項を異にするものであるが、拒絶をすべき根拠となる引用刊行物は同一であり、また、特許法第29条第2項の検討に際しては、まず同条第1項について検討し、その後更に同条第2項について検討するのであるから、請求人には既に同条第1項について検討する十分な機会が与えられており、改めて意見書を提出する機会を与える必要を認めない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-05-14 
結審通知日 2008-05-16 
審決日 2008-05-27 
出願番号 特願平8-501264
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01N)
P 1 8・ 572- Z (G01N)
P 1 8・ 113- Z (G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小野 忠悦▲高▼見 重雄  
特許庁審判長 後藤 時男
特許庁審判官 秋月 美紀子
秋田 将行
発明の名称 測定精度を改善するための改良サイホン  
代理人 吉田 裕  
代理人 浅村 肇  
代理人 岩本 行夫  
代理人 浅村 皓  

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